読切小説
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仄かに燻る情欲

「ハァイ、お兄さん?」

 ビクッ

 とある地方都市の外れにて。出張中で用意されていた宿へ向かう途中だった私は、突如後ろから気安く声を掛けられて、足を止めた。
 恐る恐る振り返る。そこには小柄な少女の笑顔があった。

「お兄さん、ヒマ? どう、アタシとお話ししていかない??」

 金髪で頭から伸びた二本の角。そして異形の翼を尾を生やしたところを見ると、彼女は魔物なのだろう。
 上着のファスナーを下だけで止めて全開にして、その下にあるのは露出というのも烏滸がましいほどの小さな三角とヒモだけで構成された水着のような胸下着。女らしく膨らんだその乳房をそれで包んでいる以外では、体の文様とも肌着とも分からない炎のような黒いものが、ここからでは見えない股の方から腰の横へ二筋になって広がるように肌を飾っている。

「あー、ちょっとビビらせちゃった? ウけるー! ゴメンゴメン、アタシ、パイロゥのホノカ。ヨロシクね?」

 こちらの不安を察したのか、少女はにっこりとした笑顔を浮かべて、体ごと傾けて私の顔を見上げてくる。

「いや、御挨拶どうも。だが私はその、公務で来ているもので」

 そのまま彼女の誘いを故事して歩き去ろうとする私。パイロゥと聞いて頭に警鐘がガンガンと鳴り響く。煽情的な言動と、欲情の炎を掻き立てる能力を持った淫魔。この地方でも要注意とされる魔物だ。
 比較的大きいこの町は、山から離れていることもあって油断してしまっていたか。

「あ、その顔はアレでしょ。パイロゥって聞いて怖くなっちゃった? んもー、みんな大げさに騒ぎ立てるんだからぁ」

 彼女は私の袖を掴みながらクスクスと笑う。

「大丈夫。だってこうやって町中に入り込んでも問題にならないんだよ? 私はへーわ的なま・も・の」
「いや、だがしかし……」

 確かに、危険度の低い魔物に関してはある程度交流を持つことはあり得るが、果たして名指しで危険視される種族であるパイロゥを町の官憲が放置しておくことがあり得るだろうか。

「あー、疑ってる〜。しょうがないなあ。ほらー、見てー?」

 彼女が指差す先には、長屋がある。賃貸の住宅だろう。

「アソコの一番近くの家がアタシんチ。どーおー、これでも疑う?」

 そのまま彼女に袖を引かれて、家の表札の前まで連れていかれた。
 確かに、表札には「ホノカ・パイロゥ」と書かれている。

「ね? ちゃーんと、安全な魔物です! ってお墨付きがあるからこうやって堂々と町中に住んでいられるんだよ?」
「あ、ああ……。疑って、すまない」

 私は見たものが信じられない思いはあるものの、たどたどしく謝罪した。

「んふっ」

 するとホノカはにっこりと笑顔を浮かべながら、

「んじゃ、アタシの家でゆっくりお話ししていって、いいよね?」

 疑ってしまったという罪悪感からか、私は言われるままにコクリと頷いた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 居間と台所が兼用で、あとはタンスとベッドくらいしかない小さな部屋。そこで私は椅子に座らされている。
 落ち着かない。勢いに負けて女性の、それも魔物の家に入れられてしまったが非常に居心地が悪い。

「はーい、お待たせ」

 彼女は私と自分との前にお茶の入ったカップを差し出す。

「あ、どうも」
「んふっ」

 私がお茶に口を付けると、彼女は嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。

 一口飲んだ私が手を下ろすと、彼女はその手に自分の手を重ねてくる。
 ドキッっと、心臓が高鳴った。咄嗟に手を引くよりも早く、彼女の言葉が飛んでくる。

「じゃあ約束通りぃ、楽しく、お話ししよっか?」
「あ、ああ」

 さすさす、と彼女の指が私の手の甲を摩ってくるのをくすぐったく感じながら、相槌を打つ。

「えーっとぉ、お兄さんは公務って言ってたけれど、お役人さん?」
「ああ、そう、そうだ。州庁の方から今日出張で来たところなんだ」
「そっかぁー」

 彼女は右手で私の手を撫ぜるのを続けながら、左手で茶を口に運ぶ。

「州のお役所から来たってことは、エライ人なんだねえ〜」
「そ、そういうわけではないんだ。実際こうやって使い走りのような仕事をしているし……」
「でも、アタシたち庶民から見たら天の上のようなお方だよぉ〜」

 彼女はカップを脇に置いて、前のめりになる。小さな身体に不似合いな胸の谷間が私の側に迫り、自然と私の視線はそれに引き寄せられる。

「お兄さんはやっぱり、恋人とかお嫁さんとか、いる?」

 来た。
 私の女性関係を探る言葉。もしいないなどといったら、淫魔らしく容赦なくアプロ―チを仕掛けてくるのだろう。
 私には妻も恋人もいないが、ばれないように堂々と嘘を吐く。

「ああ。妻帯者だ」
「そっかー。だよねえ、立派なお役人さんで、ステキな人だものねえ」

 ちょっと寂し気な顔を見せた彼女は、名残惜しむかのように私の腕を摩ってくる。

「出張ってことは、お宿はこの近く?」
「この先をもう少し真っ直ぐ行ったところだ」
「ここにはどれくらいいるの?」
「移動日扱いの今日と最終日を除いて、一週間だな」
「ふぅ〜ん…………」

 何か思案するようなふうのホノカ。可愛らしい顔に僅かに憂いを帯びたようなその表情が、妙に私の目へと焼き付いた。

「ねえ、お兄さん。アタシがまた今度お話ししよ、って言ったら付き合ってくれる?」
「あー、あいにくだがそれはできない、な」

 流石に連日淫魔と緊張感のある対話を続けるのは勘弁だ。

「そっか。だよね」

 ホノカは何かをあきらめたかのような悲し気な笑みを浮かべる。

「じゃあ……、今日はもう少しお話ししてもらってもいい? アタシ、一人暮らしだからちょっと退屈してたんだ」

 きゅっ、っと右手で袖の端を握ってくる少女。私はそれを振り払うようなことはできず、代わりに彼女の手へ自らの手を重ねた。

「ああ。仕事に障るのであまり長いはできないが」

 私がそう言って頷くと、ホノカは優しく微笑み返した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「そっかー。お仕事ってそんなに大変なんだね〜」
「ああ本当に……。部署の大勢の人間が一生懸命頭をひねって作った政策でも、いざ首長のところに持ってくときになると、言葉の端々だの重要でない要点だので揚げ足を取られて……!!」

 気付けば茶は酒に代わり、彼女と話しが弾むうちに仕事の愚痴などどんどんと語り始めてしまっていた。

「お役人様も苦労なさってるんですね〜。もう一杯ど〜お〜」
「ああ、頂くよ」

 いつの間にか椅子を持ってきて隣に座っているホノカ。彼女が酒瓶を構えるので私はグラスを持ち上げる。

 トクトクトク……

 ホノカは私に体を密着させながら瓶を傾ける。少女の柔らかな肉体が私の右腕に、脇腹に重なって熱い体温を伝えてくる。酒の注がれる音が喜ばしい。ホノカへ視線をやると、背伸びしたような艶やかな笑みを浮かべて見つめてくる。
 幸福感で気分が高揚してくる。酒だけではない、美しい少女を横に侍らせている楽しく会話をしているこの瞬間。まるで商人から接待を受けて酌婦を侍らせているかのように……。

「……んっ」
「どうかしたの〜、お兄さん」

 いかん、気が緩んでいたか。酒が注がれた後、私はグラスを両手で包むように持って、ホノカのいない左側に縮こまるようにして酒を口に運んだ。
 淫魔相手に、あまりに気を許し過ぎていた。快感と恐怖とでドキドキと高鳴る胸音。

「大丈夫、お兄さん?」

 本気で心配させてしまったのか。ホノカは席を立ち、若干青褪めた顔で私の顔を覗いてきた。

「い、いや、大丈夫。ちょっと飲み過ぎてしまった、のかもしれない」

 深酒を理由に、今日はもう辞去したほうがいいだろう。私がそう思いかけた矢先に。

「お兄さん……、今日はもうお宿に帰った方が……アタシ、送ってあげようか?」

 私の正面に回り込んだホノカは、私の手を取って潤んだ瞳で告げる。

「いや、その……」

 少女の真摯な眼差しに耐えられず、私は目を背ける。

「でも、お兄さんに何かあったら、奥さんがどれだけ心配するか……」

 ドクン

 今までで一番、大きく胸が鳴った。

「いや、その、妻のことは、いいんだ」
「でも……!!」


 今にも泣きだしそうなホノカの顔に、私の罪悪感は限界を超えた。

「つ、妻がいるってのは、嘘だったんだ……」

 きょとん、と頭の上に書いてそうな表情。

「はい?」
「い、いや、だから、妻がいるっていうのはその、見栄というか、何というか……」

 語尾が尻すぼみになる私に対し、ホノカは真顔をずずずっ、と寄せてくる。

「す、す、すまない……」

 謝罪の言葉を紡ぐ私に、なおも彼女は迫る。美しい顔が、一緒に迫る胸の谷間が怖い。
 私が身を捩って避けようとするも、彼女の接近は止まらず、そのまま……、

 チュッ

「?!」

 私の額に、何か柔らかく、とても心地よい何かが押し当てられた。
 固まる私。そのままホノカはゆっくりと頭を下ろし、私ににこやかな笑みを見せた。

「嘘ついた、お・か・え・し」

 そう言いながら窄めた唇を前に突き出して見せる彼女に、私は何があったのか気付かされて赤面する。

「ほ、ほ、ホノカ、君は?!」
「ほーら」

 ホノカはそう言いながら、私の手を取って酒の入ったグラスを押し付けてくる。

「独りもののお役人様には、まーだお話しに付き合ってもらうわよ〜〜?」

 私の左膝に跨りながら、ホノカは悪戯っけな笑みを浮かべながら首を傾けて見せた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「それでぇ〜〜、エライお役人のお兄さんには、今までイイ人とかいなかったの〜ぉ〜?」

 自らが口を付けた酒のグラスを、私の口に押し付けてくるホノカ。ほとんど抱き付くような、それでいて胸が私の腕に当たったりしないような微妙な隙間を空けて語りかけてくる。

「んぐっ、そりゃ今まで職場の付き合いや、実家の関係で見合い話を振られたことくらいは……」

 酒を零さないように啜りながら、私はなんとか答える。そうしている間にも、酔ってはしゃいでいるのか遊具で遊ぶように私の左腿の上で前後に体を揺するホノカ。上着に隠れて一見穿いているのかどうかわからないような丈の短いホットパンツ越しに、彼女の秘所のが私の腿にグリグリと押し付けられている。

「ね、ね、教えて? そういうオトナの恋愛話、アタシ、興味あるなぁ〜〜」
「そ、そんな面白い話はないよ……」

 酔って息まで温まったのか、吹き付けられた彼女の吐息は熱いほどだった。
 そのまま私の耳に口を寄せ囁いてくる。

「ねえ、いいでしょう?」

 その背伸びして大人らしくしたような声色に、ゾクッっとさせられる。耳と脳を焼かれた私は、乞われるままに昔話を語り出す。

「え、えーっと、実家から勧められた見合いの人のことなんだが。私の家よりは家格のちょっと高い、そこの一番下の娘さんだった」
「へ〜え〜? 美人だった?」

 ここでヒョイっ、と私の正面に顔を見せつけてくる。

「ああ、うん、なかなか、綺麗な人だった。私にはちょっともったいないかな、と思ったくらいだった」
「あら素敵。美男美女のカップルじゃない。それからどうしたの??」
「いやその、本当にあんまり、話すようなことはなかったんだ。何回か顔を合わせて家族を交えたり、二人きりでいろいろ語り合ったり。でも、悪い感じではなかったんだが、結局最後まであまり盛り上がらなくてね。それでなんとなく疎遠になって、自然消滅さ」
「あらぁ〜、本当ぅ〜〜?」

 首を傾げながら、ホノカは私の腕に抱き付いてきた。胸の谷間に、私の二の腕が埋まっているのが見える。

「本当はお兄さんも、そのお相手の人も惜しかったって思ってるんじゃないのぉ〜〜」
「い、いや、それは、私の方では、無いといえば嘘になるかもだけれど?!」

 言っているのは事実ではあるが、今は目の前のホノカの胸が、肢体が、顔が気になって仕方ない。


「お兄さんは、その人にちゃんと聞いたの?」
「な、何を?」
「自分のことが好きか、って」

 胸に、重い鈍器を突きつけられたような気分。

「その、あまり、踏み込んだことは」
「お兄さんが勇気がなかったように、その人だって踏み出す勇気がなかっただけかもしれないよぉ〜〜」
「で、で、でも」

 しどろもどろになる私に、ホノカが謎めいた微笑を浮かべて迫る。

「その人はまだ、独身?」
「い、いや、ずっと連絡を取ってないし、実家からもそういった便りはないので……」
「もしかしたら、お兄さんのことを待ってるのかもしれないよ?」

 ピリリッ、と背中から首へと苦い痺れが走る。

「ねえ、聞いてあげたら? 自分のことをどう思うか、って」

 確かにそうすべきだったのかもしれない、と思うのだが、今の私の頭には見合いをした彼女の顔が浮かばない。

「どうしたの?」

 そんなに不審な顔をしていたのだろうか。ホノカが不思議そうに首を傾ける。
 ススッ、っと股を私の上で滑らせて、ぎりぎりまで距離を詰めてくる。
 火山地帯に住む魔物だからだろうか、ホノカの体温は私よりも高い。こうして身を寄せられるだけで、彼女の体温が伝わってきて私の体を昂揚させてくる。

 ホノカは両手で私の頬を抑えて、じっと見つめてくる。

「ね〜え、お兄さん。イイコト教えてあげる」
「な、なんだい?」
「女の子は〜ぁ〜、『好き』って言ってくれるのをずっと待ってるんだよぉ」

 微笑みに近いような、蠱惑的な表情。そこにあるのは喜びなのか悲しみなのか、私には読み取れない。ただそれは、私に何か為さなくてはならないという焦燥感を掻き立てさせるものであった。

「ほら、言ってみて? 『好き』、って」
「す、す、『好き』……」
「はい、よくできました〜〜」

 私の頬をプルプルと揺すってくるホノカ。

「ほら、今度はその彼女の名前を、ねえ?」

 フルフルフル

 言われて私は、首を横に振った。

「あら……」

 ホノカは表情を緩め、不思議そうな様子だった。
 そしてそのまま私に顔を近づけ、互いの額がコツンとぶつかる。

「どうしたのぉ、その人のことが気になってるんじゃないのぉ」

 額をグリグリとさせながら、私に問うて来るホノカ。

「む、昔のことだから、今は好き、とは言えない……、かも」
「……………………」

 すっ、っとホノカは顔を引く。そして真顔で私を見つめてきた。見つめ合っていると、彼女の瞳の奥に炎が揺らめいているような錯覚を覚える。
 その炎が一瞬、私の視界から消える。

 チュッ

 一瞬で近づいた少女の唇が、私の頬を捕らえた。自分の体が美しい少女と一体になる感覚。

「これは、どう?」

 ホノカは私の両腿それぞれの付け根当たりに手を置いて、私の顔を見上げてくる。その手の動きで、今更ながらに私は自分の股間が昂っていることに気付かされた。

「ホノ……カ……」

 私は彼女の名を呟いた。
 見つめてくる少女、唇の感触、先程の教え。それぞれが熱気と欲望とで内から燃え上がりそうな私の頭の中でぐるぐると巡っていき、一つの言葉として口から湧き出る。

「好き、だ」

 言ってしまった瞬間、とても晴れ晴れとした気分になった。溜め込んでいたものをようやっと吐き出せた、伝えられたという思い。

 んちゅっ

 そしてそれと同時に、私の唇にホノカの熱いそれが押し当てられるのだった。

「んっ、んんん〜」

 重なる唇、そこからぬらりと熱い唾液で濡れた舌が私の口中を目掛けて這い出てくる。当然、私も舌でもって迎え入れる。視界には映らないもののお互いの味を確かめるかのように絡み合う様は、蛇の交尾を想起させた。

「アアッん、おにい、さぁぁん……」
「ホノカ、ホノカっ!!」

 乱雑に付いては離れる唇。その瞬間を捕らえて私たちは互いを呼び合う。ホノカは私の首を抱き、私は彼女の華奢な体を抱き締める。ホノカの乳房が私の胸板に当たって、柔らかく変形するのが衣服越しにも感じ取れた。

 ギンッ、ギンッ、っと煽情的な牝の体へ、下半身が反応している。ついさっき出会ったばかりの少女と、この僅かな邂逅のうちにもう交ぐ合うことを望んでいるのだ。
 私は口づけを続けながらホノカの体に視線を回す。上からだと全裸のようにすっかり見通せる上半身。豊満な乳房が私に押し当てられて潰れては復元されその柔らかさと肌の針艶を見せて付けてくる。そしてその下に垣間見える下半身。ホットパンツに隠されて見えないものの、秘所のギリギリのところまで丈が切り詰められているため、鼠径部の谷間がうかがえる。
 当然に、その隠された女性の部位を期待させられてしまう。私の性器はもはやズボンを突き破らんと、いや彼女の下穿きごと貫かんとばかりに勃ち上がっている。

 グググッ……

 知らず、私の尻が椅子から浮く。いや、腰を持ち上げたというべきか。ホノカの股間に、自らの股間の怒張を押し当てたまま、彼女を持ち上げる。

「んっ……、ふぅうぅ………ん……」

 少女は私に抱え上げられたことも意に留めず、ますます艶めかしい吐息を漏らしながら口づけを続ける。
 気付いていないのか、気にしていないのか。しかし、いくらなんでも自らの股間へ押し当てられた牡の凶器の存在に、気付いていないはずはないだろう。

 ならばこれは……、合意。いや、誘われている?


 いいじゃないか。

 彼女は私に好意を持ち、私もまた彼女の美しさに見惚れ、愛情を覚えている。たとえ一夜の過ちとなろうと、今の私は彼女への愛欲の炎を抑えきれない。

 それに彼女は、淫魔なのだし。

 淫らな魔物に対してなら、軽薄に情を交わしたとて。そんな思いが最後の決定打、免罪符となった。私はそのままホノカの背をテーブルの上に押し倒す。

「アアンッ……」

 叩きつけたわけでないから、怪我をさせたりはしていないはずだ。ホノカの口からは切ない喘ぎ声が漏れる。

 押し倒したまま、口づけを続ける。互いにさっきより小刻みに乱雑に。まるで顔中を舐めたりしゃぶっりしあっているかのようで、お互いの顔はでろでろになる。
 そんな間にも、私はホノカの肩を左手で抑えつつ、右手でもどかしく自らのズボンを下ろそうとする。あまりにもまどろっこしい。ベルトとズボンのボタンを外すこの時間すら惜しいのだ。

 ようやっと、ズボンとパンツを下ろす。

 ズズン……、っと悍ましいほどに昂った己の分身がそこにいた。

 一瞬、我に返りそうになる。私は一旦ホノカから身を離し、持て余しそうな己の凶器をおっかなびっくりに、やや腰を引いて構え直す。

「ああ、お兄さん……」

 ホノカはそんな私を見てうっとりとした表情を浮かべる。彼女の左手は乳首を隠す黒い紐ブラジャーを剥ぎ取り、もう一方はパーカーのジッパーを下まで下ろして完全に開放し始める。
 淫魔の少女の浅黒い肌。それが胸部で柔らかな双丘を為し、今解放されたその頂点には鮮やかな桃色の小さな乳首が私の性欲とも食欲とも欲望を刺激してくる。
 そしてパーカーを下ろした右手は、そのまま彼女の秘所の黒光りするホットパンツに当てられる。
 あまりにも布が少ないため、下着同然に剥ぎ取れそうなソレ。ホノカはそれを僅かに下にずらし指を滑り込ませながら、私へ蕩けるような口調で語りかける。

「お兄さん。脱がせて……」

 私は反射的にホットパンツへ両手を伸ばした。グイグイと力任せに引っ張る。

 ビリッ。

「アハッ」

 自らの着衣が破かれた音を聞いて、ホノカは笑う。二つに裂けたその先には、淫液で濡れた彼女の指がある。

 着衣を剥かれ、露わになった裸身。それはほっそりとした腰が尻や胸部に向けて艶やかな曲線で貪り食いたいような丸みを形作っており、肌には情欲の炎のような黒い文様が宿っている。
 ホノカは私へ笑顔を向けたまま、ゆっくりと開脚する。そして両手を陰部へ添えてその縦割れを軽く開いて見せた。
 瑞々しい、少女の果肉。押し開いただけでテラテラとした果汁が滲み出てきている。

「おおおぉ…………」

 神々しいとはこういうものなのだろうか。私はその眺めに感嘆、いや崇敬の念すら覚え立ち竦んだ。

 だがそれは何秒ほどだったろうか。
 ずず、っと摺り足しながら、私の体は彼女に引き寄せられる。
 気付けば私は、ホノカの両脚を掴み、肉棒を秘所に添えようとしていた。赤黒く膨らんだ亀頭の先からは、先走り汁がポタポタと糸を引いてたれ、一足先に少女の陰部と混ざり合っている。

 もう待てない。己の分泌液に先を越されたという思いが私をカッと逆上させる。少女の性器には不釣り合いなほどに大きく醜悪な先端を、私は一気に押し当てた。

「アアアンッ!!!」

 それを受けてホノカは歓喜の声とともに悶え始めた。

 私はそのまま腰をグイっ、と前へ打ち込んだ。

「あっ、っかあああっぁつっっ!!!」

 一気に少女の膣を貫く肉棒。ホノカは跳ね飛ばんばかりに大きく背を反らし、声にならない悲鳴を上げた。

 そのまま圧し掛かる。互いの股間は、完全に重なった。根本まで私のペニスを咥え込んだまま、ビクビクと痙攣する少女の体。それが膣肉のうねり、陰唇の咥え込みとなって、我が性器の細胞一つ一つまでを欲望と歓喜で包み込む。

 ズンっ

「はうっ?!」

 軽く腰を揺らすだけで、ホノカの口からは驚いたような声が漏れる。しかしそこに拒絶漢はなく、それどころか性器は全体でもってグチュグチュと暴れる私の肉棒へもてなしを与えてくるのだ。

 僅かに、腰を引く。
 ジュジュジュッ、っと淫液に濡れた私の性器。まるで今母親の胎から産み出されたかのようだ。その些細な動きにも、少女の性器はヒクヒクと名残を惜しむように反応する。

 ジュボッ

 もう一度突き込む。

「あふぅっ?!」

 悦びて飛び起きるようなホノカの声。

 ジュボッ、ジュボッ、ジュボッ、ジュボッ


「ハウッ、あんっ、ああん、、アッ、ダメ、あああん!!!!」

 ガクガクと体を揺すって喘ぐホノカ。
 私の手にも力が入り、まるで完全に拘束するかのように、脚ごと彼女の体を折りたたもうとするかのような姿勢だ。
 そんな中、喘ぐホノカと目が合う。

「アンッ!! アアンッ!! おにい、さん…ッ!!」

 彼女は私へと両手を伸ばした。

 私は脚を離し、ホノカの上半身へと抱き付いた。乱暴に、顔で乳房に着地するように。

「アアン!!」

 その私の頭を、ホノカは優しく抱き留める。
 ホノカの胸は、柔らかく、熱く、そして甘い香りがした。
 甘えるように、私はその美肉にしゃぶりつく。一方で腰を振る動きも止まらない。全身がホノカに包まれて、全身で快感を味わっている心地に夢中になる。


「ああっ、お兄さん!! もっと! もっと!!」

 そしてそんな私の欲望丸出しの所作を、ホノカはより強く求めてくる。それに後押しされて、私の上半身はますます幼く赤子のように縋りつき、下半身はますます理性を持たないケダモノのように暴れ出す。

「ホノカ、ホノカホノカホノカ! ホノカあぁぁぁあっ!!!!」

 肉棒の滾りが限界へと向かう。頭の中が真っ白に燃え尽きそうだ。腰の動きは細かく小刻みに、一度でも多くホノカの中と摺り合い、更なる快感の頂点を求めて荒れ狂う。

 既に、私の腰はホノカの両脚に捕らえられている。抽挿が短く速くなるほどに、私の体は熱く燃えて。

 じゅぶぅぅぅぅっっ!!!

 ホノカの膣の奥底に、溶岩のごとき精液を吹き付けた。

「あ〜あっ! あっ、あっ、ああっっ!!!!」

 ビクンビクンとホノカの体が何度も張り詰める。膣の締まりは私の吐精を促し更に勢いよく促すかのようだ。

 ビクンッ、ビクンッ、ビクンッ

 ホノカに抱き付いたままどれほどそうしていただろうか。未だ脈動する私のペニスからは流石にもう出る精液はないだろう。
 若干冷静になって、ゆっくりと身を起こす。私を捕らえていたホノカの腕と脚にももう力はない。

 体を起こすと、肉棒がホノカの膣から抜け出る。
 驚いたことに、精を放ったばかりだというのにガチガチに固く、少女の体に引っかかりを覚えたほどだ。

 改めて、見下ろす。

 たったホノカを交わったばかりの己のモノと、私と交わったばかりのホノカの肢体を。
 少女の体は汗で濡れ、乳房には私の唾液がねっとりとこびり付いている。
 そして大股に開かれた股間部。私のイチモツで押し開かれた陰部からは男女の和合の液が垂れ、僅かに処女の鮮血が色を残している。

 そんな姿の前に、力強く勃つ私のペニス。美しい少女を征服したと誇りたいのか。

「ん……、んん……」

 ホノカの口から声が漏れ、私は驚きと後ろめたさで身じろぎした。
 ゆっくりと、気怠げに身を起こす少女。

「ううん……、お兄さん……」

 彼女は弱々しい笑みを浮かべながら、私の顔を見上げた。

「ほ、ホノカ?! すまない! た、ただただ夢中になってしまって……!!」

 弁解の言葉を紡ぐ私に対し、ホノカはそのまま立ち上がって体を添えてくる。
 右腕で抱き付き、左手は私のイチモツに添えながら。

「??!!」

 新鮮、活発と言っていい、私のペニスから伝わる性の悦び。

「ねぇえ〜、おにい、さぁん…………」

 ホノカは私の胸を舐め上げながら、上目遣いで私を見る。顔には好色で淫靡な笑みが浮かんでいる。

「次は、ベッドでど〜ぉ〜」

 私は反射的に、ホノカの体を抱き留めた。
 少女の左手で弄ばれる陰茎はドクンドクンと次の射精に向けて熱い欲望を募らせている。

 気付けば私は、部屋の隅にあったベッドへホノカの体を組み敷いていた。

 ズズンッ

「はああああんっ!!」

 再度貫くと、大きく響き渡るホノカの歓喜の声。
 その唇を、私は口づけをして塞ぐ。くぐもった声でも、少女の悦びの色は消えない。私の口から脳へ、体へと響いて伝わり、それが私の活力となる。

 二人、上となり下となり、繋がったままベッドの上で絡み合った。
 体が、熱い。下でよがるホノカの体。炎の文様と相まって、私の体は黒い炎で焼かれているかのようだ。

 構うものか。

 この熱があれば、この情欲があれば、もっとホノカと交わり続けられる。たとえ次の絶頂を迎えても、またその次の快楽へと続いて行って……。

 びゅるるるるぅっっ!!

 ホノカの中へ、衰えぬ勢いで精を放つ。絶頂の恍惚とともに、またすぐ次の欲求が頭をもたげる。

「ホノカぁあぁぁ…………」

 ギンギンに漲る肉棒をホノカに埋めたまま。私は甘えるように彼女の名を呼ぶ。

「おにい、さんっ」

 そんな私へ、ホノカは優しい笑顔を浮かべて唇を重ねて来るのだった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「アッ、アッ、アッ、アッ!!!」

 目が覚ますと、ホノカが絶頂に至らんと恍惚の笑みを浮かべている。

 私も負けじと腰を振り、彼女の膣を抉る悦びを勝ち取ろうとする。

「アアアンッ!!!」

 するとホノカは天井を仰ぎ見ながら大きく強く声を上げた。

 対面の、座位だったかぁ。
 今更ながらに自分と彼女の体位に気付かされた。

 交ぐ合いの途中で気を失っていたのだろうか。いずれにしろ、肉棒はもう爆発寸前だ。我慢することはない。私は膣内に一気に擦り付けていく。
 ホノカのいい所は良く分かっているつもりだ。ホノカの肉悦も一気に過熱される。よがるあまりに私の下から飛んで行ってしまいそうな体をしっかりと抱き留める。

「うっ、ううううっ!!!!」


 ぶっしゅうぅぅぅぅぅっ!!!


 ホノカの中が良すぎて、すぐに出てしまった。多幸感で少し動きを止める。
 幸せだ。その幸福に浸る間にも、ガチガチに固い私のペニスに対してホノカは体を揺すり愉しみ続ける。

「アッッ、フッ、ウゥゥゥゥッッ!!!」

 ガクガクと体を痙攣させるホノカ。一足遅れで絶頂した彼女は、全身から汗を噴き出して荒い息を吐く。
 私もまた、情交を終えた余韻で休むうちに、汗が噴き出る。情交によるものばかりではない。この部屋を構成する岩盤が、熱を持っているというのもあるのだ。

 ぼんやりと思い出す。パイロゥは火山に住まう淫魔なので、こういう場所に住み家を作っているのだろうな、と。
 前は別の場所で交わっていた気もするが。

 まあパイロゥの生態はどうでもいい。ホノカ以外の全てがどうでもいい。

 私はホノカの番いで、ホノカの家が私の世界の全て。

 私はだらしなく涎を垂らして放心しているホノカを、ベッドに押し倒す。

「は、はへ……」

 ホノカが驚くのにも手を止めない。当然私の性器は臨戦態勢だ。荒々しく腰を打ち付ける

「あっふぅぅんっっ!!!」

 一際大きな嬌声を上げてホノカが身を震わせる。

 絶えることのない肉欲と絶頂、そしてそれを共にする伴侶。
 最高だ。比較する何かを知っているわけではないが、私は確信をもって腰を振る。
21/12/08 21:44更新 / 麻里

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