読切小説
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私が語る綺麗な目
読者諸君は魔物娘という存在をご存知だろうか?

ある時を境にして突然この世界に現れた存在である。

そのある時と言うのは定かではないが、現在ではこの世界の至る所で
その姿を見ることができる。

多くの種族が存在しており、その姿は一様では無い。

様々な姿をしておりその特徴を挙げると
枚挙に暇がないのでここでは割愛させて頂く。

上で言ったように個々で様々な特徴を持っているが、
その中には世間一般からすれば恐怖の対象となるような特徴も
存在している。

以下に記すのは私が出会った引っ込み思案な一人の少女との
物語である。

私はその時金銭的事情からアルバイトというものを
始めてみようかしらと考えていた。

大学生として出来立てホヤホヤだった私は、今まで一度として
金銭の絡む労働というものを体験したことが無く、それまでの人生の大半を
銭はお年玉という文化的な宝によって全てやりくりしていたのだが、
親元を離れ、大学生となった今、その文化的宝をおいそれとは使えない状況の中にあった。

そこでアルバイトを始めようと考えたのだが、如何せん様々な職種があり、
どのバイトが私に向いているのかもよく分からず、昨今騒がれている
ブラック企業の噂も助けて私は2日でアルバイト探しを放棄した。

ー1週間後ー

最近の私の食生活が悪い。と隣に住んでいる同回生の柴田君(仮名)が
訪ねてきた。

柴田君(仮名)は私の少ない友人の一人である。
面倒見が良く、私のような精神的無頼漢に対しても非常に友好的だ。

しかし、私は彼のことをよく思っていない。

なぜなら彼は彼女持ちだからである。
聞いた話によると大学に入って二週間で彼女に捕まったらしい。
当然だが、彼とねんごろになった女性は魔物娘である。
最近では電撃的出会いから数時間でカップルになった者もいるらしい。

そんな彼が私の部屋に訪ねてきた理由が私には解せなかった。

柴「やあ、調子はどうだい?」

私はダルそうに応えた。

私「毎日隣の部屋で格闘するのをやめてくれ。眠れなくて気分が悪い。」

彼は、微笑んでまくし立てた。

柴「すまないね。悪気は無いんだ。しかし、気分が悪いのは
  眠れないだけではないだろう?まともに食べてるのかい、君は?」

私「余計なお世話だ。早く帰って彼女とプロレスでもしていろ。」

柴「ははっ、いいのかい。そんなことをいっても。僕は君に施しを
  持ってきてやったのに。」

なんとも鼻持ちならぬ表情をしている。
その顔を見て私は少しイラついた。

私「敵の施しは受けんぞ!」

柴「そう興奮するな。すまん、言い方が悪かったな。人見知りの君に
  僕がアルバイトを持ってきてやった。」

私「どんなバイトだ?」

柴「僕の彼女の知り合いの家で家庭教師を募集中だそうだ。
  時給3000円で三時にはおやつが出るそうだ。」

3000円というのは実に嬉しい数字である。
しかし、なにかがありそうな気がした。

私「お前の知り合いではないのか?」

柴「彼女の知り合いだ。何か不都合があるのか?」

私「つまりは魔物娘だろう。俺はまだ純潔を守りたい。」

魔物娘の近くで働くということはそれだけで
いつ純潔が散るかわからない。
そんな恐ろしげな場所で私に働けというのか。

柴「そこまで積極的な子ではないらしいよ。
  それに君の最近の食生活を見たらほうってはおけないらしい。」

私「何?」

疑問が出てきた。

柴「つまりこの提案は僕の彼女が君をこの生活から助けようとして提案
  したのだよ。」

私「なぜ?」


柴「さあね? で、君はどうする。ロクなものを食べずに干からびるか、
  それともアルバイトを始めて太るか。」

私「どっちも嫌だ!しかし、腹が減っては死んでしまう。
  仕方ない、この俺が哀れな学生のために一肌脱いでやろう。」

柴「そうこなくては!ハイッ これが住所だ。僕が電話で明日から
  と伝えておこう。」

私「おい!まて!何を教えればいいんだ。」

柴「さあ?細かい話は現地でしてくれたまえ。」

そういって奴は部屋を飛び出していった。
結局なぜ私が選ばれたかわからなかったではないか。
あの阿呆め。

ー翌日ー

とうとう家の前まで来てしまった。
夕川という表札が門の横に掲げられている。
今すぐ部屋に飛んで帰ってしまいたい。
クソ、こんなに緊張するならアルバイトなど・・・
しかし干からびるのも嫌だ。

クソォ インターフォンを押さないと・・・
指が当たる。当たってしまう。ウアアぁ・・・

?「なにをなさってるんですか?」

咄嗟に私は1mほど後ろに飛んでしまった。
私は状況をよく確認した。
目の前には先ほど押そうとしたインターフォン。
そのすぐ隣に女性の頭があった。
美しい黒髪が垂れており、太陽の光が反射して非常に煌びやかであった。

私「怪しいものではありません! 昨日連絡した・・・」

なんとも情けない声で喋っている気がする。

?「あぁっ、家庭教師の方?」

私は即答した。

私「そうです!」

話が通っていたことに私はひとまず安堵した。

?「そうですか。では中へどうぞ。」

というわけで、家の中である。
なかなかに広い部屋だ。私の住んでいる部屋二つ分ほどはある。

?「申し遅れました。私、夕川佳奈美といいます。」

部屋を観察している間に自己紹介が始まっていた。
慌てて彼女の方を見る。

少し驚いた。彼女の足は節が分かれており
蜘蛛のような八本の足が屹立していた。
このような間近で魔物娘をみたのは生まれて初めてだった。
しかしこれからこの女性の娘であろう人物の家庭教師をするのか。

佳「あの、お名前は・・・」

私「あっ! すいません 橘といいます。」

佳「橘さんですね。わかりました。それで、家庭教師の件ですが、
  私の娘の勉強を見て欲しいのです。」

案の定娘であった。

私「あの、高校生の娘さんでしょうか?」

佳「そうですわ。最近少し勉強に滞りが出ているようなのです。
  ですから、先ずひと月の間お願いして次のテストでよい結果が
  出ていたならそれ以降もお願いしますわ。」

今の時期から考えるとあと三週間で次のテストであろう。
それまでに結果を残せということだ。

私「わかりました。精一杯努力します。それであの教科の方は・・・」

佳「数学と英語をお願いしますわ」

高校の数学と英語ならわからない所は特にあるまい。
あとは娘さんに会うだけだが。

私「では今から娘さんと会いたいのですが・・・」

佳「案内しますわ。」

言われるがままに後ろをついて歩いていくがその間に周りを見回してみるが
やはり広い家である。二階に上がっていくといくつか部屋が有り右手の方に
娘さんの部屋があるらしい。娘さんの部屋のドアをノックし、

佳「友子ー! 家庭教師の先生が来られたわよ。」

と呼びかけると部屋の扉が開いた。

そこには私の運命の相手が立っていた。  


ー友子の部屋ー

佳「こちらが家庭教師の橘さんよ。ご挨拶なさい。」

友「夕川友子です。よろしくお願いします。」

なんというか色々と驚いた。先ず一つ目は彼女が単眼であったという事
魔物娘というのは様々な姿をしているというのは知っていたが、
単眼までいるとは初めて知った。
二つ目は彼女の声がなんというか非常にしょんぼりしていたような気がした。
そして三つ目は彼女の肌が青かったが、彼女の目がその肌以上に青く美しい
ものだったことである。
少しの間その目にみとれてしまっていた。

友「あの・・・」

はっ!いかんいかん。

私「すみません、今日から君の勉強を見る橘といいます。よろしく」

佳「それでは後はよろしくお願いしますわ」

そういって佳奈美さんは部屋を出て行った。
それからしばらく私が教えるべき勉強についての話をして、
その日は夕川家を後にした。

ー自室ー

部屋に戻ってもしばらくあの子の綺麗な目についての考えが止まらなかった。
もしかしたら女性についてこんなに深く考えるのは初めてかも知れない。
それにあのしょんぼりしていた声についても考えは尽きなかった。
結局その晩はずっと友子ちゃんのことを考えて眠ったのであった。

それからしばらく彼女の家に通い勉強を教える日々が続いた。
しかし、十日ほど経っても彼女の落ち込みの原因はわからなかった。
だが、彼女の頭の良さについては正直な所家庭教師など必要の無いレベルだった。


さらに数日経ったある日のこと

友「先生はなぜ私の家庭教師をやめないのですか?」

私「え?」

いきなりこんなことを言われたからとても驚いてしまった。
もしかしてなにかまずいことしただろうか。

友「すいません、突然、でも今まで私の所に来てくれた人たちは
  私を気味悪がってすぐにやめてしまったから・・・」

私「そんなことが・・・」

友「先生も私を最初に見たとき驚いていたのでまた嫌われたのかと・・・」

半分涙目で友子ちゃんはそんなことを言った。

私「あれは違うんだよ!確かに驚いたけれどもあれはちがうものにだね・・」

友「違うものってなんですか?」
 
さっきより落ち着いてるかなってやばい。
これは言わないといけないか。

私「実はね・・・君の目がとても綺麗だったから」

ってなにを言っているんだわたしはあぁぁぁ!
あぁっと!友子ちゃんがもうすごいびっくりしてるじゃないか!
どうしよう!これはなんだ!すごく恥づかしいじゃないか!
なんだ!この衝撃は!ハンマーで頭を叩かれたようだ!

友「あのっ!ここがわからないんですが!」

私「へぇあっ!ヘイ!あっハイだ!」

その日は何事もなかったが、
その数日後から少し妙なことが起こり始めた。
まづ、友子ちゃんとの会話がとてもぎこちなくなり始め
さらに、彼女がたまに放心状態になったりと勉強に激しく支障が
出始めた。
そしてなんとテストで大コケしてしまったのだった。
これを見たときは大根のような精神力を持つ男と言われた私でも流石に
堪えた。

ー夕川家ー

佳「どういうことですか!これは!」

私「申し訳ないです。」

佳「もういいです!最初の契約通りにしてもらいます!」

私「・・・わかりました。ありがとうございました。」

そう言って私は夕川家を後にした。

ー自室ー

私はどうも彼女に惚れていたらしい。言葉にしたら少し安っぽくなりそうなので口には出さないが衝撃で言えば一浪が決まった時と同じくらいのショックと言えばわかってくれるかも知れない。
その日は柴田君(仮名)にクビになった事を連絡して床についた。

ー三日後ー

柴「君ィ!以前に増して顔色が悪いんじゃあないか!どうしたんだ!」

大学の食堂でいきなりそんなことを大声で叫ばれた。

私「周りの迷惑だから騒ぐなよ」

彼は心底驚いているようだ。

柴「どうしたんだ。君がそんなことを言うなんて。
  そんなにショックだったのかい?だとしたら意外だな。」

私「・・・・・・・」

柴「おいおいどうしたんだよ。いつもの君らしくないぞ。
  なんなら頼んでみようか。復帰できるように。」

いつものようにおちゃらけた柴田に怒りを覚えた。

私「そういう問題じゃない!」

私が声を荒らげたので表情が変わった。

柴「すまん」

二人の周りは私が声を荒らげたせいで人がいなかったが、
そこに近づいてくる人物がいた。

?「ハロー、橘くぅん」

声のした方向を見るととても女性らしい出るところが出て、
引っ込むところは引っ込んでいる蠱惑的な女性が立っていた。

柴「おぅ、スウィートハニー!」

?「やぁん!ダァリン!」

どうやらこの女性が柴田の彼女のようだ。
尻尾が生えているようだ。しかも一本や二本ではない。
たぶん五本くらいだ。見る限り狐のようだ。

?「橘くぅん、あたしがあなたに仕事を紹介した。珠子よ。
  よろしくぅー」

ずいぶんと軽い印象を受ける。それにしてもなんでこんなにお喋りなんだ。
友子ちゃんのように寡黙にはなれんのか。

珠「あなた、友子ちゃんのこと考えてるでしょう。」

ぎょっとした。なんでわかったんだ。
また混乱してきた。

珠「それでね友子ちゃんがね、なんと昨日から帰ってないらしいの。
  それでねぇ、私はあなたに友子ちゃんを探すのを手伝って欲しいの。」

私「なんだって!」

頭の中で考えるよりも先に口から言葉が出てしまっていた。
こんなことは今までなかったことだ。

珠「いきなり大きな声を出さないで下さるかしら。」

私「どこにいるん・・・!!」

いきなり口の中にアツアツのたこ焼きを突っ込まれた。
熱い!!横を向いてハフッハフッすると柴田がニヤついていた。

珠「それでこの地図に書いてある近くをあなたには探して欲しいの。」
 
受け取った地図を見てみると自分の住んでいるアパートの近くであった。
それを理解した瞬間走り出していた。

珠「たぶんその近・・・あら、行っちゃった。」

柴「うまくいくかな?」

柴田の言葉を聞いた珠子はニヤリッとして

珠「きっと」

とだけ呟いた。



ーアパートー

私の部屋の前に特徴的な目を持った少女が座り込んでいた。
その目は閉じられており眠っているのではないのかと思われるほど安らかな
顔をしていた。近づく足音に気づいたようでうっすらと目を開けてこっちを
向いた。

友「お久しぶりです。」

この声を聞くのがとても嬉しいそして彼女の声に今はもう落ち込みの様子は
なかった。

私「久しぶり。」

その声を聞いた彼女は私の方に歩いてきた。そしてゆっくり私の体に
密着して大きく息を吐いた。そして、一言

友「ごめんなさい。」

と呟いた。私はなぜそんなことを言われたのかわからなかったが、
今、目の前にある感触を確かめるように彼女を抱きしめた。

ー自室ー

私「なんで家出なんかしたんだい?」

彼女はモジモジしながら答えた。

友「会いたかったから。」

一瞬自分はおかしくなったのかと思ったが、しかし彼女の目を見たとき
本当にそう言われたのだと、実感した。

私「なんでぼくなんだい?」

友「初めてだったから、目が綺麗なんていわれたのが。今までこの目を
  見てみんな気味悪がったから、本当に嬉しかった。
  初めて生まれてよかったと思えたから・・・です・・・。」

私の心にはこの子は触ると壊れてしまうのではないかという一抹の不安が
生まれた。

私「でも、僕は今はもう君の家庭教師じゃあ・・・」

友「だから、もう一度家庭教師をしてもらおうと思ってここに。」

私「でも、僕のせいで君の成績が下がったんだよ。」

これは覆せない事実だろう。

友「それは・・・私が悪いんです。
  私は、私は・・・先生のことが・・・・・先・・生・・・のことが・・
  好きだったから、だからいつも先生のことを考えていて、
  テスト中もテストなんか・・・手が付かなくて・・・」

私「やっぱり僕が悪いようだ。でもさっきの話は本当なのかい?
  ずっと僕のことを?」
 
何を聞いているんだ私は、こんなことを聞いて恥づかしいと・・・

友「はい、本当です。」

それからしばらく二人で見つめ合っていた。
気づくと顔同士の距離が拳ひとつよりも近くなっていた。
このまま口づけをしてもいいんだろうか。
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次の日私は彼女を家に送り届けたのだが、私はてっきり怒鳴られると
思っていたのだが、佳奈美さんは終始満面の笑みだった。
なんというかとても不気味だった。
そして私はあっさりと友子ちゃんの家庭教師に舞い戻ったのであった。







13/12/07 01:40更新 / アカマさ

■作者メッセージ
どうもこんにちわお初にお目にかかります
今回は初投稿なのです
だから少し内容はひどいかもしれませんが
生暖かい目でご覧下されば幸いです

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