読切小説
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危険まで愛す
ピロリン
放課後の教室。もう殆ど生徒が残っていない。
「おっと、lineだ。」
そう言って、スマホの起動する男の名は雹縣尚希(はくがた なおき)。
「誰から誰から?」
尚希の前から顔を覗かせるのは友人の矢田(やた)である。
「朔さんからだ。」
朔とは尚希の彼女、直恵朔(なおえ さく)のことだ。
『好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会い』 
「うわっ!なんだこれ!」
矢田が驚愕の声を上げる。
「なんだ、って別に普通のメッセージだよ〜」
テンポよく返信をする尚希。
『もちろん、僕もですよ♪』
「い、いやいや。返信普通すぎるだろ!何だよ今の!呪いかよ?」
「うるさいなぁ。朔さんは愛情表現が少し行き過ぎちゃうだけでおかしい所なんてないよ〜」
ピロリン
「返ってきた」
尚希は再度スマホをいじり出す。それを矢田も覗く。
(い、いや、あれはなんかの見間違えだ。きっと文字化けの強化版みたいな…)
『通じ合っていますね(。・ω・。)軽くイってしまいました♪それはそうと尚君は今日、いつ頃お帰りですか?お夕飯はなにが良いですか?献立を三つまでは絞ったのですがそこから先が…なにせ、すき焼きとグラタンとハンバーグで尚君の好物ばかりですから(≧∀≦)!私自身は何でもいいのですが、尚君の気分に合わせたかったのです!(^^)!いえ、断っておきますが気持ちはミクロン・微粒子単位まで通じていますよ!私の予想はズバリ、グラタンです!最近寒くなってきましたからね。でも、もしも、もしも違ったらどうしましょう…。いえ、優しい尚君のことです。自分の意見を曲げてでもグラタンと書いてくれることでしょう(。ノωノ)しかしそれでは意味がないのです!神様どうか尚君がグラタンを選んでくれますように(´。`)最後に矢田君によろしくお伝え下さい。』
「長いわ!!!」
矢田を無視して返信を打ち込む尚希。
『そーですね。迷いましたが、やっぱりすき焼きですかね(≧∇≦)!』
「おい!!!それでいいのかよ!!」
「矢田うるさい」
尚希はさらに返信を打つ。ピロリン。しかしその最中に朔からの返信が来る。
『もうだめです。死にます。死んじゃいます。これも全て神様が悪いんです!。゜(゜´Д`゜)゜。もう神様何やってるんですか!ですが、私が当てられなかったことは事実(;_;)。これから私はどうすれば…尚君、私はどうすればいいのですか(x_x;)?』
「結局聞いちゃったよ!!所々の絵文字が可愛いとか、なんでここに俺がいることが分かるのかとか、もうツッコミどころが多すぎるわ!!」
「矢田どっかの漫画のツッコミ役みたいになってるねぇ」
そう茶化しつつ打ち終わったメッセージを返信する尚希。
『真っ先にグラタンが思い浮かんだのは事実です(。・∀・。)ノでも、さっきの返信で朔さんに好きと伝えられなかったので渋々すき焼きにしました!』
どこからどう見てもバカップルの寒い会話。矢田も凍っている。
三秒とコンマ五秒。
ピロリン
「早いわ!!」
『(〃ノωノ〃)キャッ』
「短けぇよ!!ねぇ、あなたならあの時間で大学の卒論くらいは打てるでしょ!?世界を狙いなさいよ!世界を!!」
「うるさいってばぁ。長くても短くても文句じゃん。」
ピロリン。さらにlineが鳴る。
『了解いたしましたっ!(*ゝω・*)ノそうと決まれば、すぐにグラタンとすき焼きの材料を買いに行きます!!あまり帰りが遅くならないようにして下さいね。それではε=ε=(ノ≧∇≦)ノビューン』
読み終えてからどっぷりと椅子に座る矢田。少しの沈黙。教室には既に矢田と尚希しか残っていなかった。沈黙を破ったのは矢田。
「す、スゴい人だな…」
「んー?そうだねぇ、グラタンとすき焼きの組み合わせはなかなか無いねぇ」
「そこじゃねーよ!!」
はぁ、と矢田は息をつく。そこにフォローを入れる尚希。
「いやぁ〜、昔からこんな感じだからね。要は慣れだよ、慣れ」
そか、と言いつつも腑に落ちてはいない矢田。
「彼女が出来たのは知っていたが、まさかこんなことをする人だったとは。」
「こんな事ってなんだか悪いことしてるみたいな言い方だねぇ。全部を知らない矢田からはそう見えるかもしれないけど別に普通だよ。普通な彼女、いや、僕の未来のお嫁さんだよ〜」
そんなことを平然と言ってのける。しかし矢田は小学校からのつき合いがあるため気にはしない。
「確か彼女さん、白蛇だったよな?」
「そうだね♪」
“魔物娘”。それがいつから日常生活に馴染んでいたかは分からない。彼女たちは人語を理解し、喜怒哀楽ありきの、我々人間と変わらないコミュニケーションをとることが出来る。しかし異なる点も存在する。一つは見た目。人間界の植物・昆虫・動物と人間のハイブリットの様な容姿をしているものが殆どである。そして何より生物学上の雌しかおらず、人間の男性との交わり、所謂セックスを生きる糧にしている。確かに恐れられるよな種族も多少はいるが基本は人間と上手く共生しているのだ。
話は戻って、尚希の想い人、直恵朔。朔もまた魔物娘である。種族は白蛇。普段は特出して危険でなく、良く言えばクール、悪く言うならば少し根暗な種族だ。しかし事が想い人に関わると過激な行動をしかねない、そんな種族なのだ。朔は尚希のいとこで、尚希が2歳から姉役を担っているのである。そのため尚希は自分だけのものであり、逆もまた然りと考えているのだ。
「あれだよな?ヤンデレって奴?」
「う〜ん、まぁ、そうかもねぇ」
矢田の直球な質問になおきは答えを濁す。
「それって危険じゃないのか?最悪刺されたりするんだろ?」
「詳しいね。確かに刺されたり、歩道橋から突き落とされたりはするみたいだね〜」
「分かってなんならなんで…」
愕然としている矢田に向かって真剣な顔で尚希が言う。
「矢田も含めてヤンデレを勘違いしてるんだ。ヤンデレっていわば究極のデレデレだよ?デレが少し行き過ぎちゃうだけで、その行き過ぎを愛でカバーすれば良いだけだよ」
「カバーって…じゃあ今までは何もなかったのかよ?」
あまりにも楽観的すぎる尚希に矢田が食い気味に言う。
「いや、まぁ、あったにはあったけど」
「ど、どんなことが?」
「聞きたいの?」
「お、おう」
怖いもの見たさの感覚で答えてしまう。
「いくつかあるけど…例えばね〜」
………
……


とある日の昼休み。
「分かった。つまり放課後に職員室に行けばいいんだね?」
「そう言うことですね。」
「了解。ありがと」
何気ない会話。尚希と女子クラスメイトの会話。誰かになんの話だと聞かれれば、即座に委員会関係と答えることができ、それ以上の事は何もない。まさか、ここからこの二人が男女の関係であることを想像するなど不可能である。しかしその不可能を起こす、いや、犯す人物が一人。
昼休みの終わり。ピロリン
(lineだ)
スマホを起動する尚希。
『尚君。尚君は誰のものですか?いえ、私の物であることは世界中の共通認識であり、揺るがない事実です。なのに、あのクラスメイトはなんですか?もしかして浮気ですか?いや、2歳から朔姉ちゃん、朔姉ちゃんと言って私の後ろを着いてきてくれた尚君がそんなことはしないと信じたいです。分かりました。尚君に付いた虫を駆除すれば良いだけですね。』
かなり、危険な匂いがする内容。
「あちゃー、やっちゃった」
すぐに尚希もフォローの返信をする。
『朔さん、落ち着いて下さい。僕は朔さんしか見えてませんよ!?』
ピロリン。息をつく間もなく返信がきた。
『尚君は大丈夫です。私が守りますから、大丈夫。』
どう転んでも丸く収まらないことが分かる。
「おーい、尚希。今日帰りにゲーセン寄っていこうぜ。」
友人からの誘い。
「いや、今日は無理だね〜」
それをやんわりと断る。そう、無事では帰れないねと言って一人作戦を考える尚希であった。

その日の放課後。夜7時。
「遅くなってしまいましたね。」
「そ〜だね〜」
クラスメイトの言葉を聞き流しつつキョロキョロする尚希。
「雹縣君のおうち、ここら辺だったのですね。ん?何かありましたか?」
尚希の異変に気づき質問をするクラスメイト。
「んー?いやねー。ちょっと…あっ、いたいた」
尚希が指さす方をクラスメイトも見る。十字路の影になっている部分。そこに白い物体、上の方には鈍く光る赤光が二つ。
「なんですか?あれ」
「しっ、これから是が非でも話を僕に合わせて、お願い」
さっきまでとは違い真面目な尚希の声に黙ってうなずくクラスメイト。近づいていくとそれが生き物であると分かった。
「私の尚君私の尚君私の尚君私の尚君私の尚君私の尚君私の尚君私の尚君私の尚君私の尚君私の尚君私の尚君私の尚君私の尚君私の尚君。私の尚君になんで、虫が。」
「!!?」
白いのは体。2つの赤光はクラスメイトを鋭く睨む目であった。想像もしてなかったものがいてクラスメイトは身震いする。
「あっ、朔さんじゃないですか♪お迎えに来てくれたんですか?」
自分の想い人の修羅のような姿を見ても尚希は怯まずに話しかけていく。
「尚君は下がっていてください。」
なお、異常な迫力で迫る朔。しかし尚希は自分のペースを崩さず話しはじめる。
「あーあ、バレちゃってるみたいだね。あとは僕が決めるからいいや。ミキさんありがとね」
ミキとはクラスメイトの名前。疑問符を浮かべる2人。
「どうゆうことですか?」
先に口を開いたのは朔だった。
「えっ?朔さんへの誕生日プレゼントの相談を受けてもらっていたんですよ。ね、ミキさん?」
「え、えぇ。お役に立てずすみません。」
尚希の問いかけにとちりながらも答えるミキ。
「待って下さい!」
朔が言うが無視して会話を続ける尚希。
「いやいや、おちらこそ。アドバイスありがと。あっ、この人が僕の最愛の人♪」
朔の肩を抱き寄せる尚希。怒りを残しつつも尚希不意打ちに朔はボッと顔を赤くする。
「尚君待って下さい。意地悪しないでちゃんと説明して下さいよぉ。」
そんな朔を尻目に尚希はいつもの話し方だ。
「言ったとおりですが?僕バイト始めましたよね?それで今年は例年より良いプレゼントをしたいなぁと思って相談にのっていただいたんですよ。」
再度ミキに同意を求め、ミキもそれにえぇと答える。
「でも、盗聴器にはそんなことは…」
キョトンとして聞いていたミキも盗聴器という言葉に引いている。
「盗聴器ぃ?もしかして、これのことですか?」
尚希の手のひらには小型の機械がある。
「あっ…」
「ははっ、朔さんの愛が僕に伝わってないとでも?」
犯罪チックは内容のはずだがなぜか和やかな雰囲気だ。
「い、いえ!前回の教訓を生かし今回は2つ取り付けたのですよ!」
少し得意げである。
しかし
「朔さん。今日の僕はローファーですよ。」
「えっ!?」
「今日少し寝坊気味で靴をだし間違ってしまったんですよ。」
「そ、そんなぁ…」
朔は盗聴器の場所を知られてることには反応しない。
ここだとばかりに畳み掛ける。
「というか、朔さんはここで何を?もしかして僕が浮気してるとか心配してませんでしたか?」
そんなに信用無いのかぁとしょんぼりする尚希。
「そ、そんなことありません!尚君が遅かったから迎えに来たんです!もう!」
逆ギレ気味な朔。
「じゃあ、その包丁はなんですか?」
包丁。そう、朔は刺身包丁をトンファー持ちしていた。
後ろでバタッとミキが尻餅をつく。
「ちょ、ちょっと!それは!」
ミキを遮る尚希。
「朔さん。彼女には彼氏もいて僕を狙う理由がありませんし、怖がらせてしまったのは事実です。謝って下さい!」
「いえ!私は自分のものを、愛する人を守ろうとしただけです!なぜ私が謝らなきゃいけないんですか!?」
ハァハァと息を切らす朔。
わずかな沈黙。痛いくらいの。
それを破る尚希。
「そう、ですよね。すみません、僕が悪かったんです。僕がハッキリしないからこんなもの持ち出して…」
朔の手から包丁を取る。
そして…
「けじめを付けます!」
自分の腕に目掛け振り下ろす。
「!!?」
驚愕する女性2人。
グジュ…グジュ…
「尚希!!何やってるんですか!?」
怒号をあげる朔。
尚希は文字を掘っていく。駆け寄り止めさせようとする朔だが尚希は止まらない。
《朔》。尚希の左手には《朔》という文字が掘られていた。
「!!!」
朔の動きが止まる。
「久しぶりに名前呼んでくれましたね…。いやぁ、頼りなくてすみませんね〜」
尚希はいつも通りのヘラヘラした口調で話すが朔は聞いていない。
「なんで、どうしてこんなことを…」
「僕は朔さんみたいに頭はよくないですから。こんな事しか思いつきませんでした。気にしないで下さい。」
それに、と尚希は続ける。
「僕の大好きな朔さんにこんなことして欲しくないんです。僕も精一杯努力はします。だから、人を傷つけることだけは止めてください。」
お願いしますと念を押す。
下を向いたまま朔は口を開く。
「すみません、すみません。」
今にも泣き出しそうだ。
「い、いえ。結局僕が朔さんに心配をさせてしまう様な男だっただけですから。泣かないで下さい。でも、これで分かって頂けましたか?」
いててと言いながら苦笑する。そんな尚希を見て朔の顔が変わった。尻餅を突いた状態のミキの方へ向かう。
「ミキさん。言い訳はいたしません。本当に申し訳ありませんでした。」
深々と頭を下げる。ずっとやりとりを見ていただけのミキも口を開く。
「い、いえ。私も配所に欠けていました。それよりも雹縣君を。」
フッと顔を上げ泣きそうな顔でもう一度頭を下げ尚希の元へ行く。
「尚君。大丈夫ですか?」
コンクリートの壁に寄りかかって腕を押さえていた尚希。朔は尚希のカバンから常備してあるタオルを取り出し腕に巻く。
「へっちゃらですが、そんなことより。朔さん、僕の想い伝わりましたか?」
「…はい」
「なら、良かったです。この傷。いや愛の結晶も僕には誇りですから。気にしないで下さい。」
フルフルと震えている朔。
「でも、もしも僕が朔さんに捨てられてしまうと大変なんですが…。だから、ここで言います。」
一度下を向いて息を吸い込み言う。
「良かったら、僕と一生を歩んでくれませんか?」
朔の目にみるみるうちに涙が溜まっていく。
「そっか、一言忘れてましたね。すみません締まらないですねぇ。朔さん、愛してます。」
「も、もちろんですよぉ」
堪えていた朔はついに泣き出す。わんわんと夜道に泣き声が響いた。

「本当にすみませんでした。」
「もういいですよ。それよりも雹縣君は幸せですね。こんなに想ってくれる人がいて」
「そうだねぇ。」
朔がひとしきり泣いたのち、流石に遅くなってしまったという事でミキを送ることにした。もちろん、朔と尚希の二人で、だ。
ミキの家の前。家に入る直前で二人に向き直り笑顔で言う。
「朔さん。雹縣君とはとってもお似合いのカップルですよ!自信をもって下さい。」
そう言って家に入っていった。

帰り道。
ほんの30分程度の出来事だったが2人の頭には色々なことが浮かんでいた。
そんな中、朔が痛いほどの沈黙を破る。
「……尚君怒っていますか?」
「怒る?怒る要素がどこかにありましたか?」
尚希の優しさにまだ少し罪悪感が湧く朔。また謝ろうと口を開きかけるが…。

その前に柔らかいもので口をふさがれた。

目の前に、目を閉じた尚希の顔。
一瞬の出来事で思考が完全に止まった。そして尚希の顔が離れ
「僕ももう18になりました。これからはもう少し色々な事を二人でしていきましょう。ね、朔」
そう言って最愛の人、白蛇を抱きしめる。
呼び捨て。中学二年、思春期真っ盛りに朔を押し倒そうとしたとき、旦那になる気があるなら自分を呼び捨てにしろとしつこく言ったことがあった。
「は、はい!も、もう絶対逃がしません!離しません!今日から、今日からホントに!ホ!ン!ト!に!私だけのものですからね!!!」
朔はそう言って抱きしめ返す。

………
……


「でぇ、その後ホテルにて永遠の愛を誓い、めでたく結ばれたのでしたー。ってこんな話かな?ホテル内での話も聞く?」
「…いや、あの。そこまでは良いです、はい。」
全て?を聞き終え矢田はゲッソリしていた。
「…ん?待てよ。つまり、今俺といることが分かってるってことは…」
「?そうだね、盗聴器は着いてると思うよ。僕が分かってるだけで4個。」
さらにゲッソリとする矢田。
「尚希の腕の包帯の謎が解けた…。というかまだその傷はあるのか?」
「傷じゃない!愛の結晶だ!!」
絶叫する尚希。机をバンバン叩き抗議する。
「分かった!分かったって!それにしてもツッコミどころがありすぎてもう我慢のしすぎで倒れるかと思ったわ。」
「完全無欠の純愛ドラマ、綺麗な締め付きにツッコミどころなんてないよ?」
「…もうツッコミきれん。」
ガクッといすの背もたれを使い後ろにのけぞる矢田。するとガラガラと教室の扉が開く。
「なに騒いでんだ。はよ帰れよー。」
「はーい。」
さっきの絶叫で見回りの教員に気づかれたらしい。
帰宅を促され2人は教室を後にした。





靴を履き替え下駄箱を出ると遠くから声が聞こえてきた。
「…くぅぅぅぅぅん!!!」
「なんだあれ?」
「あっ、朔さん」
「あの人が!?」
「なぁぁぁおぉくぅぅぅぅぅん!!!!!」
ダダダッ、もし彼女が人間で二本の足があればそんな効果音を付けたくなる、そんなスピードだった。実際には真っ白で綺麗な蛇の下半身をくねくねさせ猛スピードでかけてくる。手には買い物袋があるので例の買い物の帰りだろう。
「…はっ!尚希、まさかとは思うが。」
「ん?なに?」
朔に向かって手を振っていた尚希に矢田が聞く。
「もしかしてだが、俺が話を聞いていた間盗聴器は切っていなかったのか?」
「えっ?切る必要あった?」
そりゃ、犯罪的な匂いも含め、かなり恥ずかしい部類の話だろ!!!
ずっと尚希が語る側だったので久しぶりにツッコミを入れる矢田。そういってる間に朔が合流した。
「尚君!なに話してるんですか!!黒歴史といっても過言ではないんですよ!それをあんなに簡単にお友達に…あっ、どーも矢田君。初めまして。直江いや、尚君の未来の妻、《雹縣》朔と申します。じゃなくて!!尚君、あれほど、あれほど言いましたよね!?なんで言ってしまうんですか!?だいたい…」 
嵐。矢田が朔を一言で表すならと思い浮かんだ単語だ。
(一瞬見えた、お淑やかな部分も嵐の前の何とやらという言葉にぴったりだ)
「…もう!こんなことをしていると今度は矢田君と出来てしまっているかと心配してしまいます!あり得るんですよ!こんにち、同性愛は既にマイノリティを脱しているのです!もし、あの後、私達の初夜を語っていたのなら発情した矢田君が尚君を押し倒していたかもしれないんですよ!?はっ!?もしかして、もう矢田君に…」
「いやぁ、朔さん。会いたかったですよぉ。えーと実際会ったのは二日前なんでぇ。43時間ぶりですか?」
世にもおっそろしすぎてぶっ倒れるかと矢田が思えるような事を口走っていた朔の話をそよ風のごとく受け流し尚希は割って入る。
「正確には44時間28分ぶりです!一分一秒でも尚君と一緒にいたい私にその話をするなんて、さては今夜は誘ってますね!?あぁ、またあのテクで私は…はっ!下着!新しくAmazonで注文した下着が届いてることです!お母様に見られては私は生きていけません。どーしましょう…尚君…」
「僕は、かまいませ…」
「もし、あの母に見つかったら先に着られてしまいます!それだけは絶対嫌です!!」
「あぁ、あのお母さんならやりかねませんねぇ」
「こうなったら!早く、全速力で帰りましょう!」
「まっ、待って下さいよ!」
ほら、と言いつつ尚希の服を引っ張る。
「分かりましたよ。んじゃ、また明日な矢田。」
引っ張られつつ手を振る尚希。
「お、おう。」
矢田もあわてて振りかえす。どんどん二人の姿は小さくなっていった。
(楽しそうだな。…俺も彼女欲しい。)
一人取り残された矢田は夕焼けの空を見上た。


走りながら申しわけなさそうに朔は言う。
「尚君、すみません。またワガママを言ってしまって。」
すると走りながらであるため少し息を切らしながら答える尚希。
「朔さん。いや、朔。僕は君が楽しそうならそれで良いよ。いくら暴走しても良い。もう、それで他人を傷つけそうになっても良い。だって…」
大きく息を吸い込み、走りを早める。
「だって、その愛は僕が全部受け止めるから!!!」
もうすぐ朔の家である。2人は走る。肩をそろえて。
17/06/27 15:58更新 / J DER

■作者メッセージ
僕はなるべくハッピーエンド、登場人物の皆に幸せになってほしいです。今回は「ヤンデレ」成分を含んでおります。その上で主人公ヒロインに幸せになってもらいました。
※自己満足的ヤンデレです。ヒロインだけのハッピーエンドではありません。

また投稿は初となります。
最後に皆様の余暇のお供になれることを願いましてー。

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