読切小説
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ウタウタイ達が歌うウタ
…私は歌が好きだ。
もちろん聞くのも歌うのも好きだ。
それは私が『セイレーン』だから、という訳ではないだろう。
きっと私が人間であろうが他の魔物であろうが、歌が好きな事に変わりはないだろう。
そう思えるほど私は歌が好きなのだ。
歌を聞くだけで幸せな気分になるし、歌うだけで元気一杯になれるから。
けれども、今の私には歌関連で一つ問題がある。それは…

「♯〜〜♭〜♯〜〜〜♭〜〜〜〜〜…」

……………………………
そう、私はセイレーンなのに…歌が下手なのだ。
音程も上手く取れない、テンポも少しおかしく、歌っている私以外の者は私の歌では元気になれないし魅力も感じないのだ。
確かに、小さい頃から他の同年代のセイレーンと比べて余り上手く歌えなかった。それでも特に問題は無いと思っていたが、最近は特に酷くなってしまった。
今までが50点だとすると、今は20点のできだ。

「はぁ〜っ…」

おもわずため息をついてしまった。
しかし、なぜ最近特に酷くなってしまったのか、その理由は一応思い当たる。
きっとそれは、今私が会いに行こうとしている『あの男』の歌を聞いたからだろう。

あの男は人間なのにそこら辺のセイレーンよりもよっぽど歌が上手である。
その歌を、近くの町や村の人達に聞かせて、皆の顔を笑顔に変えている。
初めて私があの男の歌う歌を聞いたとき、今まで感じた事の無い胸の高鳴りを…元気を、そして幸福を感じた。
それと同時に、自分が歌う歌に自信が持てなくなった。
何故あの男は並のセイレーンより上手く歌えるのに、そして、私はセイレーンなのに何故歌が下手なんだろう。
私の歌では、自分以外は元気になれない…時には自分ですら…
あの男の歌なら、自分以外でも…それこそ皆が元気になれる…
じゃあ、元気になれない、幸せになれない私の歌は何なのだろうか?そもそも私の歌は歌なのだろうか?

そんな事を思ったら、私の歌は先程の様な酷いものになった。気持ちの問題だろうか。
どちらにせよこのままではいけない。このままでは私は歌が嫌いになってしまう。それだけは死んでも嫌だった。
ならどうすれば良いか…自分の歌が上手くなればいい…自分より上手く歌える人に教えてもらえば…!

そう思った私の翼は、自然とあの男の下へと動いていた。


====================


「おはようございます!!」
「…また来たのか」

私が元気良く挨拶したのに、明らかに嫌そうな態度を返してきたのがあの男―ミング・ファーレラその人だ。

「私はミングさんが歌を教えてくれるまで諦めません!」
「俺から歌が上手いセイレーンなんぞに教える事は何一つ無い」

何回こうして頼み込んでも毎回こう言って断られる。
でも諦めない。

「だから、私はセイレーンでも歌が下手だから教えて欲しいんです!!」
「…だったら同族に教えてもらえばいいだろ?」
「嫌です!!私はミングさんの元気になれて幸せな気分になれる素敵な歌が大好きなんです。だからミングさんに教わりたいのです!」
「魔物なんかに褒められても嬉しくないし、そもそも俺の歌は他人に教えられる程のものでもない」
「ムムッ!?またそんな事言って!ミングさんの歌は素晴らしいのです!!」

『魔物なんか』っていう言い方はミングさんが反魔物領出身だから別に良いとして、自分の歌の出来を低く見ているのがムッときた。

「そう言って人を持ち上げといて『実は私のほうが上手に歌えます〜』って感じだろ?」
「だから違いますって!私は本当に歌が下手なんです…ぅぅ」

…自分で言ってて悲しくなってきた。

「そこまで下手だって言うのであれば今ここで歌ってみろよ」
「えっ!?あの、それはちょっと…」

…下手だってわかっているからこそ、余り上手い人の前で歌いたくは無いのだか


「歌わないって事は、やっぱりお前の方が上手いってことなんだろ?」
「いや、そんな事は…」
「じゃあ今本気で歌ってみろよ!」

…え〜い、こうなりゃヤケだ!

「じゃあ今から歌います!!」
「おう!どうぞ!」

「♯〜〜〜♭〜〜〜〜♯〜♭〜〜〜〜〜〜…」

「ストップ!もういい!……………その、なんだ…悪かったな、青ハーピー」
「わかってくれましたか…って何ですか青ハーピーって!!」
「いやぁ、あの歌でセイレーンは無いんじゃないかな〜と。魅了も無いし、ある意味個性的過ぎるし…ぶっちゃけ音痴だし」
「うぅ…私はこれでもセイレーンです…」

そこまで言われると…駄目だ、泣きそう。

「っ!?…あーもー悪かったって。だから泣くなよ、な?」
「うぅ…ぐすっ…」
「…わかった!歌の歌い方教えてやるから!だから泣き止め!頼むから泣くのは止めろ!!」
「ぐすっ…ホントですか?」
「ああ、教えてやる!」

やったー♪

「ただし、俺に魅了魔法を使ったり、発情期だからといって襲ってきたら即教えるのを止めるどころか青ハーピーを鶏肉にするからな…いいな?」
「ハイ!!了解しました!!…………ってまた青ハーピーって言いましたね!?」
「お前の歌がマトモなレベルになるまではお前は青ハーピーだ」
「うぅ…せめて名前で呼んで下さいよミングさん〜」
「そうは言っても、俺はお前の名前を知らん。後俺の事は師匠と呼べ」

そういえば、何回か歌を教えてと頼みに行ってたけど今まで1回も名前を言ったことが無かったような…
それはいけない!!早速名前を言わなければ!

「えーと、何か今更ですが、私はセイレーンの『シーン』です」
「そうか、青ハーピーのシーンだな。一応覚えておこう」
「…もうミンg…師匠の中で私は青ハーピーで決まっているんですね…ぅぅ…」
「シーンの歌がちゃんとしたレベルになったら青ハーピーじゃなくてセイレーンだって認めてやるよ」
「わかりました!すぐに師匠に認めてもらえるように頑張ります!!」
「おう、じゃあ早速始めるぞ」

こうして、私と師匠の歌の訓練は始まった。


====================


この日からの毎日はとても大変で、師匠の訓練は厳しかったけれど、とても充実した物になった。

「いいか、歌を歌うにあたって一番重要なことはな、『自分が楽しんでいること』と『歌を聞いている誰かに、どのようにいてほしいか』という2つの事を自分なりに考えて歌えているかだ!」
「ほぉ〜成る程〜。師匠はどうなのですか?」
「俺はもちろん自分が歌っていて楽しいし、俺の歌を聞いている全ての人に一時でも幸せを感じて欲しいって想いながら歌っているぞ」
「あっ!それ私も同じです!!」
「そうか!なら気持ちの面ではほぼ問題無いな。後は他人…俺も含めた他人の歌と比べて自分の歌を評価しない事。『私なんか…』って思いながら歌ったところで良い歌なんか歌えるかっての」
「成る程…わかりました師匠!」


「♪〜〜♪〜♭〜〜…」
「待てシーン、今のところ音程が低かったぞ。そこは♭じゃなくて♪だ。もう一回!」
「♪〜〜♪〜♯〜〜…」
「おい今度は音を上げすぎだ。きちんとした音がわからないなんてやっぱりシーンは青ハーピーだな(笑)」
「♯〜♭〜♯〜♯〜〜♯〜…」
「こらっ!変に怒りを歌にするな。まだシーンにそういうのは早い。凄く悲惨な事になっているぞ…」
「ん〜♯…わかりました…」
「まぁ(笑)は謝る。が、お前は残念だが俺の中ではまだ只の青ハーピーだ。もっと精進しろ」
「うぅ…頑張ります…」


「師匠はどうして歌をいろんな人達に歌っているのですか?」
「ん?ああ、おれには夢があってな」
「夢?」
「俺は自分の歌で世界中の人を幸せにしたいのさ。今はシーンの歌の訓練のためにこの町にとどまっているけれど、それこそ世界中を旅して、全ての人の表情を笑顔に変えたいのさ」
「へえ〜、すごいですね〜…あれ?もしかして私、師匠の夢の邪魔になっていませんか?」
「いーや、そんなことはないさ。確かにシーンが居るから旅は中断してるけど、音痴で悩んでいる青ハーピーを笑顔に変えるのも俺の夢の一部さ。それにな…」
「それに?」
「シーンのおかげでさっき話した夢は一部訂正が入ったのさ。世界中の『人』だけでなく『魔物』も含めた全ての『者』が、って感じにな!」
「それは良かったです!!私もその夢を持って歌います!!」
「夢を持つのはいいがそれに吊りあった実力を伴わないとな…まあ俺もあまり人のことは言えないか…」
「そんなことはありません!師匠は夢に似会った歌を持っています!師匠の歌を聞くと皆すごく幸せな気分に成れるのですから!」
「そっそうか//…なんか真っ直ぐに言われると照れるな。まあシーンも始めよりは少しずつ良くなっているから、その夢も夢のままで終わらなくなるかもな!これからも俺の訓練を頑張ってこなせよ!」
「はい!師匠!!」


「ハァ、ハァ、ししょ〜」
「…おい、発情期なら大人しく家にいろよ」
「ハァ、発情期だからといって訓練を休むつもりはありましぇん♪それに…ん♪鶏肉に成りたくないかりゃししょーを襲ったりしましぇんよ〜ハァハァ♪」
「とか言いつつジリジリよってくるな肩を掴むな服を脱がそうとするな!」
「だ、大丈夫れすよ〜。ん♪…この高鳴りを治める為にししょーの裸体を見てオ○ニーしゅるらけでしゅから〜♪それにししょーのアソコも大きくなって…アン♪」
「そんな恥ずかしい事を堂々と言うな!つーか人をオカズ扱いするならマジで鶏肉にするぞ!ていうか歌教えるのを今日で止めるぞ!!」
「!?!?!?…そ、それだけは止めて下さいお願いしますもうしませんからゴメンなさいー!!!!」
「おっおう!…わかってくれるならそれでいいからな。てか急に態度が戻ったな?」
「もう教えてあげないなんて言われたら発情期もどっか飛んで行きますよ!!」
「そ、そうか。てか鶏肉にされるのは良いのか!?」
「師匠が本気でそんな事するとは最初から思ってませんから」
「いや…まあそのやる気に免じてこれからも教えてやる。ただし次同じことやろうとしたらもう教えないからな!」
「ハイ!!気をつけます!…あっでも師匠から襲ってきた場合は…」
「…それは絶対にアリエナイから。もしそんな事になる時はお前が魅了魔法を使ったと考えてソッコー破門な」
「…わかりました。まあ私は魅了魔法使えないし、魅了出来る歌も歌えないのでそこは大丈夫だと思います…」
「…まぁそう落ち込むな。沢山の人を普通の意味で歌で魅了出来るようにもこうやって訓練してるだろ?」
「…それもそうですね!では早速始めましょう!」


…何か色々とあったけれど、確かに私の歌は日々良くなっていった。
師匠の方も、始めは魔物だけを相手に歌う事をせず、露骨に嫌な顔をして追い払っていたりしたが、私と関わっているうちに考えが変わったのか、魔物相手でもこれといって態度を変えなくなった。
そんな師匠の歌は相変わらず素晴らしく、歌を聞いた全ての人・魔物が幸せな顔をして、絶賛した。
それこそ、私以外の、歌が上手いセイレーンですら、だ。

(私もいつかは師匠に追いつくんだ!)

その思いで私は意外と厳しい師匠の訓練をこなしていった。その甲斐もあって、普通のセイレーンの子並には上達した。
…相変わらず師匠からは青ハーピーと呼ばれていたが。
それでも、師匠との訓練は楽しかった。
このままずっと私の歌が師匠並に成るまで、いや、なってからもずっとこうして一緒に過ごし、一緒に歌い、世界中の者を笑顔にしていきたかった。

しかし、一緒に歌う事は只の夢でしか無かった。あの事件のせいで、決して叶わない夢になってしまった…


====================


それは、ある寒い日のこと。
私は風邪を引いてしまい、師匠から
「風邪が治るまで訓練は中止だ」
と言われて、一週間も家で寝ていた。
やっと治ったので、絶好調に歌いながらいつも訓練していた場所に行ったのだが…

(あれ?師匠が居ない…)

まあ一週間も休んでいたし、私の風邪がいつ治るのかわからない訳だし居なくても当たり前かと思ってはいた。
なので私は、以前教えてもらった、師匠が借りている宿に向かって飛んだ。

いつもの場所からそう離れた場所ではないので、10分ほどで目的地に着いたのだが、何か様子がおかしかった。
師匠が宿にも居なかったので、宿の人に師匠の事を尋ねたところ、何故か渋り始めて詳しく教えてくれなかった。

(まさか、師匠の身に何か起きたんじゃ…!?)

そう考えていたら宿の扉が開き、いつもは着けていないスカーフを首に巻いた師匠が入ってきた。

「あっ師匠!お久し振りです!風邪治りました!」
「……」

私が元気良く挨拶すると、何故か師匠は何も言わずに渋い顔をした。

「?、師匠どうかしましたか…………!?」
「……」

それからキッっと目付きを鋭くして…護身用の物だろうか…手にナイフを私に向けて握りしめていた。

「師匠これは…一体どういう事ですか!?」
「……」

師匠はまだ黙ったままだ。
何故何も言ってくれないのだろう…私は何か悪い事でもしたのだろうか?
そういえば何で師匠スカーフなんて着けてるんだろう?お洒落とかする人でも無いのに…!?

(…まさか!?いや、でも!?)
嫌な予感がした。
それを確かめるため、私はナイフを手にしている師匠の腕を抑え(師匠はもちろん抵抗したが、魔物である私の力には勝てなかった)、巻いてあるスカーフを外した。

「!!!…師匠…これって!?」
「…ッ!」

嫌な予感が当たってしまった。
スカーフの下…首に、刃物が着けた様な1本の線が引かれていた。
つまり、師匠は何も言ってくれなかったのではなく…

「まさか…声が出せなくなったのですか!?」
「……」

師匠は表情を変えずに少しだけ顔を…縦に振った。
そして、背負っていた鞄からおもむろに紙とペンを取り出して、簡単に説明してくれた。


私が風邪を引いて家で大人しくしていた頃、この親魔物領の町に勇者が単身で攻めてきたらしい。
勇者といっても対した実力ではなく、この町に長期滞在していた者一名に不意討ちで怪我を負わせただけですぐに捕まえる事が出来たそうだ。
だが、その不意討ちをくらった者は喉をヤられたしまった。
出来る限りの治療は行われたが、結局その者は喋る事が出来なくなってしまった。
普通に生活する分には問題は余り無い。筆談ではあるが他人とコミュニケーションは一応取れる訳だし。
だがその者は歌う事を第一としていた…世界中に歌を届け、幸せにする事を夢としていた…その歌を奪われてしまった。
その者…師匠は自分の命とも言える歌を奪われてしまった…!


簡単な説明をしてくれていた間、私は何も言えなかった。
師匠は…まだ何か言いたいのか紙に書いて…私に見せてきた。

【俺は歌を歌えなくなってしまった】
【俺の全てとも言える歌を失った】
【お前の様な魔物に関わったせいでだ】
【魔物と関わらなければ俺は切られずに済んだ】
【お前の、お前達魔物のせいだ】
【もう二度と俺の前に現れるな!】
【今すぐ俺の前から消えろ!】
【消えないのなら今ここでお前を切る!!】

一通り紙を見せた後、師匠はまた私にナイフを向けてきた。
その表情は絶望と怒りに満ちて…
いや、怒りと言うよりは苦しみや悲しみ、そして寂しさが混ざった様な表情をしていた。
その表情を見て、私はある想いを抱き、決心をした。

「師匠…その文章は…言葉は…本心では無いですね」
「!!」

私は師匠に向かって歩きだした…師匠は来るなと言いたそうだ。

「前に言った筈です…師匠が本気でそんな事するとは最初から思ってませんから、と」
「……」

近づいてくる私にナイフを突き立ててきたが…私は力任せにそれを弾き飛ばした。

「…!!」
「師匠…私は…」
「!!!」

そして、師匠の肩を掴み、真っ直ぐ師匠の茶色の瞳を見ながら、私は言った。

「私が…師匠の歌になります!」
「…!」
「ですから!師匠の歌に対する想いを、夢を、希望を、全てを私に教えて下さい!!」
「……」
「勝手な事を言っているのはわかっています!…でも、私は師匠の、ミングさんの歌をここで終わらせたくない!」
「……」
「だから!!私がミングさんの声になり、夢になり、歌になります!!これからも私に歌を教えて下さい!!」
「……」

私の言葉を聞いた後、しばらくの間師匠は一切動かなかったが、やがて紙に何かを書き始めて…

【その言葉にウソや迷いは無いか?】
私はコクンとうなずいた。

【厳しくても、辛くても、決して逃げ出さないか?決して諦めないか?】
またうなずいた。

【俺の言うとおりに出来るか?】
拒絶的な、私の事を一切考えていない事以外は、と言ってうなずいた。

【なら、教えてやる!俺の歌の全てをシーンに!】
【俺の、俺たちの夢を、シーンが叶えられるようにしてやる!】

そう書いた紙を私に見せた後、私と同じように肩を掴み、真っ直ぐ私の瞳を見てきた。
その表情は先程の複雑なものではなく、どこか情熱的なものであった。

「はい!これからもよろしくお願いします、師匠!!」

こうして、私たちの歌の訓練は再k…
【その前に…その、なんだ…】
「?」
【えっと…さっきは殺すとか言ってごめん】
「ああ、その事なら大丈夫です。どうせ本心では無かったのですよね?」
「……」

師匠が顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。その行動が可愛く思ったのは秘密だ。


====================


歌の訓練は、前とは比べ物にならない程厳しかった。だけども、私の歌も比べ物にならない程上達していった。
それこそ、師匠の歌と比べても謙遜無いほどに。

「♪ーーー♪ーー♪ー〜〜…いたっ!なんですか師匠!」
【今の歌に気持ちが籠っていなかった。そんなもので聞いてくれた人を幸せに出来るか!】
「た、確かに気持ちの入れようが甘かったです…慣れで疎かになっていたんですね…」
【わかればいい。もう一度今度は気をつけながら最初から歌え。】
「♪ーーー♪ー♪ー〜〜…いたっ!今度は何ですか師匠!」
【少しテンポが速すぎだ。慌てて歌ってどうする。落ち着いてからもう一回だ。】
「了解です、師匠!」


「師匠…これは何ですか?」
【何って、応募しようとしてた今度の歌唱大会のチラシだが?】
「えっ?私が出るのですか?」
【こうして筆談してる俺が出ると思うか?】
「そ、それじゃあ…師匠は私の歌唱力を認めて…!」
【いや、まだだ。この大会で優勝できたらシーンを青ハーピーではなくセイレーンだって認めてやるよ!】
「本当ですか!?……よし!頑張るぞ!!」


「やりました師匠!大会で優勝しました!!」
【ああ、もちろん見ていたから知っているさ!】
「はい!もうすっごく嬉しくてにやけ顔が止まりません!!」
【だが!今日の事で慢心するなよ。もっと上を目指すのだからな!】
「はい!了解です師匠!!」
【まあ、そうは言っても今日一日ぐらいは素直に喜んでも良いぞ。】
「はーい!やった〜私優勝できたんだ〜師匠ありがと〜!!!!」
【あんまりはしゃぎ過ぎで喉壊すなよ。と言ってもシーンはセイレーンだから大丈夫だとは思うがな。】
「!?…今、師匠は私の事を……セイレーンって…!!」
【言っただろ?この大会で優勝したらシーンをセイレーンだって認めてやるって!】
「あ…は、ひゃい!…ひっ…ひっく…わあぁぁぁ〜〜〜ん!!」
「!!」【おい、いきなり泣くなよ!】
「ぐすっ…だって、歌が下手でセイレーンぽくなくって…ひくっ…青ハーピーって言われ続けて…や、やっと、認められるほどに歌えるようになったと思って…う、うれしくってぇぅわぁぁぁぁ〜〜〜〜ん!!」
「……」【そうか。】
「わあぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜…………」


「♪〜〜♪〜♪♪〜〜………どうでしたか、師匠!」
【おう!すごかったぞ!これなら他の人間はもちろん、他のセイレーンにも負けないさ!】
「っ! 師匠にそう言ってもらえて嬉しいです!!」
【そうか…後はコンディションをきちんと調整して、世界規模の大会で優勝するだけだ!】
「はい!…この大会で優勝できれば師匠の、いえ私たちの夢に大きく近づきますね!」
【ああ…ここまで長いようで短かったな。】
「そうですね…」

あの師匠の声が出なくなってしまってからは7年、私はようやくこのレベルまでたどり着いたのだ。
当時の師匠の歌よりも上手くなったとは思う…が、あくまでそれは当時の話。今でも師匠が歌えていたなら全くかなわないだろう…
いや、もしもの話をしてまで師匠と比較する必要はない。私は私が出せる最高の歌で、今度の世界規模の大会に出場するのだ。
今までも色んな大会に出場したくさん優勝してきたが、今度は規模がまるで違うのだ。
でも、この大会で優勝出来れば、会場の人たち全員を幸せにできれば、私達の夢に大きく近づくのだ。
あの夢のために、この大会で私達は優勝を目指す。そのための訓練を一切怠ってはいない。
それに…優勝出来たら、私はある想いを師匠…いや、ミングさんに伝えるつもりだ。
そのために、私は全力で頑張った…


そして…………………





『今大会、栄えある優勝者、すなわち世界一の歌手は……………エントリーナンバー320番、セイレーンのシーンさんです!!』
わああぁぁぁぁぁ………パチパチパチパチパチ………

「えっ!?うそっ!?……やった〜〜〜〜〜!!!!」

私は、見事に優勝する事が出来た!うれしいっ♪

『では優勝者のシーンさん!今の気持などを含めて何かコメントを!』

「この大会で優勝する事が出来て嬉しいです!!これで一歩夢に近づけます!」
『夢、ですか?』
「はい、私には、いえ、私達には夢があります。
 私は昔、セイレーンであるにもかかわらず歌が下手でした。
 その私を、このように世界に通用するまでに歌の指導をしてくれた師匠が居ます。
 その師匠の夢が、『自分の歌で、世界中の全ての者を笑顔に、そして幸せにしたい』というものでした。
 しかし師匠の歌は、理不尽な事故で突然失われました。
 けれど、私が師匠の歌を、夢を、そして全てを教わり、こうしてこの世界規模の大会に優勝しました。
 だからこれから、師匠の、そして自分の夢を叶えるために、私は、私達は世界中を旅して歌っていきたいと思います!
 世界一の歌手としてではなく、二人のウタウタイとして!!」

『…それは素晴らしい夢ですね!ぜひ頑張って下さい!では会場の皆さん!世界一の歌手…いいえ、笑顔を運ぶウタウタイ、シーンさんにもういちど盛大な拍手を!!』
わああぁぁぁぁぁ…
パチパチパチパチパチ……





その夜、私は師匠と二人で話していた。
「師匠!今までありがとうございます!!」
【おつかれ!そして優勝おめでとう!】
【大会の最後で言っていた事だけど、本当に俺も付いていっていいんだな?】
「あたりまえじゃないですか!これは師匠の夢でもあるのですよ!?むしろいて下さい!」
【だが、俺がシーンに教えることはもう何もないぞ?】
「いいえ、まだあります」

そして私は師匠に…

「師匠、いや、ミングさん…好きです!私に恋を、愛を教えて下さい!私といつまでも、夫婦として一緒にいて下さい!!」

…ミングさんに、自分の気持ちを伝えた。
ミングさんは驚いた顔をして…何かを書いて私に見せてきた…!

【俺もシーンが好きだ!俺と結婚してくれ!】

その時のミングさんの笑顔は一生忘れられません。
答えを聞いた瞬間、その笑顔を見た瞬間……ミングさんをつい押し倒してしまいました。
昔と違って、素直に受け入れてもらえました。


====================


それから、私達は世界中を旅して歌っていった。
親魔物領を中心に、時には反魔物領で歌ったりもした。
時には襲われる事もあったが、その時はミングさんが守ってくれた。
時には私達に怯える人達もいたが、私達の歌を聞いて笑顔になってくれた。

「次はどこに行きますか?」
【次はここから東の村に行ってみようか。】

今日も私達二人のウタウタイは気ままに旅をしている…

「つぎのむらの人たちもおかーさんのウタでしあわせになれたらいいね!」
「そうね」
【そうだな】

…いや、二人じゃない。
私達の愛の結晶であるこの子を含めて三人のウタウタイがだ。

世界中の者を笑顔に、幸せにするために、私達はいつまでも世界中で歌い続けていく…
ウタウタイ達が歌うウタを…


・・・・・END?







俺は、小さい頃から歌が大好きだった。歌えば元気になるし、聞いているだけでも幸せな気分になった。
だから、俺は大人になったら自分の歌で世界中の人達を笑顔にしようと思った。
幸いにも、俺の歌は上手な部類にあったから、簡単に出来ると思っていた。
だが実際は、俺の歌は全く相手にされなかった。
俺の歌は只の雑音でしか無かった。
俺の故郷は貧しい村だったので、皆の心に俺の歌を聞く余裕が無かったのだ。
これでは駄目だと思い大きな街へ行き歌った。が、結局は同じであった。
俺の夢は叶わない。だけど諦めきれなかった。
最後の手段として、魔物は恐いが、俺は親魔物領に行く事にした。
比較的豊かな場所が多いと聞いていたから俺の歌を聞く余裕がある人も居るかもしれない。人と一緒にいる魔物なら少しは安全かもしれない。それに駄目だったら、もう野生の凶悪な魔物に食べられてもいいや。そう思い、俺は親魔物領に行った。
結果、親魔物領の人は俺の歌で笑顔になった。ついでに人と一緒にいた危険性は無さそうな魔物も。
嬉しかった。俺の夢はまだ叶える事が出来るのだ。
今は親魔物領を中心に、いつかは世界中を俺の歌で人を笑顔にしよう。
その想いを胸に旅をしていた時、突然目の前にセイレーンが現れた。
そのセイレーンは俺に歌を教えて欲しいと言った。もちろん俺は断った。
セイレーンの事は知っていたので、馬鹿にされてると思ったのだ。それと、少し怖かったのだ。
だがそのセイレーンは…本当に歌が下手だった。何回目か来た時に聞いた歌ではとてもセイレーンとは思えなかった。
そう素直に伝えたら、そのセイレーンは泣き出してしまった。
急に泣き出したので慌てた俺は咄嗟に歌を教えてやると言ってしまった。
言ってしまった以上はやらないと男じゃ無いと思い、そのセイレーン…シーンの歌の訓練を始めた。
危険性もなさそうだし…まあシーンの泣き顔にどきっときたし…厳しくすればあっちから離れてくれるかもと考えて敢えて厳しく指導した。
だが厳しくしてもちゃんとそれをこなし、俺の思った以上にシーンの歌は上達していった。
自分がシーンを育てていると思うととても楽しかった。
それと同時に、俺の中での魔物の評価が変わった。
親魔物領に来てから魔物が人を喰らう事は無いとわかっていたが、それでも人を堕落させる悪い存在として見ていた。
だが目の前にいる魔物は、ちょっと人と違うパーツが付いているだけの、俺を慕ってくれてる素直な少女だった。
偏見無しで俺の歌を聞いてる他の魔物を見ても、それは同じだった。
いつの間にかシーン達魔物を人と区別しないようになった。それと同時に俺の夢はより広いものにかわった。
そして、本人には言わないが、いつか可愛い弟子であるシーンとともに世界中を歌いながら旅したいと思った。

…でも、それは出来なくなった。
風邪引いたシーンが無理してくるといけないと考え、いつもの場所に行って少し待機していたら後ろから人が来る気配がした。
やっぱりシーンが来たかと思い振り向いたが、違った。剣を掲げた男だった。
咄嗟の事で訳が分からなかった。気がついたら、俺の喉は切られていた。
声が、歌が出なくなってしまった。俺の夢は、完全に潰れてしまった。
自分の夢が潰れてしまった事にはもちろん強いショックを受けたが、しかしそれ以上に悩んだのがシーンの事だった。
シーンは歌えなくなった俺を見てどう思うのか…ショックを受け、絶望するのではないか。
そうならないように、俺はシーンに会わないうちにここから去ろうと思ったが、一歩遅かった。
気づかれないようにナイフを使って脅してみたが、気づかれてしまった。
ならばいっそ俺の事を諦めてもらえるようきつい言葉を突き付けたが、彼女は寄ってきた。
そして、その藍色の瞳を真っ直ぐ此方に向けて、俺の声になり、夢になり、歌になると言ってくれた。
とても嬉しかった。それと同時に、俺をこんなにも慕ってくれる彼女と決して別れたくないとも思った。

それから俺は、自分が出来る最大限の事をしてシーンの歌の訓練をしていった。
彼女にセイレーンだって言ってあげた時に、彼女は嬉しさのあまり泣き出した。
その顔を見て『もっと早くセイレーンだって言えば良かったな』という後悔とともに、俺の中の彼女の立場がいつのまにか変わっていたのを自覚した。
俺の中で彼女は可愛い弟子から、好きな人へと変わっていた。

あれから7年、彼女の歌はもうとっくに俺を超えていた。今度は世界規模の大会に出場する。
俺は世界規模の大会が終わったら、結果はどうであれ彼女に告白しようと決めた。
そして、彼女は見事に優勝した。俺は自分の弟子が、自分の好きな人が優勝、つまり世界に認められて、感動のあまり泣いてしまった。
その夜、彼女から話があると言われた。この機に彼女に告白しようと決心した。
が、出来なかった。今までの感謝とともに彼女に先に告白されてしまった。
両想いでありとても嬉しかったが、男としてなんか悔しかった。
返事をしたらそのまま押し倒されてしまったが、嫌じゃなかったのでそのままシてしまった。

今はシーンと、俺達の娘と3人のウタウタイで旅をしている。今の俺達は幸せに毎日を過ごしている。

そして俺達の夢、世界中に笑顔と幸せを届けるために歌い続けていく…
ウタウタイ達が歌うウタを…


・・・・・END
11/12/26 08:38更新 / マイクロミー

■作者メッセージ
どうもはじめまして!マイクロミーというものです。
皆さんの素晴らしいSSを読んで、自分も書いてみたいと思い書いてみました!
初めて書いたのでおかしな所がたくさんあると思います。
なので誤字・脱字・これはおかしいだろ?って所はぜひ教えてください!

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