暗がりの愛人
ふらふら覚束ぬ足取りで以て傾斜緩やかな、けれどもひどく長い山路を歩き歩き。ようよう辿り着いたと思いて踏み込んだ矢先。我が親愛なる一対の盟友は、当方これにて役目を終えまして候。とも言わんばかり、爪先に掛けた逞しい根を枕にまどろみ始めた。
なれば残された上体など支え無くし、眼前の大地と熱く抱擁交わすのみ。
「嗚呼。日輪が絶頂の座に在ると申すのに、暖かな陽光を遮るとは罪深い。どうして足下は、こんなに冷たいでは無いか。」
など発したとて、一面広がる蒼ざめた木々が応える道理は在りもせず。されど若草に肢体抱かれたままともいかぬ。ならばと眠り深い両の足を再び立たせ、目前で口を開けた暗闇へ踏み入る。
──先程より余り在る醜態晒してまでの登山と洒落込む上は、相応に理由が在るもの。果たしてそれは先日、獣を捕ろうと弓片手に分け入った折。
牡鹿を追い、帰路も省みぬまま駆けた挙句道に迷い。行く手知れず途方に暮れていた処を雨降られ。矢先、苔むして湿った真暗い洞を視野に捉え、これ幸いと雨止みを待つ事とした。
しかし、降り出した雨は中々止まぬ。暇持て余し、洞の観察を始めた。すると獣が身を擦ったかの様に、不自然に岩肌晒す処が在る。
好奇心に唆され攫った指先に、真っ黒い幾本の糸を手繰った。獣の毛かと考えたがしかし、色艶およそ人の頭髪の様。ジッと見る内、その髪の美しさに心奪われた。己の二十余年の生涯に於いて、これ程美しいと思えた物など在りはしなかった。
──瞬間。背後に沈む暗闇から凄まじく異様なる気配感じ、余りの恐怖にたちまちに駆け跳ねた。遭難降雨に諸々一切を思考より追いやり、無心で下へ下へ逃げ駆ける。
腐熟した土壌に幾度も足掬われ、転けて落ちて泥塗れ草塗れと散々な目にこそ遭うたが、山を抜ける事こそ叶った。
しかしそれからと云うもの、あの髪の事ばかり思い浮かぶ。
──墨を何度も丹念に塗り込み積層させ、
しかし尚も透ける様に美しい漆黒──
──いやいや、そも髪は、何故に在ったのか、
如何なる訳が在るのか──
寝ても覚めてもこればかり。ただ、思考様々在れど終着点はひとつ。
髪の主は、きっと美しい女に違いないと。
さて閑話休題、舞台は現在に還る。
要するに、美しい髪の主を暴かんとする男故の”サガ”。そして僅か残る理性の訝しむ心を以て件の山窟を目指し来た訳で在る。
とはいえ洞の何と広く深い。縦横に幅広のうねった岩壁は濡れた鴉の様で、視える筈の光景は黒の虚像へ換算される。
そんな処において、尚淀み無く前へ進める所以は、右手に提げた木切れに実る灯火の働き故。即ちこれ失くさば周囲一切黒に満ち足る。
従って、あたかも己が命の如くに庇い進むは、誠に仕方無き事で在った。最も、その姿は酷く滑稽に映る事だろう。現に頭上よりこちらを見つめる少女は、笑声堪えるのに必死で在った。
山窟で少女逆さ吊りとは異常極まる。しかし彼女の髪にのみ、目を奪われた。それが何時かこの手に攫った物と同じ、洞より尚暗い髪で在ったが故だ。
「くふ、ふふ......。」
岩の天蓋に吊られた娘は、陰性的顏を逆様にし、静かに笑って居る。
長い睫毛を額に飾った黒水晶の如き瞳が、僅かに幼げな顔立ちに似合わぬ熱を帯びた視線を射掛ける。
黒髪に混じり、伸ばす触角蠢くは人に在らざる証左か。しかし眼前の少女が如何な物の怪で在ろうが、最早些末な事で在る。
「どうか、モット間近で拝ませて下さいませ、この身を捧げる殿方の御顔を、しかと見たいので御座います。」
少女は緩やかに灯の許へ。あらわとなる青味を帯びた白き肌は、彩る毒腺の黒きを以て一層の蠱惑を孕む。
濃紺の羽織を纏っては居る。最も、逆様の姿勢故にだらしなく肩を支点に垂れ下がる有様で、本来の役目一切を果たす事は無い。
つまりは互いに見つめ合う視線を違え少々上を見らば、真白に煌めく雪原が如き華奢な身体に二つ在る麗しの丘を捉える。しかしなだらかな曲線の頂は一対の歩肢と思しきに覆われ見えぬ。それはむしろ益々の熱情を誘引する焦らしで在ろうか。
──更に視点を上へ。少女の身体に僅か浮かび見える肋骨の段を舐める様に堪能し、次いで腹部は微か光浴びて明暗をもたらし、身体の少女的華奢さをより際立たせる。特段、鼠径に軌跡を描く陰りの艶やかさは堪らぬもので在った。
「わたくしの身体を御覧になって、興奮して居られるのですね。貴方様の高鳴りがつぶさに、触角へ響いて参ります。サァ......わたくしに御身を委ねて下さいませ。共に、夫婦となりましょう。」
それは余す程の淫猥に、爛れんばかりの淫楽に満ちた生活となるだろう。断る理由など端から無い。しかし一つ、タッタ一つだけ、明らかにせねばならぬ事が在る。
「其方も、良いのだな。」
「──ええ、勿論で御座います。わたくしは百足の女故、眼は余り頼りとならぬのですが、そもわたくしは人外化生の魔たる身にて、つがいとなる殿方は、視ずとも感じるので御座います。それ故に、先日貴方様がこの洞に参られた折に直感致しました。貴方様こそがわたくしの運命の御人と。......ですのに、御声掛けしようとした途端、貴方様はすぐ何処かへ御行きになってしまわれて。」
いや、いや。在れは──と言いかけて、留まる。いじらしき娘を前に、よもや恐怖に駆られ逃げたなどと云える筈も無い。
「過ぎた事ですので、追求は致しません。いえ、本当は今日にでも、貴方様を探しに御山を降りる積もりで御座いました。ですが、貴方様自ら御越し下さった喜び故、此処にて待って居りました。」
その顔は務めて平常を保つ様で在ったが、天井より支える蟲の肢体は小刻みに悶え、歩肢わななかせ、当時の歓喜を再現して居る。
「ならば、そうか。」
少女の頬へ不意に口付を見舞った途端。ひゃいッっと頓狂な声を上げ、顔は蕩け切り脱力を極むる。面白き故眺めて居ると、脱力徐々に身体を蝕み、下半身の胴節へと伝播して行くのが見て取れる。
──もし地に立って居たならば、へたり込む程度で済んだで在ろうに
。少女は逆様の地に立って居るのだ。
「ちきゃら......ぬへて......、ぃひゃあぁッ──！！」
ともすれば天に、否。地に堕ちるが必然か。
木切れの灯り惜しまず投げ捨て、両の手で以て身体受け止めるがしかし、彼女は大百足。その下半身までも受け止め切れる筈無く。灯失せ、真暗となった洞に響きが連なる。
「悪戯が過ぎた、すまぬ。大事ないか。」
「はい......貴方様に受け止めて頂けましたから、何とも御座いません。」
暖かな肉体との密着に悶える心中の獣を理性で殺し、早急に繕った冷静さで問う。
「しかし、其方の脚や何やらは......。」
云い終るより早く、「心配なさらずとも、わたくしの胴は堅牢に御座いますよ。」少女の声が後の先を取り、諸手に抱く女体のそれと異なる感触が、互いの身体に巻き付く官能を味わう。
人と相異無い柔肌の受け身とは事変わり、愛しき人への独占欲を隠さぬ胴節の力強さは、正しく秘めたる獣性の表れで在ろう。
「処で、御気付きですか......？貴方様の手が、わたくしの胸に触れて居られる事。」
慌てて、済まぬと云い。先程より少女の控えめな膨らみを捉えて居た左手を引こうとした途端、イヤ逃すまいと手背を覆う彼女の両手。
少女は黙して語らない。灯り無く真暗故に、その表情も伺えぬ。
しかし、手より脚より伝わる熱が全てを伝える。
──どうか、そのまま続けて......。
若さ満ちた肉体は未達の青き果実。刻まれる快楽に悦び、色付かぬままに熟れ行く少女。瑞々しき柔肌に触れる度、鼓動は歓喜の高鳴りを上げ、その身を快楽に満たし行く。鼻腔をくすぐる芳香も、甘く湿った熱を帯びて蕩ける様。欲求堪えず絡み付く胴肢の数多も、刺激を受ける度に段々と妖艶な抱擁へ変わり始める。
周囲を満たす暗闇が感触を鮮明に際立たせるも、先程口付けをした時の様な蕩け顔を見れぬのが至極残念で在る。
「はぁっ......貴方......様っ、ぁっんッ......」
未だ、少女の秘所や双丘の頂点には触れずに居る。
快楽の昇華に伴い、主張を増す鋭端を育む様に外周をなぞり、時に五指全てで軽く引張り、刺激を与える。
儚げな上体の脆さと連なる厳しき殻は、汗ばむ肉体と異なり冷ややかなれど、矢張り少女の延長で在る事を示すが如くにわななく。
胴の節目へ指沿わせ、押し込む様に力込めらば、肉の身体にも反応表れて可愛らしい。
「ひぅ......っ、ん、はっ......ぁ......」
重ねられた少女の手は、刺激を受ける度に応える。
身体だらしなく蕩け切っても尚、決して離さぬのは、未知なる快楽への恐怖と期待入り交じった色が魅せる応答で在ろう。
「貴......方、様？......どう、され──ぁっ、ぁん"ぅうっ、っッ──」
一瞬離れた手に動揺するも束の間、愛撫によって快楽を高めた両端を摘まれ、一段と大きな声を上げる。刺激に悶え身を反らすも、細やかな身体に余り在る快楽は口より漏れ出て洞に響く。
「んあっ......、ッひぁん......うぁ、あ、ん"ぅ......」
母指と示指の腹で以て、絞める様に強めて行く。たちまちに度重なる快楽の波涛が堰を切り、強烈な感覚が少女を襲う。
「ん"、んぅあぁっっッあ"あ"ぁっ──」
絶頂の炎に芯から焼かれ、激しく痙攣する少女の身体は、消え入りそうな声で尚も喘ぎ、残り火の余韻に浸る様など悩ましい。
「は......ぁっ......、だぃふ......いえ、大分落ち着いて、参りました。
耽美な吐息に温もりを併せ、送り出された声は、耳に甘く絡みつく様。未だ男を刻まれぬ身体とは思えぬ程に心くすぐる調子で在る。
「もう......ずっと、切なくて仕方が無いので御座います。」
互いに向き合うた後、少女が自らの手を重ね先導する。行先は、濡れそぼった自身の女陰。果肉は蜜に溢れ、愛する者の到達を待ち望む様に奥底から悦びの涙を流し続けて居る。
「貴方様......どうか一思いに、挿入て下さいませ。」
抱き合うたままの体勢で以て、剛直を肉の渦へと沈め行く。穂先は狭き膣口と繋がり、少女の生と同じ時を重ねた膜を裂き、うねる肉の歓待を受けながら秘奥への戸を叩く。突き入れた槍は、しかし根元まで収まらず、半ば過ぎで留まる。
「い"ぃあ"ぐぅッ......貴方様ぁ......、」
鋭痛に鳴き震える身体を抱いて居ると、少女は両の手を伸ばし、頬を捉えて来た。反応する間も無く、唇同士が触れ合う感触。頬に置かれた手は後頭へ伸びて居る。
乳飲み子の様に吸われる度、漏れ出る声も甘美に変わり行く。
「んく、ぅ、ぁあ"、あ"っッ、ん"ん"ッぐぅ......あ"ぁッ──ッ」
如何な理由か解らぬが、破瓜の痛みさえ忘れる程の快楽に溺れたならば是非も無い。先程より動かさず居た腰を浮かせ、きつく締まる膣の奥底を目掛け突き込む。少女が喉を鳴らす度に蜜も量を増し、更に絡み付く。
「ぅッあ"ぁんん"......ひぃぁ、ぐっ、ぅッうぁ、あ"ぁっ」
腰の動きを早めるにつれ、体勢も徐々に変化し、遂には覆い被さる様なカタチで腰を深く打ち据える。膣壁をえぐる様にねじ込むと、痛い程に狭い膣肉と愛液が絡み、えも言えぬ快楽をもたらす。
処女で在ったと云うのに、乱暴なまでの性行に苦悶の声を上げる事無く、むしろ心から悦びの嬌声を響かせる。
「ふぁあ"ッ、んぅ......ッ、あ"ッあ"あ"ぁッ......」
快楽に蕩け行くにつれ、根元までも挿入る様になった。獣欲をさらけ出し、本能のまま貪り合う姿は、夫婦と云うより"つがい"と呼ぶに相応しいで在ろう。
抽挿を繰り返し、彼女の奥底たる苗床に種を撒く用意が整った。しかし、獣に在らざる知性持つ以上、聞くべき事柄が在るものだ。
「......良いか」
「っぁ、もひ、ろんでぇッ......ございます......、貴方っ、サマのぉっ......、御情けぇっ、を......くら、さいませ......」
真暗で見えぬのに、少女の微笑む顔が眩しく思えた。
身体が淫らに変わり行くとしても、その心は変わらぬまま。ならば、変わらぬ愛に応えねばなるまい。
今一度口付けを交わし、絡み合う舌同士の熱を互いの性器の交合と重ねる。彼女が又唾液を飲み込んだ瞬間に、最奥にて果てよう。
「んちゅ......、ふ、ぁ......、ぁ、んくっッ──ぁあ"ぁっんっぅあ"あ"ぁぁっッ......」
膣が激しく収縮し、絞り上げる様にうねる。
隙間なく埋められた膣内に吐き出された煩悩は、少女の甘き蜜と混ざり泡立つ。
今日は二人繋がったままに過ごそうと、小さな身体を腕の中へと寄せる。脱力し切った様で、元より軽い身体が更に頼りないものとなって居る。胴節を枕に、少女を抱いて横になる。
膝枕ならぬ胴枕も、中々にオツで在る。
「貴方様、御慕い申しあげます。」
洞の真黒も、暖かにさえ思えた。
なれば残された上体など支え無くし、眼前の大地と熱く抱擁交わすのみ。
「嗚呼。日輪が絶頂の座に在ると申すのに、暖かな陽光を遮るとは罪深い。どうして足下は、こんなに冷たいでは無いか。」
など発したとて、一面広がる蒼ざめた木々が応える道理は在りもせず。されど若草に肢体抱かれたままともいかぬ。ならばと眠り深い両の足を再び立たせ、目前で口を開けた暗闇へ踏み入る。
──先程より余り在る醜態晒してまでの登山と洒落込む上は、相応に理由が在るもの。果たしてそれは先日、獣を捕ろうと弓片手に分け入った折。
牡鹿を追い、帰路も省みぬまま駆けた挙句道に迷い。行く手知れず途方に暮れていた処を雨降られ。矢先、苔むして湿った真暗い洞を視野に捉え、これ幸いと雨止みを待つ事とした。
しかし、降り出した雨は中々止まぬ。暇持て余し、洞の観察を始めた。すると獣が身を擦ったかの様に、不自然に岩肌晒す処が在る。
好奇心に唆され攫った指先に、真っ黒い幾本の糸を手繰った。獣の毛かと考えたがしかし、色艶およそ人の頭髪の様。ジッと見る内、その髪の美しさに心奪われた。己の二十余年の生涯に於いて、これ程美しいと思えた物など在りはしなかった。
──瞬間。背後に沈む暗闇から凄まじく異様なる気配感じ、余りの恐怖にたちまちに駆け跳ねた。遭難降雨に諸々一切を思考より追いやり、無心で下へ下へ逃げ駆ける。
腐熟した土壌に幾度も足掬われ、転けて落ちて泥塗れ草塗れと散々な目にこそ遭うたが、山を抜ける事こそ叶った。
しかしそれからと云うもの、あの髪の事ばかり思い浮かぶ。
──墨を何度も丹念に塗り込み積層させ、
しかし尚も透ける様に美しい漆黒──
──いやいや、そも髪は、何故に在ったのか、
如何なる訳が在るのか──
寝ても覚めてもこればかり。ただ、思考様々在れど終着点はひとつ。
髪の主は、きっと美しい女に違いないと。
さて閑話休題、舞台は現在に還る。
要するに、美しい髪の主を暴かんとする男故の”サガ”。そして僅か残る理性の訝しむ心を以て件の山窟を目指し来た訳で在る。
とはいえ洞の何と広く深い。縦横に幅広のうねった岩壁は濡れた鴉の様で、視える筈の光景は黒の虚像へ換算される。
そんな処において、尚淀み無く前へ進める所以は、右手に提げた木切れに実る灯火の働き故。即ちこれ失くさば周囲一切黒に満ち足る。
従って、あたかも己が命の如くに庇い進むは、誠に仕方無き事で在った。最も、その姿は酷く滑稽に映る事だろう。現に頭上よりこちらを見つめる少女は、笑声堪えるのに必死で在った。
山窟で少女逆さ吊りとは異常極まる。しかし彼女の髪にのみ、目を奪われた。それが何時かこの手に攫った物と同じ、洞より尚暗い髪で在ったが故だ。
「くふ、ふふ......。」
岩の天蓋に吊られた娘は、陰性的顏を逆様にし、静かに笑って居る。
長い睫毛を額に飾った黒水晶の如き瞳が、僅かに幼げな顔立ちに似合わぬ熱を帯びた視線を射掛ける。
黒髪に混じり、伸ばす触角蠢くは人に在らざる証左か。しかし眼前の少女が如何な物の怪で在ろうが、最早些末な事で在る。
「どうか、モット間近で拝ませて下さいませ、この身を捧げる殿方の御顔を、しかと見たいので御座います。」
少女は緩やかに灯の許へ。あらわとなる青味を帯びた白き肌は、彩る毒腺の黒きを以て一層の蠱惑を孕む。
濃紺の羽織を纏っては居る。最も、逆様の姿勢故にだらしなく肩を支点に垂れ下がる有様で、本来の役目一切を果たす事は無い。
つまりは互いに見つめ合う視線を違え少々上を見らば、真白に煌めく雪原が如き華奢な身体に二つ在る麗しの丘を捉える。しかしなだらかな曲線の頂は一対の歩肢と思しきに覆われ見えぬ。それはむしろ益々の熱情を誘引する焦らしで在ろうか。
──更に視点を上へ。少女の身体に僅か浮かび見える肋骨の段を舐める様に堪能し、次いで腹部は微か光浴びて明暗をもたらし、身体の少女的華奢さをより際立たせる。特段、鼠径に軌跡を描く陰りの艶やかさは堪らぬもので在った。
「わたくしの身体を御覧になって、興奮して居られるのですね。貴方様の高鳴りがつぶさに、触角へ響いて参ります。サァ......わたくしに御身を委ねて下さいませ。共に、夫婦となりましょう。」
それは余す程の淫猥に、爛れんばかりの淫楽に満ちた生活となるだろう。断る理由など端から無い。しかし一つ、タッタ一つだけ、明らかにせねばならぬ事が在る。
「其方も、良いのだな。」
「──ええ、勿論で御座います。わたくしは百足の女故、眼は余り頼りとならぬのですが、そもわたくしは人外化生の魔たる身にて、つがいとなる殿方は、視ずとも感じるので御座います。それ故に、先日貴方様がこの洞に参られた折に直感致しました。貴方様こそがわたくしの運命の御人と。......ですのに、御声掛けしようとした途端、貴方様はすぐ何処かへ御行きになってしまわれて。」
いや、いや。在れは──と言いかけて、留まる。いじらしき娘を前に、よもや恐怖に駆られ逃げたなどと云える筈も無い。
「過ぎた事ですので、追求は致しません。いえ、本当は今日にでも、貴方様を探しに御山を降りる積もりで御座いました。ですが、貴方様自ら御越し下さった喜び故、此処にて待って居りました。」
その顔は務めて平常を保つ様で在ったが、天井より支える蟲の肢体は小刻みに悶え、歩肢わななかせ、当時の歓喜を再現して居る。
「ならば、そうか。」
少女の頬へ不意に口付を見舞った途端。ひゃいッっと頓狂な声を上げ、顔は蕩け切り脱力を極むる。面白き故眺めて居ると、脱力徐々に身体を蝕み、下半身の胴節へと伝播して行くのが見て取れる。
──もし地に立って居たならば、へたり込む程度で済んだで在ろうに
。少女は逆様の地に立って居るのだ。
「ちきゃら......ぬへて......、ぃひゃあぁッ──！！」
ともすれば天に、否。地に堕ちるが必然か。
木切れの灯り惜しまず投げ捨て、両の手で以て身体受け止めるがしかし、彼女は大百足。その下半身までも受け止め切れる筈無く。灯失せ、真暗となった洞に響きが連なる。
「悪戯が過ぎた、すまぬ。大事ないか。」
「はい......貴方様に受け止めて頂けましたから、何とも御座いません。」
暖かな肉体との密着に悶える心中の獣を理性で殺し、早急に繕った冷静さで問う。
「しかし、其方の脚や何やらは......。」
云い終るより早く、「心配なさらずとも、わたくしの胴は堅牢に御座いますよ。」少女の声が後の先を取り、諸手に抱く女体のそれと異なる感触が、互いの身体に巻き付く官能を味わう。
人と相異無い柔肌の受け身とは事変わり、愛しき人への独占欲を隠さぬ胴節の力強さは、正しく秘めたる獣性の表れで在ろう。
「処で、御気付きですか......？貴方様の手が、わたくしの胸に触れて居られる事。」
慌てて、済まぬと云い。先程より少女の控えめな膨らみを捉えて居た左手を引こうとした途端、イヤ逃すまいと手背を覆う彼女の両手。
少女は黙して語らない。灯り無く真暗故に、その表情も伺えぬ。
しかし、手より脚より伝わる熱が全てを伝える。
──どうか、そのまま続けて......。
若さ満ちた肉体は未達の青き果実。刻まれる快楽に悦び、色付かぬままに熟れ行く少女。瑞々しき柔肌に触れる度、鼓動は歓喜の高鳴りを上げ、その身を快楽に満たし行く。鼻腔をくすぐる芳香も、甘く湿った熱を帯びて蕩ける様。欲求堪えず絡み付く胴肢の数多も、刺激を受ける度に段々と妖艶な抱擁へ変わり始める。
周囲を満たす暗闇が感触を鮮明に際立たせるも、先程口付けをした時の様な蕩け顔を見れぬのが至極残念で在る。
「はぁっ......貴方......様っ、ぁっんッ......」
未だ、少女の秘所や双丘の頂点には触れずに居る。
快楽の昇華に伴い、主張を増す鋭端を育む様に外周をなぞり、時に五指全てで軽く引張り、刺激を与える。
儚げな上体の脆さと連なる厳しき殻は、汗ばむ肉体と異なり冷ややかなれど、矢張り少女の延長で在る事を示すが如くにわななく。
胴の節目へ指沿わせ、押し込む様に力込めらば、肉の身体にも反応表れて可愛らしい。
「ひぅ......っ、ん、はっ......ぁ......」
重ねられた少女の手は、刺激を受ける度に応える。
身体だらしなく蕩け切っても尚、決して離さぬのは、未知なる快楽への恐怖と期待入り交じった色が魅せる応答で在ろう。
「貴......方、様？......どう、され──ぁっ、ぁん"ぅうっ、っッ──」
一瞬離れた手に動揺するも束の間、愛撫によって快楽を高めた両端を摘まれ、一段と大きな声を上げる。刺激に悶え身を反らすも、細やかな身体に余り在る快楽は口より漏れ出て洞に響く。
「んあっ......、ッひぁん......うぁ、あ、ん"ぅ......」
母指と示指の腹で以て、絞める様に強めて行く。たちまちに度重なる快楽の波涛が堰を切り、強烈な感覚が少女を襲う。
「ん"、んぅあぁっっッあ"あ"ぁっ──」
絶頂の炎に芯から焼かれ、激しく痙攣する少女の身体は、消え入りそうな声で尚も喘ぎ、残り火の余韻に浸る様など悩ましい。
「は......ぁっ......、だぃふ......いえ、大分落ち着いて、参りました。
耽美な吐息に温もりを併せ、送り出された声は、耳に甘く絡みつく様。未だ男を刻まれぬ身体とは思えぬ程に心くすぐる調子で在る。
「もう......ずっと、切なくて仕方が無いので御座います。」
互いに向き合うた後、少女が自らの手を重ね先導する。行先は、濡れそぼった自身の女陰。果肉は蜜に溢れ、愛する者の到達を待ち望む様に奥底から悦びの涙を流し続けて居る。
「貴方様......どうか一思いに、挿入て下さいませ。」
抱き合うたままの体勢で以て、剛直を肉の渦へと沈め行く。穂先は狭き膣口と繋がり、少女の生と同じ時を重ねた膜を裂き、うねる肉の歓待を受けながら秘奥への戸を叩く。突き入れた槍は、しかし根元まで収まらず、半ば過ぎで留まる。
「い"ぃあ"ぐぅッ......貴方様ぁ......、」
鋭痛に鳴き震える身体を抱いて居ると、少女は両の手を伸ばし、頬を捉えて来た。反応する間も無く、唇同士が触れ合う感触。頬に置かれた手は後頭へ伸びて居る。
乳飲み子の様に吸われる度、漏れ出る声も甘美に変わり行く。
「んく、ぅ、ぁあ"、あ"っッ、ん"ん"ッぐぅ......あ"ぁッ──ッ」
如何な理由か解らぬが、破瓜の痛みさえ忘れる程の快楽に溺れたならば是非も無い。先程より動かさず居た腰を浮かせ、きつく締まる膣の奥底を目掛け突き込む。少女が喉を鳴らす度に蜜も量を増し、更に絡み付く。
「ぅッあ"ぁんん"......ひぃぁ、ぐっ、ぅッうぁ、あ"ぁっ」
腰の動きを早めるにつれ、体勢も徐々に変化し、遂には覆い被さる様なカタチで腰を深く打ち据える。膣壁をえぐる様にねじ込むと、痛い程に狭い膣肉と愛液が絡み、えも言えぬ快楽をもたらす。
処女で在ったと云うのに、乱暴なまでの性行に苦悶の声を上げる事無く、むしろ心から悦びの嬌声を響かせる。
「ふぁあ"ッ、んぅ......ッ、あ"ッあ"あ"ぁッ......」
快楽に蕩け行くにつれ、根元までも挿入る様になった。獣欲をさらけ出し、本能のまま貪り合う姿は、夫婦と云うより"つがい"と呼ぶに相応しいで在ろう。
抽挿を繰り返し、彼女の奥底たる苗床に種を撒く用意が整った。しかし、獣に在らざる知性持つ以上、聞くべき事柄が在るものだ。
「......良いか」
「っぁ、もひ、ろんでぇッ......ございます......、貴方っ、サマのぉっ......、御情けぇっ、を......くら、さいませ......」
真暗で見えぬのに、少女の微笑む顔が眩しく思えた。
身体が淫らに変わり行くとしても、その心は変わらぬまま。ならば、変わらぬ愛に応えねばなるまい。
今一度口付けを交わし、絡み合う舌同士の熱を互いの性器の交合と重ねる。彼女が又唾液を飲み込んだ瞬間に、最奥にて果てよう。
「んちゅ......、ふ、ぁ......、ぁ、んくっッ──ぁあ"ぁっんっぅあ"あ"ぁぁっッ......」
膣が激しく収縮し、絞り上げる様にうねる。
隙間なく埋められた膣内に吐き出された煩悩は、少女の甘き蜜と混ざり泡立つ。
今日は二人繋がったままに過ごそうと、小さな身体を腕の中へと寄せる。脱力し切った様で、元より軽い身体が更に頼りないものとなって居る。胴節を枕に、少女を抱いて横になる。
膝枕ならぬ胴枕も、中々にオツで在る。
「貴方様、御慕い申しあげます。」
洞の真黒も、暖かにさえ思えた。
23/01/01 11:49更新 / さざらん