年に一度のお祭り

紫色の植物が蠢き、触手が旅の戦士を絡めて搾り取る庭。
空にはやはり紫色の雲が広がり、風が強い日には契約者と交わりながら飛んでいるシルフを見る事もある。
「この町も随分と魔界に染まってきた物じゃな」
私は町を治める者として手元の水晶球に魔力を込める。
映し出された光景は男と交わる魔物たちばかりが映し出される。
「さすがに4精霊を引き連れて来れば魔界化もほんの数日。とはいえ」
水晶球に映し出される光景の中には、困った光景もある。
通路に侵食するほど鬱蒼と生い茂る触手。
夫自慢でにらみ合うラミア族と長い蛇身で抱きしめる様に締め付けられている夫。
魔女たちと絡み合う「お兄ちゃん」たちと、彼女たちを見守る「兄上」。
「まとめ役なんて、なんで任されてしまったんじゃろう」
深いため息をつき、立ち上がる。
広域乱数検索により取得した最新のファッションを兄上に披露したいバフォメットは、既にその服装を身につけている。
だが、管理職の彼女は未だ整備されていない魔界を纏めなければいけない。
「折角の新年じゃというのに」
ふさふさの毛が生え揃う手でむき出しの小ぶりな尻を撫でる。
兄上の余韻を思い出してため息をつき、バフォメットは水晶に手をかざす。
「やれやれ。古い馴染みは何をしとるかな」
エンジェル3名を「包んで」持ってきた平和主義な友人を水晶に映す。



○ある山のサイクロプスの場合

山の祭りはいつも賑やか。
でも今回のお祭りはいつもよりもとっても賑やか。
松明の火はごーごー燃えているし、人も沢山踊っている。
食べ物も沢山あるし、皆元気に笑ってる。
あれ、いつもと同じ?
「また変なことを考えているんじゃないのか?」
「違うよー。にぎやかだなーって」
「そりゃそうだろ。お前がいるんだからさ」
「私がー?」
「おまえわかってないのか?」
「わかってるよー。あー、あのおにくおいしそー」
「駄目だこいつ、まるでわかってねぇし」
「ザイルー。これ買ってー」
「ああもう! 子供に食べ物たかるんじゃねぇ!」
「ザイルって子供ー?」
「それ以外の何に見えるんだよ!」
「ザイルー」
「だめだこいつ」
ザイルがまたいつもみたいに元気がなくなってる。
どうしていつも元気がなくなるのかな。
「ザイルー。ほら、笑って笑ってー」
「持ち上げるな! ああこら、下ろせ!」
「たかいたかいー」
「下ろせって! ハマドんとこのおやじさんも肉焼いてないで何とかしてくれ!」
やっとザイルが元気になった。
持ち上げると男の子っていつも元気になる。
不思議ふしぎ。

「騒いでいる理由? 村の人間に聞いてくれ。俺たちはこの村に来て間もないんだ」
「ちくしょう、何で俺らが手伝わされなきゃいけないんだ。おまけに教団からは目を付けられて、近所の魔物たちからは目を付けられて、俺にどうしろっていうんだちくしょう!」
「あの馬鹿ハーピーが同僚のブラックハーピーと一緒になって仕事の邪魔をしやがるってのに、延々と畑仕事が出来るか! 祭り? 俺に聞くな!」
シックルはわからないって。
困りん坊のハムも怒りん坊のマットもわからないんだって。
だから毎日新聞を届けてくれるハルピュイエに聞いてみた。
「えー、私にそれ聞くの? というかさ、あんた。元々山の神様として祭られていたんでしょ。山の神様がやってきたなら歓待にも力が入るってもんじゃない」
「私、山の神様?」
「知らないわよ。ただ、みんなはそう思ってるみたいだよ」
「へー。山に神様はいるけど、私じゃないよ」
「え、マジでいるの?」
「山は神様。でもみんな忘れちゃってるから、なんだか元気が無いんだ」
「まるで知り合いみたいじゃない」
「知り合いだよ。知り合ってもうすっごく長いの」
「たまにあんたが魔界の重鎮クラスに長生きしている様に見えるわ」
「えっへん。わたし、長生き」
胸を張って威張ってみる。
するとハルピュイエはよくわからないけどウンウンと頷いた。
「だったらあんたも山の神様でいいじゃない」
「えー? 何で?」
「サイクロプスについて聞く機会があったから知ったんだけどさ。あんた」
「お酒飲む?」
「飲まないわよ! 私、明日も仕事あるんだから!」
お酒飲まないのはお祭りじゃおかしい。
だって、人も魔物もみんなお酒を飲んでるから。
「でもお友達は飲んでるよ」
ハルピュイエと一緒に来た黒い子もマットたちとお酒を飲んでる。
「あ、ケルラ! あんた、また二日酔いになって私の仕事増やす気じゃないでしょうね!」
「あーははは。こいつったら酒に強いとか言ってさ。私に勝てるワケないでしょー」
黒い子に気づいたハルピュイエはバタバタ羽を動かして怒った。
でも黒い子は顔を真っ赤にしてたのしそーに笑ってる。
「ふざけんな! 魔物だろうがなんだろうが女に飲み負けるか!」
「ちくしょう。なんで俺まで付き合わされるんだ。うぷ、ちょっと涼んでくる」
マットは顔を赤くして、ハムは顔を青くして、ザイクは顔を真っ赤にして、シックルは、んー、わかんない。
「あははー、のめー、さわげー!」
「誰だ、がきに酒を飲ませた奴は」
「ザイルー。シックルー。お酒飲んでるー?」
「のんでねーよ、あははは!」
「犯人はお前か!」
「違うよー。この村にもたまにおーかみさんやってくるから」
「狼? 野生の獣か?」
「えっと、わーうるふ?」
ピンと人差し指を立てる。
そのまま物陰に男の人を引き摺っているワーウルフを指す。
「食べる気か」
「うん。ほら、よだれ垂らしてるでしょ。がまんできないみたい」
「あくまでもあれは、その、肉を食うんじゃなくてだよな」
「肉食だよー。お肉大好きだよ」
「そうじゃなくてだ。命の別状は、ないんだよな」
「それはないよ。新しい魔王さんって、そういうの凄く嫌いみたいだから」
あの女の子だって、山に住んでるワーウルフの子が噛んじゃったんだけど、怪我は小さくてあっというまに魔物になって治っちゃったんだし。
「え、元々村人? じゃああのゴブリンは?」
「お祭りの食べ物とか色々持ってくる行商人さんだよ」
「……あれ、何で魔物と普通に話をしたり酒を飲んだりしているんだ? 確かこの村にも教会はあったよな」
「ん〜。実はね」
ゴブリンの子達は元々角を隠して行商人に来ていたんだ、とか。
ワーウルフの子達も耳とか隠して過ごしていたんだとか。
それがシックルたちが来た時の色々があーなってこーなって、魔物は別に怖くないからって事で隠さなくなったとか。
実は村の人も教会に熱心に通う人以外はこっそり魔物と仲良くしていたとか。
「ああ。ザイクの母親は熱心な信者だったからな」
「ザイクの事がすっごく大事なんだよ。ほら、ザイクって、おとーさんいないでしょ?」
そうだな、とシックルが難しい顔をする。
ザイクのおとーさんは出稼ぎにいつも出かけていて、ある日から帰って来なくなった。
ザイクのおかーさんが教会に通うようになったのもその頃からだったかな。
「おまえ、まさか村の連中が普段何しているかとか知っているのか?」
「いつも見てるわけじゃないけどー。ほら、ハルピュイエとかワーウルフの子達から聞いたりしてるから」
「それで時折村が大変になったら、こっそりと助けているわけか」
「そうだよ」
「はは。だったらお前は十分村にとっての神様だよ」
「だからー、違うって」
シックルは全然、話を聞いてくれない。
だから私はごぉごぉ燃え上がる火を眺める。
「火が好きなのか?」
からかうのをやめたシックルが、一緒になって火を見ている。
「うん。だってあったかいから」
「冬の寒い風の中で焚き火に出会うと、天の恵みみたいに思えるよな」
「うん。あったかいんだ」
「いまの季節にはありがたいよな」
あったかいんだ。
でも直ぐに消えちゃう。
だから火が消えないように、みんな新しい薪を足していく。
私はそれを眺めるだけ。
火を眺めて、あったかい思いをするだけ。
「シックル?」
シックルが子供にするみたいに私の頭を抱き寄せてきた。
火に当たるよりもあったかい。
お酒も入ってぽかぽかあったかいから、目がとろんとなってきた。
「いいから寝てろ。どうせ祭りは明日もあるんだ」
うん、と私は答えたと思う。
おひさまに当たるのと違う、ぽかぽかあったかくていい気持ちだから、そのまま目を閉じてしまった。






「やれやれ。新年早々熱いのぉ」
幸せそうに男の肩を借りて寝ているサイクロプスを映す水晶を尖った爪で弾く。
弾かれた一点から生まれた波紋が広がり、映し出された光景は消えて元の透明な水晶に戻る。
「遅い春、と呼んでいいのじゃろう。祝福してやりたい気持ちはあるのじゃが、どうにも、のぉ」
兄上がいない寂しさが増したバフォメットはつまらなさそうに水晶を突付く。
「祭りか。祭りといえば、ジパングではどうなっているのかの」
突付いた水晶に魔力を込める。
浮かび上がる映像の中で、幼い狐の娘が家族との団欒を楽しんでいる。
「ここは相変わらずか、ん?」
映像の中に、見知らぬ顔がある。
「いや、おもしろそうな事になっておるのぉ」
興味が沸いたバフォメットは品の無い笑みを浮かべ、やわらかなクッションの椅子に座りなおす。



○ある神社の稲荷の場合
今日は一年で一番楽しく賑やかな日。
年の終わりを締めくくり、年の初めを祝う前の日。
あと少し経てば私も母様も村の人たちの前に出て舞を披露する。
今年一年、お疲れ様でした。
来年も良い年に致しましょう。
村の人たちと共に一年の苦労を労い、次の一年も良い年にしようと願いながらお祝いをする。
だから今年も一生懸命、毎日舞の練習を欠かさなかった。
それに今日は一人じゃない。
タン、と固い木目の床を踏み鳴らす。
腕は風を、手は葉を、体は空を意識する。
扇は流れる雲で、心は白い雪。
扇を開いてくるくると回り、腕を伸ばしたままぴたりと止める。
練習した通りの動き。
目を閉じたまま母様の舞をなぞる様に、手を、足を動かす。
最後に正面を向いて、タンと床を踏み鳴らす。
「タケ。どうだった?」
体に溜まった熱を込めて息をつくと、吐いた息は白く曇る。
私の正面に正座している男の子は、ぼーっとしたまま私を見ている。
「タケ? どうだった?」
「え、あっ、えっと、すごくよかったよ、鈴様」
「そう?」
たったいま起きたみたいにはっと目を大きく開いてから、満面の笑顔になってくれた。
「他には? 他には?」
もっと何か褒め言葉は無いだろうか。
手をついてタケの正面に身を乗り出し顔を近づける。
「え、ほ、ほかって、えっと」
タケは顔を真っ赤にしてちょっと顔を離す。
私はタケの真っ赤になった顔が可愛いので、ちょっと悪戯してやろうとさらに顔を近づける。「他に何かないの?」
「え、ちょっと、鈴様、かお、ちかいよっ」
「近くじゃないとタケの顔がよく見えないじゃない」
「鈴様って、目は凄くいいじゃないか!」
「それにタケの顔、とってもかわいいから。仕方ないじゃない」
タケの顔がもっと赤くなって可愛いから、タケの真っ赤な頬を舐めてみる。
「ひゃっ、あ、すず、さまっ」
「ん、ぺろ。タケったら、かわいい」
火照ったタケの顔をもっと舐めて冷まそうと、床に倒れこんだタケに覆いかぶさる。
「ふふー。逃がさないよ」
「うぅ〜」

「……五十鈴様。私は席を外した方が良いのでありましょうか」
びくっと背を震わせてしまう。
恐々と声のしたほうを見ると、顔を黒い羽で隠している千早さんが稽古場の壁際に立っていた。
そうだった、今晩は千早さんも稽古を見てくれていたんだった。
「あー、えっと。ど、どうだった?」
慌てて床に正座で座り直す。
タケも私に倣って慌てて隣に座りなおした。
千早さんはやっぱり羽根で顔を隠したまま、返事に困ったみたいに少し俯いた。
「そう、でありますね」
こほんと咳払いをすると、千早さんが真面目な顔になる。
「舞の型は一通り覚えていらっしゃるようですが、まだ動きの静と動と「止め」の区別が曖昧であります。流れる舞の中にも静謐の「止め」があってこそ、動きが際立つのでありますよ」
千早さんは毎年、母様の舞を見ていただけあって、私よりも舞の真髄を理解している。
本人も山の祭りで舞っていたと聞くから、舞に関しては私よりもずっと先輩。
壁から離れた千早さんは両翼を広げると、たった今私が披露した舞を舞ってみせる。
扇の代わりは翼で、尻尾の変わりは腰帯の余りで再現している。
何より、衣擦れの音、風の音が聞こえるくらい、舞は静かだった。
カツンと爪が板を叩く音で我に還る。
舞の終わりの踏み鳴らしまで、私は息をすることも忘れていたみたいで、大きく息を吸って、吐いた。
「如何でありましたか?」
「うん。私と全然違う。とても静かで、引き込まれちゃった」
「私はまだまだ修行中の身でありますが、鈴音様の舞は夢に浮かぶほど見ているのであります」
「うん。私も、まだまだ修行不足だよ」
「はい。お互い、頑張るのでありますよ」
にこりと笑って締めくくってくれる。
千早さんはやっぱり優しいお姉さん。
でも。
「私、負けないから」
千早さんの舞の余韻でぼーっとしているタケを見る。
「んー。五十鈴様?」
「負けないんだから! ほら、タケ。そろそろ準備しないといけないから、いくよっ」
「あ、す、鈴様っ!?」
私はまだまだちっちゃいケド、ぜったい千早さんには負けないんだから。
お姉さんとして甘えたいヒトだけど、それとこれはべつもの!
「ちょ、ちょっと千早さんはどうする、いたっ、て、いたいよっ」



「五十鈴様と私、何の勝負をしているのでありますか」
一人残された私は自分の行いを振り返る。
五十鈴様が舞い踊り、私はたりない部分があることに気づいた。
けれど舞とは言葉に表せない物を体現するものであり、だからこそ私は言葉での説明を省き実際に舞って見せた。
「舞の事でありますか? いやいや、五十鈴様の口癖はもっと前からであります」
記憶を探ると、タケという少年と3人で遊んだ頃が怪しいと判断できる。
けれど何十回とその記憶を振り返ってみても、原因が見当たらない。
月の物という考えも検討してみたが、まだ五十鈴様には少しばかり早い。
「やはり、あれなのでありますね」
微笑ましい少女の対抗意識に笑みを零してしまう。
いけないと思いつつ、あの幼い娘には気を緩めてしまう。
自分が子供の頃にあれほどの愛嬌はあっただろうか。
大人に早く追いつこうと努力していた所は自分が子供だった頃と似ている。
けれどあれほど素直に気持ちを表す事は私には出来なかった。
「では、勝負なのでありますよ」
幼くとも彼女は夕山の稲荷。
そして幼いからと相手の意思を軽んじてはいけない。
「私もそう易々と負けるわけにはいかないのであります」
決意を込めて私は稽古場を出る。
自分も、石葉山のカラステングとして恥じぬ様、次を名乗る者として相応しくなる様、更なる修行を詰まなければ。
慢心していては純粋な向上心に負けてしまう。
「ふふ。楽しいのでありますな」
義妹の様に可愛がっていた娘が、気づけば好敵手となっている。
世は常に楽しむべし。
舞の師匠の言葉を思い出し、笑みを深める。

「そう? でしたら、床の手入れもお願いしてよろしいですわね?」
唐突に聞こえた声に振り向くと、稽古場から出て直ぐの場所に鈴音様が佇んでいらっしゃった。
「え、あの、なにやら怒っておいでのようであります、が」
私が何度も見た覚えのある、「怒った笑顔」の鈴音様の威圧感に思わず後ずさりしてしまう。
稲荷という魔物は妖狐に比べて魔力を内に押し留める事を得意としている。
しかし今はあふれ出す感情を押し留めているように思えてならない。
「貴女の爪で開いた孔の修繕、お願いしてもよろしいですわね?」
「……、……はい」
「それはそれとして。ふふ、なにやら愉快な事になっていますね」
「どういうことでありますか?」
正体不明の威圧感が消えてから鈴音様が、珍しく可笑しくてたまらないという様子で笑っている。
「貴女もいつまでも姉の立場で甘んじていられるとは思わない事よ」
「そ、それは無論! 近頃の五十鈴様の成長振りは、うかうかとしておられないのであります」
「うふふ、うふふふふ」
「す、鈴音さま?」
「いえいえ、何でもありませんよ。ささ、五十鈴の舞の手伝いに行きましょうか」
「は、はい!」

鈴音様の妙な上機嫌は、五十鈴様の舞が始まるまで続いていた。
よくわからないのであります。







「やれやれ。こちらは顔をしかめるほど甘酸っぱいのぉ」
幼い稲荷と若いカラステング、双方に向けて深いため息をつく。
「ジパングの魔物は子をあまり成さぬと聞くし、魔物自体もさほど近年ようやく子が生まれるようになって来たと聞くから、年の近い魔物は珍しいじゃろう」
口では魔界の管理者らしい言葉を言いながら、胸の奥が締め付けられる。
あの幼い稲荷のような恋心、カラステングの様な無知さを見て、自身の初恋を思い出してしまった。
お陰でより一層、兄上が恋しくなってしまった。
「くぅ。こんな事ならジパングの様子など見るのではなかった。もっと他はないのかの」
水晶に魔力を込めて、他の光景を呼び出す。
しかしどの光景も幸せそうな光景しか浮かび上がっていない。
「どいつもこいつもいい顔しおって」
頬杖を付き映る光景を眺めていたが、しかしそれさえも飽きてしまい、今は透明な水晶玉を突付くだけ。
「どこもかしこも祭りだらけ。祭りを行っていないのはここくらいではないか」
何も楽しめない。
そう一人ごちて不貞寝をしようと目を閉じかけ、ふと妙案が浮かぶ。
「ならば、この町でも祭りを行えば良いのじゃ!」
思い立ったが吉日。
大急ぎで念話を使い、町中の魔女たちに指令を送る。

「みなのもの、準備は良いな」
声だけを魔女たちに飛ばす念話は、程なくして魔女たちからの返事という形で念話が帰ってくる。
「ふむ。ならば始めるとするかの」
ドクロの意匠が施された大鎌を掲げ、魔力を空へと解き放つ。
押し固められた球状の魔力がある一点まで昇ると、拡散して町中に散らばる。
散らばり落ちた先には同じくドクロをあしらった杖を持つ魔女たち。
魔女たちの杖に魔力の塊が落ちると、魔女たちの魔力が合わさった魔力の波が周囲に広がる。
「さて、準備は整った。では、ゆくぞ。この町ならではの大祭り、いや、子祭りじゃ!」
町中に広がった私の魔力に普段と少しだけ毛色を変えた魔術を乗せ、発動させた。

「私の旦那様の方が凛々しいでしょう?」
「いいえ、あたしのダーリンの方がかっこいいわ!」
妻たちの愛の強さにぐったりとしているラミアの夫たち。
もうどうにでもしてくれと脱力していると、周囲の空気が変化した事に気づく。
「なんだ?」
「さぁ、魔力っぽかったが」
元冒険者の夫たちは違和感に気づいたが、妻たちはそんなことどうでも良いとばかりに喧嘩し続ける。
その様を見て、愛らしくも困った妻たちに呆れて笑ってしまう旦那たち。
しかし、周囲の変化はそれだけに留まらなかった。
「やれやれ、まったくいつまで……お?」
「なんだ?」
彼らは自分たちを締め付ける蛇の体が縮んでいく事に気づき目を開く。
「な、なんだ!?」
「これはもしかして」
「知っているのか?」
冒険者時代では相棒だった元魔術師に問いかけるが、彼は困ったように肩をすくめる。
「俺はな、物は試しにと妻と一緒にサバトに行ったことがあったんだが」
「唐突に何を言い出すんだ。いや、まさか」
「そのまさかだよ」
相棒の説明も終わらぬうちに、変化は完了していた。
愛する妻の顔を、上半身を見ると、予想した通りの変化が訪れていた。
「何よ貴女、そんなに小さな胸で旦那を喜ばせられるって言うの?」
「ふん。胸しか能の無い貴方には口や手、蛇で喜ばせるという考えなんて浮かばないのでしょうね」
お互い小さな胸を突き出すようにしてなおも喧嘩し続けるラミアの二人は、愛らしくも押さない少女だった。
「サバトの魔術か。それにしたって、小さくなっても喧嘩する事は変わらないんだな」
「そりゃ、三つ子の魂百までって奴だ」
幼くなった妻たちの力は大人の時と比べて弱くなっているため、二人は喧嘩を止めようと自分の妻を押さえにかかる。
「それならどれだけ私が旦那を愛しているか見せてあげようじゃない」
「こちらこそ。どんな体型でも、私がダーリンを愛せるって事を見せてあげるわよ」
「え?」
「ちょ、ちょっと待て!」
止める暇も無く、二人はキスをされ、そのまま強制的に夜の営みを始める事になった。

「成功成功。これでサバトの教えも広まり、みなが楽しめる。毎日これでもよいが、さすがにそれはやりすぎじゃからのぉ」
私は上機嫌に帰り支度を進める。
なにせ今日はお祭りなのだ。
管理だろうがなんだろうが関係なし。
「ふふ、兄上。待っていておくれ。いますぐ、そちらへ参るが故の」
私は身につけている唯一の布切れ、エプロンの紐をしっかりと締めなおすと転移の魔術を発動させた。

「兄上、兄上!」
「どうしたんだい、そんなに甘えて」
「寂しかったのじゃ。たっぷり、愛しておくれ!」
「しょうがないなぁ。今日もたっぷり愛してあげるよ」
「はっ、あぁ、んんんっ!」






----作者より
謹賀新年と銘打って元旦にアップしようとしたけど、失敗したのだよ(。。

それはさておき。
こんな拙い文章ですが。
みなさま、今年もヨロシクお願いします(’’(。。

12/01/02 23:22 るーじ

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