お願い聞かせて?

私が母の胎に宿っていた時にはすでに魔女の一員だった。
母と父がサバトの構成員だったためだろうか?
それとも私自身が魔女であると望んでいるためだろうか?
それはどちらでもあり、どちらでもないのだろう。
要因に望まれ、結果が生まれた。
結果が望み、要因を生み出した。
結果が先か要因が先かそんな”にわとり”と”たまご”みたいな事はどちらでもいい。
どちらにしても『魔女』が望み魔女が孕んだ『魔女』、ありとあらゆるシアワセを配るために生まれた魔女なんだから。



バフォメット様や両親、サバトの仲間達は私の事を真正の魔女と呼ぶ。
街の人……人間達も私の事を真正の魔女と呼ぶ。
前者と後者では呼ばれる意味が似てるけど違う。
サバトの仲間達は畏敬の念で
人間達は恐れを込めて
私自身は何もしないのにどうしてこわがられるんだろ?
私は人間も魔物もそれ以外もみんなみんな大好きなのに。
私は自分の望みに従って大好きなみんながシアワセになれるお願いを聞いているだけなのにな。



私は毎日サバトにある私の部屋から出て夕方と朝に散歩へと出かける。
お友達に挨拶をしながら決まったコースをゆっくりと。
太陽が昇るときと沈む時が一番おともだちと何か悩みを抱えている人を見つけやすい時間だもの。


「おはよう。ヨハンさん」
「あ、あぁ。おはようリードちゃん」

ヨハンさんは近所でパン屋を営んでいる。恐れられている事は分かるけどちゃんと挨拶を返してくれる珍しい人間のおともだちの一人だ。
なにか奥さんとあるようだけど、人間に望まれてもいないのに願いを聞くのは失礼だってバフォメット様が言ってたから挨拶するだけにしている。


「おはよう。ビショップさん」
━━━あぁ、おはよう。いい天気だね。

広場に吊るされた僧侶様はこの街の人たちを常に見ている。時にはついつい手招きをして仲間を増やしたがる危ない人だけど、普段は温厚でゆっくり揺られている大人しい人だ。

「ねぇ、ビショップさん。なんで今日がいい天気なの?」
━━━朝もやで辺りが見えない最高の天気じゃないか。
「そうなの?」
━━━そうだよ。小さな魔女さん。


「おはよう影さん」
………

影さんは恥ずかしがり屋さんなのか何も喋らない。だけど代わりに身振り手振りをしてこっちに挨拶をかえしてくれる。

「影さん、そんなに動きまわって疲れない?」
………
「そっかぁ。それがお仕事なら仕方ないね。あ、もう行くんだ。じゃあね」

影さんは雇い主であるねこさんのそばを離れないように歩調を合わせてついてゆく。それでも挨拶には律儀なのか一度こちらを向いて頭を下げ、またねこさんに向かって走って行った。


「おはよう。蛇さん」
“おう。早いな嬢ちゃん”

街を見下ろせる高台に住む蛇さんは常に何かを探して一日中走り回っている。でも同じ場所をぐるぐる回っていても絶対に見つからないと思うのにな。

「蛇さん、いつも何を探しているの?」
“あ?何を探しているのかを見つける為に探し回ってんだよ”
「もしよければそのお願い聞いてあげるよ?」
“いや、こういうのは自分で見つけなきゃなんねぇんだよ。嬢ちゃんもおっきくなればわかるさ”
「ふーん。そっか」

深入りはしちゃダメっておとうさんもおかあさんも言ってたから聞かない事にしよう。
用はそれだけかいと蛇さんが訪ねてきたから邪魔しちゃってごめんなさいと言うとまた蛇さんは自分の尻尾を追いかけてぐるぐると回りだした。


「おはよう飛魚さん」
「うん。おはよう。リード」

飛魚さんは体を失ってからも跳び続け、ついに水の中を泳ぐように空気の中を飛べるようになったらしい。
確かに私の住む町は海に面してるけど、それでも丘の上まで泳いでくるのは凄いと思う。

「ねぇ、飛魚さん。おとーさんが言ってたんだけど、飛魚って恐い人から逃げる為に跳んでるってホント?」
「本当だよ。それがどうかしたのかい?」

私の周りをぐるぐると回りながら質問してくる。そんな当たり前の事を聞いてどうしたのかちょっと興味をひかれたみたい。普通だったらとっくにもうどこかに泳いで行ってしまうし。
……でもごめんね。そんなに期待されるほど大したことは考えてないんだ。

「いや、なんで飛魚さんはこんなところまで飛んできたのかなーと」

もう体が無いから恐い人は襲ってこないと思うんだけど。

「リード、僕は死から逃げるために跳び続けているんだよ」

飛魚さんがぐるぐる回る事を止め、興味を失ったようにどこかに飛んで行った。
相変わらず落ち着きがないなぁ。それにもう死んでるのに死から逃げる為って……変なの。


骨細工さん、おはよう。
りんごさん、おはよ…
せせらぎさん、おは…
かたかた虫さん、お…
糸が切れた人形さん…
割れた硝子さん、…

…………

粗方おともだちに挨拶が終わり、サバトへ帰る。
私の散歩コースは確かに街の外にも出るけどそこまで広いってわけでもない。二時間もすれば回り終わってしまう。
丁度今はみんなが起き出した時間だろう。私も早く帰ってお仕事の準備しなきゃ。
今日は悩んでる人を見かけなかったなぁ。いいことなんだろうけどちょっと残念。


かえり道は気をつけなきゃ。おともだちが私についてきちゃう。
別に私はおともだちを連れて帰っても問題ないと思うのだけれども、悪戯が大好きなせいでバフォメット様には嫌われているようだ。
バフォメット様はきっと私のおともだちを誤解しているのだろう。いつか仲良くなってくれるといいんだけどな。

「ほらほら、ごめんね。あなたたちを連れて帰ったらバフォメット様に怒られちゃう。だから、諦めて、ね?」

今現在ついてきている、はっぱさんの先端、雲さんの隙間。おともだちが化けたもやもやしたものに向かって言う。
大抵はばれると大人しく空気に混じって散っていくいい子達なのだけど、たまにそのままついてきちゃう子がいるからきつく言わなきゃならない。放っておいたら誰かがここじゃ無い場所に連れてかれちゃうこともあるし。
お友達をじっと見つめていると諦めたのか各々が辺りに散ってゆく。
……今日はなんとか言う事を聞いてくれたみたい。よかった。

一本杉を通り過ぎ、レンガの隙間の門番さんにただいまと挨拶をする。
何時も熱心な門番さんはお帰りと呟きながら私を見ることも無くじっと一本杉に向かって警戒をしていた。
どうして門番さんはいつも杉の下の子を睨んでるんだろうなぁ。あの子はあの子で動けないから門番さんが近付いてきてくれるのを待っているだけなんだけど。
この人たちはこっちの話をほとんど聞かないからちょっと苦手なんだよね。


「ただいま戻りました」

ドアを開き受付のあるエントランスへ入る。私の声に驚いたのか他の魔女たちが一斉にこっちを見た。そしていきなり目の前がぶれバフォメット様が転移をしてくる。
バフォメット様はいつもみんなが出たり入ったりするときに声をかけてくれる。本人によると「挨拶は基本じゃ」らしい。私もそう思う。挨拶は大切だ。

「うむ。戻ったか。今日は何も連れ帰っては……おらぬようじゃな」

以前おともだちを連れて帰って以来必ず私の事を気にしているようだ。基本的に伝心の魔法を使うけど私にだけは転移をしてまで姿を見に来る。
何かを警戒しているようだけど私のおともだちは人間も魔物もそれ以外の子もみんな優しい子ばかりだよ?どの子も放っておくと大変な事になることには変わりないし。

「あんなに怒られたら流石に懲りますって」
「ならばいいのじゃがどうにも危なっかしくての……」

……まぁバフォメット様が不安に思うのも無理は無いのかなぁ。以前連れて帰った時は私以外の魔女たちに多大なトラウマを植え付けちゃったみたいだし。……廊下にエーテルでできた内臓が這い回るだけの優しい悪戯だったんだけどな。

「あはは。心配しなくてももう連れて帰りませんよ。元からいるおともだちを外に連れ出すのは無理ですけど」
「……お願いでもかの?」

お願いと聞いた瞬間に受付に並んでいた一部の信徒さんがびくりと肩を跳ねさせた。あの人たちは確か自分の未来の姿が見たいってお願いだったっけ?お願いで反応したってことはちゃんとうまくいったのかな?
……まぁいいや。とりあえずバフォメット様の言葉の内容を考えよ。
んー、と首をひねる。お引越しをしてほしいって言うお願いなら聞けるけど、多分凄い事になる。多分、街がおともだちで溢れかえってひょっとしたら街ごとここじゃ無いここに転移するかも。
私が首をひねっているところを見てバフォメット様も諦めたようだ。

「念の為言っておくが叶えなくてもいいからの?」
「んー。そうですか。賢明な判断だと思いますよ。私にもどうなるかわかりませんし」

その途端受付をしている魔女や訪れている信徒達ががホッとしたように息をついたのが響き渡る。
失礼だなぁ。私はちゃんとお願いを聞いているだけで叶えているのは私じゃないのに。

「まぁいいわい。とりあえず今日の仕事をせんか。働かざる者食うべからずじゃ」
「はい。バフォメット様。……ところでそろそろバフォメット様のお名前教えていただけませんか?」
「人の名前をとっくにしっとる癖によく言うわい」
「こういうのは直接聞かないと意味無いじゃないですか」

ほのかに笑いながら言うとバフォメット様も笑い「半人前にはまだ早いわ」といいながらモフリと帽子をかぶって無い私の頭にふかふかな手を置いた。

「ま、ちゃんと使い魔を見つけたら一人前と認めてやるわい。ほれ、さっさと仕事じゃ仕事」

そう言うなりバフォメット様はまた転移して自室に戻ったようだ。
今日もバフォメット様の名前を本人から教えてもらえなかったなぁ。それに使い魔と言ってもこの人だって思った事も無いし。
私だってバフォメット様みたいにいい人が見つかればいいんだけどなぁ……
できればおともだちも受け入れられる人がいいんだけど……はぁ。
とりあえず、今日の仕事、しよっか……



私のお仕事は簡単だ。サバトに入りたいって人間のお願いを叶えるためにお薬を作るだけの仕事。おともだちもいるし今日の分は昼過ぎまでには終わるかな?

「おはよう。エミィちゃん」
「あ、おはよ。リード。今日も遅刻だけど今回はどしたの?」

仕事仲間でおともだちのエミィちゃんに挨拶をする。既に仕事を始めているようでエミィちゃんの大釜に入った溶液はクツクツと泡を立てている。

「ごめんごめん。ちょっとバフォメット様とお話してた」

自分の分の機材を棚からおろし、点検をしながら組み立てる。今日も小人さんがピカピカに磨いてくれていたようだ。後でお礼に山羊のミルクをあげなきゃね。

「ふーん。毎日バフォ様もそうだけど飽きないねぇ」
「おともだちは悪い子じゃないんだけどなぁ」
「悪い子云々の前にバフォ様は見えるみたいだからいいかもしれないけど全く見えないあたし達からしたら恐いって」

そんな事を言いながらもエミィちゃんは私のピカピカな器具を見ても何も驚かない。大分慣れてきたのかな?
溶媒にハーブ、私の体液などの溶質を入れ、面白そうにこっちを見てた火の精さんにお願いして火をおこしてもらう。

「……相変わらず無茶苦茶な作り方ねぇ」

チラチラと自分のお薬と私を交互に見ていたエミィちゃんに言われてしまった。

「ちゃんとサバトの一員にするならこの作り方のほうがいいと思うんだけどな」
「自分の体液使うっていつの時代の魔女の作り方よ」
「んー。ちゃんと機能してるしいいでしょ」

どうやら体液を使った方に驚いていたらしい。火の精さんにお願いが通じたほうを驚かれたと思ったんだけど、エミィちゃんにはまだ見えないのかな?
それに昔から魔女は自分の血を飲ませて魔女を増やしてきたっておとうさんが買ってくれた本に書いてあったし、自分の体液を使えば問題ないと思うんだけどな。

「……もういいわ。リードは昔から不思議な子だったもんね」
「そんなに不思議じゃないと思うよ?ただの魔女だし」
「真正の魔女と一般の魔女を一緒にしちゃダメだって……」

苦笑いをしながら言われた。納得がいかない。私はただお話ができるだけなのになぁ。

エミィちゃんの大釜の中の液体がクツクツと鳴る度に大釜の中に紛れ込んでいた悪戯好きなおともだちが熱い!熱い!と言いながら追い出されていく。
それが見えていないはずなのにエミィちゃんはちょうど全員追い出されたところで火から降ろし、薬瓶に詰め込んでゆく。

「エミィちゃんはすごいなぁ」
「何がよ?」

目を丸くして尋ねてくる。いきなり褒めたからかな?

「見えていないはずなのに丁度のところで火から降ろしてるもの」
「はいはい。いちいちリードのお友達の事を話さなくてもいいから。ま、一応ありがとね」

きっと照れ隠しだろう。エミィちゃんてばケースに瓶を詰めながらついでに顔を隠しちゃって。

「じゃ、あたしはこれ届けてくるから」

いってらっしゃいという暇もなく飛び出して行っちゃった。褒められ慣れてないのかなぁ?
私も少しずつ瓶の中にお薬を詰め込んでゆく。やっぱり体液を使った方が早くて楽だと思うんだけどなぁ。
一旦釜の中身が空になり、代わりに多くの瓶が赤く濁った液体で満たされる。
それでもまだまだ空の瓶も数多く先が思いやられてしまう。
でもこれもみんなをシアワセにするための事だもんね。頑張ればきっとすぐに終わるよ。うん。
自分に言い聞かせて再び体液と水を釜に注いでゆく。



あれから往復する事2回。昼食を取ってから4回、合計6回もエミィちゃんが往復するうちにようやく私の分は終わった。しかしエミィちゃんは毎日のように半べそになりながらも大釜を掻き混ぜている。

「エミィちゃんも体液式にしたら?いちいち媒体を使って水に魔力を込めるより早いよ?」
「絶対ヤダ」
「えー?なんで?」
「なんか不純な動機の人が私の体液を使った薬をすするとこを想像したら気持ち悪かった」
「きっとそんな人はいないよ?みんなみんないい人だもん」
「相変わらずリードは純粋ねぇ……あ゛ーまだこんなにあるぅ……」

エミィちゃんが空瓶の山を憎々しげに眺め溜息をつきつつ釜を掻き混ぜている。
それにしても納得いかないなぁ。みんながみんなを勘違いしているだけでここも向こうも生きている人も息絶えている人も本当にみんなみんないい人たちだけなのになぁ。

「リードに言わせるとこの世界に悪人はいないもんねぇ……」
「あれ?何時の間にエミィちゃん読心ができるようになったの?」
「いや、顔に出てるって。……はぁ。まぁいいや。ほら、リード。もう散歩の時間でしょ。行ってきなさいな」
「あれ?もうそんな時間?」

部屋に備え付けられた水時計を見ると確かにもう五時を回っていた。
いつの間にかにこんな時間になっていたらしい。
ほらほら行った行ったと言い、棒を振りまわすエミィちゃんに追い出されるように作業場から出てゆく。
うぅ、酷いよ……
バタンと閉められた瞬間、扉の向こうから「今日も徹夜は嫌だああああああ!!!」と咆哮が轟き、いろんなおともだちが驚いたようにこちらを見る。

「……私のせいじゃないよ?」

信じたのか否なのか、「またあいつらか」、「あぁ、今日もやらかしたのね」、「エミィちゃん、お薬作るの苦手なのになんであの仕事やってるのかなぁ?」などなどとおともだちの元勇者様とか魔女とかに言われてしまった。
うぅ。本当に何にもしてないのに……
出鼻をくじかれた感が凄いけど、お散歩に行く前にとりあえずキッチンの脇の売店へ行き、そこで働いてるおかあさんにコインを渡してからサンドイッチを受け取ってエントランスへ向かう。


「それでは、行ってまいります」
“う、む。気をつけて、の。にぁん!お兄様、そこは駄目、駄目なのじゃ……切のうなってしまうぅ…………”

ブツリ。

どうやらバフォメット様は忙しいらしい。転移じゃなくて伝心の魔法を使うとは
……いいなぁ。私も使い魔欲しいなぁ。



「あれ?」

散歩の通り道、おともだちに挨拶をして回り、いつもの高台にのぼって街を見降ろそうとするとそこには先客がいた。後ろ姿でよくわからないけど、茶色の癖っ毛にゆったりとした服、多分ベルさんかな?
……何か泣いてるみたい。おしゃべりな風精さんが煩くて何を言ってるかわからないけど、子供がどうとか……そう言えばもう三年にもなるのに子供がいなかったっけ?
私ならその悩み聞けるかなぁ?

「こんばんは。ベルさん」
「え!?あっ!こんばんはリードちゃん」

驚かせちゃったかな?泣き腫らしている顔を隠しても遅いと思うけど……子供には涙を見せちゃいけないっておとうさんも言ってたし、今は気付かないふりをした方がいいかな。見た目だけなら永遠に私は子供のままだし。

「アハハ、ごめんねリードちゃん。みっともないとこ見せちゃったね」
「いえいえ。何の事?」
「……いえ……なんでもないわ」

膝を屈めて私の身長に合わせてくれる。大海を宿すようなマリンブルーの瞳が私の緋色の瞳の高さと合い、ごめんねと謝ってきた。とりあえず一旦聞かなかった事にして正解だったかな?

「あ、そうだ。ここリードちゃんのお気に入りの場所なの?」

明らかに誤魔化すように話題を振ってきた。
ここは付き合う方が得策だね。

「うん。たまたま散歩の途中で見つけて、そのまま巡回する場所にしてるんだ」
「巡回って……お散歩コースって言った方がいいわよ」

苦笑いをしながら言葉づかいを正すように言われてしまった。確かに騎士様がよく使う巡回よりもお散歩コースのが柔らかいかな?
沈み始めた太陽に目を眩ませながらも頬笑みを絶やさないようにする。

「ありがとう。その言葉使わせてもらうね?」
「どういたしまして」

よくできましたと頭を撫でられる。目をつぶってくしゃくしゃと撫でられる感覚を楽しみ、ん。と声を漏らす。今日はよく頭を触られる日だなぁ……

しばらく大人しく撫でられているとふいに手が離れた。もうベルさんも落ち着いたかな?

「じゃ、帰ろっか?」
「そうだね。もうすぐ夜になっちゃうし、みんな心配しちゃうかも」

手を差し出されたので大人しくつなぐ。ベルさんは本当に子供が好きみたい。
ザクザクと草を踏み、おともだちを踏まないように注意しながら歩く。
太陽が沈みきる前には帰れるかな?それにベルさんも落ち着いたみたいだし、さっきの事を聞いてみよっかな?おかあさんが「泣いている人には優しくしなきゃだめだよ?」って言ってたし、私ならなんとかできるかも?

「ねぇ、ベルさん?」
「どうしたの?」
「さっきなんであの場所にいたの?」

さっきの高台は街を一望できる絶景の場所と言ってもそこそこ距離があるし、人がめったに訪れる事はない。人目に付かず泣きたいならいい場所だと思う。だけれども泣くなら旦那さんのヨハンさんの胸を借りればいいのに、なんであの場所を選んだのかが気になる。

「あはは。やっぱり見られちゃったか。……リードちゃんにはまだ早いかな?」

理由を聞いた瞬間手がギュッと強く握られた。
聞いたらいけなかったかもしれないけど、ここで引いたらきっとベルさんはシアワセにならない。そんな予感をおともだちが教えてくれ、食い下がることにした。

「ごめんね、ベルさん。でも私でも力になれるかもしれないからどうしても聞かせてほしいんだ。だって私は魔女だもの」
「……そういえばリードちゃん、真正の魔女だったね」

ベルさんが俯き、立ち止った。何を考えているのかな?お願い、聞かせてくれるといいんだけどなぁ。
少しずつ、ついてきたおともだちが私達を取り囲むように集まりだした。
散らしてなかったから仕方ないのかも知れないけど久々にこっちに関われると思ったのかいつもよりも数が多い。

「うん。確かに私は真正の魔女って呼ばれてるよ。ただお願いを聞いてアドバイスしてるだけなのにね」

僅かに緩んでいる手を解き、ベルさんの正面に回る。
だいぶ辺りも暗くなってこのままじゃ門限に間に合わないかもしれないけど、理由を話せばバフォメット様も許してくれるよね?
いつも浮かべている頬笑みを深くし、笑う。

「あはは。じゃあ、私のお願い聞いてくれるかな?」

よくある女の子のごっこ遊びと思っているのかな?冗談を口にするような口調になっている。魔女に望みを言う事とごっこ遊びにつき合う事を一緒にされても困るんだけどなぁ……

「何でもいいよ?どんなお願いでも聞いてあげる」
「じゃあさ、どうやったらもっとパンが売れるのかな?」

ベルさん、私の噂信じてないのかな?都合がいい事にはいいけど、予想外だったかな……本当の望みを言ってるけどどう考えてもさっき泣いてた理由とは関係ない望み。

「ベルさんが本当にそれを望んでるなら聞けるけど、本当にそれがベルさんの願いなの?」
「本当よ。さ、帰りましょ。夜になっちゃう」

あぁ。これは信じてない。間違いなく信じてない。こんなお願いじゃベルさんはシアワセになれないと思う。……本当はやっちゃ駄目だけど揺さぶろっか。

「建前の本当で心の底から望む本当を隠したら駄目だと思うよ?本当は赤ちゃんが欲しいんじゃないの?」
「あはは……。やっぱり聞かれちゃってた……か」
「うん。ごめんねベルさん。でもどうしても必要なんだ。ベルさんが心の底から本当に願ってる事を言ってくれないと叶わないから」

聞いてた事の苦笑いか、聞かれてしまった事の嘲笑かわからないけどどっちでもいいや。
後もうひとつごめんねベルさん。実はでまかせなんだ。正直ほとんど聞き取れてないんだよね。
……さぁ、ベルさん。あなたの本当のお願いを私に聞かせて?
さらに笑みが深くなる。

「じゃあね、ベルちゃん。私、子供が欲しいんだ。毎日毎日、コウノトリさんにお願いしてるんだけど赤ちゃんは予約がいっぱいで私のところには回ってきてくれないんだって。どうしたらいいかな?」

やっぱり子供が欲しかったんだ。諦め顔でやけっぱちでだけど子供の私に分かるように噛み砕かれたお願い。
ざわり、と私達の回りにいたおともだちが騒ぎ出す。心からの願いと言う証拠だ。かなりの数のお友達が動いているという事はこの願いの根は相当深い場所に伸びているようだ。
これほど素敵なお願いなら、マリンブルーの瞳だし、そうだね……



「あはははは。そんな事でいいの?」
「うん。私がそのお願いを聞いたし、あとはベルさんが私のアドバイスに従ってくれたらきっと叶うよ」
「そっか……ありがと。じゃ、帰ろうか」
「うん!……大丈夫だよ。そのお願い間違いなく叶うよ。魔女とそのおともだちにお願いしたんだもの」

ポツリと漏らす。それを合図に一人?一匹?のおともだちが口からベルさんの体内に入るのを視て私は満足げに笑った。
きっとこれでベルさんのお願いは叶う。
赤ちゃん、間違いなく直ぐにできるよ。

「何か言った?」
「素敵なお願いだねって」
「そっか」

待っててねベルさん。きっとシアワセになるから。
……それにしてもすっかりおそくなっちゃった。理由を言っても怒られるかなぁ。
おとうさん、おかあさん、バフォメット様に怒られるのを想像すると嫌になってしまう。
まぁ私を想って行ってくれるんだからありがたく怒られなきゃだめだよねぇ……
……ハァ

「溜息なんかついてどうしたの?幸福が逃げちゃうわよ?」
「門限破っちゃったから怒られるかなぁって……」
「あはは。リードちゃんを心配して言ってるんだから大人しく怒られなさい」
「だよねぇ……」
……ハァ

ついてきたおともだちをベルさんに悟られないように散らしながら、とぼとぼと街へ向かう。
手を繋ぐベルさんに「ほらほら、元気出して歩きなさい」と言われてしまった。
頬を撫でる風精さんが慰めようとしているのか何度も何度も同じ場所を擦りつけていた。





一年後、エミィちゃんから噂を聞いた。どうやらベルさんは無事子供を産んだようだ。でもなぜか普通の男の子と一緒にマーメイドも産まれたらしい。
人間からどうしてマーメイドが生まれるんだろうね?と言うエミィちゃんに私はいつものように頬笑みを返した。

あれから程なく、アドバイスを冗談交じりに実行しているうちに私は身ごもった。
ただの偶然だろうけどまさか本当に願いが叶うとは思わなかった。
ただ、あれからというもの夢を見るのだ。陣痛のあった今日も同じ夢を見た。
孕む前は魚が私に飛び込んでくる夢。
孕んだ後は男の子が女の子に引っ張られ、海へと入って行く夢。
そして、男の子と女の子が海から出ようとすると女の子の脚が魚のそれになっているという夢……
これは、リードちゃんのアドバイスに従っていたから見たのだろうか?
不思議に思うが、まぁ関係無いだろうと自分の赤ちゃんのいる場所を脂汗をかきながら摩る

そして、産婆に見守られ、無事赤ちゃんを生みだすなり、産婆さんが見るな!!と勢いよく叫んだ。
私の子供に何かあったの?!
激しく残る痛みをも忘れ、私の脚の方を見ると、そこには我が子に絡みつく、沢山の魚の卵だった。

「いやあああああああああああああああ!!!!!!!」






「それじゃあアドバイスだけど、毎日毎日コウノトリさんが赤ちゃんを連れてくるまでお魚さんの卵を飲み込んでね」

「なんで魚の卵なの?」

「それはね、お魚さんは一回に凄い数の赤ちゃんを産むの。でもほとんどのお魚さんの赤ちゃんは小さいうちに死んじゃう。お魚さんも仕方のない事だって諦めてるけど本心ではもっと生きたいって思ってるんだ。だからお魚さん達が死ぬ前にその命をベルさんのお腹に迎え入れてあげるんだよ。そうすればお魚さん達も生きたいって願いも叶うもの」

「ふぅん。そっか。ちょっと試してみよっかな」

「うん。それがいいと思うよ。あ、それと間違っても噛んじゃ駄目だよ?卵が潰れてせっかくの命が漏れだしちゃうからね」






どうもごーれむさんです。今回のキャラ、リードちゃんは某ラノベ?ホラー小説?の魔女さんのキャラをほぼ丸ごとモチーフにしました。
が、どうにも劣化コピー感がヤバい。ホラーを目指したはずなのにホラーの欠片もないし
もっと描写力と語彙力が欲しいなぁ。


12/02/28 11:23 ごーれむさん

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