ボクと彼女と彼女のヒモと 

 目に映るのは線の形をとる白の残影。この蒸し切った部屋の中、絶えず響く荒い息遣い。ボクは時を忘れるほどに続く抑圧の前に、抗う気力を失っていた。
・・・・・・はぁ、はぁ」
 僕の体を介してベッドがギシギシと軋む。真っ白で包み込むようなベッドは此処の暮らしに早く馴染ませようと、ボクの妻が気を利かせて地上から持ってきたものだ。
 というのも、ボクは人間で、妻はジャイアントアント。つまりは種族も違えば住む環境も違う両者が結ばれたのだ。

 ボクは彼女から告白されたとき、喜んでそれを受けた。彼女は逆に驚いてしまっていたたが、彼女達の巣で暮らすことが何の障害にも思わないほど、ボクが彼女に惹かれていたことを打ち明けると、その場でボクらは結ばれることとなった。(因みに、ボクは別に彼女たちのフェロモンに誘われて巣に入った訳ではなく、地上で彼女と出会い、彼女自身に惹かれた。だからこそ、他のカップルよりも絆は深いと思っている。)
 このベッドに刻まれた皺は、ボクが妻となった彼女と愛し合った証。不変の愛というものを頭上に掲げて、お互いの気持ちを貪るように確かめあった。確かめ合った後は、お互いの温もりの中、夢でまた口付けを交わす日々が今まで続いていた。
「んっ・・・・・・
 強引に甘ったるく何かを宛がわれる。それが接吻だったと気付くのに、暫く間があった。
 長く、陰湿に。まるで溢れる蜜を味わうかのように舌で撫ぜ回し、薄紅の唇で形を弄ばれる。その間にもベッドは軋むのを止めない。
 最後に強く吸い付かれると、その口は離れる。
「はぁっ、はぁ・・・・・・   どうしたの?」
 諦めがボクの瞼を堕落させている。それでも思わず、その台詞に視線を上げる。ボクの目の前には、相手を屈服させる快楽にすっかり囚われたオンナの顔があった。そいつは体の下に組み敷くボクに舌舐め摺りをしてみせる。さも味わい深かったとでも言う様に微笑むと、ぐいっと顔を近付けさせてくる。
 ボクはまどろみから叩き起こされた気分がして、首を曲げて拒絶する。だが、オンナはボクに口付けすることはなく、差し向けられたボクの右耳の先に軽く歯を突き立てる。
 カリッという音が耳元に響く。驚いて、オンナに非難の目を向ける。
「な、何するんだ・・・・・・っ」
 耳に違和感が残るが、ボクの反応にオンナはすぐ顔を離して、細い指をしなやかに、オンナ自身の下唇を愛撫する。その口の端には、からかった後のような微かな笑みが見えていた。
「ごめんね。でも貴方が拒むからだよ? つい、意地悪したくなっちゃったのは」 
「もう、止めてくれ」
 今まで何度もそう要求、いや、懇願を此処でもう一度する。
 だが、そんなボクの様子を楽しむかのようにオンナは目を細める。そして唾液で濡れた指で、ボクの唇にまるで化粧を施すかのように撫でる。自分のものとは違う、異物に塗れた感触に、病に蝕まれるような感覚を憶えた。
「そればっかり。もう諦めたらどうかな?」
 途端に気分を害したかのように呟くと、オンナは侮蔑的な目で見下してくる。
「こんなに愉しい事・・・・・・他にはないんだよぉ?」
 子供に言い聞かせるように言うと、不意にオンナの顔がボクの首筋に埋まる。其処を唾液が絡んだ舌で舐め上げられ、更に柔らかい唇で汗と粘液を混ぜ合わされる。水音が暗い部屋に響き、ボクの耳に鮮烈に残る。
 んちゅ、と音を残してオンナは離れる。抑圧が弱まったことに一度安心するが、違和感が残る首筋に視線を向けられていることに気付く。
 オンナは途端にボクの目を見て、嬉しそうに笑った。
「あ。キスマーク付いちゃった」
   っ!?」
「あ〜あ。これ、見付かったら大変だなぁ」
「く・・・・・・だから、止めてくれって・・・・・・
 人事のように笑うこのオンナに怒りが込み上げてくる。だがオンナは俺の目を見てそれを察しても、けらけらと笑うのだった。
「あはは。嘘だよ、う〜そ」
「う・・・・・・そ」
「そう、嘘」
 そう聞いて俺は全身の力が失せる。怒りを超えて、自分が情けなくなったのだ。
 そんな俺に、オンナは唆すように耳元でこう囁く。
「だって、ニオに悪いじゃない。   貴女の旦那様・・・・・・寝取っちゃったなんて、私、言えないもん。私たち、唯一無二の親友だもんね・・・・・・っ」
 そう。目の前にいるこのオンナは、ボクの愛した妻ではない。このオンナは   





「それじゃあ、行ってくるねー♪」
 小柄な体を目一杯に動かして、彼女はボクに手を振る。小さくて華奢な印象を受ける腕と腰元だが、あれでジャイアントアントは自分の体重より遥かに重いものを持ち運べる。どうやらその辺を買われて、魔王軍のなんとかという人から建築関係の仕事を巣全体で請け負っているらしい。ニオはそれに駆り出されたのだ。
 穴を掘って作られた部屋をそれ一つで明るく照らすカンテラ。ボクはテーブルにおいてある皿の一枚も汚されていないのに気付く。ボクは彼女なりの愛情表現を嬉しく思った。
 此処でのボクの役割は、働き手である彼女を生活面からサポートすることだ。料理なんて作ったことなかったボクの料理を、美味しい美味しいと言って完食してくれた時などは、男ながら涙が込み上げてきたのを憶えている。
「ニオ」
「んにゃ?」
 間抜けにそう返しながら彼女は六本足を器用に動きまわして振り返る。
「忘れ物だよ」
「ん   っ」
 ボクの可愛い奥さん   ニオとジャイアントアントたちの巣で暮らすようになってから少し経った。
 太陽の無い地下での生活とジャイアントアントたちの出すフェロモンの催淫作用にも理性を失わずにやっていける程度に慣れてきた頃だ。それでもまだ、人間同士の新婚夫婦同様に、ボクらには毎晩の営みがあった。恋人同士だった頃と同じように、変わらず。
 只あの頃と変わったのは、ボクが仕事に出掛ける彼女に「いってらっしゃい」と口付け出来るようになったことと、疲れてくたくたになった彼女に癒しを与えられるようになったことだった。

 いつもより少し長めにキスをする。いつものことではあるのだが、昨日の晩は先に朽ち果ててしまった事を申し訳なく思っていたのだ。
    名残惜しげに離れる。ニオは何処かうつろな表情で、まるで離れる僕に追い縋るかのように、一瞬舌を追わして来る。蟻は仲間同士で餌を口移しするらしいが、まるでそれと因果があるかのように、ニオはキスが好きだった。
 我に返ったかのようにはっとすると、ニオは少し顔を紅潮させながらはにかむ。
「ん・・・・・・肝心なものを忘れてたよ。   これで今日も頑張れるぞっ」 
 細腕を曲げ上げて、元気をアピールする。シャツがはためき、その下の小さな丘陵が盛り上がる。洗濯しておいたのだが、そのシャツや彼女の腰に掛けてあるタオルには、彼女の汗の臭いが幽かに残っている。だが決して彼女たちの汗は悪い臭いではなく、寧ろ甘い。洗濯している最中に理性がぶっ飛ぶので、早々に切り上げなければならないほどだ。
「はは、無理するなよ? 怪我でもしたら大変だから」 
「判ってるよぅ。一杯頑張ってくるから、帰ってくるまでに一人でしちゃわないでね?」
 思わず苦笑い。彼女たちの巣に籠る催淫フェロモンの前に、最初の時期は自慰に耽るほかなかった時があって、結果彼女と大喧嘩した事がある。今更そんなことを引き合いに出されては、此方は堪らない。
「大丈夫さ。もう慣れたし」
「そう? ・・・・・・じゃあ」
 一瞬からかい気味に疑惑の目を向けるが、途端にその細腕をボクの首に巻きつけ、唇に息をふっと吹き掛けてきた。
   もう一回、して」
 そう懇願してきたが、返事も待たずに彼女は顔を押し付けてきた。軽く交わす口付けの筈が、此処では濃厚に互いの分泌液を啜るかのように舌をうねらせ、荒い息を交差させる。
 そうして離れる時には互いの液が糸となって互いの下唇を繋ぎ合わせる。
 じっと視線を合わせる。どうしてか、官能的に挑発するような彼女の目。ボクは戸惑いながらも、陰茎に血が募るのに顔を赤くした。
 


「ただいまー。はぁ、疲れたよー」
「おかえり、ニオ。・・・・・・ん? 誰かと一緒?」
「うん」
 ある日、仕事から帰って来たニオが妙な子を連れて来た。黒い胴体と触覚。一目見れば彼女達と同じジャイアントアントのように見えた。
 けれど・・・・・・足の本数が、一対多いように見える。ボクは変に思いながらも平然を装いながら、帰宅した彼女と彼女の友達を迎えた。
「友達かい」
「うんっ。帰り際に気が合っちゃってさ。序でだから、君の手料理を振舞おうかと思って」
 ニオは笑顔でそう語る。素晴らしい出会いを果たしたんだ、ということを大袈裟にも伝えたその笑顔。ボクはまたしても彼女の素直で、無垢なところに惚れ直してしまった。
「ははっ、そうか。なら今日は一段と腕を揮おうかな。あ、どうぞ、掛けてて下さい。丁度夕食が出来た所です」
 ボクはニオの後ろからおずおずと部屋に入ってきた彼女に、そう席に着くよう促す。といっても、独特の胴体をしている彼女たちに椅子など不要なのだが。改めてその子の姿を見てみた。
 ジャイアントアントは大体幼い顔付きだ。この訪問者も例外ではないようだが、その表情は何処か艶っぽい。それにニオと違って、服のボタンがはち切れんばかりに豊満な胸を携えていた。

・・・・・・あ、支度、ぼくも手伝うよ!」
 突然ニオがそんなことを言う。ボクは助かると思ったが、彼女は単に友達の前でいい奥さんを演出したいだけらしい。らしくない態度の彼女がおかしくて、くすりと笑ってしまう。
 でも、それは見当違いだったよう。台所で皿に料理を盛っている横で、ニオが怒ったような表情を向けて来たのだ。
「ちょっと、何処みてたの   っ」
「え?」
「あのねっ。初めて会った女の子の、胸をまじまじと見ているなんて、失礼でしょっ。しっかりしてほしいなぁ、もう!」
「あ・・・・・・ごめん、ごめん」
 怒られてしまった。別にそんな、やましい気持ちで見ていた訳ではない。苦笑しながら料理に最後の彩りを乗せ、食卓に運ぼうかと持ち上げると、ニオが不安げにうなだれていた。
「どうしたの?」
 そう訊くと、ニオは自分の胸を押さえる。
・・・・・・やっぱりおっぱいあった方がいいの、かな・・・・・・?」
 それを聞いて、思わず声を上げて笑ってしまった。そんなこと、ボクが気にする訳ないじゃないか。そう言うと、ニオは赤くなる。そしてボクから料理皿をかっぱらって、一人で食卓に運んでいってしまった。
「は〜い! うちの旦那様のお手製だよ〜?    べーっ」
・・・・・・あはは」
 ニオは明るく振舞いながら友達に言ってみせると、振り返ってボクに舌を出す。どうやらボクは彼女の女の子の部分をないがしろにしたようだ。
 此処でボクは一策を講じることにした。上等の食前酒を三人分、木のコップに注ぎ持って行くことにしたのだ。
「見栄張っちゃって、もう」
 ニオがめざとく芳香を感じ取ると、言葉とは裏腹に嬉しそうに触覚が動く。どうやら計略は成ったようだ。テーブルに並べながら、不意にニオの連れて来た女の子の表情を窺う。
 ギョッとした。彼女の顔は、まるで熱に浮かされたように真っ赤になっていたのだ。

「どうかしましたか? 具合、悪いんじゃ・・・・・・?」
「はぁ、はぁ。   大丈夫」
 初めてこの子の声を聞いた。絶えず元気なニオの声とは違って、落ち着いた印象だ。だが言葉とは違って、平静にはとても見えない。
 ボクは彼女に「帰って休んだ方がいいのでは?」と口にしようかと思ったとき、丁度ニオがこう言った。
「ああ、なんか体調悪いんだってさ。彼女、自分の家がかなり深い所にあるから、明日のためにぼくんトコに泊まらせてだって。いいよね?」
 確かにこの巣は全体をみればかなり深い。ジャイアントアントたちの数が多いために、居住スペースも自ずと広く、深くなるのだ。そろそろ女王候補のジャイアントアントが出てきてもいい頃だともっぱら言われている。
 ボクもそれを聞いて「帰れ」とは言えない。帰り道に倒れてしまわれては悪い。ニオの問いに迷わず頷いた。
「ありがと。・・・・・・優しい旦那様だね」
「ふふっ」
 ニオの友達はボクに礼を言って、続いてニオにそう言った。ニオは自分のことのように喜んだ。優しいといわれて気恥ずかしい気もしたが、ボクたち夫婦が褒められているようで嬉しかった。
「羨ましい   
 ふと呟かれた一言。それには今までの雰囲気にない剣呑があった気がしたが、多分何かの間違いだ。ふと視線を向ければニオは相変わらず彼女に笑いかけているし、彼女もニオに答えている。
 ボクは一人だけ椅子に腰掛け、食前酒に潤った口に料理を運ぶ。塩の加減が今日も冴えている。目の前の二人は話に花を咲かせるが、ボクは一人黙って舌鼓を打つのだった。
 今はしっかりと食べておかなければならない。何故なら、今日の晩だって例外なくニオに癒しを提供しなければならないからだ。食事が終わり、ちょっとした時間が経ってから、彼女は紅潮した顔で肩を震わせ始める。
・・・・・・そろそろ、寝よっか?」
 友達の前だから誤魔化すが、いつもならもっと露骨に甘えてくる。我慢できなければベッドに行く前に始めるほどだ。それでも甘えたいと思っているのか、最早ボクの返答を待たずしてボクの体を持ち上げる。いつも言っているが、男が女の子に持ち上げられるとなると結構プライドが傷付くのだけど。
「君はあの部屋を使ってね。空き部屋だけど、寝る支度はしてあるから」
「わかった。何から何までありがとうね、ニオ」
 友達の方がそう返すとみるや、ニオは愛想笑いも程々に、ボクに目で訴えかける。
「じゃあ・・・・・・行こっか・・・・・・?」
 それぐらいになると、最早訪問者の足が一対多かろうと、どうでもよくなっていた。





 次の日、ボクは全身がけだるくて仕方ない気分のままに朝食を振舞う。ニオと、その友達も平然と朝食を共にしていた。

 いつも通りニオを職場に送り出す。だがボクの背後では、まだニオの友人は食事を続けていたのだった。
「あれ? 彼女と一緒にいかないの?」
 するとニオは「言ってなかったっけ?」と小首を傾げる。
「彼女、やっぱり体調悪いから今日は休むの」
「え、それじゃあお医者様に見てもらった方がいいんじゃないかな?」
「うん・・・・・・ぼくもそう思ったんだけど、彼女、医者嫌いみたいで」 
 ニオも心配そうな表情をする。ボクとしては医者が嫌いだからっていうのは理由にはならないと思うんだけど、ニオも医者が苦手だそうだ。だから、ニオはその理由で納得しているらしい。
 然程気には止めなかったが、ジャイアントアントにしては珍しい性格・・・・・・悪く言えば怠け者だなぁ、と、そのときはそう思うだけだった。

「暫く此処に置いてくれないかって。君の料理が気に入ったらしくて」
「ああ。別に構わないけど・・・・・・彼女、旦那さんとかいないの?」
「うん。・・・・・・居ないからって、襲っちゃ駄目だからねっ」
「わかってるよ」
 しかし彼女の体調が悪いのは事実だったらしく、ボクが家に居る間彼女はずっと部屋に閉じこもって荒い息をしているだけだった。姿を見せるのはトイレに立ったときと昼食のときだけ。どちらのときも、ボクの姿を見ると慌てて目を逸らした。
 シャイなのかな。単純にそう思ったりもした。



「ただいまー。はふぅ、今日も疲れたー」
 定時には帰るニオもいつも通りの疲労を口に出す。だがすぐさま見せる笑顔は充実した仕事が得られていると感じている証拠だ。ニオが嬉しいと、ボクも嬉しい。関係はないけど、ニオに愉しく仕事させてくれる魔王軍に感謝したい気分がした。
「ねぇ、彼女大丈夫だった?」
 すぐにニオが彼女の心配を口にする。ボクは頷く。
「うん。ずっと息が荒いでいたけど、大丈夫だったよ」
「そっか」
 ニオが彼女の籠る部屋をノックする。すると中から驚いたような気配がした後、おとなしい声が返ってくる。
「ニオ? おかえりなさい」
「うん、ただいま! 体にいいと思って甘いフルーツもらってきたよ?」
 それを聞くとすぐさま扉が開かれて笑顔が現れるが、傍にボクの姿を見付けると慌てて視線を下にする。きっとニオには慣れているけれど、ボクには慣れていないのだろう。
 それにしても、ニオは誰とも仲良く出来ると思っていたけれど、これだけ仲良しなのは彼女だけかもしれない。今日はそう思って、終わっただけだった。



 次の日。またニオ一人が出勤する。
「やっぱり医者に見せた方がいいんじゃないかなぁ」
「うん・・・・・・でも本人は嫌がっているし」
「言っておくけれど、いくら体調が悪くても、自分の家があるなら其処で休養するのが一番だと思う」
「うん・・・・・・ぼくもそう思うけど・・・・・・
 ニオはボクの言葉を聞いていながらも、何故か追い出すのを渋っていた。別にボクだって彼女が居てもらうと困ると思っている訳ではない。だが、居る意味もわからない。ボクはそう言った。
 すると、ニオは少し恥ずかしそうにボクの言葉に答えるのだった。
「あの、ね。君に苦労かけちゃうのはホントに悪いと思っているんだけど・・・・・・彼女と話すの、すっごく楽しくて。出来れば、ずっと居て欲しいなって思ってるの」
・・・・・・・・・
「駄目・・・・・・かな」
 ニオがそう言うのなら強く拒む理由はない。けれど、ボクたちにだってプライバシーがある。彼女だって、普通のジャイアントアントに照らし合わせれば、他人の厄介になり続けることはよしとしない筈。
 そう告げるとニオは「体調がよくなるまで」という期限付きで一緒に暮らそうと提案した。ボクはニオの優しさと気遣いに負け、了承したのだが・・・・・・



 次の日。今度もニオ一人が出勤する。
「じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」
 次の日も、また次の日も。ニオは一人で現場に向かった。彼女は笑顔をよく見せるようになったが、ボクにとっては余り面白くない。見せる相手がボクじゃないから、というのもある。会話も減った。朝のキスも、いつの間にか友達との会話に摩り替わっていた。
・・・・・・・・・

 そしてある日、部屋に籠ったままの彼女に扉越しにこう声を掛けてみた。
「ごめん、ちょっと料理の支度を手伝ってほしいんだけど」
 すると咳を伴ってこう声が返ってくる。
「ごめんなさい。ちょっと、体調が悪くて・・・・・・   ごほっ、ごほっ」
「そ、そう。ごめん、こっちこそ」
 部屋の中で咳が響く。今の今まで、彼女がボク達の前で咳なんてしたところは見たことがない。
・・・・・・!」
 そこで確信した。   彼女は仮病を使っている。
 ボクは其れに気付いて怒りが込み上げてきた。ニオの優しさに付け入って、こんな・・・・・・文字通り、寄生虫みたいなことを。
 だけどボクがこのことをニオに告げる訳にはいかない。ニオは真剣に彼女を友達だとみているのだ。きっと彼奴の思惑を聞けば、ニオは傷付く。ボクが思う以上に。
 ボクは一人やきもきしながら台所に立つ。癪だが、ニオの友達であるあのオンナには昼食を作ってやらなければならない。ニオに話すか話さないかは、今決める必要はない。一先ずはそう考えることにした。
 キィ   バタンッ
 そんなとき、後ろの方で扉が開く音がした。彼奴がトイレに立ったんだろうと思って振り返らずに居たのだが、ふと背後に気配を感じた瞬間、後ろから細い腕がボクの体に巻きついてきたのだった。

 一瞬、ニオが帰ってきてボクを驚かしたのかと思った。ボクの体の前にある手には、黒い殻が覆っていたからだ。
 だがそれは違った。後ろから聞こえてきた声は、ニオの声ではなかった。
   お腹空いちゃった」
 おとなしくいて、何処かいやらしい口調。周りで盗み聞く者などいないのに、まるで誰かに内緒で囁いてきた。ボクは嫌悪の情が湧きながら答える。
「もう直ぐ出来ますよ。待ってて下さい」
 刹那「お前仮病だろ。とっとと帰りやがれ」と怒鳴る自分が頭の中に浮かんできたが、それは余りスマートではない。無駄に恨みを買う必要はないのだ。
 それに、ニオが此奴を友達だと思っていて一緒に暮らしたいとまで思っているのは確かなのだ。同じことを言うにしても、タイミングと言い方がある。ボクはじっとこらえていた。
「待てなかったら   ?」
 そう聞いた瞬間、ボクに巻きついていた腕が動き、その片方が   ボクの股間に伸びた。
 驚いて、思わず包丁をまな板の上に落としてしまう。全身の筋肉が硬直し、防衛体制を敷いた。だけど此奴はボクの股間の逸物を握り、優しく捏ね回す。余りに予想外の行為に、ボクは声も上げられなかった。
・・・・・・待てなかったら、どうしたらいい・・・・・・?」
 そう言われ、その手がボクのベルトに手を掛ける・・・・・・

   止めろっ」
 やっと体が動いた。ボクはその手を払いのけ、包丁を片手に振り返る。このオンナは刃物をもったボクを前に、くすくすと笑いながら距離を取った。
「そんなにイヤなんだ。ショックだなー・・・・・・
「な、なんのつもりだっ」
「さぁ   ?」
 そう惚けて見せると、オンナはあっさりと部屋に引っ込んでしまった。対してボクは突然の出来事にまだ息が荒いでいた。頭に血が上り、破裂しそうな痛みを伴った。
・・・・・・・・・
 色々と頭の中が混乱しているが、ひとつだけはっきりしていることがあった。
    あのオンナを早く追い出さないと、とんでもないことになる。きっと、ボクらの生活が・・・・・・壊されてしまう。



 次の日、ニオが出勤するとき、思い切ってこう切り出した。
「ねぇ。今日、あの子を医者に見せてこようかと思うんだけど」
「えっ」
 ニオは突然のことに驚いた様子だったが、簡単に頷いてくれた。
「うん。そうだね・・・・・・その方がいいかも」
 ボクはこのニオの判断が予めわかっていた。段々と話す話題が尽きていっているのは傍から見ていて気付いていたからだ。それに彼奴は段々と態度が横柄になってきている。ニオへの挨拶も億劫なのか、偶に返そうとしない。昨日、昼食を急かされたのだって・・・・・・

 い、いや。あのことは忘れよう。兎も角、ボクはニオに話を通しておいて、その昼に貸していた部屋のドアをノックした。
・・・・・・・・・
 返事がない。再度ノックする。
「おーい」
 それでも返事はない。ボクは仕方なく中に入ることにした。
・・・・・・? 入りますよ   っ!?」
 中に入ってから、体が凍りついた。此処はどこだろう、と洒落もなく考えた。だってボクらが客室として使っていた部屋が、今では白い糸に塗れて異空間を紡ぎ出していたのだから。
「なんだ、これっ。なんで糸が・・・・・・
 何年掃除してこなかったんだ、と思ったのは主夫の悲しい性か。警戒も薄いままに部屋の中に入った瞬間、キィ、と音を立てて扉が独りでに閉まった。その途端、入り口から差していた唯一の光が遮断されたことにより、部屋が薄暗く変貌した。
 この部屋の明かりは頼りないカンテラ。それが照らすのは無数の糸。これじゃあまるでアラクネの巣に迷い込んだようだ。そう思っていた矢先・・・・・・

・・・・・・奥さん以外のレディの部屋に無断で入ってくるなんて、いけない旦那様だねっ」
 嬉しそうでいて、人をおちょくる声。周囲を見渡すが、あのオンナの姿はない。
 だがちらりと上を見てみると、居た。糸に釣り下がってさかさまになっている、あのオンナの姿だ。
「なにをしているんだ! 人の部屋をこんなにして!」
 そもそも何処から集めてきた。お前はこの家から一歩も外に出ていないだろう。そんな風に思ったが、それはとんだ見当違いだという風にすぐに気付く。
 オンナは平然と糸を伸ばしながら地面に足を付けた。尻からずっと伸び続ける糸を見て、これらすべてが彼女自身で紡がれていることにやっと気付いたのだ。
 と、すれば。彼女はジャイアントアントなどではなく、アラクネの一種だということに他ならない。迂闊だった。まさか社会を築いているジャイアントアントが、別種を仲間と意識するなんて、夢にも思ってなかったのだ。だからこそ、初めて会ったときの違和感を突き詰めて考えはしなかったのに。

「ごめんね。自分なりに模様替えしてみたつもりなんだけど」
「人の家を勝手に模様替えするなよっ」
「え〜? でもぉ・・・・・・私もここで一緒に暮らすんでしょ?」
 考えもしなかった言葉に、思わず「何?」と返してしまう。彼女は指を唇に沿わせる。
「ニオが言ってたよ。私と暮らしたいって」
「ニオは、君が病気だと信じているから!」
「当然だよ。親友の言うことは絶対信じるタイプだもん。あの子」
 平然と言い放つこのオンナ。ボクは久々に相手をぶん殴ってやりたいと思うようになっていた。
 だけど必死に自分を落ち着かせる。こんな奴でもニオは親友扱いしている。事情を話す前にことを荒立てる必要はない。我慢強い選択をしよう。落ちない汚れに対する永遠とも思える手揉み洗いのときのように、腹を括ろう。
「嘘なんだな。ニオに、嘘吐いていたんだな」
「嘘じゃないよ。そう思っているのは貴方だけ」
「何処が!?」
「だってニオは私を信じるもん。ニオが信じれば、貴方のほうが嘘を吐いていることになるから。   はぁっ、はぁ・・・・・・っ」
 なんなんだ。その自信満々の笑みは。何を根拠に・・・・・・

 そのとき、彼女の顔が紅潮しきっていることに気付く。息も、いつもの何倍も荒い。目元も蕩けてしまっていて、熱に浮かされたように頭が傾いてしまっていた。
 そうだ。ずっと此処にいるボクやジャイアントアントたちと違って、外から来た別種の魔物がこの巣に蔓延するフェロモンにあてられない訳がない。いつも彼女が息を荒げて顔を真っ赤にしている理由が、ようやくわかったのだった。
   !」
 だとすれば、だ。今彼女にその症状が何倍にも強まって顕れているとするなら・・・・・・ボクは慌てて背後の扉に手を掛ける。

    ガタガタッ ガタンッ
 開かない。なんで。大工仕事の上手なジャイアントアントたちの作った扉だ。立て付けが悪い訳がない。ニオだって、休日を利用して日曜大工に勤しんでいた筈。まさか、閉じ込められた   !?
 慌てて彼女の位置を確認する。目が合ったとき、彼女はその場から一歩も動いていなかった。逃げられる心配など、端からなかったかのように。
「くふふ・・・・・・どこに行くのぉ? 折角なんだから、ちょっとお話しない? 私、貴方のこと、もっと良く知りたいんだぁ・・・・・・
「!」
 不気味に微笑んで、彼女はボクに近付く。ボクは自分でもみっともないと思いながらも、扉から離れて部屋の中を駆け回る。彼女は部屋から出る当てのないボクの足掻きを楽しそうに眺めて、追いかけていた。

「うわぁっ」
 そして   罠にかかった。
 彼女は糸を張り巡らしながら、予備で置いてあったベッドを隠していたのだ。ボクはその存在に気付かず、躓き、仰向けに倒れこむ。柔らかい感触でこれがベッドだと思い出せたが、それとは違う粘着質な感触に気付いてゾッとした。
 ネチッ
「なんだ・・・・・・これ」
 立ち上がろうと思っても、この感触がボクをベッドに引き倒す。けれど、今立ち上がらなければ、ボクは   

 なんとしても立ち上がろうとする。だけど何度でもボクは引き倒された。反射でうつむけに倒れなかったのを今更ながら後悔する。
 そして必死に立ち上がろうとしていて気付かないうちに、彼女はボクの上に跨っていた。
 ボクを上から見下ろして、ペロリと舌舐め擦りしてみせる。
「やっと落ち着くトコで二人きりになれたねぇ・・・・・・くふふ」
 彼女はそう言って、一枚だけ着ていた服のボタンを外す。はちきれそうだった服は直ぐに肩元に下がり、その白い双丘を曝した。彼女は服から腕を抜き去り、ボクの横に畳む。
「何を・・・・・・!?」
「ん? だって乱暴に脱いだら皺になっちゃうよ。バレちゃうじゃない」
「な、何の話・・・・・・
「貴方こそ。馬鹿じゃないんだから、これから何されるかぐらい・・・・・・わかるでしょ?」
 そう、ボクは犯されようとしている。妻ではない、別の女に。
 




 オンナは上半身をあらわにすると、ボクにそっと顔を落としてきた。ボクは顔を背ける。妻とは別のオンナと口付けなんて、まっぴらだ。そうアピールした。
・・・・・・ニオとしかしないってわけ。生意気だね」
 言い捨てるように口にする。ボクはわずかながらの勝利をかみしめたつもりだったが、それは直ぐに打ち破られる。
「何? 勝ったつもり? ・・・・・・くふふ」
 オンナがにやついたと思ったら、ボクの腰のベルトが掴まれる。
「あっ」
 すぐにホックが外され、中に履いていた下着をおろされる。ボクのペニスがオンナの前に晒される。オンナは、まるで待ち望んでいたかのように喜んだ。
「わぁ・・・・・・
「くっ」
「ふふっ・・・・・・私、ずぅっと我慢してたんだよ?ずー・・・・・・っと   
 オンナはそう言うと、ボクの股に顔を埋める。何をするのかと思っていると、急に局部が生温い感触に覆われる。
「!? か・・・・・・ふっ」
 慌てて体をよじる。だが根元まで皮を剥かれた肉棒はしっかりと頬張られており、抜け出すのは到底不可能だった。口の中の粘膜とペニスの粘膜が擦れ合う。・・・・・・水音が部屋に響く。
「ぺちゃっ・・・・・・んっ・・・・・・なのに、おっきくしてくれないって、ヒドイ・・・・・・くちっ」
「や、止めろって!」
「止めない。ずっと我慢してたんだから」

 オンナはわざと音を立てて、逸物を舐めあげる。舌先で尿道を責め上げ、口に頬張ると強力に吸い上げてみせる。その際、自分の唾液を吸い上げる大袈裟な音は欠かさない。
 妙に手馴れてる・・・・・・くっそ、やばい。慣れているっていっても、フェロモンの効果はボクにだって効くのだ。ボクの本能的な部分が意に反して唸りを上げる。
「ん。ちょっとおっきくなった」
 そう言われてなんとか治めようとするが、そう思えば思うほど肉棒は反りを深くする。血が溜まっていきながらもオンナは舌で愛撫するのを止めない。

 やがて、ボクの逸物はいつもの半分ぐらいまで勃起して止まった。やはり妻以外へのオンナには興味が湧かない。湧いたとして、この程度だということだ。
 だがこの程度でも挿入は十分可能。ボクは焦った。
 オンナはボクの逸物越しににぃっと笑んでみせると、根元に顔を埋めた。そして舌全体で更に裏筋を「レロォ〜」っと撫で上げる。そう、わざと口に出して、だ。
「まだおっきくなるでしょ? ね、イジワルしないで・・・・・・
 濡れた瞳で懇願されるが、ボクは揺るがない。そう悟ったオンナはペニスからでる先走り汁をズルズル啜ってから、顔を離す。口の周りがみっともなく濡れていた。
「ん・・・・・・ちゅぱっ。・・・・・・変な意地、張っちゃって」
 チュク・・・・・・チュク・・・・・・
 そこで妙なことに気付く。ペニスへの愛撫が止んでいるにもかかわらず、水音が止まない。そう思ってみてみると、女は左手の指で自分の股間   肉裂を腰布の上から擦っていたのだった。
「一週間だよ・・・・・・っ。一週間もジャイアントアントたちのフェロモンに当てられて、一週間もあんなのを聞かされて・・・・・・寧ろ、よく我慢できた方だと思わない・・・・・・? はぁ、はぁ」
「知らない・・・・・・
「知らないわけないよ。貴方たちが悪いんじゃない・・・・・・人に宛がった部屋の隣で、毎晩毎晩ヤってるのを聞かせ付けて。私に対する当て付けのつもりだったの?」
 それを聞いて驚いてしまった。この一週間、情事を欠かしたことはない。もしかして、すべて筒抜けだった? すぐに疑問は確信に変わる。

   ニオってば、キスが好きなんだって?」
「!」
「キスしないとイけないんでしょ、ニオって。だって、あんなに激しいくせに、イくときだけ二人とも、声出さないんだもん」
 当たりだ。ニオは無類のキス好きで、イくときはキスをせがむ。イジワルしてキスを避けると、後で凄くネチネチと文句を言ってくるのだ。 
「ニオは突かれるとき犬みたいな息遣いするでしょ? みっともない子だよね。でも貴方は静かに鼻で息をしてるよね。みっともないついでに、どっちかといえばニオが主導権を握っている。体位を変えるときはいっつもニオから言い出す・・・・・・
「わかった! わかったから・・・・・・
 おそらくこのオンナは此処一週間の夜の営みをじっくりと観察していたに違いない。不気味さが背筋を走った。
 だが加えてオンナはこう言う。
「お陰で、この一週間オ○ニーがすっごく上手くなっちゃった・・・・・・見て」
 そう言って突き出された左手の指にはねっとりと粘液が絡みついて、甘い臭いを発していた。それは大きな“だま”となっても、地面に落ちないほど粘度が濃かった。オンナの腰布は濡れきってしまい、その恥部に張り付いて透けてしまっていた。
「ずっと貴方たち夫婦のエッチを頭の中で思い描いてたんだ。最初はニオがイったときに私もイっていたけど、二日目からは貴方と一緒にイくようになっちゃってたんだよ・・・・・・? 貴方は最初の晩から数えて計34回イったわけだけど、私もそれぐらい。お陰で私のアソコ、すっかり指の味を憶えちゃった。・・・・・・実は貴方のオチンチン舐めてるときに、もう二回程イっちゃいそうになっちゃってたんだからね」
 34。一週間で割れば一晩約五発。いちいちどの晩に何回爆ぜたかなんて憶えてはいないが、自分がなんとなく把握している平均データには一致した。だから多分、正しい。此奴がどれほどまでに詳しくボクら夫婦の生活を盗み聞きしていたかを思い知った。
「貴方は本当にいい旦那様だけど、奥さんを抱くと同時にその親友もイかせちゃってたわけだよ。・・・・・・罪作りな旦那様。責任取ってもらわないと」
「そんなの関係ないだろ・・・・・・っ」
「ふん、頑固だね」
 言葉攻めで勃起を促そうと思ったようだが、ボクには通じない。一瞬考えあぐねたかに見えたオンナだったが、すぐに別の手が浮かんだらしく、僕の耳にそっと囁く。

・・・・・・じゃあ、さ。考え方を変えてみようよっ」
「何?」
「私たちがシてるのを、隣でニオが聞いて   ひとりでシてるところを想像してみて」
 それを聞いて思わずその絵が浮かんでしまった。   逸物にわずかに力が入る。
「私たちがエッチに喘いでいるところで・・・・・・ニオが隣の部屋で壁に耳を擦りつけてるの。必死に私達の息遣いを聞こうとしてる。きっと、愛する旦那様が親友に寝取られているのが悔しくて溜まんないんだろうねぇ。でも、不思議なことに、ニオの片手は自分のエッチなところを弄り続けてるんだ。まるで、自分が彼とヤってるみたいに想像してる」
 オンナはそう言いながら腰布を取り払い、すっかり濡れそぼった卑猥な隙間をさらけ出す。
 そして足の方から手を滑らせ、その指を股間に潜り込ませた。それだけで、オンナの肉裂はピクンと蠢く。

「ん・・・・・・っ。そう、例えば彼の舌がこんな風に動いて・・・・・・
 そう言いながら指先で入り口をかき混ぜる。
「はぅ・・・・・・っ。奥の方も、こんな風に・・・・・・
 ・・・・・・指が深く突き入れられる。水音が激しくなり、粘液が空気と混ざるのが見えた。
「あっ、ん。いい・・・・・・具合になったら、旦那様の一番好きな部分で、自分を貫いてもらう・・・・・・んんっ」
 最後にそう言って、不意を突かれた。オンナが突然ボクの唇を奪い去ったのだ。ほとんどオンナのオ○ニーショーに魅入られていた所為で、気付くのに遅れてしまった。そしてあろうことか、舌を入れられて対応までしてしまった。おそらく舌の話でニオとしているイメージを植えつけられてしまっていたのだ。
「〜〜〜っ!」
 そしてくぐもった声を送られる。その途端パタパタとボクの腹の上に何かがまぶされた。

 ・・・・・・オンナが離れる。見ると、僕の腹の上にはオンナの手と同じようにひどく粘っこい液体が“だま”になっていたのだった。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・ニオ、イっちゃったみたいだよ、隣で。ふふ、ほんと、みっともない子だね」
「うるさい・・・・・・
 ボクはそう拒む。だが、揺るがないつもりでいた心とは裏腹に、ボクの逸物は妻に見せる最大の反りをこのオンナに見せてしまっていた。
 オンナは思惑が的中したことよりも、ボクの剛直を目の当たりにしたことに喜んだ様子で、早速手で摩ったり、口に頬張ったりして大きさを確かめるのだった。
「大きい・・・・・・これでニオは毎晩満足させられてるんだぁ・・・・・・早く、挿れたい・・・・・・
 生暖かい息が激しく吹きつけられる。ボクは顔が熱くなってしまっていた。
「なぁ、もう止めよう。このことはニオには言わないでおくから・・・・・・!」
「言わないなら、ヤっちゃったほうがお得だね♪」
「ちが・・・・・・っ」
 ボクが否定するのも聞かず、オンナは淫らな汁を零す肉裂をボクの先端に宛がった。
「はぁ、はぁ・・・・・・熱い・・・・・・先っぽから凄く伝わってくるよぅ・・・・・・
「待てっ。待ってくれ。お前、ニオに悪いと思わないのか!?」
 最後の足掻きに、そう叫ぶ。だがオンナはにやりとほくそ笑んで、こう答えた。
   だからこそ、コーフンするんじゃない」
「! 待って」

 煮えたぎるような熱がボクの逸物を飲み込んだ。もうすでに潤滑液で溢れかえっていた肉裂はボクを飲み込むことなど造作もなかったのだ。
   っ!!」
「はぁぁ・・・・・・やっと、やっとだよぉ・・・・・・はぁ、はぁ・・・・・・待ち望んだ、貴方のモノが・・・・・・
「抜け! 抜いてくれっ」
「くふふ・・・・・・折角挿れたんだから、存分に楽しまないと」
 指を咥え、オンナは恥部と同じように濡れそぼった瞳でボクに言う。
 ボクはこの時点で悟っていた。もう抜け出すことは適わない。落ちるところまで落ちるしかないと。
「はぁ、はぁ・・・・・・素敵・・・・・・ニオは毎晩こんなに素敵なものを咥え込んでいたんだぁ・・・・・・ずるいなぁ」
「止めろ・・・・・・!」
 ボクは逃げ出そうと体をよじる。だがそれでボクの逸物とオンナの膣内がこすれあい、先端がオンナの奥を突いた。オンナはそれらしく嬌声を挙げる。
「あぁんっ。・・・・・・くふふ、私たち、親友だからぁ・・・・・・“これ”も共有しないと、ふこうへーだよねぇ?」
 オンナが頬を染めて、ボクを見詰める。その目は「もっと動け」という命令をボクに対してしていた。
 動けば此奴の思う壺。ボクは動くに動けなくなってしまった。
「あれ? ・・・・・・気持ちよくしてくれるんじゃないの・・・・・・っ?」
「知るか・・・・・・
「もう、面倒臭いなぁ。くふふ・・・・・・じゃあ私が動くね」
 そういわれた瞬間、オンナの中で急に締め付けが強まった。ボクは一瞬体が浮き上がる感覚に襲われると、オンナは小さな体を目一杯上下させ始めた。
「はぁっ、はっ・・・・・・・・・・・・んっ・・・・・・あふぅ・・・・・・っ」
・・・・・・くぅ」
 屈辱的だった。腰使いが、明らかにニオとは一線を画している。認めたくないが、ニオよりも気持ちいい。緩急のある動き、強い締め付け、こちらの呼吸に合わせて射精を促しているのが伝わる。
 逸物の先端が硬い肉の部分に何度もぶつかるたび、火花が飛ぶ。オンナは奥まで咥え込んだときにだけ声を漏らし、瞳をうるつかせる。
「いっ・・・・・・ひゃ・・・・・・お、奥・・・・・・っ、凄い・・・・・・っ! あたって・・・・・・はぁぁ・・・・・・っ」
「はぁ・・・・・・はぁっ」
 オンナは次第に乱れ、自分の手で自分の胸を弄る。下から鷲掴みにして形を歪ませ、指の先で薄桃色の乳首の先をくりくりと掘り下げる。その姿がボクの情念に訴えかけてくる。男の部分、獣の部分に容赦なく。
 頭が痺れてくる。段々視界がぶれてくる。何をすべきか、何をすべきでないか、判断できなくなる。只、この快楽が、病み付きになりそうだった。もしかして、これこそが妻とは違う女を抱くことの背徳感なのだろうか。
 だとしたら、神は残酷だった。

「一緒にイこぉ・・・・・・?」
・・・・・・・・・
「ん・・・・・・あ、ああ・・・・・・はうぅ・・・・・・んっ!!」
 ドクドクと脈打つ。頭の中が真っ白になる。「うっ」と声を漏らし、通りすがるオーガズムの中で神に恨みの言葉を吐いた。オンナは自分の乳房を揉みしだいていた両手をボクの腹に置き、前屈みになってボクの熱を受け止めた。
 逸物に掛かる感覚。途端に肉の壁が逸物に吸い付いてきたかと思うと、欲望を吸い上げられた。その後はふわりと柔らかくなる。下腹部に熱が垂れる。
 次第に頭の中に意識が戻っていき、むせかえる臭いの中、お互いの荒い息遣いが耳に聞こえるようになる。其処で改めて自分のしたことに気付く。
 ボクは   妻以外の女の、膣内(なか)に出してしまったのだ。

「くふふ、はじめてのエッチで一緒にイっちゃうなんて・・・・・・私たち、セックスの相性最高なんだね・・・・・・ニオとはじめてのときも一緒だったのかなぁ? ううん、きっと違うね。ニオなんかよりも私のほうが貴方と相性良い筈だもん」
・・・・・・・・・
 妻以外の女で、爆ぜてしまった。オンナの声はボクの耳に入るが、脳に届く寸前でシャットアウトされる。今は、妻に対する申し訳なさで一杯だった。だというのに・・・・・・
「一杯出してくれたねぇ・・・・・・気持ちよかったんだ? くふふ・・・・・・いつもとは違う器だったから、張り切っちゃっているのかなぁ? 貴方のオチンチン、全然萎えないじゃない」
 そう、ボクの逸物は意に反し続け、いまだにその勢いを弱めることはなかった。まだオンナの中に頭を突っ込んで、出てこようともしない。白く汚れたそれは、最早ボクの体の一部とは思えなかった。
「お昼ご飯は要らないよ。その代わり・・・・・・今日はニオが帰ってくるまで、しよ・・・・・・っ?」
 ・・・・・・ボクは悪魔の囁きに頷く気力もなかった。



   ただいま〜」
 疲労が見えながらも、充実した笑顔を振りまきながらニオが帰宅する。まるで太陽が帰ってきたように思えた。ボクは全身におもりをつけられている感覚のまま彼女を玄関口まで出迎える。
・・・・・・おかえり、ニオ」
・・・・・・・・・
「ん? どうか・・・・・・した?」
 ニオがボクの顔をじっと見詰めてくる。もしかしたら、臭いで気付かれるかも知れない。ボクは内心ビクビクしながら尋ねると、ニオはボクの頬にそっと手を当てた。
・・・・・・疲れてるんじゃない? ちょっと顔色悪いよ」
「え? う、うん。ちょっと最近・・・・・・ね」 
「そうなの!? ごめんっ、やっぱり毎晩五回は厳しいっ?」
 確かにそれは厳しいのだが、決してニオの所為ではない。誰の所為、と問われれば、当然・・・・・・

「あ、ニオ。おかえりなさい」
 このオンナだ。
 此奴は平然とニオを出迎えると、何事もなかったかのように振舞う。その演技には微塵の疚しさも感じられない。ニオも何かを勘繰ることはなかった。
「ただいま。・・・・・・じゃあ、今日は止めとこっか?」
「う、うん」
「医者には行ったの?」
 そう尋ねられてドキッとしたが、ボクが答える前にオンナが答えた。
「うん。やっぱり風邪みたい。ちょっと長引くんだって」
「そうなんだ」
「うつしちゃ悪いから、明日中に帰ろうかと思うんだけど   けほっ」
 わざとらしい咳。だがニオはあっさりとこのオンナの嘘にだまされる。
「あ、大丈夫だよ! 病気が治るまで、此処に居てもいいから!」
「そんな・・・・・・悪いよ」
「いいって。ぼく、病気なんか罹らないしさ。うつったりなんかしないって」
・・・・・・・・・
 嘘をついたのは彼奴の筈なのに、何故かボクまで悪い気がしてきた。そのことにイラつきながらも、何も疑う気配のないニオを前にして、罪悪感が募るばかりだった。
「ところでご飯出来てる? ちゃんと元気になれるお料理作ってあげた?」
「あ、ああ・・・・・・
「出来てるよ、ニオ。一緒に食べようよっ」
 お前が作ったんじゃないだろうが。思わず口に出掛かった言葉を押し込めて、先に手を引いて中に入っていくニオたちに続く。
 ふと、あのオンナがこちらに振り向いて、投げキッス。思わぬ攻撃にボクは体勢を崩しながらもそれを躱す。
「なにしてるの?」
「い、いや」
 ニオに笑われる。気付いていないのだ。ボクはオンナを睨む。彼奴はそ知らぬ顔で食卓に着いていたのだった。



 ボクには言えなかった。ニオが親友だと信じていたあのオンナに、ボクが犯されたことを。素直で無垢な彼女が傷付くのは嫌だった。だから・・・・・・言えなかった。
 だけどその所為で、その日からボクの生活は様変わりしたのだった。
「じゃあいってきまーす」
 次の日、ニオが仕事に行く。その次の瞬間にはもうボクは糸で身動きが取れなくなっていた。後ろには彼奴の姿があった。
「じゃあ私たちも・・・・・・ね?」
「や、やめ・・・・・・
 ボクがいくら抵抗しようが、最終的には部屋に引きずり込まれ、ベッドの上に貼り付けられる。

「ニオとは毎晩五回なんだ」
「うるさい・・・・・・
「くふふっ。じゃあ・・・・・・本当の恋人同士の私となら、その倍はいけるよねぇ?」
「なんで、恋人じゃない」
「恋人じゃなきゃなんだよぅ。兎に角、夜は短いけど、朝から夕方までなら結構時間あるんだし・・・・・・ガンバってね?」
「う、ぐぅ」
 そして、長い抑圧が始まる。ニオが帰ってくるまで、ひと時も休まずまぐわい続ける。その間に彼女のお腹がパンパンに、中に出した精が逆流するほどに搾り出された。
 全身が、汗と汁が区別できないほどに濡れてしまっていた。ボクは、もう何もかも考えられなくなっていた。

「ちゅ」
 キス。柔らかい・・・・・・舌が入ってきて、ボクの中を舐る。
「ん・・・・・・凄いよぅ・・・・・・冗談で言ったのに、本当に十回出来るなんて・・・・・・んっ、今度は・・・・・・・・・・・・貴方のオチンチンの味を憶えさせられちゃった・・・・・・っ」
 白濁液を絶えず漏らす割れ目は、いつかのときよりと比べてだらしなく開いたままになっていた。
「もう貴方無しじゃ眠れないよぅ・・・・・・もう、ニオが帰ってくるまでだけじゃ我慢できない・・・・・・ずっと貴方のを挿れていたい・・・・・・
 自身の秘所に指を添わせ、子種を掬って口に運ぶ。吐き気に似た感情が噴き出してきたが、胃の中は空だ。
・・・・・・そうだ、いいこと思いついちゃった」
 子供が見せる様な笑み。ボクの顔を覗き込むと、腕の中に引き寄せる。
「これからは朝から夕方だけじゃなく、ずーっと私と一緒だよぉ・・・・・・?」
 その言葉の意味は判らなかったが、事実、次の日の朝にニオと顔を会わせたのが最後、この部屋で糸に拘束され続ける日々が続くのだった・・・・・・


−−−−−−−−−−−−−−−


 最近、本調子が出ない。
 原因は判ってる。旦那様との夜の営みがご無沙汰なのだ。
(むむぅ。これは何とかしなければ)
 ぼくは仕事終りに店を紹介してもらい、男性用の精力増強剤を箱買いした。効き目は最高でサキュバス御用達、これを飲めばどんな男でも一発で野獣に様変わりすると触れ込まれていたので、期待できそう。
(ふふん♪ 今夜は熱い夜になりそっ)
 久々の営み。今までは遠慮していたけれど、今日と言う今日は我慢出来ない。今まで毎日欠かさずに愛を確かめて来たんだ。一日空いただけで・・・・・・切なくなってしまう。

 高まる気持ちを押えて巣に戻る。自分達夫婦に割り当てられた部屋の扉を開ける。何時もなら愛する旦那様の手料理の甘美な香りが疲れた体を誘惑してくるのだけど、今日は何の臭いもしてこない。
 変に思いながら、旦那様の名前を呼ぼうと思ったけれど、其処で彼女の声が響く。
「あら、おかえり。ニオ」
「うん、ただいまー・・・・・・あれ?」
 ととと、と駆けて来たのは彼女だけ。何時ものことだから気に留めていなかったけれど、いざ旦那様のお迎えがないということになると、寂しくなる。ぼくのこと、どうでもよくなっちゃったのかなと、ある筈のないことを考えてしまう。
 雑念を振り払う。目の前の彼女は眉を下げ、申し訳なさそうに告げる。
「ごめんなさい・・・・・・彼に風邪をうつしちゃったみたいなの」
「え? た、大変っ」
 今までどんなことがあっても健康が取り柄だった旦那様。そんな彼が風邪をひくなんて、悪い冗談みたいだった。
「ごめんなさい。私は見ての通り、元気にはなったのだけれど・・・・・・
「うん、それは良かったんだけど・・・・・・それより、具合は?」
 彼の様子が一刻も早く知りたくてそう尋ねると、彼女は何故か瞳を潤ませる。
「うん、とっても良い具合だった。ニオが気に入るのも判る・・・・・・
「え? なんのこと? 具合は良いの?」
「あ、いや・・・・・・だ、旦那様、風邪をこじらせちゃって・・・・・・今落ち着いたところ」
「え!?」
 それを聞いて不安が込み上げてきた。彼が苦しんでいるんだとしたら、妻であるぼくが傍にいてあげないと・・・・・・
 今まで夜の営みも務められないほど疲れていたようだし、思えば考えられないことじゃなかった。寧ろなんで気付けてあげられなかったのだろうと悔しくなった。その想いで急ぎ部屋の中に入るけど、彼女はそんなぼくを慌てて引きとめる。
「駄目っ。ニオに風邪をうつしちゃ、彼、悲しむよ?」
「え? で、でも・・・・・・ぼくが奥さんだし・・・・・・
「ニオは今仕事中でしょ? 風邪なんてひいたら大変!」
「じゃ、じゃあ誰が彼の世話を?」
「私がする」
 少し驚いたけれど、なんとなくこうなるんじゃないかとは、不思議だけれど思っていた。彼女はぼくを掴んだまま続ける。
「元はと言えば私の風邪をうつしちゃったのが原因。その、彼にはお世話になったし、恩返しもしなくちゃいけないと思っていたの。こんなこというと変だけれど・・・・・・この機会を逃したら、迷惑かけただけになっちゃうと思って」
 それを聞いて、ぼくは何も言い返せなくなってしまった。其処でぼくは忘れていたことにふと気付く。
 彼との約束。彼女が元気になったら、家に帰すこと。今彼女は元気だ。なら約束通り、彼女には帰ってもらわなきゃ・・・・・・
 でも、彼のお世話をしてくれるっていってくれているし、実際風邪をうつして悪いと思っているようなのだし・・・・・・此処で帰ってとはやっぱり言えない。
 約束を破ることになってしまうけれど、ぼくは彼の為にあえてあの約束は忘れる事に決めた。
「そっか。ならぼくの大事な旦那様、宜しくね」
「ありがとう、精一杯頑張る。ところで、今日のご飯なんだけれど、私お料理とか作れなくて・・・・・・
「そっか。じゃあぼくが買ってくるよ」
 早く元気になってほしいから、何も食べさせてあげないなんてことは出来ない。ぼくが自身の目で確かめたものを彼に食べて元気になってほしい。それが今までぼくを支えてくれた彼への感謝の気持ちになると思ったのだ。
 兎に角荷物になるから買ってきたおくすりは置いておくことにしようかな。ああ、でもどうせ彼とは出来ないし、捨てて来ようかな・・・・・・。そう思っていると、彼女が興味深そうにそれを指さすのだった。
「それは何?」
 今までの道のりを抱えて来たくすりの箱を、地面に置く。
「これ? えっと、その・・・・・・
「『これで貴女の旦那も汁奴隷、シルドランEXハイパワーZウルトラ1000』?」
「あわわっ」
 パッケージを読まれてしまい、慌てて隠すけれど、彼女はニヤリと笑うのだった。
「これ、旦那様に飲まそうと思ったんだ?」
「あうう・・・・・・
 顔が熱くなる。幾ら友達といえども、夜の生活に飢えているなんて知られるのは、恥ずかしすぎる。
「はぁ、折角だけれど、これは今の彼には毒だよ。これ、サキュバス用の調教薬じゃない? 汁奴隷って・・・・・・やっぱり、元気な状態で使わないと」
「で、でも消費期限があって。捨てて来ようかと思うんだけど」
「ああ、捨てておくよ、これくらい。いいからご飯買ってきてあげて? 彼、昼食も食べてないから」
 そう言われると、なんだか心強い。私は精一杯彼女に感謝を述べて、彼の為に何を食べさせてあげればいいかを頭に思い浮かべながら出掛けるのだった。



「くふふ・・・・・・いいものが手に入ったよ?」
 新しい玩具を買ってもらったかのように喜ぶ、オンナの顔。その胸には数本の瓶が抱えられていた。その一本を抜き出して見せてくる。
「エッチになれるおくすり。ニオが買って来てくれたよ。私達の仲を応援してるってさ」
「ん〜!? ん〜っ」
 ボクは口を糸で塞がれていた。ニオが帰ってきたということはオンナが部屋から出て行ったのを見て判る。声を上げて助けを求めようと思ったが、先手を打たれてしまっていた。
 だが、ボクには判らなかった。何故、ニオがこんなものを買ってきたのか、判らなかった。何の突拍子もなくこんなものに手を出す娘じゃなかった筈なのだ。だとしたら、このオンナに頼まれて・・・・・・
 だったら猶更おかしい   。ボクの思考が疑念に満ちて行く最中、口をふさぐ糸が取り浚われる。
「え〜っと、一か月に一本? うわ、相当効果あるんだ」
 瓶に書かれている用法用量を見て、そんなことを業とらしく語る。
「じゃあ、五本だねぇ   ?」
 思わず目が見開く。
「な、何でそうなるっ。計算出来ないのか!?」
「え〜? だってさ、ニオとするのが一晩五回でしょ? 私、その五倍は貴方としたいから・・・・・・
 死ぬ。間違いなく死ぬ。
 するとこのオンナは口元に手を添えて嗤う。
「くふふ、理想はってこと♪ 早漏が好みって訳じゃないから、それぐらいは余裕が持てればってこと」
 そう補足しながら瓶を傾ける。ボクは当然、拒んだ。すると続けて低い声でこう言われる。
   拒むの? じゃあ、私達のこと、ニオに話すよ」
 背筋が凍った。
「ニオ、きっと傷付くだろうねぇ」
「お、脅すのか」
「脅すよ。貴方が好きだから」
 悪びれる風もなく、さも当然といわんばかりにオンナは言い放った。
「ずっと体を重ねていたい。ずっと貴方に満たされていたい。貴方さえいれば、いい。他に何もしたくない   貴方との交尾以外は」
「そんな・・・・・・正気じゃない!」
「好きって気持ちが、最初から正気な訳ないでしょ?」
 その一言で、自分の中の何かが崩れた気がした。
 気が付けば、ボクの傍には五本分、空の瓶が転がっていて、ボクの上には濡れた声を上げて乱れるオンナの姿があった。



 あの日から、彼の顔を見ていない。
 彼女にお世話を頼んでから、ぼくに風邪がうつらないように彼女の部屋で寝る事になっていた。
・・・・・・・・・
 テーブルに置いた食事。ぼくが買ってきたものだ。彼女はぼくが買ってきた食事を受け取ると、さっさと部屋に閉じこもる。彼の事を聞いても「まかせて」の一言しか返ってこない。
・・・・・・うぅ」
 溢れそうな想い。気付かないふりがこんなに辛いんだ。
 彼の姿を見なくなってから、ずっと隣の部屋で声が聞こえる。甘い声・・・・・・何をしているのか、直ぐに判った。
 今だって、食事にかこつけて彼が奪われている。最近は、遠慮がちだった声もあからさまになってきた。
・・・・・・なんでこんなことになっちゃったのかな」
 いつの間にか、涙が頬を伝っていた。
 
 そんなとき、不意にあの扉が開いた。ぼくは彼が解放されたと思って、立ちあがる。けれど、其処にはぼくの姿に驚く彼女の姿があった。
   あら、いたの?」
 彼女はぼくの姿を見て、勝ち誇ったような笑みを見せている。その途端、鼻を突くのは生臭く甘い匂い・・・・・・彼の・・・・・・臭い   
 一糸纏わぬ姿の彼女は白濁液を体中に塗したままで、それを指で掬って舐める。まるで蜜を味わうように。そしてぼくに向かって歩みよって来るのだった。
「彼、まだ当分風邪が治りそうにないから」
「そ、そう」
 ぼくは思わず目を背ける。彼女はくすりと笑った。
・・・・・・いい旦那様ね。こんな私にも、優しくしてくれるの」
   !」
 彼女はそうだけ告げて、また部屋の中に戻っていった。ぼくははっと気が付いて扉に手を掛けるけど、いくら引いても扉は開かない。
 中から声が聞こえる。
「ねぇ・・・・・・私の事、好き?」
 はっとした。続くであろう返答に耳をそばだてた。
 そして・・・・・・聞いてしまう。
   好き・・・・・・だ」
 そう、言った。
「ねぇ、ニオとどっちが良い?」
「あんた、だ・・・・・・
・・・・・・うぅ」
 涙が止まらない。やっぱり、ぼくのことなんて、どうでもよくなっちゃったんだ。
 中では嬉しそうな彼女の声が響く。
「ん・・・・・・はぁっ・・・・・・嬉しい・・・・・・私、もう貴方なしじゃダメ・・・・・・もっと気持ちよくして・・・・・・
 激しく擦れ合う音が扉を介して耳に届く。
「おっぱい・・・・・・イジめて」
 吸い付く音。舌で舐めずる音。
「あぁ・・・・・・・・・・・・はぁっ、はぁっ・・・・・・二人の、子供・・・・・・作っちゃ、お・・・・・・っ?」
 頷くような間が流れた。ぼくには、到底無理なこと。働きアリのぼくに、子供は出来ない。その点彼女は・・・・・・

   はぅ・・・・・・ぼくの・・・・・・旦那様・・・・・・
 気が付けば、ぼくは自分の腰布の中に指を差し入れていた。ずっと営みを我慢してきた今、旦那様が奪われている今、ぼくは自分を慰めずにはいられない・・・・・・
 クチュ・・・・・・
「はあぁ・・・・・・
 久しぶりの挿入感。声が漏れる。指だけじゃほんとは物足りないのだけど、今はこれだけでも満足出来そう。
 チュク・・・・・・ネチャ
 指先で感じる熱い感触。止め処なく溢れるエッチな汁は凄く濃い。指先の固い部分で自分の突起をつまんで軽く潰す。彼がぼくのをイジめてくれるのを思い浮かべながら。
「ひぅっ!? あ・・・・・・ん」
 あそこから電流が体を巡る。彼の唇が、一日の汗で蒸れているぼくの中心にキスして、それで舌で嘗めてくれる・・・・・・そして、ぼくの豆を吸う。
「はぁ・・・・・・ああっ、ん・・・・・・いい・・・・・・
 そろそろ限界が近い・・・・・・ぼくは夢の中の彼にせがむ。
 彼のオチンチンがぼくの中心に宛がわれる。熱いそれがぼくの中を貫いて行くのだ。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・
 指が一本、二本・・・・・・三本、入る。ぼくはそれで中を掻き交ぜる。愛液がぼたぼたと地面に落ちる。
「あ・・・・・・キス・・・・・・
 頭が痺れて来た。夢の中で彼にせがむ。彼にトドメを刺してもらわなきゃ、絶頂は味わえない。だけれども、ぼくが求めたのは幻想……口付けは空を切り、ぼくは、達した。
「ん・・・・・・ひぅ・・・・・・っ」

「ん・・・・・・あぁっ」
「くぅ・・・・・・
 と、同時に中で二人の声が聞こえる。その後の静寂に混ざる荒い息遣い。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・今日も、良かったよ・・・・・・?」
 ちゅ、という音。
「今日はもう寝よっか? 夢の中でもしようね・・・・・・
 夢の中。ぼくは粘液に塗れた手を見る。
 今までのぼくらは、夢の中でさえ愛を確かめて来たと言うのに。どうしていま、彼の傍にいるのがあの女なのか。
 ぼくはどうするかも判らず、自分の部屋で只、自分を慰めるだけだった・・・・・・


――――――――――


 ぼくは心の中に重たい物を抱えながら現場に出る。体調が優れない。仲間からの心配もよそに、ぼくは気を失ってしまった。

 気が付けば、病院。話を聞けば、仲間たちが仕事を中断してまで運んでくれたそうだ。ぼくは迷惑を掛けた事に負い目を感じてしまった。
 ぼくが目覚めたのを見計らってか、病室に誰か入ってきた。
「こんにちは」
 黒髪で、肌の白い綺麗な女の人。白衣ではなく、鎧を着ている。サキュバス・・・・・・かな? 此処は魔界だし。でも、ぽくないなぁ。
 そんな風に思っていると、その人はぼくの傍に腰掛けた。
「えーっと。私、あの現場の監督なのだけれど、覚えてる?」
「あ、そう・・・・・・ですか」
 責任者の方。ぼくが倒れて、心配しに来てくれたんだろう。けれど、顔を見るのは初めてだった。
「何かあった?」
「いえ、なんでもないんです・・・・・・ちょっと、疲れていて」
「私はジャイアントアントたちの監督をしてるのよ。例え、あの場限りの縁だとしても、君達の顔と名前は覚えてる。君はあの中でもいつも生き生きと仕事をこなしていたじゃない。それが、最近は上の空・・・・・・何かあったと考えるしかないじゃない。他の皆も君のこと、気にしてたよ?」
・・・・・・・・・
 皆に心配されていたのか。ますます悪いことしちゃったな・・・・・・でも、これはぼく個人の問題なのだし、皆に迷惑かける訳にはいかない。
 そう思っていた矢先、責任者の方はこう言った。
「私が君の力になる。正直、君の思いつめた顔を見続けるのはつらいの」
 そんなにぼく、顔に出てたんだ。
・・・・・・あ、あの」
 不意に涙が零れる。ぼくの背中を、この人は優しく撫でてくれた。
「大丈夫。大丈夫だから   
 ぼくはその言葉に後押しされ、自分の旦那が友達に奪われている事を語った。それで、どんな気持ちになったのか、どうすればいいのか分からないということも。
 すると、この人は真剣に考えてくれてから、こう答えた。
「成程、それは辛かったね」
「ひぐ・・・・・・うん・・・・・・
「君は純粋な子。そして弱い」
 そう言い放ったあと、この人はそっとぼくに耳打ちする。
   私が、策を教えてあげる」
「え?」
「愛しの旦那様の目を覚まさせ、且つ同時に彼と離れられなくなる“かすがい”を打ち込む方法」
 自身に充ち溢れたルージュ。ぼくは光明を見た気がした。
「お、教えてくださいっ。その・・・・・・方法」
「うん。   
 ・・・・・・そう耳打ちした後、この人は可愛らしく笑う。ぼくはその方法を聞いて、首を振った。
「そんな・・・・・・ぼ、ぼく、ジャイアントアントだし、そんな、出来ません!」
「大丈夫、大丈夫。君ならね」
「そんな、だって」
「大丈夫なんだって。私が保証するから。それとも、旦那様が取られたままでいいのかな?」
 それを言われると・・・・・・ぼくは決心せざるをえなかった。


               


 ぼくは巣に戻ると、言われたとおりにすぐさま女王様   この巣を取り仕切るクイーンアントであり、ぼくのお母さん   に謁見を賜る。
 久しぶりにみたぼくのお母さんは、変わらず若い姿でぼくに微笑む。
「ニオ、どうしたの? 今日、倒れたと言うじゃない」
 お母さんはぼく達一人一人の顔と名前を覚えてくれている、良いお母さんだ。愛する旦那様との愛の結晶だから当然だと、恥ずかしげもなく言っていたのには憧れていたものだった。
「はい・・・・・・あの、その」
 ぼくはそんな、優しいお母さんに告げるのを躊躇った。お母さんはぼくが語り出すのを静かに待っている。
「あの、えっと」
   ニオ、旦那様は元気?」
 そんな風に尋ねられたから驚いてしまう。
「あ、えと、げ、元気・・・・・・です」
「そう。外で恋愛して男性と結ばれたのは貴女だけだから、皆応援してるのよ」
 お母さんはそう言って、優しく微笑んでくれた。
「だから、遠慮なく言って。貴女の幸せを、誰もが祈っているのだから」
・・・・・・は、はいっ」
 背中を押された気分がした。ぼくは、あの人に言われたままに、お母さんにこう告げた。
「ぼくのお腹に・・・・・・   赤ちゃんができました」
 お母さんは吃驚した表情をみせると、直ぐに満面の笑みで拍手してくれる。
「そう、おめでとう!」
「あ・・・・・・は、はい」
 ジャイアントアントが子供を宿す。つまりそれは新しい女王蟻の誕生。女王蟻の資格を持つ者はお気に入りの男を連れて巣を出る事になる・・・・・・
「そろそろだとは思っていたけれど、やっぱり貴女だったのね。嬉しいわ。自力で男を見つけて来られた貴女が、子供を宿すなんて。あ、今日倒れたのはそう言う事なの? 病院で調べてもらったのね?」
「は、はい・・・・・・
「? どうしたの? 浮かない顔して」
 「いえ」と答える。ぼくの中に罪悪感が募る。
    ホントは、妊娠なんてしていないのだ。
 だけど、子供が出来れば彼と一緒に巣を出て、二人きりになれる。子供が出来れば、ぼくと彼とは離れられなくなる。
 子はかすがい。あの人は最後にそう付け足した。



「ん・・・・・・ちゅ・・・・・・ぴち・・・・・・っ」
 彼女に捕まってどれくらいが経っただろうか。もう時間の感覚すらない。
「はぁ・・・・・・あちゅい・・・・・・ジュルル」
 彼女の豊満な胸に挟まれて、逸物はみっともなく汁を放出しながら怒張する。もう三回ほど彼女の中で果てたというのに、彼女の柔らかい部分で元気を取り戻したのだった。
 彼女は先から出る先走り液を口の先で吸い込み続けながら、舌の上に転がして味わい続ける。その顔はすっかり上気していた。
「ね・・・・・・え。もういいでしょ? 挿れてよ・・・・・・
 ボクは動く。彼女を抱き寄せ、自分から彼女の秘所に腰を落とすのだ。
 あれから何度も味わった秘裂はすっかり開け広がってしまい、すんなり奥の固い部分まで達してしまう。魅惑された瞳の彼女はボクの首に腕をまわし、舌をまぐわせる。
 ゆっくりと活塞運動を行う。奥に達する度彼女は声を漏らし、可愛く震える。引く度に中からいやらしい汁が掻きだされる。
「ん・・・・・・やぁ・・・・・・イジめ、て・・・・・・もっと・・・・・・っ」
 泣きそうな声。長い時間していれば、弱点も判る。彼女はわずかながら、奥の方を強く擦りつけられるのが弱いらしい。そして自分が弱点を攻められているのを実感し、喘いでいるのだ。
「はぁ、はぁ・・・・・・あぁ・・・・・・・・・・・・も、もう・・・・・・貴方でしかイけなくなっちゃう・・・・・・
「ふぅ、ふぅっ・・・・・・出す、よ」
「あ・・・・・・中に・・・・・・下さ、い」
 そう懇願されたので、思いっきり中に放出した。視界がぶれる。彼女は表情を歓喜に染め、ボクの子種を受け止めた。

   はぁ、はぁ・・・・・・ホントは、ね」
 彼女は息を荒げながら胸を押し当てる。
「ホントは、ニオに悪いと思ってるの」
「え?」
「だって、あの子、ホントにいい子だもん。確かに馬鹿だけど・・・・・・優しい子。だから、だからね   ?」
 目の前の彼女が、まるで懺悔をするかのように目に光を溜めていた。
 だが途端に周りが騒がしくなった。部屋に誰か大勢が入り込んで来たのだ。
「!? なに!?」
 彼女は表情を一変させる。封鎖された扉の前にたくさんの気配が集まると、「せーの」の掛け声と共に扉が吹き飛ばされる。
 その向こうには、ジャイアントアントたちが不気味な程の笑顔でボクたちを迎えるのだった。
「失礼しまーす」
「え? な、なに?」
 見知らぬジャイアントアントが入って来る。それを体で静止しようと彼女が立ち塞がるが、一瞬で掴み上げられ、天井に投げ飛ばされた。
 ぼくは彼女の事が心配だったが、それ以上に何処かほっとしてもいた。
 目の前のジャイアントアントはさもめでたいことがあったかのようにテンション高く、ボクにこう言い放った。
「おめでとう! ニオが君の子供を妊娠したんだって!」
 ぼくはその報告を聞いて、目が覚めたような気分がした。自分が全裸なのを忘れて立ち上がり、目の前のそのジャイアントアントを掴む。
「ホント? それ」
「え、ええ。あの、その〜」
 この子はボクの下半身を見て、顔を赤くする。ぼくは慌てて服を着て、改めて彼女達に向く。
「ニオは?」
「外でお待ちです」
 ボクは急いで外へと駆け出した。ボクらの愛の結晶。それを目前にして、今まで体を重ねていた彼女のことは頭の隅に追いやってしまうのだった。
 そして外に出てみると、たくさんのジャイアントアントたちがボクを取り囲んで、お祝の言葉を口々に言うのだった。
「おめでとう! 新しい女王様の旦那様!」
「子供想いの父親になってあげてね!」
「あ、あはは・・・・・・どうも」
 改めて見回すと、皆似てるな。まぁ、皆姉妹みたいなものだし、似ていて当然か。
 ボクは改めてその中からニオを探す。此処に来た頃は良く間違って声を掛けたりしていた。そんなことを思い出す。
 数が多いなと思っていると、一人のジャイアントアントがふと目に付いた。恥ずかしそうに顔を伏せて、手を腰の位置でもじもじしている。顔は伏せている所為で判り辛いが、その姿で判った。
    ニオが嘗てボクにプロポーズした時の、彼女の仕草そのままだったからだ。
 ボクは彼女の前に立ち、そっと跪く。彼女は察してくれたようで、はっと顔を上げた。
「ニオ」
「あ・・・・・・うぅ」
 彼女は泣き出してしまった。ボクは申し訳ないことをしたと思いながら、彼女を抱き締め、キスをした。
「ごめん。ただいま」
・・・・・・おかえり」
 このやり取りに、少し笑ってしまった。
「いつもはボクが、おかえりっていう立場だったよね」
「うん・・・・・・
 ニオは何処か悲しげに俯いた。ボクはそれに気付いて、どうにか明るい話題にしようと、ニオのお腹をさすってあげる。・・・・・・赤ちゃんの胎動が、元気良く手に伝わる。
「ニオとの子供かっ。きっと皆、君みたいに元気な子だよ」
 するとニオは腫れものにでも触ったかのように取り乱す。
「う、うん・・・・・・そうだね」
・・・・・・?」
 妙な反応。ボクは何かおかしいと感じながらふと後ろを向く。其処には、ボクを監禁してきたあのアラクネの姿があった。
 彼女は、酷く悲しそうな目をしてボクを見詰めていた。ボクは煩わしく思いながらも、彼女の手を取り、ニオに引き合わせる。
 二人はお互いの顔を見て、硬直してしまうのだった。
「ほら。さっき、ボクに言ったことをニオにも言ってごらん」
 そう促すと、彼女は恥ずかしそうに、ニオに項垂れる。
・・・・・・その」
・・・・・・・・・
   ごめんなさい」
 彼女は素直に頭を下げた。
「最初は悪戯目的だったんだけど・・・・・・その、彼のこと・・・・・・好きになっちゃったの。それで・・・・・・その」
「ぼくは、彼の奥さんなんだよ」
 ニオが鋭く彼女に睨みつける。
「ぼくは彼のこと一番愛してる。だから、君の気持ちが判らない訳じゃない。けれど・・・・・・それだったら、ぼくの気持も考えてくれたって・・・・・・いいじゃない」
「ごめんなさい」
 ニオは溢れる涙を拭き取る。けれど、この件に関してはボクも同罪なのだ。
「ニオ。ボクも悪かった。ニオの気持ちも考えず・・・・・・
・・・・・・君も君だよ」
 ニオはボクの腕を胸に抱き寄せる。彼女のよりも小ぶりの胸は固かった。
「君は、この女のこと、どう思ってるの? もうウソは無し」
 腕の締まりが強くなる。ボクは言うのを躊躇した。だって、心の中に燻ぶるのは、あの背徳の味なのだから。
・・・・・・好き、だ」
「!」
 ニオと彼女の表情が相対する。だけどボクは誤解のないように付け足す。
「ニオと同じくらい、好きだ」
「同じくらいって」
 ニオからの呆れられた一言。対してアラクネは少し考える素振りを見せる。
「じゃあ・・・・・・私とニオが関係を修復すれば、三人で愉しめるってこと?」
「え?」
「ニオが奥さんで、私が愛人」
 そう指さす。ニオが複雑そうな表情を見せる。
「そんなことはもういいっ。兎に角、ぼくは彼と一緒に此処を離れるのっ」
「え・・・・・・
 彼女は愕然とした表情を見せる。
「付いて来ないでよねっ。行こ!」
 ボクはニオに引かれて、その場を後にした。彼女の姿がジャイアントアントたちの中に消えていく。   心の中に、ぽっかりと穴が空いた気分になった。


−−−−−−−−−−−−−−−


 あれからニオは古巣の姉妹たちの半数を連れて巣からでて、新しい巣を近くに作った。
 そして数か月。ニオのお腹は以前よりも遥かに膨らんでいた。
「ニオ、お腹大きくなってきたな」
 あれから何時もの通り愛をはぐくんできたが、ニオの体に赤ちゃんがいるとなると自粛せざるを得ない。ニオは日々大きくなる自分のお腹に驚きながらも、自分のお腹をさするのだった。
「うん♪ (ホントに赤ちゃん、出来てたんだ。あの人、言ってくれればよかったのに♪)」
 ニオは幸せそうに笑ってくれる。何れはこの子達もおばさん達に混じってせっせと働くようになるんだろうな。
「でも、そろそろエッチはやめないと」
「え〜」
「え〜じゃないだろ」
「でも、旦那様の夜伽の勤めは妻の役目だよ」
 そんなことを話していると、機を見計らっていたかのように部屋がノックされる。挨拶をして入ってきたニオの姉妹達だが・・・・・・妙に顔が紅潮しているのが目についた。
「ニオ・・・・・・じゃなくて、女王様。折り入ってご相談が・・・・・・
「ん? 何?」
「あの・・・・・・だ、旦那様を・・・・・・お貸しいただけませんか?」
 突拍子もない申し出だった。
 だが出来たばかりの巣には彼女達の為の男が圧倒的に少ない。特に魔界ともなれば、男はすでに別の魔物の所有物となっていることが多いため、フェロモンに釣られて迷い込む男など滅多にいないのだ。
「失礼は承知ですが・・・・・・はぁ、はぁ・・・・・・わ、私達も、我慢が・・・・・・
「いいよ」
「ええ!? あ、あっさり決めるんだな」
「当然じゃない。上に立つ者として、妥協はしないと。それに此処にいる皆には一度助けられたしね」
 ニオがそう言うや否や、ぼくは押し寄せるジャイアントアント達に集られる。皆が体中に汗を伝わせ、取り払われたシャツの奥では蜜が垂れ下がっていた。
「では・・・・・・失礼します」
 一歩前に出て来たジャイアントアントに、ボクは逸物を曝け出される。妻とは別の女性を抱くのに少し緊張している自分に気付くが、ボクはもっと別のことに気付いてしまった。
 目の前のジャイアントアント。   足が一対、多いのだ。

「久し振り」
 ボクはそう言われてギョッとした。そのボクの態度を見てニオも状況に気付いたようだ。
「あ! き、君・・・・・・!」
「久し振りね、ニオ。・・・・・・追い駆けてきちゃった」
「なんで!」
 すると彼女はボクの顔を手の届かない何かを見るような目で見詰めるのだった。
「彼が好きだから。・・・・・・こんなこと、言える立場じゃないのは判ってるんだけど・・・・・・私を、彼のものにしてほしいの」
「本気?」
 ニオの疑う表情。彼女は頷く。途端にニオは怒っているような表情を見せたが、直ぐに諦めたように溜息を吐くのだった。
・・・・・・そもそも、君を家に招いたのはぼくだよ。ぼくにも落ち度はあった」
「ニオ・・・・・・
「判ったよ。君を彼の愛人として、認めてあげる。・・・・・・但し!」
 彼女の傍にニオがすり寄り、ボクの逸物に二人の息が掛る。
   するときは、ぼくと一緒に・・・・・・ねっ?」
「ええ・・・・・・
 そう言いあって、くすりと笑う二人。そして二本の舌が、ボクの逸物を舐め上げる。荒い息を塗しながら、お互いの舌を交差させつつボクの竿を刺激し始める。
「つ・・・・・・あぁっ」
 彼女が根元を撫でると、ニオが鈴口を咥える。二人とも片手は自分の股間に当てらえて、獣の様にボクを貪り続ける。ボクは直ぐにニオの口に爆ぜた。
「ちゅっ。ん・・・・・・君の精子・・・・・・ぼくらの赤ちゃんの、栄養になるんだね・・・・・・
 唇に白い糸を引かせて、うるんだ瞳で見詰められる。こうなれば、ボクの逸物も一瞬で元通りになる。
「じゃあ・・・・・・私、挿れるね・・・・・・?」
 彼女がボクに跨る。すでにお互いの場所は準備出来ていた。
 深く腰が落とされる。其処はまるで、ボクの帰りを待っていたかのように形が嵌っていた。それだけでイきそうになったが、彼女はボクの高まりが冷めるのを待ってから動き始める。
「先にイっちゃダメ。久し振りなんだから、たっぷり楽しませて・・・・・・?」
「はぁ・・・・・・くっ」
 彼女は口元を手で隠しそう言うと、耽るように陰茎を胎内に擦りつける。ボクは彼女の体については教え込まれていたので、適切な場所を探り、腰を上げる。彼女は甘い声を上げ、体を前のめりにして喘ぐ。
「はぁうっ。ん・・・・・・はぁっ、そこぉ・・・・・・っ」
 その時ニオが悪戯な笑みを見せてボクの横に寝る。白く汚れた顔がボクに近付く。
「ぼくも構って・・・・・・
 首が捉えられ、舌を突き入れられる。ボクの上では彼女が腰を振り続ける。甘臭い臭いに頭の中が渦巻いてくる。
「ねぇ、ニオ・・・・・・私達の分・・・・・・
「あ、そっか。じゃあ、皆で・・・・・・しよっか?」
 ボクから唇を離すと、女王様はそう提案する。
 これには働きアリも大喜び。
「やったっ。じゃ、じゃあ・・・・・・手、お手を拝借・・・・・・!」
「私、足!」
「はぁ、はぁ・・・・・・早く欲しい・・・・・・ん、ちゅぱっ」
「男♪ 男♪」
・・・・・・死ぬ・・・・・・!?)
 身の危険に、冷汗が噴き出るのだった・・・・・・





 その半年後、ニオは無事に第一子を出産した。
 ボクには毎日の楽しみが増えた。娘の成長を眺める。父親としてこれほど幸福なことはないと知った。
 巣の中も平和そのものだが、巣全体の男不足だけは今現在も解消されず。毎晩毎晩ボクはニオと彼女だけでなく、働きアリの相手も勤めなければならなかった。(力尽きたら薬で無理矢理復活させられる)
 そして遂には・・・・・・
「お父さん・・・・・・っ」
「待てっ。そ、それは人間にとっては色々と問題が」
「だって、お父さん以上のいい男がいないんだもんっ。お父さん・・・・・・好き」
「いや、お父さんはね・・・・・・って、お父さんを担ぐなっ。待て、そっちは寝室・・・・・・!?」
 すっかり成長した娘に、いつかニオにされたように担ぎあげられ、寝室に放り込まれる。其処にはお腹を大きくしたアラクネの姿があった。
「あら、リオちゃん。お父さん、連れて来てくれたの?」
「うんっ、お姉ちゃんも一緒にしようよ♪」
「私も混じっていいの? リオちゃんはいい娘だね・・・・・・お母さんにそっくり」
「えへへ」
「じゃあ、お母さんも連れてこないと。お姉ちゃんがするときはお母さんも一緒っていう約束だから」
「うんっ、でもリオが最初にお父さんに“しょじょ”をささげるんだからねっ。裏切らないでよっ」
 ・・・・・・年頃の娘に対する父親の悩みというのは、尽きないものだとも知った。


−−−−−−−−−−−−−−−

「うん、もう裏切ったりなんかしない」
 けん制してきた娘にそう返してから、彼女はにやにやしながら男に言い放つ。
「くふふ、ライバルが出来ちゃった。これは何か手を打たないと・・・・・・ねっ」
「!!?」

    新たなる争奪戦の火蓋が、切って落とされた瞬間だった。





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これで貴女の旦那も汁奴隷!
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《V商会》

11/06/19 18:04 Vutur

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