憧れの彼女

アゼルにとって、馬は幼い頃から憧れの対象だった。
多くの騎士や勇者の物語の中で、馬は欠かすことの出来ない優れた道具であり、時として伝説の力を持つ存在として語られている。
一日に千里を走り、あるいは見渡す大河を軽く飛び越え、またあるものは音よりも早く駆けると言う。
少年らしい無邪気さで物語の騎士に憧れたかつてのアゼルは、自分もそのような馬を手に入れ、乗り回すことを望むようになった。
毛並みの美しい白馬に跨り、輝く鎧を身にまとった騎士物語の挿絵を将来の自分にあてはめ、想像の中で世界を駆けまわる。
それが幼き日のアゼルにとっての、ほぼ毎夜ベッドの中で繰り返される空想、将来の夢であった。

そうして育ったアゼルだが、やはりと言うべきか現実はそうそう上手くいかない。
アゼルは別段騎士の家系でも無く、小さな村の農夫の次男坊として生まれた身であり、外に出る機会も無く村の中で暮らしてきた。
小さな村には上等な牧場も無く、村の中で家畜と言えば牛かロバかといった所。馬などそうそう見れるものではない。
牛やロバに乗ってみたところでかつて憧れた騎士の姿とは似ても似つかず、到底様になどなりはしない。
馬を見ることのできる数少ない機会と言えば、時折村に立ち寄る旅人が連れているのを見るくらいだが、残念なことにどれも大して上等なものではない。
荷物運び程度にしか使えないような華奢なものや、逆に身体が大きすぎて無骨すぎるもの。かつて絵で見た憧れの白馬と比べるべくも無いものばかり。
あれでは村のロバの方がよほど働けそうだ、とアゼルは期待を裏切られるたびに失望の溜息を漏らす。
旅人からの話の上で、どこそこの馬は良いとか、どこの国には名馬がいるとか聞くことがあっても、実際にこの目で見ないことには全く要領を得ない。
自分の身の程を知るにつけ、名馬を手に入れ乗りまわすことなどとうに諦めてしまったアゼルであるが、それでもかつて見た憧れを忘れ去ることが出来ないまま。
せめて一目でいいから、かつて憧れた壮麗な白馬を実際に見てみたい、というのが今のアゼルにとってのただ一つの小さな望みなのだった。

農夫の次男坊と言う立場のため、アゼルは村の中であれこれ下働きに出されることが多い。
限られた農地で暮らしていくにはどうしても限りがあり、いずれは独立してどこかで職を得て暮さねばならないことを、アゼルも理解してはいる。
兄には村の中でいい人がいるようだし、自分が家にいる限り兄と彼女とが結ばれるのは難しいだろう。
兄は自分のことを邪魔者だと考えてなどいないのだろうが、それでもこのまま暮らし続ける訳にはいかないのだ。
かつては村の外、世界を舞台に駆ける騎士や勇者を夢見た少年も、年を経るにつれてその想いを萎ませていく。
村の中、穏やかな生活ができるのであればそれで満足できる程度に、アゼルは大人になり、そして小さくなってしまったのだ。
世間的には夢を追うのに遅いといった年頃でもないのだが、新たな夢を見つけるにはアゼルにとっての世界は小さすぎたのかもしれない。
村にある酒場や宿屋で仕事をもらい、いずれ新たな住居を建てるべくこつこつと金を溜めていく。
最近ではようやく貯金がある程度まとまり、そろそろ家を出ることも可能になるかもしれない。
それでもやはりアゼルの胸の内は沈んだままで、特に理由も無いのに溜息を吐く日々を過ごしてしまっているのだ。



そうして暮らしていたある日のこと。
村長と酒場の主人からアゼルに、村の外へのお遣いの仕事がまわされることとなった。
村からいくらか離れたところにある、この地域ではそれなりに発展した町まで。
仕事の内容は簡単な荷物運びと、村まで配達してくれる商人への注文届け。
とても簡単な仕事であるが、アゼルの心は久々に浮ついた。
と言うのも、アゼルにとって村から外の町へ出るのはこれが初めてのことになる。
小さな村と、せいぜいその周辺の森や山、小さな世界しか知らないアゼルにとっては、町までのお遣いも一世一代の冒険に等しい刺激と興奮を与えてくれる。
特に急ぎの用事がある訳でもなく、旅費も村長から十分すぎるほどの額をもらうことができた。
町の中を見物して回れば、何か自分の知らない新しいものが見られるかもしれないし、何より大きな町であれば立派な馬だっているかもしれない。
アゼルははしゃぐ心を抑えきれないまま、ある程度の資金を懐に、町まで送ってくれるという旅の行商人と共に村を離れたのだった。

それは、アゼルのことを思う村の人々からの精一杯の厚意であったのかもしれない。
アゼルが村の中、特に何の希望も持てずに鬱屈した日々を送っていることは、村の誰でも一目見れば理解することができた。
かつて将来の夢に目を輝かせた少年が、志をもって生きるには村の世界は小さすぎた。
村の外の世界を知るには彼の家も村自体もあまり裕福ではなく、閉じた世界の中には静かな平穏だけがあった。
あるいは村の中で生きるには彼が抱いた希望は大きすぎたのか、早々に夢を失った彼の心は簡単に潰れてしまっていた。
村の中、小さな世界に閉じ込められてしまった彼に、外の世界への希望を持ってほしい。
たとえ彼が村を離れることになったにせよ、彼が村の中で腐っていくよりは余程望みが持てる話だろう。
村の皆は彼を町へ出すことによって、彼を手放す決心をしたとも言える。



こうして送り出されたアゼルにとって、始めて見る町は驚きと感動の連続であった。
石で舗装された大きな通りに、村では考えられないような規模の人数が雑多に歩き回る。
脇では活気ある店が通りを行く人々を呼び止め、見たことも無い、何に使うかも分からない品物を売りに出している。
村から頼まれたお遣いを早々に果たし、町の中を観光のために歩き回る。
そこには村の中では知ることもできなかった世界があり、様々な品物、職業、生活が混然として存在している。
将来の自分の生活を半ば諦めてしまっていたアゼルにとって、その未知の感動は新しい希望をもたらしてくれるものだった。
食堂で知らない食べ物に舌鼓を打ち、雑貨屋で得体の知れない何かを睨み、酒場で今まで聞いたことも無いような噂話を聞く。
今までの生活が嘘であったような奇妙な高揚感の中、アゼルは久々に悩み、感動し、そして笑った。



それでも、
それでも尚、アゼルの心はどこか靄がかかったように晴れないまま。
用事はすませたし、もらったお金でいくつか面白そうなものを買いそろえることもできた。
村の皆への土産だって買ったし、兄や友人にする土産話だって大いにある。
将来、村を離れてどこか別の町で暮らしていくのもいいかもしれない。家族、村の皆は許して、受け入れてくれるだろうか。
外の世界を知った希望に満ちた昂揚感の中、胸の奥に潜んで離れない一抹の失望。
忘れようとしても拭い去ることのできない、どうしようもない負の感情が、アゼルの内に確かに息づいたまま残っている。

町は広く、ここに無い物など無いのではないかと言うほどに物に溢れていた。
酒場で多くの人の話を聞き、さらに他の町にはやはり他の多くのものがあると聞いた。
その町の中、アゼルが一番探し求めたもの。
この国の中で並び立つものがないといわれる、世界中の噂となっていると聞いたとある名馬。
走れば風よりも早く、他の馬など止まっているかのように追い抜いていく、この町の領主の自慢の馬であるらしい。
それを一目見ようと町の中、領主の開催する競馬場へ赴いたのだ。
競馬場の中央、芝の走路を駆け抜ける馬たちはいずれも今までアゼルが見たことも無い立派な体躯をしていた。
件の名馬、領主自慢のそれは競走馬の中で一層逞しく、駆ける姿は何物にも負けぬ実力と気品を兼ね備えているものだった。
観衆はその馬の姿に大いに沸き、アゼルも堂々と走路を歩く優勝馬の姿に心から感心した。
感心したが、しかし、それだけだった。

成程駆ける馬の姿は何よりも美しく、かつてアゼルが夢に描いたものと似通って見えた。
実際アゼルも目を奪われたのだし、あれこそが世界に名だたる名馬と言うものなのだろう。
しかし、あれでは違うのだ。
説明しがたいアゼルの不満。具体的に何が悪いということでは全く無い。
何が悪いということではなく、ただ単に、アゼルにとってそれは求めていた馬ではなかった、というだけのこと。
自分自身でも理屈の分からない感情に、アゼルはただ深く思い悩んだ。
文句もつけようも無い、これ以上を望むべくもない名馬を見て、それでも尚アゼルの小さな望みは満たされないまま。
今後生きてきて、どの世界を見て回ってもあれ以上の馬を見ることは叶わないのかもしれない。
それなら、アゼルの小さな望み―小さい頃に憧れた存在を、この目で見ることは、決して叶うことのない願いなのだろうか。
どれだけ町の喧騒の中に心を躍らせても、どれだけ新たな世界への感動に胸を膨らませても、アゼルの心は満たされないままに。



町での宿泊も路銀が付き、これ以上の用も無いと考えたアゼルは帰路につく。
帰りの道は自分一人、道はそれほど難しくはなく、来た道をよく覚えている。
最近では物騒なことも少ないと聞くし、最低限自分を守るための用意は揃えている。
村へ向かう足取りは軽く、胸の奥でまだ静まらぬ興奮を表すように浮ついていて、
それなのに、気が付けば癖になってしまった溜息が我知らず口から漏れて出てしまう。
町のことに思いをやっても、思い浮かぶのはあの競馬場ばかり。
数多の勇敢な競走馬達を軽くいなし、ただ一頭駆け抜けるかの雄大な名馬。
努めて馬の逞しさ、壮大さを思い出し、つかの間の満足に浸ってみるも、心の奥底で言いようも無い不満がアゼルを苛むように冷たく疼く。
気が付けば、軽やかだったはずのアゼルの足も止まり、人気のない道の中で一人立ちつくす。
アゼルは周囲を見渡し、大きく深呼吸。沈んだ気持ちをどうにか立ち直らせようと考え、ふと道の脇に目を止める。
木々で覆い隠された視界の向こうに、なにやら水音と何者かの気配。
冷静であれば、余計な危険を招きかねない寄り道などするはずもなかったのだろうが、今のアゼルはどこか精神が不安定な状態にある。
水音に誘われるようにふらふらと、道を外れて森の中へと足を進めていく。

森の中は草木が茂り人の歩くような道など無いが、アゼルは田舎の村で山や森を遊び場として育った身である。
盛り上がった木の根をよけて歩くことなど簡単な事。すいすいと水音の先まで進んでいく。
普段村では意識するまでも無い自然の静けさも、しばらく町の中にいた後では新鮮に感じられる。
荷物を汚さぬよう抱えて、ようやく水音の元と思しき場所までたどり着く。
森の中の小川のせせらぎ。石をいくつか飛び越えれば渡れそうな小さな川であるが、いくつか段になっているところから水が流れ落ちる音が響いている。
川の縁に、気配を感じた何者かは座り込んでいた。

薄暗い森の中で、ひときわ目立つ純白の衣装。川向こうを向いているためにアゼルからは良く見えないが、頭に薄いベールを被った女性と思しき人影。
こちらの様子に気が付いていないのか、川の向こうを見たままで、何やら物思いにふけっている様子。ベールに覆われた横顔はアゼルの場所から覗き見ることはできない。
しかし、何よりもアゼルの目を引いたのは彼女の半身。
線の細い人間の女性の身体の腰から下、確かに下半身が馬の形をしているように見える。
腰布を纏っているために境目を観察することはできないが、どう見ても彼女の身体は馬の半身から生えているように見える。
少し思い悩んだ末、アゼルはふと町で聞いた話を思い出した。
この世の中には人間に似た姿の魔物娘が多くいて、村にもミノタウロスやホルスタウロスといった種族が生活している。
町の中ではそれ以外にも様々な種族を見かけたし、見かけはせずとも噂でいろいろな話を聞くことができた。
アゼルにとって印象に残っているのは、半人半馬の種族、ケンタウロスの話である。
彼女たちは勇敢な戦士であり、理知的で誇り高い種族であると聞いた。
今、アゼルの目の前にいる彼女はとても勇猛そうには見えないが、人はみかけによらないというし、案外話してみれば印象が違うのかもしれない。
しかし、何よりもアゼルの注目を引くのは彼女の馬としての半身である。
暗い森の中で輝くような明るい白。土の汚れることもなく純白の身体に、遠目に見ても分かる美しい毛並み。
折り曲げられた足は競馬場の競走馬のように逞しくはないが、しなやかに通った筋が力強さと気高さを伝えるよう。
ふわふわの尾が時折揺らされ、そのやわらかさにアゼルの目が釘づけになってしまい離すことができない。
遠目に眺めただけで、アゼルはすっかりその半身の美しさの虜であった。
町で見た競走馬の武骨さ、雄大さとは違う。彼女の馬身は柔らかな曲線であり、芸術的な美しさであった。
走ることで完成される競走馬としての美ではなく、そこに存在するということだけで人の目を引きつけて離さない気品。
アゼルの求めていた物語の名馬とは、まさに彼女のような姿であったのだとアゼルは確信した。
胸の奥にくすぶっていた不満はすっかり霧散し、今のアゼルの心を占めるのは幼き頃からの憧れを目にした深い感動であった。

もはやこれ以上何も望むものなどあるまい、と思えたアゼルだが、人間とは欲深き生き物である。
一目見れば満足であったはずの望みだったはずが、こうして目の当たりにしてそのまま何もできないというのは酷く物足りない心地がする。
出来れば、彼女の身に触れ、その毛並みを撫でてみたい。彼女の背に乗せてもらうことができたらどのような気分だろうか。
今、この機会に何もせずここを去れば、今後の将来きっとこのことを後悔しながら生きていくに違いない。
望みを悔やみながら生きていくには人生は長すぎるということをアゼルは良く知っている。
アゼルの悩みは一瞬とは言えないにせよ、ごく簡単に決着が付いた。
アゼルは詳しいところを知らないが、彼女は見たところケンタウロスか、とにかくそのような種類の魔物娘なのであろう。
魔物娘である以上は話し合うことができる訳で、言葉で意思を伝えることができるのだ。
であれば、自分の思うところを正直に伝えるべきである、とアゼルは決心した。
仮に相手がそれを嫌がったとしても、実現しなかったとしても、何もしないで去るよりはずっとましな筈だ。
静かに彼女の傍に近寄り、彼女の注意を引くべく、アゼルはあいさつの言葉をかけた。


アゼルの挨拶を受け、驚いたように彼女は上半身だけで振りむく。
彼女の名を、クーリエと言う。
森の中、普段は人気のないような奥に住んでいるクーリエにとって、人間に声をかけられるというのは滅多にない体験である。
驚いて硬直してしまっている彼女、その警戒を和らげるべく、アゼルは自己紹介を始めた。
自分がここから少し離れた小さな村に住んでいることや、町からの帰りに偶然立ち寄ったこと。
驚きのあまり思考が鈍っているクーリエの頭には半分程度も情報が入らなかったが、それでも彼の名前がアゼルで、たまたま立ち寄ったということは理解できた。
アゼルは勘違いしてしまっているようだが、クーリエはユニコーンである。
ケンタウロス種というのは事実だが、ユニコーンはケンタウロスのように勇猛ではなく、穏やかな性格をしている。
ユニコーンという種族ゆえか、クーリエにはそれなりに人を見る目がある―少なくとも、彼女はそう思っている―訳であり、彼女の目から見たアゼルは悪人ではないようであった。
クーリエは身体から緊張を解き、アゼルへと向き直る。馬の身で立ち上がると、男性としては一般的な身長のアゼルよりも高い場所へと視点が移る。
アゼルはクーリエの姿を上下見渡し、なにやらほう、と見惚れたように息を漏らした。
クーリエも自分の名を名乗り、挨拶を返す。軽く頭を下げると、アゼルも慌てて頭を下げ返して見せた。
じっとクーリエを見るアゼルの熱い視線、何やら変な気分で、クーリエはアゼルにいったい何の用か、と尋ねる。
アゼルは聞かれ、僅かにうつむいて考え込むような素振りを見せたものの、決心したように胸を張り、頬を僅かに赤く染めてクーリエの目をしっかりと見据えた。
曰く、私は貴女に一目惚れしてしまいました、と。

思い切って口にしてしまうと、あとはアゼルの口から勝手に湧き立つ想いが言葉になって溢れだす。
彼女の美しさに一目で心を奪われてしまった。その美しさは今まで見た何者よりも気品にあふれ、気高く、高尚である。
クーリエこそはアゼルが幼き頃から夢に描いたような存在であり、あるいは今まで想像もできなかった程に彼女の容姿はアゼルの理想そのものである。
クーリエに出会うまでのアゼルの心は深い闇に沈んでいたようで、クーリエの純白の姿はアゼルの心に射した光の様である。
こうして近くで向き合うだけでアゼルの心は張り裂けそうであり、居てもたってもたまらずにクーリエに声をかけてしまったのだ、と。
冷静に考えれば歯の浮くような文句であるが、今のアゼルは興奮しきっていて、その頭脳はクーリエの美しさをたたえるためにだけ動いているようなものだ。
アゼルが幼き頃より思い描いていた理想、そのものがいまアゼルの前に居るようなものであり、アゼルはこの感動をどうにかしてクーリエに伝えずには居られなかったのだ。

こうしてアゼルの口から発される情熱的な文句を聞き、向かい合うクーリエも真っ赤になってうつむいてしまう。
人間と接する機会が少ないクーリエであるが、人間に興味がないのかと言うとそれは全くの間違いである。
魔物娘として平均的な程度に―少なくともクーリエはそう思っている―男性に対して好奇心、興味を抱いているのは事実である。
森の中で他の魔物娘が良い相手を見つけたと聞くたび、自分もいずれは誰かしら素敵な殿方と結ばれることを夢見てきたのだ。
自分から人間に声をかけることもできず、ただ胸の内で将来の相手を思い描いては人様に言えない妄想、もとい空想を繰り返したりもした。
今日、道の近くの小川に居たのだって道を通る人間をのぞき見するためだし、小川で考え込んでいたのもいつも通りの妄想、もとい空想のためである。
今、こうしてアゼルの想いを聞くたび、心臓が強く脈打ち、立っていられないほどに足が震えるような心地がする。
アゼルの言葉は、今までクーリエが思い描いてきた愛の囁きよりもはるかに情熱的で、こちらを見据える目はこれ以上ない真剣な想いを伝えてくれている。
純情なクーリエは、アゼルからの言葉を愛の告白である、と受け取り、彼への想いをその胸の内で急激に膨らませていく。
彼こそが、クーリエの思い描いてきた理想の殿方、自分の結ばれるべき生涯の伴侶その人である、と。

果たしてクーリエの心中も知らず、アゼルは自らの胸の内をクーリエに伝える。
いくら説明してもそれは空虚なようであり、自分の心中の百分の一も伝えきれていないようなもどかしさに焦がれそうになる。
ふと、アゼルが気付くとクーリエは頬を赤く染め、アゼルの目をじっと見て云々と頷きを繰り返していた。
クーリエの様子に好感触を覚えたアゼル。意を得たとばかりに目の前のクーリエの手を取り、胸の前で強く握った。
クーリエの毛並みをこの手で撫でてみたい。叶うならば、その背に乗せてもらいたい、と願いを伝える。
クーリエは真っ赤になったまま、アゼルの手をそっと握りかえし、恥ずかしそうに一度、微かに頷いたのだった。

クーリエがか細い声で、確かめるように一言アゼルに尋ねた。
アゼルにはこのような経験がないのか、と。
それを乗馬の経験であると取ったアゼルは大いに頷き、至らぬところもあるだろうから、出来ればクーリエの手で指導してほしい、と頼んだ。
アゼルはケンタウロス種の魔物について無知であり、ユニコーンの背に乗る、と言うことの意味も理解してはいないのである。
それはクーリエの質問の意図とは離れていたが、実際クーリエの聞くところであってもその通りの話であったし、ユニコーンは生来それをそうと見分ける力をもともと持っている。
どこか食い違っている二人ではあるが、結果としてはうまくかみ合って結びついているようである。
クーリエはアゼルの返答にますます胸の内を熱く燃やし、どこでするのがよいか、と尋ねた。
アゼルは、やはり勘違いしたままで、クーリエの慣れたところの方が良いだろう、そのような場所に案内してほしい、と答える。
頷き、クーリエは森の奥、自分の住処となっている場所までアゼルの手を引き、案内することにした。
アゼルも、クーリエも、これからのことに想いを馳せると胸が張り裂けるように高鳴り、繋いだ手から鼓動が相手に伝わるのでは、と心配してしまうほどであった。



こうしてアゼルが案内されたのは、道から大分離れた森の奥、大きな木の根と枝が入り混じってドーム状になったその内側、クーリエの住処である。
緊張が高まってきたアゼルであるが、ふと、どこかおかしいような気がして首をかしげる。
場所を尋ねられたものだから、てっきりどこか広い所でその背に乗せてもらえるものだとばかり思っていたのだが、連れてこられた場所では到底そのようなスペースがあるとは思えない。
その毛並みを撫でさせてもらえるのかもしれないが、それだったらわざわざ森の奥深くまで連れてくる必要はなかったのではないだろうか。
疑問に思ってクーリエを見ると、彼女の熱く想いのこもった視線がアゼルの顔中、体中に注がれる。
疑問に思いながらもここでするのか、と尋ねるアゼルに、ここが私の住処ですから、とクーリエは答えた。

クーリエの目から見ると、戸惑っているアゼルはこれからの緊張に強張ってしまっているように映った。
先程、クーリエの手で指導してほしいという言葉を受けたこともあり、クーリエはすっかり自分が主導してアゼルを満足させる決心をしている。
あまりに情熱的な想いをぶつけてくれた相手と同一とは思えないその初心な様子に、クーリエの中のアゼルへの愛は高まる一方。
何物にも染まっていない相手を何よりも好むのがユニコーンと言う種族であり、初心な相手を導くというのはクーリエにとって長年妄想、もとい空想し続けた憧れのシチュエーションなのである。

急にクーリエの手によって抱きしめられ、アゼルは強く戸惑った。
これからクーリエが何をするつもりなのか、今もってアゼルには理解できないままでいる。
アゼルを抱きかかえたままクーリエが腰を下ろすと、ちょうど同じ背の人間が抱き合うような高さに落ち着く。
クーリエの上半身、人間らしい柔らかさ、魔物娘ゆえの吸いつくような心地よい身体を押し付けられアゼルの胸がこれまでとは別の形で熱く火照る。
女性に抱き締められるのはアゼルにとって初めての経験であり、クーリエになされるがまま、その身体をクーリエの身体と強くすり合わせる。
暫くの間なすがままに身体を抱き寄せられた後、ようやくその腕の間から解放された。
僅かに離れたクーリエの、その意図を探るべく彼女の顔、その目を覗きこみ、
僅かに潤み、アゼルの他の何もかもを視界から置き去りにした、その強く燃えるようなまなざしを受け、
ようやく、鈍感なアゼルもクーリエの思うところを理解するに至った。

事ここに至り、事態を把握したアゼルは驚き戸惑った。
先程のクーリエへの称賛が、どうもアゼルの意図するところとは異なる意味で受け止められてしまったらしい。
アゼルとしては馬としての素晴らしさ、美しさを褒め称えたつもりであったのだが、成程馬とはクーリエ自身のことであり、アゼルが称賛したのはクーリエのことに他ならない。
つまりアゼルはクーリエの容姿がいかに素晴らしいかを魂を込めて熱く語った訳であり、冷静に考えれば無礼と取られても仕方ないような行為である。
それを愛の告白と受け取ったクーリエは、アゼルからの愛を受け入れ、応えるべくこうして住処へと案内してくれた訳で、今更そのような意図はなかった、などと言って無碍に振り払ってしまえばクーリエに恥をかかせることになってしまうだろう。
一体どうすべきか思い悩み、改めてアゼルはクーリエと向き合うよう顔を上げる。
初めに見たときはベールに隠され、それから意識することはなかったのだが、改めて向き合ってみるとクーリエは美人である。
純白のベールの下、淑やかな性格が表れたような落ち着いた顔立ちに、薄く光を染み込ませたかのような、染み一つない白く艶やかな肌。
穏やかそうな印象の中、その瞳だけが激しさを露わにし、胸の内、情熱的な想いをアゼルにぶつけるように輝いている。
その強い眼差しに呑みこまれるかのような錯覚を覚え、思わずアゼルは息をのむ。
クーリエは、誤解こそあれアゼルの告白を受け入れ、こうして今真剣な想いをもってアゼルと向き合ってくれている。
果たしてこれまでに、これほど真剣な想いでアゼルを求めてくれた相手が誰かいただろうか?
或いはこれからも、アゼルのことを受け入れ、強く抱きとめてくれる相手がいるのだろうか?
意地悪く、その美貌に目が眩んだのか、と言われてしまえば否定できないのかもしれないが、それでもアゼルは何よりクーリエから向けられる強い想い、何よりも深い愛情を含んだ眼差しに心を奪われた。
一度クーリエに女性としての魅力を感じてしまえば、あとはアゼルの興奮を押し留めるものなど何もない。
微かに赤らんだ頬も、押しつけられる身体の柔らかさも、きらきら光を反射して輝く白い髪も、彼女の持つ何もかもがアゼルの注意を惹きつけるようで、その心の中をかき混ぜるように、頭の中を埋め尽くしていく。

互いの息が届くほどの距離、熱く視線を絡ませ合い、双方互いの顔へと手を触れさせる。
アゼルの頬に少し冷たく、たおやかな指先が触れて、アゼルの指は微かに温かい、白く柔らかな頬へと触れる。
アゼルの視界にはクーリエしか映らず、それはクーリエにとっても同じことなのだろう。
クーリエがアゼルの言葉に心を落とされたのと同じように、アゼルはクーリエの瞳によって心を堕とされた。
互いにゆっくり目を閉じ、どちらからともなく顔を近づけ、唇を重ね合わせる。
クーリエの額の角が邪魔にならないよう顔を傾け、お互いに相手を捕まえるよう顔に添えた手に軽く力を込める。
唇が密着して何秒か後、クーリエの下が唇を割り入り、アゼルの口の中、興奮の唾液にまみれた舌へと絡みつく。
粘液にまみれ、自ら意志を持つように口の中を這いまわるクーリエの舌に、アゼルは応えるようにして自ら舌を差し出す。
激しく舌が絡み合い、アゼルはクーリエの舌を味わうように吸いつく。呼吸をするのも疎かになり、互いの頬が真っ赤に染まっていく。
鼻から苦しそうな息が漏れるも、互いに唇を離すのが堪えられないと言うようにそれぞれ顔を押しつけ合う。
唇同士が密着し、時折できる隙間からは水音が漏れ出して静かな森の中に響き渡る。
アゼルの頭の中には絶えず舌を絡ませ合う熱く粘着質な水音が響き続け、意識に靄がかかる様に朦朧としていく。
どれほどの間か分からないほど、舌と舌とを絡ませ合った後で、ようやく二人は名残惜しそうに顔を離した。
開かれたままの互いの唇、まだ離れるのが惜しいと言わんばかりに舌が突き出されたまま。
クーリエとアゼルの舌の間に白い粘液の橋がかかり、それは重力にひかれてゆっくりと垂れ、落ちていく。
久方ぶりの酸素を補給すべくお互い肩で息をし、酸素不足か興奮のせいか、顔は一面真っ赤に染まってしまっている。
クーリエがアゼルに向けて微笑み、自身の唇を舌で軽く舐める。
その目は先程よりも熱く爛々と輝き、傍から見ても分かるほどの情欲に染まりきっている。
先程までの楚々とした振る舞い、態度とは大きく異なる。魔物娘らしくも男性を求める、情欲を露わにしたその姿。
アゼルはそのギャップに僅かに戸惑うも、その淫蕩さに下半身が我知らずいきり立つ。
ファーストキスから貪るようなクーリエのディープキスを受け、アゼルの理性はとうに溶け落ち、荒い吐息と共にどこかへ漏れ出していくような感覚さえする。
一方のクーリエも、憧れに憧れたファーストキスの、予想を上回る快楽。愛しい男性の口を貪る悦楽を味わい、その悦びにすっかり溺れてしまったよう。
彼女の頭の中からは既に邪魔な理性など消え失せ、如何に目の前の愛しい男性と共に快楽を味わうか、身の内を焦がすほどの欲求と情念とで溢れかえらんばかりになってしまっている。
貞潔なユニコーンと言え、その本質は他の魔物娘と大して変わらない。愛しい男性と交わることこそが彼女にとって何ものにも優る歓びなのである。
アゼルを再び抱きしめようと身体を寄せるクーリエ。身体が強く密着し、アゼルの屹立した陰部がクーリエの腰に押しあてられる格好になる。
クーリエの柔らかな感触、その刺激に堪えられず、アゼルは苦しげに息を漏らし、自ら腰をクーリエに擦り付けるように抱きついてしまう。
思わぬ刺激にクーリエは僅かに戸惑ったが、すぐに淫らな笑みでアゼルの背に手を回し、より強く抱きしめる。
愛しい男性が自分に欲情し、その欲望を必死になってぶつけてきている。
クーリエにとっては喜びこそあれ、何ら不快に感じるものなどない。
腕の中、無作法に腰を揺らすアゼルに合わせ、クーリエも身体を擦り付けるように上下させる。
クーリエの豊かな胸が服越しにアゼルの胸板に押しつけられ、柔らかくたわんで歪む。
陰部への強い刺激にアゼルが苦しそうに呻き声を上げ、その初心な様子に興奮したクーリエが腰の動きを速めていく。
アゼルが腰を震わせて反応するたび、クーリエはアゼルにとって快感となる動き方を覚えていく。
次第にアゼルの腰の動きは鈍くなり、クーリエのなすがままにその腕の中で翻弄され、喘ぎ声を上げるのみになっていく。
抱きついた先、クーリエの耳元に口を寄せ、アゼルが小さな声で囁く。
喘ぎ声の中、かすれて出たような言葉。ぼそぼそと苦しそうな声で何事かをクーリエに伝え、
クーリエはその言葉を理解するや、僅かに身体を離し、アゼルの口に再び貪りつく。
身体の間に隙間が空き、服の上からでも分かるアゼルの陰部が圧迫から解放される。
アゼルは震えてクーリエのなすがままに口内を貪られ、クーリエはまだ興奮が収まらないとばかりに空腰を振る。
しばらくして後、クーリエがアゼルの身体を解放すると、アゼルは力が抜けきった様子で仰向けに倒れこむ。
クーリエの住処、普段彼女が寝床にしている地面には青々とした草が茂り、倒れこむアゼルの身体をやさしく受け止めた。

横たわったアゼルの身体に手をやり、その服を一枚一枚丁寧に脱がせていくクーリエ。
上半身のシャツを取り払い、若く逞しい胸元を見て舌舐めずりを一つ。続けて下半身のズボンもゆっくりと脱がせていく。
勃起した陰部に引っ掛からないよう、丁寧に生地を掴んで、ズボン、そしてパンツまで簡単に脱がせてしまう。
邪魔な布地を取り払われ、臍につくほど反り返った大きく跳ねる。
その先端部分からはアゼルの興奮が限界にあることを示すように、透明な粘液が溢れだすように幹を伝って零れ落ちていく。
思わず手で掴もうとしたクーリエだが、すんでのところっで思いなおし、今度は自分の身に付けた服を脱ぎ去る。
頭からベールを取り払い、胸を覆う布地を一つかみにはぎ取る。強引に覆いを取り払われて、豊かな乳房がたゆんと悩ましげに揺れた。
アゼルが大きく胸を上下させ、荒い呼吸でクーリエの露わになった乳房にくぎ付けになる。
自分の身体が愛しい男性の興奮を誘う事が出来、クーリエも嬉しそうに身体をくねらせ、乳房を揺らして見せつける。
先程のアゼルに対する丁寧さとは一転、邪魔とばかりに腰布を引きちぎるように取り去ってしまう。
上半身と下半身の境、臍の下に付いたクーリエの女性器は、既にどろどろになるほどに濡れており、アゼルの肉棒を今か今かと待ち構えている。
薄く茂った陰毛は他の体毛と同様に白く、薄くピンクに色づいた陰唇が男性を求めるように潤んでいる。
いやらしくも、初心な印象を残したままのクーリエの女性器に、アゼルの鼻息が自然、荒くなる。
クーリエの表情にも余裕がなくなり、アゼルを見る目はもはや発情したケモノのそれと同じである。
我慢がならない、とばかりにアゼルの肉棒を手で軽くつかみ、前かがみにのしかかる様に腰を下ろす。
クーリエの手によって誘導された肉棒は、濡れそぼる陰唇の間に抵抗なく滑り込み、その内側へと潜り込んでいく。
アゼルが微かな抵抗を感じたのも束の間、アゼルの敏感な肉棒は奥まで呑みこまれ、敏感な亀頭がきつく肉襞に吸いつかれるように締めつけられる。
獣の様な悲鳴が辺りに響き、アゼルはきつく目を閉じて精一杯腰を浮かせた。
粘膜が肉棒全体にからみつくようで、敏感な部分に電流を流したような痺れが走る。
アゼルの肉棒をすべて呑みこむ様な柔らかさと、呑みこんだ肉棒をしゃぶりつくすようなきつさを併せ持つクーリエの膣内に、アゼルは腰が震えるように動くのを止められない。
一方のクーリエも、処女膜を破られる痛みは一瞬。身体の奥をえぐられる様な感覚に堪らない快感を覚え、喘ぎ声を漏らしてしまう。
アゼルの肉棒を根元まで迎え入れるべく、両腕を地について体を支え、腰だけを強くアゼルに押し付ける。
膣の奥から分泌液が次々と溢れ、アゼルの肉棒と膣がより滑らかにこすれ合う。
クーリエが腰を落とす度胸まで届くような圧迫感に身体を震わせ、腰を上げる度膣内がえぐりだされる様な快感に喘ぎ声を上げる。
腰が揺れるたびにクーリエの豊かな乳房が上下に揺れ、肌に浮かんだ汗の雫を飛び散らせた。
初めて味わう膣内の快感。次第に早くなる腰の動きに、アゼルの我慢はあっけなく限界に達した。
アゼルはクーリエの腰を両手で掴み、その奥深くに自らの欲望をぶちまける。
先程から溜まりに溜まった精液、初めての射精がクーリエの膣の奥を叩き、クーリエが快感に身をよじらせて鳴く。
膣の中が焼かれるような錯覚を覚え、頭の中が真っ白に染まる中、身体は情欲のままに動き、アゼルの身体に腰を押し付けるようにして強張る。
力が抜ける中、アゼルを押し潰すまいと両手で地面を押さえ、アゼルの肉棒の痙攣、そこから吐き出される熱い粘液の感触をただ震えながら味わう。
子宮が精液を迎えるべく動き、子宮口がアゼルの亀頭とキスをするようにくっつく。吐き出される精液を一滴も無駄にすまいと膣全体が吸い上げるような動きをする。
子宮に精液が注ぎ込まれる様な感覚を受け、クーリエは心と身体、両方で初めての絶頂を体感する。
肉棒を絞られるような感覚にアゼルが悲鳴を上げ、背中を浮かせてクーリエに抱きついた。
アゼルの体重をたやすく支え、クーリエがその背を抱き抱えつつ起き上がる。
アゼルの身体はクーリエの抱きあげられるような格好になり、腰と腰とがくっついたまま、互いに強く抱きしめ合う。
搾りとられる様なアゼルの射精は十数秒続き、収まった後も時折痙攣する膣内にアゼルの腰が弱々しく反応する。
ひととおりの射精を終えても、まだ離れたくないとばかりにクーリエはアゼルの身体を抱きかかえて離さない。
アゼルはクーリエの頭へと手を回し、快感の余韻を味わうように眼を閉じたままのクーリエに唇を重ねる。
三度目のキスは、アゼルから舌を差し出し、強くしがみつくようにクーリエを求めた。



それからしばらくして後のこと。
三度目のキスの後、アゼルの肉棒はいとも簡単に精力を取り戻し、繋がったまま今度はアゼルから腰を振ってクーリエを求めた。
膝立ちになってクーリエを求めるように腰を突き入れ、下がったままの子宮口に亀頭を押しつけるようなピストン。
クーリエの膣内はアゼルの肉棒を包み込み、引き抜こうとする度にきつく、逃がさないように締めつける。
子宮口を亀頭で突かれる度、クーリエは体中を襲う充足感に震え、より力強くアゼルを抱きしめた。
両腕も膣内も、アゼルを決して離すまいとするようないじらしさに、アゼルもより興奮して腰の振りを速めていく。
一度や二度の絶頂では物足りず、アゼルは何度もクーリエの膣内に精液を吐き出し、その度クーリエはこの上ない幸福感に絶頂する。
子種を一滴も逃すまいと膣内の粘膜が肉棒へと絡みつくようで、敏感な部分がより強く刺激される連鎖反応。
当初は処女らしく痛いほどだった膣内の締め付けも、幾度も精液をすり付けられるように肉棒でほじくり返され、彼の形に合わせて変化していく。
お互いの意識は既に下半身の性欲に支配されているようであり、ディープキスの合間に、僅かに喘ぎ声と、愛の囁きだけが漏れて聞こえる。
絶頂に次ぐ絶頂に際限なく精液が溢れ続け、何回達したのかも定かではない程に肉欲に溺れる二人。
初めての性交に二人とも我を忘れ、ようやく興奮が落ち着く頃にはもう辺りはすっかり日が暮れ、森は暗闇に覆われてしまっていた。

木々の間から差し込む月明かりの下で、二人は抱き合って横になる。
青々と茂る草をベッドに、先程までの行為の余韻を味わうように、肌と肌とでお互いの体温を感じ合う。
クーリエの住処は上手く風が入らない構造になっているらしく、二人とも服を着ずとも互いの温かさで寒気を感じることはない。
アゼルとクーリエ、二人は向き合い横たわったまま、お互いのことを話し合う。
幼いころからのアゼルの憧れだとか、クーリエがユニコーンであることだとか、或いは甘ったるい愛の囁きだとか。
二人とも、飽きることなく相手のことを質問し合い、また教え合いして穏やかに幸福な時間を過ごしていく。
静かな夜の森の中、いつまでも二人の声だけが闇の中に溶けていくように辺りに響いていたのだった。




結局、アゼルは村を離れることにはならなかった。
村から少し離れた場所に家を構え、そこでクーリエと二人、静かに暮らしている。
村の中での雑用の他、離れた町への輸送業だとか、クーリエの能力を生かした医療行為などで生計を立て、それなりに慎ましく暮らせている。
クーリエは物静かな性格で、もとより村に魔物娘がいたこともあって村の皆には簡単に受け入れられ、すぐに馴染む事が出来た。
アゼルはかつての元気を取り戻し、クーリエは彼を影に日向に支えている。理想のカップルとして村の中での評判は上々。
仕事のない日は二人、近くの森のどこかで二人だけの時間を過ごすことができているらしい。
彼ら二人が森の中で何をしているのか、それを詮索するような野暮な真似をする村人はいない。

アゼルがかつての夢を叶えることが出来たのかどうかは、彼と彼女の二人しか知らぬ事である。


12/01/29 01:53 むらさき種


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実験的なセリフなし作品。
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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33