■タイトル:『計画が・・・』 ■作者:じゃっくりー -------------------------------------本文------------------------------------- その日・・・ある男がフラレタ・・・
喫茶店での出来事だった・・・

「アナタのとこの猫に散々な目にあったから・・・もう逢いたくないわっ!」
「えっ?! ちょ、ちょっと・・・・」
・・・彼にほぼ関係ない理由で・・・
いや、関係はあるのだろうが直接的な理由でない。

彼のうちにには猫が一匹居る。

主人にべた惚れの猫が・・・
その猫は主人である男の前では文字通り猫を被っている。
主人が女を部屋に連れ込んできたとき男がいるうちは大人しいが、主人が居なくなったとたんに暴れ牛・・・もとい・・・暴れ猫になる。

ゆえに冒頭のように別れ話にもつれること幾星霜・・・・・

「はぁ・・・帰ろう・・・」
・・・その背中は影が差していた・・・・
席を立ち彼女だった人の分も払い・・・帰路につく。

空はもう暗くなり寒空のした彼は早足で家に向かう。

・・・その後ろの影が「ズズズ・・・」と動くと・・・

「・・・見つけました・・・ヤマトさん・・・」
それは今し方別れた彼女に瓜二つの人物だった。
・・・そして再び彼女は影に沈み・・・・姿を消した・・・




・・・・・・・そんなこと等知らぬヤマトは住処のマンションの6階の一室に着き重苦しい気持ちでドアの鍵を開ける。
ガチャリと開けたドアの先では・・・

「ニィッ♪」

・・・愛すべき愛猫ミナがチョコンと玄関先に座ってお帰りとでも言いたそうな感じで鳴いた。

「あぁ〜ただいまぁ〜ミナ♪」
・・・デレデレだった。
そしてヒョイッと猫を抱き上げて背中をさすり頬擦りする。

「みぃ〜〜♪」
・・・猫もデレデレだった。
ゴロゴロと喉を鳴らし物凄く嬉しそうである。

一時のモフモフタイムを味わったヤマトは名残惜しそうにミナをおろして台所へ向かう。
そして服を脱ぎ薄着になり腕をまくって・・・

「失恋したときは・・・菓子作りで気を紛らわすっ!」
・・・実はヤマト君、とある大人気洋菓子店のパティシエでもあった。腕前は・・・彼が居ないと売り上げが1割減るといわれている。
余談だが得意なのはパイ皮のカスタードシユークリームだ。

そんな彼は薄力粉、卵、砂糖、そしてバター。
・・・どうやら焼き物をしようとしているようだ・・・

「まずは練るっ! バターを練るっ! クリーム状になるまでッ! 僕はッ! 練るのをッ! やめないッ!!」
「にゃぁっ!」
・・・意味不明な呪文とも取れる言葉を吐きつつヤマトは調理を始めた・・・
・・・途中ミナの合いの手を混ぜながら・・・

「そして次に・・・Mr.シュg・・・ゲフン・・・砂糖と卵をバターに加えて・・・まぜるぅぅ」
「にゃぅぅぅ♪」
・・・いま「とある方」が見えた気が・・・気のせいだな・・・

「そしてコイツ・・・薄力粉の出番だぜぃ♪」
「うにゃ〜♪」
・・・あれ? 猫って二本足で立てたんだ・・ヘェー・・・
まぁヤマトには見えてないみたいだが・・・

「さっきのに混ぜ混ぜ混ぜ・・・・・上手に塊できました〜♪」
「にゃう♪」
・・・モン●ンの肉焼きの音が流れた方。大丈夫だ。それが正解だww

「そしてこの塊を冷蔵庫にいれ30分待つ。・・・・其の間に風呂にいってこよう・・・」
「・・・」
ヤマトはスタスタと自室に向かっていってしまった・・・
残されたミナは・・・

「・・・にひひひ・・・今回も失恋成功やな・・・・にひひひ・・・・」
チョイっと背を引いて2本立ちすると両前足(?)で口を隠し悪人顔している。
・・・あれ? 普通猫は喋らない・・・はず・・・

「計画通りっ・・・・・そして今夜は記念すべき出逢って1年目・・・にひひひ・・・」
・・・キラがいる・・・

「今日・・・今日が勝負や・・・」
・・・少し憂いを帯びた表情を・・・したと思ったら・・・

「ご主人のドーテーはウチがいただくっ!!」
・・・酷く興奮していた。

・・・そうこうしていると・・・

「ふぅ・・・ちょうど30分たったな・・・」
ヤマトが戻ってきた。
ミナはすまして座っている・・・いつのまにか・・・

「よし、冷蔵庫から生地を出して・・・ノシ棒で伸ばして・・・今回は四角いのでいいから包丁で切って・・・これでよし。・・・あとはオーブンを170度にして・・・3分待つッ」
「にゃぅっ♪」
・・・・もう何もいえねぇ・・・

「3分・・・それはッ・・・・余熱時間ッ・・・・そしてッ・・生地を・・イレルッ」
「にゃう・・・・にゃう・・・・」
・・・ざわ・・・ざわ・・・とでも言いたいのか?

「そして・・・・15分だ。15分焼き上げれば・・・白い皿の上に沈めてやるっ・・・」
「にゃっにゃ〜ん♪」
・・・力石?



チーーーン!



「綺麗なプレーンクッキーができましたぁ♪」
「にゃんにゃん♪」
・・・・見るからに香ばしい匂いが漂う・・・

「・・・・はぁ・・・・もぅねよぅ・・・・・」
「・・・・にゃ?」
あれ?たべないの?・・・と言いたそうなミナだった・・・


やがて皆が寝静まる夜・・・
動く影・・・・【2つ】・・・・


1つは・・・

「・・・にひひ・・・変身っ・・・・」
スルスルと床に写る影が・・・猫のソレからヒトのそれになる・・・

「・・・ふぃ〜・・・よし。待ってて〜な、ご主人♪」
そしてリビングの扉を開けて寝室へ移動する・・・・


そしてもう1つは・・・

「・・・やっと逢える・・・」
・・・玄関の外に佇む女性。だが・・・ズルリと影に沈んでいき・・・

「・・・やっぱり綺麗な家。・・・あと甘いイイ匂い・・・」
・・・いつの間にかヤマト宅に入っていた。

「・・・彼の部屋は・・・コッチね・・・」
と、其の女性も歩き出した。寝室へ向けて・・・




・・・・・そして薄暗い廊下を進んだ先に互いに見慣れない影を見つける・・・

(・・・ん!? なんで・・・・なんで別れさした女がここにおんねんっ!?)
(・・・えっ!? な、なんで・・・なんでワーキャットが!?)

・・・二人は焦った。
・・・先に口火を切ったのはミナだった。

「・・・アンタ・・・ヤマトの彼女やった人やろぅ? ・・・・なんでこないな場所におんねん?」
「・・・あ、あなたこそ・・・・一体ヤマトさんのなんなのよ?!」
落ち着いてドスのきかした台詞を吐くミナ。・・・・瞳にトーンが無いのは見間違えか?
コピー元が気の強い人だったので助かったが・・・地だったらビビッてなにも言えなくなったであろう女が心ばかりの反応をする・・・・が・・・

「アンタには関係ないやろぅ? ・・・・ん? アンタから微弱な魔力感じるんやけど?」
「っ!?・・・・・あっ! (月が翳ってきているっ?!)」
心の動揺と月が翳っていることが災いして女の魔力が微かに・・・ほんの微かに漏れたのをミナは見逃さなかった。女は月が翳ってきているのをミナの後ろのカーテンの照り返しから分かり・・・・焦る。
直ぐに踵を返して離脱しようとするが・・・・

「逃がしはせんでぇ・・・・」
と、キラリッ目が光った瞬間・・・肉球プニプニの手でギュゥゥゥゥっと腕をつかまれる。
残念、女は逃げられなかった。
そして・・・

「あぁ・・・・は、はなして・・・お願いだかr・・・・あ・・・・・・・・」
「うぁっ!? な、なんや!?」
黒い影のようなものが女の足元からブワッと広がっていく・・・


そしてその影が引いていくと・・・・


「・・・・・って・・・・アンタ誰?」
ミナが捕まえていたはずの女は・・・

「ぁぅぅ・・・・・み、見ないでください・・・」
今にも消え入りそうな少女がブルブル震えてミナへ振り返っていた。

「・・・(か、かわいい・・・)」
・・・ミナは【ナニカ】が降りてきた。

「・・・や   ら   な   い   か   ?」
阿部さーーん?!

「へ? ・・・えっ? えっ!?」
少女絶賛混乱中。

「・・・あんさん、名前は? ウチはミナっちゅうんや。」
「ひぅっ?! ・・・・ド、ドッペルゲンガーの・・・マミ・・・です・・・」
キリッといい顔して女・・・マミに問いかけるミナ。・・・マミはガタガタ震えていた。

「な、なんやてぇぇ!!!?」
「ひぃぃ!?」
マミがドッペルであることをバラした瞬間、目をカッと見開きミナはワナワナと震えだす・・・・
ついでにマミもブルブル震える・・・・

(そんなっ!?・・・・ウチの計画は完璧やった、今まで。・・・やのに・・・なんでマミが・・・・ドッペルができてもうたんや?!・・・・はっ!? まさかっ!?!?)
左手の肉球でアゴをさすり、右手を左手の肘にあて考え事をはじめてしまったミナ。

「な、なぁ〜マミ・・・・もしかしてマミが生まれよった場所・・・・【キャットテイルス】じゃ・・・・」
「え? ・・・・そ、そうですけど・・・」
思い当たる節があった様で・・・恐る恐るマミに問い返すと・・・マミがはっきりという。

【イエス】と。

(しぃぃーーっと!!!!・・・・・あそこは魔物が集中しているから魔力溜まりができ易いんやったぁ!!・・・・・くっ、不覚っ!・・・よりによってソコで振られてまうなんて・・・計画外やんっ!!)
・・・いきなり両膝を床に着き両手で頭を挟み込み左右に首をブンブン振る・・・
そして力なく床に両手を突いて落ち込み始めた・・・・

「・・・え・・・えっと・・・」
・・・リアクションが取れないでどう接したらいいか分からない・・・・

「・・・く、策士策になんとやら・・・やな・・・」
「・・・・?」
・・・憂いを帯びた表情で外へ視線を移す。
其の表情は・・・・・・・・・憂いを帯びたニヒルスマイルだった。
そんな状況についていけないマミはただ目を点にして首を傾けるだけだった・・・

そしてふたりは気付かなかった。


【ヤマトの部屋のドアが少し開いていることに】・・・・・


「あ、あのう・・・ど、どういうことです?」
「よう聞いてくれたっ! ・・・・ウチな・・・」
・・・そんなこと知らずに・・・このままでは会話が進まないので勇気を出してマミはミナに声をかけると、また目をクワッと見開きマミをみて互いの両手を握る(握られる)。

「今ままで猫の姿やったんよ。んでちなみに今日がちょうど知り合って一年になるさかい。・・・・ウチが川で溺れかけておった所に颯爽と現れてウチを助けてくれたんよ。
もうな? ウチ、そん時からゾッコンやった♪・・・でも体力と共に魔力も流れてしまってもうて・・・・もう直ぐにでもご主人をブチ犯しかったんやけど変身できなかったんや。・・・でな、しゃーないから猫のままで過ごしたわけやん?・・・そないな生活しとってわかったんはご主人がまだドーテーだったってことや。・・・・ウチは歓喜したでぇ。互いにハツモノ捧げれるやん?・・・でもな・・・」
ふぅ・・・と息を吐いて一区切り置き・・・・

「ご主人、菓子作りの職ついてる上にツラと性格がええから・・・女にもてるんよ・・・・」
「あぁ・・・わかります・・・コピー元の女性の記憶にも如何にヤマトさんがもててたかの情報がありました・・・」
「せやろぅ?・・・・・コトあるごとにウチ、どきどきもんやったんやで?・・・・でもそん中でウチは閃いたんや!」
ズビシッとマミに向け指を刺す。

「【彼女を別れさせてけばええんやん】っとな!・・・・それからはご主人の家に彼女が来るたんびに嫌がらせしてな・・・別れさせとった。しかもご主人は奥手で鈍感とわかっとるから体のお付き合いは絶対あらへんしな。」
「たしかに凄い奥手でしたね・・・コピー元の人達もこれでもかってアピールしていたのに・・・」

(・・・・・・)
・・・?

「ただな今日は計算外やった・・・・いつもつこうとるボロ喫茶やのうて『キャットテイルス』に行くとは想定外やった・・・」
「・・・えっと・・・う、生まれてごめんなさい・・・・」
「ちゃうでぇ! 別にマミの事悪ぅ思うとらんで?・・・・ただ日が悪かっただけや・・・」

(・・・・・・)
・・・息遣いがどこかから聞こえる・・・?

「・・・今日、ウチ勝負しようとおもたんやけど・・・」
「・・・あぅ・・・」
二人して顔を下に向けると・・・






「だったら二人一緒にオレが愛すればイイのかな?」






『っ!!』
二人は顔を上げて声の発生源・・・直ぐ横のヤマトの部屋をみると・・・
ヤマトが微笑みながら立っていた。

「・・・随分欲張りやん? ご主人。」
「・・・はぅ・・・・で、でも私たち・・・魔物ですよ?」
「あぁオレは欲張りだな。・・・だってどっちもオレに好意を寄せてくれているんだ・・・選べないよ・・・魔物だから、ってのは考えてないよ。・・・それに二人ともかわいいし・・・」
・・・三人は微笑みあった。
そして・・・暖かい空気がソコには流れていた。

「ならウチはなにも言わん。・・・マミは?」
「・・・平等に【私たち】を愛していただけますか?・・・ヤマトさん・・・」
「勿論だよ・・・」
にっこりとしていた笑みからニカッと口を開けて笑う顔になったヤマトは臆面もなく言い切った。

「ふふ・・・さすがしゅj・・・ヤマトやん♪」
「あぅ・・・で、では・・・」

『これからいっぱい・・・(私・ウチ)達だけを愛して(ください・ぇ〜な)!!』

・・・この日ヤマトは二人の告白を受け、そのまま繋がりあった・・・


【完】
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