■タイトル:『万事塞翁が【魚】』 ■作者:じゃっくりー -------------------------------------本文-------------------------------------


ここは親魔領の街『アトワー』・・・ここの海と間違えるくらい大きな湖に一人のシー・ビショップが泳いでいたが・・・




『餓死寸前でした・・・・』




(・・・あぁ・・・誰か・・・儀式をしてくれと・・・よんでい・・る・・・気が・・・す・・・)
そのシービショップ・・・【アルル】は薄れいく意識の中で自分達シー・ビショップを待ち望んでいるであろう夫婦達が呼んでいる幻聴を聞いて・・・意識が落ちた・・・



一方・・・



「じゃあ行って来る。」
「行って来ますね。【ギル】、また一人にさせちゃうけど・・・」
「もぅ・・・大丈夫だよ。父さん、母さん。」
アトワーの大港の船着場の一角に立派なマストを3本メインにつかった調査用大型帆船「アトワス・レイヤー号」の前で別れを惜しむ親子三人。
心配性の母は2ヶ月に数日しか戻ってこれない自分達夫婦に罪悪感を感じる・・・

「ほら母さん。顔が暗いよっ」
「あっはははっ、息子に心配されるとはな・・・くっくっくっ・・・」
「・・・ぐすっ・・・うん行って来ます。ジル。」
別れの際の悲しさから『毎回』涙を流す母を慰める息子。
・・・普通は逆なんだが・・・
それを見て笑う父。

・・・これがいつもの儀式みたいなものだった。
そして夫婦は帆船に乗り込み・・・

「出航ーーーーっ!!」
カーン、カーンと鐘が鳴り響き・・・帆船のメインマストに帆がたなびき、足場が回収される。続いて錨があがり・・・・少しずつ巨大ともいえる帆船が動き出す。

「ちゃんと食事は3食とってねーっ、それからそれから・・・・」
「母さーーんっ! 心配しすぎだよぉぉぉ!!」
「はっはっはぁっ!!」
・・・出航しても尚甲板からギルの心配をしてくる母に気恥ずかしさで紅くなりながら叫ぶギル。それを見て笑う父。

・・・今日も平和に出航する船であった・・・


・・・・・・・・・

・・・・・

・・・

見送りの後の帰り道・・・ギルは何気なく自宅近くの浜辺にいく。
そう・・・ただなんとなくである。

だが・・・

「はぁ・・・今日のご飯はなにn・・・・えっ・・・・人・・・じゃないっ?!」
浜辺に行くために岩場を少しだけ下って、いざ浜辺を見ると・・・

翠の鱗の白い服を着た人魚が打ち上げられていた。
その近くには・・・石版と白い帽子があった。

「・・・・ん〜・・・多分所持品から見て・・・シー・ビショップさん・・・かな?」
・・・そっと近づいて行き・・・顔をのぞくと・・・

「っ!! 何でこんなに痩せているのっ!?・・・・・・よし。息はある。このままじゃ本当に死んじゃう・・・・・・・・ん〜・・・」
手を彼女の口元に翳し・・・息のあることを確認するも弱弱しい・・・しばし悩み・・・

「仕方が無い・・・・・・・・・よいしょっ・・・」
ギルは周りに落ちている【彼女の所有物であろうもの】を集めて彼女を俯きから仰向けに体をずらし・・・彼女の腹上に固定する。
そして・・・脇下から手を突っ込み反対側の肩に手を添えて支え、もう一方の手はくの字に曲がった尾ひれのところを通して・・・しっかりと尾ひれを支える。

・・・いわゆるお姫様抱っこのスタイルである。

その状態でギルは自宅まで走った・・・

・・・・・・・・・

・・・・・

・・・

そして家に到着し乱暴にドアを開け放ち、すぐさま彼女を浴室へ運び入れ・・・
浴槽に浸ける。
空の浴槽に入って凭れ掛けた彼女をそのままにギルは海水を汲みに浜辺と自宅を往復する。

何度も・・・

何度も・・・

何度も・・・

・・・

そして浴室が潮の香りに満ち、彼女の胸下まで溜まった海水。
すぐさまギルは台所に向かい・・・火を起こす。
そして竈に深めのフライパンを置き水を多めに張り・・・
昼食用に炊いておいたすっかり冷えた冷や飯をフライパンに放り込む。

グツグツとならないように、ゆっくりと掻き回して・・・尚且つ火の加減を調整する・・・
やがて米が水分を吸い・・・トロトロとしてきたのでフライパンを火からどける。

勿論、火の後始末も忘れない。

そしてその出来たもの・・・【粥】にカツオブシをサラサラの粉になるまで刷り込んだものを粥に少量パラパラと乗せる。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

・・・なぜ大陸のこの街に【米】と【カツオブシ】があるのか?
それは昔ジパング出身の人がいてその人が【ご飯】と【魚の加工品や調理方法】を広めていき・・・
今ではアトワーの名産品にまでなった。
尚、他に名物として・・・【カツオブシ】の他に【ヅケ】や【スシ】などもある。

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「・・・ん、よし。」
・・味もよかったようだ。
それをある程度冷まし・・・器に移して・・・
彼女の元へ運んでいくギル。

「・・・ほら・・・あーん・・・」
「・・・ぁぁ・・・・んぐっ・・・モグ・・・モグ・・・」
口元へ粥が入った陶器で出来たスプーンを持って行き彼女に咀嚼させた。
・・・弱弱しいが・・・ちゃんと食べている。

「・・・ほっ・・・・」
その様子をみて一安心するギル。
・・・結局彼女はギルの作った粥を全て平らげてしまった。
そして規則正しい寝息が・・・・
顔に少し艶が戻ったみたいだ・・・

ギルは彼女の顔をみて微笑んで・・・浴室を後にした。

・・・・・・・・・

・・・・・

・・・

(・・・・・あれ・・・・ここは・・・?)
アルルは不思議な安心感に包まれながら起床する。

(・・・お風呂? ・・・いえ、これは海水・・・?)
尾ひれを軽く動かし、不意に水面を叩くとピチャンという音とともにアルルにとって嗅ぎ慣れた臭いが鼻を刺激した。

(・・・あっ・・・なにか・・・口の中が・・ペロ・・・・・・おいしい・・・)
部屋のにおいとはべつの匂いを嗅ぎつけて、ソレは自分の口の中からしているのがわかると口の中で舌を動かし・・・味見をする。
まだ少し口の中に残っていた数粒の米とともに喉を通過する匂いは・・・とてもやさしい味と匂いだった。

「・・・・一体どなたが・・・」
ふと・・・浴室についている小へを浴槽に浸かった状態で外の様子を伺うと・・・

「・・・・ふぅ・・・これで洗濯は終わりっ」
・・・ひとりの少年・・・とも青年とも言えるちょうど間ぐらいの男の子が洗濯用の大き目のバスケットを脇に抱え込み・・・どや顔をしていた。

「・・・あの方が・・・?・・・・・結構タイプ♪・・・はっ!? わ、ワタクシったら何をっ?!」
と、変な気が起きかけたので頭をブンブンと左右に振り邪念を払う。

・・・だが思い出してほしい。
今アルルは『起きたばかり』である。
・・・勿論そんな激しく頭を・・・脳を揺さぶれば・・・

「・・・ぁ・・・」
結果は目に見えている。

ゴンッ!

「っ!!・・・ぃっ・・・たぁぁ・・・・・つっっ・・・」
・・・クラリと目が眩みアルルはそのまま後ろへ髪が引かれるようになり・・・
盛大な音とともに後ろの壁に頭をぶつけた。
・・・石で出来た壁である。・・・そうとう痛そうにアルルは後頭部を押さえている・・・

と、

・・・タッタッタッタッタタタタタ・・・

・・・・何か走りよる音が?

「・・・あ! やっとめが覚めましたか?」
はぁはぁ、と息を切らしてやってきた男の子。

(あ、汗のにおいが・・・ふふふ♪・・・はっまた!?・・・魔力が枯渇しているのかしら・・・・)

「はい、この度はお助けいただきありがとうございました。ワタクシはアルルと申します。」
「いえ、困ったときはお互い様ですよ。僕はギルといいます。」
其の笑顔がとても眩しいとかんじるアルル・・・

「でもなんで浜に打ちあがっていたんです?」
「あぁ・・・えっと・・・その・・・ですね・・・・」
・・・やたらと歯切れが悪いアルル。

「・・・仕事に集中しすぎてしまいまして・・・食事が取れなくて・・・か、か、過労で・・・・ぅぅ・・・」
「あぁぁ・・・・納得しました。」
ギルは困った顔をしたが苦笑で誤魔化した。・・・アルルは未だに顔が真っ赤ですが・・・

「えっと、とりあえず・・・【・・・・・・・・・・っ】」
アルルは何か呪文のようなものを唱えると・・・



「・・・ふぅ・・・成功しました。ではリビングにでも場所を変えましょうか♪」
・・・視界が尾ひれの部分だけブレテいき・・・いつの間にかソコは【二本の足】が生えていた。



「ぁぁぁ・・・」
・・・ギルは口を開けて驚いていた・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

そしてギル達は場所をリビングへと移し・・・
そこでお茶を飲んでいた。
・・・和やかな空気の中・・・

「・・・・ふぅ・・・私の所持品は何処に?」
「あぁ・・・それでしたら今お持ちしますね。」
ギルはイスをすぐさま起ちどこかへ行ってしまった・・・


暫くすると・・・


「はい、どうぞ。」
「あぁ・・・ありがとうございます。」
ギルから帽子と石版を受け取る。

と、

きゅるるる〜・・・・

「・・・・す、すみません・・・」
「あははっ・・・ちょっと待っててくださいね?」
アルルへ荷物を渡したギルは彼女のかわいい腹の虫を聞くや否や・・・
台所へ消えて行き・・・すぐに戻ってきた。

手に出来たてと思われる焼き魚と白米など・・・それらを乗せたお盆を抱えて・・・

「一緒に食べましょう。其のほうがおいしいですし。」
「・・・はぃ・・お言葉に甘えさせていただきます・・・」
そうして二人は食事を取った後、アルルを送るため海へと歩くのだった・・・


・・・・・・・・

・・・・・

・・・

浜辺について・・・彼女は半身を人魚のようなそれに戻し海に浸かった状態でギルと面と向かい合う。

「それでは・・・本当にありがとうございました。この恩はいつかおかえししt」
「あっと・・・ソレなんだけど・・・アルル。話があるんだ。」
ペコリとお辞儀をしたアルルに待ったをかけるギル。
・・・その瞳には綺麗な夕日が写っていた。

「はぃ?」
「・・・僕はあと1年で成人として認められるんだ。・・・そして成人したら結婚してもいいということなんだ・・・だから・・・そのぅ・・・ぁぅ・・・ぅぅ」
饒舌だったギルがドモリながら喋っている・・・かなり緊張した顔で、だ・・・
でも、アルルは結婚という言葉でピンときたようだが・・・

『・・・君のことが好きになりました。きっと一目惚れかもしれない。・・・もし、もし君が良かったら・・・・一年後またあえないかな? ・・・其のときまで・・・答えは聞かないで待ってるから・・・』
『っ!! ・・・・・・はぃ♪・・・では一年後にココであいましょう♪』

そして彼女とギルは別れた。
・・・互いに微笑みながら。







やがて月日が流れ・・・・


・・・・・・・・・

・・・・・

・・・



ここは親魔領の街『アトワー』・・・この街には『シービショップ』が定住している。ゆえにこの街では他の地域よりも多くの海の魔物夫婦が多かった。
つい先日も『アルビノのサハギンの夫婦』の結婚式を執り行っていた。

そしてその結婚式の受付場所である『家事万能の年下の夫の家』では連日式の予約が殺到していた。その予約の直接の取り決め時や式の際は『彼女によく似た幼い容姿のシービショップ三人』がサポートとして働いていた。

もし貴方も海の魔物娘と結ばれるのならあの『シービショップの教会』へいくといい。
たった一度の式、その式を大いに盛り上げ、祝福する手伝いをしてくれるだろう。
『シービショップ夫婦』と『その娘達』がね・・・


【FIN】




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