■タイトル:『貴族か・・・』 ■作者:じゃっくりー -------------------------------------本文-------------------------------------
ここは親魔領『バルドラシー』。ここでは他の所とは違い珍しく魔物の領主・・・しかもヴァンパイアが治める領でもあった。
そこには今年12歳になったばかりのとても綺麗な娘・・・『リズリア・フォン・バルドラシー』がいた。

そして今は、というと・・・・

「・・・であるからして、この場合・・・」
「・・・・(退屈だなぁ〜)・・・・・・・はい・・・・・なるほど・・・・」
・・・『本が天井までうず高く並べられた』城の一室で母・・・『アンリ・フォン・バルドラシー』と一対一で帝王学を学んでいた。

・・・リズリアは鬱屈しているみたいだが・・・

「・・・である。・・・・む? リズリアよ・・・・随分つまらなそうだな・・・ん?」
講談を止めて向かい合う机越しにリズリアの本心を見抜くアンリ。
その表情は・・・額に青筋が出ているが・・・清清しい笑顔だ。

「なっ・・・そ、そんなことはありませんっ! 」
ガタッとイスを押し出して机を両手の平でバンッと叩いて立ち上がり、少し語尾を荒くして答えるリズリアは・・・・声の中に動揺が滲み出ていた。

「・・・・はぁ・・・まったく・・・誰に似たんだろうな・・・」
・・・暫く睨み合っていたがアンリがはぁっと溜息をつき、眉を顰めてゆっくり立ち上がり・・・
窓の外を見る。

「・・・リズリア。お前は貴族であり、領主の娘でもある。・・・・わかるな?」
「はい。存じております。」
淡々とした全く温度を感じないその会話は・・・とても親子でするような会話ではなかった。

「・・・という事は、だ。・・・・お前は人の上に立たねばならん。何故かは判るか?」
「・・・【下民】の生活は我々が導かねばならないから・・・ですか?」
「ふふっ、其の通りだ。・・・しかし、それだけでは正解ではない。」
相変わらず外を見るアンリの背中へ戸惑いながらも・・・自分の意見を言うリズリアだったが、否定される。


「導き・・・そして守るのが領主の務めであり、貴族として弱者である【下民】を守ることこそ貴族の誇りなのだ。・・・・だがな、【下民】ありての貴族だ。己の階級に過信するな。そして【下民】を蔑ろにするな。・・・・其のことを肝に銘じておけ。」
・・・騎士道とは違う独自の思想か、はたまた為政者としての矜持か・・・

それだけ言い終わるとアンリはクルリと振り返りカツカツと音をたててリズリアを通り過ぎ・・・扉を開けて出て行ってしまった。

「・・・なにが【下民】よ。・・・その言い方ですでに蔑んでいるなんて思ってもいないのでしょうね・・・」
・・・俯いてそう漏らすリズリアの小言は・・・



本しか並んでいない部屋の外に吹く風に掻き消されたのだった。



・・・・・・・・・

・・・・・

・・・

「ふぅ・・・少し遠くに行こうかしら?・・・・ん〜・・・・『ランに逢ってから』きめよっと♪」
帝王学の講義から少し時間がたった後。
・・・リズリアは『無断で』城下町へ来ていた。
その格好は普段から着ている貴族特有の豪華絢爛な服ではなく・・・至って普通の庶民服である。手首まで袖のあるクリーム色のワンピースに同系色のベレー帽・・・金髪紅眼の彼女に自然と合うデザインの意向であった・・・

そんな彼女がウキウキしながら城下町を歩いていると・・・

前方から誰かが走ってくる・・・

リズリアはその影が自分の待ち人とわかると・・・
微笑んで手を振る。

「ランっ。遅かったわね。」
「ごめんリズ・・・仕事が終わらなかったんだ。」
流れる額の汗を袖で拭い、息を整えながらも笑顔を彼女へ向ける。

彼は「ラン」。『ランパスタ』という郵便配達員である。彼は6年前に今日と同じように城から抜けて初めて城下町に来たとき迷子になっていたところを助けて以来のつきあいで・・・リズリア唯一の自分の素を暴いて接せる友になった。

リズリアの素・・・それは・・・

リズリアは『ヴァンパイア』という種族の中では珍しく、貴賎の階級の分け隔てなく、人も魔物も関係なく気軽に話すことができる社交性と・・・・フランクな性格の持ち主だった。

が。

階級第一のヴァンパイア世界では異端児である。・・・ゆえに親達は矯正させようとしている。その一環として「口調」と「帝王学」である。
しかし矯正をすればするほど・・・よりフレンドリーになっていったのであった・・・
挙句、貴族に嫌悪を抱くまでになってしまった。

「今日はどこへ行く?」
「ん〜・・・リズはどこがいい?」
「えっ・・・ん〜・・・じゃあ、この街が一望できるところがいいわっ!」
・・・犬歯がチラリとのぞき、口角を吊り上げてにこやかに笑ってみせるリズリア。

「よし、・・・・ではお任せを、お嬢様。」
「ちょっとぉ・・・執事はだめって言ったでしょう・・・」
「ははっ、ゴメンゴメンっ♪」
ランパスタがおどけて執事の真似事をした瞬間、先ほどまでの晴れやかな笑顔が一瞬で曇り・・・不満顔でランパスタへ抗議した。
それを笑って謝るランパスタへ・・・

「よし、許す♪」
・・・再び笑顔になって笑って許す。

・・・こんな日が・・・この何気ない日が・・・・


突然終わりを告げたのは・・・・この日から一週間後だった・・・・


・・・・・・・・・

・・・・・

・・・

その運命の日・・・大食堂にて・・・

「・・・・」
「・・・・」
・・・静かに、ただ静かに朝食を食すは母娘二人。父はすでに動いていて、今頃執務室にて仕事をしていることだろう。
その日も一言もなく食料を摂取する時間は過ぎる・・・はずだった。

「・・・それでは失礼いたしm」
「リズリア。」
食事を終えて席を立ちかけたリズリアにアンリが声をかけた。
・・・普段なら考えられないことであったが故にリズリアは驚いた。
・・・アンリは食事を止めて・・・

「お前・・・城を抜けて男と会っているそうだな・・・」
「っ!?」
リズリアは焦った。

(誰にも見つからずに抜け出し、極力城内の関係者に目撃されないように気を配っていたのに・・・)

「・・・どうやら本当みたいだな。」
「・・・なぜ、聞かれるのか?」
・・・外向けの威厳に満ちた口調で返すも・・・

「・・・男に会うな、とは言わん。しかし・・・・【たかが下民】に・・・まさか恋心なんぞ抱いておるまいな?」
「っ・・・・・」
・・・実はリズリアは6年前に彼の世話になったとき・・・

一目ぼれをしていた。

しかしそれをひた隠し・・・友人として接していた。
・・・しかしそれがバレた。・・・もっともバレたくない人に・・・

「・・・まったく、【下民】に恋慕するなんぞ貴族の恥よ・・・己と戦った者、それに準する者ならまだしも・・・・ただの文配り出はないかっ!」
そういうとアンリは目の前の食事をしていた皿を・・・まだ料理がのった皿達を右手で大きく払い・・・・

床に落ちてガシャァンと大きな音をたてて割れた皿があったところへ両手の平をドンッと叩き付けた。
その瞳は・・・怒りで赤々と燃えていた・・・

「そんなに男と愛し合いたいのなら・・・連れて来てやろう、【下民】ではなく【貴族】の男をっ!・・・全く・・・一族に泥を塗るような真似をしおって・・・」
有無を言わさぬ迫力で怒鳴るアンリ。
・・・全く反論できないリズリアだった・・・が。

「【下民】ごときが・・・【貴族】を誑かしおって・・・」

・・・其の瞬間っ!

「・・・もう・・・もう我慢の限界ですっ! 」
バァァンとテーブルが割れるのではないか、という力で両手を叩きつけるリズリアはアンリを睨み付け・・・

「貴族だから? 下民だから? ・・・・・それが何だというのですかっ!! 何時ぞやの講義の際『下民あっての貴族』とおっしゃいましたね!? ・・・もうすでに【民】を【下民】と呼び蔑んでいるじゃないですかっ!」
「・・・」
怒り叫ぶリズリアに無言で聞き入るアンリ。・・・・その表情は・・・

無表情だった・・・・

「さらには・・・」
と、更に続けようとしたリズリアに・・・・










「黙れ。・・・・このバルドラシー家の恥さらしめ。」









そういうアンリの表情は・・・どこまでも冷たく・・・発する言葉は氷のように冷たかった・・・

「っ」
・・・その母に・・・アンリに気圧され何も言えなくなる・・・

「もういい。・・・部屋にいろ。・・・・これからは貴族の何たるかを【体と心に刻み込んで】やろう。」
・・・つまり・・・

(・・・お家の『所有物になれ』・・・と・・・)

・・・生き物として真っ向から否定したアンリ。

「・・・・・・・・っ」
グリッと振り返り走り、扉を乱暴に開けて出て行くリズリア・・・・

・・・・やがてその足音が聞こえなくなった・・・・

「・・・・」
リズリアが走っていった扉を立って見たままだったアンリ・・・

と、そこへっ!

「りょ、領主様っ!」
「・・・・・・・・・・・・っ! ・・・何事かっ! 騒々しいっ!」
リズリアが出て行った扉とは違う扉から兵士が駆け込んできた。

「はいっ、ほ、報告っ。」
先ほどまで親子喧嘩をしていたのが後を引き摺っているのかアンリは怒気を含んだ返答をし、兵に続きを促す。
そしてその兵が持ってきた情報に・・・・耳を疑った・・・





『教団の軍勢2万がココ、バルドラシーへ向け進軍中っ! 各街道の防衛拠点はすでに陥落し、ココにつくのも時間の問題かとっ』






「なっ!? 斥候及び哨戒塔から何もなかったのか!?」
驚きとともに体が震えだすアンリ・・・

「そ、それが・・・・伝令が悉くが殺されてしまい、この情報を持ってきたモノも体に10本以上の矢を受けていまして・・・・この情報を託してすぐに息を引き取って・・・・」
「くっ・・・何たることだ・・・っ」
・・・握りこんだアンリの拳・・・・そこからは血が出ていた・・・・

(・・・まさかコレが・・・・最後の別れになろうとは・・・ふふっ・・・運命とは皮肉なものだな・・・)

・・・アンリは先ほどのやり取りを少し後悔していた。
だが、直ぐに領主の顔になり・・・

「出撃可能な兵は全員出撃させろっ!・・・よいかっ! 【民】を優先的に親魔領へと逃がせっ! 可能な限り、多くだっ!・・・・それが終わり次第・・・『迎撃せよっ!』・・・・近隣の友好国に敵兵を回してはならんっ!」
「はっ!」
・・・兵は敬礼の後、各部隊に連絡をとりに部屋を出た。






「・・・ふふ・・・・こんな母親で・・・・すまんな・・・」
弱弱しく呟いたその呟きは・・・・

兵士達の怒号で掻き消されたのであった・・・・


・・・・・・・・・

・・・・・

・・・

・・・ここは城の近くの背の高い木々の生い茂る中にできた小さな陽だまりと草の絨毯。
そこでは少女が一人・・・

膝を抱えて俯いていた・・・

「・・・・・・・・・・」
・・・その瞳に輝きは無かった。


・・・小鳥の囀り、木の葉の擦れる音、小川のせせらぎ・・・


ここは城の近くなのに・・・自然に近い。
少女はここがお気に入りだった。

悲しい時
理不尽な時
怒られた時

ココにくる。

己の不安を吐き出す・・・
己の不満を吐き出す・・・
己の我欲を吐き出す・・・

全ての黒い感情が太陽で浄化されていくようで・・・

・・・だから少女はここが好きだ。


・・・・・・っ???・・・・・・・・

・・・・ふと鳥達の声が止んだ・・・

・・・・かわりに・・・


・・・・ぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・

「っ?! な、なにっ!?」
・・・人々の叫び声だった・・・


ガサッ・・・

「っ?!」
・・・ふと近くの背が高い草が揺れる・・・

そして・・・

ガサッ!






「リズっ! 大丈夫だったかいっ!?」
・・・ランパスタだった。

「ねぇランっ! 一体・・・一体何が起きているのっ!?」
「今教団の連中が大挙して攻めてきたんだ。」
「 っ!!!!!」
驚きを隠せないリズリア。

「はっ?! 母さんっ!? 母さんがっ!!」
「えっ!? 城にいくのかいっ!?」
行き成り親を心配するリズリア・・・ランパスタは戸惑うが、彼女の熱意に負けて・・・

「・・・・わかったよ。・・・裏道を通るよ。こっちへ・・・・」
・・・ランパスタは職業上様々な場所への抜け道を熟知していた。
それによりまだ教団がいるであろう表通りを避けて・・・

見つかることも無く無事に城へ着いた・・・

しかし・・・

そこは激戦区だったようで・・・

至るところに互いの軍の遺体が・・・



「・・・うっ・・・」
「・・・っっ・・・」
・・・二人は吐きそうになるも我慢し、執務室まで急いだ。

なぜ?

・・・リズリアが母親のアンリの気配を感じ取り、ソレを辿っていたためだ。

そして・・・ここでもまた教団に見つからずになんとかたどり着けた。

・・・そして注意しながら扉をあける・・・と・・・・












心臓に剣を突きたてられた父と・・・手が変な風に曲がり、足が無い状態で・・・床にうつぶせになっている母・・・アイリがいた。















「ぁ・・・ぁぁ・・・・か・・・かあ・・・さ・・・ま」
「・・・っリズ・・・・もう・・・」
助からない、とランパスタが言いかけた・・・其のときっ!

「・・・ぅぅ・・・ガハッ!!」
ビチャッ、と口から鮮血を出すアイリ・・・かろうじて生きているが・・・風前の灯だった・・・

「か、かあさんっ!!」
「ばかも、のっ・・・・大声、を・・出す・・な・・・」
・・・息絶え絶えだ・・・

「いい、か・・リズリア・・・よく・・聞け・・・」
「っ・・・」
・・・母の『最期の言葉』を一期一句漏らさぬように聞く・・・

「もぅ・・この国・・は落ち・・た・・・だか・・らお前・・・はも・・う・・・貴族・・じゃな・・い・・・」
「・・はぃ・・・はぃぃっ・・・・」
・・・涙が流れ始める・・・

「だか・・ら・・・もう・・・・・『しばられ・・・なく・・・て』・・い・・い・・・」
「ぅぅぅぅっ・・・・」
・・・後ろで扉に張り付き外を見張っているランパスタがいる。


「・・・そし・・て・・・これは・・・わた・・しから・・・の・・・最初で・・最後の・・・ねがい・・」




『お前・・・はお・・・前らし・・・く生き・・・ろ。貴・・・族の・・・娘・・・でなく、一人・・・の・・娘・・・【リズリア・・・とし・・・て】・・・』




「・・・っっ・・・かあさn」
・・・そっとリズリアの頬に何かが触れる・・・

「ふ・・ふふっ・・・死に際・・・にあえ・・て・・・よか・・・・・・・・・・・・・・・・・・った・・・・・・・・・・」
・・・・暖かな笑みをしたアンリの手はリズリアに触れて・・・



・・・・地に落ちた・・・・・・



「・・・・・ぅぁ・・・ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
リズリアは床に蹲り声を殺して・・・自分の服を噛み込んで泣いた。

「・・・・・・っ!!・・・リズっ、兵がくるっ!・・・逃げるよっ!!」
・・・ランパスタは半ば無理やりリズリアの肩を起こし引き摺るようにしてその部屋から離脱する。
・・・・そしてその数秒後に部屋へ入っていく教団の軍がいた・・・

・・・ランパスタは只管、リズリアを匿いつつ城を出て・・・裏道を使い街を離れ・・・街道の茶屋に止めてあった馬車に潜り込んだ。





【教団戦闘員の報告書】
・・・この教団の襲撃により『バルドラシー領』は地図から消滅した。
なお、一人娘であるリズリア・フォン・バルドラシーは消息不明である。






・・・・・・・・・

・・・・・

・・・


「ふぅ・・・・やっと終わったわ・・・」
「ははっ、お疲れ様。【リズ】」
「ごめんねぇ・・・【ラン】・・・手伝ってもらっちゃって・・・」
・・・そこでは何十枚というシーツや白衣を干す二人がいた。
・・・ふたりの衣服・・・それは看護士の服だった・・・・

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

・・・あの潜り込んだ馬車は『イロトワーホル』という街へ向かっていたみたいであり、途中で御者に気付かれたが・・・事情を説明すると快く同乗を許可した。更には食事をもらったりもした。
其の間・・・リズリアは一言も喋らず、何もせず、涙だけが流れていた・・・
まるで・・・人形のようだった・・・・
ソレを見た御者が・・・

「イロトワーホルに、大陸でも屈指の『心療医術士』がいるからその人に見てもらいなさい。」

・・・と、アドバイスを貰い町に着いて早々に別れたランパスタはリズリアを背負い、かの医院へ急いだ。

そしてたどり着いた矢先、ランパスタ自身も疲労困憊で倒れてしまった。

・・・ランパスタが目を覚ますと元気になったリズリアが席に座ってランパスタを看病していた。

「ランっ・・・ランッ!! 」
「リズっ・・・!!」
・・・互いに力強く抱き合い・・・涙した・・・・

「ラン・・・ありがとう。・・・あのあと蓮先生と詠さんのケアのおかげでここまで心傷が回復したの・・・。あとランが寝ているって月夜さんに教えてもらって・・・」
・・・元気になったリズリアはランパスタが倒れて寝ている間のこと等を話し進めて・・・ふと黙る。

「・・・ねぇ、ラン。・・・私、ここで働こうと思うの。」
「・・・なんでまた?」

そう問いかけると・・・・リズリアは不意に窓の外を見る・・・
つられてランパスタも外を見る・・・

目を向けた先・・・医院内の広い中庭では魔物の子、人の子が楽しそうに遊んでいた。

「・・・蓮医院長に聞いたらさ、あの子たち孤児なんだって。」
「っ!!」
・・・自分達と同じだった・・・

「最初は復讐も考えたの。でもね・・・もし復讐が成功したら・・・きっとまたこの子達みたいな孤児が生まれちゃうと思うの。それを考えたら・・・復讐は諦めたわ。だったら・・・

『あの子達みたいな子のさ・・お母さんになれないかな・・・っておもったの。』」
「・・・ふふふっ、なんともリズらしい考え方だな。」
・・・犬歯がチラリとのぞき、口角を吊り上げてにこやかに笑ってみせるリズリア。
ランパスタもつられて笑った。

「それ・・・でね・・・そのぉ・・・」
「・・・?」
なにやら急にモジモジしはじめるリズリア・・・




『わ、わたしが・・・母親になるから・・・ランは・・・ち、父親に・・・なってくれない・・・かなっ!?』




「・・・あれ? プロポーズ?!」
・・・リズリアにとって精一杯のプロポーズだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「・・・・・あの告白からもう8年か・・・」
「ちょ、ちょっとぉぉ! は、はずかしいじゃない・・・」
・・・リズリアは顔を真っ赤にしていた。

「まぁ・・・あれから色々勉強して・・・看護士になって・・・」
「医院のとなりに孤児院を作らせて貰ったしね・・・・」
二人で感慨深い顔をして空を見る・・・

「そして何より・・・」
「・・・ぅぅ・・・け、結婚・・・したし・・・ね・・・・」
・・・お互い顔を合わせてニコニコと笑う・・・

「しかも結婚式のすぐあとに詠さん月夜さんが・・・同時に妊娠して忙しくなって・・・」
「ぇぇ・・・大変だった・・・」
はぁぁ、と同じタイミングで溜息をする・・・

「・・・僕達も・・・その・・・」
「えっ!?・・・・・う、うん・・・いいよ・・・ランが・・・望むなら・・・」
・・・お互い耳まで赤くなっていた・・・






・・・・・・・・・・

・・・・・

・・・

ここは親魔領の街『イロトワーホル』。ここの医院にて働く夫婦がいた。しかもその夫婦は医院の隣にある孤児院の管理もしている。
『ヴァンパイア』の妻は種族特有の高圧な態度がなく、とてもフレンドリーで患者さんからのうけが良い。
対して『インキュバス』の夫は面倒見が大変よろしく、子供達から絶大な人気を誇っていた。
そしてその夫のところにいつもべったりな『ちいさなヴァンパイア』は孤児院や医院の中で大人たちからマスコット的存在にされていた。

もし子宝に恵まれず養子が欲しい時は一度相談に行かれるといい。

『ヴァンパイア』と『インキュバス』の夫婦と『ちいさなヴァンパイア』と『子供達』が元気に出迎えてくれるだろう・・・

【FIN】



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