■タイトル:『コレが世に言う幸せを呼ぶ白い粉かっ・・・』 ■作者:じゃっくりー -------------------------------------本文------------------------------------- 「ガッテーム! いちいち人の教会の前でチュッチュッラビュラビュしてんじゃねぇぞ、ゴルァ!!」

…いきなり荒ぶった汚い言葉を吐き出し外のベンチで寄り添いあいベンチに座る数多くのカップル達をコレでもかと威嚇する一人のシスターがいた。
そんな彼女は二階から飛び降り危うく教会の扉を開け放とうと扉に手をかけつつ魔法の準備か…口がモゴモゴと何かを言っているっ!?

そんな危険人物を同教会のシスターたちが黙って見過ごすわけも無く荒ぶる彼女の前に転移魔方陣で瞬間移動をすると数名がかりで彼女を取り押さえることに間一髪で成功するのだが…

「な、何をしているのですっ!? シスターマルゼっ!?」
「うがぁぁ! はなせっ! 離してくれぇぇっ! 私には【殺らねば】なら無いことがっ!だぁぁ! Fuuuu●k!!!!」
字が違いますよ!? 落ち着いてっ、落ち着いてください!!」
同じ服装をした数人の真っ黒いシスター服を着た女性ら数名で押さえ込んですら動こうとする彼女に更に増員して羽やら尻尾やらすら掴んでなんとか教会の奥へと荒れているシスターを引き戻せたのだが…
そう彼女らは教会は教会でも堕落神の信仰を集めるために作られた教会のシスター、所謂ダークプリーストたちなのだ。

その中でも一際目立つのがショートカットの銀髪で洗濯板控えめな胸をしていた彼女で毎回事あるごとに「リア充爆発しろっ!」とか「うっせ、禿げっ!」とか口を開けば暴言しかはかない問題シスター・マルゼティア=フォーラムである。
…彼女のために言わせていただくと元人間女ですよ?

彼女、数百年前ほどにさかのぼるが元々は反魔物国家の粛々とした教会に勤めていたのだ。
さらには素質があり勇者としてた取り立てられたのだが…あまりの素行の悪さに教会から追放を食らい偶々立ち寄った親魔物国家内で執拗に追いかけてくるリリムに喧嘩を吹っかけて返り討ちに遭いそのまま落ちて今に至る。
…『やだこの娘すごく面白い♪ お姉さんがんばっちゃうわよ♪』とそのときのリリム様はいつも以上に目を輝かせていた、とは近くに居たリリムの従者の談。

暫くは大陸に居たのだが相変わらずの自堕落っぷりに堕落神から直々に「ジパング行って愛を教えて来いや♪」と優しい笑顔とは裏腹に強制転移魔法にてジパングに流れ着いた。
…程なくして見つけた数十人の信者を有する教会(教団でも親魔側)にたどり着いて片っ端から全員堕落させたのだ自身が楽する為に教義の為に。

そして現在…

「う゛ー! う゛う゛ぅぅぅぅーー!!(外せっ! この猿轡はずせぇぇぇ!!)」
「…はぁ…どうしてアナタはそんなに口が悪いのかしら…」
『『はぁぁ……』』
祭壇のすぐ脇のオルガン奏者用の椅子にグルグル巻きに固定された挙句いやらしいデザインの猿轡を銜えこまされて彼女はやっと沈静化したのであった。
そんな暴れん坊にもれなくダークプリースト全員がため息を漏らすのはこの教会内では常である。



そんな彼女が荒ぶるのも無理は無い。
だっていつもの5倍の人が教会の施設内の公園のベンチ及び草むらの中にいるのだから…



「そう、今日は恋人のための日である【性】バレンタインデーなのだぁ♪」
「あら? マルマルちゃん? どこから入ってきたの? あとそれは字が間違いよ?」
「わはー♪ 玄関からだぁー♪」
そんな(ある意味)しんみりとした空気の教会に一際高い声が響いて皆が皆その声に振り返るとちょうど輪の一番外にいたシスターの目と鼻の先にフワフワと浮かぶものがあり、ソレを認識したそのシスターはさして驚きもせずその白い浮遊物へ柔らかい表情で質問をするとヒョコッと手足とニコニコしている顔が飛び出てピッと教会の玄関口を指差すとちょっとだけ開いていた。

ケサランパサランのマルマル。
何かと教会に遊びにくる常連でマルゼティアとは『ある趣味』が共通している仲間である。

「あら、マルマルちゃん? 入ったら扉は閉めなきゃメッ、ですよ?」
「わはー♪ わかったー♪」
その扉からは肌を凍えらさせるに十分な冷気を教会内へ運んでおりシスターは口は笑ったまましかめっ面をして人差し指でコツンとマルマルの額を突っつくとマルマルは眉尻だけ下げて「ごめんちゃい♪」といってフワフワ飛んでいきちっこい体全体を使って扉を閉めるのだった。

「それでマルマルちゃん? 何か用なの?」
「わははー♪ マルゼを遊びに誘いにきたのらぁー♪」
再びシスターたちの前にたどり着いたマルマルはシスターへの質問にスビシッと擬音がつきそうな勢いでガチガチに縛られたマルゼを指差す。
…勿論顔は笑顔だーわはー♪

「あら…でも今解放すると…」
「マルゼぇ♪ いつものお店に【鉄筋6】入荷したーわはー♪」
「っ!!!…ん゛っ!!(ゴキュリッ!)…それ本当か!?」
わはーわはー、とハッピーな粉を振りまきながらその界隈で有名な魔物娘をモチーフにした格闘ゲームの名前がマルマルから出た瞬間カッ!と目を見開いた彼女は猿轡の玉へ力を入れて一気に粉々に噛み砕いて「ペッ!」と唾と共に猿轡だったものを吐いてマルマルに視線を向けなおす。
…シスターらは一歩後ずさって信じられないものを見た表情で固まっていたのはいうまでも無い。

「よし! 今すぐいくぞ、今すぐにだっっ!!(ミシ…ミシミシ…ブチッン!!!)」
「わはー♪欲望に正直だぁー♪」
「というわけで私はゲーセンに行ってくる。皆、布教をしっかりするんだぞ? 堕落神の加護があらんことを♪」
そしてついにはロープどころか椅子まで破壊してしまった彼女はそのまま立ち上がりマルマルを肩に乗せて手を上げてフランクな挨拶と共に信仰の言葉を述べると風の如き速さで教会を後にして走り去っていった。
…シスター達を他所にゲーセン、って…

教会の扉は「またかよ…」と文句の如き軋み音を上げて走り去っていくマルゼらをシスターたちに代わって見送るのであった…


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「わはー♪ はやいはやいぃ♪」
「おぅよ! コレでも『光陰』の二つ名を教団のクズ共から貰っていた足だぜ!?」
ヒュウッ、と風きり音が響く風圧の中マルマルは笑顔ながら必死にマルゼの髪を握りこんで飛ばされないように必死だった。
まさにコカトリスも真っ青なその速度は彼女が元勇者だった証拠の一つであるが…コレ、それなりに魔力を使うので頻繁に使用できない。
…できないのだがこういう趣味にのみ出し押し惜しみしないのは彼女が根っからの堕落人(魔物的な意味ではなく)だからだろう。

そしてアッという間に目的の場所へとついてしまった。

「よぅし…早速行くぞ!」
「わはー♪ まけないぞー♪」
相変わらず彼女にしがみついたままのマルマルが返事をして彼女の肩に乗りなおすと彼女らはそのままゲームセンターの中へ入っていった。
…ちなみにマルゼはシスター服のままです

彼女らが幾許か歩くとすぐに目的の筐体が8基ほど目に入り天井を見ればソコにはでかでかと『本日<<鉄筋Y>>入荷っ! 集えっ、格闘馬鹿たちよっ!!』と垂れ幕が仰々しく飾ってあり彼女はそれを見るとつい顔を綻ばせてしまったようだ。

席にはもうすでに先客が多数おり人に混じって妖狐、グリズリー、ミノタウロス、ホーネット、アラクネ等が筐体の空きを待っている。
…グリズリーってアケコン(アーケードコントローラー)握れるのかっ?!

その待ちの人の列に並ぶとタイミング良くここの店のオーナーである刑部狸が歩いてきて彼女に気付くと近くによって声をかけてくる。

「やぁシスターマルゼ、マルマル。早速かい?」
「よぉオーナー!」
「わはー♪」
常連の二人は気兼ねなくオーナーに挨拶を返して二言三言話すも忙しいのかオーナーはすぐに話を切って切り上げていってしまった。
そして待つこと数分。
目の前でプレイしていたリザードマンの女性が席を退くと同時にその隣の男性も席を空け、彼女らは待ちに待った新作をプレイし始める。
彼女は椅子にすわり、マルマルはアケコンのレバーを杖にするように左手で持つと両足を器用に手のボタン側へ持っていき各々ゲームをスタートさせると彼女が徐に歓喜の叫びを上げた。

「よっしゃ! 今回もいるぜ! 『リカ=ペトネー』っ!!」
「わはー♪ 『緑野ロズ』もいるのらー♪」
どうやら過去作から引継ぎのお気に入りキャラがいたようで二人のテンションは更に上がったのだが…

「ん? 」
彼女の画面に『チャレンジャー参上っ!』と画面いっぱいに文字が出てきた。
…彼女は一瞬しかめっ面をするも笑顔になると若干前かがみになって画面越しにいる相手に囁くようにしてこう宣言する。


「いいぜぇ…こいよっ! このシリーズが出た当初からやりこむ私に挑むその浅はかさ、体に刻み付けてやんよっ!」


厨二臭がプンプンする台詞を吐き捨てて彼女はチャレンジャーとの戦いに歓喜しコントローラーを握りなおし、戦いの火蓋を切って落したのであった。


ーーー……シスター、ゲームプレイ中♪……ーーー


「…なん…だとっ!?」
「わはー♪ 相手の人すごーい♪」


惨敗である。


最初こそ優位に戦っていた彼女だったが相手は彼女の攻撃の癖を覚えたのか頻繁にカウンターを狙ってそれがものの見事に決まり続け…2勝3敗という結果で終わったのだ。
彼女もこれは予想外だったようで椅子から立ち上がり手を口に当てて「はわわわっ」と変な声で慌てている。
隣でプレイしていたマルマルの方は乱入もなくスムーズに終わったので隣のマルゼの様子をマルゼの頭にポフンとすわって観察していたのだがまさかの彼女の敗北に驚いているようだ。
…ただし笑顔で。

「…」
「…マルゼー?」
彼女は立ったまま俯くとブツブツと何かを言い始めてソレを不思議がったマルマルが彼女の頭から降りて前側から彼女の表情を覗き込もうとすると…

「っ!」
「っ!?」
何かを決意したような目つきになって顔を急に上げたものだからマルマルと危うくキスするところだったが彼女は吃驚したマルマルを放って向かいの筐体に座っているであろうチャレンジャーへ歩を進める。
マルマルは暫くは止まっていたが「わはー♪」と抜けた声とともにマルゼの後を追いかけていく。

「おい、あんたっ!」
「うぇぁ!? え、な、何っっ???!!」
「…わはっ♪」
そして彼女がちょうど席を立とうとしていたチャレンジャーの腕を掴んで自分の方へと向かせた。
勿論いきなりのことで驚くチャレンジャーだったが振り向かされた先に居たのはシスター服を着た洗濯板の胸の美人ということに更に驚きを隠せていないようで目に見えてアタフタしているのが周囲の目でも明らかだった。
…唯一人笑顔であるが。

そして彼女の瞳がしっかりとどう見ても男なチャレンジャーに一言物申したっ!






















私はアンタを気に入ったっ!! どうか私の伴侶になってくれねぇか!?
「…はぁ?!」


「…わはー♪ 告白かよぉー♪」
一瞬にしてゲームセンター内にゲーム音以外の音がなくなった。
そう彼女はそのプレイに感化されたようで、彼女の頬はほんのり赤くなっているのを見ると熱も上がっていることだろう。
そんな彼女のいきなりの告白に疑問符で返す彼が固まってしまうのも無理はない。
…そして笑顔の親友は空かさず彼女に突っ込みをポフッと入れるのを忘れなかった。

「…。」
「あぁ…えっと…ま、まずはお互いを知った上で…じゃダメかな?」
彼が長い沈黙に耐え切れずに出した答えは無難なものだった。
…何故かギャラリーから「意気地なしっ!」との声が聞k(ry

「オッケーだ! 全然オッケーだっ!!」
「うぉぉ!?」
「わはー♪おめでとぉー♪」
彼女はその返事に嬉しかったのか彼の手を両手でしっかり握るとブンブンと上下に激しく揺らし始めたので彼は素っ頓狂な声を出してしまうが、それはご愛嬌♪

そして祝辞を送り粉をポフポフとばら撒くマルマルにつられて周りのギャラリーも拍手とともに二人を祝うのであった…。




ーこうしてガサツな性格な彼女は憎きバレンタインデーに思わぬ幸運をゲットしたのである。ー


【完】 ------------------------------------------------------------------------------