読切小説
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魔王と勇者の再会〜なぜ世界は変わったのか〜
ここは神族と魔物の全面戦争が行われた近くの海辺である。
死闘と言う言葉さえ生やさしい程の凄まじい戦いはまる10日に及び、両軍とも全滅。総帥である主神と魔王も、共に深手を負って同時に退き、ようやく戦塵は止んだ。
魔物と神族の死体が長い浜辺を埋め尽くし、海は流れ込んだ血によって赤潮のように染まっている。
鬼哭啾々、まさに死んでいった者たちの泣き声のように、今はただ海風が響く。それはあまりにも悲しく淋しく、海の上を響きわたっていた。


この戦いの後、世界は大きく変わることとなった。
これは自らの容姿に運命を翻弄されながらも、飽くまで一途に彼を想い続けた女と、過酷な状況にも迷わず、彼女を愛し通した男の二人で選んだ、時代の転換点となった物語である。



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「どういう事だ…」
勇者は思わず口走った。まったく魔物に出会わない。ここは魔界だというのに。
彼は主神を崇める教団内でも随一と言われた剣と魔法の腕を持ち、神託を受けて勇者となった。彼の使命は『魔王城に潜入し、瀕死の魔王にとどめを差す』ことであった。

突然起こった主神と魔王の全面戦争。神族軍対魔王軍の昼夜を分かたぬ激烈な戦いは両者の放つ凄まじい魔力によって戦場付近に猛烈な嵐を巻き起こし、人間はもとよりあらゆる生き物は近づく事さえも出来ず、息を殺して戦いが終わるのを待った。しかし決着はつかず、主神も魔王も深手を負って退いた。自ら動けない主神は、魔王の傷が癒えぬ間に討伐することを教団に命じ、教団軍の腕利きたちに勇者としての神託が下され、魔界への潜入を殊に願っていた彼にも神力が授けられ、魔王城への突入が命令された。本来なら大勢の騎士や魔導師、傭兵たちが加勢に付くはずだが、魔界の混乱を突いての行動なので、勇者4人での単独行動・・・と言えば聞こえは良いが、つまる所は刺客、つまり暗殺者同然である。

勇者は授けられた美しく輝く鎧兜に、同じく輝く盾と鋭い剣を左右に構えていた。魔界にただよう、どんよりとした瘴気はうっかり吸いこんだら、ただの人間はどうなるか分からない。しかしこの装備がそれを防いでくれている。
授かった神力で強い魔力を探りながら進む。魔界に入り込む方法があやふやだったせいか、ここへたどり着くのには苦労した。おかげで仲間たちともいつの間のかはぐれてしまったが、仲間たちを待ち探す余裕は今の彼には無い。急ぐ理由がこの勇者にはあるのだ。

魔王の本拠、どれ程の敵がいるかと思ってきたが、いざこのうす暗い魔界に入ると、どうしてなのか何の襲撃にも遭わずに、あっさり魔王城にたどりついた。赤い月の照らす中、向こうにそびえる強い魔力を放つ、魔王城と思しき建物に勇者は違和感を覚えた。
「以外と普通の城だな…」
魔王の棲家ならさだめて忌まわしい、見るに堪えない禍々しいものを想像していたのだが、目の前にある城は規模は比べ物にならない程巨大だが、人間の街にある城と見掛けはたいして変わらない。
辺りの岩陰に身を隠しながら、ようやく正門と思われる巨大な城門のそばにたどりついた。開く訳は無いが、ものは試しと大きな鉄扉に手を掛けて押してみた。それは拍子抜けするほど簡単に開いた。トラップも無いようだ。わずかに開けたすきまからすばやく中へ入り込む。
『広い…』
この城前の広場だけで軽く人間の小さな町ぐらい余裕で入るだろう。警戒しながら城壁沿いに進む。
城内への扉には、さすがに魔王の城らしく大きく不気味な目玉がついていて、ぎょろぎょろと辺りを見回している。剣を突き立てようと物陰からばっと飛び出す。だが、その途端に目はしっかりと閉じてしまった。盾をかざして防御態勢を取るがなんの攻撃も無い。この扉の魔物を倒すのにはまた目が開くまで待っている必要がありそうだが、そんなひまは無い。この隙に、と扉を押してみるとこれまた簡単に開いた。トラップに用心しながらさっと飛び込む。
広大な魔王城を進んでいくと、長い廊下の曲がり角や扉の上に門扉よりやや小さい目玉が付いていたが、それが無ければうす暗い以外は人間の世界に普通にある城と変わらない。目玉は勇者が近づくとみんな目をしっかり閉じたり、消えたりした。だがいくら進んでも襲撃もトラップもない。それどころか魔物たちの姿さえ見えない。
『もう魔王は主神様に受けた傷の為に死んでいて、魔物たちも姿を消したのだろうか…』
いや、奥へ奥へと進む度に感じる魔力が大きくなっていく。このとてつもない大きな魔力。魔王の力に違いない。一刻も早く魔王を討って、自分の目的を叶えるのだ。勇者は自然と急ぎ足になる。
少々の旅をしたほども歩いて、城のかなり奥まった場所へたどり着いた。そこはとても内装が豪華で貴族の屋敷を見るようだった。その一角に勇者は立ち止まった。
『ここだ!』
とてつもない大きな魔力を感じる。魔王がいると確信した勇者は扉を注意しながら開けて、殺気が周りに無い事を確かめてから素早く飛び込んだ。
そこは人間なら3000人は座れそうな程の大広間だった。やはり大きさ以外は貴族の屋敷とさして変わらない。高い高い天井と石造りの床に真っ赤な絨毯、真っ白な壁。一方には大きな窓があり、明かり用であろう灯火が、双方の壁に奥まで並んで灯されている。

広い広いこの場所の一番奥は階段状になっていて、その最上段に大きな黒い椅子に腰かけている人影があった。そこからこの魔界を包んで、さらに世界にあふれる膨大な魔力を感じた。
周りすべてを飲み込む程の圧倒的な魔力。間違いない。あれが魔王だ。
どうしてなのかは分からないが、辺りには殺気どころか気配も無い。今が魔王を討つチャンスだ。剣を握り直し、勢いつけて走り出した勇者は、一気に距離を縮める。徐々に人影が大きくなる。
だが、妙だ。魔王は姿こそ人間に似ているが、かなり長身と聞いていたのに、椅子にいる者の背丈は人間と変わらないどころか、すごく華奢な感じだ。
それは金地に縁取られた、黒のベルベットのような艶やかな厚手の生地のマントを羽織った女だった。一見人間のようだが、頭に生えた2本の羊のような、曲がった太い角、エルフのように尖った耳が魔物であることを示している。

最上段に後わずかという所までたどり着いた時、間近でその顔をはっきりと見た勇者は立ちすくんだ。
「!!?!?」
「…来たのね。」
女の魔物は沈んだ表情で静かに言った。
「…そ、そんな…まさか…」
「そのまさか…そうよ。わたしが魔王よ。」
ガシャンッ!!
勇者は剣を取り落としてしまった。それは彼がなにより逢いたかった恋人だったのだ。


二人は幼馴染みだった。故郷の教団首都で極々平凡に育ったが、彼女は『天使』とあだ名される程の美しい娘に成長した。引く手あまたの彼女だったが、幼馴染みの彼と思い合っていて『結婚すれば、他者からの性関係強要は死刑とする』という教団の教えを逆手に取って、早々に婚約を交し、一緒になる日を楽しみにしていた。
だが、結婚直前に彼女は突然失踪し、その後家族たちも姿を消した。いくら捜索しても手掛かりはまったく無く、魔物に誘拐された以外に考えようがなかった。彼女を奪われた彼は痛憤し、恋人を奪い返すために教団の部隊に入って瞬く間に頭角を現し、ついに勇者にまで選ばれた。
別離からおよそ2年近く、本来もう子供の一人もいる夫婦になっているはずの二人は今、殺し殺される仇敵の勇者と魔王として向かい合っていた。


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「ど…どうして…どうしてこんなことに!」
勇者は泣いていた。左手の盾も床に落とし、へたり込んだ彼の目から涙がとめどなくあふれる。頬を伝うしずくがぽたぽたと落ちて、両手をついた床の真っ赤な絨毯に水玉模様をいくつも作っていた。
魔王は玉座を離れて、勇者のそばへ片ひざを付いた。
「とりあえず聞いて。傷ついた魔王は死んだわ。養女だったわたしが後をついで魔王になったの。」
「そんな…」
勇者はわなわなと震えた。魔王を討つ事を使命として魔界に乗り込んできたが、それは恋人を助け出す手段でしかなかった。だが、こともあろうに魔王は愛しい彼女だった。魔王を討つ、それは恋いこがれた彼女を自分の手で殺すという事に他ならない。
「うわああああああああああああ!!!」
あまりに残酷な現実に、勇者はその称号をかなぐり捨てて号泣した。
沈痛な表情の魔王は目を閉じてうつむいていたが、やがて顔を上げた。
「ねぇ、どうするの?やっぱり戦う?あなたがどうしてもと言うのならわたし…殺されてあげるけど…」
「冗談じゃない!!そんなことが出来るくらいなら、苦しんでなんかいるもんか!最後に会った日から今まで、剣や魔法の修行に明け暮れ、どんなに苦しくても耐えてきたのは君を助け出す為だったんだ!こんなことになるんだったら、勇者なんかになるんじゃなかった!!」
突っ伏して床に両拳を叩きつけて泣く勇者の肩に、魔王はやさしく手を置いた。
「ねぇ…まだわたしのこと、好き?」
勇者は涙を横なぐりにして顔を振り上げた。
「そうでなかったら、ここへなんか来てない!」
「わたしがけがれた魔物でも?」
「ああ。」
「みんなが憎んでる魔王でも?」
「俺の気持ちは変わっていない。好きだ。今だって。」
魔王はほっと息を吐いた。
「よかった…もうこれで思い残すこともない…」
「君に無くても、俺にはある!」
「え?」
勇者は魔王にまっすぐ向き合った。
「もう決めた!!俺はたとえ主神様に背く事になっても、君を殺す事だけはできない!君こそ俺の命を取ったらどうだ?君にだって魔王としてのプライドがあるだろう。自分を殺しに来た勇者を生かしておく訳にはいかないだろ?」
彼女を殺すより、彼女に殺される方がずっとマシだ。勇者は本気でそう思っていた。
魔王の燃えるように赤い目からぽろっと涙が落ちた。
「…わたしに、できると思ってるの?そんなことが…」
魔王は勇者に抱き着いた。
「わたし怖かったの。魔物になり、そして魔王にまでなっちゃったわたし。もしあなたに怖れられ憎まれるんだったら、もう生きていてもしょうがない。でも、どうせ殺されるにしたって、知らないだれかにじゃイヤ。せめてあなたにって思ったの。」
「そんな事するもんか!させるもんか!そんな奴がいたら、俺が切り刻んでやる!」
彼には、それが主神への反逆である事などもう関係なかった。想い焦れた恋人との残酷な再会は、主神の加護を受けた勇者だった筈の彼の信仰心を粉々に打ち砕いてしまっていた。
「でも、前の魔王が死んで、魔物も共に滅びたのかい?ここへ来るまで全然魔物に会わなかったんだけど。」
身体を離した彼女は彼と間近に向き合った。
「それはわたしがそう頼んだから。それに魔物だってちゃんとした生きものなのよ?魔王の魔力によって左右されはするけど、魔王が死んだぐらいじゃ滅びたりしないわ。それに、例えわたしが死んでも魔物どうしが争って、勝ったひとが次の魔王になるだけなんだから。」
「そうなのか…」
魔王さえ倒せば世界が平和になる・・・これまで受けてきた教団の教えのせいで、そんな風につい単純に考えていたが、やっぱりそんなに簡単な話じゃ無いか…今さらながら彼は思った。

「それにしても、どうして君が魔王の養女なんかになったんだ?」
「…わたし、先だった娘さんそっくりだったんだって。彼女、主神に背いたから命を奪われたの。」
「え???」
魔王は主神の敵対者であるはずなのに、その娘が主神に背いて命を奪われた?
「魔物の主神である魔王の娘は、最初から主神様に背いてるんじゃないのか?」
「そうじゃないの。魔王も魔物も、人間と同じように主神に創り出された存在なの。人間が主神への信仰を怠らないように造られた、言わば“脅し”の道具なのよ。」
驚いた。言葉が出ない。そんなことが…
「主神は人間を創ったけど、その叡智が自らを脅かすことを怖れて、魔王と魔物を創って人間の上に置いたの。人間が多くなると主神の命ずるままに、魔物たちは人間を襲ったわ。その中には、盲目的に主神に従うことに疑問を持った人たちがたくさん含まれていたの。」
彼は呆れた。それでは魔物たちは、主神にとっての治安部隊ではないか。
「でもそうやってるうちに、だんだん魔物が人間より多くなってくると今度はあなたみたいな勇者を作って、魔王を殺させる。次の魔王の座を争って、魔物は殺し合って減っていく。また人間が多くなりすぎると、また魔物に人間を襲わせて数を減らす。そうやって主神は人間界のバランスを取ってきた。けれど、そんな魔物の境遇に疑問を持ったのが魔王の娘リリムだったの。主神の命令のままに動いているのに、一方的に人間たちに憎まれることを悲しんだ彼女は、魔力で人間の女に姿を変えて、様ざまな人たちと会っては真実を話した。そして父の魔王に人間を襲わないように頼んで、人間と魔物が争わないでいい世界になることを願ったの。でも、魔物と人間が争わなくなって、人間たちが自らの教えに従わなくなることを怖れた主神は、教団に人間界に出ていたリリムの居場所を教えて彼女を捕まえようとしたんだけど、自分たちへの不満を魔物への憎しみにふりむけて、横暴を隠していた教団は『魔物と人間に友好などされては自分たちの支配がくずれてしまう』からって、兵隊を出して彼女に攻めかかり、魔物を嫌っている神族たちまで加わって、とうとうリリムを殺してしまったの。彼女と交友した人たちもみな殺しになったわ。もちろん魔王は嘆き悲しみ、怒り狂った。今度の全面戦争は、それが最初のきっかけだったの。」

き、汚い…きたな過ぎる!せっかく魔物と人間の共存と平和を願ったリリムを、己が支配が危うくなりかねないからと言って、そんな非道な真似をするとは…
だが、こんな理不尽な行動さえも「魔物に恩情など不要だ。」と、きっと教団はうそぶくだろう。いや、絶対そうに違いないのだ。
よく考えてみれば、主神を背景にした教団はたいへんな特権を持っていて、聖職者たちは自らが主神そのものであるかのようにおごり高ぶり、民衆はもとより王侯貴族たちにさえも屈服を強いている。異教徒は魔物同然に抹殺の対象。また口では「全ての者に幸せを」などと言ってはいても、大きな街にはスラムがあり、物乞いがあふれ、行き倒れも絶えない。食べていけない者は置き引き・かっぱらい・スリ・空き巣、ついには強盗へと墜ちていく。
そんな者たちを教団は容赦無く自前の武力で抹殺し特権を使って処刑していく。そうならない前に対策をするべきだと言う王族の意見から出た『貧民を救う』と称した行動も、内実は浮浪者たちを捕まえては奴隷とし、重労働を強制するものだ。ひどい扱いを受けた人々は次々に死んでいく。
だが、教団はそんな人たちの不幸を「全ては主神のおぼし召し」の一言で片づけてしまう。高位高徳の司教や純真なシスターたちも、主神に「人々を救ってくれ」と祈ることはしても、そんな世の中の仕組みにあまり疑問をもっているようには見えない。
彼は教団内にいながらも、その事にはどうにも納得しかねていた。だが彼女を救い出す事に全力を捧げていた彼は、その機会を失うことを恐れて無理に見て見ぬ振りを決め込んでいた。しかし今や教団への不信は怒りに変わった。あの10日間教団の人間として必死に主神側の勝利を祈っていた自分があまりにも浅はかだった。やはり片方の一方的な説明を鵜呑みにしていては何も分からないのだ。

彼女はなおも話を続ける。
「暴走した教団や神族たちをかばって、謝ろうともしなかった主神と戦うことを決意した魔王は、まず教団を滅ぼそうと思って、本部を探るためにひそかに人間に化けた魔物を首都に入り込ませたの。その魔物が、ある日わたしを見かけて驚いたそうよ。わたしは殺されたリリムに瓜二つ、どころかまったく本人としか思えないほど似ていたんですって。」
「それじゃ、魔王は君を娘代わりに?」
「そう、魔力でリリムそっくりのわたしの姿を見た魔王は、たまらなくなってわたしを魔界へ連れてきてしまったの。」
何ともはた迷惑な話だ。俺はそのせいで結婚をフイにし、しかもあやうく彼女と殺し合いになるところだったんだから。『自分そっくりな人間が世界中に7人はいる』とか聞いたことがあるが、こともあろうに彼女が魔王の娘に似ているとは。でもそれだったらリリムも美人だったんだな…
彼は不謹慎にもそんな事を考えてしまった。
「魔界につれて来られはしたけど、わたしはまるでお姫さまみたいに大切にあつかわれたわ。でも魔界の中で、しかも魔王のそばにいたわたしは結局魔力にさらされて、魔物になってしまったの。それで魔王―お父様はわたしをそのまま養女にした。わたしの家族がいなくなったのは、教団からのとがめを怖れたわたしがお父様に頼んで、かくまってもらったからなの。あなたにもどうにかして連絡をと思ったけど、あなたは教団本部に籠ってしまっていたから、たくさんの結界のせいで魔物のわたしには近づくこともできなかった。それにあんまり動くと、主神や教団にわからないように戦いの準備をしていたお父様のじゃまになりそうだから、どうすることもできなかった。とうとう出陣したお父様は神界より先に、教団本部を攻めるつもりだったけど…あ、あなただけは助け出してもらうようにわたしから頼んでたわ。ほんとよ?だけど首都に向かう前に主神軍が立ちはだかって、あの戦いがおこった。どっちも全滅してしまって、ひどいけがでここに帰ってきたお父様は最後の力をふりしぼって、持っていた魔力をわたしに譲った。そしてわたしは魔王になった…」
そこで彼女は一端言葉を切った。
「あの玉座に着いてすぐに、あなたたちが魔界に侵入してくるって報告が入ったわ。あなた一人にここへ来てもらったのは、わたしの命と引き換えの賭けだったの。もちろんさっき言った通りあなたに命をあげようと思ったからだけど、もしあなたがわたしを生かしておいてくれるなら、死んだリリムお義姉様の願いをわたしが叶えてあげたいの。」
リリムが望んだ、人間と魔物が争わずに済む世界。それならもう誰も死ななくて済む。
「俺は君に剣は向けられない。君の望みは俺の望みだ。思い通りにすれば良い。」
「本当に、いいのね?わたしを…殺さなくても…」
「一緒に手をつないで歩いてた、幼いあの頃から俺の心は変わっていない。改めて誓うよ。愛してる。俺の全てを賭けて。」
「ありがとう…わたしもあなたを愛してる。ずっとずっと、あなただけ想ってた。」
二人は互いにしっかりと抱き合った。

「でもこれからどうしようか。俺は主神への反逆者だ。もう帰る所は無いし…」
「…だったら、ここでいっしょに暮らさない?」
「え?!」
彼はさすがに面食らって身体を離し、彼女の顔を見た。
「その…約束を果たしましょうよ。お互いにひどく状況が変わっちゃったけど、人間と魔物の結婚第1号として。」
彼女は恥ずかしそうに頬を染めて、両手の人差し指を胸元で突き合わせていた。
「だ、だけど…」
「やっぱりダメ?…」
泣きそうな彼女の表情に彼はあわてた。
「い、いや、君との結婚は願ってもないことだけど、人間と魔物との結婚って…」
「ねぇ、聞いてくれる?あの10日間の戦いは結局主神側の勝ちだったわ。」
「え?相討ちじゃなかったのか?主神もひどい傷を受けて動けなくて、代わりに俺たちに魔界への突入命令が下ったんだけど。」
「それだけじゃないの。魔王軍が全滅したことは知ってるでしょ?」
「ああ。もの凄い数の魔物が死んだらしいよな。戦場近辺は本当に死骸の山ができてるって報告が教団にもあったよ。」
「殺されたお義姉様の仇を討つために、お父様は全面戦争に向けて世界中から魔物を集めたわ。けど戦いと聞いてあらゆる種類の魔物がどんどんやって来てしまって…まあ、中にはサボりだとかで来なかった魔物も少しだけいたらしいけど。それで魔物は性別でそれほど能力差はないから、オスメスで軍を分けて、メスには魔界の守りを任せて、オスだけが戦いにいった。それが全滅した…つまり今残ってる魔物は、戦いに行かなかったほんのわずかのオス以外は全部メス。しかもほとんどの種類でオスが全然いないんだって。このままじゃ、魔物はかならず絶滅してしまうの。」
そう言えばそうだ。女だけで子供はできない。
「でもわたしは魔王。なんとか魔物の存続を図らないといけない。そこでわたし考えたの。魔物がほぼメスばかりになったんだから、これからは人間を夫にして、愛し合いながら共に生きていけたら、リリムお義姉様が願ったようになったらいいなって。」
やっぱり変わってない…昔から彼女はとてもやさしかった。魔物になろうと魔王になろうと、それが変わっていないことに彼は安心した。でも…
「うーん…素晴らしい事だとは思うけど、君はともかく恐ろしい魔物たち相手じゃ、とてもそんなことが出来るとは…」
「わたしは魔王よ。願えば思い通りになるの。この城だってわたしが思ったとおりに変わったのよ?もとはすごい不気味だったけど、『イヤだなぁ』って思ったら、こんな感じになったの。」
「ほ、ほんとうかい?!」
「ええ。じゃあ今からやってみるわ。」
「何をだい?」
「見てて。来なさい!」
彼女がぱちん!と指を鳴らすと、広間にさっと大きな魔法陣が現れた。それがぱっと赤く輝いて消えたと同時に、ドラゴン、リザードマン、ワーウルフが奇怪な泣き声と共に、その場に現われた。その姿の醜怪さ、そして不気味なうなりを上げる獰猛さは形容しがたい恐ろしい有様だ。気配さえ感じていなかった彼は、突然の魔物の出現に思わず床の剣を拾おうとした。
「だいじょうぶ。見ていて。」
彼を制した彼女はすっくと立ち上がり、そのしなやかな右手をさっと上げた。
「全ての魔物たちよ!姿も心も我が如く!」
その言葉と同時に彼女からとてつもない大きな魔力が発せられた。それがまるで波紋のように、広い大広間をさっと通り抜けていった、と思った時だった。
「あっ!?」
3匹の魔物が不思議な光に包まれたのだ。一定の色を持たないその光は見る間に形を変えていく。人間よりやや小さなワーウルフは少し身体が大きく、天井ギリギリなほど巨大なドラゴンは小さくなっていった。そして、様ざまに色を変化させる光は、やがてある形を取るとパッと大きく光って消えてしまった。
「??!」
彼は驚いた。光が消えた後、そこにいたのは醜い怪物3匹ではなく、まぎれも無い美女と言うべき若い女性3人だったのだ。
ワーウルフは、身体は完全な人間の女性の形体に、その風貌は凡百の人間の少女よりもかわいらしくなっていた。もっとも、頭の上にあるオオカミの耳と金色の眼。そして八重歯よりはやや長い犬歯。ほぼそのまま残った腕とももから先。ふさふさしたしっぽが、彼女がワーウルフである事を示している。
ドラゴンにはさすがに角も翼もそのとげとげしさも残ったが、やはり顔から身体、二の腕とももまでは人間の女性となっていた。
リザードマンに至っては、目の色と耳と手先足先、しっぽ以外は完全に人間と同じ造りになっていた。
「はあ〜。なんだったのかしら。今の…あれ?あたし、人間の言葉しゃべってる!」
すっかりショートヘアのかわいい女の子に変わったワーウルフが驚きの声をあげた。
「そ、その姿人間そっくり!」
「あんただって!」
すこぶる付きの美人になったドラゴンと、勝ち気そうなつり目にポニーテールの美少女なリザードマンが互いを指さし合う。
「どう?これなら怖れる人も少ないはずよ。もう魔物は人間を殺すことはないわ。人間は大切な、わたしたちのオス。人間がいなければ、わたしたちも滅んでしまう。残ってたオスの魔物も、みんな女性になってもらったわ。男のプライドを持ってた魔物もいただろうけど、これもみんな魔物が生きのびるため。がまんしてもらうわ。」
「すごい!!凄いや!さすがはま…!!」
思わず立ち上がった彼は『魔王』と言い掛けて、ハッと口を押えた。
「いいのよ。ほんとにわたし魔王なんだから。…ねぇ、もう一度聞かせて。ほんとにわたしが魔物でも好き?」
「ああ、君がなんであろうと好きだ。」
彼女は少し恥ずかしそうな表情をした。

「じゃあ、今のわたしを見て。」
首元のひもを解くと、彼女が羽織っていたマントがばらりと床に落ちた。
「!!?」
今までマントであまり見えなかったが、彼女はほとんど服を着ていなかったのだ。
手には二の腕まである手袋、足はブーツを履いていたが、ほかに隠されているのは意匠なのか、右ももまでのタイツ以外は、人間だった頃よりも大きくなった胸とほぼ局部だけ。しかも胸の覆いは彼女が首に巻いた、犬に着ける首輪のようなものから革のバンドでつり下げられている。それも所々ハート型の穴が開いていて、真ん中にはひときわ大きな穴があって胸の谷間が丸見えだ。局部を覆う布もかなり小さく、しかもそれを前後でつないでいるのは細いひもだ。もっとも両腰にはずり落ちない為にであろう、これも変わった形の腰当てのようなものがあるが。その形の良いくびれの下、左の腰にはピンク色のハートのようなマークがあり、そして腰の後ろからはコウモリのような翼が生え、先端がハート型の足以上もある長さのしっぽがぴこぴこと動いている。
「これが今のわたし。人間の男の精を吸って生きるみだらな夢魔、サキュバスなの。」
教団内では禁欲一方で、若い者ばかりの兵団や部隊でうっぷんが溜まらない訳が無い。上の目を盗んではこっそりと娼館を利用している者が多かったが、彼女を助ける為の修行に明け暮れていた彼には、そんな場所をのぞいた事さえ無い。彼は、彼女のそんな刺激的な姿を間近にみてどぎまぎしていた。
「あ、あの…そ、その翼で飛べるのかい?鳥に比べたらずいぶん小さいみたいだけど…」
混乱して、思わず何の関係も無いことを口走ってしまった。
「んー。鳥みたいな飛び方はできないけど、この翼から魔力を出して飛ぶの。けっこう自由に飛べるのよ?飛んでみる?」
「い、いや。良い…」
くだらない事を聞いたことを後悔した彼だったが、そこで返事が途切れた。
「ん…」
彼女からのキス。ほんの少しだけ背伸びして彼の首に両手を回し、顔を近づけた。共にいた頃は教団の教義を鵜呑みにして、一度も交わしたことの無い初めての口づけ。互いのくちびるに触れるだけのキス。顔を放して、二人は万感の思いで見つめ合う。
「・・・」
「・・・」
2年近い歳月の中、まったく変わってしまったお互い。それでも変わらない想いを確かめた。幼いころから信じてきた教団の教えのままに、ただお互いだけを愛してきた。自分たちとは本来関係ない事で失われてしまった約束。それが今やっと果たされようとしている。
今度は彼が彼女の顔を両手ではさむと、ほんの少しかがんで顔を近づける。改めて感じる彼女のくちびるは、とても柔らかかった。すると彼女が少し口を開けて、彼のくちびるをちろっと舐めた。ちょっと驚いたが、彼も舌で応える。からめた彼女の舌は、例えようも無く甘かった。
「ん…」
「んんん…」
彼女も彼の首に腕を回し、ぴちゃぴちゃとお互いの口の中をなめ回す。
「ん…んん…」
口を離すと二人の間に混じり合った唾液が糸を引く。
「あふぅ…」
口の端からあふれただ液をたらし、とろんとした彼女の眼差しは蠱惑的な妖しさを湛えていた。だが、その後の彼女の言葉に彼はさらに戸惑った。
「ねぇ。このまま、ここでシましょう?」
「え!?こ、ここでかい?!!彼女たちが見てるよ?!」
ドラゴン娘たちはその場に座り込んで、二人を見ていた。
「うん。あの子たちに人間との交尾のしかたを教えてあげるの。ね?」
彼女はそう言うと彼の兜をひょいと外して、床に落ちた盾の横に置いた。当惑はしたが、彼女の口を犯した事に興奮していた彼は勇者の証しだった鎧も放り捨てて、アンダーの服だけになった。彼は彼女の発する強い魔力の障壁の中にいるので、鎧が無くとも魔界の瘴気にはさらされていないのだ。
「これであなたに直接さわれるわね。」
改めて抱きつかれて、鎧越しでは解らなかった彼女のやわらかい胸の感触に驚き、今までのもやもやした感情がはっきり『劣情』となって彼を刺激する。
「あ、あの、触ってもいいかい?」
「もう命まであなたにあげてしまったのよ?この身体もすべてあなたのよ。好きにして。」
とまどいながらも、その覆いの上から以前より豊満になったふくらみをなでてみる。
「あうっ…」
指先が覆いの穴からのぞく肌に直接触れた。
「ああっ!」
その肌のつややかさにまた驚く。
劣情はつのり、両手で彼女の両胸をつかんで揉んでみる。
「あっ、あう。あん…」
その感触は感じた事の無い柔らかさだった。ふと脇腹のピンクの模様をなでてみる。
「ああん!!」
一番大きな反応。
「そ、そこ感じちゃう…」
頬を染めて濡れたまなざしで見つめてくる彼女に、彼の興奮が頂点に達しようとした時だった。

「無理に魔力で押さえつけてたけど…」
「え?」
「もうガマンしなくてもいいのね♥…」
「あっ!」
彼女の手が彼のズボンの上から股間をなでた。
「ふふっ。あなたのおチンチン、もうすっかり硬くなってるわね♪」
彼の足元に膝をつくと、ズボンからもう完全に上を向いてしまっている肉棒を取り出す。
「わぁ、おっきくておいしそう。」
はむっ。
「うっ!」
彼女は彼自身をその口いっぱいにほお張って、まるで子供が飴でもなめるように舌を這わせる。
「ん…とっれもおいひぃ…ん…」
れろ、クチュ、チュル、クチャ、れろれろ…
彼は彼女の痴態に混乱していた。さっきまでの魔王としてのりりしい彼女や人間だった時と同じやさしい彼女とは打って変わって、平然と卑語を口にし、自分のモノをためらいも無くくわえ、嬉しそうにしゃぶり廻す。これが今の彼女の本性。みだらなサキュバス…
彼は困惑と快楽に翻弄されていた。
「あぅっ、あっ!ああっ!」
亀頭、カリ首、裏筋も絶妙の舌使いに責められて、身体の奥から劣情が止めど無くあふれ出てくる。今まで幾度と無く彼女を想って自らを慰めてきたが、それとは比べものにならない快感だった。膝から力が抜けて床へくずれそうになる。思わず彼女の角と肩にすがってどうにか身体を支えた。さらに追い込む為に彼女は顔を上下に激しく動かす。
ちゅば、ちゅば、ちゅば、ちゅば…
「ん、ん、ん、ん、ん、ん…」
「ううぅぅ…」
限界が近づいて先走りが漏れ始めた。
「も、もうだめだっ…出るっ!!」
「だひてっ…クチュ、あなひゃのこひザーミェン…ジュル、わらひのうへのおくひに…チュプ、いっぴゃいだひてっ…」
「ううっ!!」
彼はついにたまらず、欲望を彼女の口の中に吐き出した。
ドクッ!どくん、どくっ、どくっ、どくっ…
「んんっ!んんん…」
ごくんごくんとのどを鳴らして、彼女は彼の放った白濁を飲み込んだ。射精の終わったモノをまだ足りないとすすり上げる。
ちゅるるーぅ。
「ああぅ!!」
尿道に残った精液まで吸い出されて、おもわず声を上げる。
ようやく彼の男根から口を離した彼女はてらりと光る唇をなめて、うっとりとした。すっかり上気した彼女の顔はおそらくどんな娼婦よりも艶っぽいだろう。
「うふふ、すっごくおいしいわ。あなたのどろっとしたザーメン。今まで食べたどんなものよりずっとおいしい♪…ねぇ、今度はこっちのお口に飲ませて。」
彼女は腰の留め具を外すと局部をようやく覆っていた布がめくれて、たちまち秘所があらわになった。そのまま床に腰を下ろすとためらい無く膝を広げ、いわゆるM字開脚と言われる形になった。
「早くあなたのおチンポ、わたしのおマンコに入れてちょうだい♥」
彼女は床に背を付けると腰を持ち上げた。
「ほら、見て。あなたのが欲しくて、こんなにあふれてくるのよ。」
両手の指で陰唇を思い切り広げて、その秘奥を彼の前にさらけ出す。愛液が中からあふれてぽたぽたと絨毯に落ちる。何の恥じらいも無い彼女の言葉と行動に戸惑いながらも、その卑猥さに彼の劣情はいよいよ激しくなる。いつの間にか彼のモノは再び硬さを取り戻していた。
「元どおり元気になったわね。はやくちょうだい♪」
彼女の足の間に膝をつき、その細い腰を捉えて、彼はモノを彼女のソコにあてがう。性に関してはほとんど聞きかじりの知識しかなくても、これだけ濡れていれば慣らす必要も無さそうだ。
「じゃあ、いくよ?」
「はやくいれてぇ♥…」
いやいやするように首を振る。腰を進めると先がずるりと入った。
「んんっ…」
ある程度まで入ると、何かにはばまれて進まなくなった。彼女もつらそうなので身体を止める。
「…きて」
「え?」
「そのままわたしの奥まで来て!かまわないから!」
つらそうな彼女に一瞬ためらったが、自分も早く彼女の奥まで入りたい。
「じゃ、行くよ!」
彼は言われるまま、無理に身体をずっと進めた。
「ああーっ!!」
何かが裂けたような感覚を自身に感じて下半身に目を向けると、彼女とつながった場所から赤い糸が彼女の体を伝わって落ちていく。
「えっ!君、サキュバスなのにまさか…」
「そうよ…うっ!…あなた以外に…だれともスる気なんかなかったもの…本能押さえつけるの、ほんとうにたいへんだったんだからっ、うう…」
彼女にはずっと驚かされっ放しだ。淫魔なのにも関わらず、まさか俺の為に純潔を守っていてくれたとは…魔王の処女を破ったのは、後にも先にも俺一人になるだろうなぁ…
あまりの事態に、彼は痛みをこらえる彼女の頭を撫でながら、そんな事しか考えられなかった。
「も、もうだいじょうぶ…はやく動いて…あなたの熱いの…わたしのおマンコに飲ませて…」
まだ痛みがあるだろうに、彼女は欲望に耐え切れない顔で彼を促した。
「動くよ?」
「はやくぅ…」
わき上がる欲望を必死に抑えて、ゆっくりと動き始める。彼女の痛みを心配してでもあるが、一回彼女の口に出したというのに、余りの快感の為に簡単に射精しそうだからだった。彼自身を包む彼女の中はとても熱く、そして柔らかく、感じた事の無い心地よさで締め付けてくる。彼の頭はまるで熱にうかされた病人のようにぼうっとしていった。
「あっ!あっ!あっ!ああ!あん♥!!」
いつの間にか彼は夢中で腰を打ちつけていた。彼女の奥へと突き当たる自身への刺激は例えようもない。
「き、きもちいい…」
「も、もっと!もっとぉ…」
ずちゃずちゃという水音とぱんぱんと肉がぶつかる音と共に、二人は絶頂を目指してひたすら疾走する。
「あっ♥!ああ!あん♥!あっ!あうっ♥!!」
先走りが漏れはじめた。もう持ちそうにない。
「い、いくよっ…」
「だ、だしてっ…はやくっ…」
言われなくても限界だった。
「ぐううっ…」
彼女の奥底へと2度目の欲望を吐き出すと同時に彼女も絶頂に達した。
「あああぁぁぁ♥♥♥…」
ドクッ!!どくっ、どくっ、どくっ、どくっ、どくっ、どくっ、どくっ…
2回目なのに、1回目以上に長く射精は続いた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」
絶頂に酔いしれて二人は激しく息をついた。
「はぁ…こんなにも素晴らしいのね…愛する人に抱かれるって…」
うっとりとする彼女の表情は、本当にこの世ならぬ美しさだった。
「あ。あなたのおチンポ、もっと硬くなったわね。きっとわたしの魔力が流れ込んだせいで、あなたインキュバスになったんだわ。」
「インキュバス?」
「ええ。男の夢魔のことだけど、これからは魔力を持った人間の夫のことになるわね。どう?どんな気分?」
彼女の言葉通り、彼のモノは彼女の内で、ますます硬さを増していた。今まで自慰の度に感じていた、射精後の脱力感はほとんど無く、情欲は果てしなく燃え上がり、下手をすると永久に腰を振りかねない程だった。
シたい。シたい。貪りたい。彼女の身体を俺の白濁で汚したい。
「ほんとだ。全然治まらないや。インキュバスってすごいな。」
ふと視界によぎったものの方に彼が目を向けると、ドラゴン娘、リザードマン娘、ワーウルフ娘が、じーっとこっちを見つめていた。
「あっ?!?!!」
彼はあまりの快感に、3人がすぐそばにいた事をすっかり忘れてしまっていたのだ。
「ねぇ、もっと…」
「う、うん。でも、やっぱり見られながらじゃ落ち着かないなぁ…」
我を忘れて夢中になっていたのに、いざ気が付くとどうにも気恥ずかしい。
「じゃあ寝室に行きましょう。」
ぱちん!と彼女が指を鳴らすと、また赤く輝く魔法陣が二人の下に現われた。
「転移せよ!」
魔法陣がさっと光るとたちまち場所が変わった。シックな部屋のベッドの上に、つながったままの二人はいた。
「ここは?」
「わたしの部屋よ。これでゆっくりデキるわ。」
「本当に凄いな、君って。なんでも出来るんだな。」
「わたしだって驚いてるのよ。なんでも思いどおりになりすぎて怖いの。もし力が暴走したら、あなたがわたしを止めてちょうだい。」
「ああ。でもそうなったら、たぶん俺も一緒に…」
「そんな…」
「そうならないように、もっと愛し合わないとな。」
「そうね…そうよね。」
「じゃあ、ん…」
「んっ…んんん♥…」
二人はお互いの唇をむさぼり合った。


大広間に残された3匹の魔物…否、否。3人の娘たちは魔王と勇者の交歓を見せつけられて、すっかり発情してしまっていた。
「魔王さま、いいなぁ〜。はやくあたしたちも夫探ししよ?」
ワーウルフ娘がよだれを舌先から落とすと、リザードマン娘が近くの扉へ顔を向けた。
「待って。どっか行かなくても向こうから来てくれたみたい。」
そこへ扉を蹴り開けて大広間へ飛び込んできた人影があった。それは彼からはぐれた残り3人の勇者たちだった。彼らも魔王の魔力をたどって、ようやくここまでたどりついたが、突然魔王の魔力が消えたので驚いて大広間に駆け込んできたのだ。そこにいたのが恐ろしい怪物ではなく、3人の若い、しかもとびきりの美女だった事が混乱に拍車を掛けた。
「な、なんだ?!君たちは??」
「へっへー、早いもん勝ちーぃ!」
「わあっ!?!」
先頭にいた男にワーウルフ娘が飛びついた。その勢いに倒れた男の上へのしかかって、激しくしっぽを振りながら口の中に舌を突っ込んで舐め回す。
「れろれろれろれろれろれろれろれろ〜♪」
「んっ!?んぐっ!ん、うぅ…」
あまりの展開に抵抗も忘れてしまった男は徐々に快楽へ引き込まれていく。
突然の事態に愕然とした二人の前にとげとげしい女が進み出た。その容貌の美しさに驚きながらも、二人目の男は剣を構え直した。
「くそっ、貴様が魔王か!」
「生憎だが、私はドラゴンだ。相手をしてもらうぞ。」
「おのれ!」
男の鋭い打ち込みを、大きな爪で跳ね上げる。
「おお、出来るようだな。私を落胆させないでくれよ?」
「何をっ!!」
たちまち爪と剣が火花を散らす。
残された一人はもう完全にパニックを起こして、仲間の加勢をするのも忘れておろおろしていると今度はリザードマン娘がその鼻先に剣を突きつけた。
「おい、おまえ!あたしと勝負だ!」
「う、うわあぁっー!!」
「待てー!逃げるなー!勝負しろーっ!!」
後をも見ずに逃げる相手を、リザードマン娘が剣を片手上段に振りかぶって追いかけていく。あの勢いでは、すぐに追い付かれるのが関の山だろう。

ドラゴンと男の戦いは一進一退、互角の勝負を繰り広げていた。
「たあっ!」
「おう!」
ドラゴンの爪を盾で防ぎ、剣で急所を狙うが、相手も劣らぬ素早さで攻撃を繰り出してくる。よけると今度は足元を狙って、横ざまに長い尾をむちのようにしならせる。男が大きく飛び上がった所を狙ってドラゴンが爪を振るう。だがその攻撃は当たらなかった。空中で態勢をかえた男は、相手の頭を目掛けて剣を振り下ろした。かわしたが避け切れず、ドラゴンの左の角先が切り飛ばされて床に転がった。
「やるな…最高に面白いぞ!」
「こいつっ!次こそ仕留めてやる!」
長期戦になれば、体力では明らかにドラゴンの方が上だ。男はいったん飛び下がって動きを止めると剣を両手で握り直した。
「やあぁーっ!!」
勢いつけて一気に距離を詰めた男は渾身の力でドラゴンへ必殺の一撃を打ち込んだ。
「えいっ!」
ドラゴンはその剣を余裕で払った、筈だった。だが、次の瞬間ドラゴンの爪先が2本も切り落とされてしまった。しかし同時に男の剣は切先がぽきりと折れた。
「くそっ!」
男は再び飛び下がって、少し短くなった剣を構え直す。ドラゴンは信じられないといった顔つきで自らの爪をながめていた。
「…お前強いな…気に入った!私の夫になってもらうぞ。」
「?!?!!?」
混乱したすきを突いて、その強固な両腕にしっかり抱きすくめられて口の中を蹂躙される。
「ぐうっ!?んんっ!ん、んんん…」
口の中をなめ回されて、だんだん力が抜けていく。折れた剣も盾も床に落ちた。

もうその頃にはワーウルフが男の上にまたがって、夢中で腰を振っていた。
「あっ!あっ!あっ!あっ!あん♥!」
下の男はもはや快楽の怒涛に呑み込まれて、ひたすら腰を突き上げる。
「うう…あっ…うあっ!」
向こうで聞こえていた剣戟の音もとうに途絶えて、代わりに聞こえてくるのはリザードマンが上げる嬌声だ。
「あうっ!ああっ!あんっ♥!…」

その間に爪で兜も鎧もはねのけたドラゴンは、相手のモノを自らに深々と受け入れていた。
「うっ!あっ!ううっ♥!」
その快楽に夢中で身体を動かす。男は圧倒的な快楽にうめくことしかできない。
「ぐああぁっ!」
「ふふ、お前と私の子ども…絶対強い子が産まれる。楽しみだなっ♪」
3人の男たちはもう使命など忘れ果てて、魔物との快楽に溺れていった。


そんな様子を魔力で壁に映し出していた魔王は、勇者との睦み合いに酔いしれていた。邪魔な服などベッド脇に放り出したままだ。肉同士がぶつかる音が寝室に響く。
「どうやらみんなっ…うまくいったみたいね…あっ♥、あん!」
「あいつらも、幸せものだけどっ、俺ほどじゃないなっ…また、出すよっ…」
「来てっ…はやく…」
「ぐっ…」
ドクッ!どくっ、どくっ、どくっ、どくっ、どくっ、どくっ、どくっ…
4回目の射精もまったく衰えはない。
「あ、ああぁ♥♥♥…」
こうして魔王城に魔物と人間との幸せなあえぎ声が響いたのだった。
それらの様子を、彼女の世話係をしていたエキドナが舌なめずりしてのぞき見ていた。
「…魔王様も考えたわね。これなら魔物の絶滅は防げるし、しかも味方してくれる人間は増えるし、一石二鳥ね。勇者が乗り込んできた時ははらはらしたけど、彼が教団かぶれの石頭でなくてほっとしたわ。あたしも久しく男日照りだったんだし、魔王様のご用事ついでに亭主探しに行って来よっと♪」

この直後、魔界に突入した4人の勇者たちの家族親族は、同日の内に全て姿を消した。彼らの家近くでラミアらしい魔物の姿が目撃されたとの情報も寄せられたが、勇者たちが帰還しなかった事の方が大きな問題となっていたので、この件はたいして注目もされなかった。もう一件、若き有望男性魔導師の行方不明事件があった事も付け加えておく。


島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島



この日以来、世界中の魔物が人間の、しかも若い女性の姿に変わり、以後は『魔物娘』と呼ばれるようになった。ほんのわずかに残っていた男の魔物も全て女性化した。
今までの主神の命令の拘束から解き放たれ、サキュバスである魔王と同じ体質となった魔物娘たちは新たに生きる糧となった男の精を得るために、自由に動いては人間の男性たちと交遊し、あるいは襲って交わり結婚した。彼女たちは魔王がその性格をも自らに似せた為、とても一途で夫だけを溺愛した。男たちは次々と魔物娘たちの虜となって、その夫―インキュバスとなり、女たちも変わらぬ美しさに憧れて自ら望んで魔物娘になる者まで現われ始めた。そして地水火風の四大精霊、ノーム・ウンディーネ・イグニス・シルフたちや、さらには純潔の象徴だったはずの聖獣ユニコーンまでが魔物娘化した。そして本来は魔物では無かったドワーフや人間の一地方部族だったアマゾネスも魔物娘へと変貌していった。
増え続ける魔物娘たちによって、魔界や親魔物領はまるで野火のように勢いを増して広がっていった。人々は『魔物は人を殺す』という教団の教えがもはや過去のものであることに気付き始め、魔物娘たちと普通に交遊するのが当然となり、その横暴への不満を魔物への敵視でかわしていた教団は、みるみる影響力を低下させていった。あせった教団は反攻を目論み、疑いだけで見境なく村や町を攻め滅ぼして却って憎しみを買い、主神を盾にいばりちらす地方教会などは魔物たちが来なくとも、前から不満を持っていた人間たちによって叩きつぶされ、反魔物領の縮小は加速するばかりだった。
また思わぬ事態も発生した。魔王に賛同する神族が現われ始めたのだ。
魔物による人間の数の調整が出来なくなったからと称して、多くの沿岸都市を水没させるようにとの主神側からの意向に反発した海神ポセイドンが、娘に神の座を譲って姿を隠してしまったのだ。後を継いだ新ポセイドンは魔王に賛同して、海は魔物娘たちの楽園となり、もはや世界の過半は魔物たちに占拠されたも同然となってしまった。

この事態に戦慄した主神はようやく癒えたばかりの体を引きずって、再びの会戦を魔王たちに挑んだが、魔族最強の魔王と人類最強の勇者が手を組んでいるのだ。しかも、魔王は彼と交わって体内に受ける精によって魔力を増やし、夫の元勇者は彼女から流れ込む魔力でさらに精を増やすという循環が出来てしまい、とてつもない量の魔力をその身体に蓄えていた二人は神族軍の攻撃をまったく寄せ付けず、苛立った神族たちの集中攻撃ははね返され、神族たちは自分たちの全力を自らに浴びて瀕死の重傷を負い、主神も前よりもひどい傷を負ってしまった。なんと魔王と元勇者は彼らが死なないように労わって、全員を神界に送り返してやった。この行動によって多くの神族が魔王の行動を許容するようになり、完全な劣勢に立たされた主神は、状況打開の為に魔物の習性を元に戻そうと図ったが、魔王と元勇者の魔力はそれをやすやすとはね返した。しかし、『魔物は人間の上位種』という1点だけはなんとか押さえた。傷ついた主神の必死の抵抗だった。



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「うーん…なかなか男の子ができないわねぇ…」
「よそでも生まれるのは女の子ばかりだそうだよ。」
「困ったわねぇ…このまま男の子が生まれなかったら、人間も魔物も共倒れになっちゃうわ。」
ここは魔王城の魔王とその夫の元勇者の私室。広いベッドの上で、生まれたままの姿の二人は、しばしの小休止を取っていた。5人目の娘を産んだ後の休息で、しばらくご無沙汰になっていた二人は回復後すぐにここに閉じこもり、肉欲を全開にしてまる1ヶ月ぶっ続けで抱き合っていたのだ。

リリム―先代魔王の娘にちなんでそう呼ぶことにした、特別種のサキュバスである二人の娘たちは、魔王の力の象徴であり結晶である。殊に三女アリスと四女デルエラの力は凄まじく、魔王城の外観は二人の戯れで、先代以前の魔王城に戻ってしまったようになっていた。
既に5人のリリムを持った魔王の力は絶大で、主神の傷が癒えようとも全く手出しできない程の力を保有し、夫である元勇者までもが魔王から流れ込んだ魔力によって主神を凌駕する力を持ってしまっていた。
だが、先述の通り主神の抵抗によって人間と魔物娘の間に生まれるのは上位種である魔物娘ばかり。男の子は未だに生まれていない。人間を夫にしてようやく絶滅の危機を脱したように思えた魔物たちだったが、このままでは再び男不足になるのは目に見えていた。

「どうしたらいいのかしら。わたしが男の子産んだら、ほかのみんなも男の子産むようになるはずなんだけど…」
ベッドにうつぶせになった彼女は、ぱたぱたとそのハート型のしっぽでシーツをたたいた。
「だいじょぶさ。君と俺の願いなんだ。その内かならず男の子だって出来るさ。」
同じくベッド上で横たわって片肘をついていた彼は1ヶ月休みない交わりにも、まるでほんの一回抜いただけのような程度の疲労しか感じていなかった。二人の体力は既に底なしになっていた。
「…そうね。そうよね。あなたがそう思うなら、たぶんそうだわ。じゃ、もっと子作りしましょ♪」
「そうだな。それじゃ♥…」
「ああ〜ん♪…そこダメぇ♥…」
今日も魔王と元勇者は子作りに精を出す。二人はひたすらからみ合い、ますます二人の魔力はふくらんでいく。既に世界を壊すこともできる程の力を持っているにも関わらず、お互いを深く愛するように、世界中の魔物娘と人間が末永く愛し合うことを心より願う二人は魔王とその夫というより、もはや女神エロスを差し置いて『愛の夫婦神』とでも言うべきだろうか。


非情な神族と愛情深い魔族。その立場の逆転はそう遠くない日のことになるだろう。
14/12/25 07:28更新 / 平 地貞

■作者メッセージ
ここまで読んで下さった方がいらっしゃいましたら、伏して御礼申し上げます。
健康クロス様の設定に添ったつもりですが、魔王の性格『素直になれないところがある』との設定だけはどうしてもうまく使えませんでした。またポセイドンの設定もオリジナルです。
重ねてお断りしておきますが、私の独自解釈であり、健康クロス様の本設定とは違うものです。
その段お含み置き下さいますようお願い申し上げます。

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