真昼の輝きを放つ太陽の下で、あらん限りの膂力を乗せた刃がぶつかり合う。俺は滝のような汗を流しながらも呼吸を整え、目の前の魔物をまっすぐに見捨てた。
　魔物の名は、オセロメー。異教の神を信奉し、その教えに従って「人間を喰らい蹂躙すること」にしか興味を示さないと噂される、その服装共々絵にかいたような蛮族だ。その手に携えられた奇怪な棘付き剣は陽光を受けて残忍にぎらつき、犠牲者の血肉に深々と埋め込まれる時を待ち構えている。ここで俺が敗北すれば、村のみんなの命があの剣に奪われることになるだろう。それだけは絶対に許せない！
「はあっ！」
「リヤアアアッ！」
　俺が振るったバスタードソードと、オセロメーが振るった奇怪な剣が再び激突する。木剣に尖った石のかけらを埋め込んだようにしか見えないその原始的な武器は、ありえないほどの強靭さをもって鋼の刃を受け止めていた。
「畜生、どんな木でできてんだその板切れは！」
「私が神より賜った剣を侮辱するな！」
　言葉に遅れて剣が交わされる。俺と魔物との間にいくつもの円弧が描かれ、互いの武器によってその軌道が数えきれないほどに妨害された。こちらはだんだん息が上がってきたが、オセロメーの表情にはまだ余裕がみられる。それどころかこの決闘を心底楽しみ、己をさらに奮い立たせているかのようでさえあった。
「そろそろ限界が見えてきたか？大人数で駆けつけておきながら私を目にするなり踵を返して逃げ出した臆病者共に比べれば、お前ははるかに勇敢だったがここまでのようだな！」
「……はっ！人間を舐めるなよこのネコ女が。お前ひとりの相手ぐらい、俺一人で十分だらあああっ！」
「ィヤアーッ！その侮辱の対価はこの刃で支払わせてやる！」
　会話中の不意打ちですらオセロメーには通じなかった。あふれだす凶暴性を冷静な判断力で制御するような見事な剣術から想像できたが、この魔物はどうやら生まれながらの戦士らしい。己の才を磨き上げることに命を捧げた天才など最悪の組み合わせもいいところだ。俺は村の自警団としてこんな強敵と戦う羽目になった自分の運命を呪い……かけてやめた。今は運命ではなく目の前の魔物にこそ怒りを向けるべきだ。正直勝てる相手ではなさそうだったが、負けるわけには絶対に行かない！
「何故だ？なぜそこまで必死にあらがおうとする。単なる意地にしては強靭すぎる」
「心配するな、これは単なる意地だよ……都会から流れてきた薄汚い孤児だった俺を、この村のみんなは受け入れてくれて、村人みんなで家族みたいに俺を育ててくれたんだ」
「その『家族』とやらには先ほどお前を見捨てて逃げ出した者たちも混じっているのか？村人共は単に忠実な番犬が欲しかっただけではないのか？」
「たしかにそうかもな。でも、たとえ与えられたのが犬としての命でも、俺には十分すぎるくらいにうれしいんだ。だから俺はここで死ぬまでお前を食い止めるぞ。勝てなくても、追い返せなくても、その体に一生消えない傷を残してやる！」
「そうか……そうかぁ！」
「うおああああああ！」
　もう手の感覚がない。高鳴る心臓の音しか聞こえない。視界が狭まり、何が嬉しいのか歓喜の笑みを浮かべて剣をふるうオセロメーの姿しか見えなくなってきた。しなやかで活力に満ちた四肢。球のような汗を浮かべて踊るように躍動する、褐色の肌。
「その首もらった！」
「ああ、こんな首くらいくれてやるよ！」
「なにっ！？」
　首を狙って真っすぐに向かってくるオセロメーの刃に、俺は自ら飛び込んでいった。これは単なる自殺行為ではない。とどめを刺す寸前に虚を突かれ、完全に互いの上半身へと意識がそれて無防備になった足首へと、俺の刃が迫っていく。俺の命と引き換えの一撃だ、喰らって片足を使い物にならなくしろっ！
「オ……オオオオオオオオッ！！」
「なっ……ぁ……」
　オセロメーの両足が、残像で金色の三日月を描いた。羽でもついているのかと思うほどの距離を跳ぶ後方宙返りで、瞬く間に距離を離される。最期の賭けが失敗に終わったと悟った俺の腕は、ついに剣を支えられなくなり地面にとりおとした。
「オアアアアア！」
「ぐああああっ！」
　着地と同時に落雷じみた勢いで大地を蹴ったオセロメーが、俺にとびかかって獣のように押し倒そうとする。もはや俺に抵抗する力などなく、勢いに任せて数回地面を転がった後であっさりと組み伏せられてしまった。
「勇者よ！」
　オセロメーが剣を掲げる。ちょうど太陽と剣が重なるようにかざされたそのすがたは、厳かな儀式のようにも見えた。
「お前は私を滾らせた！」
　振り下ろされる剣。首元にめり込む冷たい感触。そしてすぐに。
　グシャッ。
「……おい、いつまで寝ているつもりだ？これはわが神にささげる神聖な儀式だ。敗者であるお前が不躾な態度をとることは許されない」
「えっ？」
　一閃されたはずの首が、燃えるように熱い。しかしそこから血潮が流れ出すことは無かった。代わりになにかとてもむずむずとした、痛いどころかどこか心地よくすらあるなにかがじんわりと全身に広がっていく。何が起こったのか全く理解できない。
「この剣の刃を形作るのは、神の聖石。その肉体ではなく理性を断ち切るのだ。そら、そそろ聞いてきただろう？」
「う、ぐあ、あ、あ……！？」
　広がった熱が下腹部へと集まっていき、ペニスが勃起した。粗末なズボンを内側から押し上げるほどに、固く、熱く。それを見下ろしたオセロメーは、未だ戦いの高揚を残す顔で舌なめずりをすると、衣服を恥ずかしげもなく脱ぎ捨て裸身を晒した。
「強き戦士の獣欲、そしてほとばしる熱き胤こそわが神へ捧げる至高の供物」
　ズボンが獣の爪で破かれる。押さえつけるもののなくなったペニスがぶるんと天を指し、オセロメーの股間から愛液が滴った。これから何をされるのかなんて、きっと犬でも理解できるだろう。
「喜べ。お前はもう、私のモノだ❤」
　ぐじゅっ。
　魔物に童貞を喰われたのと引き換えに与えられたのは、今まで味わったことがないほどの快感だった。脳みそが溶けそうなくらいに気持ちがいい。オセロメーの側もその顔を周知と快感に歪めて目を閉じ、少しの間何もせずふるふると震える。そして再び目を開いた彼女の表情は、猛々しい戦士の顏から欲情に蕩けた『雌』の顏になっていた。
「んっ❤はぁ❤あ❤あっ❤いいぞ❤もっとだ、もっと私を愉しませろ❤」
　互いの腰を叩き付けるような勢いで行われる抽送は、まさに暴力的な快楽をもたらした。戦闘で打ち倒された勢いのままに犯されているという屈辱そのものでしかない状況のはずなのに、そこから湧き上がってくる負の感情全てが快感に、雄としての悦びに押し流されていく。俺たちはいつの間にか、ついさっきまで敵同士であったことを忘れたかのように肉欲を満たしあっていた。ペニスへ熱く粘つきながらの愛撫を繰り返す膣肉が一往復するたびに、敵愾心が削り取られ脳が歓喜に沸き立つ。たちまちのうちに射精寸前まで追い詰められながら、俺は気付いてしまった。オセロメーの風評だった『人間を喰らい蹂躙する』とは性的な意味であり、彼女に敗北してしまった俺はもう、一生をかけて喰われつづけるしかないのだと。
「熱い、熱いぞ、精の気配を感じる！我慢など必要ない、このまま出せ❤射精しろ❤お前の敗北と屈服の証を、勇者の子種を私のもっとも神聖な場所に捧げるんだ❤ほら、いけ、イけ、イけえっ❤」
　一際激しく腰が振り下ろされた直後、亀頭がついに子宮口らしき場所と濃密な口づけを交わした。その刺激に反応したのか周囲の膣肉が一気に収縮し、そしてついに、ペニスが爆ぜた。
「あ……あ゛っ❤あーっ❤あああー❤」
　血しぶきのような勢いで白濁がほとばしり、歓喜の咆哮を上げる魔物の子宮が満たされていく。人でないものに力づくで犯され、膣内射精までさせられた。この村の『まっとうな』人間なら自ら命を絶ってもおかしくないほどの末路を迎えていながら、俺は絶望どころか奇妙な安堵にも似た感情に包まれていた。少なくとも彼女は俺のことを、村人たちのように使い捨ての番犬として扱うことは無いのだ。極限の戦闘直後の限度を超えた快感の嵐が収まったことで緊張の糸が切れ、意識が薄れていく。オセロメーに運ばれる中で俺は偶然村の方を向く形になっていたが、誰一人として俺を助けに来ようとする村人はいなかった。ようするに、俺はあの村でそういう扱いだったようだ。

「ふっ❤あ❤ふうっ❤あ、ははっ❤はぁ……はぁ……❤」
　人里離れた、洞窟の奥。彼女の棲家へ運び込まれた俺は、そこで昼も夜もなく交わり続ける日々を送っていた。彼女にしゃぶられ、またがられ、くわえこまれて犯される快感は、時を経て慣れるどころかより鮮烈なものに変わっていき、まるで互いの体がセックスのために日々作り替えられていっているかのようにすら感じた。
「お前も感じるか？これこそ我らが神のもたらす恵み。たゆまぬ信仰の賜物だ。これを機に、より一層信仰に励まなければならないな❤」
　射精と射精の合間に挟まるわずかな会話の間で、オセロメーがそう教えてくれた。されていることは最初に犯されたときとまるで変っていないにも関わらず、俺は彼女にたいして親愛の情すら覚えていた。
「ん？外には出ないのか、だと？嫌だ。そんなことを言って隙を見て逃げ出すつもりではないのか？お前はもう私のモノだという自覚が足りないようだな。まだだ、最低でもあと一月はこのまま交わり続けて、お前に私という存在を徹底的に刻み込んでやる。私の仲間たちに合わせるのはそれからだ。そうでもなければ……ふとした拍子にお前が私よりもっと強く美しい戦士に出会い心惹かれてしまうのではないかと、不安で仕方がないんだ」
　ああ、こんな形になるとは思いもしなかったが、今の俺は少なくともここまで深く愛されている。今はただ、それでいい。照れ隠しのように激しさを増すオセロメーの凌辱に喘がされなすすべなく射精させられながら、俺は幸福に包まれていた。