小腹の代わりに満ちるもの
「…まさかポテチが切れてたとは、慣れない買い溜めなんかするもんじゃないな」
時刻は深夜1時、こんな時間に出歩いていれば不審者に間違われそうだが。
案外、目的地がしっかり決まっていれば怪しさなんて無くなる物だ。
まあ、俺が生まれる少し前に魔物娘がこの星に現れてから、男が不審者だと疑われる事は激減したらしいが。
そう自分に言聞かせポテチを買いにコンビニに向かっている…小腹には勝てなかったよ。
「…そう言えばこの辺りの公園って都市伝説の舞台だったな、すすり泣く女にあの世に引き込まれるって言う」
まぁ、魔物娘が来てからは幽霊さえ怖い物とは言えなくなってきているが。オカルト好きとしては期待してしまう。
だから当然…
しくしく……
しくしく……
なんてすすり泣く声が公園から聞こえてきたら突貫する以外の選択肢など無い。
小腹? そんなの後回しだ重要な事じゃない!
「…誰か居るのか?」
公園にたどりつくなりそう言ってみた…が返事は無し。
けれどすすり泣く声は未だ途絶えず。
電灯一つしか明りの無い薄暗い公園、すすり泣く声も合わさって雰囲気MAXだ…燃えるね!
当然帰るなんて選択肢は無く俺は公園の散策を始めた。
「……ん?」
そして、10分もせずに声の主は見つかった。
電灯の明りも届かない公衆トイレの裏…そこに居たのは俺が期待した悪霊ではなく、暗闇に溶けて消えてしまいそうな黒く小柄な女の子だった。
子供かとも思ったが、彼女の見た目。雰囲気が知り合いの女の子とダブル。
だから、彼女の正体に行き着くことが出来た。
「君、ドッベルゲンガー?」
「ひゃい!!」
「うお!?」
どうやら俺の存在に気づいていなかったらしく物凄く驚かれた。
「お、驚かせてしまってすみません」
「いやいやこちらこそ」
お互いブランコに座り先ほどの事を謝り合う。
結局、どっちも悪いと言うことで先ほどの驚かし事件は解決することになった。
その流れでお互いに自己紹介。
「俺は藤原巧、小腹が空いたのでコンビニに行く途中だ」
「私はフミといいます、ご存知の通りドッベルゲンガーです。それにしてもこの暗い中でよく私の種族まで分かりましたね?」
「あー知り合い…と言うかぶっちゃけ片思い中の女の子がドッベルゲンガーなんだよね、嫌われてるみたいだけど…」
「嫌われてる?」
「最近、会うたびに逃げられるんだよなー。何か嫌われるような事したんだろうけど、逃げられるから謝れもしないんだよね……」
っていかんいかん、今重要なのは俺の事じゃない。
ここで合ったのも何かの縁、彼女が泣いてた理由を聞かなければ。
「俺の事よりも、君は何で泣いてたの?」
「えっと、その…大変お恥ずかしいのですが。彼と過す夜が楽しくて、嬉しくて…それで不注意から彼に私の正体を見られてしまって」
「正体って…今日は満月……あー」
空を見上げて理解した。
そこには、月どころか星も見えない夜空が広がっている。
「そう言えば深夜から翌日の昼まで曇りの予報だったな。月の見えない夜って新月だけの事じゃなかったのか」
「はい…すっかりその事を忘れてて、彼の前で変身が解けちゃって」
「それで、彼氏に追い出されたのか?」
「違います! 宮元君はそんな事しません、私が逃げてきちゃったんです!」
ドッベルゲンガーとは思えない大声で反論されてしまった。
…まぁ、うん。魔物娘の前で彼氏を悪いように言ったらそうなるわな。
「あ、えっと…」
「ごめん…その、悪く言うつもりは無かったんだが」
こんなんだからアイツにも嫌われるんだよな、と自己嫌悪してしまう。
っていかんいかん。俺まで暗くなっては袋小路だここは多少露骨でも話題を変えなければ。
何か話題、話題…そうだ!
「君の彼氏さん宮元って言うんだね」
「は、はい。野球が大好きで小学生の頃からずっと遅くまで頑張ってるんです!」
「へー、俺の知ってる宮元も野球好きだったな長らく会ってないけど…確か宮元……ヨシヒロだっけ?」
「え?」
「え?」
驚いた顔で振り向かれた。
……まさか。
「君の彼氏って…ヨシヒロ?」
「はい…」
「……あいつかあああああああ!!」
なんて偶然だよ、ここにきて中学から会ってない失恋野球バカで初恋以来色気のいの字もなかった奴が彼女持ちになってるとか!
絶賛片思い中…というか振られたかもしれない俺との違いがここまでとは…。
「え、じゃあ君が変身してたのって北本さん?」
「そうです、お知り合いなんですか?」
「知り合いも何も…宮元が告って盛大に振られたのは同じ小学校の奴なら知らない奴はいないよ。そもそも場所をセッティングしたの俺だし」
「そ、そうだったんですか」
セッティングと言っても手紙を届けた程度だが。
それにしても宮元か…結構ぼんやりだが思い出せてきた。
誰にも明るく接してたし、男女共に人気がある好少年だった…と思う。
もう少し詳しく思い出そうとしていると、不意に冷たい風が肌を撫でる。
「…夏とは言え深夜は風が冷たいな、何か暖かいの買ってくるよ。コーヒーは大丈夫?」
「あ、その…できればカフェオレで」
「了解」
律儀にお金を出そうとするフミちゃんを止めつつ公園の外に設置された自販機を目指す。
幸い暖かいカフェオレは売っていたのでポケットから財布を取り出す…が、その時財布と一緒にポケットに入れていたスマホを落としてしまった。
「あ〜またやっちまった…画面は、無事だな。電源も…OKっと」
何度か画面割って修理に出している、電話帳とかのデータはバックアップを取ってたので問題は無かったが。
修理費が結構バカにできない金額するんだよな。
…………あ、もしかして。
「彼、いい人ですね」
藤原さんが飲み物を買いに行ってくれている間に、私は暗闇に声を投げかける。
「その上、私達ドッペルゲンガーに片思いしてくれてる人なんて少し羨ましいです」
暗闇に変化は無い、案外、茂みの影で悶えてるのかもしれない。
彼には随分お世話になったし、今は自分の状況を棚上げしてすこし背中を押してあげよう。
「私は宮元くん一筋ですけど、いくら匂いが付いてても彼みたいな人をほっといたら他のドッペルゲンガーに取られちゃいますよ?」
正直、片思い中の男の子はドッペルゲンガーにとってはコレ以上無い素敵な人だ。
しかも相手がドッペルゲンガーなんて話が上手すぎる。
他のドッペルゲンガーが見つけたらお手付きとか関係なくアタックをしかけるだろう。
「…私も人の事言えませんけどね」
「フミ!!」
「え、はい! え、宮元…さん?」
いきなり名前を呼ばれて驚いて声のほうを見ると息を切らした宮元さんが入り口に立っていた。
いえ、それよりも重要なのは。
「どうして…私の名前…」
「……藤原が教えてくれた」
よく見れば、宮元くんの右手に缶コーヒーとカフェオレが握られていた。
「…あの人、すっごいおせっかいですね」
「全くな、普通小学生の時に何度か遊んだっきりの番号なんて消してるはずなのにな」
思わず二人で笑顔になってしまう。
本当なら逃げ出しているはずなのに、宮元さんに名前を呼ばれて足が動かなかった。
そして、差し出された暖かいカフェオレに逃げる気がなくなる。
「…ごめんなさい、逃げ出してしまって、今まで騙してて。そして…覚悟はできてます」
宮元くんは今も北本さんの事が好きです。どれだけ好きかなんて変身した私自身がよく分かってます。
彼女と比べれば私なんて全く魅力がありません。
勝ち目なんて…
「なら前置き無く言わせてもらう……俺と付き合ってくれ」
「え…」
「正直、北本さん意外とは恋愛なんて出来ないと思ってた。けど、君との毎日は楽しかったんだ…」
宮元くんはまるで自分の心を確かめるように声を絞り出します。
「その事に、正直戸惑った。だけど君と過ごした時間は楽しくて…これからも君と過ごせたらって考えて。悪くないって思えたんだ」
「本当に…いいんですか?」
「あぁ、正直。君に感じているこの感情が何なのか自分でも分からない、それを確かめる為にも…俺と付き合ってくれ」
そんな事を言われれば、私の答えは決まっています。
それに、宮元君には自覚がないみたいですけどドッペルゲンガーの私には分かるのです。
私の変身能力が、失われている事が。
「はい、喜んで!」
そう答えた私の顔は今日一番の…いいえ、今までで一番の笑顔だったはずです。
「…あ、自分の分のコーヒー買い忘れた」
俺は宮元と別れてから、再びコンビニを目指して歩き始めていた。
全力で走ってきたらしい宮元と、小学生の頃のあいつの性格を考えれば悪い返事にはならないだろう。
それを覗き見するのは野暮という物だ。
「にしても、消すの面倒だからって放置してた番号を使う事になるとは。人生分からないものだな」
今回ばかりはこのめんどくさがりな性格に感謝だな。
そんな事を考えながらコンビニの近くまで来たのだが、コンビニの前に小さな黒い影が見えた。
そのシルエットは先ほどの彼女、フミちゃんに似ているが微妙に髪型や服の色が違う。
と言うか、いくら俺がいい加減でも好きな相手を見間違える訳はない。
「もしかして…美夜?」
が、彼女がこんな時間に出歩いている事がイメージに合わず疑問形になってしまった。
「き、奇遇ですねこんな夜中に」
彼女の声、一か月ぶりに聞いた気がする。
じゃなくて!
せっかく会話できそうなんだ何とか謝らないと!
何をしたのか分からないけどごめんなさい…ってバカか俺は、そんなんじゃ逆に相手を怒らせかねない。
雑談でどうにかして怒らせた理由…は無理でもとっかかり位は聞き出さないと!
「何か買い物?」
「え? あ、はい! 私も小腹が空いちゃいまして」
………なるほど。
私『も』か。
もの凄く希望的な空想が今俺の中で生まれたのだが。
どうする、行くか?
失敗したり俺の勘違いだったらこの先の学校生活は地獄だぞ?
だが、思い起こされるのは先ほどのフミちゃんと宮元の二人。
「せっかくだし、近くのファミレスで何か軽いものでも食べる?」
「そ、そうですね外は少し肌寒いですし暖かい飲み物でも」
とりあえずファミレスで時間を稼ぎつつ今後の方針を考える。
まぁ、どうやって告白しようとか考えてる時点で方針は決まってるも同然なんだが。
その日、俺に彼女が出来た。
時刻は深夜1時、こんな時間に出歩いていれば不審者に間違われそうだが。
案外、目的地がしっかり決まっていれば怪しさなんて無くなる物だ。
まあ、俺が生まれる少し前に魔物娘がこの星に現れてから、男が不審者だと疑われる事は激減したらしいが。
そう自分に言聞かせポテチを買いにコンビニに向かっている…小腹には勝てなかったよ。
「…そう言えばこの辺りの公園って都市伝説の舞台だったな、すすり泣く女にあの世に引き込まれるって言う」
まぁ、魔物娘が来てからは幽霊さえ怖い物とは言えなくなってきているが。オカルト好きとしては期待してしまう。
だから当然…
しくしく……
しくしく……
なんてすすり泣く声が公園から聞こえてきたら突貫する以外の選択肢など無い。
小腹? そんなの後回しだ重要な事じゃない!
「…誰か居るのか?」
公園にたどりつくなりそう言ってみた…が返事は無し。
けれどすすり泣く声は未だ途絶えず。
電灯一つしか明りの無い薄暗い公園、すすり泣く声も合わさって雰囲気MAXだ…燃えるね!
当然帰るなんて選択肢は無く俺は公園の散策を始めた。
「……ん?」
そして、10分もせずに声の主は見つかった。
電灯の明りも届かない公衆トイレの裏…そこに居たのは俺が期待した悪霊ではなく、暗闇に溶けて消えてしまいそうな黒く小柄な女の子だった。
子供かとも思ったが、彼女の見た目。雰囲気が知り合いの女の子とダブル。
だから、彼女の正体に行き着くことが出来た。
「君、ドッベルゲンガー?」
「ひゃい!!」
「うお!?」
どうやら俺の存在に気づいていなかったらしく物凄く驚かれた。
「お、驚かせてしまってすみません」
「いやいやこちらこそ」
お互いブランコに座り先ほどの事を謝り合う。
結局、どっちも悪いと言うことで先ほどの驚かし事件は解決することになった。
その流れでお互いに自己紹介。
「俺は藤原巧、小腹が空いたのでコンビニに行く途中だ」
「私はフミといいます、ご存知の通りドッベルゲンガーです。それにしてもこの暗い中でよく私の種族まで分かりましたね?」
「あー知り合い…と言うかぶっちゃけ片思い中の女の子がドッベルゲンガーなんだよね、嫌われてるみたいだけど…」
「嫌われてる?」
「最近、会うたびに逃げられるんだよなー。何か嫌われるような事したんだろうけど、逃げられるから謝れもしないんだよね……」
っていかんいかん、今重要なのは俺の事じゃない。
ここで合ったのも何かの縁、彼女が泣いてた理由を聞かなければ。
「俺の事よりも、君は何で泣いてたの?」
「えっと、その…大変お恥ずかしいのですが。彼と過す夜が楽しくて、嬉しくて…それで不注意から彼に私の正体を見られてしまって」
「正体って…今日は満月……あー」
空を見上げて理解した。
そこには、月どころか星も見えない夜空が広がっている。
「そう言えば深夜から翌日の昼まで曇りの予報だったな。月の見えない夜って新月だけの事じゃなかったのか」
「はい…すっかりその事を忘れてて、彼の前で変身が解けちゃって」
「それで、彼氏に追い出されたのか?」
「違います! 宮元君はそんな事しません、私が逃げてきちゃったんです!」
ドッベルゲンガーとは思えない大声で反論されてしまった。
…まぁ、うん。魔物娘の前で彼氏を悪いように言ったらそうなるわな。
「あ、えっと…」
「ごめん…その、悪く言うつもりは無かったんだが」
こんなんだからアイツにも嫌われるんだよな、と自己嫌悪してしまう。
っていかんいかん。俺まで暗くなっては袋小路だここは多少露骨でも話題を変えなければ。
何か話題、話題…そうだ!
「君の彼氏さん宮元って言うんだね」
「は、はい。野球が大好きで小学生の頃からずっと遅くまで頑張ってるんです!」
「へー、俺の知ってる宮元も野球好きだったな長らく会ってないけど…確か宮元……ヨシヒロだっけ?」
「え?」
「え?」
驚いた顔で振り向かれた。
……まさか。
「君の彼氏って…ヨシヒロ?」
「はい…」
「……あいつかあああああああ!!」
なんて偶然だよ、ここにきて中学から会ってない失恋野球バカで初恋以来色気のいの字もなかった奴が彼女持ちになってるとか!
絶賛片思い中…というか振られたかもしれない俺との違いがここまでとは…。
「え、じゃあ君が変身してたのって北本さん?」
「そうです、お知り合いなんですか?」
「知り合いも何も…宮元が告って盛大に振られたのは同じ小学校の奴なら知らない奴はいないよ。そもそも場所をセッティングしたの俺だし」
「そ、そうだったんですか」
セッティングと言っても手紙を届けた程度だが。
それにしても宮元か…結構ぼんやりだが思い出せてきた。
誰にも明るく接してたし、男女共に人気がある好少年だった…と思う。
もう少し詳しく思い出そうとしていると、不意に冷たい風が肌を撫でる。
「…夏とは言え深夜は風が冷たいな、何か暖かいの買ってくるよ。コーヒーは大丈夫?」
「あ、その…できればカフェオレで」
「了解」
律儀にお金を出そうとするフミちゃんを止めつつ公園の外に設置された自販機を目指す。
幸い暖かいカフェオレは売っていたのでポケットから財布を取り出す…が、その時財布と一緒にポケットに入れていたスマホを落としてしまった。
「あ〜またやっちまった…画面は、無事だな。電源も…OKっと」
何度か画面割って修理に出している、電話帳とかのデータはバックアップを取ってたので問題は無かったが。
修理費が結構バカにできない金額するんだよな。
…………あ、もしかして。
「彼、いい人ですね」
藤原さんが飲み物を買いに行ってくれている間に、私は暗闇に声を投げかける。
「その上、私達ドッペルゲンガーに片思いしてくれてる人なんて少し羨ましいです」
暗闇に変化は無い、案外、茂みの影で悶えてるのかもしれない。
彼には随分お世話になったし、今は自分の状況を棚上げしてすこし背中を押してあげよう。
「私は宮元くん一筋ですけど、いくら匂いが付いてても彼みたいな人をほっといたら他のドッペルゲンガーに取られちゃいますよ?」
正直、片思い中の男の子はドッペルゲンガーにとってはコレ以上無い素敵な人だ。
しかも相手がドッペルゲンガーなんて話が上手すぎる。
他のドッペルゲンガーが見つけたらお手付きとか関係なくアタックをしかけるだろう。
「…私も人の事言えませんけどね」
「フミ!!」
「え、はい! え、宮元…さん?」
いきなり名前を呼ばれて驚いて声のほうを見ると息を切らした宮元さんが入り口に立っていた。
いえ、それよりも重要なのは。
「どうして…私の名前…」
「……藤原が教えてくれた」
よく見れば、宮元くんの右手に缶コーヒーとカフェオレが握られていた。
「…あの人、すっごいおせっかいですね」
「全くな、普通小学生の時に何度か遊んだっきりの番号なんて消してるはずなのにな」
思わず二人で笑顔になってしまう。
本当なら逃げ出しているはずなのに、宮元さんに名前を呼ばれて足が動かなかった。
そして、差し出された暖かいカフェオレに逃げる気がなくなる。
「…ごめんなさい、逃げ出してしまって、今まで騙してて。そして…覚悟はできてます」
宮元くんは今も北本さんの事が好きです。どれだけ好きかなんて変身した私自身がよく分かってます。
彼女と比べれば私なんて全く魅力がありません。
勝ち目なんて…
「なら前置き無く言わせてもらう……俺と付き合ってくれ」
「え…」
「正直、北本さん意外とは恋愛なんて出来ないと思ってた。けど、君との毎日は楽しかったんだ…」
宮元くんはまるで自分の心を確かめるように声を絞り出します。
「その事に、正直戸惑った。だけど君と過ごした時間は楽しくて…これからも君と過ごせたらって考えて。悪くないって思えたんだ」
「本当に…いいんですか?」
「あぁ、正直。君に感じているこの感情が何なのか自分でも分からない、それを確かめる為にも…俺と付き合ってくれ」
そんな事を言われれば、私の答えは決まっています。
それに、宮元君には自覚がないみたいですけどドッペルゲンガーの私には分かるのです。
私の変身能力が、失われている事が。
「はい、喜んで!」
そう答えた私の顔は今日一番の…いいえ、今までで一番の笑顔だったはずです。
「…あ、自分の分のコーヒー買い忘れた」
俺は宮元と別れてから、再びコンビニを目指して歩き始めていた。
全力で走ってきたらしい宮元と、小学生の頃のあいつの性格を考えれば悪い返事にはならないだろう。
それを覗き見するのは野暮という物だ。
「にしても、消すの面倒だからって放置してた番号を使う事になるとは。人生分からないものだな」
今回ばかりはこのめんどくさがりな性格に感謝だな。
そんな事を考えながらコンビニの近くまで来たのだが、コンビニの前に小さな黒い影が見えた。
そのシルエットは先ほどの彼女、フミちゃんに似ているが微妙に髪型や服の色が違う。
と言うか、いくら俺がいい加減でも好きな相手を見間違える訳はない。
「もしかして…美夜?」
が、彼女がこんな時間に出歩いている事がイメージに合わず疑問形になってしまった。
「き、奇遇ですねこんな夜中に」
彼女の声、一か月ぶりに聞いた気がする。
じゃなくて!
せっかく会話できそうなんだ何とか謝らないと!
何をしたのか分からないけどごめんなさい…ってバカか俺は、そんなんじゃ逆に相手を怒らせかねない。
雑談でどうにかして怒らせた理由…は無理でもとっかかり位は聞き出さないと!
「何か買い物?」
「え? あ、はい! 私も小腹が空いちゃいまして」
………なるほど。
私『も』か。
もの凄く希望的な空想が今俺の中で生まれたのだが。
どうする、行くか?
失敗したり俺の勘違いだったらこの先の学校生活は地獄だぞ?
だが、思い起こされるのは先ほどのフミちゃんと宮元の二人。
「せっかくだし、近くのファミレスで何か軽いものでも食べる?」
「そ、そうですね外は少し肌寒いですし暖かい飲み物でも」
とりあえずファミレスで時間を稼ぎつつ今後の方針を考える。
まぁ、どうやって告白しようとか考えてる時点で方針は決まってるも同然なんだが。
その日、俺に彼女が出来た。
18/07/10 02:28更新 / 湖森生気