節分の鬼
昔々、ジパングにあるとある田舎の村に、又兵衛と言う一人暮らしの青年がおりました。又兵衛はその村では、偏屈で頭のおかしい若者として通っていましたが、彼がまだ子供だった時に父親と母親を流行り病で亡くして身寄りもおらずずっと一人で生活をしていたため、村人達が次第に遠ざけていってしまったためにそう思われているだけです。
この日も、村の豊作を祝って開かれた秋祭りにも誰も彼を誘いには来ませんでした。そんな彼の唯一の楽しみと言えば、毎日両親の墓参りに行き、
｢おっ父、おっ母、早く極楽さから迎えに来てけれ。オラ本当に寂しいだよ。｣
と言い、しばらくの間両親の墓を拝んでいることでした。
そんな日が続いていたら、この村にも冬が訪れ雪が降って、村が真っ白に覆われてしまいました。又兵衛はそんな時でも墓参りに出掛けました。
｢おっ父、おっ母、今日は熱い茶さ拵えて来ただ。これでも飲んで、暖まってけれ。｣
この日は、又兵衛は暗くなるまで墓の前にいました。
そして日は過ぎて、年が明け新年を迎えて数ヵ月が過ぎて、雪がすっかり溶けて無くなったとある日、その日も両親の墓参りを済ませた又兵衛はふと村の方に目を向けました。するとそれぞれの家の中から、｢鬼はー外！｣｢福はー内！｣と言う子供達の声が聞こえてきました。
｢ああそうか、今日は節分の日じゃったのう。｣
又兵衛はそう言い、昔の事を思い出しました。
又(若)｢鬼は外じゃ、鬼は外じゃ。｣
父(鬼の面装着)｢はっはっはっ、それじゃぁまだまだ鬼は逃げんぞぅ。｣
母｢まぁまぁ、ふふふ。｣
又兵衛は暫くの間立ち尽くし、涙を流していました。
家に帰った又兵衛は、押し入れの奥にある大きなツヅラを開けて、何かを探していました。
｢あったぞあったぞ、前に使って残っていた豆に、あぁこれはオラがおっ父に作った鬼の面じゃ。｣
そうです、昔の事を思い出した又兵衛は、ウチも豆を撒こうとしていました。
しかし、鬼の面を被って豆を用意したところで一緒にやってくれる家族なんかおりません。しかも、福の神なんかとうの昔に見捨てられていました。
｢鬼は…内。福は…外。｣
………………………………………
｢鬼はー内!!福はー外!!鬼はー内!!福はー外!!鬼はー内!!福はー外!!鬼はー……｣
なんと、自棄になった又兵衛はわざとあべこべに言って泣きながら豆を投げました。その内豆が無くなると、疲れがドッと出て片付けもせずにその場で座り込みました。
その後、何もやる気がせず暫く囲炉裏で暖をとっていると、
ドンドンドン
｢お晩ですー。｣｢お晩ですよー。｣
と言う、声が外から聞こえてきました。
｢誰だー？オラの家に来る奴はー。｣
又兵衛はそう言い、戸を開けてみると、何と其処には魔物娘のアカオニが二人立っておりました。
｢う、うわわわわわわわぁ！｣
生まれて初めて見た魔物娘に、又兵衛は飛び上がって驚きました。
｢なぁなぁ、鬼は内って言ったのはこの家かい？｣
｢イヤー、どこの家も鬼は外ばっかりだったがお前さんの家だけが鬼は内だったから嬉しいよー。｣
｢ま、取り敢えず上がらせてもらうよ。｣
驚いてる又兵衛を尻目に、アカオニ二人はさっさと家に上がり込みました。
｢あ、あぁ今薪持って来るがら待っとってけれや。｣
又兵衛はとても喜びました。この家に客が来るなんて初めての事で、例えアカオニでも歓迎しました。すると、
｢｢｢｢お晩ですー。｣｣｣
｢鬼は内はここかいなー。｣
｢上がらしてもらうよー。｣
｢おー寒い寒い。｣
なんと、節分の豆に追われて色々な｢鬼｣達がやってきました。その中にはオーガやゴブリンにホブゴブリンにしまいにはウシオニにグールにヴァンパイアまで、｢鬼｣がつく様々な魔物娘がやって来ました。
囲炉裏にあたって鬼たちはすっかり暖まりました。
｢なぁお兄さん、お礼がしたいんだけど何か望みはないかい？｣
｢いやいや、オラは皆が来てくれただけで嬉しいだよ。｣
｢それじゃあ気がすまないよ、何でも良いから言ってくれよ。｣
｢｢｢そうそう。｣｣｣
周りもそう言ってくるので又兵衛はその好意を無下には出来ないと思いました。
｢それじゃあ、酒でもあれば皆で一杯出来るんじゃがのう。｣
｢｢｢おお、引き受けた引き受けた。｣｣｣
どたどたどたどたどだどたどた
鬼たちはそう言うと、一斉に家から飛び出ていきました。
又兵衛は、暫く一人で待っていました。すると、
｢待たせたなぁ。｣
どたどたどたどたどだどたどた
鬼たちはそれぞれ酒やら御馳走やらお金やらを持って帰ってきました。それからそのあとは、皆で呑んで歌ってのドンチャン騒ぎが始まりました。又兵衛も、気分が良いのか鬼の面をかぶって夜遅くまで騒ぎました。
その後暫くたったある日、鬼たちから貰ったお金で立派にした両親の墓の前に又兵衛がいました。
｢おっ父、おっ母、暫くそっちには行けなくなっただ。オラに嫁っ子が沢山出来ちまったからなぁ。｣
そうです、あの宴会の後、一緒にいた鬼たちと関係を結んでしまったのです。しかし、又兵衛は後悔はしておらずむしろ、これからは一人ではないと言って嬉しがっていました。
｢家が落ち着いたら会わせるけえの。待っててくれや。｣
そう言って又兵衛は、嬉しそうに嫁達がいる家に帰っていきました。
おしまい
この日も、村の豊作を祝って開かれた秋祭りにも誰も彼を誘いには来ませんでした。そんな彼の唯一の楽しみと言えば、毎日両親の墓参りに行き、
｢おっ父、おっ母、早く極楽さから迎えに来てけれ。オラ本当に寂しいだよ。｣
と言い、しばらくの間両親の墓を拝んでいることでした。
そんな日が続いていたら、この村にも冬が訪れ雪が降って、村が真っ白に覆われてしまいました。又兵衛はそんな時でも墓参りに出掛けました。
｢おっ父、おっ母、今日は熱い茶さ拵えて来ただ。これでも飲んで、暖まってけれ。｣
この日は、又兵衛は暗くなるまで墓の前にいました。
そして日は過ぎて、年が明け新年を迎えて数ヵ月が過ぎて、雪がすっかり溶けて無くなったとある日、その日も両親の墓参りを済ませた又兵衛はふと村の方に目を向けました。するとそれぞれの家の中から、｢鬼はー外！｣｢福はー内！｣と言う子供達の声が聞こえてきました。
｢ああそうか、今日は節分の日じゃったのう。｣
又兵衛はそう言い、昔の事を思い出しました。
又(若)｢鬼は外じゃ、鬼は外じゃ。｣
父(鬼の面装着)｢はっはっはっ、それじゃぁまだまだ鬼は逃げんぞぅ。｣
母｢まぁまぁ、ふふふ。｣
又兵衛は暫くの間立ち尽くし、涙を流していました。
家に帰った又兵衛は、押し入れの奥にある大きなツヅラを開けて、何かを探していました。
｢あったぞあったぞ、前に使って残っていた豆に、あぁこれはオラがおっ父に作った鬼の面じゃ。｣
そうです、昔の事を思い出した又兵衛は、ウチも豆を撒こうとしていました。
しかし、鬼の面を被って豆を用意したところで一緒にやってくれる家族なんかおりません。しかも、福の神なんかとうの昔に見捨てられていました。
｢鬼は…内。福は…外。｣
………………………………………
｢鬼はー内!!福はー外!!鬼はー内!!福はー外!!鬼はー内!!福はー外!!鬼はー……｣
なんと、自棄になった又兵衛はわざとあべこべに言って泣きながら豆を投げました。その内豆が無くなると、疲れがドッと出て片付けもせずにその場で座り込みました。
その後、何もやる気がせず暫く囲炉裏で暖をとっていると、
ドンドンドン
｢お晩ですー。｣｢お晩ですよー。｣
と言う、声が外から聞こえてきました。
｢誰だー？オラの家に来る奴はー。｣
又兵衛はそう言い、戸を開けてみると、何と其処には魔物娘のアカオニが二人立っておりました。
｢う、うわわわわわわわぁ！｣
生まれて初めて見た魔物娘に、又兵衛は飛び上がって驚きました。
｢なぁなぁ、鬼は内って言ったのはこの家かい？｣
｢イヤー、どこの家も鬼は外ばっかりだったがお前さんの家だけが鬼は内だったから嬉しいよー。｣
｢ま、取り敢えず上がらせてもらうよ。｣
驚いてる又兵衛を尻目に、アカオニ二人はさっさと家に上がり込みました。
｢あ、あぁ今薪持って来るがら待っとってけれや。｣
又兵衛はとても喜びました。この家に客が来るなんて初めての事で、例えアカオニでも歓迎しました。すると、
｢｢｢｢お晩ですー。｣｣｣
｢鬼は内はここかいなー。｣
｢上がらしてもらうよー。｣
｢おー寒い寒い。｣
なんと、節分の豆に追われて色々な｢鬼｣達がやってきました。その中にはオーガやゴブリンにホブゴブリンにしまいにはウシオニにグールにヴァンパイアまで、｢鬼｣がつく様々な魔物娘がやって来ました。
囲炉裏にあたって鬼たちはすっかり暖まりました。
｢なぁお兄さん、お礼がしたいんだけど何か望みはないかい？｣
｢いやいや、オラは皆が来てくれただけで嬉しいだよ。｣
｢それじゃあ気がすまないよ、何でも良いから言ってくれよ。｣
｢｢｢そうそう。｣｣｣
周りもそう言ってくるので又兵衛はその好意を無下には出来ないと思いました。
｢それじゃあ、酒でもあれば皆で一杯出来るんじゃがのう。｣
｢｢｢おお、引き受けた引き受けた。｣｣｣
どたどたどたどたどだどたどた
鬼たちはそう言うと、一斉に家から飛び出ていきました。
又兵衛は、暫く一人で待っていました。すると、
｢待たせたなぁ。｣
どたどたどたどたどだどたどた
鬼たちはそれぞれ酒やら御馳走やらお金やらを持って帰ってきました。それからそのあとは、皆で呑んで歌ってのドンチャン騒ぎが始まりました。又兵衛も、気分が良いのか鬼の面をかぶって夜遅くまで騒ぎました。
その後暫くたったある日、鬼たちから貰ったお金で立派にした両親の墓の前に又兵衛がいました。
｢おっ父、おっ母、暫くそっちには行けなくなっただ。オラに嫁っ子が沢山出来ちまったからなぁ。｣
そうです、あの宴会の後、一緒にいた鬼たちと関係を結んでしまったのです。しかし、又兵衛は後悔はしておらずむしろ、これからは一人ではないと言って嬉しがっていました。
｢家が落ち着いたら会わせるけえの。待っててくれや。｣
そう言って又兵衛は、嬉しそうに嫁達がいる家に帰っていきました。
おしまい
11/07/02 22:59更新 / イノウエ食堂