少しだけ前に進む。
この王国の魔物娘と人間の溝を埋める。
その覚悟を持って行った戦いは、魔物娘が終止符を打った。
反魔物国家である人間の国が別の文化を受け入れるには時間がかかるかもしれないが、大きな戦いを防ぐことはできた。
茶番だったかもしれない。
人間と人間の争いを魔物娘が止めた格好となる。
人間と魔物娘の溝を埋めるつもりが、人間と人間の溝を埋められた。
僕たちはそのことを恥じなければならないし、この三者は手を取り合う必要がある。
少なくとも、王子である僕は。
太陽が目を覚ました頃。
頬に動く羽の感触で、僕は目を覚ました。
ぼんやりと、既に着替えを澄ましているブラックハーピィ、黒羽の姿を確認する。
「起きた?」
じっと見つめられる。
「今……起きたよ」
隣には不自然に空いた布団と温もりが残っており、つい先程起きたのだろうと考えていた。
少しの寂しさと、隣で動いていたのに気が付かなかった自分の間抜けさに頭を打ちながら、僕は布団から這い出た。
部屋の机には、既に珈琲とパンが用意されていた。
珈琲は温かみを備えており、パンには…少し焦げているが、綺麗な焼き色が付いていた。
「朝ごはん、用意してくれてありがとう」
「外にいる女の子に頼んだから、後でお礼言ってあげてね。すっごく喜んでくれるよ。人生ごとプレゼントしてくれるかも」
当たり前の朝食を用意する労力は分かっているつもりで、だからこそ感謝の言葉を伝えたかった。
「それでも、皆。ありがとう」
王子であることに有難みを感じながらも、大人しく朝ごはんの席に座る。
「じゃあ頂きます、しようか」
「ふふ、朝から頂かれるの?」
「……君はそんな節操のない子じゃなかった記憶があるんだけど」
いただきます。
そんな言葉を後目に、珈琲とパンを頂く。
黒い水を一口頂いた後、僕はしっかりと感想を言った。
「これ……飲んだときの胸焼けがすごい。味は普通なんだけど……」
「気が付いた?やっぱり君はすごいね。実は親魔物国家から豆を貰って魔物娘が焙煎して魔物娘がドリップしたのだから、そりゃあもう」
そういう味になっていたようだ。
少々まずかったかもしれない。
甘い夜を過ごし苦い朝を過ごした後は、甘い昼を過ごさせる見込みなのだろうか。
出された物は全部食べることが信条なため、端から端まで堪能するつもりだが、
今日はそれでも特別な日だ。王子としてやるべきことがある。
「みんな……どう過ごしてる?怪我人とか、建物の被害ははっきりしてるかな」
「それは、私たちの力でほぼ0と聞いてる。大体の怪我人は、人間が人間に危害を加えてしまったらしいんだけど、それでも私たちの力で何とかなってる」
「そっか……ありがとう」
「どういたしまして」
その報告に安心しながらも、珈琲の苦みと甘みを一身に受けていた。
「太陽が丁度真上に上がった頃……魔物娘の皆を呼んでくれないか」
「ん……わかった」
城の応接間。
人間5人、黒羽を含めた魔物娘5人。
王子である僕。元側近…は更迭済みだ。
毒を盛られた王は現在容体が安定しているが、この場にはいない。
それぞれ種族ごとに向かい合わせで座っており、僕がその間を仲介していた。
「ここに2種族を集めたのは、この国家が親魔物国家として今後変化するためだ。先日まで争ってしまっていたが、今後人と魔物が争わないためにも、ここに協定を結ぶ」
ここにいる10人が、黙って僕を見つめている。
当然、ここにいる10人は適当な人が集められたわけではない。
人間である5人は国の重役であり、魔物国家もほぼ同じ権力を持った人間を集めていた。
「私たちが今回結ぶのは、ただ一つ。お互いの国がこれから手を結んでいけるよう、当たり前の権利を侵害せず両種族が生きていけるようにする約束をする」
彼らは黙って僕を見つめる。
「魔物国家と我々の国が統合するということではない。我々の国で魔物娘が問題なく過ごせ、魔物国家でも我々人間の権利が守られることを保証する」
魔物娘の長が発言する。
「私たちはいつでも大歓迎でしたけど、人間の当たり前は私たちの当たり前じゃないですものね。学ぶ努力はするわ。常に婚姻届にサインする用意はしてほしい所ですけど」
「ご理解感謝する」
魔物娘の習性を鑑みても、これだけの理解を示してもらえるのは有難い。
節操のない人間はいるかもしれないが、魔物国家に人間が住むことも可能になる。
少なくとも争いは避けられる。
「それでは、魔物国家の皆様。こちら、承諾して頂けますでしょうか」
「貴方が夜を共にして下さるなら」
「すみませんが、月の光を遮る羽はありますので」
「残念、でも署名しちゃう」
魔物国家の長である彼女は、彼女のイメージからは想像もできないような美を以って署名した。
そして胸に手を当てて。
「日出ずる朝も、日没する夜も、貴方たち人類と共生することを誓います」
私たちは少しだけ前に進んだ。
その覚悟を持って行った戦いは、魔物娘が終止符を打った。
反魔物国家である人間の国が別の文化を受け入れるには時間がかかるかもしれないが、大きな戦いを防ぐことはできた。
茶番だったかもしれない。
人間と人間の争いを魔物娘が止めた格好となる。
人間と魔物娘の溝を埋めるつもりが、人間と人間の溝を埋められた。
僕たちはそのことを恥じなければならないし、この三者は手を取り合う必要がある。
少なくとも、王子である僕は。
太陽が目を覚ました頃。
頬に動く羽の感触で、僕は目を覚ました。
ぼんやりと、既に着替えを澄ましているブラックハーピィ、黒羽の姿を確認する。
「起きた?」
じっと見つめられる。
「今……起きたよ」
隣には不自然に空いた布団と温もりが残っており、つい先程起きたのだろうと考えていた。
少しの寂しさと、隣で動いていたのに気が付かなかった自分の間抜けさに頭を打ちながら、僕は布団から這い出た。
部屋の机には、既に珈琲とパンが用意されていた。
珈琲は温かみを備えており、パンには…少し焦げているが、綺麗な焼き色が付いていた。
「朝ごはん、用意してくれてありがとう」
「外にいる女の子に頼んだから、後でお礼言ってあげてね。すっごく喜んでくれるよ。人生ごとプレゼントしてくれるかも」
当たり前の朝食を用意する労力は分かっているつもりで、だからこそ感謝の言葉を伝えたかった。
「それでも、皆。ありがとう」
王子であることに有難みを感じながらも、大人しく朝ごはんの席に座る。
「じゃあ頂きます、しようか」
「ふふ、朝から頂かれるの?」
「……君はそんな節操のない子じゃなかった記憶があるんだけど」
いただきます。
そんな言葉を後目に、珈琲とパンを頂く。
黒い水を一口頂いた後、僕はしっかりと感想を言った。
「これ……飲んだときの胸焼けがすごい。味は普通なんだけど……」
「気が付いた?やっぱり君はすごいね。実は親魔物国家から豆を貰って魔物娘が焙煎して魔物娘がドリップしたのだから、そりゃあもう」
そういう味になっていたようだ。
少々まずかったかもしれない。
甘い夜を過ごし苦い朝を過ごした後は、甘い昼を過ごさせる見込みなのだろうか。
出された物は全部食べることが信条なため、端から端まで堪能するつもりだが、
今日はそれでも特別な日だ。王子としてやるべきことがある。
「みんな……どう過ごしてる?怪我人とか、建物の被害ははっきりしてるかな」
「それは、私たちの力でほぼ0と聞いてる。大体の怪我人は、人間が人間に危害を加えてしまったらしいんだけど、それでも私たちの力で何とかなってる」
「そっか……ありがとう」
「どういたしまして」
その報告に安心しながらも、珈琲の苦みと甘みを一身に受けていた。
「太陽が丁度真上に上がった頃……魔物娘の皆を呼んでくれないか」
「ん……わかった」
城の応接間。
人間5人、黒羽を含めた魔物娘5人。
王子である僕。元側近…は更迭済みだ。
毒を盛られた王は現在容体が安定しているが、この場にはいない。
それぞれ種族ごとに向かい合わせで座っており、僕がその間を仲介していた。
「ここに2種族を集めたのは、この国家が親魔物国家として今後変化するためだ。先日まで争ってしまっていたが、今後人と魔物が争わないためにも、ここに協定を結ぶ」
ここにいる10人が、黙って僕を見つめている。
当然、ここにいる10人は適当な人が集められたわけではない。
人間である5人は国の重役であり、魔物国家もほぼ同じ権力を持った人間を集めていた。
「私たちが今回結ぶのは、ただ一つ。お互いの国がこれから手を結んでいけるよう、当たり前の権利を侵害せず両種族が生きていけるようにする約束をする」
彼らは黙って僕を見つめる。
「魔物国家と我々の国が統合するということではない。我々の国で魔物娘が問題なく過ごせ、魔物国家でも我々人間の権利が守られることを保証する」
魔物娘の長が発言する。
「私たちはいつでも大歓迎でしたけど、人間の当たり前は私たちの当たり前じゃないですものね。学ぶ努力はするわ。常に婚姻届にサインする用意はしてほしい所ですけど」
「ご理解感謝する」
魔物娘の習性を鑑みても、これだけの理解を示してもらえるのは有難い。
節操のない人間はいるかもしれないが、魔物国家に人間が住むことも可能になる。
少なくとも争いは避けられる。
「それでは、魔物国家の皆様。こちら、承諾して頂けますでしょうか」
「貴方が夜を共にして下さるなら」
「すみませんが、月の光を遮る羽はありますので」
「残念、でも署名しちゃう」
魔物国家の長である彼女は、彼女のイメージからは想像もできないような美を以って署名した。
そして胸に手を当てて。
「日出ずる朝も、日没する夜も、貴方たち人類と共生することを誓います」
私たちは少しだけ前に進んだ。
19/08/02 17:28更新 / 家庭科室
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