蛮族の婿
「男、か弱い。アマゾネス、男、守る」
片言交じりのとつとつとした口調で、褐色の肌の女が……いや、魔物娘が、男の手を取りひざまずく。それはプロポーズだった。
「お前、私の、ムコ」
見つめられ、その瞳にこもる情熱に、ヤッカは息を呑む。
突然すぎる状況を飲み込めず、頭の中が真っ白だった。
「アマゾネス、愛するムコ、大事にする」
無骨で大きな手を握るのは、あいらしく、なめらかで、やわらかい、細い指。
握り返せば、折れてしまうのではないだろうか、ヤッカは思わずそう感じたが、それは錯覚に違いなかった。
ある日、ヤッカはアマゾネスの『男狩り』にあった。
そして、アマゾネスの婿になった。
ヤッカはのどかな田舎で育った。土を弄り、野良仕事で鍛えた体はいかつく、むさ苦しい。
自慢ではないが、村の中ではそれなりに腕っ節も強い方であったし、たくましい男だという自信もあった。
「ムコ。これ、果実、食べる。元気、出る」
それがなにゆえ、自分の肩ほどの背丈しかない、華奢で可憐な娘から、このような扱いを受けているのだろうか。
床に敷かれた獣の皮の上に座るように促され、あぐらをかくと娘が横へ来て座り、もぎたてらしい果実を差し出して、口を開けろとのたまう。ようは「はい、あーん」なシチュである。
「いやあの、食べるなら自分で剥いて……」
「ムコ、アーン」
「あ、てあの、そういうのは」
「ムコ。なぜ、食べない？ これ、嫌いか？ ダメか？」
「う……そんな顔、しないでくれよ。食べるから、あーと、いただきます」
「よし」
アマゾネスの娘はクグリという名で、この集落の中では、一目置かれた戦士のようだった。一見華奢だが戦闘時の彼女は、自分の身の丈ほどもある大剣を軽々と振るい、恐ろしいほど猛々しく敵をなぎ払う。
ヤッカは、一度だけその姿を目にしたが、思い出すだけで身の竦むような光景だった。
そんな彼女が慈しむように、ムコ、ムコ、と自分を呼ぶたび、ヤッカは何もかも夢なんじゃないかと首をひねる。
プロポーズの通り、クグリはヤッカを大事に扱った。こんな、図体のでかいでくのぼうを、まるでこの世の奇跡のように、愛し、守ろうとするから、調子が狂って仕方がない。
「うまいか、ムコ」
房状に生った果実を一粒、わざわざ皮を向いたものを、手ずから食べさせられ、ヤッカは戸惑いながら頷く。甘酸っぱくみずみずしい果汁が喉をうるおすと、気分が良くなった。
倒れる程でもないが、ねっとりと茹だるような密林の気候は、清涼な山育ちのヤッカの体力を奪った。精神的なストレスもきているのか、丈夫さが取り柄だっただけに、なんとも情けなくヤッカは落ち込んだ。
「その…世話かけて、すまん」
「男、か弱い、気にする、ない」
集落の小屋は木組みの壁に藁葺き屋根の簡素な構えだが、日陰があって風通しがよく、中が涼しくなるように作られている。所帯を持ったクグリ達は、広場を囲むように建てられた小屋の一つに、こうして二人だけで暮らしていた。
一つ屋根の下、ヤッカの面倒を見るのも、すべてクグリが行っていて、具合の悪いヤッカは、何かと甘やかされていた。大の男が、と、居心地の悪さを感じずにはいられないのだが、クグリのする事には、何だかんだで流されてしまうヤッカである。
「どうした、ムコ。もう、いらないか？」
「半分は、あんたのだろ。俺一人で食っちゃわるいよ」
果実をいくつか食べ、ヤッカはそう言った。自分のために用意してくれたのは嬉しいが、差し出されたものを、独り占めするのも気が引ける。
そんな気持ちで断ると、クグリは目を丸くして、きょとんとした。
それから訳がわかったという表情で、ふ、と口元を笑みの形に釣り上げる。
「ムコ、いじらしい。クグリ、うれしい……」
その瞳が妖しく光り、ヤッカは、ぎくりとした。
クグリは鎌首を持ち上げる蛇のように、ヤッカへにじり寄る。
近づいてくる、ふっくらとした桜色の唇に、視線が吸い寄せられ、慌ててヤッカは目を閉じた。
竜の手足のような翼と尾、片角に長く尖った耳。紫がかった銀色の豊かな髪はふさふさとして、褐色の豊満な体を流れる。アマゾネスは森や密林の奥地で暮らす蛮族。日に焼けた体には、申し訳程度の布が胸と腰に巻かれているのみ。彼女たちは飾り気がなく、他の者に裸体を晒すことに羞恥がないらしい。
かくいうヤッカも、この集落にきてから衣服は取り払われ、集落に住む他の男達と同じように、獣皮の原始的な服を着ている。膝丈のキトン風の長衣は、アマゾネスに比べれば露出は減るものの、ただ布を羽織ったような心もとない姿だ。
むっちりとした肉体が、あぐらをかいた膝に上り、おしげもなく迫ってくる気配に。ヤッカはごくりとつばを飲んだ。
「ヤッカ」
「待、はッ、む……」
重ねられた唇から、強引に口内を割るようにクグリの舌が侵入してくる。歯列をなぞり、舌を絡められ。激しく艶めかしい口づけにヤッカは、突き上げるような快感が脳に響いて、訳も分からずクグリの頭を鷲掴みにするように、引き寄せた。
「んんん、んぅッ」
「は、ふ……ぁ、チュル」
深く、お互いを貪るようなキスを重ね、クグリの顔が、恍惚にとろける。口を離すと唾液が糸を引いて、胸元に滴り落ちた。
獣のように荒々しく息を吐きながら、クグリは先程の果実を口に含み、親鳥が雛にするようにヤッカに与える。
「……ん、グゥ」
「食べる。ヤッカ、果実、お前、強くする」
意識もあやふやに、甘酸っぱい果実の味に戸惑うと、頬を包むみこむように持たれ、ヤッカは、どうにか口移されたものを飲み込んだ。
「ふ、ああ、ヤッカ……ヤッカ……私のムコ」
ヤッカが嚥下する様子を満足そうに見つめると、クグリは労るようにヤッカの口の周りの唾液を絡めとるように舐め、愛おしげに微笑むのだった。
ふいに、小屋の外が騒がしくなる。夕刻になり、狩りに出ていたアマゾネス達が、帰ってきたのだ。本来ならクグリも共に狩りに参加するのだが、彼女は家に留まり、ヤッカの看病をしていた。
「皆、帰って、来た……」
アマゾネス達は、村で待つ男や幼児のために資源や食料になる獲物を狩り、彼等をやしなう。
彼女等と番う男。婿の役目は、滋養を摂り精気を蓄え、嫁へ奉仕をすることである。
離れていた者達が帰ってくれば、当然行われる夫婦の務め。
次第にあちこちから、アマゾネスの夫婦達の、喘ぐような嬌声が、外から小屋の中にまで、聞こえてきた。
アマゾネスは夫婦がまぐわう姿を、人目をはばからず、むしろ他者に見せつけるように行う。
今日もまた、アマゾネス達の淫靡な婚交が始まるのだ。
一枚壁を隔てたすぐ向こうでは、複数の男女が絡み合い、痴態を繰り広げている。
日夜繰り返され、覚えこまされた狂乱ともいえる行為は脳裏に焼き付いていて、ヤッカは熱い吐息を漏らした。
クグリはいやらしく舌なめずりすると、ヤッカの耳元へ唇を寄せて、囁く。
「外、出るぞ、ムコ」
命令されているわけではないが、その強い響きにヤッカは逆らえない。
「よし。ムコ、私に、捕まる」
「え、いや、ちょ！ 自分で歩ける！ 歩くから！」
「無理、だめ。ムコ、体、弱い。私、ムコ、抱っこする」
クグリはヤッカの膝から降りると、促すようにその腕を彼の背中に回し……軽々と抱きかかえた。お姫様抱っこである。もう一度言おう、お姫様抱っこだ。美男が美女を抱えれば絵にもなるが、美女が野郎を抱き上げるのは許されるのか。
ヤッカの中で男としての自尊心に亀裂が走る。
「た、頼むから、このまま外にでるのは勘弁してくれよ。ほら俺、重いだろ？ 降ろしてくれって」
「ふふ。かわいい、言葉。心配、ない。ヤッカ、とても、軽い。羽のよう」
「さすがにそんな軽くはねえよ！？」
大剣を操るクグリには、ヤッカなど、ぬいぐるみを抱き上げるのにも等しい。ヤッカの懇願を遠慮として捉えたのか、クグリは、可愛いやつめと、微笑む。
ヤッカは、恥ずかしさのあまり顔を手で覆い「俺は乙女か！」と呻いた。
そのまま戸口にかかる縄簾を潜り、ヤッカを連れて、クグリは人の集まる広場へ向かう。
広場はすでに篝火が焚かれていて、薄闇の中、たくさんの人影がうごめいていた。
獣のように相手を組み敷いて夢中で腰を振る者。体を重ねて互いの性器を舐めあう者。鳴き声のような嬌声が、あちこち響き、肉体と肉体のぶつかる音に、粘膜の擦れるぬちゅぬちゅという音が混じる。
手持ち無沙汰の、まだ伴侶のないアマゾネス達は、火の番をしたり、夕食の料理や酒を運んでいる。
クグリはそのうちの一人に言って、なめし皮の敷物を土の地面に敷かせた。そこへ、そっとヤッカを横たえる。
ヤッカは、手をついて上体を起こし、クグリの座るスペースをつくろうと、座る位置を横にずらした。クグリは首を傾げ、膝をついてヤッカを見た。
「ムコ、皮膚、やわい。傷、つける、ダメ」
「そこまで貧弱じゃないつもりなんだが」
「白い肌、美しい、花のよう」
「や、やめてくれ、恥ずかしい。そりゃ、あんたに比べれば、色は白いかもしれないが」
不思議な刺青を刻んだクグリの肌は、日に焼けた金茶色をしていて、その紫がかった銀髪がよく冴えた。ヤッカは、これより美しいものを見たことがない。
彼女が魔物で、どれほど強く逞しいか、解っていても、ヤッカにとって彼女は、触れることも躊躇うほど気高く美しい娘だった。触れる肌はすべらかで、首は牝鹿のように細く、小さな体は抱きしめれば、潰してしまいそうだった。
今しがたそんな彼女に、お姫様抱っこされたばかりだが、それはともかくヤッカにも、クグリを、自分の嫁を、男として大事にしたいと思っているわけで。
彼は、のどかな村で育った、純朴な若者である。
家族を除けば、これまでクグリ以外の女性に触れたことも、手すら握ったこともなかった。面と向かって女性を口説いたこともなく。浮いた台詞も思いつかない野暮な男だ。
「……こんな男のごつい肌より……クグリの肌の方が、綺麗なんだから、大事にしなくちゃよ……」
どんなに気持ちが強くても、ぼそぼそとした声で、そう言うのが精一杯だ。それだけで、目も合わせられないほど照れ、恥ずかしさに頭が沸騰しそうだった。
クグリの長い人ならざる者の耳は、ヤッカの声をしっかり拾った。
矢で胸を射られたような衝撃に、クグリは目を見張り、その顔がボッと火が着いたように赤くなる。彼女がこんな風に、照れるのは初めての事だった。
互いに赤く染めた顔で見つめ合い、クグリの濡れたように光る瞳に、ヤッカは甘いキスを予感した。
「ム、ムコ……」
「クグリ……ん、んぐ！？ んんんン、っふ、うううぅぅ！？」
プツーン、と理性の糸が切れる音がした。
甘いキスのかわりに贈られたのは、解き放たれた猛獣のような、噛み付くようなキスだった。
ヤッカは怒涛のように口内を蹂躙され、勢いに姿勢が傾くと、背中に腕がまわり抱き寄せられるように上から更に深く、唇を求められた。
たまらず後ろ手をついて体を支えたが、息苦しさに腰が引け、足が動くと、クグリはヤッカの膝を足で捕らえ、動きを封じた。しなやかで驚異的な脚力でホールドされ、ヤッカが抜け出すことは不可能だった。
キスをしたまま身を乗り出し、もう片方の手でヤッカの体をまさぐり、愛撫をすると快楽を覚えこまされたヤッカの体が、ビクビクと小さく跳ねた。
「ぷはッ…はァ、カワイイ、ヤッカ、カワイイ……」
ようやく口を開放され、荒々しく息を吐くヤッカの姿を楽しみながら、クグリは愛撫を続ける。婿を愛でることも、嫁の役目だ。
タップリと啼かせて、よがらせて、男の喜びを、教えてやらねばならない。
服を脱がせ、ヤッカを抱えたまま、クグリの口は彼の体を這う。鎖骨から胸へ、吸い付き、舐める。敏感な乳首は丹念に唾液をつけて濡らしてから、指と口とで両方を同時に責めた。
サキュバスでもあるアマゾネスにかかれば、性感帯を開発することなど造作も無い。男でありながら、ヤッカの乳首はピンと立ち上がり、敏感に快感に反応する。
「ヤッカ、ココ、好き…吸うと、よろこぶ」
「…アっ、ぅっあっアァ、っあっぁ……」
「ちゅゥ、ん、イイ？ 気持ちいい？ ヤッカ……」
ヤッカはホールドされたまま体をくねらせ、時折ガクガクと腰を浮き上がらせた。口からは止めどもなく、言葉にならぬ喘ぎ声が上がり、強すぎる快楽に頭を振った。
「…皆に、見せる、カワイイ、ムコ、乱れる、エッチな、声、聞かせる」
「……くっ、ぅ……あく、ぐんんんっっ」
伴侶のないアマゾネス達は、積極的にアマゾネスの嫁と婿の性交を見学する。伴侶を持つアマゾネス達は、そんな彼女達に、伴侶のあられもない姿を見せつけ、若者達を教育し、鼓舞するのだ。
そこには己の伴侶を見せびらかし、自慢するという意味も、含まれているのかもしれない。
快楽に乱れる痴態を、大勢の人目に晒される。
その羞恥に、この集落に来て日の浅いヤッカは、まだ馴染めずにいた。
クグリの一声で、飛びかけた意識が醒め、忘れていたのに思い出してしまう。ここは野外で、周りには人もいて、子どもや、他のまぐわう夫婦の中には、同じ村から連れて来られた知人もいる。
自分たちへ向けられた、絡みつくような視線。息を殺して、自分の喘ぎを聞きいる者の気配。
そんな、遠のいていた周りの音や、景色が戻ってきて、ヤッカの体が強張り、声を噛み殺そうと、懸命にこらえようとした。
「どうした、ヤッカ？ 気持ちいいの、足らないか？」
「……ちっ、がぁ……はずっ、はずか、し、ひぐゥ……！」
「我慢、する、ダメ…」
「…うっ、く……そこっ……はァッッ！」
クグリの手が、なぞるように下腹部へ伸ばされ、硬くなりよだれを垂らすヤッカの竿を握る。
どろどろに濡れそぼつ先端をこねくり回しすと、ヤッカの口から、一際大きな声が出て、あたりに響いた。
「…うっっぁっあアッ……！！」
「スゴイ、大きい、声。触られるの、待ってたか？ よしよし」
「……クグっっぅあッやっやめ！」
クグリは一度ペニスから手を放すと、ヤッカをホールドしていた足を解いて、彼の片足を自分の肩に担いで、周りから彼の下半身が見えやすいように足を広げさせた。
そのまま横倒しに犬が小便をするようなポーズを取らされ、ヤッカは許しを請うようにクグリの名を呼びながら、体を戦慄かせる。
「ヤッカ、ねだる、上手。たっぷり、啼け」
クグリはご褒美を与えるようにそう告げて、ヤッカのペニスに指を絡ませ、しごいた。上下に動きながら細い指は、それぞれが意思を持つかのように動いて、ふいに敏感な裏筋や亀頭部分を擦り、刺激する。
「がッ、あぁああっっあァっ」
与えられる衝撃の波が、脳を貫き、ヤッカはただよがり狂う。力の入らない下肢が痙攣して、クグリの肩の上で揺れた。
その足にもクグリは軽く口付け、舌で舐めた。ペニスを扱く手とは別の片方は、勝手に閉じそうになるヤッカの足を止めたり、内股や尻を撫でたり軽く爪を立てたりを繰り返した。
怒張したペニスがビクビクと震え、絶頂の気配を感じると、クグリは動きに緩急を加えてヤッカを焦らした。先走りがじゅくじゅくとしたたり、クグリの指を汚す。
「……クグリッ、も、うっっ」
「イク、ヤッカ？」
「ぅっ……イキたっっっイかせて、くれっっ」
「顔、上げる。イキ顔、皆に、見せる」
「……ぅ、ぁ……あ……」
もはや、イクことしか考えられず、ヤッカは力なくうなずいて、クグリの言う通りに従い、敷物に埋めていた頭をなんとか離して上向ける。
「ん、ヤッカ、カワイイ……はぁ、はぁ」
クグリも興奮に息を乱しなから、ヤッカを絶頂へ導いていく。
ペニスの全体を回転するように扱き上げ、片方の手で亀頭の部分を撫でる。
待ちわびていたものが突き上げ、ヤッカが弾かれたように、腰を突き出し、精を放った。
「っぁあーーー！！」
クグリの手の中でマグマのように吹き出した白濁する精液は、ヤッカの股間や内股へあふれ落ちる。
「はぁ……ヤッカ、射精、いっぱい、出た。いいムコ。ふふふ」
クグリは、肩に担いだ放心しているヤッカの足に頭をすり寄せた。
魔物娘にとって、伴侶の精液は、極上の甘露である。
足を降ろしてヤッカを仰向けにすると、クグリは滑るように素早く、ヤッカの股間へ頭をうずめた。
「雄、におい、いい、におい、ヤッカの、におい」
恍惚と呟き。射精したばかりのペニスに、しゃぶりつく。
「はむ…ぺろ…じゅるる、ちゅ」
根元から先端まで、粘り気のある白濁液を追って、蜜のように舐めとると、肉棒が再び硬くなっていく。
毛づくろいする猫のように、クグリはヤッカの股間や内股を、口を使ってきれいにした。自分の指についた精液も舐め取り、味わい、飲み込む。
ヤッカは力の抜けた体で、上体を起こして、そんなクグリの姿から目が離せず呆然と見つめる。見られているのに気がつくと、クグリは上目遣いで笑み、ヤッカのペニスを掴んで見せつけるように、舌を出して鈴口をチロチロと舐めてから、ちゅっ、と軽い音を立ててキスをした。
正体の分からないぞくぞくしたものが、ヤッカの背筋を走った。抱きたい。犯したい。彼女に自分を突き立てて、めちゃくちゃにしてやりたい。欲求に応えるように自身のペニスが脈打つ。
「クグリ」
熱に浮かされ、ヤッカはクグリの腕を取り、力強く引き寄せた。柔らかい彼女は潰れることもなく、腕の中におさまる。胸に顔を埋めたクグリの、笑う気配がした。
「カワイイ、ムコ……来て、私、抱いて」
「ああ……！」
求められ、ヤッカはクグリの背中から太ももへと手を滑らせ、尻を割るようにして足を持ち上げ、対面座位の姿勢で、しとどに濡れたクグリのヴァギナへ、ペニスを沈めた。
「ぁっ、あああ、ぁああっっっ」
クグリの膣内はすんなりとヤッカを受け入れ、熱くうねるように吸い付き、ヤッカのペニスを咥え込んだ。深いつながりを求めるように、クグリの足がヤッカの腰に絡められ、腕は首の後に回される。
肉の奥へとズブズブと入り込み、突き上げる。中を擦り、角度を変えて、何度も何度もピストンして、クグリの体を揺すぶる。
「ああっ、あっあっ、んアぁっ」
快感に支配されたクグリの嬌声に、ヤッカは昂り、満たされていく。
血の一滴から全てがクグリを求めてやまない。「好きだ。好きだ」とうわ言のように繰り返し、その声にクグリの耳は震え、痺れるような甘い快楽に身悶える。
「…ぁあっ！ くるっ、あ、ヤッカあぁっっスキっスキぃぃ」
クグリは軽い絶頂を繰り返しながら、夢中で腰を振った。
突き上げるリズムが、性急なものになり、粘膜が擦れて、抜き差しされる度、卑猥な水音を立てる。
「ぁあああっ、ああっ、あっあっ」
「う、く」
一際深く突き上げて、注ぎこむように、ヤッカは欲望を吐き出した。一度目よりも大量の精が出て、クグリの膣内に溢れる。
「んァあついっっ深くっッいっぱいっっ出てるうぅぅっ！！」
ヤッカと共に絶頂を迎えたクグリは、体を弓なりに反らせ、体を内側から痙攣させた。膣内の刺激と締め付けに、ヤッカは絞られるように射精を続けた。
繋がったまま押し倒し、クグリへ覆いかぶさる姿勢で、今度はそのたっぷりとした胸に手を伸ばす。胸に巻かれた布を取り払い、イッたばかりのクグリの体を愛撫する。
「んッ、んん、はぁ、むね、感じるぅ、ふあぁ、あっ」
毎日、魔物の淫気を浴び、アマゾネスの果実を食べ、ヤッカは人ではなくなろうとしていた。クグリの伴侶としてふさわしい体へと、少しずつ、その変化は始っていた。
体の奥から、感じたことのない力が湧いてくる。精を放ったばかりのペニスが、熱を持ち、先程よりも大きく硬くなっていくような、不思議な感覚がする。
自分の下で喘ぐクグリに口付け、ふと目だけで見上げれば、こちらを凝視する瞳があった。ヤッカは薄く笑い、視線を戻し、自慢気に己の伴侶をみつめた。
アマゾネスの集落で行われる淫靡な交わりは、まだ、始まったばかりだ。
片言交じりのとつとつとした口調で、褐色の肌の女が……いや、魔物娘が、男の手を取りひざまずく。それはプロポーズだった。
「お前、私の、ムコ」
見つめられ、その瞳にこもる情熱に、ヤッカは息を呑む。
突然すぎる状況を飲み込めず、頭の中が真っ白だった。
「アマゾネス、愛するムコ、大事にする」
無骨で大きな手を握るのは、あいらしく、なめらかで、やわらかい、細い指。
握り返せば、折れてしまうのではないだろうか、ヤッカは思わずそう感じたが、それは錯覚に違いなかった。
ある日、ヤッカはアマゾネスの『男狩り』にあった。
そして、アマゾネスの婿になった。
ヤッカはのどかな田舎で育った。土を弄り、野良仕事で鍛えた体はいかつく、むさ苦しい。
自慢ではないが、村の中ではそれなりに腕っ節も強い方であったし、たくましい男だという自信もあった。
「ムコ。これ、果実、食べる。元気、出る」
それがなにゆえ、自分の肩ほどの背丈しかない、華奢で可憐な娘から、このような扱いを受けているのだろうか。
床に敷かれた獣の皮の上に座るように促され、あぐらをかくと娘が横へ来て座り、もぎたてらしい果実を差し出して、口を開けろとのたまう。ようは「はい、あーん」なシチュである。
「いやあの、食べるなら自分で剥いて……」
「ムコ、アーン」
「あ、てあの、そういうのは」
「ムコ。なぜ、食べない？ これ、嫌いか？ ダメか？」
「う……そんな顔、しないでくれよ。食べるから、あーと、いただきます」
「よし」
アマゾネスの娘はクグリという名で、この集落の中では、一目置かれた戦士のようだった。一見華奢だが戦闘時の彼女は、自分の身の丈ほどもある大剣を軽々と振るい、恐ろしいほど猛々しく敵をなぎ払う。
ヤッカは、一度だけその姿を目にしたが、思い出すだけで身の竦むような光景だった。
そんな彼女が慈しむように、ムコ、ムコ、と自分を呼ぶたび、ヤッカは何もかも夢なんじゃないかと首をひねる。
プロポーズの通り、クグリはヤッカを大事に扱った。こんな、図体のでかいでくのぼうを、まるでこの世の奇跡のように、愛し、守ろうとするから、調子が狂って仕方がない。
「うまいか、ムコ」
房状に生った果実を一粒、わざわざ皮を向いたものを、手ずから食べさせられ、ヤッカは戸惑いながら頷く。甘酸っぱくみずみずしい果汁が喉をうるおすと、気分が良くなった。
倒れる程でもないが、ねっとりと茹だるような密林の気候は、清涼な山育ちのヤッカの体力を奪った。精神的なストレスもきているのか、丈夫さが取り柄だっただけに、なんとも情けなくヤッカは落ち込んだ。
「その…世話かけて、すまん」
「男、か弱い、気にする、ない」
集落の小屋は木組みの壁に藁葺き屋根の簡素な構えだが、日陰があって風通しがよく、中が涼しくなるように作られている。所帯を持ったクグリ達は、広場を囲むように建てられた小屋の一つに、こうして二人だけで暮らしていた。
一つ屋根の下、ヤッカの面倒を見るのも、すべてクグリが行っていて、具合の悪いヤッカは、何かと甘やかされていた。大の男が、と、居心地の悪さを感じずにはいられないのだが、クグリのする事には、何だかんだで流されてしまうヤッカである。
「どうした、ムコ。もう、いらないか？」
「半分は、あんたのだろ。俺一人で食っちゃわるいよ」
果実をいくつか食べ、ヤッカはそう言った。自分のために用意してくれたのは嬉しいが、差し出されたものを、独り占めするのも気が引ける。
そんな気持ちで断ると、クグリは目を丸くして、きょとんとした。
それから訳がわかったという表情で、ふ、と口元を笑みの形に釣り上げる。
「ムコ、いじらしい。クグリ、うれしい……」
その瞳が妖しく光り、ヤッカは、ぎくりとした。
クグリは鎌首を持ち上げる蛇のように、ヤッカへにじり寄る。
近づいてくる、ふっくらとした桜色の唇に、視線が吸い寄せられ、慌ててヤッカは目を閉じた。
竜の手足のような翼と尾、片角に長く尖った耳。紫がかった銀色の豊かな髪はふさふさとして、褐色の豊満な体を流れる。アマゾネスは森や密林の奥地で暮らす蛮族。日に焼けた体には、申し訳程度の布が胸と腰に巻かれているのみ。彼女たちは飾り気がなく、他の者に裸体を晒すことに羞恥がないらしい。
かくいうヤッカも、この集落にきてから衣服は取り払われ、集落に住む他の男達と同じように、獣皮の原始的な服を着ている。膝丈のキトン風の長衣は、アマゾネスに比べれば露出は減るものの、ただ布を羽織ったような心もとない姿だ。
むっちりとした肉体が、あぐらをかいた膝に上り、おしげもなく迫ってくる気配に。ヤッカはごくりとつばを飲んだ。
「ヤッカ」
「待、はッ、む……」
重ねられた唇から、強引に口内を割るようにクグリの舌が侵入してくる。歯列をなぞり、舌を絡められ。激しく艶めかしい口づけにヤッカは、突き上げるような快感が脳に響いて、訳も分からずクグリの頭を鷲掴みにするように、引き寄せた。
「んんん、んぅッ」
「は、ふ……ぁ、チュル」
深く、お互いを貪るようなキスを重ね、クグリの顔が、恍惚にとろける。口を離すと唾液が糸を引いて、胸元に滴り落ちた。
獣のように荒々しく息を吐きながら、クグリは先程の果実を口に含み、親鳥が雛にするようにヤッカに与える。
「……ん、グゥ」
「食べる。ヤッカ、果実、お前、強くする」
意識もあやふやに、甘酸っぱい果実の味に戸惑うと、頬を包むみこむように持たれ、ヤッカは、どうにか口移されたものを飲み込んだ。
「ふ、ああ、ヤッカ……ヤッカ……私のムコ」
ヤッカが嚥下する様子を満足そうに見つめると、クグリは労るようにヤッカの口の周りの唾液を絡めとるように舐め、愛おしげに微笑むのだった。
ふいに、小屋の外が騒がしくなる。夕刻になり、狩りに出ていたアマゾネス達が、帰ってきたのだ。本来ならクグリも共に狩りに参加するのだが、彼女は家に留まり、ヤッカの看病をしていた。
「皆、帰って、来た……」
アマゾネス達は、村で待つ男や幼児のために資源や食料になる獲物を狩り、彼等をやしなう。
彼女等と番う男。婿の役目は、滋養を摂り精気を蓄え、嫁へ奉仕をすることである。
離れていた者達が帰ってくれば、当然行われる夫婦の務め。
次第にあちこちから、アマゾネスの夫婦達の、喘ぐような嬌声が、外から小屋の中にまで、聞こえてきた。
アマゾネスは夫婦がまぐわう姿を、人目をはばからず、むしろ他者に見せつけるように行う。
今日もまた、アマゾネス達の淫靡な婚交が始まるのだ。
一枚壁を隔てたすぐ向こうでは、複数の男女が絡み合い、痴態を繰り広げている。
日夜繰り返され、覚えこまされた狂乱ともいえる行為は脳裏に焼き付いていて、ヤッカは熱い吐息を漏らした。
クグリはいやらしく舌なめずりすると、ヤッカの耳元へ唇を寄せて、囁く。
「外、出るぞ、ムコ」
命令されているわけではないが、その強い響きにヤッカは逆らえない。
「よし。ムコ、私に、捕まる」
「え、いや、ちょ！ 自分で歩ける！ 歩くから！」
「無理、だめ。ムコ、体、弱い。私、ムコ、抱っこする」
クグリはヤッカの膝から降りると、促すようにその腕を彼の背中に回し……軽々と抱きかかえた。お姫様抱っこである。もう一度言おう、お姫様抱っこだ。美男が美女を抱えれば絵にもなるが、美女が野郎を抱き上げるのは許されるのか。
ヤッカの中で男としての自尊心に亀裂が走る。
「た、頼むから、このまま外にでるのは勘弁してくれよ。ほら俺、重いだろ？ 降ろしてくれって」
「ふふ。かわいい、言葉。心配、ない。ヤッカ、とても、軽い。羽のよう」
「さすがにそんな軽くはねえよ！？」
大剣を操るクグリには、ヤッカなど、ぬいぐるみを抱き上げるのにも等しい。ヤッカの懇願を遠慮として捉えたのか、クグリは、可愛いやつめと、微笑む。
ヤッカは、恥ずかしさのあまり顔を手で覆い「俺は乙女か！」と呻いた。
そのまま戸口にかかる縄簾を潜り、ヤッカを連れて、クグリは人の集まる広場へ向かう。
広場はすでに篝火が焚かれていて、薄闇の中、たくさんの人影がうごめいていた。
獣のように相手を組み敷いて夢中で腰を振る者。体を重ねて互いの性器を舐めあう者。鳴き声のような嬌声が、あちこち響き、肉体と肉体のぶつかる音に、粘膜の擦れるぬちゅぬちゅという音が混じる。
手持ち無沙汰の、まだ伴侶のないアマゾネス達は、火の番をしたり、夕食の料理や酒を運んでいる。
クグリはそのうちの一人に言って、なめし皮の敷物を土の地面に敷かせた。そこへ、そっとヤッカを横たえる。
ヤッカは、手をついて上体を起こし、クグリの座るスペースをつくろうと、座る位置を横にずらした。クグリは首を傾げ、膝をついてヤッカを見た。
「ムコ、皮膚、やわい。傷、つける、ダメ」
「そこまで貧弱じゃないつもりなんだが」
「白い肌、美しい、花のよう」
「や、やめてくれ、恥ずかしい。そりゃ、あんたに比べれば、色は白いかもしれないが」
不思議な刺青を刻んだクグリの肌は、日に焼けた金茶色をしていて、その紫がかった銀髪がよく冴えた。ヤッカは、これより美しいものを見たことがない。
彼女が魔物で、どれほど強く逞しいか、解っていても、ヤッカにとって彼女は、触れることも躊躇うほど気高く美しい娘だった。触れる肌はすべらかで、首は牝鹿のように細く、小さな体は抱きしめれば、潰してしまいそうだった。
今しがたそんな彼女に、お姫様抱っこされたばかりだが、それはともかくヤッカにも、クグリを、自分の嫁を、男として大事にしたいと思っているわけで。
彼は、のどかな村で育った、純朴な若者である。
家族を除けば、これまでクグリ以外の女性に触れたことも、手すら握ったこともなかった。面と向かって女性を口説いたこともなく。浮いた台詞も思いつかない野暮な男だ。
「……こんな男のごつい肌より……クグリの肌の方が、綺麗なんだから、大事にしなくちゃよ……」
どんなに気持ちが強くても、ぼそぼそとした声で、そう言うのが精一杯だ。それだけで、目も合わせられないほど照れ、恥ずかしさに頭が沸騰しそうだった。
クグリの長い人ならざる者の耳は、ヤッカの声をしっかり拾った。
矢で胸を射られたような衝撃に、クグリは目を見張り、その顔がボッと火が着いたように赤くなる。彼女がこんな風に、照れるのは初めての事だった。
互いに赤く染めた顔で見つめ合い、クグリの濡れたように光る瞳に、ヤッカは甘いキスを予感した。
「ム、ムコ……」
「クグリ……ん、んぐ！？ んんんン、っふ、うううぅぅ！？」
プツーン、と理性の糸が切れる音がした。
甘いキスのかわりに贈られたのは、解き放たれた猛獣のような、噛み付くようなキスだった。
ヤッカは怒涛のように口内を蹂躙され、勢いに姿勢が傾くと、背中に腕がまわり抱き寄せられるように上から更に深く、唇を求められた。
たまらず後ろ手をついて体を支えたが、息苦しさに腰が引け、足が動くと、クグリはヤッカの膝を足で捕らえ、動きを封じた。しなやかで驚異的な脚力でホールドされ、ヤッカが抜け出すことは不可能だった。
キスをしたまま身を乗り出し、もう片方の手でヤッカの体をまさぐり、愛撫をすると快楽を覚えこまされたヤッカの体が、ビクビクと小さく跳ねた。
「ぷはッ…はァ、カワイイ、ヤッカ、カワイイ……」
ようやく口を開放され、荒々しく息を吐くヤッカの姿を楽しみながら、クグリは愛撫を続ける。婿を愛でることも、嫁の役目だ。
タップリと啼かせて、よがらせて、男の喜びを、教えてやらねばならない。
服を脱がせ、ヤッカを抱えたまま、クグリの口は彼の体を這う。鎖骨から胸へ、吸い付き、舐める。敏感な乳首は丹念に唾液をつけて濡らしてから、指と口とで両方を同時に責めた。
サキュバスでもあるアマゾネスにかかれば、性感帯を開発することなど造作も無い。男でありながら、ヤッカの乳首はピンと立ち上がり、敏感に快感に反応する。
「ヤッカ、ココ、好き…吸うと、よろこぶ」
「…アっ、ぅっあっアァ、っあっぁ……」
「ちゅゥ、ん、イイ？ 気持ちいい？ ヤッカ……」
ヤッカはホールドされたまま体をくねらせ、時折ガクガクと腰を浮き上がらせた。口からは止めどもなく、言葉にならぬ喘ぎ声が上がり、強すぎる快楽に頭を振った。
「…皆に、見せる、カワイイ、ムコ、乱れる、エッチな、声、聞かせる」
「……くっ、ぅ……あく、ぐんんんっっ」
伴侶のないアマゾネス達は、積極的にアマゾネスの嫁と婿の性交を見学する。伴侶を持つアマゾネス達は、そんな彼女達に、伴侶のあられもない姿を見せつけ、若者達を教育し、鼓舞するのだ。
そこには己の伴侶を見せびらかし、自慢するという意味も、含まれているのかもしれない。
快楽に乱れる痴態を、大勢の人目に晒される。
その羞恥に、この集落に来て日の浅いヤッカは、まだ馴染めずにいた。
クグリの一声で、飛びかけた意識が醒め、忘れていたのに思い出してしまう。ここは野外で、周りには人もいて、子どもや、他のまぐわう夫婦の中には、同じ村から連れて来られた知人もいる。
自分たちへ向けられた、絡みつくような視線。息を殺して、自分の喘ぎを聞きいる者の気配。
そんな、遠のいていた周りの音や、景色が戻ってきて、ヤッカの体が強張り、声を噛み殺そうと、懸命にこらえようとした。
「どうした、ヤッカ？ 気持ちいいの、足らないか？」
「……ちっ、がぁ……はずっ、はずか、し、ひぐゥ……！」
「我慢、する、ダメ…」
「…うっ、く……そこっ……はァッッ！」
クグリの手が、なぞるように下腹部へ伸ばされ、硬くなりよだれを垂らすヤッカの竿を握る。
どろどろに濡れそぼつ先端をこねくり回しすと、ヤッカの口から、一際大きな声が出て、あたりに響いた。
「…うっっぁっあアッ……！！」
「スゴイ、大きい、声。触られるの、待ってたか？ よしよし」
「……クグっっぅあッやっやめ！」
クグリは一度ペニスから手を放すと、ヤッカをホールドしていた足を解いて、彼の片足を自分の肩に担いで、周りから彼の下半身が見えやすいように足を広げさせた。
そのまま横倒しに犬が小便をするようなポーズを取らされ、ヤッカは許しを請うようにクグリの名を呼びながら、体を戦慄かせる。
「ヤッカ、ねだる、上手。たっぷり、啼け」
クグリはご褒美を与えるようにそう告げて、ヤッカのペニスに指を絡ませ、しごいた。上下に動きながら細い指は、それぞれが意思を持つかのように動いて、ふいに敏感な裏筋や亀頭部分を擦り、刺激する。
「がッ、あぁああっっあァっ」
与えられる衝撃の波が、脳を貫き、ヤッカはただよがり狂う。力の入らない下肢が痙攣して、クグリの肩の上で揺れた。
その足にもクグリは軽く口付け、舌で舐めた。ペニスを扱く手とは別の片方は、勝手に閉じそうになるヤッカの足を止めたり、内股や尻を撫でたり軽く爪を立てたりを繰り返した。
怒張したペニスがビクビクと震え、絶頂の気配を感じると、クグリは動きに緩急を加えてヤッカを焦らした。先走りがじゅくじゅくとしたたり、クグリの指を汚す。
「……クグリッ、も、うっっ」
「イク、ヤッカ？」
「ぅっ……イキたっっっイかせて、くれっっ」
「顔、上げる。イキ顔、皆に、見せる」
「……ぅ、ぁ……あ……」
もはや、イクことしか考えられず、ヤッカは力なくうなずいて、クグリの言う通りに従い、敷物に埋めていた頭をなんとか離して上向ける。
「ん、ヤッカ、カワイイ……はぁ、はぁ」
クグリも興奮に息を乱しなから、ヤッカを絶頂へ導いていく。
ペニスの全体を回転するように扱き上げ、片方の手で亀頭の部分を撫でる。
待ちわびていたものが突き上げ、ヤッカが弾かれたように、腰を突き出し、精を放った。
「っぁあーーー！！」
クグリの手の中でマグマのように吹き出した白濁する精液は、ヤッカの股間や内股へあふれ落ちる。
「はぁ……ヤッカ、射精、いっぱい、出た。いいムコ。ふふふ」
クグリは、肩に担いだ放心しているヤッカの足に頭をすり寄せた。
魔物娘にとって、伴侶の精液は、極上の甘露である。
足を降ろしてヤッカを仰向けにすると、クグリは滑るように素早く、ヤッカの股間へ頭をうずめた。
「雄、におい、いい、におい、ヤッカの、におい」
恍惚と呟き。射精したばかりのペニスに、しゃぶりつく。
「はむ…ぺろ…じゅるる、ちゅ」
根元から先端まで、粘り気のある白濁液を追って、蜜のように舐めとると、肉棒が再び硬くなっていく。
毛づくろいする猫のように、クグリはヤッカの股間や内股を、口を使ってきれいにした。自分の指についた精液も舐め取り、味わい、飲み込む。
ヤッカは力の抜けた体で、上体を起こして、そんなクグリの姿から目が離せず呆然と見つめる。見られているのに気がつくと、クグリは上目遣いで笑み、ヤッカのペニスを掴んで見せつけるように、舌を出して鈴口をチロチロと舐めてから、ちゅっ、と軽い音を立ててキスをした。
正体の分からないぞくぞくしたものが、ヤッカの背筋を走った。抱きたい。犯したい。彼女に自分を突き立てて、めちゃくちゃにしてやりたい。欲求に応えるように自身のペニスが脈打つ。
「クグリ」
熱に浮かされ、ヤッカはクグリの腕を取り、力強く引き寄せた。柔らかい彼女は潰れることもなく、腕の中におさまる。胸に顔を埋めたクグリの、笑う気配がした。
「カワイイ、ムコ……来て、私、抱いて」
「ああ……！」
求められ、ヤッカはクグリの背中から太ももへと手を滑らせ、尻を割るようにして足を持ち上げ、対面座位の姿勢で、しとどに濡れたクグリのヴァギナへ、ペニスを沈めた。
「ぁっ、あああ、ぁああっっっ」
クグリの膣内はすんなりとヤッカを受け入れ、熱くうねるように吸い付き、ヤッカのペニスを咥え込んだ。深いつながりを求めるように、クグリの足がヤッカの腰に絡められ、腕は首の後に回される。
肉の奥へとズブズブと入り込み、突き上げる。中を擦り、角度を変えて、何度も何度もピストンして、クグリの体を揺すぶる。
「ああっ、あっあっ、んアぁっ」
快感に支配されたクグリの嬌声に、ヤッカは昂り、満たされていく。
血の一滴から全てがクグリを求めてやまない。「好きだ。好きだ」とうわ言のように繰り返し、その声にクグリの耳は震え、痺れるような甘い快楽に身悶える。
「…ぁあっ！ くるっ、あ、ヤッカあぁっっスキっスキぃぃ」
クグリは軽い絶頂を繰り返しながら、夢中で腰を振った。
突き上げるリズムが、性急なものになり、粘膜が擦れて、抜き差しされる度、卑猥な水音を立てる。
「ぁあああっ、ああっ、あっあっ」
「う、く」
一際深く突き上げて、注ぎこむように、ヤッカは欲望を吐き出した。一度目よりも大量の精が出て、クグリの膣内に溢れる。
「んァあついっっ深くっッいっぱいっっ出てるうぅぅっ！！」
ヤッカと共に絶頂を迎えたクグリは、体を弓なりに反らせ、体を内側から痙攣させた。膣内の刺激と締め付けに、ヤッカは絞られるように射精を続けた。
繋がったまま押し倒し、クグリへ覆いかぶさる姿勢で、今度はそのたっぷりとした胸に手を伸ばす。胸に巻かれた布を取り払い、イッたばかりのクグリの体を愛撫する。
「んッ、んん、はぁ、むね、感じるぅ、ふあぁ、あっ」
毎日、魔物の淫気を浴び、アマゾネスの果実を食べ、ヤッカは人ではなくなろうとしていた。クグリの伴侶としてふさわしい体へと、少しずつ、その変化は始っていた。
体の奥から、感じたことのない力が湧いてくる。精を放ったばかりのペニスが、熱を持ち、先程よりも大きく硬くなっていくような、不思議な感覚がする。
自分の下で喘ぐクグリに口付け、ふと目だけで見上げれば、こちらを凝視する瞳があった。ヤッカは薄く笑い、視線を戻し、自慢気に己の伴侶をみつめた。
アマゾネスの集落で行われる淫靡な交わりは、まだ、始まったばかりだ。
17/11/25 21:13更新 / くろこま