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第三章 閑話 魔術と適性
 一般的に、魔術の才覚は、神やそれに類するものの加護を受ける事で即座に伸ばせると言われている。

 しかい、それには限度があり、大体が本来の自らの才覚と同じほどまでにしか伸びないとも言う。

 場合によって、はた目から見ればそれ以上伸びる事もあるだろうが、それは本来の能力が何らかの事情で抑え込まれているからである可能性が高い。

 ここに、2人の青年が居たとしよう。彼の才覚を200、片方を300とし、出発地点を前者が100、後者が50とする。

 この300と言う数値は仮に、定められた魔術師として独り立ちするのに必要な才覚である、である。

 仮にその才覚が加護により、5割増しとなった場合、前者は100受け取れるが、後者は150受け取る事が出来る。

 前者はこの結果に大きく不満を抱くだろう。ある日突然格下だと思っていた人間が、対等になったのだから。

 仮に、この才覚をさらに得たいと思うのであれば、自らが高次の存在になるほかない。そしてその多くは更なる力を求めて魔物化――堕落するという。

 例えば、サキュバスの魔女と、普通の魔女(魔物で無いものを指す)では、同じ年季を重ねた者であっても、その才覚の差は大きく分かれる。

 サキュバスなどの魔物となる時は、不可抗力めいた場合もあるが、場合によっては力を得る為に、自ら生を捨て、不死者と化すこともある。それがリッチである。

 では、魔物となる事を良しとせず、高次の存在になる為には?

 幾つか考えられるが、一つだけ、手っ取り早い手段がある。

――コール・ゴッドの呪文を唱え、奇跡の代価として魂を捧げ、神の端末となる事だ。

 文字通り信仰する神の一部となることで、更なる才覚を得るのだ。

 だが、そうして得た才覚を持つ人物は、本当にその人物本人なのか? そして、この方法にも問題がある。

 そもそもコール・ゴッドを使用できる魔術師は、高位の魔術師か神官である。故に、不要と言う儘ならない矛盾が存在する。

 とは言え、この呪文は知ってさえいれば、その行使するための言葉を知っていれば非常に強力であり、仮に放つことが出来れば、大きな力となるだろう。

 ただし、その後に起こる悲劇は、余程の事が無い限り避けられないものと知れ。

――この門を潜る者は、全ての望みを棄てよ、

 と地獄の門には書かれていると言うのだから。そして、

――強さを得た者は、弱かったころの自分を忘れてしまう。

 と言う事も、忘れてはならない。



 余談だが、神の加護を受ける事で新たに行使できるようになる呪文の多くは、その神の加護に由来すると言う。

 エロスであれば性愛に関する呪文、例えば感情を極まらせる《ファナティシズム》、対象に執着心を抱かせる《フェティッシュ・インプリント》等の情欲よりも、感情のふり幅に作用する呪文が多いとされる。

 主神であれば神の怒りを表す雷霆の呪文、《サンダー・ボルト》、《ライトニング》、等であろう。

 堕落神であれば精力を高める霧を発生させる《エナジャイズ・ミスト》、男性器を強靭にする《メガロファロス》等、相手に直接狂わしい程の情欲を与える呪文である。

 信仰する神一つをとっても、それぞれ授ける呪文は千差万別である。また、神が授けるそう言った呪文は、独学や、人(此処では魔物も含む)の講師が与える物よりも数段強力である事が多い。



 この論文には、独自の研究が数多く含まれている為、手放しで信じる事の無きよう。

15/10/18 23:32更新 / Ta2
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■作者メッセージ
 最後に書いてある通り、魔術と、勇者の加護に関する考察……と言う名のこの物語での設定です。
 オズワルドも加護を一応受けており、彼はアズライトドラゴンを遣わしたとか国内で言われている、大地の神である、塞の神を信仰しています。なので彼は地属性です。

 コール・ゴッドに関してですが、現実世界で例えるならば消防車の放水装置を使用する為に、家庭の蛇口と繋げる様なものです。
 勿論普通は維持できませんから、唱えた瞬間に効力を発揮する前に干からびます。また、主神や堕落神などのメジャー・ゴッドを指定するコール・ゴッドは使用出来る者は居ません。
 コール・ゴッドは小神、つまり地方の神様の力を借りる際に唱える。と言う形が本作では一般的です。勿論神様を呼び出している訳ですから相応以上のリスクは負いますが。

 なお、以前オズワルドの言った呪文が漢字表記で、ここで言った呪文がカタカナ表記なのは、単に文化の違いです。同じ呪文でも違う名前で呼んだりするのです。

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