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第五話 男湯は危険な香り
「つかれた〜〜」

ベッドから出てからセラにこの世界のことを、細かく説明してもらった。
お金の数え方から教団のこと、そして魔物娘と呼ばれる者たちの主な食事のことについてなど、とにかく生きていく中で必要なものを教え込まれた。
最初は信じられなかったが、この世界に来ている以上、信じるほかない。



・・・・それにしてもあの時うまくいったお陰で、こんなにスムーズに事が運んでいるよな。


あの部屋での一件によって、破壊した建造物の支払いはあの夫婦に肩代わりしてもらい、それに加え、セラが説明のついでに、ギルドに加入させてくれたおかげで生活スペースを手に入れることができた。
何もかもトントン拍子に進んでいるように感じるが・・・・

「さて、これからが大変になるぞ」

オレはその場でグッと背伸びをした。
今までバイトの経験はあったが、ギルドの仕事にその経験が活かせるのかと考えると、不安がこみ上げてくる。

命を賭けた仕事も、いつか必ず入ってくるかもしれない。
そしてそのとき、オレは生きていられるか。

そう思うと、どうしてもこの世界に来たことを後悔してしまいそうになる。
けれどもこの世界に来ることは、不可抗力であってどうすることもできない。

それに・・・・この世界に来たこと全てが不幸ではない。
この世界に送られてきて、元の世界では生涯かなうことのない夢を見ることができている。

その夢をオレはどうしても見てみたい、実現したい。

今のオレを突き動かすのは、その夢があるからだ。
いつか必ずその夢をかなえてみせる。
いや、かなえるんだ、絶対に。

オレはそう決意して、部屋から出て行った。
セラが言うには、明日からギルドの仕事を任せることになっている。
明日のためにも今のオレにできることは、じっくり疲れをとることだけだ。
オレは地図を片手に、この町の銭湯を目指した。



それは町の中央部に建てられていて、かなり目立っている。
目立つ理由は、場所だけでなくその大きさである。
ドーム2個分ぐらいの大きさで、空にたくさんの湯煙が昇っている。

(ここまで大きい銭湯、今まで見たことねえや)

近場まできてから、改めてその大きさがよくわかる。
・・・・中から悲鳴(?)らしき声がたくさん聞こえるのは気のせいだろうか。
オレは少し気になりながらも、銭湯ののれんをくぐった。



「あら、見ない顔ね。新人さん??」

のれんをくぐると、すぐ隣にある売店のサキュバスが話しかけてきた。

「まあ、そんな感じです」

「ふ〜〜ん、黒髪の男の子なんて、珍しいわね」

彼女はオレの髪をいじりながら話しかける。
よほど気に入ったのだろうか、いまさっきからずっとこの調子だ。
まあ、美人な女性に髪をいじられるのは悪くないけどな。


それよりも、目の前でゆれている胸が気になって仕方がない。
たゆんたゆんと、音が聞こえてきそうなほどにゆれている。

(うわぁ・・・・触ってみてぇ・・・・)

そんなオレの様子に気づいたのか、彼女はオレの前で腕を組んで胸を強調してきた。


「そんなに気になる??私の胸♥」



ゴクッ・・・・



「・・・・・変態」


背後からセラの声が聞こえてきた。
振り返ると、セラが冷たい目線が送ってくる。
完全にジト目だ。

「いや、そういうわけじゃなくて・・・・」

オレは必死に弁解しようとしたとき。

「あら、セラじゃない。久しぶり〜〜」

彼女はセラの元に駆け寄り、すりすりと頬ずりをしている。

・・・・胸に。

「はぁ〜〜〜〜懐かしいわ、この感触」

「あなたもそういう行動、何一つ変わってないな」

セラは困ったような笑顔をしながら、彼女を胸から放そうとする。
けれども、なかなか離れてくれないようで、むにむにとずっともみ続けている。

・・・・あの〜、他の人かなり見てますが。

そうしているうちに、二人は何やら世間話を始めたようで、お店のカウンターに寄りかかりながら話し始めた。
お店から飲み物を出しているようすを見ると、どうやら長話になりそうだ。
オレは男湯ののれんをくぐり、お風呂を目指した。





銭湯の扉を開けると、そこには大きすぎる大浴場が広がっていた。
たとえるのなら、学校のグランドぐらいだろうか、いやそれ以上かもしれない。
それに加え、足元を良く見てみると大理石であろうか、洗練された石できれいに敷き詰められている。
ここまで手を込んでいるようすを見ると、この銭湯を作った人たちは高度な技術を持った者であることが、素人のオレから見ても感じられる。

「すげぇ・・・・」

その立派さに、感激の言葉がこぼれた。
オレの世界でこんな大きな浴場に入れるなんてめったにない、いや絶対ないだろう。
そんな所に毎日入りに来れると思うと、感激の涙が流れそうだ。

まあ、そうやって感動しているのはいいが、目的は体を洗いに来たのだ。
オレは近くの桶を取り、洗い場の前に座って体を洗おうとした。
そのとき、背後から声をかけられた。

「なあ、あんたがギルドに新しく入った奴か??」

「ああ」

「そうか・・・・それにしてもいい体つきしてるじゃねえか」

背後から、よからぬことを考えているような含み笑いが聞こえてくる。
オレは嫌な予感がして、振り返ってみた。
そこには、屈強な男達が仁王立ちしていた。
まるで、この浴場から逃げられなくするように・・・・

「ど、どうしたんですか??」

「ふふふ・・・・男湯に来たことがどういうことか、教えてやるよ」

そういわれた瞬間、近くの男がオレに怪しげな液体をぶちまけてきた。
ウエッ、ヌメヌメしていて気持ち悪!!

オレはその液体をよく観察した。
この独特な感触に臭い・・・・・
いつの日か友人が、ふざけて学校に持ってきた液体に酷似している。

(これは・・・・ローション!!??)

「さて・・・・準備は整ったようだからな」

男達はニヤニヤした顔をして近寄ってくる。



「「や ら な い か」」


「いやだ〜〜〜〜〜!!!!!!!」


オレは近くのものをなぎ倒しながら、走って出口を目指す。
けれども、ローションをたっぷり浴びた体では、思うように走れない。
後ろから男達がものすごい勢いで入ってくる。
このままでは追いつかれてしまう。
追いつかれた後に起きること事を想像するだけでも、寒気が走る。
きっと、アッー!みたいな結果が待っているに違いない。
それだけはなんとしてでも避けたい!!
しかし、今はローションにまみれた体であり、男達のスピードも尋常ではない。
追いつかれないためには、何か策を立てないと。


(何か、何かないのか!!)

オレはふと足元に目をやると・・・・


ツルンツルン♪

そこには新品の石鹸が、山のように置かれていた。
お風呂+石鹸+走ってくる男達=!!??な結果が起こるはずだ。
このときオレは心のそこから神様に感謝した。

「くらえ、このムキムキマッチョども!!!!」

オレは石鹸の山を、勢いよく追いかけてくる男達の足元へばらまいていく。
それでも、彼らは走りを止めない。

「フン、そんなものがどうしたのだぉあ!!!」

先頭の男が石鹸の泡に足を滑らせ、地面に勢いよく顔面を打ち付ける。
後ろの男達も同じように転げていく。

よし、はまった!!

オレはその内に、荷物を持って男湯から出て行く準備をした。
後ろからは、恐ろしげな叫び声が聞こえてくる。
恐る恐る振り向いてみると、そこには
「やってくれるじゃねえか。小僧!!」

泡まみれで立ち上がる男達。
見た目はシュールだけれども、背後から殺気が目に見えるほどになっていた。
顔には怒りがこみ上げているのがよくわかる。

本能的に察した。

今すぐ逃げないと、やばいことになる。

オレは急いで男湯から出て行った。
のれんから出てきたときに、ちょうどセラは話を終えて女湯へと向かっている途中だった。

た、たすかった!!

「頼むセラ、助けてくれ!!」

ローションまみれになっているオレの姿に驚いていたが、男湯から聞こえてくる叫び声に気づき、オレの手を引っ張る。

「ユリア、足止めを頼む」

「まかせて、セラ。ごゆっくりとね〜〜」


サキュバスのユリアは、混浴まで案内してくれた。
オレ達は急いで扉を開けて、銭湯の中へと走っていった。





混浴では、男湯のように大きな浴場があるだけでなく、外から覗かれないよう工夫のされた露天風呂が数え切れないほど作られていた。
その中でも人がいない風呂へと逃げ込む。
外から見えない以上、ここにいる間は安全だ。

オレは気を緩めて、その場に座り込んでいた。

「怖かった〜〜」

「何が怖かった、だ。そんなローションまみれの体でいったい何をしていたのやら」

セラは呆れたような物言いで、こちらを冷たい目で見てくる。

「男湯があんなに危険な場所だとは、知らなかったんだよ」

オレは素直に男湯で起こったこと全てを話した。
話の一部始終を聞いて、セラは納得したような表情を浮かべていた。

・・・・そこは納得して欲しくないな。
納得するってことは、こうなることが薄々予想できていた、ということだよな??
それならもっと前に教えてくれても良かったのに。

「そうか。確かに男湯ではソッチに走っている男達がいるとは聞いていたが、まさかお前が狙われるとはな。災難だったな」

「災難どころじゃねえよ。一生のトラウマになりそうだ」

オレはガックリと頭を落としながら、近くになった桶にお湯をすくい、体に張り付いているローションを落とした。
体中のローションを落とした後で、ゆったりと湯船に浸かった。
男湯では浸かることもできなかったが、ここでなら存分に味わうことができる。

「う〜〜〜ん!!いい湯だ」

露天風呂に入る経験はなかったけれども、上質であることは間違いない。
浸かるだけで、体中の疲れが抜けていく。
向こうでは、こんなにゆっくりとしていなかっただろう。


いつも、祖父から休みなく剣を教え込まれていたからな。
友人と遊ぶ機会さえ削って、剣に打ち込まされた。
まだオレが幼い頃、なぜそこまで打ち込ませるのか疑問に思い、聞いたことがあった。
祖父は決まって、将来必ず必要になる、としか教えてくれなかった。

それ以上のことは話してはくれなくて。

いつも剣の修行ばかりをさせられて。

オレの記憶にあるのは、ほとんど修行だけ。
それでも、そのおかげで今この場にいるのだから、結果オーライなのだろう。

それにもう今更だしな。

オレは考え事をやめて空を見上げた。

夜の闇と言うよりも、薄暗い夜空がそこには広がっていた。
いつも見ている夜空とは別格なほどに、満面の星空が広がっている
向こうとは異なる空。
普通だったならこんな空を見上げたら、恐ろしいと感じるのだろうな。
けれど、オレには不思議と綺麗な夜空として見えた。

そう・・・・どこかで見たことがあるように。


『ゆうや、私たちの可愛いゆうや』


何で・・・・どうして??

見たことのないはずの空なのに・・・・


『ゆうや、たくましく育ちなさい』


こんなに・・・こんなにっ!!!!

涙が溢れていく。
涙は頬を伝い、湯へと消えていく。
懐かしくてしかたがないっ!!


胸の中に両親との記憶がよみがえってくる。
夜空の下、父の背中のぬくもりを感じながら笑いあっていた。

父の背中で無邪気に笑うオレ。

そんなオレに暖かな瞳で見守っていた母。

力強い体でオレを大事そうに背負う父。

そんな毎日がいつまでも続いていくと信じていた。


そして・・・そして・・・!!



「裕也!!!!」

突然の怒鳴り声によって、現実に引き戻された。
オレは驚いて声の主の方を向いた。

そこには不安そうな表情をしたセラの姿だった。

「どうしたのだ、いきなり泣き出して」

オレは濡れた頬を触れられて初めて、泣いていたことに気づいた。
止めようにも止まらない。

「わからない、ただ・・・この空が・・・懐かしくて!!」

オレは訳もわからず、伝えようにも伝え切れなくて。
そんなオレをセラはそっと抱き寄せた。

「もういい。無理して話さなくてもいい」

そのぬくもりが暖かくて、優しくて・・・
オレはそのぬくもりを感じながら涙を流し続けた。


12/09/09 02:05更新 / マドレ〜ヌ
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■作者メッセージ
マドレ〜ヌ「はい、更新が遅れてしまったマドレ〜ヌです。
      今回は少しシリアスな場面を取り入れて見ました」

裕也「それにしても、更新するの遅いな」

マドレ〜ヌ「仕方ないじゃないですか!!
      リアルがこんなに忙しくなってくるなんて予想もしてなかったよ!!」

裕也「まあ、これから今以上に忙しくはなるけどな」

マドレ〜ヌ「嫌だ〜〜!!」

ドサッ


裕也「あ、倒れた。
・・・まあ、こんなものほっといて。

リアルが忙しくなってきているので、更新は多分、半年近くできないと思います。
それではまた半年後に」





マドレ〜ヌ「エロは書けないんです。誰か教えて(ToT)」

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