読切小説
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本当にあった・・・・
 よく来てくれたね。君で最後だよ、さあそこの席に座って。
 さて、これで全員揃ったので始めるとしようか。ああ、そんなに畏まらなくてもいいから。うちの大学のサークルでの恒例お泊りイベントだけど、新入生を歓迎するためのヤツだからもっと気楽にしてくれ。
 それじゃ始めるとするか。そうだな、ここは定番で「七不思議」について話そうじゃないか。夜の学校でのお泊りなら当たり前だろ。そうそう、どこにでもある他愛無い話だから気楽にしてくれ。
 さあ話を始めよう。

 1:夜に動く石造
 この大学の校庭に幾つか石造が置いてあるだろ。あの石造の一体が夜になると動き出すんだよ。目を光らせて歩き回るんだよ。そして見つかると、こう両手を突き出して一定の距離を取りながら追い駆けてくるんだよ。どこまでも、どこまでもず〜っと付いてくるんだ・・・・

 「・・・20:00を過ぎました。擬態解除、これより夜間の見回りを開始します」
 そして台座の上から降りたゴーレムは懐から取り出した眼鏡をかけると横についてるスイッチを押す。
 「探照灯照射。便利ですね、これのお蔭で省エネモードにしなくてもすみます」
 そうしてゴーレムは校舎の見回りを始めた。

 2:少女の声
 この大学の側を通ると突然叫び声が聞こえてくるんだよ。泣き声だったり叫び声だったりするんだ。そうしたら突然笑い声になるんだ。それも異常なまでの甲高い笑い声になるんだよ。様々な噂があるけど、一番多いのがこれだな。
 ずっと前ある一人の少女が襲われたんだ。何とか逃げ出したんだけど、そのうち追いつかれておもわず突き飛ばしてしまったんだ。そしたら運悪く通り掛かった車にね・・・・その場所がうちの学校内でさ。それを見た少女は気がふれてしまいその場所で声を上げ続けるんだ、亡くなった後もね・・・・

 「うわ〜〜〜〜ん!!何故儂には兄様がおらんのじゃ〜〜〜〜!!!」
 「うう、ぐすっ!!!私だってそうですよ」
 校長室でバフォメットと魔女が酒盛りをしている。二人の周りには沢山の酒瓶や空き缶が転がっていて既に出来上がっている。
 「くう〜〜〜、ここならばと期待したのに!儂が目を付けた兄様候補は皆他の女性と一緒になってしまいおって!!!」
 「ああ!!運命の人と思ったのに!!既に他の人のモノになっていたなんて、如何してなの・・・・」
 「グビッ!グビッ!!ブッハ〜〜!!こりゃ!魔女よ、カマエッ!かまうのりゃ〜〜!!!」
 「ちょ、ちょっと!止めてくださいって!あ、そんな!くすぐっ、アハハ!!くすぐったいですって!!!キャハハハ!!!」
 「うりゃうりゃ!ここか、ここがいいんか〜〜?」
 「や、やめてってアハハハ〜〜〜〜〜!!!!」
 二人の夜はいつも通りだった。

 3:真夜中の授業
 ここの噂の一つにこんな話があるんだ。深夜誰も居ない校舎に灯りが付いていることがあるんだ。そこでは特別な授業が開らかれているんだ。その授業を受けるとどんな人でもたちまち秀才になるんだ、まるで別人の様に・・・・

 「・・・・・ということです。皆さん解りましたか?」
 「「「「は〜〜〜〜い」」」」
 鳥の羽、鱗で覆われた腕、病的に白い手、様々な手を上げて答える生徒達に教師の稲荷は満足して頷く。
 「それでは次のページに進みます。最近草食系男子という言葉が巷では聞かれますが、これは恋愛に消極的な男性のことです。この様な男性を如何にしてその気にさせてベットに誘うかですが・・・・・」
 生徒達は稲荷の言葉に真剣に聞き入りながらノートに書き込む。
 今夜も静かに授業は行われた。

 4:図書室の怪
 この校舎の向こうにある特別棟は知ってるだろ。そこにある図書室に出るんだよ。そう、幽霊が。それも二人で言い争う女性の霊が。噂によるとある一人の男性を取り合ってそこで二人の女性が対決したんだ。始めはただの口喧嘩だったんだけどそのうち興奮して取っ組み合いになって。その拍子に本棚にぶつかって大量の辞典の下敷きに、それも一冊が1k位ある分厚い辞典にね。それでも終わらないらしく夜になると激しく言い争う声が聞こえるんだってさ・・・・

 備え付けのスタンドライトの灯りの中ペンを走らせる音だけが聞こえてくる。二人の女性が机に向かって必死に何かを書き上げている。チュリュッと特製ゼリーを飲み終えた女性が隣の女性に声を掛ける。
 「エネルギー補給完了ッと、今どこまで進んだの?」
 「ん〜〜っと、大体半分くらいだね」
 ページを数えながら答えた彼女の申し訳なさそうな答えに怒りがこみあげる。
 「ナンデモットハヤクデキナカッタノ」
 「あはは〜〜、なんででしょうね?」
 目を逸らしながら答える彼女をギロリと睨み付ける。
 「解っているでしょうね、これが終わったら」
 「も、もちろんですよ〜〜〜。原稿の手伝いと当日に売り子手伝いですよね」
 「因みにコスプレしてだからね」
 「ええ〜〜!!聴いてないですよ!!」
 「うん、言ってないから。それより手を動かす!」
 「ヒ〜〜〜〜ン!!!」
 二人のキキーモラは机に向かいペンを動かす。
 来たるべき戦い(某イベント)に向けて。
 「「早くご主人様が欲しい〜〜〜〜〜!!!!」」

 5:プールの影
 ここにはさ、室内プールがあるだろ。温水プールだからさ、何時でも使えるんだよね。普通ならね・・・実はさ、夜になると黒い影が出るんだよ。でさ、その影が水の中に入るとスーーッと水音を立てないで泳ぎ出すんだ。そしてプールの中心付近でさ、スッ!て消えるんだよ。不思議に思ってプールサイドに近づくと突然足首を掴まれて水の中に引きずりこむんだ。そうして自分の世界に連れていくんだっていうんだよ・・・・
 
 水の中から顔を出すと波音を立てない様に気を付けながらプールサイドに辿り着く。プールから出る時、ザバッ!と水音を立ててしまい慌てて辺りを見回す。
 「・・・・・誰も居ないよね」
 「いえ、私がいます」
 「ウワッ!?!?!?」
 聴こえてきた声に振り向いた河童は声の主が見回りのゴーレムなのにほっとするとプールサイドを歩きながら声を掛ける。
 「もう、脅かさないでよ。見つかったと思ったじゃない」
 「すみません。ですが、こんな時間にいる貴女もいけないのではないですか?」
 「そこはごめんね。寝付けなくてさ、ひと泳ぎしたら眠れると思って。ね、少し休憩にしない?オヤツのキュウリがあるからさ」
 「仕方ないですね。少しだけですよ」
 二人でプールサイドにあるベンチに腰掛けると丸ごと一本のキュウリを齧りながら互いの近況について話し始める。
 「ね、ね、誰かいい人見つけた?」
 「はい。実は気になる人を一人ようやく見つけました」
 「ええ〜〜〜!それって本当!?やったじゃん。誰なの?誰なの?教えてよ!私でよければ手伝うからさ」
 身を乗り出して興奮する河童に多少引き気味になりながらゴーレムは話し始める。
 「実は・・・・・・」

 6:古いピアノ
 ここはさ、スポーツだけでなく音楽にも力を入れてるのは知っているだろ。それで有名な楽器とかあって触るだけでなく使うこともできるんだよ。ほら、確かストラ何とかっていうバイオリンとか。他にも沢山あるんだけど、そういうのの中にあるんだよ、曰くつきの楽器。バイオリンじゃなくてピアノなんだよ。見たかな、音楽室にある古いピアノ。で〜んと置いてあるグランドピアノ。アレが夜中になると独りでに鳴るんだよ。パーティーで聞ける曲を弾きだして、それに合わせて踊りを踊ってるらしいんだ。亡霊達が・・・・

 「それじゃあみんな始めるよ〜〜」
 フェアリーの声に合わせてピアノの鍵盤の上に立った他のフェアリーやピクシー達が身構える。そして合図に合わせてその場でジャンプを始める。彼女達の動きに合わせて音が鳴りだし、やがて一つのメロディーとなり優雅な曲となる。
 その曲に合わせて音楽室に集まった魔物娘達が二人一組で踊り出す。
 「うん、いいよ。発表会まで時間が無いからこのまま続けていくからね。みんな集中して続けるよ」
 こうして秘密の特訓が明け方まで続いた。

 7:赤い花
 校舎の入り口わきに大きな樹があるだろ。立派な樹でさ、この大学のシンボルにもなっているんだ。ていうかここに大学ができる以前からあるから立派なのも頷けるんだよな、なにしろ切り倒すことができないんだから。
 実はあの樹の根本にはある人が眠ってるんだ。ずっと昔にこの地を治めていたある豪族の姫様がね。近隣諸国でも有名な美しい女性で沢山の豪族や都の貴族もごぞって求婚に来る程の女性なんだけどね、誰の元にも行こうとしないんだよ。そう、その女性は自分に仕えている下働きの男を好きになっていてね。もちろんその男も主人である姫様を好きだったさ、だが恐れ多いとしてひた隠しにしていた。それでも日々仕えていれば判ってしまう。だが男の事を考えて姫様も自分を抑えていた。一緒にいるだけで幸せな二人だったが、ある時一人の貴族がその男に気づいてしまうことでとんでもないことになってしまう。その貴族は断られた腹いせに難癖をつけて男を姫様の側から追い出してしまうんだ。そのため姫様は失意のあまり病に倒れてしまい、姫様に何とか元気になってもらおうと見つけ出すも男はすでに亡くなっていたんだ。それを知った姫様も後を追うように亡くなってしまうんだ。貴族は自分の愚かさに後悔するとせめて二人があの世で共に暮らせるようにと二人を埋葬した側に一本の樹を植えて都に帰っていったんだ。
 以来その樹はここに立ち続けてるんだ。二人の仲を引き裂こうと樹を切り倒そうとする人を呪い、その人の血を吸って赤い花を咲かせながら・・・・

 「また私の話をしてますね」
 飲み終えたティーカップをテーブルに置いてドリアードがため息をつく。
 「え、迷惑だったら他の話をしてもらうように話してくるですって」
 男の言葉にドリアードはゆっくりと首を横に振る。
 「別に気にしてないからいいわ。私達の事でもないし、夜に近づかれないのは好都合ですから」
 椅子から立ち上がると目の前でベットに腰掛けている男に近づきその隣に腰を下ろして耳元で囁く。
 「ねえ、明日は休日ですから激しくシてくださいね」
 この話はある意味本当の事なんだな、と一瞬思ったが男は直ぐに忘れると愛しい相手に己の愛をぶつけるのだった。

 
 さあ、これで話はお終いだ。な、何処にでもある普通の話だったろ。
 ああ。但し一つだけ忠告しておくとだな、だからといって体験しようとは思わんことだな。よく云うだろ。「七不思議」を知ってしまうと何か災いが降りかかるとか、何処かに連れ去らわれてしまうとか。
 ま、お前らが決めることだからとやかく言うつもりは無いがな。一応忠告はしておいたぞ。
 ん、ああ。アイツはオレの彼女だよ。あ、尻尾が視えたって。狐のだろ。後輩に頼まれた衣装の服飾だよ、ありゃ。へ、耳もあるし動いているって!?キ、気のせいに決まってんだよ!?!?
 
15/04/16 10:08更新 / 名無しの旅人

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