連載小説
[TOP][目次]
俺の貞操の危機と天然くのいち
ジパング行きのチケット(期限切れ)を掴まされた俺(いや、カナメか)は現在、盗賊共が頻繁に出没する山道にいた。理由は―



「カナメビイイィィム!!」
「はぁ・・・」
・・・まあ、カナメの八つ当たりにつき合わされているわけだ。最初コイツは街で暴れだそうとしていたが、たまたま近くにいたオーガの集団や、リザードマンのおかげで何とか押さえつけ、その後今に至るというわけだ。
「結局私たちが帰るのっていつになるのよ」
「カナメに聞いてくれ」
あの後、なんだかんだでレイナもついてきてしまっている。余計俺の非戦闘員振りが浮き彫りになってしまう・・・!
「こ、降参だ!俺たちが悪かった!」
「もう、人を襲ったりしないから!許してくれ!」
「この程度で私の怒りが収まると思うなああぁぁ!!」
再びカナメビームをはなって盗賊どもをぶっ飛ばすカナメ。ほんとに滅茶苦茶な戦闘力だ。
「フフン、今なら瑚白(こはく)にも負けんな!!」
「だれだよ瑚白って・・・」
ようやく腹の虫が収まったのか・・・夜通し付き合っていたからもう眠くて・・・
「そう、出会いは日差し照りつける三年前の夏・・・」
「私たち、先に帰って報告してくるから」
「日が暮れる前に帰って来いよー」
「待て!ここは私の過去の回想に―」
「「興味ない」」
「・・・・・・」
いや、本当は滅茶苦茶興味あるけどさ!昨日も「私の妹が!」とか兄弟いるような発言していたし。
「そういえば、レイナって家族は?」
「フフン。お父様はカンタガラ公国第三騎士団団長よ」
「はあ、カンタガラ公国ね・・・」
カンタガラ公国といえば、俺のいる町からあまり遠くない所にある、反魔物国家だ。あれ?何でレイナは親魔物派の俺たちとつるんでるんだ?まあいいか。
「お母様はカンタガラ公国の中でも名うてのハンターで・・・」
「凄いな・・・」
「当然じゃない!おじい様は総騎士団団長なんだから!」
こんなに才能に恵まれた家で育ったのか。
「恭一はどうなのよ」
「俺?おれは普通のリーマンの親父と母さんと、今、絶賛ニート生活を送っている愚兄だけだ」
「リ、リーマン・・・?ニート・・・?」
ああ、この世界ではそんなの無いんだっけか。
「父さんが道を通さん!!」
「2点」
「いや、0点ね」
「・・・・・・」
いきなり目の前に現れてそれだけ言われても困る。
「(ひそひそ)どうする?カナメにも聞いておくか?」
「(ひそひそ)いいんじゃない?私は興味ないし」
興味がないというより、出会いがしらに「カナメビーム」を撃たれた事を根に持ってるだけだろ・・・。
「いいもん、いいもん・・・ジパングから応援してくれているカナタとカナコが私にはついている・・・」
「また、新しい人でてきたよ・・・」
「煩い!私の可愛い弟と妹をバカにするのか!!」
「アンタ、三兄妹だったんだ」
カナメの兄妹・・・駄目だ。変な笑い声を上げながらビームを撃つ姿しか想像できない・・・。









「ハックション!!」
「どうしたの?カナタおにぃちゃん」
「にーちゃんに今呼ばれた気がする!」
「やっぱり?あたしもした!」
「よーし、オレもにーちゃん目指してがんばるぞー!」
「カナタ、カナコ、早くきなさい」
「「はーい!!」」















「ハッ!いま、カナタの中で私の株が上がった気がする!!」
「ハイハイ・・・」
パソコンがない世界でも現実と虚構がごっちゃになる人がいるんだな。
「「・・・・・・」」
「・・・うん?どうしたんだよカナメ、レイナ」
「団体様の到着よ」
「へ?」
周囲を見回すといつの間にかワーキャットたちに囲まれていた。あれ?
「逃げ場がない・・・!?」
「何言ってんのよ、全員ぶちのめせば良いだけの事じゃない」
「いや、俺非戦闘員―」
「カナメビイイィィム!!」
「俺の話を聞けー!!」
進行方向にいたワーキャットに向けてカナメビームを撃つカナメ。どうして人の話を利いてくれないんだこいつは!
「危ないにゃ!なにするにゃ!」
ギリギリでかわした・・・というより、カナメがわざと避けれるように撃った気がした。だんだん目が慣れてきてるなあ、俺。
「ウチらまだ何にもしてないにゃ」
「まだ、ってことはこれから何かする気でしょう?」
「ば、ばれたにゃ!」
「何でだにゃ!?」
あれこれ言い始めるワーキャット達。いや、今のはカマ掛けられただけだろ。
「ここをただでとすわけには行かないにゃ!」
「ならば私のターン!この童貞クン恭一を生贄に、戦闘離脱!!」
「「させるかああぁぁ!!」」
このヤロウ!人を囮にするとは何事だ!信じられん!
「私逃げるから、男二人でがんばりなさいよ」
「今SPがないから特殊技が使えないんだよ」
「ゲームじゃねえんだよ!っていうかレイナまで俺を売ろうとしたな!」
くそ!これからリースリット様に稽古でもつけてもらうしかない!身を守るために!
「覚悟するにゃ!!」
「おおい!!カナメ!来たぞ来たぞ!」
「キタ―(^O^)―!!」
「何バカやってるのよ!!」
大剣をふるって牽制してくれたレイナ。なんだかんだいっても騎士の家系は伊達じゃないな。次々飛び掛ってくるワーキャット達を見事な剣さばきで牽制していくレイナ。
「戦闘力は21といったところか」
「お前も戦えよ・・・」
「なんだよ恭一ー。お前も戦えよー」
「いや、俺は・・・」
「大丈夫だ!お前の戦闘力は1でワーキャットはだいたい7〜8だ!」
「相当厳しいよなあ!!」
そもそもコイツは何を基準でそんなこと言ってるんだ?
「ちょっと!いい加減手伝いなさいよ!」
「チッ、腐れビッチが・・・頼み方というのがあるのではないかね?」
ほんとにカナメは地獄に落ちると思う。というか、堕ちろ。
「た、助けてください!」
「Oh!声ガ小サクテ聞コエマセーン」
「助けてください!!」
「やなこった」
「覚えてなさいよ!!」
右から左から様々に襲い掛かってくるワーキャット。どうやら俺たちはもはや戦闘員として見られてないようだ。
「だいたいなんで女のアタシを狙うのよ!どうせなら精のある男を狙いなさいよ!!」
ピタッと動きが止まるワーキャットたち。ゆっくりと首を動かし、徐々に俺たちのほうを向いてくる。あれ?もしかしてピンチ?
「「「「「男にゃー!!」」」」」
「ギャー!!か、カナメ!おい!」
スッとワーキャットたちの前に立つカナメ。だがこいつの今までの行動を考えるとろくなことにはならなかった。カナメの陰に隠れつつ、クラウチング・スタートの構えを取る俺。
「紹介が遅れました。私は一条カナメ。ジパングで白蛇の社で巫をしているものです」
「えーっと・・・男かにゃ?」
「ご冗談を。このような女子(おなご)顔の男はジパングにはいませんよ」
ふっ、と異性や同性がみても見とれてしまう笑みを浮かべるカナメ。でもコイツ男じゃ・・・?
「後ろの男を狙うにゃー!!」
「にゃー!!」
「やっぱりやりやがったな畜生!」
転ぶという躊躇を捨て、もうダッシュで坂道を駆け下りる俺。しかし、魔物相手にそう逃げ切れるわけもなく―
「捕まえたにゃー!!」
「ガフッ!!」
後ろからタックルされ、派手に転ぶ。そのまま一気に身包みをはがされ―
「ま、待て、やめろ、話せば解かる!」
「はぁはぁはぁ・・・頂くにゃー!!」
「待て!でござる」
山道に響き渡る声。これは、救われるパターンか!?
「誰にゃ!」
「出てこいにゃ!」
わめくワーキャットたち。すると木の陰から小柄な黒装束の人影が現れる。
「お前なんなのにゃ!」
「お!拙者としたことが名乗り遅れて申した。拙者 服部神楽と申すものにござる」
「ござる?」
「左様、語尾に『ござる』をつけるは侍が常に刀を持つと同じにござる。つまりはこのコトバには魂が宿っているでござる。これをジパングでは『言霊信仰』といい―」
「ああもう、うるさいにゃ!あっち行けにゃ!」
「そうは行かぬでござる。貴殿らの性行為が始まる前に聞いておかねば成らないことがあるでござる!」
「助けろよ!!」
期待したのにガッカリだ畜生!
「忍びとは何時如何なる時も非情なのでござる・・・」
「「早く用件を言えにゃ!」」
「おお、拙者としたことがついうっかり」
うっかりって・・・こんな天然くのいちを雇う奴なんかいるのか・・・?
「いやー、拙者幼き頃から物忘れがひどくて・・・ついつい余計な話をして、用件を忘れてしまうでござるよ」
「いい加減早く話せにゃ!!」
と、遂に我慢の限界になったのか、俺を押し倒していたワーキャットが立ち上がる。あれ?今チャンス?
「しまった、また拙者としたことが。そうそうで、用向きなのだが拙者、いま人を探しているにござる」
「人?」
「あい、拙者がまだ幼少の頃里に現れたウシオニを討滅してくださった御仁でござる」
「知らないにゃ!」
「ウチらに聞いても無駄にゃ!」
「「「そうにゃそうにゃ!!」」」
よし、騒いでいる今がチャンス!服を回収しそっと・・・静かに・・・
「うむむ、特徴は・・・パッと見は女性なのだが芯のある男の人でござる」
静かに・・・静かに・・・間違ってもこっちに話を振るなよこの天然くのいち!
「それと、ウシオニを倒したときのあの術!きっとあの御仁にしか使えないでござるよ!」
まったく、目をキラキラさせちゃって・・・くのいちって何かこう、闇から現れ、一撃必殺で離脱するイメージがあったが・・・俺の思い込みなのか?
「あの御仁は確か・・・『カナメビイイィィム!!』と言って、術を放っていたでござる」
・・・・・・。
「カナメビイイィィムかにゃ?」
「そうでござる」
「ついさっき、聞いたような気がするにゃ」
「ま、まことでござるか!?」
「ち、近いにゃ!えーっとどこだったかにゃ・・・?」
か、カナメだ・・・十中八九どころか十中十カナメだ・・・
「うう、拙者なんとしてもその御仁に仕えるべく!遥かジパングより参ったでござる!何とかして思い出しては頂けないでござるか!?」
「ま、待つにゃ!今、思い出してるにゃ!!」
凄まじい勢いでワーキャットの肩を揺さぶる服部。服も着終わったし、カナメにこのことを言いに行くかな?
「―そろそろ性的な意味で死んだかーい?恭一ー」
「バカじゃないの!?そんな探し方で恭一が出てくるわけ―」
「よ、よう・・・」
今すぐ目の前の和服美少女(男だけど)を殴り飛ばしたい・・・!が、レイナとは何か気まずい!服着てるけど何かこう、言葉にできない感じ!
「あ、こいつにゃ!」
「そうにゃ!やっぱり男だったにゃ!」
「だからどうしたバカ共め。おとなしく恭一を性的な意味で食っていれば―」
「カナメ殿ー!!」
「ゴフッ!」
カナメに飛びついた服部の頭が鳩尾にクリーンヒット!ざまあWWW
「な、なんですかい・・・?」
「せ、せ、せ、せせせ拙者、あ、あの、あのあのあのその!えっと・・・」
「覚悟するにゃー!」
「甘いぞ小娘!カナメビイイィィム!!」
「にゃー!!??」
バーンと吹っ飛ばされるワーキャットたち。うん、最初っからこうしてろよ・・・
「い、いまの術!貴殿はやはり!」
「フハハハハハハ!私こそは史上最強の巫。一条カナメだ!!風より早く!林より・・・うん、まあ・・・あれで!火より日和見で!山より心はグリーンでクリーンな『超風林火山』な男だっ!!」
カナメの『超風林火山』の何が凄いのかはわからないが、とりあえず武田信玄と信玄のファンに土下座で謝ったほうがいいと思う。
「か、か、か、カナメ殿!!」
「?」
「あ、あの、その・・・」
面白いくらいにキョドってるな・・・まあ、事情を知ってるんだし、助け舟を出してやるか。
「カナメ、こいつは服部神楽。実は」
「お、お前のカノジョか!!」
「違う!話を最後まで聞け!!・・・お前ジパングにいた頃ウシオニを倒したことは?」
「ウシオニ〜?・・・一回だけあるぞ」
あるならもったいぶって言うな!
「いや、でも、ボクちょっとウシオニさんとはもう戦いたくないって言うか・・・トラウマ?」
「疑問形で言われても困るし、別に退治の依頼じゃない。コイツはそのときお前に助けてもらった里の子だ」
「うんうん・・・それで?」
「お前に仕えたい―」
「しょうがないな!これからお前は私の弟子一号だ!」
「まだ話してる途中だろうが!」
「・・・っていうかいい加減帰らない?日が傾きかけてるわよ」
本当だ。早く帰ってリーナさんのセクスィーな・・・いやいや、リーナさんたちを安心させてやらねば。
「せ、拙者はまた明日ということで・・・」
「何を言っている弟子一号今日から特訓だ!」
「何を特訓するのよ・・・」
俺的にこの破壊神と天然くのいちのコンビのほうが心配だ。
「そ、その、拙者は貴殿らをなんとお呼びすればよいのか・・・」
「俺は霧島恭一。恭一って呼び捨てでいいぞ」
「私はレイナ・レーゲン。お姉様と呼びなさい」
「「・・・・・・」」
「なによ!いいじゃない別に!」
何というか、それはないわ・・・カナメすらドン引きだよ・・・
「了解にござる!恭一殿!レイナお姉様!」
「「いいのか!?」」
本当に大丈夫かこの子!?
「フフン、では、私のことは『完全無欠・最強無敵・天下無双の絶対神、一条カナメ様』と呼ぶがいい!」
「ぎょ、御意!完全無欠・最強無敵・天下・・・えっと・・・?」
「本当に呼ぶな!」
ならそんな事言うなよ・・・たぶんレイナもおんなじことを思ってるんだろうな。
「うーん・・・あ!じゃあ『若様』で!」
「わ、若様・・・」
ポッと赤くなる服部。何を照れてるんだ・・・
「ハハハハハ!照れんな照れんな!」
軽く頭を小突くカナメ。そのまま服部の頭は首から抜け・・・!?
「「「・・・・・・」」」
「ああ!拙者としたことが!頭が落ちてしまったでござる!」
慌てて拾い、首に戻す服部。きっとみんなの言いたいことは一つだと思う。













「「「デュラハン!?」」」
11/12/26 20:52更新 / 突撃ラッパ
戻る 次へ

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33