読切小説
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家族を求めたゴキブリ娘
 夢であってくれと願いたかった。
 あぁ……何故こんな事になっちまったのか。
 探せば理由は幾らでもある。思い出したからといって現状を打破する事など出来ない理由が。
 家が遠かった。酒も入っていた。雨が降っていた。ふらふらと夜道を歩いていたら、目の前に無人の屋敷があった。扉は施錠されていなかった。周りには誰も居なかった。
 そして街外れにあるこの屋敷は、俺がまだガキだった頃から『化物の住処』として知らない奴は居ないくらいの有名な怪奇スポットだった。
 だから、アルコールの勢いに任せて面白半分で屋敷の探検に乗り出しちまったんだ。
 どれもこれも、人並みの常識さえ持ち合わせていれば回避できた些細な理由に過ぎない。
 加えて言えば、ギャンブルで一文無しになっちまって気分最悪だったってのも大きな理由だ。
 ……何にしても自業自得なんだけどな。調子に乗って大穴を狙いすぎたんだから。
 全ては、俺の迂闊さが招いた不幸だったって訳だ。
 まぁ、今更それを悔いたって元に戻れるわけでもなし。おまけに現状が変わるわけもなし。
 今を行動しなきゃ状況は何も変わらねぇ。昔の事には拘らねぇ。
 だから――。
「のわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 俺は埃臭く薄暗い廊下を、ひたすらに走り続ける。
「待ってくださぁぁぁぁい!」
「誰が待つかボケぇぇぇぇ!」
 背後に迫る異形の魔物……デビルバグから逃れる為に。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 俺の仕事は冒険者……なんて呼び方をすりゃあ格好はつくが、まあ要するにゴロツキだな。街の連中からは『頼まれ屋のベリウス』なんて呼ばれてる。
 その二つ名が示す通り、頼まれさえすれば何でもやる。メインの仕事は街に住んでる魔術師からの依頼を受けて、街の外から希少な研究材料を運んでくる事。薬草だったり毒虫だったりと品物のバリエーションは様々だが、何にせよ外壁に囲まれた安全な街中では手に入らないものばかり。そんなわけで俺は、街の外に出る機会が普通に暮らしてる奴の数倍は多い。
 だから、こいつらの事も――会った事こそ無ェが――それなりには知っている。
 デビルバグ。
 ゴキブリと人間を合わせたような外見を持つ昆虫型の魔物だ。こいつは洞窟やら湿地帯やら、暗くて湿った場所に好んで住み着く。数十匹単位の群れを作って行動し、腐った死骸だろうが動物の糞だろうが構わず食って栄養に変える。劣悪な環境でも充分に生き延びる事が出来る強靭な生命力が特徴だ。
 とまぁ、ここまでがデビルバグという魔物について、俺が知る限りの情報だ。黒光りする触角や羽といった特徴を除けば、外見は可愛らしい年頃の女そのもの。薄暗い環境で群れを作ろうが腐肉やクソに群がろうが害は無え。……ならどうして、俺が必死に逃げているかというと。
 魔物は人間を――とりわけ男を、魔界に連れ込んで奴隷にしちまうらしいからだ。
 これは王室に召し抱えられてる高名な研究者が、長年に渡ってリサーチし続けて得た確かな情報なんだそうだ。女の姿をしているのも人間を誑かす為の擬態らしく、その本性は悪逆非道。どこまで剥いても化粧ばかりで、人間の女なんざ足元にも及ばねえ程だとか。
 そんな危険な奴に追い掛け回されちゃ、誰だって逃げ出して当然だわな。

「お願いですから止まってください待ってください!」
「だから待たねぇって言ってんだろうが!」
「そこを何とか!」
「お断りだ!」
 不毛な問答を繰り返しながら、俺は廊下をひたすらに駆け抜ける。借金取りから逃げ回る事で鍛え続けた自慢の俊足だ、そう簡単には捕まらねぇ。引き剥がされる事なく一定の距離を維持し続けているのは流石に魔物といったところだが、体力面では敵うまい。
 しかし。
「うおっ!?」
 廊下の角を曲がったところで、俺は慌てて踏み止まった。ここさえ抜ければ玄関ホールに辿りつけると思ったのだが……まさか床板が腐り落ちてるとは運が悪いにも程がある。振り返ればデビルバグはもうすぐそこまで迫っていた。
「ちっ。考える暇も無しかよ!」
 生涯で初めて訪れたモテ期の相手がゴキブリ少女だなんて最高の罰ゲームだ。恨むぜ神様。もしも出会う機会があったらその時はケツからゲロを飲ませてやる!
 すぐさま手近にあった小部屋に飛び込む。朽ちかけた扉を閉じると同時に自分自身を重石の代わりにして固定。魔物には怪力の持ち主が多いらしいから気休めに過ぎないかもしれないが、それでも無いよりはマシだろう。鍵は錆びて動かないし、家具を動かしている時間もない。こうして背中を押し付けるのが今の俺に出来る精いっぱいだった。
「人間さん! ここを開けてください人間さん!」
「断固として断る!」
 扉の向こうで、乱暴なノックの連打と共に女の声が聞こえてくる。間違いなく、それは先程から俺に止まれ止まれと繰り返してきたデビルバグのものだった。浅黒い肌にベリーショートの髪型がよく似合っていて実はストライクゾーン直撃だった――って何を考えてるんだ俺は阿呆か。
「お願いです。ここを開けてください。手荒な真似はしたくありません!」
「開けたらむしろそこから手荒な真似がスタートするだろうが!」
「そんな! どうして解ったんですか!?」
 ほぉら見ろ。図星を突かれて動揺してやがる。
 狡猾な魔物にしては若干おつむが弱いようだが、やはり魔界へ連れていく積もりらしい。俺は舌打ちすると、更に背中へと力を込めた。相変わらず激しいノックが古い扉を揺らしている。
「な、なら開けた後も手荒な行為はしないと誓います! 本当です!」
「嘘つけェ! そう言ってお前ら、俺を奴隷にしようって魂胆なんだろ!」
「ど、奴隷!? まあ見方によっては間違っていないかもしれませんけれど……やっぱり激しいのはお嫌いですか」
「当たり前だ! 何が悲しくて鞭で叩かれたりされなきゃならんのだ!」
「いや流石に私もそういう趣味は無いんですが……あ、じゃあ縛ったりするのも駄目ですか?」
「駄目に決まってんだろぉぉぉぉぉ!」
 身動き取れない状態にしてから魔界へ拉致する気だったのか。やはり魔物は危険な連中だ。いくら俺好みの容姿をしていたからって、外見で騙されるわけにはいかない。
「そんなぁ。折角この日の為に荒縄も手錠も猿轡も目隠しも用意してたのに」
 怖すぎる。どれだけ用意周到なんだよコイツ!! 俺をボンレスハムにでもする積もりか!?
「勘弁してくれ。そして無事に帰らせてくれ」
「帰るだなんてそんなこと言わないでください! 私には人間さんだけが頼りなんです!」
 そりゃそうだろうよ。俺を馬車馬のようにこき使って、自分は楽しようってんだからな。
「あ、もしかして未経験ですか? 大丈夫ですよ、ちゃんとリードしますから」
「そんな怖い経験あるわけ無ェだろ! 馬鹿にしてんのかコラぁぁ!!」
 リードまで用意してやがったのかよ。首輪が奴隷の証とは、ますますもって趣味が悪い。
「あ……す、すみません。そうですよね、不躾な質問でしたよね。私ったら人間さんの気持ちも考えずに……。で、でも決して人間さんを馬鹿にした訳じゃないんです」
「嘘つけェ!!」
 ああもう、頼むから諦めて帰ってくれよ。街には俺の帰りを待ってる連中がいるんだ。酒場の大将にはもうツケ払うって約束しちまったし、ウェイトレスのシェツカとはあともう少しで良い仲になれそうなんだ。魔術師のコンラッドもまた新たに依頼したい品物があるとか言ってやがった。だからお願いだ、もう扉を叩くのはやめてさっさと魔界に……ん?
 そういえばさっきから、ノックの音も女の声もしなくなったな。
 もしかして消えてくれたのか? 俺の祈りが通じたのか!?
 いや待て落ち着け。居なくなった振りをして俺が出てくるのを待ち構えてるって事もあり得る。まずは耳を澄ませて相手の気配を感じ取るんだ。
 開かぬように圧力を保ったまま扉に耳を押し付けるのは意外と難しい。俺は慎重に体の向きを変えると、扉の向こうにまだ残っているかもしれないデビルバグの存在を探った。
 「……う…・…っ……ぐす……っ」
 ほぉら案の定だ。声を押し殺しちゃあいるが、自慢のベリウスイヤーには魔物娘のすすり泣く声がばっちりと聞こえてくる。騙そうったってそうは――あん?
 いや待てよ。なんで泣いてやがるんだこいつは?
 俺を魔界に連れていけないのが、そんなにショックだったのか?
「……うう……ひっく……う……っ」
 何だ、意味が解らん。そもそも俺は女の涙ってやつが大嫌いなんだ。別に優男を気取ってる積もりは無い。ただ……なんだ、こういう時どう接してやれば良いのか解らねェんだよな。相手が例え魔物だったとしても扱いに困る。しかもやたら俺のツボを刺激する外見だった事もあり、余計に手に負えなかった。
 ――畜生。まるで俺が悪いみたいじゃねえか。
 暫くの間、俺は女の泣きじゃくる様に延々と聞き耳を立て続ける羽目になった。どうせならばそのまま立ち去ってくれると恩の字だったんだが、いつまで経っても扉の向こうから離れる気配は感じられない。放っておけば何時間でも泣いてそうだ。
「っく……うえぇぇ……んっ」
「……けっ。魔物の癖に泣くんじゃねェよ、この馬鹿野郎」
 この屋敷に入ってからこっち、どうも俺は不運に過ぎる。
 今日はきっと厄日に違いない。博打で大損こくわ、魔物に追い掛け回されるわ。おまけに突然泣き出すわ。最悪の事態が物凄い勢いで記録更新を続けてやがる。ここまで引っ張ったんだ、次に訪れるのはささやかでも良いから幸運なのだと信じたい。
「あー、くそっ!」
 俺はとうとう、根負けしちまった。
「……入ってこいよ」
 最終防衛ラインだった扉を開いて、床に座り込んでいたデビルバグを招き入れる。
 あーあ、何やってんだろうな。迂闊すぎるにも程があるぜ、俺って男はよ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 明かりの無い真っ暗な部屋の中で、俺とデビルバグは対面する。
 どうやらこの部屋は倉庫として使われていたものらしい。あちこちに散乱していた木箱を椅子の代わりにして、俺は泣き腫らして充血した目を擦る魔物娘を睨み据えていた。
「で。なんで泣いてたんだよ」
「――ッ! あ……その、すみません。ごめんなさい」
 震える声で謝られても困るんだがな。なんだこの罪悪感。俺か? 俺が悪いのか?
「私……馬鹿ですよね。久し振りのお客さんだからって、つい焦っちゃって」
「いやまぁ……その、なんだ。そう落ち込むな。生きてるうちはよくある事だ」
「はい、ありがとうございます……」
 背中を丸めて俯くデビルバグ。くそぅ、いちいち萌える仕草してんじゃねえよ。
 ていうか、何で俺は魔物なんざ慰めてんだ。
「――優しいんですね、人間さんって」
「うるせえよ」
 顔を赤らめるな。上目遣いで見詰めるな。儚げに微笑むな。
 その視線に居心地の悪さを感じながらも、俺はデビルバグから目を離せずに居た。当然だ、油断した隙にいつ襲い掛かられるか解らねぇからな。
 ……決して見惚れていたとか、そういう理由ではないぞ、うん。
「私……ずっと独りぼっちだったんです」
「あん?」
 唐突に始まった身の上話に、俺は思わず眉を寄せる。
「本来、私達デビルバグは群れを作って生活する魔物です。元々は私も、ずっと遠くにある森の中で仲間達と一緒に暮らしていました。でもある日、突然ハンターがやってきて……」
 捕獲されちまった、って訳か。
 俺も風の噂で聞いただけだが……世の中には、魔物娘を捕まえて各地で売り捌く事を生業としている連中が居るらしい。顧客の種類は金を持て余した好事家だったり見世物小屋だったりと様々だ。時には犯罪組織に売られ、やばい商売に従事させられたりするらしい。
 余所じゃどうだか知らないが、この国じゃ魔物娘に人権なんて無いからな。
「私はこの屋敷に住む老魔術師に買い取られて、研究材料にされていました」
「……」
「デビルバグの中でも、私はとても珍しいケースの個体だそうです。仲間達に比べると、知能の発達が著しいとかで……毎日のようにあちこちを調べられました」
 辛い日々だったのだろう。過去を語るデビルバグの口調が重くなっていく。
 俺は無言のまま、ポケットから取り出した安煙草を片手に無言でそれを聞き続けた。
 確かに、目の前のこいつはデビルバグにしちゃ随分と人間臭い。連中は人の言葉を理解する程度の知能こそ持ってはいるが、その行動理念はそれこそ本能に近かった筈だ。
「ふむ……」
 しかし、いまいち見えてこねえな。俺を追い回したり泣き出したりしていた先程までの行動と、この話がどう繋がるというのだろうか。
「もう何年前なのかも思い出せませんが、いつしか私を研究していた老人は亡くなりました」
 俺の心中も知らずに、魔物娘は滔々と語り続ける。
「私は自由になりました。でも……孤独でした。私と一緒に捕まえられた仲間達はそれぞれ違う人間に買われてしまっていて、かつての住処に戻ったところでもう会う事も出来ません。だから私は、新しい群れを作ろうと思いました。この屋敷に留まって、人間さんのような男性が訪れる日を待つ事にしたんです」
「はぁ」
 それで、屋敷に踏み込んだ俺を追い掛け回してたって訳か。
 ……ん?
 いやいやいや。なんで群れを作るのに人間の男が必要なんだよ。まるで種族が違うんだからデビルバグ同士でまた集まれば良いだけの話じゃ――あれ? おい、ちょっと待てよ。
「先程は……たいへん失礼を致しました。人間さんに会えたのは凄く久し振りでしたから、つい興奮してしまって。あんな風に迫っては逃げられてしまうのも仕方ありませんよね」
 …………これって、もしかしますけど。
「拒絶されたのが悲しくて……みっともなく泣き喚いて。でも、おかげで目が覚めました」
 デビルバグが、真剣な表情で真っ直ぐに俺を見据えてくる。
「人間さん。折り入ってお願いがあります」
 俺はもう、警戒も疑惑も全て忘れてしまっていた。
「もしも嫌なら、はっきりと断って頂いて構いません」
 脳裏に浮かんだその『予想』に、もはや身動きひとつ取れなくなっていた。
「私は……家族が、欲しいんです」
 決意を込めた、瞳。
「私と、子作りしてください!」
やっぱりかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 その後も話し合いを続けた結果、どうも俺の知識には色々と間違いがある事が判明した。
 ひとつ。魔物娘が人間の男を捕らえるのは、相手をセックスのパートナーにする為だという事。確かに魔界へ連れて行かれる場合もあるらしいのだが、目的は変わらないらしい。
 ひとつ。魔物どもが女性の姿をしているのは男を誑かす為の擬態でも何でもなく、新しく魔王となったサキュバス族の影響によって存在が変質した為だという事。
 そして最後にもうひとつ。前述の理由から、魔物という種は人間を伴侶としなければ繁殖する事が出来ないという事。中には例外もあるらしいが、大部分はそうなのだという。
 にわかには信じがたい話ばかりではあったが、俺にはもはや何が真実なのかも判然としなくなっていた。目の前のデビルバグが嘘をついているようには見えなかったし、かといって自国の研究者達が発表した魔物娘の生態報告は俺達の中に常識として浸透している。
 迷った結果。俺は――。

「んひぃぃぃぃぃッ! にっ、人間さん激しすぎますぅぅぅぅ!」
 もうこれ以上、深く考えるのをやめた。
「もっとぉぉぉ! もっと奥までぐちゃぐちゃにしてくださひぃぃぃぃ!! イクぅぅぅぅ!」 
 俺好みの女にセックスしてくれと頼まれた。この事実だけに反応する事にしたのだ。
「はひっはひひゃあぁぁああああ――ッ! おまんこ、おまんこ気持ちいいぃぃぃぃぃ!」
 話し合いの後。提案を受け入れた俺はすぐさま倉庫部屋で行為に及んだ。いや、というよりもこの場でせざるを得なかったといった方が正しい。魔物娘はいずれも淫乱で好色なのだという本人の説明通り、了承を得た途端にデビルバグは俺に飛びかかってきやがった。どうも長らく屋敷に浸入する者が居らず男に餓えていたようで、すっかり理性が飛んじまったらしい。
 それを思えば、この尋常でない乱れっぷりも納得できる。
「どうだゴキブリ娘っ、久し振りに味わうチンポはよぉ!!」
「しゅごっ、しゅごいですぅぅぅ! 人間さんのおチンポ逞しいぃぃぃあっあぁぁぁぁぁイクッ! イクイクイクイクッイクうううぅぅぅぅぅ!!」
 バックから一突きするごとに、デビルバグは白目を剥いて絶頂を繰り返していた。埃まみれの木箱に縋り付きながら、全身を痙攣させて快楽を貪っている。
「ひひゃぁぁぁぁん! もっと、もっとぉぉぉぉ! イクッ! あああまたイキますぅぅぅ!」
「イけっ、イっちまえ! もうこれで何度目だ、このチンポ狂いがッ!」
「解りません、解りませんけど気持ち良すぎて止まらないんですぅぁぁああ溶けちゃうっ! おまんこ溶けちゃいますよぉぉ!! イクッイクっイクッイクっイきしゅぎてイクぅぅぅぅ!」
 硬い甲殻に覆われた爪が古びた木箱を掻き毟る。
 涎と涙と埃にまみれたデビルバグの痴態は、獣と化した俺から更なる興奮を引き出す呼び水として作用していた。くねくねと貪欲に動いてもっともっとと快楽を得ようとする女の腰へと、俺は力いっぱい肉棒を打ち付けてリクエストに応えてやる。
「いひっ、ひひぃぃぃぃ! ああもう駄目っ駄目ですぅぅぅぅ! んあああぁぁぁぁぁ!!」
「オラオラぁ! ここいらでラストスパートかけるぞっ!」
「ひううぅぅぅぅぅぅ!! しゅごいですぅぅぅぅ高速ピストンしゅごいぃぃぃぃぃ!!」
 セックスと呼ぶには荒々しすぎる。子作りと呼ぶには激しすぎる。
 俺とデビルバグの行為は、まさしく『交尾』と呼ぶに相応しかった。互いに理性を捨て去って、野性の衝動に任せた獣のような行い。肌と肌とがぶつかり合い、濡れた蜜壷から響いた水音が狭苦しい小部屋に満たされる。
 我を忘れて酔い痴れてしまう程に、魔物娘の膣は名器だった。このまま1回といわず何度でも交わっていたいくらいの心地よい感覚。確認を取ったわけではないが、デビルバグもきっと同じ気持ちだろう。
「あっあっあっあっああぁぁぁぁぁっ! 感じるっ、人間さんのおチンポ感じるぅぅぅぅぅ!!」
「くっ……うおおおおおっ!!」
 だがしかし、残念ながら俺の股間はもはやフィニッシュ寸前だった。名残惜しい限りだったが、そろそろこの欲望を、吐き出してしまわなければならない。
「そら、俺もイクぞッ! たっぷり味わいやがれっ!」
「はいぃ! 来てください、卑しい虫ケラのおまんこにっ、たくさん精液そそいでください! ああもうイクッ! おっきいの来るのぉ!! イクイクイクイクイクイクイクッ!!」

どぐん。
びゅびゅーっ! どくっどくっどくっどぷぷっ! どぴゅるるるぅぅぅぅぅぅっ!!
 
「あああひゃゃああ! せ、精液あっついぃぃ!! イックぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」

 街中の娼婦では決して味わう事の出来ない浮遊感が、俺の全身を包み込む。
 あまりの快感に気絶してしまったデビルバグの背に倒れ込みながら、俺の視界もまたゆっくりとブラックアウトしていった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 事後。窓の外を見ると、雨はすっかりあがっていた。
 東の空が僅かに白み始めている。体感的にはほんの僅かな時間だった気がするが、随分と寝ちまっていたらしい。
「ありがとうございました、人間さん。私の我儘に付き合って頂いて」
 脱ぎ散らかしていたシャツに汗と埃でドロドロになった腕を通していると、未だ全裸で部屋の隅に座り込んでいたデビルバグがそう呟いた。
「お陰様で、子供を産む事が出来そうです」
「ああ……まあ、俺も気持ち良かったし、な」
 どう答えたものか迷った末に、出てきたのは何とも歯切れの悪い平凡な返事。
 ここで気の利いた台詞のひとつも言えないから、俺は女にモテないのかもな。思わず自嘲の笑みを浮かべていると、デビルバグが不思議そうにこちらを見上げていた。
「なぁ。本当に俺、帰っても良いのか?」
「はい。人間さんをいつまでもお引き留めするわけにはいきませんから」
「……そう、か」
 あまりにあっさりとした肯定の言葉に、つい拍子抜けしてしまう。
 魔物娘は、人間の男を魔界に連れ込んでは奴隷にしてしまう。そんな俺の常識は、その一言で完膚無きまでに破壊されてしまった。
 なんともまぁ、あっけないものだ。
 俺は服を着替えると、そのまま部屋の出口へと向かう。
 蝶番が軋んだ音を立てて開き、数時間前まで追いかけっこを続けていた廊下が再び眼前に現れた。玄関への最短ルートは相変わらず腐って大穴となっているが、ぐるりと回り道をすれば問題なく帰れるだろう。
「あの」
 不意に、デビルバグから声が掛かる。
「んー?」
「人間さんがお暇な時で結構です。また……来てくださいませんか」
 それは、予想していた通りの言葉。
 がりがりと頭を掻きながら、俺は暫く黙考する。
 気になって振り返ると、寂しげなデビルバグの視線がじっとこちらを見詰めていた。
 ……そんな顔されちゃあ、断るに断れねぇだろうがよ。
「おう。またな」
「――はいっ!」
 ひらひらと軽く手を振って、俺は今度こそ部屋を後にする。
 デビルバグの嬉しそうな声を、のんびりと背中で聞きながら。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 あの夜を経験してから、俺の生活は一変した。
「ただいまー。元気にしてたか」
「あ、人間さん。お帰りなさーい」
 俺は、この屋敷に引っ越したのだ。
 俺がこの屋敷を買い取ったと告げた時の、デビルバグの喜びようといったら。見ているこっちが逆に恥ずかしくなるくらいのはしゃぎっぷりだったな。
 広大な敷地と朽ち果ててはいるが造りは立派な住居のセットとあって、目が飛び出るくらいの金額を覚悟していたのだが……どうやら不動産屋は、街の人間から『化物の住処』と呼ばれるこの不良物件を随分と持て余していたらしい。買いたいと希望を出したら殆ど投げ売りのような値段で俺に建物を譲り渡した。
 まぁ勿論、予想より桁違いに安いとはいっても数カ月はみっちり稼がなきゃならなかったが。
 ともあれ。おかげで俺は、薄給の何でも屋でありながら家持ちの身分になってしまった。
「いい加減その『人間さん』って呼び方やめろよ。旦那の名前も覚えられねぇのか?」
「もちろん覚えてますよ。ベリウスさん、でしょ。でももう『人間さん』で馴染んじゃいましたし」
「やれやれ……まぁ、お前がそれで良いってんなら良いか」
 あの夜に俺を追い掛け回したデビルバグは、今では俺の妻として生活している。もっとも魔物に戸籍なんてある筈もねぇから、『内縁の妻』という形だが。
 世間一般からは大きくかけ離れているものの、俺は嫁と家とを一度に手に入れたわけだ。
 魔物は危険で凶悪な存在だ、なんて馬鹿正直に信じてた頃と比べれば、俺を取り巻く環境は天地の差だな。生活管理を嫁に任せたおかげか仕事も上手く回り始め、今じゃあ以前の数倍にまで収入が膨れ上がっている。ギャンブルもやめたから支出も減ったし、万々歳よ。
 とは言ったものの、これで安穏とはしていられねぇ。俺の人生はまだここからが本番だ。
「おとーさん」
「あ、おとーさんだ!」
「おとーさん帰って来た!」
「よぉ三つ子ども。今日もちゃんと母さんの言うこと聞いてたろうな?」
 そう。俺はあの夜をきっかけに、嫁と家と、そして子供までをも手に入れてしまったのだ。
 流石に頭の悪い俺でも、一晩寝ただけで相手に情が移るなんて歳でも無ぇ。あの後すぐに『受精卵』を産み落としたというデビルバグの姿を見て、俺も覚悟を決めたって訳だ。
 ヤッてた時にゃあ深く考えてなかったが……まぁ当然だわな。孕ませちまった以上、男の俺はそれなりの責任を取らなきゃならねぇ。毎日せっせと働いて、ガキどもと嫁に美味い飯をたらふく食わせてやるのが父親の務めだ。
「しかしまぁ、半年で随分とでかくなったなぁオイ」
 俺の足元に寄り集まって来た3体のデビルバグは、6か月という短いスパンでありながら既におおよそ10歳程度へと成長していた。ちなみに嫁は今もなお次々と卵を産み続けており、もうあと数日もすれば更に子供の数が増える予定だったりする。
「私達デビルバグは、成長が早いんですよ。生まれて1年もすれば立派に成人です」
「うへ、マジかよ……じゃあ今まで以上に気張って稼がねぇとな」
「そうですよ。頼りにしてますからね、お父さん?」
「へいへい、了解」
 相変わらず埃臭い屋敷で嫁と子供に囲まれながら、俺は一日の疲れを癒す。
 ――なぁ、神様。
 もしもこの街に来る事があったら、ぜひ街外れのボロ屋敷まで寄ってってくれ。
 俺に幸運をくれたせめてもの礼に、高い酒をたらふく飲ませてやるからよ。


「人間さん、まだ寝ちゃうには早いですよ。子供たちが寝静まったら今夜も子作りですからね」
「…………え、マジで?」
「はい。もっともっと繁殖しなきゃ。とりあえず目標は……んー、30人くらいですね」
「いやいやいや。あの、お母さん? そりゃちょっと頑張り過ぎじゃないかと思うんだがよ」
「なに言ってるんですか。この程度じゃあ満足しませんよ? それにあと半年もすれば、今度は娘達も孕ませて貰わなきゃならないんですから。こんなところで音を上げちゃ駄目ですからね」
「ちょ、娘達もって何だそれ! おい待て待て、鎖骨を舐めるな服を脱がせるなぁぁぁぁぁ!」


10/02/12 03:55更新 / クビキ

■作者メッセージ
お読み頂き、有難う御座いました。
この作品が、私のSS第一作目となります。
企画から脱稿までが僅か1日とやたら短い執筆時間で仕上げた内容ですので、各所に作者の気付かない様々な不備や問題点があるかと思います。お気付きの点など御座いましたら、感想欄にて遠慮なくご指摘ください。更なる精進の為の貴重な肥やしとさせて頂きます。

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