裁判所の方から来ました。
俺宛に裁判所から封書が届いた。以下は、その内容を要約したものである。
① あなたがお住まいのアパートは差し押さえられました。
② 普段通りの生活を続けて頂いて結構ですが、アパートは競売に掛けられます。
③ 物件の査定と現状調査の為、職員がお部屋に伺い内部の写真を撮影します。
左隣からは男の怒声と女の罵声、右隣からは大音量の音楽と若者達の喚声。それらをBGMに、
俺は頭を抱えた。 「 俺が何をしたって言うんだ… 」
数日前、アパートを契約した不動産屋から電話が有った。
『お忙しい所すみません。急なんですけど、今のお住まいを転居されるご予定はありますか？』と。
もちろんそんな予定は無いと答えた。
『そうですよね…失礼しました』 妙に申し訳なさそうな電話だったが、やっと合点がいった。
感傷に浸る間もなく、毎日の仕事が俺を追い立てる。起きて仕事して寝て起きて仕事して、ついに待望の休日。 ピンポンと、来客を告げる間抜けた音で目が覚めた。
「 誰だよ、まだ起きる時間じゃねーぞ 」 時計は午前１０時を指している。
カーテンを閉め切った薄暗い部屋をそのままに、起きぬけの顔で玄関の扉を開ける。
家賃３万のボロアパートの玄関に、美女が２人立っていた。
片方はキャリアウーマン然とした感じで、髪は丁寧にセットされたセミロング。身体の線が強調された紺のパンツスーツをビシッと着こなし、銀縁眼鏡が整った顔を引き締める。腰は細く、すらりと伸びた足にはハイヒール。 あとnice boobs.
もう片方は俺より背が高い。美人だが、親しみやすさが先に来る。くせ毛の様なショートヘアに、全開のシャツの襟からは見事な渓谷が。グレーのジャケットにタイトスカートと一応ビジネスルックだが、そのスカート短すぎでは？ あと少し酒くさい。
場違いな来訪者の容姿に面食らっていると、向こうから挨拶してきた。
「 休日に失礼致します。私、裁判所の方から物件の現状調査に参りました、鬼瓦 葵と申します 」
「 オｒ、ワタシは、鬼山 茜ってんです、よろしくな！・・です 」
名刺を受け取る機会など皆無に等しい。差し出された長方形を恭しく差し頂いた俺は、段々と頭が冴えてきた。 部屋を全く片付けていない。むしろこの瞬間まで調査の件を忘れていた。
「 先に書面でお伝えした通り、今から室内の撮影を行わせて頂きます。ご協力の程、宜しくお願いします 」
「 失礼しまーす、・・です 」
埃の溜まった玄関に、磨かれた紺のハイヒールと臙脂色のローファーが並ぶ。
軽く２、３枚撮って終わりだろうと思っていたが、その予想は大きく外れた。まず玄関に始まり、台所・居間・ベランダ・風呂ときて、トイレの中まで撮影されるとは思いもしなかった。
狭い部屋、それも掃除も片付けもしていない部屋をカメラに、しかもこんなスーツ姿の美女２人に撮られるなんて。 情けないやら申し訳ないやらで、俺は押入れの前で小さくなっていた。
スーツ姿の職員２人が、カメラ片手にやって来た。
「 ご協力感謝します。室内の撮影は、ほぼ終了しました 」 「 後は、ここだけだなぁ・・です 」
２人の視線が、俺の後ろに注がれている。
押入れ ━ それは、男の聖域。 押入れ ━ それは、男の夢・欲望・生き様・・・全てが詰め込まれた、そう、人生と言ってm
「 ごめんなさいスミマセンここだけは許してくだっしぁ・・！ 」
「「 駄目です(でーす) 」」
観念した俺は、押入れの扉を開いた。「 ほぅ・・・ 」 「 これはこれは・・・ 」
２人の職員が熱視線を送るのは、色とりどりの酒瓶。これは俺が趣味で集めたものだ。
大量には飲めないが、チビチビやる分には好きなので、買っていく内にコレクションが出来上がった。 ボロアパートに男１人、それに大量の酒なんて中毒患者だと思われるし、飲めない癖に酒を持っているのを笑われたくない。 だから、これは誰にも知られたくなかった。
パチリ、と写真を１枚。
「 ・・以上で、撮影を終了します 」 「 、ご協力感謝するｚ、します 」
狭い玄関の帰り際、２人は少し緩めた表情でこちらを振り返る。
「 本日は失礼致しました。素敵なコレクションですね 」 「 全くだ！ 羨ましいねぇ、・・です! 」
そう言って出て行った２人に、俺は何も応えられなかった。
数日後、元大家から手紙が届いた。
このアパートは新しいオーナーの手に渡る事。今後の家賃は新オーナーが決めるので、値上げの可能性がある事。 駐車場の土地は別の業者に売却したので、来月からは使えなくなる事。 以上。
この手紙以降、賢明なアパート住人は引越しの準備を進めだした。俺はどうしたらいいのか分からない。 両隣の親愛なる隣人達は、今日も変わらずやかましい。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
週末、珍しく仕事が早く片付いた。食料とツマミを買い込み、さあお待ちかねの晩酌だというタイミングで、玄関の呼び鈴が鳴る。 不躾な客が来たもんだと扉を開けると、そこには例の職員の片割れが立っていた。
「 こんな遅くに済まないね、です。どうしても確認したい事があって寄らせてもらったよ、です 」
段々あやしい敬語が雑になってきた感のある女性、鬼山茜と言ったか。
彼女は ずい、と玄関に侵入し、俺の部屋で撮影した酒コレクションの写真を見せ付けた。
「 アンタ、持ってるだろう？ ” 魔界鬼殺し” 」
魔界鬼殺しとは、一時期コンビニで出回っていた日本酒の銘柄だ。
変な名前と値段に惹かれ、偶々手に取った。 その後、これを飲んだ魔物娘が問題を起こす事件が頻発し、市場に回収命令が出ている。
「 困るんだよねぇ、回収には協力してもらわないとぉ 」 ねっとりとした口調で、俺の肩に手を回す。
「 オレだって、アンタを困らせたくて言ってるんじゃあ無いんだ。ほんのちょいと ”危険物処理” に付き合っておくれよ 」
ついに敬語が消滅した彼女の提案に、俺は頷くしかなかった。
静かだ。
「 ッかぁー！！ こいつはキくぜぇー！? 」 件の酒を評価する彼女の大音声が、よく室内に響く。
夕食の時間帯、いつもなら左隣から男女の罵声が聞こえてくるが、今日はそれが無い。やっと別れたのか。
上機嫌で ”危険物処理” を遂行する彼女に、もう１人の片割れについて質問してみた。
「 葵の事かい？ 葵なら別件で仕事中だよ。今夜で解決だとさ。ほんとは一緒に来たがってたんだけどねぇ 」
彼女が気になるのかと突付かれ、俺はツマミを取りに台所へと避難した。
午前０時。
あまりの寒さに目が覚めた。息が真白い。手足の先の感覚が無い。飲み残しには氷が張っている。
普段飲まない量まで空けて・・そのまま寝ちまったのか。
横には、床で大の字になっている彼女が居た。 俺が酔っている所為で、酒で全身まっ赤に染まった彼女の額には、立派な角が見える。まるで昔話の赤鬼だ。
彼女がほぼ全裸なのは無視して、急いで毛布を掛けようと近づいた瞬間、恐ろしい速さで絡め取られてしまった。 正面から抱きしめられる形になり、ちょうど胸の上部に俺の頭が乗っている。
隊長！おっぱいチャレンジ成功です！
「 悪ぃな。葵のヤツ、ちょいとしくじったみてぇだ・・ 」
急な出来事にもがく俺を落ち着かせる様に、ゆっくりと彼女は言う。一旦離れようと格闘するが。
「 いいから黙ってオレに抱かれとけって。 今アンタに死なれると、オレも葵も困るんだよ 」
そう言って、毛布を引き寄せる。視界は赤で塞がれ、彼女の心音が耳を塞いだ。
いいにおい。しっとりした肌の感触。抱きしめられる密着感。やわらかさ。酒精の香りと彼女の体温。 さっきまでの興奮が嘘の様に。ふわりと意識は浮かび上がり、徐々に沈んでゆく。
（ かわいいねぇ。このまま、アンタを攫っちまいたいよ・・ ） そんな声を、きいたような。
翌朝、既に彼女の姿は無かった。
台所には見覚えの無い新品の酒と、魔界鬼殺しの空き瓶が仲良く並んでいる。
酒に添えられた置手紙を読みながら、俺は部屋の片付けを始めた。台所に続く居間の鴨居に、真新しい傷が２本できていた。何かぶつけたのか・・？ 今日は良い天気だが、毛布は干さないでおく。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
その日の夕刻。
休日も終わりに近づくと、いつも右隣の学生連中が騒ぎ出す。が、今日は静かだ。
左隣も昨日から静かになって、もうこのアパートには俺しか残っていないのかも知れない。
気分は最後の晩餐。１人静かに、少しだけ贅沢な晩酌をと立ち上がる。玄関のチャイムが鳴った。
予感にも似た期待を胸にドアを開くと、そこには昨日の客の片割れが立っていた。
「 夜分に申し訳ありません。昨日の件で・・どうしてもお伝えしたい事があります 」
紺のスーツ姿の女性、鬼瓦葵の言葉のトーンは暗い。玄関では何ですしと、部屋に入ってもらった。
正座で俯く彼女は、心なしか青ざめて見えた。
「 私がアフターケアを怠った所為で、貴方を凍死の危機に晒してしまいました 。本当に申し訳ありません！ 」
そう言って深々と頭を下げる。昨晩、茜さんが言ってたのはこの事か。
「 俺は無事ですし、役得と言ったら変ですが、良い事も有りました。どうか気になさらないで 」
そう言って、頭を上げるよう促す。少し落ち着いたのか、顔色は良くなったみたいだ。
場の空気を変えようと、試しに酒を勧めてみた。この部屋にはそれしか用意が無い。
幸い、彼女はもう店じまいとの事。早速もらった酒と、用意した少し贅沢なツマミを迎えに台所へ。
不意に、右隣の部屋から異音が響く。重く長いモノが床を這う様な音。男女の叫び声。
一体何事かと急いで居間に戻ると、葵さんが右側の壁に何かを貼り付けた様に見えた。
「 今、隣から何か聞こえませんでしたか？ 」 「 いいえ、気の所為ではないでしょうか？ 」
しん、と部屋には元の静寂が戻っていた。
「 さ、さあ、早く晩酌に致しましょう。私こう見えて結構強い方なんです。さあ！ 」
彼女に押し切られる形で、２人の晩酌は始まった。
「 茜ちゃんとはぁ、幼馴染なんれす。わたし、いーっつも、あかねちゃんに、まけてて、せも・・・うぅ、ぐすッ 」 開始１０分でこの状態とは・・ 置手紙の通りに飲ませてみたけど、大丈夫なのかこれ。
『 もし葵のヤツが来たら、この ” 魔界鬼時雨” を飲ませてやってくれ。泣いて喜ぶぞ。 by 茜 』
同じ酒を飲んでいるのに、彼女だけ異常に酔いの回りが早い。段々顔が青くなってきている。
「 葵さん、もうやめた方が 」
「 ” 葵ちゃん” れす！ なんれすかあなた、おにをふたりもほんきにさせて！ しゃざいをよーきゅーします！ 」
ぐい、と座った状態で、正面から俺の胸板に顔を押し付けてくる。謎の突起が２つ当たってて痛い。
「 なでろくらさい！ ・・きょうはそれでゆるします 」
少しセットの乱れた髪を、流れに沿ってゆっくりと手を滑らす。手のひらに、あたたかさが伝わる。
葵ちゃんの肩が震えて、俺の膝に涙がこぼれだした。
「 茜ちゃんにあえなくて、でんわもだめで、さっき、やっとあえて、きのうはさむかったって、いそいできたの ・・・ ごめんなさい、あなたがいきてて、ほんとに、よかった・・！ 」
泣き続ける彼女を抱きしめて、静かになるまで、頭と背を撫でた。
翌朝、葵ちゃんの呼ぶ声で目が覚める。
テーブルの上は片付けられ、出来立ての目玉焼きとトースト、紅茶が並んでいた。
急ぎ出勤するので申し訳無いですが、と彼女は先に部屋を出た。俺も仕事に行くとしよう。
鴨居の傷は４本に増えていた。 朝食がうまい。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
１ヶ月後。俺は小奇麗になった我がアパートに戻ってきていた。
あの後、新しいオーナーが正式に決まった。家賃は据え置きで安心したが、俺と両隣、その他１名以外は既に転居していた。これを機会と見た新オーナーは、アパートの内外リフォームを決定。工事が終わるまで、居残り組は仮住まいでの生活を送っていた。
まるで新築だ。天井が少し高くなっていて、これだけで大分広く感じる。鴨居も撤去され、台所が明るくなった。擦り切れていた木目調の床は、本物の木材になっていた。押入れの扉も綺麗になっている。開けてみると・・・ 「 どうなってるんだコレ？ 」
押入れの中には短い廊下。ウォークイン・クローゼットってやつか。それは分かるが、奥の壁面にドアが２つ並んで付いている。深い赤色の扉と、落ち着いた青色の扉。
この扉の向こうに部屋が有るとしたら、物理法則は死亡した可能性が高い。外観と室内の面積が釣り合わない。
果たして、物理法則は死んだ。２つのドアが同時に開き、中から見覚えのある顔が現れたからだ。
「 よう！ 新居の完成祝いに来たぜ！ 」
「 ご無沙汰しております。今回は無事リフォームが終了したとの事で、室内の確認と今後のご説明に参りました 」
そこには、スーツ姿の鬼が２人立っていた。
片方は俺より背が高い。立派なツノが２本、くせ毛の前髪を割って額からまっすぐ生えている。赤い肌にグレースーツのコントラストが映えるが、その露出度だと今の時期寒そうだ。やはり酒くさい。
もう片方は、真面目そうな女性。青い肌と紺のパンツスーツで、シュっと締まって見える。セットされた前髪を避ける様に、有機的なカーブのツノが２本、額を飾っている。相方よりヒール分背が低い。
「 既にお気付きかと存じますが、私はアオオニ。魔物娘です。 」
「 オレはアカオニだ！ って、もう知ってんのか？ 」
なんとなく、気付いてはいた。
人間が凍死しそうな室内でも平気だったり、恐らく魔物娘にしか効果が無い酒で前後不覚になってみたり。 何より俺が酔っていたにしろ、鬼に見えた姿や感触がハッキリし過ぎている。
「 この部屋で、貴方のコレクションを撮影したのを覚えていますか？ あの時の、貴方の表情が忘れられないのです。この人と一緒に居たい。支えてあげたいと。私は、そう思うようになりました・・ 」
覚えてる。知られたくなくて、辛かった事。 ２人に褒められ、嬉しくて救われた気持ちになった事。
「 初めてオマエを抱いた晩の事さ。離したくないと思ったよ。本当に攫って帰りたかった。オレだけの宝物にしたかった 」
覚えてる。離れたくないと思った事。 朝誰も居ない部屋で、初めて寂しいと思った事。
「 でも、我慢したんだ・・・葵がいるからね。オマエをどう思ってるかなんて気付いてたよ。だから 」
そう言うと、全開の渓谷から一枚の書類を取り出した。あたたかい。
「 そいつは魔物娘用の婚姻届さ 」
よく見ると、” 夫になる人” の欄は１つ。” 妻になる人(魔物)” の欄は２つある！
「 その書類では妻の欄が２つですが、それは２人用というだけです。他に３人用、４人用と数に応じた用紙も有ります 」
” 妻になる人” の欄が、既に２人の署名で埋まった婚姻届を手に、人間の常識は通じないのかと痛感した。 しかし、たった今 ” 夫になる人” の欄に署名した俺も、人間の常識から外れ始めているのだろう。
「 よっしゃぁ!! これで夫婦だ!! これからヨロシク頼むぜぇ？ お・ま・え・さん ♥ 」
「 よ、宜しくお願いしみゃ、します・・・旦那さま ♥ 」
こうして俺は嫁の自室が追加された、文字通り魔改造アパートの住人として再びこの部屋に住む事となった。
「 景気付けに一発、アレやろうぜ！ 」
「 アレですね。準備してきました 」
そう言うと、葵ちゃんは落花生の入った袋を取り出した。あたたかくない。
「 ・・その残念そうな顔は何ですか？ 」
「 ﾋｯ、何でもないです！ 」
「 もう尻に敷かれてんのかよ～。たのむぜぇ？ せーの、でいくからな！ 」
「 せーーの!! 」
「「「 オニはーーーうちーーー！！！ 」」」
おしまい
おまけ。少し時間を遡ります。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
幕間 ＃１ 『 嫁のメシがウマい 』
今、自分は感動に咽び泣いている。食卓に並ぶのは、素晴らしい完成度の夕食の数々。
昨日までの、あの悪夢の様な料理が嘘の様だ。
例えば、お椀に美しく盛られたご飯の粒は瑞々しく、粒立ちもよい。味噌汁は鰹ダシの香りが効いて、豆腐に角が残っている。
好物であるハンバーグは、アツアツの染み出る肉汁と特製ソースの照りで光り輝いている。付け合せの温野菜も色鮮やか、かつ角は包丁で丁寧に処理され、一口大に切り揃えられている。早くソースを絡めて肉と一緒に口に放り込みたい。
ほうれん草のピーナッツ和え・・このしっかりした香り、わざわざ豆を挽いたのか！
小さな食卓の、香り立つ湯気の向こう側。満面の笑みで座る我が嫁は、信じられない程に美しく、魅力的に見えた。
「 夕食の後は、デザートもありますからね。凍える程に冷え切った、あま～いモノですよ…♪ 」
今、私は感動している。あんなに苦痛で辛かった料理が、こんなに楽しくなるなんて。私が作ったものを、美味しいと言って食べてくれる。ありがとうと言って食べてくれる。
夫は極度の暑がりで、部屋では大体Tシャツ１枚。私は冷え性が酷く、毎日エアコンの温度設定で喧嘩になる。 でも、そんな事で悩む必要はもう無い。何故なら・・
「 デザートの前に、見て欲しい物があるの 」 私は、夫の前でパッと昨日までの自分を消した。
「 これが私。魔物化してもらったの。今の私は、ゆきおんな 」
文字通りフリーズから復帰した夫は、私の目をまっすぐに見て言った。
「 こんな俺なんかの為に、そこまでしてくれたのか・・結婚式も出せなかった俺に、子づくりも諦めた俺に・・ 」
夫の目が、姿が、急に滲んで、私の足元に氷の粒がパラパラと落ちる。
「 もう一度言わせて欲しい。俺と結婚してくれ！今なら結婚式だってできる。今から子供も作ろう！協力しておくれ 」
「 あなたぁぁぁぁぁぁ！！ 」 「 おまえぇぇぇぇぇぇ！！ 」 ぎゅうううううううううううううううううううううう！！
葵「 良かった・・もう大丈夫そうですね。邪魔者は早めに退散するとしましょう 」
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
幕間 ＃２ 『 或る青年の孤独 』
騒いで勝手に飲み食いした友人達は帰宅し、１人部屋を片付ける。
今月は、あと何回ウチに友人達を呼べるか考えていた。
故郷から進学の為に引越し、こっちで知り合った友人達とのバカ騒ぎがやめられなくなった。
学費以外は全て遊び代に消えた。それでも、１人になるよりマシだと思っていた。
そんなある日、裁判所の職員だという２人がやってきた。僕の部屋を撮影しまくる。押し入れの中まで見ていたが、もうどうでも良かった。帰る間際、職員の１人がこう切り出した。
「 あんた、魔物娘と付き合ってみないか？・・です 」
隠してあった魔物娘モノを見られたのか！？ 流石にプライバシーってものが有ると文句を言おうとした、けれど。 「 絶対に後悔させないぜ。このチャンス、乗ってみないか？ 」
後悔した。何故あんな怪しい奴の提案に乗ってしまったのか。女子なんて、友人と一緒にウチには来るが、彼女達の興味はウチにあるゲームと食べ物とコンセントだけだ。
日曜日。あと数分で約束の時間になる。直接部屋に来るとは聞いていたけど、どんな相手かは分からない。 トンデモナイ奴が来たらどうするんだ。もう逃げ出してしまおうか。しかし、無情にも玄関のチャイムは時間切れを宣言した。
ドアノブが滑る。覗き窓は怖くて覗けない。軋むドアをゆっくりと開いていく。
最初に見えたのは、白い足袋。白い着物の裾。それから淡い刺繍が施された着物。そして・・
「 初めまして。私、白妙と申します。ふつつか者ではありますが、以後宜しくお願い致します 」
こんな綺麗な子、初めて見た。白い肌、白い髪、宝石みたいな赤い瞳。こういう人、アルビノっていうんだっけ？
彼女を部屋に通す。お茶を出すのもすっかり忘れて、僕は話かけた。
「 あの、失礼ですが、魔物娘だというのは本当なんですか？ 」
「 そんな畏まらないでくださいな。ええ、その通りです 」
彼女の着物の裾が、ぞろりと伸びてゆく。着物の模様は鱗へと変化し、真珠のような白い蛇の身体が現れた。
「 恐ろしいですか？それとも、幻滅・・なさいましたか？ 」
反応の無い僕の顔を、少し自嘲気味に。少し不安気に覗く彼女に向かって、僕は応えた。
「 ろ・・ 」 「 ろ？ 」
「 ロール ・ ミー !! 」 「 いえす!! ろーる ・ ゆー!! 」 ぎゅうううううううううううううううううううううう！！
茜「 よっしゃ、お仕事終了～。防音の札余っちまったけど、まぁ大丈夫だろ 」
おわり
19/02/24 15:39更新 / トケイ屋