序章‐1【成り立ち】※世界観説明、エロ無し
〜3年前:魔界領(旧王国領)〜
「号外!!号外!!」
どんよりとした空の下、村のメインストリートに聞屋の声が響きわたる。見た目で判断するなら髪も白く染まり、中年を通り過ぎ初老に片足を突っ込んでいるが、声を荒げ走り回る姿はまだまだ現役である事をうかがわせる。
「魔王…様の代替わりからの続報だ!!王国に停戦を持ち掛けている!!」
「条件には捕虜の返還及び現存する国の領土返上も盛り込まれている!!」
「戦争は終わるんだ!!俺達は人間界に帰れるんだ!!」
突然の終焉だった。先代魔王が始めたこの侵略戦争。
圧倒的不利な状況の中、人間は長い間抵抗を続けていた。
度重なる侵攻による領土の消失、国の滅亡。
神託を受けた勇者の出現、その敗北。
人が世代を重ねていく中でいつまでも変わらなかった全ての元凶。
その魔王が失脚しただけでも大事件なのにいきなりの停戦の申し出。
だがこれは始まりに過ぎなかった。ここから先世界の種族認識は激変する。
〜現在:魔界某所〜
『…この方ですね。』
女性特有の高く、それでいて冷たさを感じさせる声が聞こえる。
気が付くとそこは薄暗く、簡素な部屋だった。男はベッドに寝かされていたため起き上がろうとするが腕が動かない。見ると手首を胸元で縛られている。
少々苦しいが腹筋だけで起き上がる。
『気が付かれたようですね。申し訳ありませんが、規則上拘束させて頂いております』
先ほどの声が再び聞こえる。目を向けるとそこにはドレスを身に纏う女性が扉を背に立っていた。
年齢は20代前半といった所か。
済ました顔立ちに眼鏡をかけ、絹のような銀髪を背中に流したそれは
どこか知的な印象を与える。
それでいて大きく胸元の開いたドレスを身に着ける事で色気も感じさせる。
胸のボリュームも申し分無い。
背はそれなりにありそうだが、歩き近づく姿が少しぎこちないのはヒールを履いているからなのだろうか。となると少し小柄か?
表情豊かではなさそうだが、ここまで素材が良ければ不要なのだろう。
間違いなく絶世の美女と言える。
もろドストライク…結婚したい。
翼や角がなければの話だが。
「サキュバス…?」
『はい。【エデンの檻】収監担当員のクリスタと申します。』
「ご丁寧にどうも、俺の名前は…」
『名乗りは結構です、私が聞いても意味のない事です。』
「…?」
目が覚めたばかりで男の頭が追い付かない…頭が痛い、飲みすぎた…
まず【エデンの檻】ってなんだ?エデンの【檻】…収監担当員…
「ここは…留置所…?」
『察しが良くて非常に助かりますが、厳密には違います。【エデンの檻】は魔界深部にある魔物娘生活支援施設です。貴方達人間にとっては刑務所と似たような物かもしれませんが。』
「…えっ!?魔界!?」
俄かには信じられない。男に確かめる術はないが、彼女がサキュバスである事が証拠になるのだろうか?停戦後ではあるが、まだ魔物に対する人間の印象は良くない。であれば人間界にいる理由も無い。
覚醒し始めた頭で思案していると、クリスタは無表情のまま説明を続ける。
『貴方は王国との協定に基づき身柄をこちらで受け持つ事となりました。拒否権はありません。今後【エデンの檻】でキャストとしての生活を義務付けられます。ですが貴方の場合特例で…』
「待った待った待った!!俺からも質問…っ!?」
彼女の言葉を遮った瞬間、心から後悔した。彼女の表情は変わらない。
だが、目は口程に物を言う。物を見る目からゴミを見る目に変わったからだ。
話は最後まで聞きなさい、この劣等種が…
そう聞こえた気がした。
震えが止まらなかった。人間に近い姿をしても魔物は魔物。
俺の様な元一兵卒とは比べ物にならない力を持っている。
どれくらい時間が経ったのだろう。或いは1分も経ってなかったかもしれない。
突然クリスタが溜息を吐いたかと思うと表情が元に戻っていく。
『…まぁ、いいでしょう。貴方の置かれた状況は同情に値します。立場上答えられる範囲でならどうぞ?』
よかった、助かった。…でも同情?
「そ、それじゃあ…俺はなんでここに居るんだ?」
そう、そこからだ。昨日俺は4年ぶりに再会した友人と飲んでいた。兵士として当時魔王軍と戦っていた時からの親友だ。積もる話もたくさんあった。
一緒に戦った話。
捕虜になってからの話。
最後の方は殆ど記憶に無いが友人と別れて家路に付いたはずだが…
『やはり覚えておられなかった様ですね。あれだけ泥酔していれば当然ですか。率直に申し上げると貴方は国家機密に触れてしまった。この一言に付きます。』
「…は?」
なんだよ国家機密って…帰り道でそんな物と関わる機会できるか?
駄目だ、何も思い出せない。
『いずれ公になる事実ですが、今はまだ知られてはいけません。これは王国の意向であり、魔界からの願いも含まれています。』
「…意向…願い…?」
『ここから先は私からはお答えできません。これは…』
コンッコンッ
部屋に一つしかない扉からノックが聞こえる。クリスタが扉に向かい歩き出す。
よく見るとヒールでは無く、足を引きづっている様だ。怪我をしているのか、あるいは魔物でも後遺症に悩まされたりするのだろうか?
親近感を覚えながら何気なく部屋を見渡していく。簡素な作りではあるが、家具は一通り揃っている。窓が無いのは気になるが…
『私からの説明はここまでです。後は後任に質問して下さい。』
「?」
『先ほど言いましたが、貴方は特例です。然るべき者が対…』
『やぁライル君♪昨日ぶりだね。』
「お前…」
クリスタの背後から現れたのは
友人である[勇者]ハインリッヒだった。
「号外!!号外!!」
どんよりとした空の下、村のメインストリートに聞屋の声が響きわたる。見た目で判断するなら髪も白く染まり、中年を通り過ぎ初老に片足を突っ込んでいるが、声を荒げ走り回る姿はまだまだ現役である事をうかがわせる。
「魔王…様の代替わりからの続報だ!!王国に停戦を持ち掛けている!!」
「条件には捕虜の返還及び現存する国の領土返上も盛り込まれている!!」
「戦争は終わるんだ!!俺達は人間界に帰れるんだ!!」
突然の終焉だった。先代魔王が始めたこの侵略戦争。
圧倒的不利な状況の中、人間は長い間抵抗を続けていた。
度重なる侵攻による領土の消失、国の滅亡。
神託を受けた勇者の出現、その敗北。
人が世代を重ねていく中でいつまでも変わらなかった全ての元凶。
その魔王が失脚しただけでも大事件なのにいきなりの停戦の申し出。
だがこれは始まりに過ぎなかった。ここから先世界の種族認識は激変する。
〜現在:魔界某所〜
『…この方ですね。』
女性特有の高く、それでいて冷たさを感じさせる声が聞こえる。
気が付くとそこは薄暗く、簡素な部屋だった。男はベッドに寝かされていたため起き上がろうとするが腕が動かない。見ると手首を胸元で縛られている。
少々苦しいが腹筋だけで起き上がる。
『気が付かれたようですね。申し訳ありませんが、規則上拘束させて頂いております』
先ほどの声が再び聞こえる。目を向けるとそこにはドレスを身に纏う女性が扉を背に立っていた。
年齢は20代前半といった所か。
済ました顔立ちに眼鏡をかけ、絹のような銀髪を背中に流したそれは
どこか知的な印象を与える。
それでいて大きく胸元の開いたドレスを身に着ける事で色気も感じさせる。
胸のボリュームも申し分無い。
背はそれなりにありそうだが、歩き近づく姿が少しぎこちないのはヒールを履いているからなのだろうか。となると少し小柄か?
表情豊かではなさそうだが、ここまで素材が良ければ不要なのだろう。
間違いなく絶世の美女と言える。
もろドストライク…結婚したい。
翼や角がなければの話だが。
「サキュバス…?」
『はい。【エデンの檻】収監担当員のクリスタと申します。』
「ご丁寧にどうも、俺の名前は…」
『名乗りは結構です、私が聞いても意味のない事です。』
「…?」
目が覚めたばかりで男の頭が追い付かない…頭が痛い、飲みすぎた…
まず【エデンの檻】ってなんだ?エデンの【檻】…収監担当員…
「ここは…留置所…?」
『察しが良くて非常に助かりますが、厳密には違います。【エデンの檻】は魔界深部にある魔物娘生活支援施設です。貴方達人間にとっては刑務所と似たような物かもしれませんが。』
「…えっ!?魔界!?」
俄かには信じられない。男に確かめる術はないが、彼女がサキュバスである事が証拠になるのだろうか?停戦後ではあるが、まだ魔物に対する人間の印象は良くない。であれば人間界にいる理由も無い。
覚醒し始めた頭で思案していると、クリスタは無表情のまま説明を続ける。
『貴方は王国との協定に基づき身柄をこちらで受け持つ事となりました。拒否権はありません。今後【エデンの檻】でキャストとしての生活を義務付けられます。ですが貴方の場合特例で…』
「待った待った待った!!俺からも質問…っ!?」
彼女の言葉を遮った瞬間、心から後悔した。彼女の表情は変わらない。
だが、目は口程に物を言う。物を見る目からゴミを見る目に変わったからだ。
話は最後まで聞きなさい、この劣等種が…
そう聞こえた気がした。
震えが止まらなかった。人間に近い姿をしても魔物は魔物。
俺の様な元一兵卒とは比べ物にならない力を持っている。
どれくらい時間が経ったのだろう。或いは1分も経ってなかったかもしれない。
突然クリスタが溜息を吐いたかと思うと表情が元に戻っていく。
『…まぁ、いいでしょう。貴方の置かれた状況は同情に値します。立場上答えられる範囲でならどうぞ?』
よかった、助かった。…でも同情?
「そ、それじゃあ…俺はなんでここに居るんだ?」
そう、そこからだ。昨日俺は4年ぶりに再会した友人と飲んでいた。兵士として当時魔王軍と戦っていた時からの親友だ。積もる話もたくさんあった。
一緒に戦った話。
捕虜になってからの話。
最後の方は殆ど記憶に無いが友人と別れて家路に付いたはずだが…
『やはり覚えておられなかった様ですね。あれだけ泥酔していれば当然ですか。率直に申し上げると貴方は国家機密に触れてしまった。この一言に付きます。』
「…は?」
なんだよ国家機密って…帰り道でそんな物と関わる機会できるか?
駄目だ、何も思い出せない。
『いずれ公になる事実ですが、今はまだ知られてはいけません。これは王国の意向であり、魔界からの願いも含まれています。』
「…意向…願い…?」
『ここから先は私からはお答えできません。これは…』
コンッコンッ
部屋に一つしかない扉からノックが聞こえる。クリスタが扉に向かい歩き出す。
よく見るとヒールでは無く、足を引きづっている様だ。怪我をしているのか、あるいは魔物でも後遺症に悩まされたりするのだろうか?
親近感を覚えながら何気なく部屋を見渡していく。簡素な作りではあるが、家具は一通り揃っている。窓が無いのは気になるが…
『私からの説明はここまでです。後は後任に質問して下さい。』
「?」
『先ほど言いましたが、貴方は特例です。然るべき者が対…』
『やぁライル君♪昨日ぶりだね。』
「お前…」
クリスタの背後から現れたのは
友人である[勇者]ハインリッヒだった。
17/05/10 18:48更新 / 深紅烏
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