月下の戦
領地の方針が半魔物になる理由なんてそう大したものじゃない。なんだかんだと名目をつけてはいるが、主だった理由は二つといったところだ。
まず一つはその土地が教団の領地だということ。あるいは自領がそれに接しているという事。簡単に言ってしまえば長いものには巻かれろということだ。トップの人間に逆らってもどうしようもないし、おっかない隣人がいればなあなあで済ませてやり過ごす。
もう一つは敵対している領が親魔物派であるということだ。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いだなんて言葉がジバングにはあるらしいが、まさしくそういう事だ。
ここの領主もそういうクチのようで、かの有名な竜騎士軍団を抱えている領と敵対している。
「主の暗殺を阻止してほしい」
そんな依頼が舞い込んできたのが三日前。俺の評判を聞きつけて身なりの良い男がそんな話を持ちかけてきた。聞けば俺は戦場で百人斬りを達成した猛者だと信じているらしい。とりあえず俺が腕利きだというのは真実なので何も否定しなかった。
こういう仕事を続けていく上で重要なのは評判だ。まるっきりの嘘はいけないが多少のフカしも必要。なんていったってそのほうが箔がつくからな。ちなみに本当に斬ったのは五十と八人までだ。
報酬を聞けば日頃俺がこなすような依頼、地方領の小競り合いの従軍だとかそういったものの倍以上の額を提示された。しかも日ごとに即金で支払われるという。思わず飛びつきそうになったが、何事にもウマい話には裏がある。詳細を問いただすと、別に隠すようなことでも無かったのかあっさりとその男は教えてくれた。
襲撃が予想されるのは人間からではなく魔物からだという。魔王領と接している訳でもないのになんでまた、と俺は重ねて事情を聞く。そしてクノイチという魔物の存在を知った。
俺と同じ傭兵として生きる魔物。単一での戦闘を得意とし、間諜や斥候などとして重宝されるエージェント。親魔物領と繋がっているらしく、そういった連中からの依頼で暗殺などもこなすのだとか。
そして、現在俺がいる領と敵対している領主がクノイチの住処である『忍びの里』に依頼人の暗殺依頼を出したという情報が寄せられた。きっとスパイでも潜らせていたのだろう、慎重な事だ。
俺は特に何も気負わずにその依頼を受けることにした。単一での戦闘は俺の方も得意だし、強いと聞いてわくわくせずにはいられない。何よりも報酬は魅力的だ。
即決で依頼を受けたその日の内に俺はその領主のもとへ案内された。領主は鼻が高く鷹のような鋭い目つきをする男だったが、喋ればアヒルか何かのようにぐちぐちとよく喋る男だった。
「君が例の傭兵とやらかね」
「はい、よろしくお願いしまさ」
営業スマイルを浮かべる俺に向けてねちっこい視線を浴びせてから彼はふん、と鼻を鳴らした。
「話は聞いたな。君に依頼するのは私が寝ている間の護衛だけだ。それ以外には正騎士に守らせる。それでいいだろう?」
「ええ、そのほうがこちらとしてもありがたいですぜ」
「ふん、暗殺などあの馬鹿な男がやりそうな事だ。私を殺したければご自慢の龍騎士軍団でも連れてくればいいだろうに」
忌々しげに、彼が椅子に腰掛けて貧乏ゆすりをする。
「竜騎士ですか」
「知っているかね?」
「ええ、戦場でやりあったことはありますぜ。脱走兵か何かで単騎でしたがね。まあ、恐るるには足りませんやな」
露骨な俺のご機嫌取りに気を良くしたようで、ふんと鳴らされた鼻が今度はすこし嬉しげに響く。
実際のところ竜騎士は恐るべき敵だ。まず何よりこちらの剣が届かない事が殆ど。剣を当てるにはこちらに向かって降下し武器を振るう瞬間、後の先を取って殺すしかないだろう。まともにやり合うには弓矢や魔法部隊の火力支援は必須といったところだ。白兵戦で勝利を収めるのは至難の業だろう。おそらくこの領主の軍隊では難しい。
そんな内心の俺の分析をよそに彼は俺に細かい仕事の説明を始める。
俺が彼の身辺を護衛するのは日付が変わる時間から夜明けまでのおよそ六時間。彼の寝室の周囲には騎士が詰めているので俺は屋敷の中庭などを担当することになる。
まあ、金で雇った流れ者に重要な場所を任せるわけにもいかないので妥当な配置だろう。それだけ聞いて、その日はその場を辞した。その後、彼の寝室を守るという騎士にも会ったがかなりの腕前だと見受けられた。信頼はしてよさそうだ。
そして、なんの問題も起きないまま四日目の夜を迎える。
*
裏口から衛兵に話をつけて領主の屋敷内に入れてもらう。足音を殺して屋敷内を通り、誰もいない中庭へたどり着いてからようやく俺は息をついた。
所詮は流れ者の傭兵だ。屋敷内をうろうろしていれば衛兵に目をつけられるし、暗殺者と間違われて騒がれても困る。俺は中庭の中央にある噴水の縁に腰掛けた。
中庭は三方をコの字形の建物に囲まれるようにあり、正門に繋がっている。正門は現在封鎖され、門番が誰であっても入れないように目を光らせている。もし正門で何かあれば俺がすぐさま駆けつけられるように門の合鍵を渡されていた。
正面から見れば左右対称に見えるであろう建物は全て窓が締め切られており、開けるには少々手間がかかる作りにもなっている。窓から入るには破ったほうが手っ取り早いが、そうすれば瞬く間に囲まれることになるだろう。
現実的に考えれば裏口から入るのが成功率が高いだろうが、裏門に設けてある守衛所には衛兵が必ず詰めているし、狭い入口である以上誰かに見咎められる可能性は高い。
さて、どうやってクノイチとやらはここを突破するのか非常に見ものだ。
腰に差した長剣を引き抜き、大気に晒す。月光を反射してぎらりと輝くのがなんとも頼もしい。この剣と共に幾多の戦場を俺は駆け抜けてきた、その相棒に対する信頼は十分、そして手入れも同様に、だ。
暗殺の阻止、この任務では奇襲を受けることを前提に全てを考えなくてはならないだろう。いつでも戦えるように装備の手入れは勿論のこと、いつでも駆け出せるように準備しておかなくては。長剣を足元にたてかけたまま、俺は物思いに耽る。
もし、俺が彼を暗殺するとするならどう侵入するか。俺ならば、単純に塀を飛び越えることを考える。律儀に扉などを使う必要は無いのだ。そうして悠々と中に入り、中で一度『掃除』をしてから領主の部屋の窓を叩き割り、殺してからさっさと逃げる。
窓を叩き割って侵入し、素人を殺して逃げるのに腕利きだったら一分とかからないはずだ。俺でもそれくらいできるだろうからクノイチならばその半分の時間もかからないのではないか。
そして、領主の部屋は建物の中央の中庭寄り。建物の正面入口の真上だ。つまり俺が座っている噴水から飛べば真っ直ぐに飛び込める位置――。
そのとき、月を影が遮った。右手が剣の柄を握りこむ。驚きはしなかった。
「ビンゴ、だったな」
俺が切っ先を向けるのと、黒衣をまとった美しい女が塀を乗り越えて庭の草木を踏み潰すのは同時だった。
敵の存在は予期していたのだろうが、流石に待ち伏せされているとは考えていなかったのだろう、何故分かった、と言いたげに覆面の上の目が少しだけ大きく見開かれていた。そのシルエットへ向けて鋭く一歩を踏み出し、伸ばした切っ先をそのまま突き出す。
クノイチが内心の動揺を押し隠して滑らかな動作で腰の獲物に手を伸ばし一瞬で引き抜いた。片刃の見慣れない剣。それが彼女の眼前にかざされ、突き出した俺の剣を間一髪受け流す。しかし一撃で終わらせない。受け流された剣尖を引き戻さず、横になぎ払い、返す刃で女の体を袈裟懸けに切り払う。息もつかせぬ連撃だったが、クノイチは人間離れした動きで右へ左へと的確に躱し、あるいは剣で受け止め、鮮やかにトンボをきった。瞬時に間合いを引き離し、体制を整える。
彼女は腰を低く落とし、右手で変わった形の剣を構えた。ジパングからの流れ者が持っていたカタナという武器を俺は連想したが、それよりもやや短い。逆手に持たれたそれが真っ直ぐに俺の喉元に向いた。急所を貫く、それに特化した構えのように思える。踵は完全に地につけずいつでも動けるように。そして残る左手は半身で隠されて腰元に伸びていた。果たしてその左手から何が飛び出すのか。手の出処が体で隠れて分からないだけ、反応するのが厄介に思える。構えた女からひしひしと殺気が伝わった。
殺気が伝わる感覚は、足元を蛇が這い回るような感覚に似ている。幾度もなく命のやり取りをしてきて馴染み深い感覚が一人の妖艶な体をした女から伝わる。俺はいつしか、牙を剥くような笑みを浮かべていた。
「いいねえ、嬢ちゃん。大したタマだぜ」
「…………」
対峙した彼女は眉一つ動かさずに無言を貫く。今すぐここから退く事もしないようだ。口封じをしてから逃げるつもりなのか、俺を『掃除』してから領主の暗殺を狙っているのだろうか。俺を増援が来る前に消せる自信でもあるのだろうか、その表情からは何も読み取れない。
いずれにせよ、俺をこの場で殺すつもりではいるらしい。
「実に俺好みだぜ、アンタ。その殺気も、そのエロい胸もな!」
「…………ッ!」
挑発が増援を呼ぶためのものだとすぐに気がついたのか、やや焦れたようにクノイチが一歩を踏み出し、その切っ先が俺の喉元に迫る。見え透いた一撃を俺は剣で受け止め、そのまま押し込むように肩から体当たりを仕掛ける。
「――ッ!?」
泡を食ったクノイチが体制を崩す。隠された左手から変わった形の短刀が放り出され、空いた手で彼女は地面に手をついてなんとか受身を取った。その彼女に覆いかぶさるように俺はのしかかる。
見た目通りの華奢な体だ。恐らく速さを武器に立ち回るタイプの戦士だろうから、足さえ封じてしまえばどうとでもなる。そう考えて実行した作戦はずに当たったようだ。
「どうした嬢ちゃん。男に押し倒されるのは初めてか?」
馬乗りになり、左手で彼女の手首を抑えてから剣を振りかぶる。チェックメイト、内心で勝利を確信した瞬間に横合いからムチのようなものが伸びてきて、俺の剣を絡め取った。
「なんだと!?」
「……っ!」
予期せぬ事態に俺が驚くよりも先に腰のしたでクノイチがお互いの体の間に足を滑り込ませて、俺の拘束を振りほどく。このまま抑えていても獲物がなくては勝ち目がない。そう判断して、俺は彼女に蹴り飛ばされるままに地面を転がった。
徒手空拳でクノイチと対峙する羽目になる。見ると俺の剣を弾いたのは彼女の尻から伸びる尻尾のようだった。尖端が矢尻のようになっており、それが絡みついた俺の剣を背後にぽいっと捨てるのが見えた。
「オイオイ、可愛い顔して酷い事するな」
苦し紛れに軽口を叩いてみるも、彼女は表情を変えないどころか左手から暗器を投げつけて俺を黙らせにかかる。獲物が無い今、俺にそれらを防ぐ手段は無く、ただ避けるしか無かった。
走る俺の背後の地面に点々と短刀が突き刺さっていく。あっという間に間合いが詰められ、俺は地面に刺さった暗器を引き抜いて応戦した。しかしいかんせん刃渡りが短いものだし、使い慣れないものだから致命傷を避けるのがやっとといったところだ。
「敵襲っ! 敵襲ッー!」
「助太刀します!」
三度目の斬撃をきわどいところで受け止めて、ようやく増援が駆けつけたのか、屋敷全体が騒がしくなる。ガチャガチャと甲冑を鳴らしながら大勢の騎士が駆けつけて。一斉にクノイチに剣を向けた。
「悪いな、俺の粘り勝ちって事で」
「……ふん」
不敵な笑みを浮かべて勝利宣言をする俺に、不機嫌そうに彼女は鼻を鳴らし俺から距離を取った。俺が追撃をかけるよりも先に左手を地面に叩きつける。
ぼふん、と音をたててあたりに白いモヤが充満する。咄嗟に鼻を手で覆って庇うが毒の類ではなく、モヤが晴れた頃には彼女の姿はどこにも無かった。
*
その日に二度目の敵襲は無かった。俺は領主からその日の報酬と同時に成功報酬もたんまりとせしめると宿屋にかえって泥のように眠った。
命のやり取りをした後はどうしても眠くなる。傭兵仲間のうちには酒を浴びるほど飲んだり、女を抱いたりする奴が多いが俺は眠るに限る。そういう事をしてストレスを解消しないとその内体ではなく心がダメになってしまうことが多い。だから仕事上がりの傭兵は堕落しきった生活をすることが大半だ。
そして目覚めると夜半だった。どうやら一日中眠っていたらしい。窓を開けると、すっかりあたりは暗くなっていて明かりがついている家も無かった。
酒場にでも繰り出そうかと思ったがこんな時間に一人で飲んでも楽しい事はない。結局俺は窓の縁に腰掛けてぼんやりと空を眺めることにした。
空は曇っていて、月明かりのない暗い夜だった。一面の闇に包まれるような気がして、目を瞑ったり開いたりをしてみる。
その闇の中で俺は昨日の戦いを思い描いていた。走る俺の剣。躱す彼女。俺の首筋に伸びる彼女のカタナ。
昨日の戦いは俺の惜敗と言っていいだろう。押し倒し、確実に仕留めたと思ったがそれを凌がれてからは防戦一方だった。次に立ち会う機会がもしあれば、あの尻尾にも十分な注意を払わなければならない。
あの状況に持ち込んだ際にどう動くのが的確だったのか、俺は夜風にあたりながら分析を始める。そして、そうするあまりに窓際に何かが引っかかった音を俺は聞き逃していた。
何かが壁を蹴り上がってくる音。それを聞きつけてようやく俺は思考から現実に引き戻される。しかし、その時には全てが遅かった。俺は完全に不意打ちを喰らい、窓から駆けがあってきた何者かに押し倒された。
「ぐっむっ――」
苦痛に声をあげようとするも、すぐに何かで口を塞がれる。手ではない何か柔らかい感触。すぐに俺の口内を何かの液体が満たし、俺は抵抗もできずにそれを飲み下してしまった。
何を飲まされた? 毒か? 吐き出そうとするも口を塞がれるばかりか、口内に今度は何かぬるぬるとしたものが押し入れられる。暴れて振りほどこうにも既に俺の両手が縄か何かでまとめて縛り上げられていた。
なんという手際の良さか。舌を巻いていると、雲が切れたのか月明かりがほんの少し差し込んで、暗闇に美しい女の顔が浮かび上がった。
昨日のクノイチに俺は押し倒され、口移しで何かを飲まされた、ようやく自体を理解する。
まさか領主ではなく俺を狙ってくるとは。尾行でもされていたのか、己の迂闊さを呪うばかりだ。
首を振って暴れると彼女はようやく唇を離した。俺の両手を拘束しているのは彼女の尻尾のようで、暴れると彼女の尻尾の先が俺の手首に添えられたので、俺は暴れるのをやめた。
「まさか嬢ちゃんから夜這いをしてくるとはね。そんなに俺は魅力的だったかい?」
「…………」
だんまり、か。
「俺に何を飲ませた?」
「……媚薬」
「あん?」
なんでそんなものを、と問い返すよりも先に彼女が服をはだけた。豊満な乳房があらわになり、それを見た俺の逸物がまるで童貞の小僧かのような反応を示す。なるほど、これが媚薬の効果かと頭の片隅で冷静な分析をしていた。
サキュバスという魔物の話をちらと聞いたことがあるが、つまるところクノイチという魔物もそういう特性を持っているのだろう。早い話が、俺と性的に勝負して負けたら死ぬ、そういうわけか。
「昨日のリベンジマッチってか?」
「……女に押し倒されるのは初めて?」
「……上等だ」
昨日俺が彼女に言った台詞をそのまま返されてカチン、と来た。この女、昨日やられたことを根に持ってやがるのか。
「……貴方を暗殺する」
そう宣言するや否や、彼女は上体を倒して俺の顔に自分の胸を押し付けてくる。ふにゅん、とえも言われぬ柔らかい感触が心地よい。それと同時に彼女は俺のズボンを引きずり下ろし、膨れ上がった俺のモノを取り出した。
その指先が触れるやいなや、快感に俺の背筋が一斉に鳥肌立つ。亀頭に掌を重ねられ撫で回されて頭が飛びそうになった。
別に女を知らないわけではなかったが、こんなに気持ち良かった事はそれも前戯でこんなに興奮するのは初めてだ。理性まで快楽に任せてしまいそうになるのをなんとか押さえつけて、お返しとばかりに彼女の胸にしゃぶりつく。
このまま彼女に主導権を握られっぱなしではマズい。耐え抜くつもりでいるのではなくこちらから責めて拘束を振りほどくくらいの気概でいなくては。
「ふあっ♥……動かないで」
「お断りだ、こんなエロい胸押し付けといてそりゃないだろうが」
軽口を叩いて、彼女の胸を責めることに集中する。ツンと勃った乳首に舌を這わせ舐めまわすと彼女は俺を黙らせるかのようにぎゅっと俺のチンポを握った。
そのまま俺の亀頭を撫で回し、鈴口をなぞりあげる。思わず達しそうになるのをなんとか抑える。彼女は不満げに鼻を鳴らした。
「こっちの方がいい……?」
彼女が俺の体から上体を離し、遠ざかる。俺の股ぐらまで顔を近づけて今度は俺に見せつけながら自分の胸で俺の逸物を挟み込んだ。
「貴方好みなんでしょう? このおっぱい」
からかうように囁きながら左右の膨らみで俺のモノを扱くように挟む。彼女の間に挟まれてちょこんと顔を出す先端を見るや否や、彼女はにい、と妖艶に笑って舌先を伸ばした。
「ああっ……」
そのまま亀頭の先をなぞるように舌を這わせてくる。その間も胸が左右から締め付けるように圧迫してきて、まるで膣内にいれているかのような錯覚を起こす。彼女がヨダレでぬるぬるにした胸をさらに激しく動かし、舐る舌はさらに速度を増す。
「これはどう……?」
左右の乳房を上下に揺すりながら乳首を俺のカリ首に沿わせる。同時に下先が俺の尿道をえぐるように動かされた。そして精液を吸い出すかのように唇を窄めて、吸われる。
「くあああっ!」
目の前が真っ白になるほどの快感。ついに俺は我慢しきれずに達してしまった。思わず口を離した彼女の顔と豊満な胸に大量の白濁がぶちまけられる。常ならぬ量の精液を見て、俺は魂ごと吸い上げられているんじゃないかと恐ろしい気持ちになる反面、淫液で汚れる彼女の整った顔を見てもっと汚してしまいたいという欲望を抱いた。
彼女が精液を舐め取り、胸の谷間に水たまりのようになったそれを俺に見せつけながら舐めとっていく。媚薬の効果か、それとも彼女の痴態のせいなのか、俺の逸物は萎える事なく再び反り立つ。
もうすっかり腰砕けになった俺の手の拘束を彼女が解いた。その代わりに俺に馬乗りになって肉壺の入口に俺の怒張をあてがう。
「……挿れたい?」
「……ああ」
俺は頷くしか無かった。彼女の中に挿れたくてたまらない。彼女の全てを貪りつくして、快楽の限りを突き進みたい。そしてありったけの欲望を吐き出して彼女を汚したい。その一心だった。
「……なら、私の婿になると約束して」
彼女が愛液を俺の上に垂らし、モノを入口に擦りつけて俺を焦らす。腰が動きそうになって、挿れかけたところをお預けでもするように彼女が腰をあげた。もどかしい思いに気が狂いそうになる。
「そうすれば、いっぱい気持ちよくしてあげる」
「……嫌だね」
即座に否定した。理性を保った訳ではない。欲望のままに俺は首を左右にふった。クノイチの目が驚愕に見開かれる。俺はそんな彼女の腕を掴み、自分の下に引きずり下ろして体制を入れ替える。そのまま昨日の死闘の時のように押し倒した。
「お前が俺のモノになるんだ、よっ!」
「やっ!? そんな、待って……!」
そのまま彼女の両足を掴んで引き倒す。俺の目の前に無防備な秘所と尻穴が顕になった。くぱくぱと淫らに俺を誘う中に躊躇うこともなく、怒張を突き入れる。余裕を無くした彼女の喘ぎ声が響いた。
「夜の戦いは俺の勝ちだな!」
「やあっ、そんな……♥」
彼女の抗弁も待たずに激しく腰を打ち付ける。ぐっちゃぐっちゃと淫猥な音をたてながら愛液の飛沫が飛び散る。俺は純粋に快楽を追求して何度も何度も奥深くを突いた。それに耐えるように彼女がベットのシーツをぎゅっと握る。
何度も何度も突いて、彼女の中で達する。しかし、一度出したくらいで俺のモノが萎える事は無かった。彼女を休ませずに一度引き抜き、俺に背を向けさせる。
「まって、ちょっと――」
「うるさい、お前から夜這いかけたんだから文句言うなよ」
引き抜いてどろどろと精液を垂れ流すマンコを後ろから貫き、彼女の両手を引っ張る。まだ精液の付いたままの胸がぴんと張られて乳首が一層自己主張を強くした。
「やっ、ああっ……♥」
後ろから先端を子宮に押し付けるような責めに彼女が快楽の悲鳴をあげる。俺も薬が回ったのか、何を口走っているのかもうわけがわからない。ただ彼女を犯し、得られる快楽に夢中でひたすらに腰を動かした。
もう何度彼女を犯したか分からない。気がつくとこの快感を独り占めしたくて、そして従順に犯されるままの彼女が愛おしくて俺は奇妙な事を口走り始めていた。
「お前の婿じゃねえ! お前が俺の嫁になれ! わかったか!」
「は、はいぃ……♥」
意趣返しに子宮を責めながら叫ぶ。快楽にとろけた彼女は従順な返事を返した。それに気をよくして、彼女をいじめたくなるどす黒い欲望が俺を犯し始める。
「媚薬まで盛って何しに来たかと思えば俺に犯されに来ただけか!? 本当にお前は淫乱だな」
「はい、ごめんなしゃいぃ……♥」
何度目かの射精を経験しても尚硬いままのモノで彼女を責め続ける。いつの間にか彼女の入口周りは白く泡立っていた。それが一層俺の興奮を掻き立てて、さらに俺の腰を早める。
「おらっ、淫乱らしくおねだりしてみろ」
「はいぃ、だんなさまぁ♥私のオマンコにいっぱい射精してくださぃ♥」
「上等だ!」
理性の蕩けきった頭で彼女の願いを聞き入れて、子宮口を一層激しく責める。小刻みに彼女が絶頂を繰り返し、さらに俺の快感が引き上げられていく。もう限界がすぐそこにあった。
「イくぞ!」
「はぃ、精液いっぱい出してください、だんなさまぁ♥」
淫らな誘いの言葉に俺はもう何度目か分からない絶頂を彼女の中で迎えた。もう彼女の中には入れる場所もないだろうに、彼女は俺の精液を全て受け止める。引き抜くと、大量の精液がまるで小便を漏らしたかのようにちょろちょろと流れ出した。
薬の効果でも切れたのか、精も魂も尽き果てたか俺の意識がふらっと遠のく。彼女にしなだれかかりながら、俺は眠るように意識を失った。
*
目が覚めるとむせ返るような雄と雌の匂いが入り混じる何とも言えない臭気が襲ってきた。それを感じて、昨日の事が現実であったことを思い知る。
隣では俺よりも早く起きた彼女がせっせと身支度を整えていた。俺を殺すつもりはもはや無いらしい。俺が起きたのを見ると、まるで奴隷がそうするかのように、床に座り俺に頭を下げた。
「おはようございます、旦那様」
「おい、待て待て」
慌てる俺に顔をあげて彼女は小首をかしげる。昨日の淫らな様子とは一変して、素顔の彼女はとても愛らしい表情をしていた。
窓を明けて嫌な匂いを外に逃がしてやりながら考える。本当に彼女は俺の嫁になるつもりでいるようだ。
「もう俺を殺すつもりはないのか?」
「夫を殺す妻がおりましょうか」
「何故敬語なんだ」
「貴方は私の主であり、夫となりましたので」
「本気か?」
「勿論です」
再び奴隷のように這いつくばって頭を下げるのを止めて、俺は彼女をベットまで引き上げた。そして主の命令だから、と言いつけて彼女の事情を洗いざらい全て話させる。
クノイチという魔物の文化も一通り襲わった。俺に下された暗殺任務とやらはつまるところ、こいつが俺を気に入ったから婿として里に連れ帰るつもりでいたらしい。
昨日媚薬を盛って夜這いに来たのも犯して魅了するつもりだったらしいが逆に俺に犯されて手篭にされてしまったそうだ。ミイラ取りがミイラになるという話はこのことかだろう。
「お前、どうして俺を気に入ったの?」
「旦那様は私と剣を交えても死ななかったものですから。それに――」
「それに?」
言い淀んだ先を促すと、彼女は顔を赤らめて俯く。生娘のような反応からは昨日の痴態など考えられない。
「私の事を好みだとおっしゃってくださったので……」
えへへ、と照れた笑いをこぼして彼女がぎゅっと俺の腕にしがみついて甘えてくる。ふにん、と胸を押し付けて上目遣いに俺を見た。
「昨日は気持ち良かったですか?」
「……ああ。死にそうなほどな」
擦り寄る彼女の頭をなでてやるとくすぐったそうに彼女が笑う。あれだけ淫らな事をしたのに内面は初心な少女のままのようだ。それが何とも愛おしい。
「旦那様はこれからどうなさいますか? 忍びの里にいらしてくださっても構わないのですけど」
「さて、どうするかな」
当面生きるだけの金は手にした。そして安住の地になるかどうかは分からないが帰ることのできる場所も手に入れた。
彼女を腕に抱いてベットにごろん、と寝転がる。再戦の予感に、彼女が嬉しそうに笑った。
「まあ、気が向いた戦場にでも行くかね。お前も一緒についてきてくれるんだろう?」
「はい、どこまでもお供いたします。旦那様♥」
「いい嫁さんだぜ」
快諾する彼女をぎゅっと抱き寄せて俺は愛情と欲望のままに彼女の服を剥ぎ取っていった――。
まず一つはその土地が教団の領地だということ。あるいは自領がそれに接しているという事。簡単に言ってしまえば長いものには巻かれろということだ。トップの人間に逆らってもどうしようもないし、おっかない隣人がいればなあなあで済ませてやり過ごす。
もう一つは敵対している領が親魔物派であるということだ。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いだなんて言葉がジバングにはあるらしいが、まさしくそういう事だ。
ここの領主もそういうクチのようで、かの有名な竜騎士軍団を抱えている領と敵対している。
「主の暗殺を阻止してほしい」
そんな依頼が舞い込んできたのが三日前。俺の評判を聞きつけて身なりの良い男がそんな話を持ちかけてきた。聞けば俺は戦場で百人斬りを達成した猛者だと信じているらしい。とりあえず俺が腕利きだというのは真実なので何も否定しなかった。
こういう仕事を続けていく上で重要なのは評判だ。まるっきりの嘘はいけないが多少のフカしも必要。なんていったってそのほうが箔がつくからな。ちなみに本当に斬ったのは五十と八人までだ。
報酬を聞けば日頃俺がこなすような依頼、地方領の小競り合いの従軍だとかそういったものの倍以上の額を提示された。しかも日ごとに即金で支払われるという。思わず飛びつきそうになったが、何事にもウマい話には裏がある。詳細を問いただすと、別に隠すようなことでも無かったのかあっさりとその男は教えてくれた。
襲撃が予想されるのは人間からではなく魔物からだという。魔王領と接している訳でもないのになんでまた、と俺は重ねて事情を聞く。そしてクノイチという魔物の存在を知った。
俺と同じ傭兵として生きる魔物。単一での戦闘を得意とし、間諜や斥候などとして重宝されるエージェント。親魔物領と繋がっているらしく、そういった連中からの依頼で暗殺などもこなすのだとか。
そして、現在俺がいる領と敵対している領主がクノイチの住処である『忍びの里』に依頼人の暗殺依頼を出したという情報が寄せられた。きっとスパイでも潜らせていたのだろう、慎重な事だ。
俺は特に何も気負わずにその依頼を受けることにした。単一での戦闘は俺の方も得意だし、強いと聞いてわくわくせずにはいられない。何よりも報酬は魅力的だ。
即決で依頼を受けたその日の内に俺はその領主のもとへ案内された。領主は鼻が高く鷹のような鋭い目つきをする男だったが、喋ればアヒルか何かのようにぐちぐちとよく喋る男だった。
「君が例の傭兵とやらかね」
「はい、よろしくお願いしまさ」
営業スマイルを浮かべる俺に向けてねちっこい視線を浴びせてから彼はふん、と鼻を鳴らした。
「話は聞いたな。君に依頼するのは私が寝ている間の護衛だけだ。それ以外には正騎士に守らせる。それでいいだろう?」
「ええ、そのほうがこちらとしてもありがたいですぜ」
「ふん、暗殺などあの馬鹿な男がやりそうな事だ。私を殺したければご自慢の龍騎士軍団でも連れてくればいいだろうに」
忌々しげに、彼が椅子に腰掛けて貧乏ゆすりをする。
「竜騎士ですか」
「知っているかね?」
「ええ、戦場でやりあったことはありますぜ。脱走兵か何かで単騎でしたがね。まあ、恐るるには足りませんやな」
露骨な俺のご機嫌取りに気を良くしたようで、ふんと鳴らされた鼻が今度はすこし嬉しげに響く。
実際のところ竜騎士は恐るべき敵だ。まず何よりこちらの剣が届かない事が殆ど。剣を当てるにはこちらに向かって降下し武器を振るう瞬間、後の先を取って殺すしかないだろう。まともにやり合うには弓矢や魔法部隊の火力支援は必須といったところだ。白兵戦で勝利を収めるのは至難の業だろう。おそらくこの領主の軍隊では難しい。
そんな内心の俺の分析をよそに彼は俺に細かい仕事の説明を始める。
俺が彼の身辺を護衛するのは日付が変わる時間から夜明けまでのおよそ六時間。彼の寝室の周囲には騎士が詰めているので俺は屋敷の中庭などを担当することになる。
まあ、金で雇った流れ者に重要な場所を任せるわけにもいかないので妥当な配置だろう。それだけ聞いて、その日はその場を辞した。その後、彼の寝室を守るという騎士にも会ったがかなりの腕前だと見受けられた。信頼はしてよさそうだ。
そして、なんの問題も起きないまま四日目の夜を迎える。
*
裏口から衛兵に話をつけて領主の屋敷内に入れてもらう。足音を殺して屋敷内を通り、誰もいない中庭へたどり着いてからようやく俺は息をついた。
所詮は流れ者の傭兵だ。屋敷内をうろうろしていれば衛兵に目をつけられるし、暗殺者と間違われて騒がれても困る。俺は中庭の中央にある噴水の縁に腰掛けた。
中庭は三方をコの字形の建物に囲まれるようにあり、正門に繋がっている。正門は現在封鎖され、門番が誰であっても入れないように目を光らせている。もし正門で何かあれば俺がすぐさま駆けつけられるように門の合鍵を渡されていた。
正面から見れば左右対称に見えるであろう建物は全て窓が締め切られており、開けるには少々手間がかかる作りにもなっている。窓から入るには破ったほうが手っ取り早いが、そうすれば瞬く間に囲まれることになるだろう。
現実的に考えれば裏口から入るのが成功率が高いだろうが、裏門に設けてある守衛所には衛兵が必ず詰めているし、狭い入口である以上誰かに見咎められる可能性は高い。
さて、どうやってクノイチとやらはここを突破するのか非常に見ものだ。
腰に差した長剣を引き抜き、大気に晒す。月光を反射してぎらりと輝くのがなんとも頼もしい。この剣と共に幾多の戦場を俺は駆け抜けてきた、その相棒に対する信頼は十分、そして手入れも同様に、だ。
暗殺の阻止、この任務では奇襲を受けることを前提に全てを考えなくてはならないだろう。いつでも戦えるように装備の手入れは勿論のこと、いつでも駆け出せるように準備しておかなくては。長剣を足元にたてかけたまま、俺は物思いに耽る。
もし、俺が彼を暗殺するとするならどう侵入するか。俺ならば、単純に塀を飛び越えることを考える。律儀に扉などを使う必要は無いのだ。そうして悠々と中に入り、中で一度『掃除』をしてから領主の部屋の窓を叩き割り、殺してからさっさと逃げる。
窓を叩き割って侵入し、素人を殺して逃げるのに腕利きだったら一分とかからないはずだ。俺でもそれくらいできるだろうからクノイチならばその半分の時間もかからないのではないか。
そして、領主の部屋は建物の中央の中庭寄り。建物の正面入口の真上だ。つまり俺が座っている噴水から飛べば真っ直ぐに飛び込める位置――。
そのとき、月を影が遮った。右手が剣の柄を握りこむ。驚きはしなかった。
「ビンゴ、だったな」
俺が切っ先を向けるのと、黒衣をまとった美しい女が塀を乗り越えて庭の草木を踏み潰すのは同時だった。
敵の存在は予期していたのだろうが、流石に待ち伏せされているとは考えていなかったのだろう、何故分かった、と言いたげに覆面の上の目が少しだけ大きく見開かれていた。そのシルエットへ向けて鋭く一歩を踏み出し、伸ばした切っ先をそのまま突き出す。
クノイチが内心の動揺を押し隠して滑らかな動作で腰の獲物に手を伸ばし一瞬で引き抜いた。片刃の見慣れない剣。それが彼女の眼前にかざされ、突き出した俺の剣を間一髪受け流す。しかし一撃で終わらせない。受け流された剣尖を引き戻さず、横になぎ払い、返す刃で女の体を袈裟懸けに切り払う。息もつかせぬ連撃だったが、クノイチは人間離れした動きで右へ左へと的確に躱し、あるいは剣で受け止め、鮮やかにトンボをきった。瞬時に間合いを引き離し、体制を整える。
彼女は腰を低く落とし、右手で変わった形の剣を構えた。ジパングからの流れ者が持っていたカタナという武器を俺は連想したが、それよりもやや短い。逆手に持たれたそれが真っ直ぐに俺の喉元に向いた。急所を貫く、それに特化した構えのように思える。踵は完全に地につけずいつでも動けるように。そして残る左手は半身で隠されて腰元に伸びていた。果たしてその左手から何が飛び出すのか。手の出処が体で隠れて分からないだけ、反応するのが厄介に思える。構えた女からひしひしと殺気が伝わった。
殺気が伝わる感覚は、足元を蛇が這い回るような感覚に似ている。幾度もなく命のやり取りをしてきて馴染み深い感覚が一人の妖艶な体をした女から伝わる。俺はいつしか、牙を剥くような笑みを浮かべていた。
「いいねえ、嬢ちゃん。大したタマだぜ」
「…………」
対峙した彼女は眉一つ動かさずに無言を貫く。今すぐここから退く事もしないようだ。口封じをしてから逃げるつもりなのか、俺を『掃除』してから領主の暗殺を狙っているのだろうか。俺を増援が来る前に消せる自信でもあるのだろうか、その表情からは何も読み取れない。
いずれにせよ、俺をこの場で殺すつもりではいるらしい。
「実に俺好みだぜ、アンタ。その殺気も、そのエロい胸もな!」
「…………ッ!」
挑発が増援を呼ぶためのものだとすぐに気がついたのか、やや焦れたようにクノイチが一歩を踏み出し、その切っ先が俺の喉元に迫る。見え透いた一撃を俺は剣で受け止め、そのまま押し込むように肩から体当たりを仕掛ける。
「――ッ!?」
泡を食ったクノイチが体制を崩す。隠された左手から変わった形の短刀が放り出され、空いた手で彼女は地面に手をついてなんとか受身を取った。その彼女に覆いかぶさるように俺はのしかかる。
見た目通りの華奢な体だ。恐らく速さを武器に立ち回るタイプの戦士だろうから、足さえ封じてしまえばどうとでもなる。そう考えて実行した作戦はずに当たったようだ。
「どうした嬢ちゃん。男に押し倒されるのは初めてか?」
馬乗りになり、左手で彼女の手首を抑えてから剣を振りかぶる。チェックメイト、内心で勝利を確信した瞬間に横合いからムチのようなものが伸びてきて、俺の剣を絡め取った。
「なんだと!?」
「……っ!」
予期せぬ事態に俺が驚くよりも先に腰のしたでクノイチがお互いの体の間に足を滑り込ませて、俺の拘束を振りほどく。このまま抑えていても獲物がなくては勝ち目がない。そう判断して、俺は彼女に蹴り飛ばされるままに地面を転がった。
徒手空拳でクノイチと対峙する羽目になる。見ると俺の剣を弾いたのは彼女の尻から伸びる尻尾のようだった。尖端が矢尻のようになっており、それが絡みついた俺の剣を背後にぽいっと捨てるのが見えた。
「オイオイ、可愛い顔して酷い事するな」
苦し紛れに軽口を叩いてみるも、彼女は表情を変えないどころか左手から暗器を投げつけて俺を黙らせにかかる。獲物が無い今、俺にそれらを防ぐ手段は無く、ただ避けるしか無かった。
走る俺の背後の地面に点々と短刀が突き刺さっていく。あっという間に間合いが詰められ、俺は地面に刺さった暗器を引き抜いて応戦した。しかしいかんせん刃渡りが短いものだし、使い慣れないものだから致命傷を避けるのがやっとといったところだ。
「敵襲っ! 敵襲ッー!」
「助太刀します!」
三度目の斬撃をきわどいところで受け止めて、ようやく増援が駆けつけたのか、屋敷全体が騒がしくなる。ガチャガチャと甲冑を鳴らしながら大勢の騎士が駆けつけて。一斉にクノイチに剣を向けた。
「悪いな、俺の粘り勝ちって事で」
「……ふん」
不敵な笑みを浮かべて勝利宣言をする俺に、不機嫌そうに彼女は鼻を鳴らし俺から距離を取った。俺が追撃をかけるよりも先に左手を地面に叩きつける。
ぼふん、と音をたててあたりに白いモヤが充満する。咄嗟に鼻を手で覆って庇うが毒の類ではなく、モヤが晴れた頃には彼女の姿はどこにも無かった。
*
その日に二度目の敵襲は無かった。俺は領主からその日の報酬と同時に成功報酬もたんまりとせしめると宿屋にかえって泥のように眠った。
命のやり取りをした後はどうしても眠くなる。傭兵仲間のうちには酒を浴びるほど飲んだり、女を抱いたりする奴が多いが俺は眠るに限る。そういう事をしてストレスを解消しないとその内体ではなく心がダメになってしまうことが多い。だから仕事上がりの傭兵は堕落しきった生活をすることが大半だ。
そして目覚めると夜半だった。どうやら一日中眠っていたらしい。窓を開けると、すっかりあたりは暗くなっていて明かりがついている家も無かった。
酒場にでも繰り出そうかと思ったがこんな時間に一人で飲んでも楽しい事はない。結局俺は窓の縁に腰掛けてぼんやりと空を眺めることにした。
空は曇っていて、月明かりのない暗い夜だった。一面の闇に包まれるような気がして、目を瞑ったり開いたりをしてみる。
その闇の中で俺は昨日の戦いを思い描いていた。走る俺の剣。躱す彼女。俺の首筋に伸びる彼女のカタナ。
昨日の戦いは俺の惜敗と言っていいだろう。押し倒し、確実に仕留めたと思ったがそれを凌がれてからは防戦一方だった。次に立ち会う機会がもしあれば、あの尻尾にも十分な注意を払わなければならない。
あの状況に持ち込んだ際にどう動くのが的確だったのか、俺は夜風にあたりながら分析を始める。そして、そうするあまりに窓際に何かが引っかかった音を俺は聞き逃していた。
何かが壁を蹴り上がってくる音。それを聞きつけてようやく俺は思考から現実に引き戻される。しかし、その時には全てが遅かった。俺は完全に不意打ちを喰らい、窓から駆けがあってきた何者かに押し倒された。
「ぐっむっ――」
苦痛に声をあげようとするも、すぐに何かで口を塞がれる。手ではない何か柔らかい感触。すぐに俺の口内を何かの液体が満たし、俺は抵抗もできずにそれを飲み下してしまった。
何を飲まされた? 毒か? 吐き出そうとするも口を塞がれるばかりか、口内に今度は何かぬるぬるとしたものが押し入れられる。暴れて振りほどこうにも既に俺の両手が縄か何かでまとめて縛り上げられていた。
なんという手際の良さか。舌を巻いていると、雲が切れたのか月明かりがほんの少し差し込んで、暗闇に美しい女の顔が浮かび上がった。
昨日のクノイチに俺は押し倒され、口移しで何かを飲まされた、ようやく自体を理解する。
まさか領主ではなく俺を狙ってくるとは。尾行でもされていたのか、己の迂闊さを呪うばかりだ。
首を振って暴れると彼女はようやく唇を離した。俺の両手を拘束しているのは彼女の尻尾のようで、暴れると彼女の尻尾の先が俺の手首に添えられたので、俺は暴れるのをやめた。
「まさか嬢ちゃんから夜這いをしてくるとはね。そんなに俺は魅力的だったかい?」
「…………」
だんまり、か。
「俺に何を飲ませた?」
「……媚薬」
「あん?」
なんでそんなものを、と問い返すよりも先に彼女が服をはだけた。豊満な乳房があらわになり、それを見た俺の逸物がまるで童貞の小僧かのような反応を示す。なるほど、これが媚薬の効果かと頭の片隅で冷静な分析をしていた。
サキュバスという魔物の話をちらと聞いたことがあるが、つまるところクノイチという魔物もそういう特性を持っているのだろう。早い話が、俺と性的に勝負して負けたら死ぬ、そういうわけか。
「昨日のリベンジマッチってか?」
「……女に押し倒されるのは初めて?」
「……上等だ」
昨日俺が彼女に言った台詞をそのまま返されてカチン、と来た。この女、昨日やられたことを根に持ってやがるのか。
「……貴方を暗殺する」
そう宣言するや否や、彼女は上体を倒して俺の顔に自分の胸を押し付けてくる。ふにゅん、とえも言われぬ柔らかい感触が心地よい。それと同時に彼女は俺のズボンを引きずり下ろし、膨れ上がった俺のモノを取り出した。
その指先が触れるやいなや、快感に俺の背筋が一斉に鳥肌立つ。亀頭に掌を重ねられ撫で回されて頭が飛びそうになった。
別に女を知らないわけではなかったが、こんなに気持ち良かった事はそれも前戯でこんなに興奮するのは初めてだ。理性まで快楽に任せてしまいそうになるのをなんとか押さえつけて、お返しとばかりに彼女の胸にしゃぶりつく。
このまま彼女に主導権を握られっぱなしではマズい。耐え抜くつもりでいるのではなくこちらから責めて拘束を振りほどくくらいの気概でいなくては。
「ふあっ♥……動かないで」
「お断りだ、こんなエロい胸押し付けといてそりゃないだろうが」
軽口を叩いて、彼女の胸を責めることに集中する。ツンと勃った乳首に舌を這わせ舐めまわすと彼女は俺を黙らせるかのようにぎゅっと俺のチンポを握った。
そのまま俺の亀頭を撫で回し、鈴口をなぞりあげる。思わず達しそうになるのをなんとか抑える。彼女は不満げに鼻を鳴らした。
「こっちの方がいい……?」
彼女が俺の体から上体を離し、遠ざかる。俺の股ぐらまで顔を近づけて今度は俺に見せつけながら自分の胸で俺の逸物を挟み込んだ。
「貴方好みなんでしょう? このおっぱい」
からかうように囁きながら左右の膨らみで俺のモノを扱くように挟む。彼女の間に挟まれてちょこんと顔を出す先端を見るや否や、彼女はにい、と妖艶に笑って舌先を伸ばした。
「ああっ……」
そのまま亀頭の先をなぞるように舌を這わせてくる。その間も胸が左右から締め付けるように圧迫してきて、まるで膣内にいれているかのような錯覚を起こす。彼女がヨダレでぬるぬるにした胸をさらに激しく動かし、舐る舌はさらに速度を増す。
「これはどう……?」
左右の乳房を上下に揺すりながら乳首を俺のカリ首に沿わせる。同時に下先が俺の尿道をえぐるように動かされた。そして精液を吸い出すかのように唇を窄めて、吸われる。
「くあああっ!」
目の前が真っ白になるほどの快感。ついに俺は我慢しきれずに達してしまった。思わず口を離した彼女の顔と豊満な胸に大量の白濁がぶちまけられる。常ならぬ量の精液を見て、俺は魂ごと吸い上げられているんじゃないかと恐ろしい気持ちになる反面、淫液で汚れる彼女の整った顔を見てもっと汚してしまいたいという欲望を抱いた。
彼女が精液を舐め取り、胸の谷間に水たまりのようになったそれを俺に見せつけながら舐めとっていく。媚薬の効果か、それとも彼女の痴態のせいなのか、俺の逸物は萎える事なく再び反り立つ。
もうすっかり腰砕けになった俺の手の拘束を彼女が解いた。その代わりに俺に馬乗りになって肉壺の入口に俺の怒張をあてがう。
「……挿れたい?」
「……ああ」
俺は頷くしか無かった。彼女の中に挿れたくてたまらない。彼女の全てを貪りつくして、快楽の限りを突き進みたい。そしてありったけの欲望を吐き出して彼女を汚したい。その一心だった。
「……なら、私の婿になると約束して」
彼女が愛液を俺の上に垂らし、モノを入口に擦りつけて俺を焦らす。腰が動きそうになって、挿れかけたところをお預けでもするように彼女が腰をあげた。もどかしい思いに気が狂いそうになる。
「そうすれば、いっぱい気持ちよくしてあげる」
「……嫌だね」
即座に否定した。理性を保った訳ではない。欲望のままに俺は首を左右にふった。クノイチの目が驚愕に見開かれる。俺はそんな彼女の腕を掴み、自分の下に引きずり下ろして体制を入れ替える。そのまま昨日の死闘の時のように押し倒した。
「お前が俺のモノになるんだ、よっ!」
「やっ!? そんな、待って……!」
そのまま彼女の両足を掴んで引き倒す。俺の目の前に無防備な秘所と尻穴が顕になった。くぱくぱと淫らに俺を誘う中に躊躇うこともなく、怒張を突き入れる。余裕を無くした彼女の喘ぎ声が響いた。
「夜の戦いは俺の勝ちだな!」
「やあっ、そんな……♥」
彼女の抗弁も待たずに激しく腰を打ち付ける。ぐっちゃぐっちゃと淫猥な音をたてながら愛液の飛沫が飛び散る。俺は純粋に快楽を追求して何度も何度も奥深くを突いた。それに耐えるように彼女がベットのシーツをぎゅっと握る。
何度も何度も突いて、彼女の中で達する。しかし、一度出したくらいで俺のモノが萎える事は無かった。彼女を休ませずに一度引き抜き、俺に背を向けさせる。
「まって、ちょっと――」
「うるさい、お前から夜這いかけたんだから文句言うなよ」
引き抜いてどろどろと精液を垂れ流すマンコを後ろから貫き、彼女の両手を引っ張る。まだ精液の付いたままの胸がぴんと張られて乳首が一層自己主張を強くした。
「やっ、ああっ……♥」
後ろから先端を子宮に押し付けるような責めに彼女が快楽の悲鳴をあげる。俺も薬が回ったのか、何を口走っているのかもうわけがわからない。ただ彼女を犯し、得られる快楽に夢中でひたすらに腰を動かした。
もう何度彼女を犯したか分からない。気がつくとこの快感を独り占めしたくて、そして従順に犯されるままの彼女が愛おしくて俺は奇妙な事を口走り始めていた。
「お前の婿じゃねえ! お前が俺の嫁になれ! わかったか!」
「は、はいぃ……♥」
意趣返しに子宮を責めながら叫ぶ。快楽にとろけた彼女は従順な返事を返した。それに気をよくして、彼女をいじめたくなるどす黒い欲望が俺を犯し始める。
「媚薬まで盛って何しに来たかと思えば俺に犯されに来ただけか!? 本当にお前は淫乱だな」
「はい、ごめんなしゃいぃ……♥」
何度目かの射精を経験しても尚硬いままのモノで彼女を責め続ける。いつの間にか彼女の入口周りは白く泡立っていた。それが一層俺の興奮を掻き立てて、さらに俺の腰を早める。
「おらっ、淫乱らしくおねだりしてみろ」
「はいぃ、だんなさまぁ♥私のオマンコにいっぱい射精してくださぃ♥」
「上等だ!」
理性の蕩けきった頭で彼女の願いを聞き入れて、子宮口を一層激しく責める。小刻みに彼女が絶頂を繰り返し、さらに俺の快感が引き上げられていく。もう限界がすぐそこにあった。
「イくぞ!」
「はぃ、精液いっぱい出してください、だんなさまぁ♥」
淫らな誘いの言葉に俺はもう何度目か分からない絶頂を彼女の中で迎えた。もう彼女の中には入れる場所もないだろうに、彼女は俺の精液を全て受け止める。引き抜くと、大量の精液がまるで小便を漏らしたかのようにちょろちょろと流れ出した。
薬の効果でも切れたのか、精も魂も尽き果てたか俺の意識がふらっと遠のく。彼女にしなだれかかりながら、俺は眠るように意識を失った。
*
目が覚めるとむせ返るような雄と雌の匂いが入り混じる何とも言えない臭気が襲ってきた。それを感じて、昨日の事が現実であったことを思い知る。
隣では俺よりも早く起きた彼女がせっせと身支度を整えていた。俺を殺すつもりはもはや無いらしい。俺が起きたのを見ると、まるで奴隷がそうするかのように、床に座り俺に頭を下げた。
「おはようございます、旦那様」
「おい、待て待て」
慌てる俺に顔をあげて彼女は小首をかしげる。昨日の淫らな様子とは一変して、素顔の彼女はとても愛らしい表情をしていた。
窓を明けて嫌な匂いを外に逃がしてやりながら考える。本当に彼女は俺の嫁になるつもりでいるようだ。
「もう俺を殺すつもりはないのか?」
「夫を殺す妻がおりましょうか」
「何故敬語なんだ」
「貴方は私の主であり、夫となりましたので」
「本気か?」
「勿論です」
再び奴隷のように這いつくばって頭を下げるのを止めて、俺は彼女をベットまで引き上げた。そして主の命令だから、と言いつけて彼女の事情を洗いざらい全て話させる。
クノイチという魔物の文化も一通り襲わった。俺に下された暗殺任務とやらはつまるところ、こいつが俺を気に入ったから婿として里に連れ帰るつもりでいたらしい。
昨日媚薬を盛って夜這いに来たのも犯して魅了するつもりだったらしいが逆に俺に犯されて手篭にされてしまったそうだ。ミイラ取りがミイラになるという話はこのことかだろう。
「お前、どうして俺を気に入ったの?」
「旦那様は私と剣を交えても死ななかったものですから。それに――」
「それに?」
言い淀んだ先を促すと、彼女は顔を赤らめて俯く。生娘のような反応からは昨日の痴態など考えられない。
「私の事を好みだとおっしゃってくださったので……」
えへへ、と照れた笑いをこぼして彼女がぎゅっと俺の腕にしがみついて甘えてくる。ふにん、と胸を押し付けて上目遣いに俺を見た。
「昨日は気持ち良かったですか?」
「……ああ。死にそうなほどな」
擦り寄る彼女の頭をなでてやるとくすぐったそうに彼女が笑う。あれだけ淫らな事をしたのに内面は初心な少女のままのようだ。それが何とも愛おしい。
「旦那様はこれからどうなさいますか? 忍びの里にいらしてくださっても構わないのですけど」
「さて、どうするかな」
当面生きるだけの金は手にした。そして安住の地になるかどうかは分からないが帰ることのできる場所も手に入れた。
彼女を腕に抱いてベットにごろん、と寝転がる。再戦の予感に、彼女が嬉しそうに笑った。
「まあ、気が向いた戦場にでも行くかね。お前も一緒についてきてくれるんだろう?」
「はい、どこまでもお供いたします。旦那様♥」
「いい嫁さんだぜ」
快諾する彼女をぎゅっと抱き寄せて俺は愛情と欲望のままに彼女の服を剥ぎ取っていった――。
14/01/07 23:13更新 / ご隠居