虎穴に入らずんば虎子を得ず
霧の大陸、その山中深くに拳鬼と恐れられしもの、ありけり。
世界の格闘家の間でその噂はまことしやかに流れている。しかし、その拳鬼とやらの実在を確認した奴はいないそうだ。人間なのか、それとも魔物なのかもはっきりしないそうだ。俺個人としては、鬼と呼ばれるくらいなんだから魔物なんだろうな、とあたりをつけている。
そして、俺はその拳鬼という奴に勝つつもりではるばる霧の大陸まで渡ってきたのだ。
相手が魔物であろうと、勝つ自身はある。現にこの山に来るまでに何度か魔物をこの手で打ち倒してきた。魔物といえども命は惜しいのか、ある程度傷を負わせると逃げていく。
勿論彼女らに止めを刺すことはしない。どういった目的で人間を襲うのかは俺の預かり知らぬところだが、相手は女でそれにきちんと一対一で戦った戦士でもある。その戦いの結果を汚すような真似はしたくはなかった。
「……む」
木々を掻き分けるように獣道を進んでいいたところ、視界の端に気になるものがうつったので足を止める。
目の前の木に大型の獣が爪で傷を付けた跡があった。虎か、あるいはクマか。それくらいの大きさの爪痕だ。
しかし気になるのは、それは一筋だけだということ。動物が爪を研いだのならばもっとひどく傷ついているはずなのに、まるで目印か何かのように付けられている。
そして山頂まで続いているであろう獣道が、うっすらと、注意しなければ気がつかないほどに二股に分かれていた。
「これは、ひょっとするか?」
宝の地図に現実との整合性を見つけたような、そんな気分だ。慎重に草木を掻き分けて獣道から外れないように山中を進む。幾度も蔦に引っかかったり、蜘蛛の巣を避けて通ったりしながら進むことしばらく。不意に視界がひらけた。
「こいつは驚いたな」
森を抜けると、そこには豊かな草原があった。恐らく山の中腹あたりに位置するのだろう、傾斜は殆どと言っていいほど無く、眼下に大陸を一望できる。そして、草原のすぐ脇を渓流が滝となって落ちてきていて、小さな湖を作っていた。
山中で暮らすとするならばこれ以上ないほどに望ましい環境だ。そして、そこから導き出される推論を裏付けるように渓流のほど近い場所に質素な庵があった。
「たのもう!」
「何者だ!」
すっと深く息を吸い込み、大喝。すると庵の中から答える声があった。
そこから出てきたのは女であった。栗色の長い髪を腰まで下ろした女。そしてその手足は獣毛に覆われており、油断なくこちらを睨めつける目は金色に輝いている。
縦に溝を掘ったかのような黒目。虎の瞳だった。
「貴女が拳鬼か?」
「拳鬼? ふむ、仲間内でそう名乗ったこともあったが」
爪がぎらつく掌で形の良い顎を撫でて、昔を思い出すように人虎が言う。噂は本当のようだった。
ならばなすべきことはただ一つ。
「お手合せを願いたい!」
道着の襟を正し、強く帯を結んで腰を落とす。俺が構えたのを見て、女は眉を顰めた。
「戦うのか? お前死んでも知らんぞ」
「簡単に死ぬほどやわな体ではない。心配は無用だ」
俺の答弁にふむ、と何やら彼女は納得したようで腕を組んだ。
「まあ、この山を無傷で登ってきているから心配はいらんか」
手合わせなど久しぶりだよ、とどこか嬉しそうに独りごちて彼女が組んだ腕を解く。そして大口を開けた。
「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
とても女性の口から発せられたとは思えないほどの大音声。虎の咆哮だった。人間としての本能か、獣の殺気を受けて身がすくみそうになる。それを何とか気迫で誤魔化した。
これはただの戦う前の一声に過ぎない。戦う前から気迫で負けていては勝てるはずもないのだ。
「せあああああああああああああっ!」
負けじと大喝。それと共に人虎に向けて一歩を踏み込む。俺の動きに合わせて彼女も動き出した。間合いが一瞬で切られて、即座に一足一刀まで詰められる。
先手を取る。彼女が踏み込んだ右足を踏み潰すような勢いでさらに踏み込み、左腕を彼女の肩上にかざして彼女の拳を受け止める。そのまま近距離で腰だめに構えた掌底を顎元に向けて叩きつけた。
「シャアッ!」
顎を砕く心算で放った一撃を、人虎が横合いから俺の手首を押さえつける事で止める。そのまま俺の右手首をひねり上げ、関節技を極めようとするのを、敢えてその流れに逆らわず体ごと回る。その勢いを利用して相手の横面を襲う肘鉄。
「――シッ!」
その予兆を感じ取ったのか、彼女は極めかけた俺の右手首を放棄。俺の肘鉄が来るより先に腰から落ちるような勢いで地に伏せ、その体制から体を回して足払いを放った。
回避と攻撃を同時に為すそのセンスに内心舌を巻く。肘鉄が空振り、体制を崩したものの、踏み込んだ軸足に再度力を込め頭から地面に飛ぶ。人虎の体を飛び越すように側転して、間合いを離した。追撃がないことを確認し、再び構え直す。それと同時に女の方も腰を上げ、構えを取った。
「やるな、人間。今のは自信があったんだが」
「ああ、おかげでヒヤヒヤさせられた」
言い交わして笑い合う。人も魔物も無い、対等な戦士同士の極限の世界がここにあった。素晴らしいではないか、誰に邪魔をされることもなく血反吐を吐く思いで体得した技術を比べあえるというものは。
次は人虎が先手を取った。縮地と似たような歩法で瞬く間に間合いをつめ、俺の間合いに入る手前で体を捻る。右半身が体に隠れて、攻撃の出処が掴めない。拳が、蹴りか。その判断を下すよりも先に俺は直感を信じ、彼女の間合いから飛び退いていた。
鼻先をまるで剣のような爪が掠める。右からの上段側頭蹴り、さらに一歩俺が間合いを外し、彼女が一歩詰める。側頭蹴りが踵落としに切り替わる。体重の乗った一撃を交差させた両腕で何とか受けた。痺れが走るほどの重い一撃。
掴んだ両足を持ち上げ、彼女を引き倒すより早くに、彼女が残った片足で地を蹴り跳躍。そして今度は俺が掴んだ足を軸に俺を飛び越えて見せた。俺の頭上に飛んだ彼女と視線が一瞬絡み合う。ニッと彼女が牙を覗かせて笑った。瞬間、背筋が凍りつくような悪寒を感じ、俺は反射的に彼女を足から投げ飛ばしていた。
人虎が地を転がり、ネコのようなしなやかな動きで受身を取る。その爪で地面がごっそりと抉られていた。もしあのまま掴んでいたら、彼女の体重と重力が重なった飛び膝蹴りを受けていたことになる。そんな分析をよそに、俺は人虎が体制を立て直すよりも早く間合いを切りはじめていた。
姿勢を低くした彼女の頭を薙ぎ払うような側頭蹴り。それを受けようと彼女が左腕を掲げる。しかしそれはブラフ。蹴りの軌道を滑らかに変化させ、蹴りを踏み込みに変える。そして僅かに遅れてきた左足の延髄蹴りが彼女を襲う。
「ガアッ!」
俺の一撃をまともに彼女が受けた。しかし仰け反る事なく、俺の足を肩で封じる。
「読まれたっ!?」
「いい技だ。ただ少し威力が足りんな」
そのまま、先ほどの俺が彼女にそうしたように俺を引き倒しにかかる。この状況を切り抜ける算段はあいにくつかなかった。片足はフェイントを絡めた踏み込みをしたせいで彼女の足のすぐ傍にある。彼女が先ほどしたように、踏み越えるような無茶はできそうに無かった。
「ぐあっ!」
そのまま足から持ち上げられて、俺は草地に背中から叩きつけられた。受身を取るものの、上から人虎が俺に覆いかぶさり首をその手で鷲掴む。魔物と人間の絶対的な筋力差、ここからはもうひっくり返ることはない。
「勝負アリ、だな?」
「……参りました」
俺の首から爪を剥がしながら彼女が勝ち誇る。その表情に、俺は潔く負けを認めたのだった。
人虎が俺の上から退いて、俺は草地に腰を落ち着けて息を整える。これほどまでに勝負に集中したのは久々かもしれない。
しかし、この拳鬼と呼ばれた女の才覚の何たることか。一撃一撃の威力、技のキレ、タフネス差もさる事ながら、攻防一体に技を組み立てていくセンス。一撃を凌いでもまた次の攻め手へと繋がる布石へと既に変わっている。まるでこちらの攻めの動きを読んでいるかのように、次へとつなげてくる。
「立てるか?」
「いや、大丈夫だ」
差し出された彼女の手を取らずに、自分の足で立ち上がる。その代わりに差し出された手はきちんと相手と同じ目線に立ってから握った。
「ありがとう、いい仕合ができた」
「ふむ、人間にしておくには惜しいな。技は間違いなくお前が上だろう。あの一撃、私が耐えられなければお前が勝っていた」
惜しみなく勝者を称え、勝者は敗者の健闘を称える。武人としての正しいあり方だった。もしかしたらここに来るまでの俺は自分の実力に慢心していたのかもしれない。俺を正面から打ち負かしたこの女は力量、そして心構えとどちらも俺をきっと上回っている。
彼女に勝てるように、また一から鍛え直しだとその場を辞そうとした時、背後から彼女に声をかけられた。
「なんだ、もう行ってしまうのか?」
「ああ、貴女に勝つという目標が出来た。一から鍛え直さなければ」
「それならば、ここに住めばいい。毎日私と稽古も手合わせもできるぞ?」
人虎が腰に腕を当て、快活に笑う。しかし、こんな山中で片方は魔物とはいえ男女が一つ屋根の下で過ごすのはいかがなものか。
そんな考えがよぎったが、人虎はそれを察したらしく
「安心しろ、私がお前に押し倒されることはまずない。むしろそれが出来たらお前の勝ちということでいいのではないか?」
なるほど一理ある。納得した俺の表情を見るなり、彼女はふふん、と得意げに笑った。
*
それから俺は人虎と共に山中で稽古に励むようになった。朝早くに起き、基礎体力作り、昼から稽古、晩には仕合。そして夜はお互いに武術の技について語り合う生活。
その生活は満ち足りたものだった。食事は山の幸が豊富で悪くはないし、水も渓流の清潔な水を使える。人虎の彼女がここをねぐらに選ぶのも頷けるほどに快適だった。
なにより、倒すべき目標がすぐ隣にいる。
ここに来て二週間が経った。未だに彼女から一本を取れずにいるが、拳鬼と呼ばれた彼女の技を逐一吸収し続けている。どうにも、彼女は特定の流派の拳法ではなく、複数のものを組み合わせて使っているようだ。一見デタラメに見えるかもしれないが、技が彼女のセンスによりそれぞれの流派の長所を互いに活かしあうように組み立てられているようである。俺もそれに倣い、主に他流派の技を彼女から教わり自分なりに扱おうと試みることが最近多くなった。
種族の違い上、彼女との馬力の差を覆すことは残念ながら出来ない。しかし、彼女に認められた技がある。要は止めの一撃を重視せずに連撃で制する。柔よく剛を制すという言葉もあるから、彼女の技の組み立てという才能は非常に参考になった。ようやく、彼女を打ち倒す算段がつき、俺の目標もはっきりし始めている。
しかし、今日は朝から人虎の様子がおかしかった。
「どうした、調子でも悪いのか?」
「い、いや。そんなことは無いが」
稽古中に俺が問うと、彼女は決まってそう答えるが顔も赤いし技にいつものキレがない。ただ威力は何故だか増しているようでただ単純に調子が悪いわけでもなさそうだ。そして、たまに俺をじっと見つめる事がある。
気にせず稽古を続けるものの、彼女の視線が気になって集中できない。なんだか一挙手一投足をねっとりと観察されているような、そんな感じ。
もしや、と俺は気がついた。
「もう仕合を始めたいのか?」
「い、いや、そういうわけでは無いんだが……」
相変わらず火照った顔のまま彼女は首を振って否定する。もしや戦いたくて疼いているからそうなっているのかもしれないと思ったが、違うようだ。
「そ、そうだな。すこし早いが今日は仕合を長くやろう!」
しかし何事か思いついたのだろう。人虎はさっきまでの自分の言葉を覆した。パン、と自分の両頬を掌で叩いて気合を入れ直すと彼女は構えを取った。
「さあ、来い」
「わかった。行くぞ」
彼女の構えに一分の隙もないことを確認すると、俺も構えて彼女に向かっていく。
先手は人虎が取った。一息に間合いを詰め、鋭い突きを俺の正中にそって三発。額、鼻、そして鳩尾。それらを全て見切り、俺は余裕で躱した。やはり、いつもよりも拳にキレが無い。しかし早く力強い突きだ。どれか一つでもまともに喰らえば一気に勝負を付けられてしまう。
鳩尾を狙った三発目を躱しながら肘を抑え、そのまま投げ飛ばそうと相手の襟首をつかみにかかる。いち早く動作を察知し彼女が体をひねり奥襟を庇うのを見てから俺は手を離し、背を向けた人虎に掌底を放った。
「がうっ!」
苦悶の声を上げながらも彼女が動きを止めることはない。背中を向けたその動きから、胴廻し蹴りへと繋ぐ。掌底を放った直後の俺は左腕一本で防ぐものの、防ぎきれずに彼女の間合いの外へと弾き飛ばされた。
彼女が追撃をかける。体制の整わない俺に向けて腹部を狙った貫手。爪は出していないが危険な技であることには違いない。無理に受けようとせずその場で転がって彼女からさらに距離を取る。
起き上がりざまに足払いを放つものの、彼女が俺の足を飛び越えた。そのまま俺に覆い被さろうとするところを、勢いを利用して彼女ごと転がり、投げ飛ばす。地獄車の流れ。
しかし、誤算だった。人虎が恐るべき握力で俺の道着を離さない。完全に決まった筈だったが彼女はしがみついたままだった。
そのまま回転が止まり彼女が上の体制になる。初日と同じように、俺の首に彼女の手がかけられた。
「……参った」
渋々、白旗を上げる。俺と彼女の取り決めでどちらかが怪我をしないように勝負がついたところでそれ以上の勝負は続けないように降参する手はずになっていた。そして、降参した相手に追撃は許されない。
しかし、彼女が俺から手を離すことは無かった。俺の首から、腕へと抑える手が動く。ついに彼女は俺に馬乗りの体制になった。
「おい、参った。これ以上は無理だと――」
「そういえば、お前から家賃を貰っていなかったな」
体重をかけられて完全に抑えられた俺に向けて、人虎が囁く。いつもは戦意にらんらんと輝くその瞳が今は不思議な色に光っていた。
そのまま俺の胴着が引き摺り下ろされ、俺の下半身が太陽の下に晒される。
「おいっ、何を!?」
「体で払って貰おうということさ」
うっとりとした表情で彼女が俺の性器に視線を送る。発情しきって、涎を垂らしそうになっている彼女の有様に、俺は一つの単語を連想した。
発情期。
「ああっ……もう我慢出来ないんだ。お前が来てからずっと我慢してたんだからな。発情期も近いのにこんなところに来て――」
言いながら彼女が上下の防具を同時に外す。乳房と秘所が同時に顕になって、それと同時にむっとメスの香りがあたりに充満した気がした。
彼女の性器はもうすっかり濡れそぼっていて、上から俺の逸物にだらだらと愛液を垂らしてくる。豊満な乳房も薄桃色をした綺麗な乳首がピンと自己主張をしていた。
「それで私くらい強いのがいけないんだ。人間の癖に私と同じくらい強いなんて――。もう我慢できない、早くバキバキのオチンポが欲しいんだっ!」
そのまま俺を地面に押し付けて唇を押し付けてくる。文字通り捕食するかのような接吻だった。唇を割って舌が口腔に侵入してくる。俺の舌を舐り、吸い上げ、歯を舐めまわす。その全てが気持ちよくて、いつしか俺も彼女に合わせて舌を突き出し、互いの唇を吸いあっていた。
押し倒したまま彼女がくねくねと腰を動かす。ねちねち、と小さく淫らな音をたてて俺の性器と彼女の秘芯が擦り合わせられた。まるで自慰をするかのように人虎が俺の性器に花びらをこすりつける。びくびくと小さく達しながら、ようやく彼女は俺の唇から離れた。
「もういれちゃうからなっ♥ いいだろう? こんなにオチンポビンビンにさせてるんだから、いっぱいオマンコの中でびゅくびゅくしていいんだからなっ♥」
普段の凛とした彼女からは想像できないほどの淫らな言葉遣いに興奮が掻き立てられる。俺の見ている前で彼女が腰を浮かせて俺の亀頭を女陰に宛てがった。そのまま一息に腰を下ろして、彼女の奥まで肉を割って突き進む感触に思わず悦楽の喘鳴が漏れ出た。
「ぐうっ」
「ふあああああっ♥」
彼女も俺と同じように嬌声を上げるがすぐに俺の胸板にしなだれかかり、スリスリと頬ずりを始めた。彼女の豊満な胸が俺と彼女のふにふにと形を変え、硬くしこった乳首がコリコリと俺の腹をくすぐってくる。
「あはっ、しちゃったなあえっちぃ……♥」
甘えるようにピチャピチャと彼女が俺の乳首を舐める。ネコ科特有のザラついた舌が俺の性感を高め、それに合わせて彼女の腰も僅かに動き、もどかしく俺を焦らしてくる。
「お前は誰かとえっちしたことはあるかぁ?」
「いや、無いっ……」
微弱な快楽の波に翻弄されながらなんとかそう返すと、人虎は嬉しそうに
「そうかぁ……」
と言ってまたチロチロと俺の乳首を舐めだした。
「私もな、お前がはじめてなんだぁ。今までずーっと、発情期はガマンしてきたんだからなぁ? だからぁ、お前は私以外とえっちしちゃ駄目なんだからなぁ♥」
そう言いながら、人虎は浮気したらこうだっ、とばかりに俺の乳首を甘噛みした。その口の端からちらりと牙が覗く。もし本当に怒ったらどこを、とは言わないが俺は噛みちぎられるかもしれない。
普段凛々しい彼女が見せる淫らな、発情しきったメスの表情。その現実味の無さに、そして青空の下で愛し合っているという開放感に、そして何よりも妖艶な彼女の魅力に。俺はその全てに酔って、快楽に溺れるままに彼女に頷いた。
「えへへ、もう離してやらないからな、覚悟しとけよぉ♥」
そう宣言するやいなや、彼女は勢いよく俺の腰に自分の腰を叩きつけ始めた。ぐっちゃぐっちゃと愛液と我慢汁が激しく交じり合う音が響き、そこに彼女の嬌声が重なって淫らな多重奏が奏でられる。それに合わせて俺も腰をカクカクと本能的に動かし始めていた。
「ああっ、ふあああっ♥」
「ぐぅうっ!」
射精欲を必死で押さえつけながら彼女の動きに合わせる。彼女の喘ぎ声が高くなるにつれて加熱していく獣欲。早くなるペース。すぐにお互いの体が限界に近づいていた。
「もうダメえっ、イクッ! イクぅぅっ!♥」
「ダメだっ、俺も出そうっ……!」
「いいぞっ、中で、中でオチンポ汁いっぱい出してくれぇっ……♥」
こみ上げてくる精液が限界に達するまで、お互いが動くのをやめない。獣のような喘ぎ声を上げながら人虎が絶頂に達した。膣内がうねうねと脈動して、まるで俺から絞り上げるかのように俺の竿を刺激する。彼女から数瞬遅れて、俺も彼女の中で達した。
自分のチンポがびくびくと脈打ちながら彼女の中に精を吐き出しているのが分かる。彼女もそれをもしかしたら感じているのかもしれない。俺の逸物が跳ねる度にぴくぴくと小刻みにイって、幸せそうにお腹を撫でた。
落ち着いたのか、人虎が腰をあげてずっとくわえ込んでいた俺のモノを解放する。じゅぽっ、といやらしい音がして亀頭が外気に晒され、栓をしていた俺の精液がどろどろと流れ出して、俺の陰毛に絡みついた。
「勿体無いじゃないかぁ……」
彼女が自分の中から流れ出したそれを舌ですくい取り、チロチロと亀頭にこすりつけながら舐めとっていく。フェラチオしながらの吸精。その様子をまざまざと見せ付けられた俺は、彼女が俺のチンポを綺麗にし終える頃にはすっかり戦線復帰していた。
「ふふ、まだまだ足りないよな……?」
淫らに微笑む彼女に向けて、熱に浮かされたように首を縦に振る。
そして、彼女が今度は俺に向けて尻を向けた。
「今度はお前から入れてくれ……♥」
そう言って彼女は後ろ手に自分の秘所を広げて見せる。広げた女陰からは先ほど俺が流し込んだ精液が逆流し始めており、その奥に俺が満たした子宮口が見えて、俺を誘うように襞が蠢いているのが見えた。
尻の穴も秘所も全てをさらけ出すその格好を拳鬼と恐れられた彼女がしている。いや、正確には俺がさせて彼女を満たそうとしている。征服欲が脳髄を駆け巡る。それに突き動かされるように、俺は彼女の尻に手をかけて、怒張を突き入れていた。
「ふああああああああっ♥」
突き入れるのと同時に彼女が嬌声を上げるがなりふり構わず腰を振る。ぱちゅん、ぱちゅんと愛液が弾け、彼女がさらに喘ぐ。ただ自身の快楽を求めるだけの性交。獣のようなセックスにひたすらに俺は耽った。
「これも気持ちいいんじゃないか?」
「ふあっ!? 馬鹿あっ、尻尾は、ダメだ……♥」
激しく彼女の中を突き上げながら、俺は彼女の尻尾をぎゅっと掴んだ。その瞬間、ぎゅっと膣圧が俺のチンポを強く締め上げる。彼女が悲鳴を上げた。
彼女の反応に気をよくした俺はまるで自分のチンポを扱くように上下に擦りながら、彼女をめちゃくちゃに突き始めた。二度三度と扱き、突けばすぐに彼女がイく。小刻みな絶頂に何度も襲われて彼女の呂律はもう回っていなかった。
「らめへえ、もう、しっぽしこしこするのやぁ……♥」
「なんだ、随分敏感じゃないか。チンポ扱くみたいにこいつでオナニーしてたのか?」
「ひ、ひがう! そんなんひゃ、そんな、あっあっ、ああっ――♥」
否定の言葉を、さらに強く尻尾を扱き子宮口を突き上げる事で封じる。ここに来て以来始めて彼女の優位に立った俺は気をよくして、本格的に彼女を汚し始めた。
「なんだ、こんなに発情して。何が拳鬼だ、人虎だ。ただの発情したネコじゃないか」
「ぐぅう……ねこじゃにゃい……!」
「何が違うんだ、四つん這いになって尻尾振りながら何回イッたんだ?」
「ふああああああっ、くうううんっ♥」
罵倒の言葉と共に軽く尻尾をつまんで刺激してやると面白いほど簡単に彼女は達した。不規則に何度も訪れる絶頂に合わせて変動する膣圧に、休むことなく突き上げ続けた俺の逸物も限界が訪れた。再度の射精に備えて俺の亀頭が膨れ上がる。
「出すぞ! 出すからなっ!」
「ふにゃあああっ、きて、きて! たくましいオチンポでいっぱいわらひに種付けしてぇっ!♥」
あられもない叫びにさらに掻き立てられて、ピストンの動きが止まらない。まるで俺は彼女を食いつぶすかのようにその大きな尻に腰を打ち付けてパンパンという、いやらしい音が何度も山中に響く。
俺は後ろから彼女を抱きすくめて、その豊満な胸に手を伸ばした。左手は彼女の胸をまさぐり、乳首を探し当て、右手は彼女のしっぽの先端を擦り上げ、腰は休む事なく彼女の膣内を責めあげる。
「ふあああっ!? そんにゃ、いっぺんにいっ!♥」
三点を同時に刺激されることに耐えきれすに彼女が一際高い嬌声をあげて絶頂に達した。引きずられるように俺も絶頂に達する。両手で思わず強く、尻尾と乳首をつねり、それによってさらに彼女が乱れる。彼女の中で何度も俺は白濁を吐き出していた。
流石に何十度もイッたからか、足腰が立たなくなったようで人虎がその場にへたり込む。俺も彼女に覆いかぶさるように、その豊満な胸に身を沈めて意識を失った。
*
目が覚めると、俺より先に目を覚ましていた彼女が俺を庵まで運んでくれたようで、室内だった。服もちゃんと着せられている。俺が起きたことに気がつくと、彼女は気恥ずかしそうに、視線を逸らし、背を向けた。
「その、すまない。迷惑を、かけたな」
「いや、迷惑ってわけじゃなかったが、驚いた」
彼女と肌を重ねるのが嫌だったわけではない。現に後半は俺もかなり乗り気だった。その言葉に彼女は安堵したようにため息をついた。その様子は、記憶の中の淫らな彼女とは程遠い。まるでさっきまでのことが夢だったんじゃないかと思える程だ。
「そのだな、我々人虎には発情期というものがあってな。そうなると、見境がなくなるというか、ああなってしまうんだ」
彼女が赤い顔でこちらを見る。
「でも、嘘は言わなかったぞ」
「えっ?」
「さっきは正気じゃなかった。でも、私は嘘は言わなかった。お前が私にとって始めての男だということも、お前をもう手放したくないと思っている事も、だ」
そう言って、ずいと彼女が俺に向けて身を乗り出してくる。思わず豊満な胸の谷間に視線をやってしまい、俺はまた股間が膨れ上がるのを自覚した。
「私はもうお前のモノだ。拳もなにもかも、どうでもいい。お前に征服されたいんだ」
直球な物言いに、獣欲が掻き立てられる。みると彼女の瞳も発情に揺らいでいた。さっきよりはマシかもしれないが発情期はまだまだ終わっていないらしい。
「イヤ、か?」
「まさか」
即答した。嬉しそうに彼女が頷き、俺を寝台に押し倒す。目の前で彼女の性器がさらけ出された。彼女はどんな言葉で俺におねだりをするのだろうか。
「子供もいっぱい欲しいぞ♥」
虎穴に入らずんば虎子を得ず――そんな言葉が脳裏をよぎり、俺は彼女の穴に勢いよく自分のモノを突き入れていた。
世界の格闘家の間でその噂はまことしやかに流れている。しかし、その拳鬼とやらの実在を確認した奴はいないそうだ。人間なのか、それとも魔物なのかもはっきりしないそうだ。俺個人としては、鬼と呼ばれるくらいなんだから魔物なんだろうな、とあたりをつけている。
そして、俺はその拳鬼という奴に勝つつもりではるばる霧の大陸まで渡ってきたのだ。
相手が魔物であろうと、勝つ自身はある。現にこの山に来るまでに何度か魔物をこの手で打ち倒してきた。魔物といえども命は惜しいのか、ある程度傷を負わせると逃げていく。
勿論彼女らに止めを刺すことはしない。どういった目的で人間を襲うのかは俺の預かり知らぬところだが、相手は女でそれにきちんと一対一で戦った戦士でもある。その戦いの結果を汚すような真似はしたくはなかった。
「……む」
木々を掻き分けるように獣道を進んでいいたところ、視界の端に気になるものがうつったので足を止める。
目の前の木に大型の獣が爪で傷を付けた跡があった。虎か、あるいはクマか。それくらいの大きさの爪痕だ。
しかし気になるのは、それは一筋だけだということ。動物が爪を研いだのならばもっとひどく傷ついているはずなのに、まるで目印か何かのように付けられている。
そして山頂まで続いているであろう獣道が、うっすらと、注意しなければ気がつかないほどに二股に分かれていた。
「これは、ひょっとするか?」
宝の地図に現実との整合性を見つけたような、そんな気分だ。慎重に草木を掻き分けて獣道から外れないように山中を進む。幾度も蔦に引っかかったり、蜘蛛の巣を避けて通ったりしながら進むことしばらく。不意に視界がひらけた。
「こいつは驚いたな」
森を抜けると、そこには豊かな草原があった。恐らく山の中腹あたりに位置するのだろう、傾斜は殆どと言っていいほど無く、眼下に大陸を一望できる。そして、草原のすぐ脇を渓流が滝となって落ちてきていて、小さな湖を作っていた。
山中で暮らすとするならばこれ以上ないほどに望ましい環境だ。そして、そこから導き出される推論を裏付けるように渓流のほど近い場所に質素な庵があった。
「たのもう!」
「何者だ!」
すっと深く息を吸い込み、大喝。すると庵の中から答える声があった。
そこから出てきたのは女であった。栗色の長い髪を腰まで下ろした女。そしてその手足は獣毛に覆われており、油断なくこちらを睨めつける目は金色に輝いている。
縦に溝を掘ったかのような黒目。虎の瞳だった。
「貴女が拳鬼か?」
「拳鬼? ふむ、仲間内でそう名乗ったこともあったが」
爪がぎらつく掌で形の良い顎を撫でて、昔を思い出すように人虎が言う。噂は本当のようだった。
ならばなすべきことはただ一つ。
「お手合せを願いたい!」
道着の襟を正し、強く帯を結んで腰を落とす。俺が構えたのを見て、女は眉を顰めた。
「戦うのか? お前死んでも知らんぞ」
「簡単に死ぬほどやわな体ではない。心配は無用だ」
俺の答弁にふむ、と何やら彼女は納得したようで腕を組んだ。
「まあ、この山を無傷で登ってきているから心配はいらんか」
手合わせなど久しぶりだよ、とどこか嬉しそうに独りごちて彼女が組んだ腕を解く。そして大口を開けた。
「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
とても女性の口から発せられたとは思えないほどの大音声。虎の咆哮だった。人間としての本能か、獣の殺気を受けて身がすくみそうになる。それを何とか気迫で誤魔化した。
これはただの戦う前の一声に過ぎない。戦う前から気迫で負けていては勝てるはずもないのだ。
「せあああああああああああああっ!」
負けじと大喝。それと共に人虎に向けて一歩を踏み込む。俺の動きに合わせて彼女も動き出した。間合いが一瞬で切られて、即座に一足一刀まで詰められる。
先手を取る。彼女が踏み込んだ右足を踏み潰すような勢いでさらに踏み込み、左腕を彼女の肩上にかざして彼女の拳を受け止める。そのまま近距離で腰だめに構えた掌底を顎元に向けて叩きつけた。
「シャアッ!」
顎を砕く心算で放った一撃を、人虎が横合いから俺の手首を押さえつける事で止める。そのまま俺の右手首をひねり上げ、関節技を極めようとするのを、敢えてその流れに逆らわず体ごと回る。その勢いを利用して相手の横面を襲う肘鉄。
「――シッ!」
その予兆を感じ取ったのか、彼女は極めかけた俺の右手首を放棄。俺の肘鉄が来るより先に腰から落ちるような勢いで地に伏せ、その体制から体を回して足払いを放った。
回避と攻撃を同時に為すそのセンスに内心舌を巻く。肘鉄が空振り、体制を崩したものの、踏み込んだ軸足に再度力を込め頭から地面に飛ぶ。人虎の体を飛び越すように側転して、間合いを離した。追撃がないことを確認し、再び構え直す。それと同時に女の方も腰を上げ、構えを取った。
「やるな、人間。今のは自信があったんだが」
「ああ、おかげでヒヤヒヤさせられた」
言い交わして笑い合う。人も魔物も無い、対等な戦士同士の極限の世界がここにあった。素晴らしいではないか、誰に邪魔をされることもなく血反吐を吐く思いで体得した技術を比べあえるというものは。
次は人虎が先手を取った。縮地と似たような歩法で瞬く間に間合いをつめ、俺の間合いに入る手前で体を捻る。右半身が体に隠れて、攻撃の出処が掴めない。拳が、蹴りか。その判断を下すよりも先に俺は直感を信じ、彼女の間合いから飛び退いていた。
鼻先をまるで剣のような爪が掠める。右からの上段側頭蹴り、さらに一歩俺が間合いを外し、彼女が一歩詰める。側頭蹴りが踵落としに切り替わる。体重の乗った一撃を交差させた両腕で何とか受けた。痺れが走るほどの重い一撃。
掴んだ両足を持ち上げ、彼女を引き倒すより早くに、彼女が残った片足で地を蹴り跳躍。そして今度は俺が掴んだ足を軸に俺を飛び越えて見せた。俺の頭上に飛んだ彼女と視線が一瞬絡み合う。ニッと彼女が牙を覗かせて笑った。瞬間、背筋が凍りつくような悪寒を感じ、俺は反射的に彼女を足から投げ飛ばしていた。
人虎が地を転がり、ネコのようなしなやかな動きで受身を取る。その爪で地面がごっそりと抉られていた。もしあのまま掴んでいたら、彼女の体重と重力が重なった飛び膝蹴りを受けていたことになる。そんな分析をよそに、俺は人虎が体制を立て直すよりも早く間合いを切りはじめていた。
姿勢を低くした彼女の頭を薙ぎ払うような側頭蹴り。それを受けようと彼女が左腕を掲げる。しかしそれはブラフ。蹴りの軌道を滑らかに変化させ、蹴りを踏み込みに変える。そして僅かに遅れてきた左足の延髄蹴りが彼女を襲う。
「ガアッ!」
俺の一撃をまともに彼女が受けた。しかし仰け反る事なく、俺の足を肩で封じる。
「読まれたっ!?」
「いい技だ。ただ少し威力が足りんな」
そのまま、先ほどの俺が彼女にそうしたように俺を引き倒しにかかる。この状況を切り抜ける算段はあいにくつかなかった。片足はフェイントを絡めた踏み込みをしたせいで彼女の足のすぐ傍にある。彼女が先ほどしたように、踏み越えるような無茶はできそうに無かった。
「ぐあっ!」
そのまま足から持ち上げられて、俺は草地に背中から叩きつけられた。受身を取るものの、上から人虎が俺に覆いかぶさり首をその手で鷲掴む。魔物と人間の絶対的な筋力差、ここからはもうひっくり返ることはない。
「勝負アリ、だな?」
「……参りました」
俺の首から爪を剥がしながら彼女が勝ち誇る。その表情に、俺は潔く負けを認めたのだった。
人虎が俺の上から退いて、俺は草地に腰を落ち着けて息を整える。これほどまでに勝負に集中したのは久々かもしれない。
しかし、この拳鬼と呼ばれた女の才覚の何たることか。一撃一撃の威力、技のキレ、タフネス差もさる事ながら、攻防一体に技を組み立てていくセンス。一撃を凌いでもまた次の攻め手へと繋がる布石へと既に変わっている。まるでこちらの攻めの動きを読んでいるかのように、次へとつなげてくる。
「立てるか?」
「いや、大丈夫だ」
差し出された彼女の手を取らずに、自分の足で立ち上がる。その代わりに差し出された手はきちんと相手と同じ目線に立ってから握った。
「ありがとう、いい仕合ができた」
「ふむ、人間にしておくには惜しいな。技は間違いなくお前が上だろう。あの一撃、私が耐えられなければお前が勝っていた」
惜しみなく勝者を称え、勝者は敗者の健闘を称える。武人としての正しいあり方だった。もしかしたらここに来るまでの俺は自分の実力に慢心していたのかもしれない。俺を正面から打ち負かしたこの女は力量、そして心構えとどちらも俺をきっと上回っている。
彼女に勝てるように、また一から鍛え直しだとその場を辞そうとした時、背後から彼女に声をかけられた。
「なんだ、もう行ってしまうのか?」
「ああ、貴女に勝つという目標が出来た。一から鍛え直さなければ」
「それならば、ここに住めばいい。毎日私と稽古も手合わせもできるぞ?」
人虎が腰に腕を当て、快活に笑う。しかし、こんな山中で片方は魔物とはいえ男女が一つ屋根の下で過ごすのはいかがなものか。
そんな考えがよぎったが、人虎はそれを察したらしく
「安心しろ、私がお前に押し倒されることはまずない。むしろそれが出来たらお前の勝ちということでいいのではないか?」
なるほど一理ある。納得した俺の表情を見るなり、彼女はふふん、と得意げに笑った。
*
それから俺は人虎と共に山中で稽古に励むようになった。朝早くに起き、基礎体力作り、昼から稽古、晩には仕合。そして夜はお互いに武術の技について語り合う生活。
その生活は満ち足りたものだった。食事は山の幸が豊富で悪くはないし、水も渓流の清潔な水を使える。人虎の彼女がここをねぐらに選ぶのも頷けるほどに快適だった。
なにより、倒すべき目標がすぐ隣にいる。
ここに来て二週間が経った。未だに彼女から一本を取れずにいるが、拳鬼と呼ばれた彼女の技を逐一吸収し続けている。どうにも、彼女は特定の流派の拳法ではなく、複数のものを組み合わせて使っているようだ。一見デタラメに見えるかもしれないが、技が彼女のセンスによりそれぞれの流派の長所を互いに活かしあうように組み立てられているようである。俺もそれに倣い、主に他流派の技を彼女から教わり自分なりに扱おうと試みることが最近多くなった。
種族の違い上、彼女との馬力の差を覆すことは残念ながら出来ない。しかし、彼女に認められた技がある。要は止めの一撃を重視せずに連撃で制する。柔よく剛を制すという言葉もあるから、彼女の技の組み立てという才能は非常に参考になった。ようやく、彼女を打ち倒す算段がつき、俺の目標もはっきりし始めている。
しかし、今日は朝から人虎の様子がおかしかった。
「どうした、調子でも悪いのか?」
「い、いや。そんなことは無いが」
稽古中に俺が問うと、彼女は決まってそう答えるが顔も赤いし技にいつものキレがない。ただ威力は何故だか増しているようでただ単純に調子が悪いわけでもなさそうだ。そして、たまに俺をじっと見つめる事がある。
気にせず稽古を続けるものの、彼女の視線が気になって集中できない。なんだか一挙手一投足をねっとりと観察されているような、そんな感じ。
もしや、と俺は気がついた。
「もう仕合を始めたいのか?」
「い、いや、そういうわけでは無いんだが……」
相変わらず火照った顔のまま彼女は首を振って否定する。もしや戦いたくて疼いているからそうなっているのかもしれないと思ったが、違うようだ。
「そ、そうだな。すこし早いが今日は仕合を長くやろう!」
しかし何事か思いついたのだろう。人虎はさっきまでの自分の言葉を覆した。パン、と自分の両頬を掌で叩いて気合を入れ直すと彼女は構えを取った。
「さあ、来い」
「わかった。行くぞ」
彼女の構えに一分の隙もないことを確認すると、俺も構えて彼女に向かっていく。
先手は人虎が取った。一息に間合いを詰め、鋭い突きを俺の正中にそって三発。額、鼻、そして鳩尾。それらを全て見切り、俺は余裕で躱した。やはり、いつもよりも拳にキレが無い。しかし早く力強い突きだ。どれか一つでもまともに喰らえば一気に勝負を付けられてしまう。
鳩尾を狙った三発目を躱しながら肘を抑え、そのまま投げ飛ばそうと相手の襟首をつかみにかかる。いち早く動作を察知し彼女が体をひねり奥襟を庇うのを見てから俺は手を離し、背を向けた人虎に掌底を放った。
「がうっ!」
苦悶の声を上げながらも彼女が動きを止めることはない。背中を向けたその動きから、胴廻し蹴りへと繋ぐ。掌底を放った直後の俺は左腕一本で防ぐものの、防ぎきれずに彼女の間合いの外へと弾き飛ばされた。
彼女が追撃をかける。体制の整わない俺に向けて腹部を狙った貫手。爪は出していないが危険な技であることには違いない。無理に受けようとせずその場で転がって彼女からさらに距離を取る。
起き上がりざまに足払いを放つものの、彼女が俺の足を飛び越えた。そのまま俺に覆い被さろうとするところを、勢いを利用して彼女ごと転がり、投げ飛ばす。地獄車の流れ。
しかし、誤算だった。人虎が恐るべき握力で俺の道着を離さない。完全に決まった筈だったが彼女はしがみついたままだった。
そのまま回転が止まり彼女が上の体制になる。初日と同じように、俺の首に彼女の手がかけられた。
「……参った」
渋々、白旗を上げる。俺と彼女の取り決めでどちらかが怪我をしないように勝負がついたところでそれ以上の勝負は続けないように降参する手はずになっていた。そして、降参した相手に追撃は許されない。
しかし、彼女が俺から手を離すことは無かった。俺の首から、腕へと抑える手が動く。ついに彼女は俺に馬乗りの体制になった。
「おい、参った。これ以上は無理だと――」
「そういえば、お前から家賃を貰っていなかったな」
体重をかけられて完全に抑えられた俺に向けて、人虎が囁く。いつもは戦意にらんらんと輝くその瞳が今は不思議な色に光っていた。
そのまま俺の胴着が引き摺り下ろされ、俺の下半身が太陽の下に晒される。
「おいっ、何を!?」
「体で払って貰おうということさ」
うっとりとした表情で彼女が俺の性器に視線を送る。発情しきって、涎を垂らしそうになっている彼女の有様に、俺は一つの単語を連想した。
発情期。
「ああっ……もう我慢出来ないんだ。お前が来てからずっと我慢してたんだからな。発情期も近いのにこんなところに来て――」
言いながら彼女が上下の防具を同時に外す。乳房と秘所が同時に顕になって、それと同時にむっとメスの香りがあたりに充満した気がした。
彼女の性器はもうすっかり濡れそぼっていて、上から俺の逸物にだらだらと愛液を垂らしてくる。豊満な乳房も薄桃色をした綺麗な乳首がピンと自己主張をしていた。
「それで私くらい強いのがいけないんだ。人間の癖に私と同じくらい強いなんて――。もう我慢できない、早くバキバキのオチンポが欲しいんだっ!」
そのまま俺を地面に押し付けて唇を押し付けてくる。文字通り捕食するかのような接吻だった。唇を割って舌が口腔に侵入してくる。俺の舌を舐り、吸い上げ、歯を舐めまわす。その全てが気持ちよくて、いつしか俺も彼女に合わせて舌を突き出し、互いの唇を吸いあっていた。
押し倒したまま彼女がくねくねと腰を動かす。ねちねち、と小さく淫らな音をたてて俺の性器と彼女の秘芯が擦り合わせられた。まるで自慰をするかのように人虎が俺の性器に花びらをこすりつける。びくびくと小さく達しながら、ようやく彼女は俺の唇から離れた。
「もういれちゃうからなっ♥ いいだろう? こんなにオチンポビンビンにさせてるんだから、いっぱいオマンコの中でびゅくびゅくしていいんだからなっ♥」
普段の凛とした彼女からは想像できないほどの淫らな言葉遣いに興奮が掻き立てられる。俺の見ている前で彼女が腰を浮かせて俺の亀頭を女陰に宛てがった。そのまま一息に腰を下ろして、彼女の奥まで肉を割って突き進む感触に思わず悦楽の喘鳴が漏れ出た。
「ぐうっ」
「ふあああああっ♥」
彼女も俺と同じように嬌声を上げるがすぐに俺の胸板にしなだれかかり、スリスリと頬ずりを始めた。彼女の豊満な胸が俺と彼女のふにふにと形を変え、硬くしこった乳首がコリコリと俺の腹をくすぐってくる。
「あはっ、しちゃったなあえっちぃ……♥」
甘えるようにピチャピチャと彼女が俺の乳首を舐める。ネコ科特有のザラついた舌が俺の性感を高め、それに合わせて彼女の腰も僅かに動き、もどかしく俺を焦らしてくる。
「お前は誰かとえっちしたことはあるかぁ?」
「いや、無いっ……」
微弱な快楽の波に翻弄されながらなんとかそう返すと、人虎は嬉しそうに
「そうかぁ……」
と言ってまたチロチロと俺の乳首を舐めだした。
「私もな、お前がはじめてなんだぁ。今までずーっと、発情期はガマンしてきたんだからなぁ? だからぁ、お前は私以外とえっちしちゃ駄目なんだからなぁ♥」
そう言いながら、人虎は浮気したらこうだっ、とばかりに俺の乳首を甘噛みした。その口の端からちらりと牙が覗く。もし本当に怒ったらどこを、とは言わないが俺は噛みちぎられるかもしれない。
普段凛々しい彼女が見せる淫らな、発情しきったメスの表情。その現実味の無さに、そして青空の下で愛し合っているという開放感に、そして何よりも妖艶な彼女の魅力に。俺はその全てに酔って、快楽に溺れるままに彼女に頷いた。
「えへへ、もう離してやらないからな、覚悟しとけよぉ♥」
そう宣言するやいなや、彼女は勢いよく俺の腰に自分の腰を叩きつけ始めた。ぐっちゃぐっちゃと愛液と我慢汁が激しく交じり合う音が響き、そこに彼女の嬌声が重なって淫らな多重奏が奏でられる。それに合わせて俺も腰をカクカクと本能的に動かし始めていた。
「ああっ、ふあああっ♥」
「ぐぅうっ!」
射精欲を必死で押さえつけながら彼女の動きに合わせる。彼女の喘ぎ声が高くなるにつれて加熱していく獣欲。早くなるペース。すぐにお互いの体が限界に近づいていた。
「もうダメえっ、イクッ! イクぅぅっ!♥」
「ダメだっ、俺も出そうっ……!」
「いいぞっ、中で、中でオチンポ汁いっぱい出してくれぇっ……♥」
こみ上げてくる精液が限界に達するまで、お互いが動くのをやめない。獣のような喘ぎ声を上げながら人虎が絶頂に達した。膣内がうねうねと脈動して、まるで俺から絞り上げるかのように俺の竿を刺激する。彼女から数瞬遅れて、俺も彼女の中で達した。
自分のチンポがびくびくと脈打ちながら彼女の中に精を吐き出しているのが分かる。彼女もそれをもしかしたら感じているのかもしれない。俺の逸物が跳ねる度にぴくぴくと小刻みにイって、幸せそうにお腹を撫でた。
落ち着いたのか、人虎が腰をあげてずっとくわえ込んでいた俺のモノを解放する。じゅぽっ、といやらしい音がして亀頭が外気に晒され、栓をしていた俺の精液がどろどろと流れ出して、俺の陰毛に絡みついた。
「勿体無いじゃないかぁ……」
彼女が自分の中から流れ出したそれを舌ですくい取り、チロチロと亀頭にこすりつけながら舐めとっていく。フェラチオしながらの吸精。その様子をまざまざと見せ付けられた俺は、彼女が俺のチンポを綺麗にし終える頃にはすっかり戦線復帰していた。
「ふふ、まだまだ足りないよな……?」
淫らに微笑む彼女に向けて、熱に浮かされたように首を縦に振る。
そして、彼女が今度は俺に向けて尻を向けた。
「今度はお前から入れてくれ……♥」
そう言って彼女は後ろ手に自分の秘所を広げて見せる。広げた女陰からは先ほど俺が流し込んだ精液が逆流し始めており、その奥に俺が満たした子宮口が見えて、俺を誘うように襞が蠢いているのが見えた。
尻の穴も秘所も全てをさらけ出すその格好を拳鬼と恐れられた彼女がしている。いや、正確には俺がさせて彼女を満たそうとしている。征服欲が脳髄を駆け巡る。それに突き動かされるように、俺は彼女の尻に手をかけて、怒張を突き入れていた。
「ふああああああああっ♥」
突き入れるのと同時に彼女が嬌声を上げるがなりふり構わず腰を振る。ぱちゅん、ぱちゅんと愛液が弾け、彼女がさらに喘ぐ。ただ自身の快楽を求めるだけの性交。獣のようなセックスにひたすらに俺は耽った。
「これも気持ちいいんじゃないか?」
「ふあっ!? 馬鹿あっ、尻尾は、ダメだ……♥」
激しく彼女の中を突き上げながら、俺は彼女の尻尾をぎゅっと掴んだ。その瞬間、ぎゅっと膣圧が俺のチンポを強く締め上げる。彼女が悲鳴を上げた。
彼女の反応に気をよくした俺はまるで自分のチンポを扱くように上下に擦りながら、彼女をめちゃくちゃに突き始めた。二度三度と扱き、突けばすぐに彼女がイく。小刻みな絶頂に何度も襲われて彼女の呂律はもう回っていなかった。
「らめへえ、もう、しっぽしこしこするのやぁ……♥」
「なんだ、随分敏感じゃないか。チンポ扱くみたいにこいつでオナニーしてたのか?」
「ひ、ひがう! そんなんひゃ、そんな、あっあっ、ああっ――♥」
否定の言葉を、さらに強く尻尾を扱き子宮口を突き上げる事で封じる。ここに来て以来始めて彼女の優位に立った俺は気をよくして、本格的に彼女を汚し始めた。
「なんだ、こんなに発情して。何が拳鬼だ、人虎だ。ただの発情したネコじゃないか」
「ぐぅう……ねこじゃにゃい……!」
「何が違うんだ、四つん這いになって尻尾振りながら何回イッたんだ?」
「ふああああああっ、くうううんっ♥」
罵倒の言葉と共に軽く尻尾をつまんで刺激してやると面白いほど簡単に彼女は達した。不規則に何度も訪れる絶頂に合わせて変動する膣圧に、休むことなく突き上げ続けた俺の逸物も限界が訪れた。再度の射精に備えて俺の亀頭が膨れ上がる。
「出すぞ! 出すからなっ!」
「ふにゃあああっ、きて、きて! たくましいオチンポでいっぱいわらひに種付けしてぇっ!♥」
あられもない叫びにさらに掻き立てられて、ピストンの動きが止まらない。まるで俺は彼女を食いつぶすかのようにその大きな尻に腰を打ち付けてパンパンという、いやらしい音が何度も山中に響く。
俺は後ろから彼女を抱きすくめて、その豊満な胸に手を伸ばした。左手は彼女の胸をまさぐり、乳首を探し当て、右手は彼女のしっぽの先端を擦り上げ、腰は休む事なく彼女の膣内を責めあげる。
「ふあああっ!? そんにゃ、いっぺんにいっ!♥」
三点を同時に刺激されることに耐えきれすに彼女が一際高い嬌声をあげて絶頂に達した。引きずられるように俺も絶頂に達する。両手で思わず強く、尻尾と乳首をつねり、それによってさらに彼女が乱れる。彼女の中で何度も俺は白濁を吐き出していた。
流石に何十度もイッたからか、足腰が立たなくなったようで人虎がその場にへたり込む。俺も彼女に覆いかぶさるように、その豊満な胸に身を沈めて意識を失った。
*
目が覚めると、俺より先に目を覚ましていた彼女が俺を庵まで運んでくれたようで、室内だった。服もちゃんと着せられている。俺が起きたことに気がつくと、彼女は気恥ずかしそうに、視線を逸らし、背を向けた。
「その、すまない。迷惑を、かけたな」
「いや、迷惑ってわけじゃなかったが、驚いた」
彼女と肌を重ねるのが嫌だったわけではない。現に後半は俺もかなり乗り気だった。その言葉に彼女は安堵したようにため息をついた。その様子は、記憶の中の淫らな彼女とは程遠い。まるでさっきまでのことが夢だったんじゃないかと思える程だ。
「そのだな、我々人虎には発情期というものがあってな。そうなると、見境がなくなるというか、ああなってしまうんだ」
彼女が赤い顔でこちらを見る。
「でも、嘘は言わなかったぞ」
「えっ?」
「さっきは正気じゃなかった。でも、私は嘘は言わなかった。お前が私にとって始めての男だということも、お前をもう手放したくないと思っている事も、だ」
そう言って、ずいと彼女が俺に向けて身を乗り出してくる。思わず豊満な胸の谷間に視線をやってしまい、俺はまた股間が膨れ上がるのを自覚した。
「私はもうお前のモノだ。拳もなにもかも、どうでもいい。お前に征服されたいんだ」
直球な物言いに、獣欲が掻き立てられる。みると彼女の瞳も発情に揺らいでいた。さっきよりはマシかもしれないが発情期はまだまだ終わっていないらしい。
「イヤ、か?」
「まさか」
即答した。嬉しそうに彼女が頷き、俺を寝台に押し倒す。目の前で彼女の性器がさらけ出された。彼女はどんな言葉で俺におねだりをするのだろうか。
「子供もいっぱい欲しいぞ♥」
虎穴に入らずんば虎子を得ず――そんな言葉が脳裏をよぎり、俺は彼女の穴に勢いよく自分のモノを突き入れていた。
13/12/31 04:36更新 / ご隠居