氷の熱
林を抜けると、眼下に雪原を一望することができるほど開けた場所に出た。自分のたどってきた道筋が手に取るようにわかるが、転々と続く足跡は降り積もる雪に既に覆い隠されようとしている。
登っている山は村からはあまり離れていない場所にいちするも、今まで人が寄り付いたことはない。というのも、古くから魔物が住んでいるという話だったからだ。
しかし、実際にその姿を見たという話は聞かない。その事実だけを信じて俺はここまで登ってきた。その目的は一つ。
「ここか」
探し物を見つける。山の中腹、ちょうど林の外れにもやもやとした白いものを見つけた。ともすれば吹雪に紛れて見逃したかもしれない。しかし、白いもやは空から降るものではなく、地から登っていくものだった。
温泉、である。
この山に温泉が湧いているという話を聞いたのは数日前の村の酒場でだった。冒険者の身なりをした男が言うには、この雪山は火山だそうで温泉が湧いているかもしれない。そして、その男は山の中腹でそれらしい痕跡を見たという。
もしこの山が安全で、きちんと整備をすることができれば一大産業になるかもしれない、という言葉を男は残して村を去っていった。
その男は随分酒に酔っていたようだし、酔っぱらいの戯言と笑う事も出来たのだが俺はそうすることができなかった。その言葉は余りにも魅力的すぎた。
俺が今暮らしている村は決して豊かなものじゃない。冬になると農地は凍てつき、食糧生産は停止する。雪が溶けてもこの痩せた土地では大したものは作れない。辛うじて作れるじゃがいもが頼みの綱だ。後は、たまに来る観光客が落とす外貨をあてにするぐらいか。
そうしてこの凍えた村で俺は一生過ごして行くのかと思うと俺は耐えられない。村の人口は少なく、生きるには厳しい環境だ。俺には同い年の友人もいない。親も数年前までは生きていたが、やがて凍傷で手足を駄目にしてしまい、生きることはできなくなった。村には爺さん婆さんや、数少ない中年と子供だけ。働き盛りなのは俺だけのひどい村だ。かと言って村を去るという選択肢は俺にはなかった。
俺はこの村を、雪原を愛しているからだ。
一面に広がる雪原の白さ、海のように広がるその上に浮かぶ黄金の月。それらのなんと美しい事か。そしてそれらに囲まれて育った事を俺は悔やんだことはない。
貧しいが、この村はいい場所だ。だから、多くの人にそれを知ってもらいたいし、ここに住む人にはもう少しだけマシな暮らしをして欲しい。
それを何とかする手が温泉だというなら、それに賭けてみたかった。
足で雪を蹴散らし、進んでいくと山肌が少しだけくぼんだような場所があり、そこにはもうもうと湯気を立ち上らせる湖があった。
この雪の中で凍らずに豊かな水を湛えている。ちょうど今日は満月で、水面には月がもう一つ浮かんでいた。
手袋を外し、水中の月に手を伸ばす。暑い、だがこの雪山ではちょうどいいくらいの温度。石を入れてみると、すぐに動かなくなった。きちんと浸かれるほどに浅い。
完璧だった。手が凍りつかないように乾いた布で拭いて思案する。今日のような吹雪でなければ、雪山に慣れていなくても簡単に登れる距離。そしてこの広さ。恐らく十人は浸かれるだろう。俺にそういった学はないがきっと村の助けになってくれる。
問題は、本当に魔物がいないかどうか。後はこの温泉の浸かり心地か。
「試してみるか」
そう言って、俺は服を脱いで温泉に飛び込んだ。寒さで肌が悲鳴をあげたのも一瞬。飛び込んですぐにまるで火にあたっているような暖かさに包まれる。
「すげえ」
素晴らしい、の一言に尽きた。先ほどまで服の上からも凍えていた体が一瞬でほぐれていく。首から上は寒いには寒いが、適度に湯をかけてやれば問題ない。
何よりもこの温泉からの眺めだ。雪原を一望でき、空を遮るものは何もない。見上げれば、はらはらと白い結晶が舞うように降りてきて、水面まで落ちてきてふわりと溶ける。
俺が愛した雪原の景色そのものだった。
山肌に背を付けるように腰を落ち着ける。そのまま何も考えずにぼうっとしていた。
夜があけるまでこうしているつもりだった。ずっとこうしていたいという願望もあったが、それだけではない。
俺は魔物を待つつもりでいた。
魔物が住むとされる山、その真偽を確かめるには自分がその魔物にあってしまうのが手っ取り早い。聞けば魔物は男を好んで襲うという。冒険者は、魔物は人の命を取ったりはしない、と言っていたがそれはどうかわからない。
いずれにせよ、こうして裸で無防備に一日過ごせば魔物は絶対に襲ってくる。もしこなければ、俺の勝ち、だ。
そう考えて数十分、湯に浸かっていると不意に吹雪が激しくなってきた。ちょうど山陰にあたる温泉で直接吹雪が吹き込んでくる訳ではないが、今からやっぱり帰る、というわけには行かなさそうだ。
「上等だぜ」
汗を舌で舐めとる。
「お前、そこで何をしている」
声をかけられた瞬間に、体が芯から凍てついたような錯覚を覚えた。いや、実際に凍えているのかもしれない。少しだけ手が震えていた。
声のした方に視線を向けると岩陰から、一人の少女が顔を覗かせていた。
思わず息を呑むほど彼女は美しかった。教会の聖堂で見た女神様のように整った顔。華奢な体。吹雪の中をさらさらと舞う長く青い髪。それと同じ色をした瞳はいつだったか、行商人が扱っていたサファイアを連想させた。
ただ、その目は鋭い輝きを宿していて、表情も憮然としている。もし笑ったらきっと素晴らしいだろうに、俺を突き刺すような目をしたままこちらを見ていた。
「いや、温泉をだな」
慌てて前を隠してしどろもどろになりながら答える。女の子と話したことなんて、母親を除けばまったく無い。
「ふん、まあちょうどいいがな」
俺の弁解にまるで興味を失ったかのように彼女はそっぽを向く。それと同時に俺を包んでいた寒さがさらにひどくなった。
「うわっ、寒っ!」
「生気を吸わせてもらうぞ、こんなところに裸でいるのが悪いのだ阿呆め」
「ま、魔物……!?」
凍えた唇がうまく動かない。切れ切れの俺の言葉を受けて、吐き捨てるように少女が一言
「馬鹿な男だ」
とだけ言った。
温泉に浸かっているのに寒くて仕方がない。そのうちに意識が飛びそうになってきた。
「安心しろ、命までは取らん」
取って付けたように少女が付け加えるが、その真偽を判断するだけの理性も残っていなかった。
ただ、寂しいという感情が心を埋め尽くす。
誰かに触れていたい。心まで凍てついたように寒い。誰か、助けて欲しい。
「さっさと村に戻るんだな」
一通り吹雪が過ぎ去った後、少女は言い捨てて俺に背を向けた。少しだけ温泉の暖かさが戻ってくるものの、心は凍てついたままで、俺は人に触れたい一心だった。
「嫌だ」
だから、立ち去ろうとする少女の背中に縋るように一言だけ告げた。
そのまま温泉に身を沈め込む。せめて体温だけは取り戻したかった。視界の端で、氷の少女が驚きで表情を崩しているのが見えた。
「何故だ、さっさと村に戻ればいいだろう」
「……嫌だ」
さらに温泉に深く身を沈めて両足を腕で抱く。それでも、ちっとも暖かいとは感じなかった。
村には、戻れない。
誰かの温もりが欲しい。でも、村の誰も頼れない。爺さんも婆さんも、チビ共も、その日を生きるのに手一杯なのだ。働き盛りの自分が村の誰かにどうして甘えられるだろう。村には女がいないし、母もずっと昔に死んだ。毎日毎日畑を耕し、わずかな糧を口にして生きて、なんとか一人で生きている。誰かに甘えたことなんて、ずっと昔の思い出の中でだけ。
気がついたら、甘え方なんて、忘れていた。
両手を握り締める。農具を毎日毎日振り回した、ごつごつした手。近所のチビ共に触られて岩みたいなんて言われてしまった手だ。この手で触れてきたものは、農具と作物と、俺がずっと守って行かなきゃいけないものだけ。
触れて、寂しさを埋めるにはどうしたらいいのだろう。そんなこと、考えたことも無かった。
ただ、寂しかった。自分の今までの暮らしを考えても。これからの事を考えても。温泉なんて夢のまた夢。魔物は実際にいた。これからもいつもどおりの暮らしを、凍えた世界で過ごしていく。見果てぬ夢を見て、それが潰えて、美しい月夜の雪原もその無聊を慰めるには全く足りない。
だから。
「行かないで、くれ……」
声を絞り出す。少女が眉をひそめた。
「頼むよ……」
「お前……」
不可解、と言わんばかりの表情を少女が浮かべる。いつの間にか、俺は泣いていた。もうここで死んでもいいと思えるほど絶望していた。涙を流そうと水面に顔を沈める。肩にひんやりとした感触が不意に伝わった。
隣をみると、宙に浮いたまま魔物の少女が俺の横で温泉に足をつけていた。
「まだ精気を吸われ足りないらしいな」
「ありがとう……」
涙ながらに少女の手に手を伸ばす。手のひらが触れ合って、その冷たさのどこかに俺は暖かさを感じているような気がして、ずっと俺はそれを握っていた。
凍えるような感触が和らいだ気がする。冷たくも温かい、奇妙な感覚をずっと味わっていたくて、俺はその魔物の少女の手をずっと握っていた。
そのままどれだけの時間を過ごしていたかわからない。意識が朦朧としていたけれど、彼女の手だけはずっと握っていた。
「お前、一体何なんだ」
不意に、彼女が口を開いた。
「変な人間だ。お前の精を奪うというのに逃げるどころか引き止めるなんて」
「寂しかったから」
「帰って人間の女でも抱けばいいだろう」
「そんなこと出来ないよ、村に女なんてもういないんだ」
俺の言葉に彼女が首をかしげる。それから何かを言おうとして、しかし口ごもった。
「それは……まあ、お前の村の事情など知ったことではないがな」
「うん、だから君が残ってくれて良かった気がするよ」
素直な気持ちだった。しかし、彼女はひどい嘘を聞いたときのように眉をひそめた。
「本当に妙な人間だな」
「ごめん……あのさ、良かったら一緒に温泉につからない?」
「なんだと?」
「いつまでも足だけつけていないでさ。入ってみなよ」
それとも氷の体だから入ったら溶けてしまうのだろうかとも考えたが、ずっとつけている足は凍ったままだ。大丈夫のようである。
「ふん。まあものは試しと言うしな……」
ぶつくさと言いながらも彼女が湯に腰を落とす。手を握ったままで俺の隣に座って、俺と彼女の肩が触れ合った。
「どう?」
「ふむ、悪くはないな」
それだけ言って、彼女はそれきり黙ってしまった。二人黙って月夜を見上げる。沈黙が周囲を支配するも、不思議ともう寂しいという感情は覚えなかった。
大自然の美しさを表す言葉に雪月花というものがあるらしい。学のない俺はよく知らなかったが、今はそれを全て目にしているような贅沢な心持ちだった。雪も、月も、そして隣に座る彼女は花のように美しくて。
いつしか彼女が魔物であることも忘れて、まるで親しい友人のように俺は語りかけていた。
「俺の村はさ、すごく貧しいんだ。作物も取れないし、人もいない。俺の親も死んじまったから、ここ最近はずっと一人で生きてきたんだ」
彼女は何も答えなかった。しかし、口を挟むことも拒絶することもしなかった。ただその横顔が続けろ、と行っているような気がして俺は話を続けた。
「それで、思ったんだ。この村で働き盛りなのは俺しかいなくてこの村を守るのは俺なんだって。がむしゃらに頑張って、温泉なんて何かに使えるかもしれないって考えてひとりで頑張った。でも、君にあってからどうしてだかすごく寂しくなってさ」
「……それで?」
そこまで言って、何をどういったものか言葉を選んでいると彼女が僕の方を見ずに先を促した。聞いてくれているのだと安堵すると同時に、妙に嬉しくなった。
「えっと、それでさ? 魔物がいて、この温泉は他の皆が使えないって分かって残念だったけど、君に会えて良かったというか、始めて女の子に会ったから嬉しかったというか」
「そう……なのか?」
「そう! 変な感じだけど、でも悪い奴じゃなくって、それにとっても綺麗で!」
「そう、なのか」
きっと湯にのぼせてしまったのだろう、自分が恥ずかしい事を言っているのに気がつくのにかなり時間がかかった。そして気がついた頃には、彼女の顔を見ることが出来ないくらいに顔が赤くなっていた。
「そうか」
彼女が落ち着いた声色で返す頃には、もうすっかりのぼせ上がってどうこの場をごまかしたらいいのか頭の中で考えを巡らせていた。
僕の背中にぴたりと柔らかいものが触れた。ついで背後から腕が伸びてきて僕の胸の前で交差する。少ししてから、隣の彼女が抱きついているのだと理解した。
「な、何を!?」
「不思議、なんだ」
慌てる僕を押さえ込むようにぎゅっと抱きしめる手に力が篭る。彼女が僕の肩に顎を載せて、耳元で囁きかけてくる。
「我々グラキエスは氷の魔物だ。男に触れなくとも精を得ることができるし、お前たち人間に特別な感情は抱かない。私だって、会ってからお前をただの生きる糧の一つとしか見ていなかった」
「……今、は?」
問い返すと、ちろりと耳元を冷たく柔らかいものが走る。彼女に耳を舐められたのだとすぐには気がつかなかった。
「お前は温かい。触れていると心地いい。不思議だ」
そのまま猫がじゃれつくように俺の肩に頬ずりし始める。すん、と甘えるように鼻を鳴らす仕草が可愛らしすぎて、湯の中で俺の一物が膨れ上がったのを、さりげなく手で伏せて隠した。
「お前、興奮してるな?」
そして、すぐにバレた。
「いや、これは……」
弁解しながら振り向くと、出会った頃の氷のような冷たい表情は嘘のように、だらけきっていて、その目は俺のものに熱い視線を送っている。その表情に戸惑うと同時に、始めて見た発情した雌の顔に興奮がさらに高まる。
「んっ!?」
不意打ちのように唇を押し付けられた。そのまま山肌に押し付けられて、吸い上げられるような口づけをかわす。彼女の下が俺の唇を割って入ってきて、俺の舌を舐る。始めてのキス、その快楽に酔いしれて俺は負けじと彼女の舌に自分のものを絡ませて応じた。
口づけしながらも彼女の手が俺のものにかけられる。冷たい感触が俺の亀頭に触れて、彼女の体温とひとつになる。しびれるような快感に思わず達しそうになった。
扱かずに触れたまましばらくして、彼女は俺の唇をようやく解放した。唾液でお互いの唇がふやけて、その唇から名残惜しむように糸が引かれた。
うっとりとした表情の彼女が艶かしく舌を覗かせる。指先を動かして俺の鈴口を擦り上げた。
「お前の精が、直接ほしい」
上目遣いにねだられて、俺の理性が崩壊した音がはっきりと聞こえた。魔物と交わるのは禁忌だという教えももう知らない。唇から、手から、彼女の全てに触れたくて、その熱を貪欲に求めたいという欲望に支配された。
「お前、女を知らないんだろう?」
「ぐうっ……うん」
からかうように俺を見上げながら掌を使って俺の亀頭を撫で回す。その刺激に幾度も達しそうになりながらも、俺はかくかくと首を縦に振った。その答えに嬉しそうに微笑みながら彼女は俺のモノを扱く手を早める。
「私もだ。男は何度も見たが触れるのはお前が始めてだ」
とてもそうは思えないほどに慣れた手つきで俺のカリ首を、そして空いた左手で俺の睾丸を撫で回しながら彼女は続ける。その動きが一瞬だけ止まった。そして、蒼い表情に一筋の朱がさして、上目遣いに睨みつけるように俺を見る。
「だから、上手くなくても、文句、言うなよ」
そう言って、彼女は俺のモノを一息に口に含んだ。不思議と冷たさは感じず、むしろ温かいくらいだった。そのまま舌で俺の亀頭全体を舐め回し、窄めた唇で俺の陰茎をしごいていく。
ずちゅずちゅと、淫猥な音が誰もいない山に響く。ちゅうちゅうと先端を吸われるたびに腰が浮いて、彼女の喉を突いてしまいそうになる。
「きもふぃひは?」
加えながら尋ねる彼女になんとか首を振って答えると彼女は嬉しそうに俺のものから口を離してから、次は見せつけるように俺の肉棒に舌を這わせ始めた。
ねっとりと下から舐め上げるように動かして、先端に軽く口づけをする。しびれるような快感と共に軽い先走り汁が彼女の綺麗な顔を少しだけ汚した。それを嬉しそうに舐めとって、俺の前で舌を踊らせて糸をひかせる。
そして、俺の亀頭を舌で何度も擦り上げ始めて俺は快楽に悲鳴を上げた。円を描くように舌を動かして、俺を責め抜く。
「おいっ、もう、イきそうだっ!」
「だふぃへ、いいほ」
舌の動きを休めずに彼女が射精を許可する。彼女の下を動かすペースが上がった。腰がかくかくと動くのを止められず、俺は彼女の氷のように美しい顔を汚すように何度も達した。
白濁が彼女の顔を染め上げて、浸かっている湯に垂れ落ちていく。俺は荒い息のまま後ろでをついて、空を見上げていた。
こんな射精をしたのは生まれて初めてかもしれない。性処理なんてほとんどやってこなかったし、貴重なタンパク質だと思ってこういう行為に耽ったこともなかったしそんな相手もいなかった。
こんなに、女のカラダとはいいものなのか。
みると、彼女は妖艶な表情で俺の精液を舐めとっている。俺がまじまじと見ているのに気がつくと、下を出して俺から吸い上げた白濁液をねちゃねちゃと咀嚼して見せた。
「お前の、美味しいな」
そう言って、萎えそうになった俺の一物に唾液を絡めてもう一度扱く。刺激と、精液を垂らしながら俺を求める彼女の痴態に、俺のモノはすぐに復帰した。
「お前も私を触ってくれ」
その言葉に誘われるように俺は彼女に手を伸ばした。正面から抱きすくめて、彼女の乳房を弄る。
「んっ……」
いつしか彼女の体は熱を持つようになっていた。湯に浸かっているのにまるでそれらに冷まされているかのような錯覚を覚える。その熱に浮かされるままに俺は彼女の体を貪った。
乳房はまるで雪兎の体のようになめらかで、それでいて餅のように弾力がある。俺はその感触に夢中になった。撫で回し、揉みほぐし、掌がやがてつんと勃った乳首にたどり着く。
「んうっ……」
悩ましい声を彼女が出すことに気をよくして、俺は乳輪にそって彼女の先端を苛めぬいた。撫でて、つまんで、吸って、どれだけそうしたかわからない程に快楽に溺れた。
「ふふ、まるで赤子じゃないか。そんなにちゅうちゅう吸って」
乳首を吸い上げる俺を彼女がぎゅっと抱きしめる。それに答えて一層強く彼女の乳首を責めると、彼女は淫らに喘いだ。
「いつまでも吸ってないで、キスもしてくれ……」
彼女からくちづけを求められて、俺がそれに答える。正面から抱き合い、唇を交わし合う。ふと俺のペニスの先端が彼女の花びらに触れた。糸をひいてお互いの性器が離れる。彼女の秘所はすっかり濡れそぼっていた。
「入れて、くれ……」
岩に腰掛けて、彼女が俺に向けて股を開く。彼女の目はすっかり情欲の炎に燃えていて、悦楽に酔いしれていた。岩肌に背をあずけ、俺を誘って淫靡に華を見せる。俺のモノを待ち望むように、彼女の入口がひくひくと動いていた。
俺に尻を、秘所を全てさらけ出すような格好に男の征服欲が掻き立てられる。魔物でもなんでもいい。この女を抱いて、この女を自分のものにしたい。獣欲に掻き立てられて、俺は彼女の濡れそぼった花びらの中心に自分の怒張を付き入れた。
「んあああっ!? くううっ!」
「うおっ!?」
付き入れた瞬間に想像を絶する快楽に思わず射精しそうになった。喘ぎ声を彼女が必死に漏らすまいと歯を食いしばる。俺も同時に射精するまいと歯を食いしばった。お互いがお互いをぎゅっと抱きすくめる。
「ふふ、オチンポがバキバキじゃないか。私の中は気持ちいいか?」
「ああっ……すげえいい」
淫らな言葉を彼女が俺の耳元で囁く。ぴくんと、彼女の言葉に反応して俺の肉棒が動き、それを感じて彼女が悩ましい声を上げた。
「早く動け。それとも私が動くか?」
「いや、きみを気持ちよくしてやりたい」
彼女の中は彼女の口よりもずっと気持ちが良かった。中はもうぬるぬるとしていて、それでいて肉襞の一枚一枚がうねり、絡みつくように俺のモノを扱きあげる。中で動いたらどれだけ気持ち良いのか。その一心で俺は彼女の腰に自分の腰を何度も叩きつけた始めた。
「温かいな、直接精を絞るのもいいかもしれない」
「気持ちいいか?」
「ああ、すごくいい。もうお前は離さないからなっ!」
そう言って、彼女は俺の体を抱きしめ、さらに俺の腰に足を絡めてしがみついてきた。俺が腰を動かすリズムに合わせて彼女も自分の腰を動かす。押しては引き、ひいては押し、互いに淫らに快楽を求めあった。もう理性など崩壊し、むちゃくちゃに彼女を突きまくった。
「ばかっ、あんまり、はげしくするなっ……!」
唐突に荒くなった動きに不満を漏らしつつも、彼女の喘ぎ声が止まらない。どんなに乱暴にしても彼女は快楽を甘受し、高まっていく。これくらい激しいほうが彼女にとってはいいのかもしれない。
「んあっ、やっ、ああっ!」
ぐっちゃぐっちゃといやらしい音をたてながらも抽挿を繰り返す。その度に彼女は淫猥に喘ぎ、乱れ、俺の獣欲を掻き立てる。そしてそれに合わせて俺はさらに激しく動くのだ。
バシャバシャと二人が動くのに合わせて温泉のしぶきが立つ。その中でぐちゃぐちゃと彼女の中をかき混ぜる音が混じり、時たまに湯のしぶきとは違う飛沫が彼女の股から飛び散る。
だんだん彼女に余裕が無くなってきた。氷のように引き締まった表情は見る影もなくふやけきって、口の端から精液とヨダレが合わさったものが垂れている。まるで獣のようにあられのない声で彼女は啼いた。
「おまんこ、こんなの、すごいっ!」
「ああっ、気持ちいい! 気持ちいい!」
「もっと、おまんこもっと突いて! オチンポでぐちゅぐちゅってするの気持ちいいから……!」
腰を絶えず動かしながらお互いを抱きしめ合う。唇を交わし合い、舌を絡めている間に俺は彼女の膣を押し上げるように腰を振った。
「ひあっ、おちんちん、中、押しあげてっ!」
「出すぞ、いいよな!?」
「うん、中に、中に出して……!」
子宮口の感触を先端に感じながら俺は小刻みに彼女の体を揺すって中を小突く。それに合わせて彼女が何度も快楽に悲鳴をあげる。ぐちゃぐちゃと愛液が弾ける音のペースが早い。
「くああっ!」
「ああああっ!!」
一際強く彼女の中に突き入れた瞬間、限界が訪れた。二人の悲鳴が重なる。目の前が真っ白になるような快感と共に、俺は彼女の中にどくどくと精を解き放っていた。
「熱い……中がやけどしそうだ……」
彼女を押し倒し、脱力感に任せて彼女の体に覆いかぶさる。俺のペニスを引き抜いて、彼女がやれやれといった表情で這い出てくると、脱力しきった俺に唇を合わせた。
「気持ち良かったか?」
「ああ、すげえ良かった」
これが精を吸われるという事だろうか、あれだけ元気だった息子がもう勃つ気がしない。いや、きっとやれば勃つのだろうが命に関わるような気がする。
彼女が鼻を鳴らして甘えてくる。俺はそんな彼女の体を優しく抱きしめた。彼女の体が熱いほどの熱を帯びている。
「熱いな」
「ああ……お前もあったかい。男の体がこんなに温かいなんて思わなかった」
そう言って、微笑む彼女の顔を見て俺の意識はまどろみの中に落ちていった。
*
目を覚ますと俺は服を着ていて、温泉のすぐ傍で寝ていた。俺と肌を重ねた彼女はいつの間にか消えていて、代わりに夜も明けてすっかり吹雪も止んでいた。
彼女の名前を聞くことも、再会の約束もしなかった。その事が悔やまれる。探そうにも、名前を知らなければ彼女を呼ぶことだって出来はしないのだ。
結局温泉は使い物にならない。入ることはできても観光資源としてこの温泉を使うことは出来ないだろう。魔物に襲われて、今度は彼女のように優しい魔物ではないかもしれないのだから。
山を降りて村に戻ると、村の爺さん婆さんが俺を心配して待っていた。無事に戻った俺の姿をみるなり、俺がガキの頃にそうされたように叱りつけて、その後に俺の無事を祝ってくれた。
魔物はどうしたのかと聞かれた際には、「魔物はいたけどなんとか逃げ切った」という事にしておいた。グラキエスと愛し合った、その思い出はきっと墓まで持っていく。そう決めていた。
そして、騒ぎが落ち着いてようやく俺は自分の家に戻ることができた。誰もいない我が家、そのドアの取っ手に手をかけて忘れていた寂しさが蘇る。
もうあんなに素敵で、温かい想いをすることは無い。家に入る前にあの山を振り返る。彼女は今どうしているだろうか――。
そんなことを考えながらドアを押し開ける。
「おかえりなさい」
「――えっ?」
目を疑った。誰もいないはずの我が家。俺しか入らない厨房。そこに、昨日愛し合ったグラキエスが、初めて会った時とは違う満面の笑みで立っていた。
「どう、して」
「これで、もう寂しくないだろう?」
そう言って、彼女は雪で冷えた俺の体を抱きしめる。人と同じ暖かさ。昨日抱いた彼女の体だった。
「私の心を溶かしたのはお前だ。今度は私がお前に熱をあげるからな」
そう言って、彼女は僅かに背伸びして俺の唇にくちづけた。軽い、唇を合わせるだけのキス。それだけなのにどうしようもなく心が震えて、彼女への愛しさが溢れた。
「毎日、私がお前を温めてやる」
二人の熱が交じあって、溶け始めた。
登っている山は村からはあまり離れていない場所にいちするも、今まで人が寄り付いたことはない。というのも、古くから魔物が住んでいるという話だったからだ。
しかし、実際にその姿を見たという話は聞かない。その事実だけを信じて俺はここまで登ってきた。その目的は一つ。
「ここか」
探し物を見つける。山の中腹、ちょうど林の外れにもやもやとした白いものを見つけた。ともすれば吹雪に紛れて見逃したかもしれない。しかし、白いもやは空から降るものではなく、地から登っていくものだった。
温泉、である。
この山に温泉が湧いているという話を聞いたのは数日前の村の酒場でだった。冒険者の身なりをした男が言うには、この雪山は火山だそうで温泉が湧いているかもしれない。そして、その男は山の中腹でそれらしい痕跡を見たという。
もしこの山が安全で、きちんと整備をすることができれば一大産業になるかもしれない、という言葉を男は残して村を去っていった。
その男は随分酒に酔っていたようだし、酔っぱらいの戯言と笑う事も出来たのだが俺はそうすることができなかった。その言葉は余りにも魅力的すぎた。
俺が今暮らしている村は決して豊かなものじゃない。冬になると農地は凍てつき、食糧生産は停止する。雪が溶けてもこの痩せた土地では大したものは作れない。辛うじて作れるじゃがいもが頼みの綱だ。後は、たまに来る観光客が落とす外貨をあてにするぐらいか。
そうしてこの凍えた村で俺は一生過ごして行くのかと思うと俺は耐えられない。村の人口は少なく、生きるには厳しい環境だ。俺には同い年の友人もいない。親も数年前までは生きていたが、やがて凍傷で手足を駄目にしてしまい、生きることはできなくなった。村には爺さん婆さんや、数少ない中年と子供だけ。働き盛りなのは俺だけのひどい村だ。かと言って村を去るという選択肢は俺にはなかった。
俺はこの村を、雪原を愛しているからだ。
一面に広がる雪原の白さ、海のように広がるその上に浮かぶ黄金の月。それらのなんと美しい事か。そしてそれらに囲まれて育った事を俺は悔やんだことはない。
貧しいが、この村はいい場所だ。だから、多くの人にそれを知ってもらいたいし、ここに住む人にはもう少しだけマシな暮らしをして欲しい。
それを何とかする手が温泉だというなら、それに賭けてみたかった。
足で雪を蹴散らし、進んでいくと山肌が少しだけくぼんだような場所があり、そこにはもうもうと湯気を立ち上らせる湖があった。
この雪の中で凍らずに豊かな水を湛えている。ちょうど今日は満月で、水面には月がもう一つ浮かんでいた。
手袋を外し、水中の月に手を伸ばす。暑い、だがこの雪山ではちょうどいいくらいの温度。石を入れてみると、すぐに動かなくなった。きちんと浸かれるほどに浅い。
完璧だった。手が凍りつかないように乾いた布で拭いて思案する。今日のような吹雪でなければ、雪山に慣れていなくても簡単に登れる距離。そしてこの広さ。恐らく十人は浸かれるだろう。俺にそういった学はないがきっと村の助けになってくれる。
問題は、本当に魔物がいないかどうか。後はこの温泉の浸かり心地か。
「試してみるか」
そう言って、俺は服を脱いで温泉に飛び込んだ。寒さで肌が悲鳴をあげたのも一瞬。飛び込んですぐにまるで火にあたっているような暖かさに包まれる。
「すげえ」
素晴らしい、の一言に尽きた。先ほどまで服の上からも凍えていた体が一瞬でほぐれていく。首から上は寒いには寒いが、適度に湯をかけてやれば問題ない。
何よりもこの温泉からの眺めだ。雪原を一望でき、空を遮るものは何もない。見上げれば、はらはらと白い結晶が舞うように降りてきて、水面まで落ちてきてふわりと溶ける。
俺が愛した雪原の景色そのものだった。
山肌に背を付けるように腰を落ち着ける。そのまま何も考えずにぼうっとしていた。
夜があけるまでこうしているつもりだった。ずっとこうしていたいという願望もあったが、それだけではない。
俺は魔物を待つつもりでいた。
魔物が住むとされる山、その真偽を確かめるには自分がその魔物にあってしまうのが手っ取り早い。聞けば魔物は男を好んで襲うという。冒険者は、魔物は人の命を取ったりはしない、と言っていたがそれはどうかわからない。
いずれにせよ、こうして裸で無防備に一日過ごせば魔物は絶対に襲ってくる。もしこなければ、俺の勝ち、だ。
そう考えて数十分、湯に浸かっていると不意に吹雪が激しくなってきた。ちょうど山陰にあたる温泉で直接吹雪が吹き込んでくる訳ではないが、今からやっぱり帰る、というわけには行かなさそうだ。
「上等だぜ」
汗を舌で舐めとる。
「お前、そこで何をしている」
声をかけられた瞬間に、体が芯から凍てついたような錯覚を覚えた。いや、実際に凍えているのかもしれない。少しだけ手が震えていた。
声のした方に視線を向けると岩陰から、一人の少女が顔を覗かせていた。
思わず息を呑むほど彼女は美しかった。教会の聖堂で見た女神様のように整った顔。華奢な体。吹雪の中をさらさらと舞う長く青い髪。それと同じ色をした瞳はいつだったか、行商人が扱っていたサファイアを連想させた。
ただ、その目は鋭い輝きを宿していて、表情も憮然としている。もし笑ったらきっと素晴らしいだろうに、俺を突き刺すような目をしたままこちらを見ていた。
「いや、温泉をだな」
慌てて前を隠してしどろもどろになりながら答える。女の子と話したことなんて、母親を除けばまったく無い。
「ふん、まあちょうどいいがな」
俺の弁解にまるで興味を失ったかのように彼女はそっぽを向く。それと同時に俺を包んでいた寒さがさらにひどくなった。
「うわっ、寒っ!」
「生気を吸わせてもらうぞ、こんなところに裸でいるのが悪いのだ阿呆め」
「ま、魔物……!?」
凍えた唇がうまく動かない。切れ切れの俺の言葉を受けて、吐き捨てるように少女が一言
「馬鹿な男だ」
とだけ言った。
温泉に浸かっているのに寒くて仕方がない。そのうちに意識が飛びそうになってきた。
「安心しろ、命までは取らん」
取って付けたように少女が付け加えるが、その真偽を判断するだけの理性も残っていなかった。
ただ、寂しいという感情が心を埋め尽くす。
誰かに触れていたい。心まで凍てついたように寒い。誰か、助けて欲しい。
「さっさと村に戻るんだな」
一通り吹雪が過ぎ去った後、少女は言い捨てて俺に背を向けた。少しだけ温泉の暖かさが戻ってくるものの、心は凍てついたままで、俺は人に触れたい一心だった。
「嫌だ」
だから、立ち去ろうとする少女の背中に縋るように一言だけ告げた。
そのまま温泉に身を沈め込む。せめて体温だけは取り戻したかった。視界の端で、氷の少女が驚きで表情を崩しているのが見えた。
「何故だ、さっさと村に戻ればいいだろう」
「……嫌だ」
さらに温泉に深く身を沈めて両足を腕で抱く。それでも、ちっとも暖かいとは感じなかった。
村には、戻れない。
誰かの温もりが欲しい。でも、村の誰も頼れない。爺さんも婆さんも、チビ共も、その日を生きるのに手一杯なのだ。働き盛りの自分が村の誰かにどうして甘えられるだろう。村には女がいないし、母もずっと昔に死んだ。毎日毎日畑を耕し、わずかな糧を口にして生きて、なんとか一人で生きている。誰かに甘えたことなんて、ずっと昔の思い出の中でだけ。
気がついたら、甘え方なんて、忘れていた。
両手を握り締める。農具を毎日毎日振り回した、ごつごつした手。近所のチビ共に触られて岩みたいなんて言われてしまった手だ。この手で触れてきたものは、農具と作物と、俺がずっと守って行かなきゃいけないものだけ。
触れて、寂しさを埋めるにはどうしたらいいのだろう。そんなこと、考えたことも無かった。
ただ、寂しかった。自分の今までの暮らしを考えても。これからの事を考えても。温泉なんて夢のまた夢。魔物は実際にいた。これからもいつもどおりの暮らしを、凍えた世界で過ごしていく。見果てぬ夢を見て、それが潰えて、美しい月夜の雪原もその無聊を慰めるには全く足りない。
だから。
「行かないで、くれ……」
声を絞り出す。少女が眉をひそめた。
「頼むよ……」
「お前……」
不可解、と言わんばかりの表情を少女が浮かべる。いつの間にか、俺は泣いていた。もうここで死んでもいいと思えるほど絶望していた。涙を流そうと水面に顔を沈める。肩にひんやりとした感触が不意に伝わった。
隣をみると、宙に浮いたまま魔物の少女が俺の横で温泉に足をつけていた。
「まだ精気を吸われ足りないらしいな」
「ありがとう……」
涙ながらに少女の手に手を伸ばす。手のひらが触れ合って、その冷たさのどこかに俺は暖かさを感じているような気がして、ずっと俺はそれを握っていた。
凍えるような感触が和らいだ気がする。冷たくも温かい、奇妙な感覚をずっと味わっていたくて、俺はその魔物の少女の手をずっと握っていた。
そのままどれだけの時間を過ごしていたかわからない。意識が朦朧としていたけれど、彼女の手だけはずっと握っていた。
「お前、一体何なんだ」
不意に、彼女が口を開いた。
「変な人間だ。お前の精を奪うというのに逃げるどころか引き止めるなんて」
「寂しかったから」
「帰って人間の女でも抱けばいいだろう」
「そんなこと出来ないよ、村に女なんてもういないんだ」
俺の言葉に彼女が首をかしげる。それから何かを言おうとして、しかし口ごもった。
「それは……まあ、お前の村の事情など知ったことではないがな」
「うん、だから君が残ってくれて良かった気がするよ」
素直な気持ちだった。しかし、彼女はひどい嘘を聞いたときのように眉をひそめた。
「本当に妙な人間だな」
「ごめん……あのさ、良かったら一緒に温泉につからない?」
「なんだと?」
「いつまでも足だけつけていないでさ。入ってみなよ」
それとも氷の体だから入ったら溶けてしまうのだろうかとも考えたが、ずっとつけている足は凍ったままだ。大丈夫のようである。
「ふん。まあものは試しと言うしな……」
ぶつくさと言いながらも彼女が湯に腰を落とす。手を握ったままで俺の隣に座って、俺と彼女の肩が触れ合った。
「どう?」
「ふむ、悪くはないな」
それだけ言って、彼女はそれきり黙ってしまった。二人黙って月夜を見上げる。沈黙が周囲を支配するも、不思議ともう寂しいという感情は覚えなかった。
大自然の美しさを表す言葉に雪月花というものがあるらしい。学のない俺はよく知らなかったが、今はそれを全て目にしているような贅沢な心持ちだった。雪も、月も、そして隣に座る彼女は花のように美しくて。
いつしか彼女が魔物であることも忘れて、まるで親しい友人のように俺は語りかけていた。
「俺の村はさ、すごく貧しいんだ。作物も取れないし、人もいない。俺の親も死んじまったから、ここ最近はずっと一人で生きてきたんだ」
彼女は何も答えなかった。しかし、口を挟むことも拒絶することもしなかった。ただその横顔が続けろ、と行っているような気がして俺は話を続けた。
「それで、思ったんだ。この村で働き盛りなのは俺しかいなくてこの村を守るのは俺なんだって。がむしゃらに頑張って、温泉なんて何かに使えるかもしれないって考えてひとりで頑張った。でも、君にあってからどうしてだかすごく寂しくなってさ」
「……それで?」
そこまで言って、何をどういったものか言葉を選んでいると彼女が僕の方を見ずに先を促した。聞いてくれているのだと安堵すると同時に、妙に嬉しくなった。
「えっと、それでさ? 魔物がいて、この温泉は他の皆が使えないって分かって残念だったけど、君に会えて良かったというか、始めて女の子に会ったから嬉しかったというか」
「そう……なのか?」
「そう! 変な感じだけど、でも悪い奴じゃなくって、それにとっても綺麗で!」
「そう、なのか」
きっと湯にのぼせてしまったのだろう、自分が恥ずかしい事を言っているのに気がつくのにかなり時間がかかった。そして気がついた頃には、彼女の顔を見ることが出来ないくらいに顔が赤くなっていた。
「そうか」
彼女が落ち着いた声色で返す頃には、もうすっかりのぼせ上がってどうこの場をごまかしたらいいのか頭の中で考えを巡らせていた。
僕の背中にぴたりと柔らかいものが触れた。ついで背後から腕が伸びてきて僕の胸の前で交差する。少ししてから、隣の彼女が抱きついているのだと理解した。
「な、何を!?」
「不思議、なんだ」
慌てる僕を押さえ込むようにぎゅっと抱きしめる手に力が篭る。彼女が僕の肩に顎を載せて、耳元で囁きかけてくる。
「我々グラキエスは氷の魔物だ。男に触れなくとも精を得ることができるし、お前たち人間に特別な感情は抱かない。私だって、会ってからお前をただの生きる糧の一つとしか見ていなかった」
「……今、は?」
問い返すと、ちろりと耳元を冷たく柔らかいものが走る。彼女に耳を舐められたのだとすぐには気がつかなかった。
「お前は温かい。触れていると心地いい。不思議だ」
そのまま猫がじゃれつくように俺の肩に頬ずりし始める。すん、と甘えるように鼻を鳴らす仕草が可愛らしすぎて、湯の中で俺の一物が膨れ上がったのを、さりげなく手で伏せて隠した。
「お前、興奮してるな?」
そして、すぐにバレた。
「いや、これは……」
弁解しながら振り向くと、出会った頃の氷のような冷たい表情は嘘のように、だらけきっていて、その目は俺のものに熱い視線を送っている。その表情に戸惑うと同時に、始めて見た発情した雌の顔に興奮がさらに高まる。
「んっ!?」
不意打ちのように唇を押し付けられた。そのまま山肌に押し付けられて、吸い上げられるような口づけをかわす。彼女の下が俺の唇を割って入ってきて、俺の舌を舐る。始めてのキス、その快楽に酔いしれて俺は負けじと彼女の舌に自分のものを絡ませて応じた。
口づけしながらも彼女の手が俺のものにかけられる。冷たい感触が俺の亀頭に触れて、彼女の体温とひとつになる。しびれるような快感に思わず達しそうになった。
扱かずに触れたまましばらくして、彼女は俺の唇をようやく解放した。唾液でお互いの唇がふやけて、その唇から名残惜しむように糸が引かれた。
うっとりとした表情の彼女が艶かしく舌を覗かせる。指先を動かして俺の鈴口を擦り上げた。
「お前の精が、直接ほしい」
上目遣いにねだられて、俺の理性が崩壊した音がはっきりと聞こえた。魔物と交わるのは禁忌だという教えももう知らない。唇から、手から、彼女の全てに触れたくて、その熱を貪欲に求めたいという欲望に支配された。
「お前、女を知らないんだろう?」
「ぐうっ……うん」
からかうように俺を見上げながら掌を使って俺の亀頭を撫で回す。その刺激に幾度も達しそうになりながらも、俺はかくかくと首を縦に振った。その答えに嬉しそうに微笑みながら彼女は俺のモノを扱く手を早める。
「私もだ。男は何度も見たが触れるのはお前が始めてだ」
とてもそうは思えないほどに慣れた手つきで俺のカリ首を、そして空いた左手で俺の睾丸を撫で回しながら彼女は続ける。その動きが一瞬だけ止まった。そして、蒼い表情に一筋の朱がさして、上目遣いに睨みつけるように俺を見る。
「だから、上手くなくても、文句、言うなよ」
そう言って、彼女は俺のモノを一息に口に含んだ。不思議と冷たさは感じず、むしろ温かいくらいだった。そのまま舌で俺の亀頭全体を舐め回し、窄めた唇で俺の陰茎をしごいていく。
ずちゅずちゅと、淫猥な音が誰もいない山に響く。ちゅうちゅうと先端を吸われるたびに腰が浮いて、彼女の喉を突いてしまいそうになる。
「きもふぃひは?」
加えながら尋ねる彼女になんとか首を振って答えると彼女は嬉しそうに俺のものから口を離してから、次は見せつけるように俺の肉棒に舌を這わせ始めた。
ねっとりと下から舐め上げるように動かして、先端に軽く口づけをする。しびれるような快感と共に軽い先走り汁が彼女の綺麗な顔を少しだけ汚した。それを嬉しそうに舐めとって、俺の前で舌を踊らせて糸をひかせる。
そして、俺の亀頭を舌で何度も擦り上げ始めて俺は快楽に悲鳴を上げた。円を描くように舌を動かして、俺を責め抜く。
「おいっ、もう、イきそうだっ!」
「だふぃへ、いいほ」
舌の動きを休めずに彼女が射精を許可する。彼女の下を動かすペースが上がった。腰がかくかくと動くのを止められず、俺は彼女の氷のように美しい顔を汚すように何度も達した。
白濁が彼女の顔を染め上げて、浸かっている湯に垂れ落ちていく。俺は荒い息のまま後ろでをついて、空を見上げていた。
こんな射精をしたのは生まれて初めてかもしれない。性処理なんてほとんどやってこなかったし、貴重なタンパク質だと思ってこういう行為に耽ったこともなかったしそんな相手もいなかった。
こんなに、女のカラダとはいいものなのか。
みると、彼女は妖艶な表情で俺の精液を舐めとっている。俺がまじまじと見ているのに気がつくと、下を出して俺から吸い上げた白濁液をねちゃねちゃと咀嚼して見せた。
「お前の、美味しいな」
そう言って、萎えそうになった俺の一物に唾液を絡めてもう一度扱く。刺激と、精液を垂らしながら俺を求める彼女の痴態に、俺のモノはすぐに復帰した。
「お前も私を触ってくれ」
その言葉に誘われるように俺は彼女に手を伸ばした。正面から抱きすくめて、彼女の乳房を弄る。
「んっ……」
いつしか彼女の体は熱を持つようになっていた。湯に浸かっているのにまるでそれらに冷まされているかのような錯覚を覚える。その熱に浮かされるままに俺は彼女の体を貪った。
乳房はまるで雪兎の体のようになめらかで、それでいて餅のように弾力がある。俺はその感触に夢中になった。撫で回し、揉みほぐし、掌がやがてつんと勃った乳首にたどり着く。
「んうっ……」
悩ましい声を彼女が出すことに気をよくして、俺は乳輪にそって彼女の先端を苛めぬいた。撫でて、つまんで、吸って、どれだけそうしたかわからない程に快楽に溺れた。
「ふふ、まるで赤子じゃないか。そんなにちゅうちゅう吸って」
乳首を吸い上げる俺を彼女がぎゅっと抱きしめる。それに答えて一層強く彼女の乳首を責めると、彼女は淫らに喘いだ。
「いつまでも吸ってないで、キスもしてくれ……」
彼女からくちづけを求められて、俺がそれに答える。正面から抱き合い、唇を交わし合う。ふと俺のペニスの先端が彼女の花びらに触れた。糸をひいてお互いの性器が離れる。彼女の秘所はすっかり濡れそぼっていた。
「入れて、くれ……」
岩に腰掛けて、彼女が俺に向けて股を開く。彼女の目はすっかり情欲の炎に燃えていて、悦楽に酔いしれていた。岩肌に背をあずけ、俺を誘って淫靡に華を見せる。俺のモノを待ち望むように、彼女の入口がひくひくと動いていた。
俺に尻を、秘所を全てさらけ出すような格好に男の征服欲が掻き立てられる。魔物でもなんでもいい。この女を抱いて、この女を自分のものにしたい。獣欲に掻き立てられて、俺は彼女の濡れそぼった花びらの中心に自分の怒張を付き入れた。
「んあああっ!? くううっ!」
「うおっ!?」
付き入れた瞬間に想像を絶する快楽に思わず射精しそうになった。喘ぎ声を彼女が必死に漏らすまいと歯を食いしばる。俺も同時に射精するまいと歯を食いしばった。お互いがお互いをぎゅっと抱きすくめる。
「ふふ、オチンポがバキバキじゃないか。私の中は気持ちいいか?」
「ああっ……すげえいい」
淫らな言葉を彼女が俺の耳元で囁く。ぴくんと、彼女の言葉に反応して俺の肉棒が動き、それを感じて彼女が悩ましい声を上げた。
「早く動け。それとも私が動くか?」
「いや、きみを気持ちよくしてやりたい」
彼女の中は彼女の口よりもずっと気持ちが良かった。中はもうぬるぬるとしていて、それでいて肉襞の一枚一枚がうねり、絡みつくように俺のモノを扱きあげる。中で動いたらどれだけ気持ち良いのか。その一心で俺は彼女の腰に自分の腰を何度も叩きつけた始めた。
「温かいな、直接精を絞るのもいいかもしれない」
「気持ちいいか?」
「ああ、すごくいい。もうお前は離さないからなっ!」
そう言って、彼女は俺の体を抱きしめ、さらに俺の腰に足を絡めてしがみついてきた。俺が腰を動かすリズムに合わせて彼女も自分の腰を動かす。押しては引き、ひいては押し、互いに淫らに快楽を求めあった。もう理性など崩壊し、むちゃくちゃに彼女を突きまくった。
「ばかっ、あんまり、はげしくするなっ……!」
唐突に荒くなった動きに不満を漏らしつつも、彼女の喘ぎ声が止まらない。どんなに乱暴にしても彼女は快楽を甘受し、高まっていく。これくらい激しいほうが彼女にとってはいいのかもしれない。
「んあっ、やっ、ああっ!」
ぐっちゃぐっちゃといやらしい音をたてながらも抽挿を繰り返す。その度に彼女は淫猥に喘ぎ、乱れ、俺の獣欲を掻き立てる。そしてそれに合わせて俺はさらに激しく動くのだ。
バシャバシャと二人が動くのに合わせて温泉のしぶきが立つ。その中でぐちゃぐちゃと彼女の中をかき混ぜる音が混じり、時たまに湯のしぶきとは違う飛沫が彼女の股から飛び散る。
だんだん彼女に余裕が無くなってきた。氷のように引き締まった表情は見る影もなくふやけきって、口の端から精液とヨダレが合わさったものが垂れている。まるで獣のようにあられのない声で彼女は啼いた。
「おまんこ、こんなの、すごいっ!」
「ああっ、気持ちいい! 気持ちいい!」
「もっと、おまんこもっと突いて! オチンポでぐちゅぐちゅってするの気持ちいいから……!」
腰を絶えず動かしながらお互いを抱きしめ合う。唇を交わし合い、舌を絡めている間に俺は彼女の膣を押し上げるように腰を振った。
「ひあっ、おちんちん、中、押しあげてっ!」
「出すぞ、いいよな!?」
「うん、中に、中に出して……!」
子宮口の感触を先端に感じながら俺は小刻みに彼女の体を揺すって中を小突く。それに合わせて彼女が何度も快楽に悲鳴をあげる。ぐちゃぐちゃと愛液が弾ける音のペースが早い。
「くああっ!」
「ああああっ!!」
一際強く彼女の中に突き入れた瞬間、限界が訪れた。二人の悲鳴が重なる。目の前が真っ白になるような快感と共に、俺は彼女の中にどくどくと精を解き放っていた。
「熱い……中がやけどしそうだ……」
彼女を押し倒し、脱力感に任せて彼女の体に覆いかぶさる。俺のペニスを引き抜いて、彼女がやれやれといった表情で這い出てくると、脱力しきった俺に唇を合わせた。
「気持ち良かったか?」
「ああ、すげえ良かった」
これが精を吸われるという事だろうか、あれだけ元気だった息子がもう勃つ気がしない。いや、きっとやれば勃つのだろうが命に関わるような気がする。
彼女が鼻を鳴らして甘えてくる。俺はそんな彼女の体を優しく抱きしめた。彼女の体が熱いほどの熱を帯びている。
「熱いな」
「ああ……お前もあったかい。男の体がこんなに温かいなんて思わなかった」
そう言って、微笑む彼女の顔を見て俺の意識はまどろみの中に落ちていった。
*
目を覚ますと俺は服を着ていて、温泉のすぐ傍で寝ていた。俺と肌を重ねた彼女はいつの間にか消えていて、代わりに夜も明けてすっかり吹雪も止んでいた。
彼女の名前を聞くことも、再会の約束もしなかった。その事が悔やまれる。探そうにも、名前を知らなければ彼女を呼ぶことだって出来はしないのだ。
結局温泉は使い物にならない。入ることはできても観光資源としてこの温泉を使うことは出来ないだろう。魔物に襲われて、今度は彼女のように優しい魔物ではないかもしれないのだから。
山を降りて村に戻ると、村の爺さん婆さんが俺を心配して待っていた。無事に戻った俺の姿をみるなり、俺がガキの頃にそうされたように叱りつけて、その後に俺の無事を祝ってくれた。
魔物はどうしたのかと聞かれた際には、「魔物はいたけどなんとか逃げ切った」という事にしておいた。グラキエスと愛し合った、その思い出はきっと墓まで持っていく。そう決めていた。
そして、騒ぎが落ち着いてようやく俺は自分の家に戻ることができた。誰もいない我が家、そのドアの取っ手に手をかけて忘れていた寂しさが蘇る。
もうあんなに素敵で、温かい想いをすることは無い。家に入る前にあの山を振り返る。彼女は今どうしているだろうか――。
そんなことを考えながらドアを押し開ける。
「おかえりなさい」
「――えっ?」
目を疑った。誰もいないはずの我が家。俺しか入らない厨房。そこに、昨日愛し合ったグラキエスが、初めて会った時とは違う満面の笑みで立っていた。
「どう、して」
「これで、もう寂しくないだろう?」
そう言って、彼女は雪で冷えた俺の体を抱きしめる。人と同じ暖かさ。昨日抱いた彼女の体だった。
「私の心を溶かしたのはお前だ。今度は私がお前に熱をあげるからな」
そう言って、彼女は僅かに背伸びして俺の唇にくちづけた。軽い、唇を合わせるだけのキス。それだけなのにどうしようもなく心が震えて、彼女への愛しさが溢れた。
「毎日、私がお前を温めてやる」
二人の熱が交じあって、溶け始めた。
13/12/30 04:23更新 / ご隠居