第十一章 苦戦
加速魔法でレスカティエの国境近くに辿り着く。
ぼくは入国審査で引きとめられた。地味なローブを羽織って旅人を装ったが、厳しく詰め寄られたので拘束魔法で黙らせた。
中央広場に駆けだす。以前の集会で道順は覚えていた。最短距離で向かう。
トモエが晒されていた。辛うじて生きていた。間に合った。
彼女は高台に処刑場が用意され、つるされている。ボロ切れの様にみすぼらしい姿をしていた。処刑場を囲む様に見張り役も数人いる。周りには見物客がニヤニヤしながら大勢集まっていた。
公開処刑前に晒し、じわりじわり弱らせてから火炙りにするのが蛮族に対する最も残酷な処刑法。
「トモエッ!」
叫びながら、駆け寄り、見張り役に拘束魔法をかける。
見物人が動転する中、つるされたトモエをもぎ取り、抱えて全速力で離脱した。一般人は蜘蛛の子を散らす様に逃げていく。
その間数十秒。我ながら手早く行動できたつもりだった。
「……サラ…さん…?」
逃走中、傷だらけのトモエが意識を取り戻す。
「しゃべらないで!何処か落ち着ける場所に着いたら治療しますから!」
後ろには既に追手が居る。恐らく手練だ。魔法で威嚇射撃するが、弾かれてしまう。
ある程度大きい光球を落とし、目暗ましする。
その間にローブをかぶったまま全速力で逃げた。
小さなゴブリンは使用人にシャルル伯爵の国に向かっていた。
恋人の援軍を頼む為だ。
アレックスは最初、ラウラを行かせるのに躊躇した。相手はガチガチの魔物国家。そこに魔物娘を送り出す。流石のアレックスもラウラに気を使った。
国の証明書を作り、あらかじめ話しをつけておいてくれた。行き方も丁寧な地図を用意してくれたため、ラウラは安全かつ短時間でその国に着いた。
何だかんだ言ってもやはりラウラを気にかけてはくれているようだった。
シャルルの屋敷はあまりに簡素なものだった。
厳重な警護は幼女の姿をしたラウラにも容赦がなかった。門扉の警備員は武器を構えてきた。
ラウラは執事長アレックスに言われた通り証明書を提示し通してもらう。
証明書の効力は絶大で、屋敷の奥に招かれた。
シャルル伯爵が現れた。渋く、穏やかで、しかし風格のある中年男性だ。
ラウラは執事長から決して魔物である事を明かさぬように、なるべく目的を先に簡潔に述べる様言われていた。だがそんな冷静でも無かった。
「シャルル…さん!サラを助けて!」
ラウラはいきなり目の前の紳士に切り出した。
「待ちたまえ。私に順を追って説明してくれるかな?」
「サラはレスカティエに個人で襲撃するの!いくらサラが強くても勝ち目がない!シャルルさんの力があれば…!」
「何!?どういう事だ!サラ君は何を考えてる!?」
シャルル伯爵は呆気にとられている。あまりに無謀だ。国を相手に個人で戦争を仕掛けるにはそれ相応の意味があるはずだと考えた。
「あたしのせいなんだ」
ラウラは本性を解放する。角を生やして自分がゴブリンだと証明する。
「あたしはゴブリン族で……ッッ!?」
どこから現れたか警備員が大勢現れ斬りかかってくる。
「待って!いきなりはないだろ!?」
「鎮まれ、お前達」
シャルル伯爵は臨戦態勢の警備員を気迫で抑え込んだ。安心してラウラがシャルル伯爵の表情を見ると……
「ひっ…!?」
シャルル伯爵は燃え上がる殺気を何とか押え込んだ鬼神の様な表情をしていた。手は震え、血管は浮き出し、剣に手を掛け、いつでも斬りかかれる状態だった。
「応えよ。魔族の小娘。命の危機を冒してまで私の元に来て何のつもりだ」
気迫だけで魔物を殺せそうな圧迫感。ラウラはへたり込んでしまう。
だがここで気迫負けすれば自分だけでなく恋人も危ない。今更おめおめ帰られる訳が無いし、帰らせてもらえないだろう。
「最初から言ってる!サラを助けて欲しい!あたしともう一人、魔物の事親しくなったんだ。だけどそのせいでサラはレスカティエを抜ける決心をした!今公開処刑されそうになってるクノイチを助ける為に、それだけの為にたった一人で乗り込んでったんだよ!」
「全部お前達のせいではないか。お前達にさえ出会わなければ平和に一国の姫でいられた」
「ああそうだよ!あたし達魔物娘が悪いなんてバカなあたしでもわかるさ!」
ラウラは叫ぶ。
「好きな気持ちは止めらんないよ!」
「良く魔物の分際でそんな事が言えるな。好きな気持ちは止められないだと?それで好いた相手を危険にさらすのは本末転倒だな」
全く以て正論だ。ラウラは言葉を失う。反魔物国家で魔物と惹かれあうと言う事が如何に危険か分かりきっていなかった。浅はかだった。小さな体が自己嫌悪に押しつぶされそうになる。だがここで負けるわけにはいかない。
「あたしの事は……どうなってもいい。だけどサラは助けて。あたしにはお願いすることしか出来ない」
「…………帰れ、魔物の娘よ。わたしの気が変わらない内に。買い被りだ。わたしにそんな力はない。何も変えられる事はない。お前に出来る事はサラ君の無事を祈る事だけだ」
「そんな……」
ラウラはふらふらと立ちあがって帰路についた。
むしろ殺気の塊だった反魔物国家の人間が見逃してくれると言っただけマシだった。
あまりに無様な交渉だった。いや訴えただけだった。ただ感情的に騒いだだけ。
自責の念に駆られながら帰路についた。
レスカティエの町では閃光が連続で迸る。
魔導師同士の火力戦が行われていた。一人で多くの魔導師の攻撃をはねのけ続けている。レスカティエが侵入者のぼくを迎え撃っているのだ。
レスカティエ側は容赦ない。町や国民への被害を無視しつつ賊を倒す事に集中している。町の人も分っているようで、ある者は避難し、ある者は防御魔法を纏って対応している。
「トモエ…!生きてる…!?」
「…サラさん……なんで…?」
「ごめん遅くなって」
呼吸も弱い。早く治療したいが、今はその暇がない。
追手に向かって大火力で薙ぎ払う。
「何だこの威力!?」
「ただの賊じゃない!?」
相手方は驚いた様子であったが数人がかりで結界を張り防いでくる。しかし目暗ましにはなった。吹きすさぶ爆風の中、粉塵にまぎれ地下道に紛れ込んだ。
ぼくは後悔する。
地下道には監視兼戦闘員が表より沢山配置されていた。多勢に無勢とはまさにこの事。逃げながら、執事長アレックスの言葉を思い出す。
たとえ個人がいくら強くても何れは物量で押し負ける。正にその通りだった。固定砲台に徹すれば魔力を集中して練られる。しかしトモエを庇いつつ全力で逃げ、追手の魔法を払いながら反撃するのは困難を極めた。
「っ…!はめられた…!」
逃げる事に集中していて周りに気を払えなかった。徐々にレスカティエ側に誘導されていた。このまま素直に逃げればレスカティエの中心部で魔力切れになって嬲り殺しだ。
踵を返し、追手に向かっていく。
追手は驚いた様子で攻撃魔法を連射してくる。トモエを庇いながらすれ違い、そのまま離脱する。すれ違いざまに攻撃魔法でフードを弾け飛ばされ、顔を露わにしてしまう。
「な!あの方はサラ姫だ!なぜ淫魔を助けられる!?」
どよめく兵士達。しかしリーダー格が黙らせる。
「反魔物国家が淫魔に誘惑されて堕ちる事など珍しくもない。堕ちれば敵よ。全力で潰せ」
連携して火の玉を撃ってきた。
当然目の前には追手の山。全員が強固な魔法結界を張る。あれを割るのは集中して時間をかけなきゃ駄目だ。地下道の壁は入念に防御系の呪文がかけてあり、とても吹き飛ばせる代物では無い。
結局また逆戻りする。地下道の出口をさがして。足場は悪く暗がりで広い所に出れば追手がいる。とにかく魔力を貯める為の隠れ場所が必要だ。
一旦隠れて息を整え、全力で練った魔力で一撃突破を図るしかない。
「サラさん……」
「な…!」
トモエが大きな胸の谷間から何やら投げつけた。煙だ。白い煙が一瞬で広がり、視界を奪う。その間に魔力を貯め、一気に加速魔法に昇華して来た道を勘で戻りながら脱出した。
地上に出て、物陰に潜み機会を窺う。回復魔法でトモエを治療するが、魔力消費が激しい。
「サラさん、そんな…うちを見捨ててくれても…」
「貴女を助ける為に来たんですよ。無事に帰って結婚しましょう」
傷だらけの肩を愛撫して治していく。
「ごめんなさい。本格的な治療は本国で。今は逃げる魔力も残しておかないと」
「うちこそ、ヘマやってサラさんにまで迷惑を……煙玉も最後の一個で…」
トモエは本当に申し訳なさそうだった。
携帯食品を食べて一呼吸おく。
不意に打ち込まれる魔法弾。
結界を張る魔力も惜しく、離脱する。逃げつつ魔力増強剤を飲み、国境付近へ逃れる。
増強剤と食事で無理やり回復したとしても、魔力を貯める隙がなければ意味がない。
「うちが…時間を稼ぎます…大丈夫、大分楽になりました」
「駄目。まだ応急処置しかッ…うわッ!」
増援が次々やってくる。長期戦になれば敗北は必至。魔力を貯めさせる隙を与えず、ひたすら数の暴力で押してくる。
「この…!」
渾身の一撃で追手を吹き飛ばす。いやつもりだった。だが小揺るぎもしない。
敵は隙を潰し、前方を防御特化の兵で固め、後方から光の雨を降らせてくる。
魔力を落ち着いてためる隙があれば、もっと速く逃げおおせていれば違った。敵は容赦がなく、効果的に戦い、特大魔法で反撃する隙も与えない。
戦況は不利になる一方だった。
かわし損ねた攻撃が身体を掠めていった。
to be continued
ぼくは入国審査で引きとめられた。地味なローブを羽織って旅人を装ったが、厳しく詰め寄られたので拘束魔法で黙らせた。
中央広場に駆けだす。以前の集会で道順は覚えていた。最短距離で向かう。
トモエが晒されていた。辛うじて生きていた。間に合った。
彼女は高台に処刑場が用意され、つるされている。ボロ切れの様にみすぼらしい姿をしていた。処刑場を囲む様に見張り役も数人いる。周りには見物客がニヤニヤしながら大勢集まっていた。
公開処刑前に晒し、じわりじわり弱らせてから火炙りにするのが蛮族に対する最も残酷な処刑法。
「トモエッ!」
叫びながら、駆け寄り、見張り役に拘束魔法をかける。
見物人が動転する中、つるされたトモエをもぎ取り、抱えて全速力で離脱した。一般人は蜘蛛の子を散らす様に逃げていく。
その間数十秒。我ながら手早く行動できたつもりだった。
「……サラ…さん…?」
逃走中、傷だらけのトモエが意識を取り戻す。
「しゃべらないで!何処か落ち着ける場所に着いたら治療しますから!」
後ろには既に追手が居る。恐らく手練だ。魔法で威嚇射撃するが、弾かれてしまう。
ある程度大きい光球を落とし、目暗ましする。
その間にローブをかぶったまま全速力で逃げた。
小さなゴブリンは使用人にシャルル伯爵の国に向かっていた。
恋人の援軍を頼む為だ。
アレックスは最初、ラウラを行かせるのに躊躇した。相手はガチガチの魔物国家。そこに魔物娘を送り出す。流石のアレックスもラウラに気を使った。
国の証明書を作り、あらかじめ話しをつけておいてくれた。行き方も丁寧な地図を用意してくれたため、ラウラは安全かつ短時間でその国に着いた。
何だかんだ言ってもやはりラウラを気にかけてはくれているようだった。
シャルルの屋敷はあまりに簡素なものだった。
厳重な警護は幼女の姿をしたラウラにも容赦がなかった。門扉の警備員は武器を構えてきた。
ラウラは執事長アレックスに言われた通り証明書を提示し通してもらう。
証明書の効力は絶大で、屋敷の奥に招かれた。
シャルル伯爵が現れた。渋く、穏やかで、しかし風格のある中年男性だ。
ラウラは執事長から決して魔物である事を明かさぬように、なるべく目的を先に簡潔に述べる様言われていた。だがそんな冷静でも無かった。
「シャルル…さん!サラを助けて!」
ラウラはいきなり目の前の紳士に切り出した。
「待ちたまえ。私に順を追って説明してくれるかな?」
「サラはレスカティエに個人で襲撃するの!いくらサラが強くても勝ち目がない!シャルルさんの力があれば…!」
「何!?どういう事だ!サラ君は何を考えてる!?」
シャルル伯爵は呆気にとられている。あまりに無謀だ。国を相手に個人で戦争を仕掛けるにはそれ相応の意味があるはずだと考えた。
「あたしのせいなんだ」
ラウラは本性を解放する。角を生やして自分がゴブリンだと証明する。
「あたしはゴブリン族で……ッッ!?」
どこから現れたか警備員が大勢現れ斬りかかってくる。
「待って!いきなりはないだろ!?」
「鎮まれ、お前達」
シャルル伯爵は臨戦態勢の警備員を気迫で抑え込んだ。安心してラウラがシャルル伯爵の表情を見ると……
「ひっ…!?」
シャルル伯爵は燃え上がる殺気を何とか押え込んだ鬼神の様な表情をしていた。手は震え、血管は浮き出し、剣に手を掛け、いつでも斬りかかれる状態だった。
「応えよ。魔族の小娘。命の危機を冒してまで私の元に来て何のつもりだ」
気迫だけで魔物を殺せそうな圧迫感。ラウラはへたり込んでしまう。
だがここで気迫負けすれば自分だけでなく恋人も危ない。今更おめおめ帰られる訳が無いし、帰らせてもらえないだろう。
「最初から言ってる!サラを助けて欲しい!あたしともう一人、魔物の事親しくなったんだ。だけどそのせいでサラはレスカティエを抜ける決心をした!今公開処刑されそうになってるクノイチを助ける為に、それだけの為にたった一人で乗り込んでったんだよ!」
「全部お前達のせいではないか。お前達にさえ出会わなければ平和に一国の姫でいられた」
「ああそうだよ!あたし達魔物娘が悪いなんてバカなあたしでもわかるさ!」
ラウラは叫ぶ。
「好きな気持ちは止めらんないよ!」
「良く魔物の分際でそんな事が言えるな。好きな気持ちは止められないだと?それで好いた相手を危険にさらすのは本末転倒だな」
全く以て正論だ。ラウラは言葉を失う。反魔物国家で魔物と惹かれあうと言う事が如何に危険か分かりきっていなかった。浅はかだった。小さな体が自己嫌悪に押しつぶされそうになる。だがここで負けるわけにはいかない。
「あたしの事は……どうなってもいい。だけどサラは助けて。あたしにはお願いすることしか出来ない」
「…………帰れ、魔物の娘よ。わたしの気が変わらない内に。買い被りだ。わたしにそんな力はない。何も変えられる事はない。お前に出来る事はサラ君の無事を祈る事だけだ」
「そんな……」
ラウラはふらふらと立ちあがって帰路についた。
むしろ殺気の塊だった反魔物国家の人間が見逃してくれると言っただけマシだった。
あまりに無様な交渉だった。いや訴えただけだった。ただ感情的に騒いだだけ。
自責の念に駆られながら帰路についた。
レスカティエの町では閃光が連続で迸る。
魔導師同士の火力戦が行われていた。一人で多くの魔導師の攻撃をはねのけ続けている。レスカティエが侵入者のぼくを迎え撃っているのだ。
レスカティエ側は容赦ない。町や国民への被害を無視しつつ賊を倒す事に集中している。町の人も分っているようで、ある者は避難し、ある者は防御魔法を纏って対応している。
「トモエ…!生きてる…!?」
「…サラさん……なんで…?」
「ごめん遅くなって」
呼吸も弱い。早く治療したいが、今はその暇がない。
追手に向かって大火力で薙ぎ払う。
「何だこの威力!?」
「ただの賊じゃない!?」
相手方は驚いた様子であったが数人がかりで結界を張り防いでくる。しかし目暗ましにはなった。吹きすさぶ爆風の中、粉塵にまぎれ地下道に紛れ込んだ。
ぼくは後悔する。
地下道には監視兼戦闘員が表より沢山配置されていた。多勢に無勢とはまさにこの事。逃げながら、執事長アレックスの言葉を思い出す。
たとえ個人がいくら強くても何れは物量で押し負ける。正にその通りだった。固定砲台に徹すれば魔力を集中して練られる。しかしトモエを庇いつつ全力で逃げ、追手の魔法を払いながら反撃するのは困難を極めた。
「っ…!はめられた…!」
逃げる事に集中していて周りに気を払えなかった。徐々にレスカティエ側に誘導されていた。このまま素直に逃げればレスカティエの中心部で魔力切れになって嬲り殺しだ。
踵を返し、追手に向かっていく。
追手は驚いた様子で攻撃魔法を連射してくる。トモエを庇いながらすれ違い、そのまま離脱する。すれ違いざまに攻撃魔法でフードを弾け飛ばされ、顔を露わにしてしまう。
「な!あの方はサラ姫だ!なぜ淫魔を助けられる!?」
どよめく兵士達。しかしリーダー格が黙らせる。
「反魔物国家が淫魔に誘惑されて堕ちる事など珍しくもない。堕ちれば敵よ。全力で潰せ」
連携して火の玉を撃ってきた。
当然目の前には追手の山。全員が強固な魔法結界を張る。あれを割るのは集中して時間をかけなきゃ駄目だ。地下道の壁は入念に防御系の呪文がかけてあり、とても吹き飛ばせる代物では無い。
結局また逆戻りする。地下道の出口をさがして。足場は悪く暗がりで広い所に出れば追手がいる。とにかく魔力を貯める為の隠れ場所が必要だ。
一旦隠れて息を整え、全力で練った魔力で一撃突破を図るしかない。
「サラさん……」
「な…!」
トモエが大きな胸の谷間から何やら投げつけた。煙だ。白い煙が一瞬で広がり、視界を奪う。その間に魔力を貯め、一気に加速魔法に昇華して来た道を勘で戻りながら脱出した。
地上に出て、物陰に潜み機会を窺う。回復魔法でトモエを治療するが、魔力消費が激しい。
「サラさん、そんな…うちを見捨ててくれても…」
「貴女を助ける為に来たんですよ。無事に帰って結婚しましょう」
傷だらけの肩を愛撫して治していく。
「ごめんなさい。本格的な治療は本国で。今は逃げる魔力も残しておかないと」
「うちこそ、ヘマやってサラさんにまで迷惑を……煙玉も最後の一個で…」
トモエは本当に申し訳なさそうだった。
携帯食品を食べて一呼吸おく。
不意に打ち込まれる魔法弾。
結界を張る魔力も惜しく、離脱する。逃げつつ魔力増強剤を飲み、国境付近へ逃れる。
増強剤と食事で無理やり回復したとしても、魔力を貯める隙がなければ意味がない。
「うちが…時間を稼ぎます…大丈夫、大分楽になりました」
「駄目。まだ応急処置しかッ…うわッ!」
増援が次々やってくる。長期戦になれば敗北は必至。魔力を貯めさせる隙を与えず、ひたすら数の暴力で押してくる。
「この…!」
渾身の一撃で追手を吹き飛ばす。いやつもりだった。だが小揺るぎもしない。
敵は隙を潰し、前方を防御特化の兵で固め、後方から光の雨を降らせてくる。
魔力を落ち着いてためる隙があれば、もっと速く逃げおおせていれば違った。敵は容赦がなく、効果的に戦い、特大魔法で反撃する隙も与えない。
戦況は不利になる一方だった。
かわし損ねた攻撃が身体を掠めていった。
to be continued
17/04/15 15:40更新 / 女体整備士
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