読切小説
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藻と揺られて
アルゼド・ベテルンバード。それがこの落ちこぼれの名だ。

つい先月まで教団に勤めていた俺はひょんなことから魔物の真実を知り、彼女たちを娶る為に教団を抜けて魔王軍へと志願したのだった。

「だというのに…。」

俺には未だ彼女が居なかった。
周りを見渡せば、カップル、夫婦、夫婦、カップル、夫婦…リア充のオンパレードだった。

なんと俺が志願してしまったのは、魔王軍のなかでも既婚者数が多い『レスカティエ北方侵攻軍』だったのだ!

「完全な凡ミスだ。近場の魔王軍でいいや、と安易に決めてしまった俺がバカだった。」

よくよく考えてみれば、俺が前まで所属していた『城塞都市エルワン防衛軍』は魔王軍との最前線だった。魔王軍との衝突もしょっちゅうで、そうなると必然的にカップル数が増えてしまうのだ。
甘かった…ただ単に、俺が甘かっただけの話。ここに配属されてしまった以上、これからもここで、リア充の大群の中で希少種である非リア充として生きていかなければならないのか。
運悪く、ここの指令であるリリム様は現在交戦中の『エルワン防衛軍』との戦いで忙しく、俺の異動の件などに構っている暇はないのだ。

「…はぁ。」

俺は当分ここで暮さねばならない。このリア充地獄の中で。

ふと目をやれば、街角で人間の男とラミアの娘がイチャイチャしているのが目に入った。入って欲しかったわけではないのだが、勝手に入ってきてしまったのだ。
ここは親魔物都市。しかも治めているのはあのリリム。おまけに近くには魔界であるレスカティエが控えている。
そうなってくると当然、この街も治安が悪くなる。主に下の部分の。

周りでカップルたちがいちゃつく中で俺は1人ポツンと立っていた。
普通ならここで未婚の魔物が声をかけてくるなり襲ってくるなりするのだが、そんなことはいつまで経っても起きなかった。
それだけこの街の既婚率は高いということだ。

「なんてこった…俺はいつ終わるともしれないこの地獄を、たった1人で生き抜いていかなければならないのか。」

俺は絶望してうな垂れた。
教団の教義に嫌気がさして、婚活の為にここに来たのに、会う娘は全て既婚。そんな地獄で俺はどうやって生きていけばいいのだろう?

「…はぁ。」

そんなことを考えているとまたも溜め息が出てしまっていた。
その溜め息も、数メートル進んだところで周りのカップルたちの嬌声などでかき消された。
とにかく俺はここではお邪魔なのである。

そう自分なりに解釈した俺は意気消沈しながら帰路につこうと振り返って歩き出した。するとー

くいくい。

誰かに服の袖を引っ張られた。
ふと目をやると、そこにはちんまい女の子が1人、突っ立っていた。昆布塗れで。

「…なんだ?お前も魔物なのか?」

つまならそうに聞くと少女はこくりと小さく頷いた。

「そか、んじゃまあ頑張れよ。」

そう応えて俺は踵の返して宿に帰ろうと歩き出した。

「…!っ!っ!」

だが、ぐいぐいと昆布らしきもので強く袖を引っ張られて帰ろうにも帰れない。

「だー!もう!やめろって!俺はお前みたいな幼女には興味がな…い?」

振り解こうと暴れた俺に対して、昆布幼女はひしっと抱きついてきた。
そこで初めて気づいた。いや、今まで昆布に塗れて見えなかったが、この幼女…身体に不釣り合いなほど胸がデカイ。

「…!…!!」

なんとか俺を引き止めようとせがむ幼女は上下に激しく揺れており、その度にたわわに実った双球が俺の腕に、身体に柔らかくアタックしてくる。

こ、こ…これはたまらん!
!!いやいや待て!いくら飢えているとはいえこんないたいけない幼女を犯すのは倫理に反する!俺の良心が痛む!

「離すんだ、魅力的な幼女!」

「…っ!…。」

俺の放った不用意な発言に、昆布子はピタリと動きを止めてそれから…妖しく微笑んだ。

「…。」

突然抱擁をやめた彼女はくるりと向きを変えて歩き出す。…歩き出すとは言ったが、彼女はどうやら足の先は昆布で出来ているようでペチャペチャとぬるっこい音を立てて引きずっているような感じだ。

俺のいる場所から数mの距離にある広場の噴水までやってきた彼女は再びこちらへと向き直った。その顔はにっこりと微笑んではいるが、やはりどこか妖しげで何かを企んでいるのは確かだった。
噴水の周りでも数組のカップルが情事に及んでいた。中には水棲型の魔物も数人見られ水を使っての淫らな行為を夫と共に楽しんでいた。

「…っ。」

「あ、おい!」

俺が叫ぶ前に彼女は噴水の水溜りの中に身を投げていた。

ざぶーんと大きな波を立てて飛び込んだ所為で周りのカップル達はそこから退避していった。
そして必然的に俺は昆布の幼女と2人きりになってしまった。

「ぷはぁ!」

思わず溜め息を吐きそうになった時、水溜りから昆布子が顔を出した。

「こらこら、プールは飛び込み禁止だと教わらなかったか?あれは噴水でも適応されるぞ。」

そう言いつつ俺は噴水へと駆け寄る。そして昆布子の手を取り引き揚げた。

「お?お、おぉぉぉ!?」

引き揚げると昆布子は大人へと成長していた。引けども引けどもずるずると出てきて終わりがよくわからない。一体どこまで成長したのだろう。

そう思って無事引き上げた彼女をちょこんと立たせてみる。


…うーん、あんまり変わってないな。確かに成長したが、それは肉体的にという意味であって身長は思ったほど成長していなかった。…でも、ばっちり俺の好みだった。

「おぉ…お前すごいな!」

素直に驚いた俺はそのままの気持ちを言って頭を撫でてやる。
すると、昆布子は嬉しそうに目を細めて黙って撫でられ続けていた。

「…!…!」

これなら問題ないでしょ、と言わんばかりに彼女はワクワクしながらこちらをキラキラした目で見てきた。せがんできた。

「ほう…水を吸って成長するのか。面白いな。」

が、俺はそんなことよりもこの魔物の特性に興味が湧いて仕方がなかった。

噴水のほうまで戻った俺は、溜まった水を掬い上げ急いで少女になった昆布子の下へと走っていきその肢体に水をぶちまけた。

「っ!!」

反射的に目を閉じて一瞬困った表情をしたが、やがて笑みを浮かべ、再び水を汲みにいった俺の方へと駆けてきた。

「っ!」

そして手に当たる部分の昆布で、こちらに盛大に水をぶちまけた。

「ぶはっ!…はは!俺と勝負する気か?よーし、かかってこい!」

「…!」

ばしゃーん、と今度は水溜りが空になるくらいの勢いで水をぶつけてくる。

「ぶくぶく!…ぶはぁ!…ハァ…ハァ…!や、やるな。だが、俺も…。」

「っ!」

ざばーん!

「ちょ、まて!俺まだ反撃…」

どばーん!

「がボボ…!し、死ぬって…!」

がばーん!!

「うわぁぁぁ!!!?」

最後の一撃は強烈だった。水溜りに残った全ての水を大波のようにして打ち出したのだ。さすがに俺も一瞬で飲み込まれそのまま帰らぬ人に…はならなかった。

気絶してしまった俺に彼女が人口呼吸をしてきたのだ。

「…!!ん!んー!」

「…んむ。」

意識を取り戻したにも関わらず彼女は口を離さなかった。人工呼吸も段々と違うものになっていき、舌を潜り込ませて口内を漁り始めた。
必死にもがくが相手は仮にも魔物、膂力で敵うはずもなく成されるがままに口を散々貪られてしまった。

数分してようやっと口を解放してくれた彼女はポー、と虚ろな瞳でこちらを見つめてきた。
その瞳は相変わらず愛らしげで、しかしどこか淫らなものにも見えた。よく見ると少女の顔は火照ったように蒸気している。

「…ていうか、また成長してね?」

「…?」

彼女はさっきよりちょっとだけ成長していた。主に肉感的に、しかし決して太っているわけではなく、あくまで出るとこ出てるグラマラスな身体付きになったということだ。

「…まさかとは思うが、俺の唾液を吸い取って成長したのか?」

「…♪」

声をかけてみるが、こいつは相変わらずわかっているのかいないのかよくわからない反応を示しているだけだった。


少し考えてみる。
もし俺の体液からも水分を吸い取れるのだとしたら…全て吸い取られたりしたらどうなるのだろう?

そう考えると少し怖くなった。

「……………?」

だがそんな考えも、目の前にいるこの少女をみていたらくだらない妄想だと思えた。

そもそも、魔物娘という存在は人間に危害を加えないようにできているために、そんなことはありえないことではあるのだ。

しかし、近年の著しい情勢の変化の中で少しずつだが彼女たちの中にも従来の習性とは違った行動をとるものも出てきているわけで。
そうなってくると、今後、彼女たちがどう変化していくかにも議論していかなければならないだろう。

まあ、今のところ人間に仇なす存在というのは出てきていないわけではあるが。

とにもかくにも今の彼女たちは人間を愛しているちうことで間違いはないだろう。




そう思って、改めて目の前の少女を見てみる。

相変わらず昆布塗れだが、その肉体は最初の時よりあきらかにグラマラスになっていた。大人びた肉体や顔つきのくせに身長はさほど高くなく、小柄な大人の女性といった感じだ。そういうタイプの女性は案外好みだ。

…よく考えてみれば、あの吸水行動も彼女なりの愛情表現だったのかもしれない。



「…そういえばお前と同じタイプの魔物は見たことないな。」

今まで気付かなかったが、この娘のような種族には俺はあったことがない。
どっかの固有種だろうか?
それにしたって、ここらには海なんぞなく一番近い港でもここか山をいくつも越えなければたどり着けない。

「まさか…海からきたのか、お前?」

半信半疑で聞いた俺に、昆布の少女は嬉しそうに頷いた。…どうやら自分のことに興味を持ってもらったことが嬉しかったらしい。

…だが、彼女のいうことが本当だとすると、彼女はここまで相当に長い距離を陸の上でやってきたことになる。
見たところこの子の知り合いはいないようで、もしかしたら本当に一人でここまでやって来たのかもしれない。…それなら、最初に会ったときに幼女サイズまで縮んでいたのにも説明がつく。

「長い旅で疲れたろうに…。」

よしよし、と優しく彼女の頭を撫でてやる。昆布女も嬉しそうにしてこちらに笑いかけてくる。

「そもそも、なんでこんなとこまで来たんだ?」

「!…っ、っっ!」

俺の質問に答えようと必死に口を動かすが、喉が乾いているのか掠れた声しか出てこなかった。…どうやらもう少し水を与える必要がありそうだ。

「待ってろ、今、水汲んでくる…?」

「…。」

ひし、と俺の腕に抱きつく彼女。眉を八の字に曲げて恥じらい気味に頬を染めた彼女はやがて唇を控えめに突き出してきた。

…俺の体液の方が良いと?


「…たく、仕方ねぇな。…後悔しても知らねぇぞ?」

ほんのり赤みの帯びた唇に俺は自分のそれを優しく触れさせた。

「…!」

すると、さながら水を得た魚のように一心不乱に俺の口を吸い上げてきた。

「む!?むむー!!」

「…っ。」

驚いた俺は抵抗を試みるが、がっしりと俺を掴んだ彼女に離してくれそうな様子はなく、俺は諦めて口内を蹂躙されることにした。

「じゅる…ちゅっ…じゅ!」

絶え間なく与えられる濃厚な刺激に俺は意識を失いかけながらも、なんとか彼女へと唾液を供給してやる。

「ん!んっ…ぷはっ!」

しばらくの間、俺の水分を吸い取っていた彼女は満足したのかちゅぽんという音を立てながら俺の唇を解放した。

「はぁ…はぁ…ど、どうだ?喋れるか?」

「う…ぁ…ん。あ…りがと…。」

「っ!」

初めて聞いた彼女の言葉。たどたどしいながら、必死に俺へと感謝の意を述べる彼女に俺ははからずもときめいていた。

「お、おう…なによりだ。」

「う、ん。…あの、なまえ…おし、えて。」

聞かれて初めて、まだお互いの名を聞いていなかったことに気づく。

「俺はアルゼドだ。」

「アル、ゼド…わた、し、は。フィニー…よろ、しく。」

フィニー…そう名乗った彼女は腕にあたる昆布を俺に差し出しにっこりと微笑んできた。

可愛い…壊滅的に可愛い。喋れるようになって一層、彼女の可愛さが身に染みて実感できる。

「よ、よろしく。」

差し出された昆布を握って握手?を交わす。

「それで…お前はなんでここに来た?わざわざ海から来る理由は?」

「あなた…あなたが、いたから。」

ん?

「…それはどういう??」

いまいち要領を得ない回答。俺は思わず聞き返してしまった。
フィニーは頬の朱を一層高めてこちらをジッと見つめた。

「仲間の、子たちから、聞いた。ここに、奥さんを、求めて来た、人がいる、って。」

…おいおい、まさか遠方の海まで俺の話は届いてたのか?冗談きついぜ…。

「…で、来たと?」

「…(コクッ」

なんてこった…彼女は俺に会うために、ここまで過酷な道のりを越えてきたというのか?
そんな強く思われたのは初めてだ。

「はは…こりゃ参った。」

「?」

だめだ、笑うしかない。

漠然と、可愛い妻が欲しくてここにきた俺だったが、どうやらこの娘には本気で惚れてしまったらしい。

「わたし、も。こんかつ、しに来た。あなた、ひとり、み?」

「ああ、ばりばり独身の23歳だぜ。お前…は聞くまでもないか。」

「う、ん。わたしも、ひとり。」

ホッとしたように胸を撫で下ろした彼女は嬉しそうに答えてから、俺の身体に抱きついてきた。

「わたし、あなた、すき。ひとめ、ぼれ。…あなた、わたし、すき?」

聞かれるまでもなく

「ああ、大好き。お前の想いに、俺は心打たれた。」

俺もフィニーを優しく抱きすくめる。それで安心したのな、フィニーは目を閉じて俺に身を任せた。

「…こんな、可愛い子目当てで魔王軍に志願しちまうようなどうしようもないバカだけど、お前は俺を愛してくれる、のか?」

「むろん、あいしてる。…あなたも、わたしみたい、な、あたまの、よわい、こ。あいして、くれる?」

…ばか、頭弱いとか言うな。例えそうだとしても、俺に会うためだけに、海からここまで来てしまうお前の心は充分強いと思うぞ?
…なーんて言ったところで、今の俺では安いセリフに聞こえかねないのでやめておく。それよりも、言うべきことが俺にはある。

「フィニー。」

「?なぁに?」

「俺…絶対、お前を幸せにするからな。一生、守るからな!何があっても…必ず守り抜くからな!!」

「…ばか。それ、ぜんぶ、うわきするおとこ、が、いう、せりふ。」

「なっ!そ、そうだったのか!?…い、いや!でも俺は絶対にー」

慌てる俺の唇に、ぺたりと彼女の昆布が当てられた。

「…でも、うれしい。」

満面の笑みで目の端に涙を滲ませた彼女を見て、俺は固く心に誓った。いや、魂に誓った。

「…絶対ッ!幸せにする!!!!」

言って、より強く彼女を抱きしめる。








…わたしはおもう。たとえ、かれがほかの子をすきになっても、わたしは、かわらずかれをあいするだろう。…でも、そうすると、かれとくっつけるじかんがへってしまうことになる。それはかなしい。

だからわたしはいう。

「…うわきしたら、ゆるさない、ぞ♥」







16/02/11 15:59更新 / King Arthur

■作者メッセージ
過去とかそういうのぶっちゃけ、どうでもよくて。とりあえずは好きって気持ちがあればOK!
そんな気分で書きました。



…相変わらずの駄文で失礼いたします、

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