下
夜も更け、静まり返った森の中で、2人つの光が相対していた。
片方は眩い光を身体から発光させており、もう片方は禍々しいオーラを全身から滲み出させていた。
「…いくぜ。」
「いつでも構わんよ。」
先手を打ったのはバルス、今迄で一番の速度で一直線にサウロの元に駆けて行く。近づくと同時に剣を振り下ろす。
…取った!
ギィィ…ン!
「っ!?」
「…ふん。」
サウロの肢体に斬り込むと思われた斬撃は空で動きを止めていた。剣とサウロの間に微かに揺らめいた魔法陣にバルスは驚きの声を上げる。
「防護壁…だと?」
「ああ…そして、こういう使い方もできる。」
くい、と指を動かすサウロ。その瞬間、剣を受け止めていた魔法陣がグニャリと歪み一点に収束して、バルスに向けて放たれた。
「っ!!」
辺りに金属音が鳴り響く。
咄嗟に剣を構えたバルスは間一髪の所でその刺突を防いでいた。だがー
「甘いな。」
「なっ!?」
第二撃が別の角度から迫っていた。
バルスは空中で無理やり身体を捻りなんとか躱す。しかし、躱しきれなかった腹部を僅かに切り裂く。
「ぐっ!」
ズシャ、と地面に着地したバルスの右腹部からは血がポタポタと滴り落ちていた。
その様を見ながら、愉悦の笑みを溢すサウロ。
「この程度も避けられぬとは…よくもそれで私を倒せるなどと豪語したものだ。」
「ふん…まぐれで当たったくせに、随分と自慢気に語るんだな、司祭様よ?」
「…その減らず口、二度と叩けなくしてやろうか!?」
バッとサウロが手を挙げると、その背後に数十の魔法陣が浮かび上がる。そのどれもが今にも黒き閃光を放たんと禍々しい力の渦を収束させていた。
「な…おいおい、マジかよ。」
「今更命乞いをしても遅いぞ!小童ぁぁぁぁぁ!!!!」
勢いよく振り下ろされた手と共に魔法陣から次々に黒い閃光が放たれた。
バルスはそれを一つ一つ、なんとか回避していく。しかし、またも避けきれずに何箇所かに閃光を浴びてしまう。
「っ、くそっ!」
「フハハハ…!!避けられるはずがないだろう!!…そらそら、どんどん行くぞぉぉぉ!!」
尚も放たれ続ける閃光。
捻り、飛び、躱しながら避けきれない閃光を剣でなんとか弾く。そうして数分の間耐えていたバルスだったが、やがてー
ドッ…
「ぐはっ!!」
「…終わりだな。」
腹部を貫く一筋の閃光、魔法陣から次々に放たれる閃光に紛れさせてサウロの腕から放たれた閃光だ。
激しい痛みに一瞬、怯んだ隙をサウロは見逃さなかった。
すかさずもう片方の手から閃光が放たれる。
それは一直線にバルスの心臓を狙って迫る。
「ぐ…!」
…躱しきれない!!
死を覚悟したバルスが目を閉じる。
バシュゥゥゥ!!
その瞬間、眩い閃光が辺りを照らした。
「な、何事だ!?」
「…!?」
やがて光が治まると、バルスの前には1人の茶髪の女性が立っていた。
その身体は深緑の鱗に包まれており、その腰には長い立派な尻尾が生えていた。
「ま、魔物…?」
「…はい、リヴェラシル殿下の近衛隊長を務めさせていただいておりますゲルダと申します。貴方がバルス殿で間違いありませんね?」
「あ、ああ。」
…な、なぜ俺の名前を?
バルスの前に仁王立ちした彼女は僅かに振り返り自己紹介をした後再びサウロに向き直った。
「…爬虫類が…この私の美しき魔法を弾くとは。…身の程を弁えろ!!」
自分の魔法が、見下していた魔物に弾かれたことにプライドを傷付けられたサウロは怒りを露わにしながらゲルダを睨みつけていた。
対するゲルダはまったく動じることなく、変わらず仁王立ちを続けている。
不意に、再びバルスに僅かに振り返る。
「…あの敵、私1人には少々荷が重いようです。できれば助力を願いたいのですが…。」
そして、そう短く伝えた。
凛とした声で、冷静に尋ねるゲルダに対し、
突然の出来事で暫く惚けていたバルスは、ハッと我に返るとー
「もちろん!逆にこっちが願いたいほどだ。」
そう快活に答えた。
若者の、しかも青年の満面の笑みに心なしか勇気付けられたゲルダは優しく微笑み返す。
「ありがとう…それでは。」
「ああ、共同戦線と行こうか!!」
ゲルダとバルス、並んで剣を構えた2人はサウロへと突撃する。
「バカかっ!2人になったところで我が魔導の嵐からは逃れられん!!」
サウロが再び手を翳すと、魔法の連射が再開された。
だが、依然2人は突撃を止めない。
「…どういうつもりだ?」
2人の行動を訝しむサウロを他所に、ゲルダはバルスに声をかける。
「あの魔法は暫く私が引きつけます。その間に奴を…!」
「わかった。」
そして、遂に閃光の嵐が2人の元に到達した。
「うおぉぉぉぉ!!!!」
竜の咆哮の如き雄叫びと共にゲルダは嵐の只中へ突っ込んでいく。
「何を考えているんだ!?やつめ!」
派手に閃光を弾くゲルダによって辺りに目眩ましのように光が散らばる。
その隙にバルスは、脱兎のごとくサウロの背後に駆けていく。
「く、くそっ!!まさか自らの魔法を目眩ましに使われるとは…!だが、それでも2人では防ぎきれまー」
激情に駆り立てられていたサウロだが、そこは歴戦の戦士。姿を消したバルスに瞬時に気が付いた。
!!!!…小僧はどこだ!?先ほどまで女の隣に…
そこまで考えて、サウロは敵の狙いに気付いた。
「っ!後ろか!!」
「遅い!!」
企みに気付いたサウロが慌てて振り返るも、既にバルスは背後に回り込んでおり、その背に鋭い突きを放っていた。
「ぐっ!?…が、はっ!」
肢体を貫く刃の鋒を眼前に見ながらサウロは呻き声をあげていた。
その様子を見ていたゲルダが眉をひそめてバルスに声を掛ける。
「バルス殿!?さすがに殺すのは…!」
「違う!こいつはこの程度じゃ…。」
ゲルダの追求に慌てて弁明するバルスに、サウロは頭をグルンと半回転させてニヤリと微笑む。
「その通り。」
身体を貫かれたまま平然とした顔で佇むサウロは、ぐん、と身体を捻って魔力を込めた手でバルスを弾き飛ばす。
「バルス殿!!」
「っ!余所見するなっ!!」
「もう遅い!!」
バルスの声と共に、閃光の嵐がヒルダを包み込んだ。
「ぐあぁぁぉぁぁ!!」
「フハハハハハハハハ!!!!万事休すか!?虫ケラども!!」
「ゲルダっ!!」
やがて閃光が止み、全身を焼かれたゲルダがばたりと倒れこむ。
声も出さず、横たわる彼女を見据えた後、歪んだ笑みでバルスに振り返る。
「…安心しろ、お前もじきにこうなる。」
「悪魔め…。」
万策は尽きた。
奴を捕らえる絶好のチャンスを逃し、あまつさえ勝利に必須な強力な援軍ゲルダは奴の凶刃に倒れた。しかし自らは腹部に風穴を開けられる重傷だ。
絶望的な状況にバルスは、しかし項垂れることはなく悔しさに歯を食いしばり鋭い眼光をサウロに向けていた。
「そこまでよ、聖職者。」
その時、鋭い声が辺りに響き渡った。
声の発生源を求め空を見上げたバルスは空中に浮かぶ黒い影を見た。
「あ、悪魔!?」
「あら、失礼ね。私はリヴェラシル、これでもバヘムの領主なのよ?」
「!バヘムだと!?」
…バヘム、つい最近親魔物国家になった国じゃないか。たしかあそこはリリムが治めていたはず…
「ま、まさか貴女がリリムの…?」
ようやく自分の正体に気付いてもらったリヴェラシルは満足気に微笑みながら「その通り!」と人差し指を立てた。
そして、倒れこんだまま動かないゲルダに向き直りー
「いつまで死んだフリしてんの!!ちゃんと仕事なさい!!」
と、王族とは思えない大口で叫んだ。
そして主人の叫びに、ゲルダは何事もなかったようにむくりと起き上がった。
「…恐れながら殿下、私は得体の知れない敵の分析のために敢えて死んだフリをしていたのです。…まったく、邪魔しないで貰えますか?」
「っ!!貴様…ら!!」
一度ならず二度までも、魔物に恥をかかされたサウロはこめかみに血管を浮き立たせながらあくまで冷静な声で上空のリリムに話しかける。
「…では、貴女が魔王の娘たるリリムであられるか?」
「…まあね。」
「クク…ククク…!よもやこんなにも早く素材が揃うとはな。」
「…あいつ頭、大丈夫?」
俯きながら笑い続けるサウロをリヴェラシルは不気味そうに見ていた。
やがて、バッと天を仰いだサウロは声高らかに自らの最高傑作の完成を宣言した。
「遂に、『殺戮の歌姫』の誕生が見えてきたぞ!!クハハハハ!!」
「歌姫?…ああ、あんたがこの子から奪った声は私が取り返しちゃったわよ?」
「っ!?なに…?」
とぼけた様子のリヴェラシルの背後からひょっこりと顔を出したのは、アリアだった。
「な、アリア!?」
「…!!…!」
何かを喋ろうとしてケホケホと咳き込むアリア。
「あらあら、まだうまく話せないのね。…大丈夫、私が治してあげるわ。」
リヴェラシルが喉に手を当てると、アリアの身体が一瞬光に包まれた。
「はい、これで話せるはずよ。」
腰に手を当てニッコリ微笑むリリムに、アリアは照れながらぺこりとお辞儀した後、バルスに向き直ったアリアは恥ずかしそうにモジモジしながら、ボソリと呟いた。
「あ…あの…バルス…さん。」
透き通るような声。清らかさの中に凛とした響きを持つ、風鈴の様な囁きがアリアの口から発せられた。
「…。」
しばしポカンとしていたバルスはやがてー
「…ぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
雄叫びを上げた。先ほどのヒルダを遥かに凌駕する声量で。
「ひゃぅ!?」
「か、か、か…可愛いぃぃぃぃぃぃ!!!!なんて艶やかな美声!清涼でありながらふわりと漂うような柔らかさも併せ持った、まさに天使の様な声!!…ああ、可愛い!!とにかく可愛い!!!!」
様々な叫び声を上げながらバルスは暫く歓喜に打ち震えていた。
それを白い目で見ていたリリムはバルスを指差しながらアリアに問う。
「いつもああなの?」
「い、いえ!いつも本当に頼り甲斐のある立派な方で…た、たまにおかしくなるくらいです。」
「…。」
尚も、叫び続けるバルスとは対照的にサウロは終始無表情であった。強いて言うなら僅かに眉間に皺を寄せていたことくらいか。
ふと、深い溜息を漏らしたサウロは心底呆れた様子で
「…くだらん。興醒めだ。」
と言うと、城で使ったような紫の煙を漂わせ始めた。
煙の正体に気付いたリリムは挑発を込めて声をかける。
「あら、逃げるの?」
「逃げる?勘違いするな。私が去ることで命拾いしたのは貴様らの方だぞ。
…なに、もうその鳥に興味がなくなっただけだ。」
「お前…!!」
「おっと、待てよ少年。私は貴様にも興味を持っているんだ。ここで砕くには惜しい…今回は休戦、と行こうじゃないか?」
「ふざけー」
バルスが引き留めようとした途端、サウロを中心に紫煙の大渦が発生し彼を阻んだ。
その中から、響き渡るような声でサウロは別れの言葉を告げる。
「さらばだ、虫ケラ共!機会があれば、また会おう…。」
全身を煙で覆った彼は一瞬の内に消えてしまった。
悔しそうに舌打ちをするバルスに、地上に降りてきたリヴェラシルはポンと肩を叩いた。
「…ほっときなさい、あんな奴。…それよりも、貴方が気にすべきなのはこっちでしょ!」
トンと前に押し出されたアリアはオロオロしながら、照れ臭そうにバルスを見上げていた。
…か、可愛い。やっぱこいつ超絶可愛いな。俺の人生の中でダントツ一位の可愛さだぞ、こりゃあ。
「…で、なんで照れてるんだお前?」
素朴な疑問を一つぶつける。空中での登場シーンから思ってたが、なんだかキャラにブレがあるような…。
「うぇ!?…あ、あの…えっと…。」
モジモジしながらなかなか喋りたがらないアリアに業を煮やしたリヴェラシルは「ええい!まどろっこしい!!」と割って入ってきて、バルスに向いたままビシッとアリアを指差した。そしてー
「この子はね、自分の声がコンプレックスなのよ!!こーんな可愛い桃色の声しときながら、自分で嫌ってんの!」
大雑把に説明した。
…果たしてこの人は本当に王女なのだろうか?
彼女の肩書きに疑問を抱きつつも、今はアリアに集中することにした。
「コンプレックス?どうして嫌なんだ?可愛らしくて愛着が湧くと思うのだが。」
「それが嫌なんです!いくら可愛らしいといっても、これじゃ子供みたいじゃないですか!!」
…いや、見たまんま子供なんだけど。
「私、これでも27なんですよ!?そろそろ三十路なのにいつまでも子供みたいな声で…。」
「2、27!?いや、まてまて!それはないだろう!いくらなんでも小さすぎ…」
「分かってますよ!!自分でも!…私だってリヴェラシル様みたいなナイスバディになりたいです…。」
しゅん、と項垂れてしまうアリアにバルスは慌てて注釈する。
「あーいやいや!いいと思うぜ、俺は!中には小さいのが好きな人もいるわけだし!いや、結構いるぜ!?ていうかむしろ俺が小さいの大好きっていうか…。」
その言葉にその場の全員が凍りつく。
やや引き気味のリヴェラシルは、
「あんた…そういう性癖持ってたのね。そりゃあ私の『魅了』が効かないわけだ。」
と引きつった笑みを浮かべた。
「でもまあ、サバトとかのおかげで最近は『小さい娘好き』も結構増えたし別に珍しくないんだけどね。
…そんなことよりー」
そこまで言って、リヴェラシルはぐい、とアリアを抱き寄せた。
「この子はこれから私たちが保護するわ。文句はないわね?」
「な!?ど、どうしてだ!!」
唐突な宣言。バルスは思わず食ってかかる。
その様子を呆れた顔で見つつリリムの女は、諭すような口調で話し始めた。
「当たり前でしょ。貴方、今まで彼女をどんだけ危ない目に合わせたと思ってんの?
私の部下はちゃんと返してもらうわ。」
真剣な面持ちで言う彼女に、バルスは思わず口をつぐむ。
「…それとね、貴方、なんで最初にバヘムへ来なかったの?例え来れなくても、この街にだって郵便くらいはあるんだから連絡は取れたはずでしょ?」
「っ…!」
…。
「そ、そういえば、どうしてなのバルス?」
ハッと驚いたかのような仕草を見せたアリアは、純粋に答えを求める瞳でこちらに小首を傾げてくる。
…ああ、やはりそこを突かれたか。
「…。」
「答えなさい、返答次第ではタダでは済まさないけど…。」
彼女の顔からは笑顔が消えていた。代わりにひどく禍々しげなドス黒い何かを醸し出しながらこちらをジッと見つめる。
…まあ当然の反応だな。可愛い部下が2日も見ず知らずの男に連れまわされたのだ。しかも魔物とあってはその愛は底知れない。
一つ、大きく深呼吸をする。
覚悟を決めた俺は真っ直ぐに“アリア”を見つめてこう言った。
「お前に惚れたんだ、アリア。」
…。
訪れる沈黙。秒数にして10にいくかいかないかのところでアリアが口を開いた。
「な…なな、な、何を!?何を言ってるんですかぁ!?」
「だから、俺はお前が好きなんだって。」
この人、突然何を言い出すの!?い、いきなり好きだとか…こういうのはもっとこう場所とタイミングを考えて行うもので、これじゃムードもへったくれもないじゃない!!
アリアは真っ赤になった顔を手で必死に覆いかくしながら唸る。
その様子を神妙な面持ちで眺めていたリヴェラシルだったが、やがて溜め息を吐いて呟いた。
「…呆れた。」
「…でもまあ、愛の為っていうなら仕方ないわね。なんたってその為に私達は戦っているのだから。」
「はい…私も、彼なら問題ないと思います。…交渉次第では我が軍への助力も望めるかと。」
聡明な部下の言葉に、しかしリヴェラシルは呆れた表情を今度はゲルダに向けた。
「あら、今のはちょっと不粋ではなくて?仮にも魔物から出る台詞とは思えないわね。」
「む…それは失礼しました。しかし、未だに私には理解出来ないのです。誰かを愛する、ということが。」
「ゲルダ…。」
…無理もないわね。貴女にとっては戦いが全てだもの。幼い頃からの教えをそう簡単に捨てることはできないわ。
不思議そうに尋ねるゲルダに、少し寂しげに笑いかけたリヴェラシルは優しく諭すように呟く。
「いつか…貴女にも分かる日が来るわ。」
そして、吹っ切ったように真剣な表情に戻ったリヴェラシルは再度、アリア達のほうに振り向く。
「そんで、アリアはどうするの?この男の告白を受けるの?受けないの?」
「…うぅ。」
「…。」
彼がこちらを見ている…う〜、そんなまじまじと見ないでよぉ。は、恥ずかしくて顔から火が出そうだよぉ…。
「わ、私は…その…。」
もじもじ…
「…。」
「私も…!…貴方を…愛してます。」
「!!!!アリア…!」
パァ、とバルスの顔が晴れて行く。そして、飛びつくようにアリアを抱いた。
「わっぷ!?ば、バルスさん!!」
「ありがとう!!ほんとに!ほんとにありがとう!俺も愛してるよ!アリア!」
ボン!
「あ、あれ?アリア?」
「うみゅぅぅぅ…」
アリアはぐるぐると目を回して、水に飢えた魚の如く口をパクパクさせている。
よく見ると、真っ赤になった顔もさる事ながら頭からも湯気が湧き出ていた。
「あらあら、相変わらずの照れ屋ね。こりゃこの先が思いやられるわ。」
「ふ、それも楽しみなのでしょう?我が主よ。」
「ふふん、よく分かってるじゃない。伊達に30年私の補佐をしてるだけはあるわね。」
部下を褒めつつ、リヴェラシルははしゃぐ2人に目を向けた。
「…これからもアリアをよろしくね、無名(ルーキー)君。」
暖かい笑みを浮かべて呟く彼女は、普段の妖艶さとは打って変わって聖母さえ思い起こされる清らかさを放っていた。
そして、吹き込む暖かい春風。木の葉を乗せた風は結ばれた2人を祝福するかのように木々草花をなびかせて駆け抜けた。
片方は眩い光を身体から発光させており、もう片方は禍々しいオーラを全身から滲み出させていた。
「…いくぜ。」
「いつでも構わんよ。」
先手を打ったのはバルス、今迄で一番の速度で一直線にサウロの元に駆けて行く。近づくと同時に剣を振り下ろす。
…取った!
ギィィ…ン!
「っ!?」
「…ふん。」
サウロの肢体に斬り込むと思われた斬撃は空で動きを止めていた。剣とサウロの間に微かに揺らめいた魔法陣にバルスは驚きの声を上げる。
「防護壁…だと?」
「ああ…そして、こういう使い方もできる。」
くい、と指を動かすサウロ。その瞬間、剣を受け止めていた魔法陣がグニャリと歪み一点に収束して、バルスに向けて放たれた。
「っ!!」
辺りに金属音が鳴り響く。
咄嗟に剣を構えたバルスは間一髪の所でその刺突を防いでいた。だがー
「甘いな。」
「なっ!?」
第二撃が別の角度から迫っていた。
バルスは空中で無理やり身体を捻りなんとか躱す。しかし、躱しきれなかった腹部を僅かに切り裂く。
「ぐっ!」
ズシャ、と地面に着地したバルスの右腹部からは血がポタポタと滴り落ちていた。
その様を見ながら、愉悦の笑みを溢すサウロ。
「この程度も避けられぬとは…よくもそれで私を倒せるなどと豪語したものだ。」
「ふん…まぐれで当たったくせに、随分と自慢気に語るんだな、司祭様よ?」
「…その減らず口、二度と叩けなくしてやろうか!?」
バッとサウロが手を挙げると、その背後に数十の魔法陣が浮かび上がる。そのどれもが今にも黒き閃光を放たんと禍々しい力の渦を収束させていた。
「な…おいおい、マジかよ。」
「今更命乞いをしても遅いぞ!小童ぁぁぁぁぁ!!!!」
勢いよく振り下ろされた手と共に魔法陣から次々に黒い閃光が放たれた。
バルスはそれを一つ一つ、なんとか回避していく。しかし、またも避けきれずに何箇所かに閃光を浴びてしまう。
「っ、くそっ!」
「フハハハ…!!避けられるはずがないだろう!!…そらそら、どんどん行くぞぉぉぉ!!」
尚も放たれ続ける閃光。
捻り、飛び、躱しながら避けきれない閃光を剣でなんとか弾く。そうして数分の間耐えていたバルスだったが、やがてー
ドッ…
「ぐはっ!!」
「…終わりだな。」
腹部を貫く一筋の閃光、魔法陣から次々に放たれる閃光に紛れさせてサウロの腕から放たれた閃光だ。
激しい痛みに一瞬、怯んだ隙をサウロは見逃さなかった。
すかさずもう片方の手から閃光が放たれる。
それは一直線にバルスの心臓を狙って迫る。
「ぐ…!」
…躱しきれない!!
死を覚悟したバルスが目を閉じる。
バシュゥゥゥ!!
その瞬間、眩い閃光が辺りを照らした。
「な、何事だ!?」
「…!?」
やがて光が治まると、バルスの前には1人の茶髪の女性が立っていた。
その身体は深緑の鱗に包まれており、その腰には長い立派な尻尾が生えていた。
「ま、魔物…?」
「…はい、リヴェラシル殿下の近衛隊長を務めさせていただいておりますゲルダと申します。貴方がバルス殿で間違いありませんね?」
「あ、ああ。」
…な、なぜ俺の名前を?
バルスの前に仁王立ちした彼女は僅かに振り返り自己紹介をした後再びサウロに向き直った。
「…爬虫類が…この私の美しき魔法を弾くとは。…身の程を弁えろ!!」
自分の魔法が、見下していた魔物に弾かれたことにプライドを傷付けられたサウロは怒りを露わにしながらゲルダを睨みつけていた。
対するゲルダはまったく動じることなく、変わらず仁王立ちを続けている。
不意に、再びバルスに僅かに振り返る。
「…あの敵、私1人には少々荷が重いようです。できれば助力を願いたいのですが…。」
そして、そう短く伝えた。
凛とした声で、冷静に尋ねるゲルダに対し、
突然の出来事で暫く惚けていたバルスは、ハッと我に返るとー
「もちろん!逆にこっちが願いたいほどだ。」
そう快活に答えた。
若者の、しかも青年の満面の笑みに心なしか勇気付けられたゲルダは優しく微笑み返す。
「ありがとう…それでは。」
「ああ、共同戦線と行こうか!!」
ゲルダとバルス、並んで剣を構えた2人はサウロへと突撃する。
「バカかっ!2人になったところで我が魔導の嵐からは逃れられん!!」
サウロが再び手を翳すと、魔法の連射が再開された。
だが、依然2人は突撃を止めない。
「…どういうつもりだ?」
2人の行動を訝しむサウロを他所に、ゲルダはバルスに声をかける。
「あの魔法は暫く私が引きつけます。その間に奴を…!」
「わかった。」
そして、遂に閃光の嵐が2人の元に到達した。
「うおぉぉぉぉ!!!!」
竜の咆哮の如き雄叫びと共にゲルダは嵐の只中へ突っ込んでいく。
「何を考えているんだ!?やつめ!」
派手に閃光を弾くゲルダによって辺りに目眩ましのように光が散らばる。
その隙にバルスは、脱兎のごとくサウロの背後に駆けていく。
「く、くそっ!!まさか自らの魔法を目眩ましに使われるとは…!だが、それでも2人では防ぎきれまー」
激情に駆り立てられていたサウロだが、そこは歴戦の戦士。姿を消したバルスに瞬時に気が付いた。
!!!!…小僧はどこだ!?先ほどまで女の隣に…
そこまで考えて、サウロは敵の狙いに気付いた。
「っ!後ろか!!」
「遅い!!」
企みに気付いたサウロが慌てて振り返るも、既にバルスは背後に回り込んでおり、その背に鋭い突きを放っていた。
「ぐっ!?…が、はっ!」
肢体を貫く刃の鋒を眼前に見ながらサウロは呻き声をあげていた。
その様子を見ていたゲルダが眉をひそめてバルスに声を掛ける。
「バルス殿!?さすがに殺すのは…!」
「違う!こいつはこの程度じゃ…。」
ゲルダの追求に慌てて弁明するバルスに、サウロは頭をグルンと半回転させてニヤリと微笑む。
「その通り。」
身体を貫かれたまま平然とした顔で佇むサウロは、ぐん、と身体を捻って魔力を込めた手でバルスを弾き飛ばす。
「バルス殿!!」
「っ!余所見するなっ!!」
「もう遅い!!」
バルスの声と共に、閃光の嵐がヒルダを包み込んだ。
「ぐあぁぁぉぁぁ!!」
「フハハハハハハハハ!!!!万事休すか!?虫ケラども!!」
「ゲルダっ!!」
やがて閃光が止み、全身を焼かれたゲルダがばたりと倒れこむ。
声も出さず、横たわる彼女を見据えた後、歪んだ笑みでバルスに振り返る。
「…安心しろ、お前もじきにこうなる。」
「悪魔め…。」
万策は尽きた。
奴を捕らえる絶好のチャンスを逃し、あまつさえ勝利に必須な強力な援軍ゲルダは奴の凶刃に倒れた。しかし自らは腹部に風穴を開けられる重傷だ。
絶望的な状況にバルスは、しかし項垂れることはなく悔しさに歯を食いしばり鋭い眼光をサウロに向けていた。
「そこまでよ、聖職者。」
その時、鋭い声が辺りに響き渡った。
声の発生源を求め空を見上げたバルスは空中に浮かぶ黒い影を見た。
「あ、悪魔!?」
「あら、失礼ね。私はリヴェラシル、これでもバヘムの領主なのよ?」
「!バヘムだと!?」
…バヘム、つい最近親魔物国家になった国じゃないか。たしかあそこはリリムが治めていたはず…
「ま、まさか貴女がリリムの…?」
ようやく自分の正体に気付いてもらったリヴェラシルは満足気に微笑みながら「その通り!」と人差し指を立てた。
そして、倒れこんだまま動かないゲルダに向き直りー
「いつまで死んだフリしてんの!!ちゃんと仕事なさい!!」
と、王族とは思えない大口で叫んだ。
そして主人の叫びに、ゲルダは何事もなかったようにむくりと起き上がった。
「…恐れながら殿下、私は得体の知れない敵の分析のために敢えて死んだフリをしていたのです。…まったく、邪魔しないで貰えますか?」
「っ!!貴様…ら!!」
一度ならず二度までも、魔物に恥をかかされたサウロはこめかみに血管を浮き立たせながらあくまで冷静な声で上空のリリムに話しかける。
「…では、貴女が魔王の娘たるリリムであられるか?」
「…まあね。」
「クク…ククク…!よもやこんなにも早く素材が揃うとはな。」
「…あいつ頭、大丈夫?」
俯きながら笑い続けるサウロをリヴェラシルは不気味そうに見ていた。
やがて、バッと天を仰いだサウロは声高らかに自らの最高傑作の完成を宣言した。
「遂に、『殺戮の歌姫』の誕生が見えてきたぞ!!クハハハハ!!」
「歌姫?…ああ、あんたがこの子から奪った声は私が取り返しちゃったわよ?」
「っ!?なに…?」
とぼけた様子のリヴェラシルの背後からひょっこりと顔を出したのは、アリアだった。
「な、アリア!?」
「…!!…!」
何かを喋ろうとしてケホケホと咳き込むアリア。
「あらあら、まだうまく話せないのね。…大丈夫、私が治してあげるわ。」
リヴェラシルが喉に手を当てると、アリアの身体が一瞬光に包まれた。
「はい、これで話せるはずよ。」
腰に手を当てニッコリ微笑むリリムに、アリアは照れながらぺこりとお辞儀した後、バルスに向き直ったアリアは恥ずかしそうにモジモジしながら、ボソリと呟いた。
「あ…あの…バルス…さん。」
透き通るような声。清らかさの中に凛とした響きを持つ、風鈴の様な囁きがアリアの口から発せられた。
「…。」
しばしポカンとしていたバルスはやがてー
「…ぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
雄叫びを上げた。先ほどのヒルダを遥かに凌駕する声量で。
「ひゃぅ!?」
「か、か、か…可愛いぃぃぃぃぃぃ!!!!なんて艶やかな美声!清涼でありながらふわりと漂うような柔らかさも併せ持った、まさに天使の様な声!!…ああ、可愛い!!とにかく可愛い!!!!」
様々な叫び声を上げながらバルスは暫く歓喜に打ち震えていた。
それを白い目で見ていたリリムはバルスを指差しながらアリアに問う。
「いつもああなの?」
「い、いえ!いつも本当に頼り甲斐のある立派な方で…た、たまにおかしくなるくらいです。」
「…。」
尚も、叫び続けるバルスとは対照的にサウロは終始無表情であった。強いて言うなら僅かに眉間に皺を寄せていたことくらいか。
ふと、深い溜息を漏らしたサウロは心底呆れた様子で
「…くだらん。興醒めだ。」
と言うと、城で使ったような紫の煙を漂わせ始めた。
煙の正体に気付いたリリムは挑発を込めて声をかける。
「あら、逃げるの?」
「逃げる?勘違いするな。私が去ることで命拾いしたのは貴様らの方だぞ。
…なに、もうその鳥に興味がなくなっただけだ。」
「お前…!!」
「おっと、待てよ少年。私は貴様にも興味を持っているんだ。ここで砕くには惜しい…今回は休戦、と行こうじゃないか?」
「ふざけー」
バルスが引き留めようとした途端、サウロを中心に紫煙の大渦が発生し彼を阻んだ。
その中から、響き渡るような声でサウロは別れの言葉を告げる。
「さらばだ、虫ケラ共!機会があれば、また会おう…。」
全身を煙で覆った彼は一瞬の内に消えてしまった。
悔しそうに舌打ちをするバルスに、地上に降りてきたリヴェラシルはポンと肩を叩いた。
「…ほっときなさい、あんな奴。…それよりも、貴方が気にすべきなのはこっちでしょ!」
トンと前に押し出されたアリアはオロオロしながら、照れ臭そうにバルスを見上げていた。
…か、可愛い。やっぱこいつ超絶可愛いな。俺の人生の中でダントツ一位の可愛さだぞ、こりゃあ。
「…で、なんで照れてるんだお前?」
素朴な疑問を一つぶつける。空中での登場シーンから思ってたが、なんだかキャラにブレがあるような…。
「うぇ!?…あ、あの…えっと…。」
モジモジしながらなかなか喋りたがらないアリアに業を煮やしたリヴェラシルは「ええい!まどろっこしい!!」と割って入ってきて、バルスに向いたままビシッとアリアを指差した。そしてー
「この子はね、自分の声がコンプレックスなのよ!!こーんな可愛い桃色の声しときながら、自分で嫌ってんの!」
大雑把に説明した。
…果たしてこの人は本当に王女なのだろうか?
彼女の肩書きに疑問を抱きつつも、今はアリアに集中することにした。
「コンプレックス?どうして嫌なんだ?可愛らしくて愛着が湧くと思うのだが。」
「それが嫌なんです!いくら可愛らしいといっても、これじゃ子供みたいじゃないですか!!」
…いや、見たまんま子供なんだけど。
「私、これでも27なんですよ!?そろそろ三十路なのにいつまでも子供みたいな声で…。」
「2、27!?いや、まてまて!それはないだろう!いくらなんでも小さすぎ…」
「分かってますよ!!自分でも!…私だってリヴェラシル様みたいなナイスバディになりたいです…。」
しゅん、と項垂れてしまうアリアにバルスは慌てて注釈する。
「あーいやいや!いいと思うぜ、俺は!中には小さいのが好きな人もいるわけだし!いや、結構いるぜ!?ていうかむしろ俺が小さいの大好きっていうか…。」
その言葉にその場の全員が凍りつく。
やや引き気味のリヴェラシルは、
「あんた…そういう性癖持ってたのね。そりゃあ私の『魅了』が効かないわけだ。」
と引きつった笑みを浮かべた。
「でもまあ、サバトとかのおかげで最近は『小さい娘好き』も結構増えたし別に珍しくないんだけどね。
…そんなことよりー」
そこまで言って、リヴェラシルはぐい、とアリアを抱き寄せた。
「この子はこれから私たちが保護するわ。文句はないわね?」
「な!?ど、どうしてだ!!」
唐突な宣言。バルスは思わず食ってかかる。
その様子を呆れた顔で見つつリリムの女は、諭すような口調で話し始めた。
「当たり前でしょ。貴方、今まで彼女をどんだけ危ない目に合わせたと思ってんの?
私の部下はちゃんと返してもらうわ。」
真剣な面持ちで言う彼女に、バルスは思わず口をつぐむ。
「…それとね、貴方、なんで最初にバヘムへ来なかったの?例え来れなくても、この街にだって郵便くらいはあるんだから連絡は取れたはずでしょ?」
「っ…!」
…。
「そ、そういえば、どうしてなのバルス?」
ハッと驚いたかのような仕草を見せたアリアは、純粋に答えを求める瞳でこちらに小首を傾げてくる。
…ああ、やはりそこを突かれたか。
「…。」
「答えなさい、返答次第ではタダでは済まさないけど…。」
彼女の顔からは笑顔が消えていた。代わりにひどく禍々しげなドス黒い何かを醸し出しながらこちらをジッと見つめる。
…まあ当然の反応だな。可愛い部下が2日も見ず知らずの男に連れまわされたのだ。しかも魔物とあってはその愛は底知れない。
一つ、大きく深呼吸をする。
覚悟を決めた俺は真っ直ぐに“アリア”を見つめてこう言った。
「お前に惚れたんだ、アリア。」
…。
訪れる沈黙。秒数にして10にいくかいかないかのところでアリアが口を開いた。
「な…なな、な、何を!?何を言ってるんですかぁ!?」
「だから、俺はお前が好きなんだって。」
この人、突然何を言い出すの!?い、いきなり好きだとか…こういうのはもっとこう場所とタイミングを考えて行うもので、これじゃムードもへったくれもないじゃない!!
アリアは真っ赤になった顔を手で必死に覆いかくしながら唸る。
その様子を神妙な面持ちで眺めていたリヴェラシルだったが、やがて溜め息を吐いて呟いた。
「…呆れた。」
「…でもまあ、愛の為っていうなら仕方ないわね。なんたってその為に私達は戦っているのだから。」
「はい…私も、彼なら問題ないと思います。…交渉次第では我が軍への助力も望めるかと。」
聡明な部下の言葉に、しかしリヴェラシルは呆れた表情を今度はゲルダに向けた。
「あら、今のはちょっと不粋ではなくて?仮にも魔物から出る台詞とは思えないわね。」
「む…それは失礼しました。しかし、未だに私には理解出来ないのです。誰かを愛する、ということが。」
「ゲルダ…。」
…無理もないわね。貴女にとっては戦いが全てだもの。幼い頃からの教えをそう簡単に捨てることはできないわ。
不思議そうに尋ねるゲルダに、少し寂しげに笑いかけたリヴェラシルは優しく諭すように呟く。
「いつか…貴女にも分かる日が来るわ。」
そして、吹っ切ったように真剣な表情に戻ったリヴェラシルは再度、アリア達のほうに振り向く。
「そんで、アリアはどうするの?この男の告白を受けるの?受けないの?」
「…うぅ。」
「…。」
彼がこちらを見ている…う〜、そんなまじまじと見ないでよぉ。は、恥ずかしくて顔から火が出そうだよぉ…。
「わ、私は…その…。」
もじもじ…
「…。」
「私も…!…貴方を…愛してます。」
「!!!!アリア…!」
パァ、とバルスの顔が晴れて行く。そして、飛びつくようにアリアを抱いた。
「わっぷ!?ば、バルスさん!!」
「ありがとう!!ほんとに!ほんとにありがとう!俺も愛してるよ!アリア!」
ボン!
「あ、あれ?アリア?」
「うみゅぅぅぅ…」
アリアはぐるぐると目を回して、水に飢えた魚の如く口をパクパクさせている。
よく見ると、真っ赤になった顔もさる事ながら頭からも湯気が湧き出ていた。
「あらあら、相変わらずの照れ屋ね。こりゃこの先が思いやられるわ。」
「ふ、それも楽しみなのでしょう?我が主よ。」
「ふふん、よく分かってるじゃない。伊達に30年私の補佐をしてるだけはあるわね。」
部下を褒めつつ、リヴェラシルははしゃぐ2人に目を向けた。
「…これからもアリアをよろしくね、無名(ルーキー)君。」
暖かい笑みを浮かべて呟く彼女は、普段の妖艶さとは打って変わって聖母さえ思い起こされる清らかさを放っていた。
そして、吹き込む暖かい春風。木の葉を乗せた風は結ばれた2人を祝福するかのように木々草花をなびかせて駆け抜けた。
16/10/10 23:20更新 / King Arthur
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