捕食者

この町に引っ越してきて、もう何ヶ月が過ぎただろうか。
随分と町の人たちに優しくしてもらったから、馴染むのは早かった。
近所に住むお節介なおばさんも、隣の家の美人なお姉さんも、色々気遣ってくれるお店のお客さんも…この町の人はみんな良い人。
これからもっと素敵な生活が始まるんだなと思うと、何だかとてもわくわくする。

――そんなある日、お店の常連さんが私に面白い話をしてくれた。
どうにも、この町を少し越えた所にある森には、とても珍しい「マナの木」が叢生しているらしく、「錬金術にマナは欠かせないでしょう、良かったら行ってみて」とのこと。

「マナの木」とは、木の樹液に「マナ」というものが多量に含まれている木のことで、マナの木の発生条件が不明な事と、純度の高いマナが多く採れることがあり、とても珍しい存在だ。
それ故に、その木を見つけた人は幸せになるとか、ならないとか。
そんなジンクスもあるらしい。

………

と、いうわけで。
入念に準備を重ねて、その3日後、早速森へ向かった私だけれど…
まだ昼間だというのに、何だか森が薄暗い。
あまり夜目がきかない私は、手探りで道を捜すのだけれど、やはりそれには限度がある。
だが、構わず歩き続け、ようやく目が慣れてきた頃。
――私はいつの間にか、1つの花に右腕を食われていた。

いや、正確には、「食われかけていた」か。
とても大きな花弁、本来なら雄蕊や雌蕊が有る筈の位置に生えていて、何やら1本が花粉を撒き散らしている3本の大きな触手、そして、それらを取り込むかのように蠢く小さな触手ら。
私の知識が合っているのなら、これはきっと「パラデシア」という植物だ。
人を主食とする捕食植物で、3本の内の1本目の大きな触手が人間をおびき寄せる臭いを発し、3本目の触手が寄ってきた人間を催眠状態にさせる花粉を撒き散らし、その人間を細かい触手が引き寄せ、2本目の触手が獲物を呑み込む…という、恐ろしい生物。
これを見たらすぐに逃げろ!と、図鑑ではそう警告されていたのだが。
実際にこんな醜悪な生物を見てしまったら、もう逃げるどころではないだろう。

「…もう、駄目…」


―――
――


この森にこんな生き物がいたなんて、知らなかった。
きっと誰も知らなかった。
きっと知ってても教えてくれなかった。
勿論、私だってわからなかった。
パラデシアなんて、普通生えない。
ツチノコみたいなものだ。一般的には「そんなものはない」とされている。
なのに…どうして?

…ああ、頭が呑まれてる。ぬちょぬちょで気持ち悪い。

パラデシアの発生原因は未だわかっていない。

…胸が、…腰も…う…変な臭い。

だから「ない」とは言い切れない。
でも、こんなのって…
ああ、私は運が悪かったんだなぁ…

とうとう足も呑まれちゃった。
……




「息…が…」

呼吸もままならないくらい、とても狭い触手内。
段々意識が薄れていく。
酸素が欲しい。浅い呼吸を繰り返しながら、切実に思う。
だめだ。
考えることができなくなって、
わたしはついに、
いしきをてばなし、た…






……

………

…………!!

生暖かい。
なんだか…お母さんのおなかの中に戻ったみたい。
身体から何かが抜けていく感覚がする。
ずっと横たわっているのも嫌だから、私はゆっくり立ち上がった。

服は残っているみたい。
唾液か何かででべとべとだけど…今更そんなことで嫌がってちゃいけない。
というか、ここはどこ?
もしも胃袋だったら…そのまま食べられておしまいだ。
仕方がないけど、もう抗うのも面倒だな。
しばらく辺りを見渡してみて、ピンク色の肉が盛り上がっているところを見つけた私は、少し躊躇いながらもそこへ腰掛けた。
…グロテスクな見た目の割には、案外座り心地が良い。
ぷにゅぷにゅとした感触がやけに気持ちよくて、瞬きのつもりで目を閉じたはずが、思わず眠ってしまった。





「…っ」

何だかとても体が熱い。
もしかして、この椅子、いや、この壁や床のべとべとには、「そういう」効果でもあるのだろうか。
熱と倦怠感が混じり合って、頭がぐらぐらする。
これをきっと「性欲」と呼ぶのだろう。
食欲と睡眠欲に並ぶ、人間の三大欲求の1つだ。
抗う気力も自らを慰める力もないので、ただそれが収まるのを待っていた。

「うわ!?」

突然、私の股辺りから生えてきた謎の触手。
私が腰かけている椅子…のような肉と同じピンク色で、恐らく何らかの意味をもって生えてきたと思うけれど………ああ、なんだか思考がぼやける。
もう何でも良くなってきて、…心が屈していく。




中指と人差し指で小陰唇を広げ、指さえも受け入れた事の無い、純潔な性器を触手へ捧げる。
触手の先端…男性器で言う「亀頭」が性器に食い込んだ時、今まで感じた事の無い痛み、そしてそれを上回るほどの快感を感じ、

「んッ、あぁ…」

今まで出した事の無い程の甘い声、俗に言う「嬌声」というものを出すと、なんだか体の中心から力が抜けて…

「やだ…これ以上は、…んッ…は、はぃらないよぉ…」

思わず腰が抜けてしまい、愛液が潤滑剤となって、触手がゆっくり膣内へ潜り込んでくる。
腰を動かそうにも動かせず、為されるがままになってしまい、何とも言えぬもどかしさに襲われた。

「ぁ、そんなに激しく…!…ぅ、動かないで……ぁあッ!?」

そのもどかしさを感じ取ったのか、触手が激しいピストンをし始めた頃。
早くも体力を消耗しきった私は、全身が火照るのを感じながら、触手の異変にも感付いた。

「だめッ、中に出したら、やだ、やだぁッ!!妊娠しちゃうからぁ…!」

触手は段々膨らんでいき、私の腹部も少し膨らむ。
これは射精の合図なんだ、と気付けば、必死に抗おうとするが、もう手遅れで。

「子宮のナカ…っ、ちっちゃいの、入って…」

ナカに入っている大きな触手の先端から派生した小さな触手が、私を絶頂へ導くのを感じながら、その小さな触手の一つが私の子宮へ入り込んだことも感じた。

「ッ…や、ぁ、ぁあ♥♥なかだしぃ♥まるのみされて、なかだしされて♥おなかびゅーびゅして♥きもちいぃ♥なさけないけど、きもちいぃ♥♥」

大小両方の触手が瞬時に膨らみ、精液を出していく。
子宮へ入り込んだ触手もまた射精をし、情けなくも私の子宮はその精液を貪欲に飲み干していった。

「おいひぃ…きもちわるいイキモノのせーえき…そのイキモノに孕まされてるのに…異種姦きもひぃいよぉ…♥♥」

うわごとのように呟けば、なんだか意識が遠のいてきて。
そのまま快楽に身を委ね、私は夢の世界へ逃避した。
触手は精液で一杯になった私の膣内をしつこいくらいかき回してきて、
…あ、また、…♥
















暫くして、私の身体は吐き出された。
どうやら私を取って食う気は無かった様で、幸い私の体には何事も…無い、ということはなかった。
なんということだ、と驚く事ではないのだが、私の体は「魔物」となっていた。
大きな花弁に包まれ、甘い甘い蜜を滴らせ、体もどこかグラマーになっている。
…これも、そんなに悪くは無いのかもしれない。
ああ、何だかお腹が空いてきた。
いい感じの男性が迷い込んでるといいのだけれど、こんな森に来てくれるのかな?
絶対、来てくれるよね――どうせ、ありもしない木を求めて来るんだから。

私は指から滴る蜜を舐めながら、そう確信した。


どうも。
今日は「魔物化×丸呑み」をテーマに書いてみました。
一応「錬金術師の女の子が騙されて謎の触手生物に呑みこまれアルラウネになる」って話だったんですけど、書いてる内に「騙されて」じゃなくて「噂話につられて」になりましたね。でも本質は変わってません。だってどちらも嘘ですから。
後半はぐだぐだで、正直「やっちまったな〜」って感じだったんですけど、ちょっと妥協しました。
読み辛かったらごめんなさい。
あと、途中で出て来る捕食植物の「プレデシア」(名前の由来は、「捕食者」という意味のプレデター+ラフレシア)ですが、仕組みは「呑み込む→胃袋みたいな部屋で精を搾り取る→魔力を注がれて魔物化」って感じになってます。
理屈とかそういうのもぐだぐだですが、こまけえこたあいいんだよ!…じゃねえや、雰囲気で読んで頂ければ…と。

では、かなり見苦しいあとがきでしたが、ありがとうございました。
良いお年を!

16/12/31 21:40 醤油社長

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