藪をつついたら?
俺には今、同棲している彼女がいる。
その彼女は俺には勿体ないほどの美人で、性格も献身的で穏やか。欠点なんて一つもない、非の打ち所のない人だといっていい。
俺は、そんな彼女の浮気を疑っていた。
俺が彼女を疑う要素は色々あって、細かいところから話していけばキリがない。
たとえば彼女との初めての性行では、彼女は初めてだと言っていたが、いざ始めてみれば技巧が素人のそれではないと、当時童貞だった俺でもすぐにわかった。
別にこの程度なら、昔のことなんて気にしない……とはっきりは言えないけれど、俺は今の彼女が好きだから、これからのことの方が重要だと思うし、何も問題はなかった。
俺が変だと思い始めたのは、彼女がコンドームを嫌い、避妊薬を飲み始めたことだ。
避妊薬には少なからず副作用があると聞くし、そんなことしなくていいと強く言ったのだが、普段はあまり自己主張をすることがない彼女が聞く耳を持たなかった。
同棲を始めてからも、おかしなことはあった。中でも一ヶ月に一度はする外泊。旧友の家に泊まりに行くとは言っているが、そんなことが頻繁にあるものだろうか。
その間はメールをしても、返事がなかったり。電話をしても、電源が切れているか電波の届かないところにいるかと言われて繋がらないことが多い。
他にも細かいことはいくらでもある。でも何より俺が彼女を信じきれない最大の原因は、彼女が本当に美人だということだ。なぜ俺と付き合ってくれているのかわからないほどに、彼女は誰からも愛されるような容姿をしていた。
親しい友人に詳しく話すと、やはりほぼ同意見で、浮気しているのではないかと言われる。第三者の口から出た言葉でも、たとえそう言われると分かっていても、気分が落ち込んでしまった。
その後友人に慰めてもらいつつ、もし浮気されていたなら別れるべきだと諭される。
俺も、その場合は別れようと決意をした。
いくら彼女が好きだといっても、今の状況に俺が耐えられそうもない。彼女の笑顔の裏を想像すると胸が張り裂けそうだった。
俺が協力を頼むと、友人は友達を助けるのは当たり前だと笑って受け入れてくれた。
友人が考えた作戦は部屋にカメラを設置するという、ある意味古典的な方法だった。
事前に俺が友人宅に止まることを彼女に告げておいて、俺がいない間に男を連れ込んでいたり、あきらかにそれらしい様子があった場合に、証拠が出来る。
俺はその作戦をすぐに決行した。友人からは、最初は尻尾を出さないかもしれないが、浮気をしているのが事実ならいずれボロが出る。ただ、ある程度の期間がかかることは覚悟しておいた方が良いと言われた。
作戦実行の日は、友人が気を使ってくれたんだろう。カラオケや居酒屋に二人で遊び歩いて、俺の気を紛らわせてくれた。本当に俺は良い友人を持ったと心から思う。
作戦実行から、ちょうど次の日。俺は、セットしておいたカメラをテレビにつないで、ボーッとしていた。ビデオカメラの再生のボタンを押す勇気が出なかったからだ。
彼女との楽しい思い出が、今でも彼女を想う気持ちが、躊躇いを生んで、なかなか指が進まない。それでも、進まなければならないことはわかっていた。今の状況を停滞させることはできないから。
俺は気力を振り絞って、再生のボタンを押す。テレビ画面には、見慣れた部屋と録画ボタンを押した自分の姿が映った。
彼女の姿なんて出てもいないのに、心臓がドクドクと脈打ち画面から目を背けたくなる。そんな心の要求を押し殺して、早送りを押した。部屋の様子が何も変わらない状態が約二時間ほど続く。
彼女が帰ってくる姿が見えると、俺は早送りを止めて少し戻し、彼女が入ってくるところから再生する。
「ただいま〜、ってそういえば今日は帰ってこないんだっけ」
俺達が同棲している部屋は広いワンルーム。プライベートも大事だろうと部屋もある家を提案したのだが、彼女に色々と押し切られ、家賃の少ないこの家に落ち着いた。
隣に男はいないことにほっとする。これからこないとは限らないのに、バカみたいだと自嘲する。
彼女は持っていた荷物を置くと、部屋の真ん中へと立った。
「………………」
眼を瞑り、何事かを彼女は喋り始める。とても小さな声で、よく聞こえない。
声が止み、彼女が眼を見開く。すると、一瞬の間を置いて、画面全体を眩しい光が覆った。ビデオカメラが壊れたのかと思ったが、違う。思わず目を疑う、とんでもないことが起きていた。
「はぁ、やっぱこの姿の方が楽だなー」
彼女の下半身が蛇の形に成り変わり、部屋で蜷局を巻いていたのだ。
「あー、定時報告。私の身体にまったく異常ありません。一年ほどこの星にいましたが、移住計画に問題はないかと。だから一ヶ月に一回の出戻り報告も半年に一回とかでいいですか? え、何回言われてもだめ? そこをなんとか……」
「ちっくしょう、マジ研究チーム使えない。腹立つわー、オナニーしよ」
「やっほーう、使用済みYシャツとパンツー! この彼に全身包まれてる感じがなんともいえないわ! ……パンツは履けないから、かぶ……、いや匂いでも嗅ぐか」
「歯ブラシも使おう」
記憶媒体に残されていた映像を見て、俺の心にあった疑念や悲哀といった感情が、全て戦慄へと変わっていた。
見てはいけないものを見てしまった。世の中には知らない方がいいことがあるのだ。
俺は再生を止めようと、カメラ本体に手を伸ばそうとして、後ろから感じた気配に硬直する。
「なーに、見てるのかなー」
振り返るとそこには、
……
…………
………………
ごじつ ゆうじんに かわいいおんなのこを しょうかいしてあげた。かのじょが いいこ って あたまをなでてくれたよ。えへへ うれしいなあ。しあわせだなあ。
おわるよ!
その彼女は俺には勿体ないほどの美人で、性格も献身的で穏やか。欠点なんて一つもない、非の打ち所のない人だといっていい。
俺は、そんな彼女の浮気を疑っていた。
俺が彼女を疑う要素は色々あって、細かいところから話していけばキリがない。
たとえば彼女との初めての性行では、彼女は初めてだと言っていたが、いざ始めてみれば技巧が素人のそれではないと、当時童貞だった俺でもすぐにわかった。
別にこの程度なら、昔のことなんて気にしない……とはっきりは言えないけれど、俺は今の彼女が好きだから、これからのことの方が重要だと思うし、何も問題はなかった。
俺が変だと思い始めたのは、彼女がコンドームを嫌い、避妊薬を飲み始めたことだ。
避妊薬には少なからず副作用があると聞くし、そんなことしなくていいと強く言ったのだが、普段はあまり自己主張をすることがない彼女が聞く耳を持たなかった。
同棲を始めてからも、おかしなことはあった。中でも一ヶ月に一度はする外泊。旧友の家に泊まりに行くとは言っているが、そんなことが頻繁にあるものだろうか。
その間はメールをしても、返事がなかったり。電話をしても、電源が切れているか電波の届かないところにいるかと言われて繋がらないことが多い。
他にも細かいことはいくらでもある。でも何より俺が彼女を信じきれない最大の原因は、彼女が本当に美人だということだ。なぜ俺と付き合ってくれているのかわからないほどに、彼女は誰からも愛されるような容姿をしていた。
親しい友人に詳しく話すと、やはりほぼ同意見で、浮気しているのではないかと言われる。第三者の口から出た言葉でも、たとえそう言われると分かっていても、気分が落ち込んでしまった。
その後友人に慰めてもらいつつ、もし浮気されていたなら別れるべきだと諭される。
俺も、その場合は別れようと決意をした。
いくら彼女が好きだといっても、今の状況に俺が耐えられそうもない。彼女の笑顔の裏を想像すると胸が張り裂けそうだった。
俺が協力を頼むと、友人は友達を助けるのは当たり前だと笑って受け入れてくれた。
友人が考えた作戦は部屋にカメラを設置するという、ある意味古典的な方法だった。
事前に俺が友人宅に止まることを彼女に告げておいて、俺がいない間に男を連れ込んでいたり、あきらかにそれらしい様子があった場合に、証拠が出来る。
俺はその作戦をすぐに決行した。友人からは、最初は尻尾を出さないかもしれないが、浮気をしているのが事実ならいずれボロが出る。ただ、ある程度の期間がかかることは覚悟しておいた方が良いと言われた。
作戦実行の日は、友人が気を使ってくれたんだろう。カラオケや居酒屋に二人で遊び歩いて、俺の気を紛らわせてくれた。本当に俺は良い友人を持ったと心から思う。
作戦実行から、ちょうど次の日。俺は、セットしておいたカメラをテレビにつないで、ボーッとしていた。ビデオカメラの再生のボタンを押す勇気が出なかったからだ。
彼女との楽しい思い出が、今でも彼女を想う気持ちが、躊躇いを生んで、なかなか指が進まない。それでも、進まなければならないことはわかっていた。今の状況を停滞させることはできないから。
俺は気力を振り絞って、再生のボタンを押す。テレビ画面には、見慣れた部屋と録画ボタンを押した自分の姿が映った。
彼女の姿なんて出てもいないのに、心臓がドクドクと脈打ち画面から目を背けたくなる。そんな心の要求を押し殺して、早送りを押した。部屋の様子が何も変わらない状態が約二時間ほど続く。
彼女が帰ってくる姿が見えると、俺は早送りを止めて少し戻し、彼女が入ってくるところから再生する。
「ただいま〜、ってそういえば今日は帰ってこないんだっけ」
俺達が同棲している部屋は広いワンルーム。プライベートも大事だろうと部屋もある家を提案したのだが、彼女に色々と押し切られ、家賃の少ないこの家に落ち着いた。
隣に男はいないことにほっとする。これからこないとは限らないのに、バカみたいだと自嘲する。
彼女は持っていた荷物を置くと、部屋の真ん中へと立った。
「………………」
眼を瞑り、何事かを彼女は喋り始める。とても小さな声で、よく聞こえない。
声が止み、彼女が眼を見開く。すると、一瞬の間を置いて、画面全体を眩しい光が覆った。ビデオカメラが壊れたのかと思ったが、違う。思わず目を疑う、とんでもないことが起きていた。
「はぁ、やっぱこの姿の方が楽だなー」
彼女の下半身が蛇の形に成り変わり、部屋で蜷局を巻いていたのだ。
「あー、定時報告。私の身体にまったく異常ありません。一年ほどこの星にいましたが、移住計画に問題はないかと。だから一ヶ月に一回の出戻り報告も半年に一回とかでいいですか? え、何回言われてもだめ? そこをなんとか……」
「ちっくしょう、マジ研究チーム使えない。腹立つわー、オナニーしよ」
「やっほーう、使用済みYシャツとパンツー! この彼に全身包まれてる感じがなんともいえないわ! ……パンツは履けないから、かぶ……、いや匂いでも嗅ぐか」
「歯ブラシも使おう」
記憶媒体に残されていた映像を見て、俺の心にあった疑念や悲哀といった感情が、全て戦慄へと変わっていた。
見てはいけないものを見てしまった。世の中には知らない方がいいことがあるのだ。
俺は再生を止めようと、カメラ本体に手を伸ばそうとして、後ろから感じた気配に硬直する。
「なーに、見てるのかなー」
振り返るとそこには、
……
…………
………………
ごじつ ゆうじんに かわいいおんなのこを しょうかいしてあげた。かのじょが いいこ って あたまをなでてくれたよ。えへへ うれしいなあ。しあわせだなあ。
おわるよ!
14/03/04 08:57更新 / 涼織