後編
「九十五階層ボスのミーネさんが、異動って・・・・。えっ、ホント!?」
探索者ギルドに勤める職員が、素っ頓狂な声をあげた。同じくギルド職員である会話相手は、異動を通達する旨が書かれた紙をヒラヒラさせながら呆れたような声で返す。
「らしいわよ。しかも一階層」
「どんだけパワーバランス崩す気なのッ!? だいたいそんなのを認めちゃったら大変なことに・・・・」
「なるわねえ。でもミーネさん、このダンジョンで古参も古参でしょう? 先代の頃から幹部な上に、現御屋形様の教育係だったし、誰も逆らえないのよ・・・・」
「大人の事情ッ!?」
「長いモノには巻かれろってね、『世界蛇のダンジョン』だけに」
「誰が上手いこと言えと」
「ま、『仔兎』狩ったらさっさと引退するってさ。・・・・年増が恋愛拗らせると怖いわよねえ」
「聞かれたら殺されるわよ、私も同感だけど。・・・・あーあ、『仔兎』ちゃん可愛かったなあ。私、ちょっぴり狙ってたのにー」
「私もだよー」「ボクも・・・・」「私もですわ!」「あの半ズボンが」「エロい」
「どっから湧いたお前ら」
「まっ、それはいいとして。アンタ今日、宝箱設置担当じゃなかったっけ。のんびりしてて大丈夫なの?」
「あー、忘れてたッ! 行ってきます!」
探索者ギルドの朝は、そうして慌ただしく過ぎていった。
朝。僕は『衣服装飾店』の看板を前に苦悩していた。
というのも、原因は昨日のことで、ミーネさんにどんな顔して会えばいいのかわからなかった。
まあ深く考えないでいつも通りに行けばいいんだろうけど、昨日は突然僕が出ていったわけで、気を悪くしているかも、と思うと。
うんうん唸りつつ、店からちょっと離れた道を往復する。行こう行こうと思っても、なかなか踏ん切りがつかなかった。
・・・・荷物の確認でもして、少し気を紛らわせよっかな。
腰に掛けている鞄を広げて、中のアイテムを手早くチェックしていく。
僕はスカウト系のジョブについているため、アイテムの充実は欠かせない。戦闘時には敵の攪乱や味方のサポートを中心に、探索時には奇襲や罠の警戒、罠解除など、スカウト系にとってやらなくてはいけない事は多く、特に戦闘面においてアイテムの重要性は非常に高いと言われている。
「ギルドカードよし、ポーションよし、各属性スクロールよし・・・・」
といっても、低階層で魔法の込められたスクロールなどの高価なアイテムを使ってしまえば赤字確定である。そういった意味では僕にまだ必要はない物も多いが、備えがあるに越したことはない。死んでしまっては元も子もないのだから。
荷物を確認、整理していくと、不思議と心が落ち着きを取り戻してくる。
――うん、行こう。
ここでいつまでもグズグズしていることはできない。時は金なり、貧乏暇なしなのだ。
いつも通りを意識しつつ、店内に入る。
「いらっしゃい、フェイ君。待ってたよ」
「お、おはようございます。ミーネさん」
ミーネさんは、いつもと変わらぬ優しい笑みで迎えてくれた。当たり前だが昨日のことを気にしてる様子はなく、むしろ機嫌が良さそう。・・・・さっきまでうじうじ悩んでた僕が馬鹿みたいだ。
「フェイ君。これ外套」
外套を広げて見せてくれる。外套は昨日破けたのが嘘のように、まるで新品なんじゃないかと見紛うくらいに完璧に直っていた。
「ありがとうございます」
手を伸ばして受け取ろうとして、すかされる。
「私が付けてあげるね。背中向けてくれる?」
「え、でも・・・・」
「いいからいいから」
そう言ってミーネさんはニコニコと笑いながら、戸惑う僕に外套を付けてくれる。
何か良いことでもあったのだろうか?
「これからダンジョン?」
「はい、その予定です」
「そっか、頑張ってね。応援してるから」
「は、はい。行ってきます」
誰にでも言っているだろう言葉でも、さっきまで憂鬱だったのに嬉しくなるんだから現金なものだ。
先ほど外套を着させてもらったことも手伝って、照れて真っ赤になってるであろう顔が気恥ずかしく、少しでも見られないように足早に店内を出る。
「また後でね・・・・」
何か呟くように言った彼女の言葉は、僕の耳には届かなかった。
ミーネさんと僕は、普通に生きていれば接点すらなかったと思う。そもそものきっかけは、僕が間違えてあの店の扉を開いてしまったことだ。
『衣服装飾店』はイシュルに数多く店舗が存在して、店舗毎に扱う物のグレードが変わってくる(これは武器屋や道具屋でも同じだ)。中でもミーネさんが担当する店舗は最高級品のみを取り扱ったところで、最低ランクの品でも金貨五枚は当たり前。万を越えると言われるほどの探索者が暮らすイシュルにおいて、利用できるのもほんの一握りだけだった。
当時の僕はそれを知らず、初めて見つけた宝箱の中に入ってたレアアイテムの換金額である銀貨五枚を握りしめ、ホクホク顔で入っていったんだから笑いものだ。
店のどの品を見ても到底買える額じゃなくて、すぐに目が点になってしまったのを覚えてる。そんな時ミーネさんに突然話しかけられたのに驚いて、手の中の銀貨を落としてしまい、顔から火が出るほど恥ずかしかった。
落ちた銀貨をミーネさんと一緒に拾って、謝って店を出ようとしたけれど引き留められて、必ず修繕はこの場所に来ることを条件に、外套を銀貨5枚で作ってもらった。
それ以来、外套は僕の背中を守ってくれてる。
この外套に相応しくなれるように、あの人に少しでも近づけるようになりたい。
今日は久しぶりにそんな気持ちを再確認し、意気揚々とダンジョンに入った、・・・・までは良かったのだが。
「なんでだろ・・・・」
今日の一階層は、なんだか様子が違った。
何が違うのかと聞かれても上手く言葉に表せないけど、何か良くないことが起こりそうな気がするのだ。
いつもの僕なら、すぐに探索をやめていたと思う。
ただ今日はミーネさんから応援をされていたということもあり、当たっているかどうかもわからない直感だけでは取りやめる理由に足らなかった。
弱気な自分の直感を捩じ伏せて、探索を続けた。
「ふぅ・・・・」
そうして探索から数時間が経ち、今はちょうど入り口から奥の中間といったあたりにいる。
今までの道中を振り返ってみても、特にこれといった問題はないばかりか、魔物とすら一回も遭遇していない。これで宝箱でも見つかれば、普段と比べて格段に運が良い日だと言える。
・・・・言えるのだが、なかなか平常心は保てず、頭の中の警鐘は鳴りやまない。
「・・・・今日はもう無理だな」
不安に押しつぶされそうになるのを耐えかねて、探索をやめることにした。幸い一階層でも、迷宮という言葉に相応しく帰るルートはいくらか存在する。帰り道に、宝箱があることを祈ろう。
そうしてしばらく歩くと、帰りのルート分岐点に差し掛かる。左の道は行きの道中を除き最短でダンジョンから出ることができ、右の道はより深く進むことになる。右からも帰るルートは存在するけど、結構な遠回りをすることになってしまう。いつもならば探索を続けるために右に行くが、僕は迷うことなく左の道へ進もうと一歩を踏みだした。
「――ッ!?」
不意にぞわりとした悪寒が頭の中をかけめぐり、咄嗟に半身を後退させる。
白い糸が目の前から突然飛び出して、数瞬前まで自分の体があった部分を通過していった。
「あれ、避けちゃったの?」
どこからともなく、くすくす、と笑い声が聞こえる。妙に聞き覚えのあるそれは、僕の恐怖心を煽り、全身に緊張を走らせた。
ダンジョンに入ってから感じていた違和感の正体は、間違いなくこの声の主だと直感が叫んだ。僕は踵を返し急いで駆け出そうとして、思い直す。
糸が飛び出してきた方向は、僕が帰りに使おうと思っていた左の道であり最短ルートだった。ならば行きのルートを戻って帰るのが正しいか・・・・?
さっきまでの僕の警鐘が間違っていないなら、行きのルートこそ危険ではないだろうか。それらしい笑い声は左の道から聞こえたものの、モンスターが複数じゃないとはいえないし罠の可能性も高い。
迷った末、僕は。
「・・・・ッ!」
右の道、すなわちダンジョンの奥へと進んだ。
ダンジョンは蜘蛛の巣のように入り組んでいて、初見なら地図があっても迷うことがあると言われるほどだ。
ただ僕はこの都市にきてからの約一年間、ダンジョンの一階層に潜り続けていたので、もう地図も地形も頭の中に完璧に入っている。天変地異でも起きない限りは、迷うことはないだろう。出入り口へのルートを無作為に選びつつ、急いで駆ける。
ところどころ道を遮るように張り付いている、細い糸の隙間を縫うように避けていく。
ダンジョンで糸と言えば、脳裏に浮かぶのはアラクネというモンスター。
自分の縄張りに細く頑丈な糸を張り巡らせ、獲物が掛かるのを待つ狡猾で凶暴な魔物だという話だ。
・・・・そんな魔物が一階層に出るなんて聞いたこともないけれど。
僕の予想が当たり、この糸がアラクネの糸だとした場合、斬ろうとするのは下策だ。強靱性と粘着性に優れたアラクネの糸は、振り下ろされた武器でさえ絡めとると言われている。僕の非力な腕力では、間違いなく丸腰になってしまうだろう。
といっても、インプやゴブリンの集団に比べれば、張られた糸自体は動かないだけやりやすい。たまに後ろから飛んでくる糸は、ジグザグと規則性なく走り続けて照準を合わせさせない。そうした苦労のかいもあって今のところは、なんとか対応出来ている。
あれから随分と走って、もう出口まで間もない。このままいけば出れると、なかば確信しながら、張ってあった糸を屈んで避けた、が、
「えっ・・・・!?」
まるで外套が引き寄せられたかのように、避けたはずの糸にくっついた。
勢いづいた体は外套によって止められ、バランスを崩し転倒してしまう。なんとか足下の糸に触れないように気をつけたが、受け身を取る際に左手を少し打ってしまった。
すぐさま上体を起こし、ちらりと背中に視線を向ける。さっきは完璧に避けれたと思っていたのだが、僕の自信を嘲笑うかのように、外套に糸がひっついていた。
こうなっては、すぐに外套を脱ぎ捨てて逃げなければいけない。左手の痛みに顔をしかめつつ外套に手をかけて、
ふと、ミーネさんが残念そうにしている顔が頭に浮かんだ。
この外套がなくなったら、ミーネさんはショックを受けるかもしれない・・・・。それに僕にとっても、苦楽を共にしてきた大事なものだし。
一度考え始めてしまうと、外套を捨てるのにためらいが生じてしまった。
・・・・そういえば、糸は火に弱かったはずだ。
すぐさま腰の鞄から炎属性魔法が込められた非常用のスクロールを取り出して使う。が――
「な、なんでだよっ!」
糸は焦げ目がつく程度で、まったく焼け切れる気配はなかった。
「ごめんね・・・・。私の糸って炎耐性持ちだから、上級炎魔法ならともかく安物スクロールじゃあ、ねえ?」
背後から聞こえた声に、胸がドクンと強く脈打つ。頭の中が死の恐怖に埋め尽くされる。もはや四の五の言ってられる状況じゃない。
急いで外套を脱ぎ、その場から飛び出せ――なかった。
なぜか外套までもが服に引っ付き、力の限り引っ張っても取れない。ナイフを取り出して服を破ろうとするも、焦りで手が滑り、地面に落としてしまう。
落としたナイフをすぐに拾おうとしても、糸が絡めとるようにどこかへ持っていった。予備のナイフを腰の鞄から取り出そうとしたが、すでに鞄はそこにはなく、腰に掛けていた鞄の紐だけがプラプラとその存在を主張していた。
「動けなくしてしまえば、狙うのは簡単ね」
僕の様子を楽しむかのように、背後の気配はゆっくりと近づいてきて、
「あ・・・・、っ・・・・あぁああ!」
自衛手段すら失った僕は、恐怖に慄き無様な叫びを上げることしかできない。
後ろから手が伸ばされ、僕は抱きすくめられる。
「はい、捕まえた」
耳元で囁くような声を最後に、僕は意識を手放した。
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・
「ふふふ、寝顔可愛いなあ。これでやっと、私のモノに・・・・」
僕は誰かに語り掛けられながら頬をくすぐられていた。くすぐったさに身を捩りながら、ゆっくりと目を開けると、誰かが僕の顔を覗き込んでいる。
「あ、フェイ君、起きた?」
「う、あ。はい」
よくわからないが、とりあえず返事をする。そうして寝起きしたばかりの頭が徐々にはっきりしてくると、それは僕の想い人であるミーネさんだと気づいた。
――寝ていたのか、でもなんで宿にミーネさんが。というか僕はダンジョンに潜っていて、モンスターに捕まってしまったはずじゃ。・・・・あれは全部夢だったのか?
ちらりと視線を横にずらすと、まるで覚えのないベッドや天蓋、レースのカーテンが目に入る。
どうみても、見慣れている安宿の狭い部屋じゃない。
「ここは、・・・・ッ?!」
僕に覆い被さっているミーネさんの下半身が、巨大な蜘蛛の姿を成していた。異形としかいえない姿を前にして、声が竦んでしまう。
「な、なんで、どうして?」
まさか、魔物がミーネさんに化けたのか? でもなんのために? 幻覚、もしくは悪夢でも見ているのか?
「すごいね、フェイ君。逃げられるかと思っちゃった。まさか、これを使わせられるとは思わなかったよ」
そう言って、僕の身体の下に敷かれていた外套を撫で、
「この外套にはね、私の魔力がたっぷり詰まってるから、ある程度は操れるの」
「ど、どういうことなんですか」
「どういうことって・・・・。逃げられそうになったから、奥の手を使わざるをえなかったって話だけど。褒めてるんだよ?」
「僕が聞きたいのはそういうことじゃなくて!」
ああ、思考がよく働かない。状況がまったく理解できない。
「・・・・フェイ君が悪いんだよ? さっさと私の階層まで来ないから」
僕の頬を細い指で撫でながら、目の前の彼女が言う。
「でもしょうがないよね、一年くらいならまだしも、さすがに十年は無理。待てない待てない」
言っていることも、よくわからない。ただ彼女は、僕を見つめ続けている。
「もう捕まえたから、逃げられないからね?」
そうして彼女は、にんまりと笑って、徐々に僕へと顔を近づけ、
「ん、んんんんんーッ!!!」
僕の唇を奪っていった。
こちらが意味が分かってないことを、まるで好都合と見なしたように、構わず両腕で僕の頭を押さえつけ、そのまま彼女の舌が僕の口の中に入り込んで蹂躙してくる。
僕は一連の流れるような動作の前に抵抗も出来ず、なすがままだった。
やがて、満足したのか顔をゆっくりと離していく。僕と彼女の唾液が橋を作って、下へと垂れた。
「・・・・い、いったい何を!?」
僕は抗議の声を上げるが、
「んふふ。フェイ君のキス、美味しかったよ」
彼女は僕の動揺なんて関係ないと言わんばかりに、ぺろりと、自分の下唇を舐めた。
「そ・れ・よ・り・も」
と、そこで彼女は下へと視線を向けて、
「フェイ君のおちんちん、勃っちゃったね」
かああ、と顔が熱くなる。先ほどのキスで快楽を感じていたことが気づかれてしまっていた。恥ずかしすぎて、思わず気絶しそうになる。
「邪魔だから全部脱がすよ」
「え、あ――」
有無を言わさずに僕の下履きを剥ぎとっていく。手で押さえるといった抵抗も間に合わず、僕のモノは外に露出されてしまった。
「ふふ、これがフェイ君のおちんちんなんだ。ちょっと皮が被ってるね」
つんつんと、細い指先で亀頭の先をつつかれる。
「や、やめてください」
「なんで? フェイ君のおちんちんはやめて欲しくなさそうだけどなー。こんなに先っぽがひくひくしてエッチな汁がだらだら溢れてるんだから」
尿道口に指を軽く当てて、溢れ出た汁が拭き取られる。
「このままだとこの子が可哀想だから、皮もお口で優しく剥いて、全部食べてあげるね」
そう言って彼女は僕のモノを口で咥えた。ぬるりとした粘膜の感触、自分で慰めるのとはまったく違うそれに、身体が震えてしまう。我慢も利かずにあまりにも早く達しそうになったとき、彼女はピタリと動くのをやめ、咥えていた口を離し、根本を強く握った。
「だめだよ、出しちゃだめ。ちゃんとお願いしないと出させてあげないから」
「そ、そんなぁ」
意地の悪そうな笑みを浮かべ、ゆるゆると擦ってくる。僕のモノを扱く速度は絶頂には至れないほどのゆっくりとしたものになっていて、頭の中が沸騰しそうになる。
「お、お願い、い、いかせてください」
あまりの辛さに、呆気なく僕は屈していた。自分でも驚くほどに自制が利かず、熱に浮かされた僕のおねだりが部屋に響く。ただそれに対して彼女は、
「ふふ、だーめ」
とても嬉しそうに拒否の言葉を発した。
「な、なんでっ! ちゃんとお願いしたのに!」
思わず言わずにはいれなかった、僕の惨めな抗議の声。
「お願いの仕方がなってなーい。そうだねー、『僕のえっちでだらしない皮かむりおちんちんから、白い精液をいっぱい出させてください』くらい言わないとだーめ」
「そ、そんな・・・・」
「ほら、早く」
そう急かされて、頭もすでに茹だってしまっていた僕は、提案に従うことしか考えられなかった。
「ぼ、僕の、えっちでだらしない、か、皮かむりおちんちんから、白い精液を、いっぱい出させてください・・・・」
恥ずかしくて、最後の方は尻すぼみになってしまう。それでも彼女は満足そうに頷いて、
「うん、ちゃんとお願い出来たから、ご褒美ね。我慢しないで、いっぱい出していいよ」
僕のモノをもう一度口に咥えた。縦横無尽に彼女の咥内で舌が掛け巡り、彼女の動きに翻弄されることしかできない僕は、ベッドのシーツを掴みながら快感に喘いだ。やがて目の前がチカチカと点滅をしているような錯覚を覚え、
「あ・・・・、あぁぁぁぁ・・・・!」
びゅるるー、びゅー。
下半身の力が全てなくなるほどの、尋常じゃない快楽が頭の中を襲った。精液も人生でこれほど出したことはないだろうというばかりに出ていると思う。
そんな量の精液を彼女は喉を鳴らして、出た先から勢いよく飲み込んでいく。やがて僕の射精が止まり、一滴残らずこぼすことはなく飲み込んだ後、名残惜しそうに先に吸いつき残滓までも搾り取ってしまった。僕は情けなく声を上げたけれど、それさえも彼女の情欲をかき立てる要因となったようだった。
「どう、気持ちよかった?」
「は、はい」
「そう、よかった。この子にはもっともっと頑張ってもらわなくちゃいけないからね」
亀頭を撫でつつ、舌で一舐めされる。射精直後ということもあって、元気をなくしていた陰茎だったが、彼女の行動一つで条件反射のように立ち上がってしまう。
「うーん、これで大丈夫かな? それじゃあ、フェイ君。おかしくしてあげるからね、私以外見向きもしないくらい徹底的に・・・・」
人の姿と蜘蛛の姿の境目、下腹部の辺りが、ゆっくりと開いていく。出てきたピンク色をした淫靡な穴が誘うように、くちゅくちゅという音が聞こえるほどに、艶めかしく蠢いていた。
僕が生唾を飲み込んだのは、恐怖によるものだったか、快楽への期待だったか、あるいは両方か。
「それじゃ、入れるよ」
僕のモノが彼女の中にゆっくりと差し込まれていく。入れ始めた段階で亀頭を包む甘い快感に、僕は短く声を上げていた。
「あ、うぅぅ・・・・」
「大丈夫? ふふ、まだ半分も入ってないよ」
まだ半分!? こっちはもうおかしくなりそうなのに!
彼女の中は、まるで先ほどの口淫が児戯であったかのように気持ちよかった。入ったそばから余すことなく僕のモノが愛撫され、極上の快楽を味合わせてくる。その甘美な快楽に、僕は身を震わせることしかできなかった。
「はい、これで全部――あっ!」
どく、どぴゅ、どぴゅー
全部入ると同時に、ねっとりと絡む肉壷の感触に射精感を誤魔化しきれず、僕は精液を勢いよく出してしまった。
「・・・・ねえ、みんなこんなに早いものなの? それともフェイ君が早いだけかな?」
そう言われて情けなさに涙が溢れそうになる。そんな僕に目の前の彼女はくすくす、と笑いながら囁いて、
「大丈夫だよ。他の子なら早いのは嫌がるかもしれないけど、私は全然気にしないから。だけど、ね――」
まだ先ほどの射精が続いているというのに、彼女は腰を再度動かし始めてきた。
「まだまだ、終わらせてあげない」
「だ、だめぇ・・・・、うあ、ああああー」
精液を全て搾り取ろうとするかのような、肉壷の激しい脈動に、僕はまた呆気なく連続で絶頂を迎えさせられようとしていた。
「あはは! こんなにびくびく喜んでいるんだから、もっと続けて欲しいんだよね?」
「ま、また、で、出ちゃうから。・・・・お願い、や、やめて」
「いいんだよ、何回でも出して良いから。私の中に、いくらでもね」
そう甘く囁いたあと、さらに激しさを増した彼女の動きに、僕は我慢することが出来ずに射精してしまう。
彼女は僕の射精を膣の奥で受け止めながら、
「これからはずっと一緒だから。死ぬまで、・・・・ううん、死んでからもずっとね」
いつもと変わらぬ優しそうな顔で、僕に微笑んだ。
そこで僕はやっと、目の前の彼女が本当にミーネさんだったということを理解したのだった。
了
探索者ギルドに勤める職員が、素っ頓狂な声をあげた。同じくギルド職員である会話相手は、異動を通達する旨が書かれた紙をヒラヒラさせながら呆れたような声で返す。
「らしいわよ。しかも一階層」
「どんだけパワーバランス崩す気なのッ!? だいたいそんなのを認めちゃったら大変なことに・・・・」
「なるわねえ。でもミーネさん、このダンジョンで古参も古参でしょう? 先代の頃から幹部な上に、現御屋形様の教育係だったし、誰も逆らえないのよ・・・・」
「大人の事情ッ!?」
「長いモノには巻かれろってね、『世界蛇のダンジョン』だけに」
「誰が上手いこと言えと」
「ま、『仔兎』狩ったらさっさと引退するってさ。・・・・年増が恋愛拗らせると怖いわよねえ」
「聞かれたら殺されるわよ、私も同感だけど。・・・・あーあ、『仔兎』ちゃん可愛かったなあ。私、ちょっぴり狙ってたのにー」
「私もだよー」「ボクも・・・・」「私もですわ!」「あの半ズボンが」「エロい」
「どっから湧いたお前ら」
「まっ、それはいいとして。アンタ今日、宝箱設置担当じゃなかったっけ。のんびりしてて大丈夫なの?」
「あー、忘れてたッ! 行ってきます!」
探索者ギルドの朝は、そうして慌ただしく過ぎていった。
朝。僕は『衣服装飾店』の看板を前に苦悩していた。
というのも、原因は昨日のことで、ミーネさんにどんな顔して会えばいいのかわからなかった。
まあ深く考えないでいつも通りに行けばいいんだろうけど、昨日は突然僕が出ていったわけで、気を悪くしているかも、と思うと。
うんうん唸りつつ、店からちょっと離れた道を往復する。行こう行こうと思っても、なかなか踏ん切りがつかなかった。
・・・・荷物の確認でもして、少し気を紛らわせよっかな。
腰に掛けている鞄を広げて、中のアイテムを手早くチェックしていく。
僕はスカウト系のジョブについているため、アイテムの充実は欠かせない。戦闘時には敵の攪乱や味方のサポートを中心に、探索時には奇襲や罠の警戒、罠解除など、スカウト系にとってやらなくてはいけない事は多く、特に戦闘面においてアイテムの重要性は非常に高いと言われている。
「ギルドカードよし、ポーションよし、各属性スクロールよし・・・・」
といっても、低階層で魔法の込められたスクロールなどの高価なアイテムを使ってしまえば赤字確定である。そういった意味では僕にまだ必要はない物も多いが、備えがあるに越したことはない。死んでしまっては元も子もないのだから。
荷物を確認、整理していくと、不思議と心が落ち着きを取り戻してくる。
――うん、行こう。
ここでいつまでもグズグズしていることはできない。時は金なり、貧乏暇なしなのだ。
いつも通りを意識しつつ、店内に入る。
「いらっしゃい、フェイ君。待ってたよ」
「お、おはようございます。ミーネさん」
ミーネさんは、いつもと変わらぬ優しい笑みで迎えてくれた。当たり前だが昨日のことを気にしてる様子はなく、むしろ機嫌が良さそう。・・・・さっきまでうじうじ悩んでた僕が馬鹿みたいだ。
「フェイ君。これ外套」
外套を広げて見せてくれる。外套は昨日破けたのが嘘のように、まるで新品なんじゃないかと見紛うくらいに完璧に直っていた。
「ありがとうございます」
手を伸ばして受け取ろうとして、すかされる。
「私が付けてあげるね。背中向けてくれる?」
「え、でも・・・・」
「いいからいいから」
そう言ってミーネさんはニコニコと笑いながら、戸惑う僕に外套を付けてくれる。
何か良いことでもあったのだろうか?
「これからダンジョン?」
「はい、その予定です」
「そっか、頑張ってね。応援してるから」
「は、はい。行ってきます」
誰にでも言っているだろう言葉でも、さっきまで憂鬱だったのに嬉しくなるんだから現金なものだ。
先ほど外套を着させてもらったことも手伝って、照れて真っ赤になってるであろう顔が気恥ずかしく、少しでも見られないように足早に店内を出る。
「また後でね・・・・」
何か呟くように言った彼女の言葉は、僕の耳には届かなかった。
ミーネさんと僕は、普通に生きていれば接点すらなかったと思う。そもそものきっかけは、僕が間違えてあの店の扉を開いてしまったことだ。
『衣服装飾店』はイシュルに数多く店舗が存在して、店舗毎に扱う物のグレードが変わってくる(これは武器屋や道具屋でも同じだ)。中でもミーネさんが担当する店舗は最高級品のみを取り扱ったところで、最低ランクの品でも金貨五枚は当たり前。万を越えると言われるほどの探索者が暮らすイシュルにおいて、利用できるのもほんの一握りだけだった。
当時の僕はそれを知らず、初めて見つけた宝箱の中に入ってたレアアイテムの換金額である銀貨五枚を握りしめ、ホクホク顔で入っていったんだから笑いものだ。
店のどの品を見ても到底買える額じゃなくて、すぐに目が点になってしまったのを覚えてる。そんな時ミーネさんに突然話しかけられたのに驚いて、手の中の銀貨を落としてしまい、顔から火が出るほど恥ずかしかった。
落ちた銀貨をミーネさんと一緒に拾って、謝って店を出ようとしたけれど引き留められて、必ず修繕はこの場所に来ることを条件に、外套を銀貨5枚で作ってもらった。
それ以来、外套は僕の背中を守ってくれてる。
この外套に相応しくなれるように、あの人に少しでも近づけるようになりたい。
今日は久しぶりにそんな気持ちを再確認し、意気揚々とダンジョンに入った、・・・・までは良かったのだが。
「なんでだろ・・・・」
今日の一階層は、なんだか様子が違った。
何が違うのかと聞かれても上手く言葉に表せないけど、何か良くないことが起こりそうな気がするのだ。
いつもの僕なら、すぐに探索をやめていたと思う。
ただ今日はミーネさんから応援をされていたということもあり、当たっているかどうかもわからない直感だけでは取りやめる理由に足らなかった。
弱気な自分の直感を捩じ伏せて、探索を続けた。
「ふぅ・・・・」
そうして探索から数時間が経ち、今はちょうど入り口から奥の中間といったあたりにいる。
今までの道中を振り返ってみても、特にこれといった問題はないばかりか、魔物とすら一回も遭遇していない。これで宝箱でも見つかれば、普段と比べて格段に運が良い日だと言える。
・・・・言えるのだが、なかなか平常心は保てず、頭の中の警鐘は鳴りやまない。
「・・・・今日はもう無理だな」
不安に押しつぶされそうになるのを耐えかねて、探索をやめることにした。幸い一階層でも、迷宮という言葉に相応しく帰るルートはいくらか存在する。帰り道に、宝箱があることを祈ろう。
そうしてしばらく歩くと、帰りのルート分岐点に差し掛かる。左の道は行きの道中を除き最短でダンジョンから出ることができ、右の道はより深く進むことになる。右からも帰るルートは存在するけど、結構な遠回りをすることになってしまう。いつもならば探索を続けるために右に行くが、僕は迷うことなく左の道へ進もうと一歩を踏みだした。
「――ッ!?」
不意にぞわりとした悪寒が頭の中をかけめぐり、咄嗟に半身を後退させる。
白い糸が目の前から突然飛び出して、数瞬前まで自分の体があった部分を通過していった。
「あれ、避けちゃったの?」
どこからともなく、くすくす、と笑い声が聞こえる。妙に聞き覚えのあるそれは、僕の恐怖心を煽り、全身に緊張を走らせた。
ダンジョンに入ってから感じていた違和感の正体は、間違いなくこの声の主だと直感が叫んだ。僕は踵を返し急いで駆け出そうとして、思い直す。
糸が飛び出してきた方向は、僕が帰りに使おうと思っていた左の道であり最短ルートだった。ならば行きのルートを戻って帰るのが正しいか・・・・?
さっきまでの僕の警鐘が間違っていないなら、行きのルートこそ危険ではないだろうか。それらしい笑い声は左の道から聞こえたものの、モンスターが複数じゃないとはいえないし罠の可能性も高い。
迷った末、僕は。
「・・・・ッ!」
右の道、すなわちダンジョンの奥へと進んだ。
ダンジョンは蜘蛛の巣のように入り組んでいて、初見なら地図があっても迷うことがあると言われるほどだ。
ただ僕はこの都市にきてからの約一年間、ダンジョンの一階層に潜り続けていたので、もう地図も地形も頭の中に完璧に入っている。天変地異でも起きない限りは、迷うことはないだろう。出入り口へのルートを無作為に選びつつ、急いで駆ける。
ところどころ道を遮るように張り付いている、細い糸の隙間を縫うように避けていく。
ダンジョンで糸と言えば、脳裏に浮かぶのはアラクネというモンスター。
自分の縄張りに細く頑丈な糸を張り巡らせ、獲物が掛かるのを待つ狡猾で凶暴な魔物だという話だ。
・・・・そんな魔物が一階層に出るなんて聞いたこともないけれど。
僕の予想が当たり、この糸がアラクネの糸だとした場合、斬ろうとするのは下策だ。強靱性と粘着性に優れたアラクネの糸は、振り下ろされた武器でさえ絡めとると言われている。僕の非力な腕力では、間違いなく丸腰になってしまうだろう。
といっても、インプやゴブリンの集団に比べれば、張られた糸自体は動かないだけやりやすい。たまに後ろから飛んでくる糸は、ジグザグと規則性なく走り続けて照準を合わせさせない。そうした苦労のかいもあって今のところは、なんとか対応出来ている。
あれから随分と走って、もう出口まで間もない。このままいけば出れると、なかば確信しながら、張ってあった糸を屈んで避けた、が、
「えっ・・・・!?」
まるで外套が引き寄せられたかのように、避けたはずの糸にくっついた。
勢いづいた体は外套によって止められ、バランスを崩し転倒してしまう。なんとか足下の糸に触れないように気をつけたが、受け身を取る際に左手を少し打ってしまった。
すぐさま上体を起こし、ちらりと背中に視線を向ける。さっきは完璧に避けれたと思っていたのだが、僕の自信を嘲笑うかのように、外套に糸がひっついていた。
こうなっては、すぐに外套を脱ぎ捨てて逃げなければいけない。左手の痛みに顔をしかめつつ外套に手をかけて、
ふと、ミーネさんが残念そうにしている顔が頭に浮かんだ。
この外套がなくなったら、ミーネさんはショックを受けるかもしれない・・・・。それに僕にとっても、苦楽を共にしてきた大事なものだし。
一度考え始めてしまうと、外套を捨てるのにためらいが生じてしまった。
・・・・そういえば、糸は火に弱かったはずだ。
すぐさま腰の鞄から炎属性魔法が込められた非常用のスクロールを取り出して使う。が――
「な、なんでだよっ!」
糸は焦げ目がつく程度で、まったく焼け切れる気配はなかった。
「ごめんね・・・・。私の糸って炎耐性持ちだから、上級炎魔法ならともかく安物スクロールじゃあ、ねえ?」
背後から聞こえた声に、胸がドクンと強く脈打つ。頭の中が死の恐怖に埋め尽くされる。もはや四の五の言ってられる状況じゃない。
急いで外套を脱ぎ、その場から飛び出せ――なかった。
なぜか外套までもが服に引っ付き、力の限り引っ張っても取れない。ナイフを取り出して服を破ろうとするも、焦りで手が滑り、地面に落としてしまう。
落としたナイフをすぐに拾おうとしても、糸が絡めとるようにどこかへ持っていった。予備のナイフを腰の鞄から取り出そうとしたが、すでに鞄はそこにはなく、腰に掛けていた鞄の紐だけがプラプラとその存在を主張していた。
「動けなくしてしまえば、狙うのは簡単ね」
僕の様子を楽しむかのように、背後の気配はゆっくりと近づいてきて、
「あ・・・・、っ・・・・あぁああ!」
自衛手段すら失った僕は、恐怖に慄き無様な叫びを上げることしかできない。
後ろから手が伸ばされ、僕は抱きすくめられる。
「はい、捕まえた」
耳元で囁くような声を最後に、僕は意識を手放した。
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・
「ふふふ、寝顔可愛いなあ。これでやっと、私のモノに・・・・」
僕は誰かに語り掛けられながら頬をくすぐられていた。くすぐったさに身を捩りながら、ゆっくりと目を開けると、誰かが僕の顔を覗き込んでいる。
「あ、フェイ君、起きた?」
「う、あ。はい」
よくわからないが、とりあえず返事をする。そうして寝起きしたばかりの頭が徐々にはっきりしてくると、それは僕の想い人であるミーネさんだと気づいた。
――寝ていたのか、でもなんで宿にミーネさんが。というか僕はダンジョンに潜っていて、モンスターに捕まってしまったはずじゃ。・・・・あれは全部夢だったのか?
ちらりと視線を横にずらすと、まるで覚えのないベッドや天蓋、レースのカーテンが目に入る。
どうみても、見慣れている安宿の狭い部屋じゃない。
「ここは、・・・・ッ?!」
僕に覆い被さっているミーネさんの下半身が、巨大な蜘蛛の姿を成していた。異形としかいえない姿を前にして、声が竦んでしまう。
「な、なんで、どうして?」
まさか、魔物がミーネさんに化けたのか? でもなんのために? 幻覚、もしくは悪夢でも見ているのか?
「すごいね、フェイ君。逃げられるかと思っちゃった。まさか、これを使わせられるとは思わなかったよ」
そう言って、僕の身体の下に敷かれていた外套を撫で、
「この外套にはね、私の魔力がたっぷり詰まってるから、ある程度は操れるの」
「ど、どういうことなんですか」
「どういうことって・・・・。逃げられそうになったから、奥の手を使わざるをえなかったって話だけど。褒めてるんだよ?」
「僕が聞きたいのはそういうことじゃなくて!」
ああ、思考がよく働かない。状況がまったく理解できない。
「・・・・フェイ君が悪いんだよ? さっさと私の階層まで来ないから」
僕の頬を細い指で撫でながら、目の前の彼女が言う。
「でもしょうがないよね、一年くらいならまだしも、さすがに十年は無理。待てない待てない」
言っていることも、よくわからない。ただ彼女は、僕を見つめ続けている。
「もう捕まえたから、逃げられないからね?」
そうして彼女は、にんまりと笑って、徐々に僕へと顔を近づけ、
「ん、んんんんんーッ!!!」
僕の唇を奪っていった。
こちらが意味が分かってないことを、まるで好都合と見なしたように、構わず両腕で僕の頭を押さえつけ、そのまま彼女の舌が僕の口の中に入り込んで蹂躙してくる。
僕は一連の流れるような動作の前に抵抗も出来ず、なすがままだった。
やがて、満足したのか顔をゆっくりと離していく。僕と彼女の唾液が橋を作って、下へと垂れた。
「・・・・い、いったい何を!?」
僕は抗議の声を上げるが、
「んふふ。フェイ君のキス、美味しかったよ」
彼女は僕の動揺なんて関係ないと言わんばかりに、ぺろりと、自分の下唇を舐めた。
「そ・れ・よ・り・も」
と、そこで彼女は下へと視線を向けて、
「フェイ君のおちんちん、勃っちゃったね」
かああ、と顔が熱くなる。先ほどのキスで快楽を感じていたことが気づかれてしまっていた。恥ずかしすぎて、思わず気絶しそうになる。
「邪魔だから全部脱がすよ」
「え、あ――」
有無を言わさずに僕の下履きを剥ぎとっていく。手で押さえるといった抵抗も間に合わず、僕のモノは外に露出されてしまった。
「ふふ、これがフェイ君のおちんちんなんだ。ちょっと皮が被ってるね」
つんつんと、細い指先で亀頭の先をつつかれる。
「や、やめてください」
「なんで? フェイ君のおちんちんはやめて欲しくなさそうだけどなー。こんなに先っぽがひくひくしてエッチな汁がだらだら溢れてるんだから」
尿道口に指を軽く当てて、溢れ出た汁が拭き取られる。
「このままだとこの子が可哀想だから、皮もお口で優しく剥いて、全部食べてあげるね」
そう言って彼女は僕のモノを口で咥えた。ぬるりとした粘膜の感触、自分で慰めるのとはまったく違うそれに、身体が震えてしまう。我慢も利かずにあまりにも早く達しそうになったとき、彼女はピタリと動くのをやめ、咥えていた口を離し、根本を強く握った。
「だめだよ、出しちゃだめ。ちゃんとお願いしないと出させてあげないから」
「そ、そんなぁ」
意地の悪そうな笑みを浮かべ、ゆるゆると擦ってくる。僕のモノを扱く速度は絶頂には至れないほどのゆっくりとしたものになっていて、頭の中が沸騰しそうになる。
「お、お願い、い、いかせてください」
あまりの辛さに、呆気なく僕は屈していた。自分でも驚くほどに自制が利かず、熱に浮かされた僕のおねだりが部屋に響く。ただそれに対して彼女は、
「ふふ、だーめ」
とても嬉しそうに拒否の言葉を発した。
「な、なんでっ! ちゃんとお願いしたのに!」
思わず言わずにはいれなかった、僕の惨めな抗議の声。
「お願いの仕方がなってなーい。そうだねー、『僕のえっちでだらしない皮かむりおちんちんから、白い精液をいっぱい出させてください』くらい言わないとだーめ」
「そ、そんな・・・・」
「ほら、早く」
そう急かされて、頭もすでに茹だってしまっていた僕は、提案に従うことしか考えられなかった。
「ぼ、僕の、えっちでだらしない、か、皮かむりおちんちんから、白い精液を、いっぱい出させてください・・・・」
恥ずかしくて、最後の方は尻すぼみになってしまう。それでも彼女は満足そうに頷いて、
「うん、ちゃんとお願い出来たから、ご褒美ね。我慢しないで、いっぱい出していいよ」
僕のモノをもう一度口に咥えた。縦横無尽に彼女の咥内で舌が掛け巡り、彼女の動きに翻弄されることしかできない僕は、ベッドのシーツを掴みながら快感に喘いだ。やがて目の前がチカチカと点滅をしているような錯覚を覚え、
「あ・・・・、あぁぁぁぁ・・・・!」
びゅるるー、びゅー。
下半身の力が全てなくなるほどの、尋常じゃない快楽が頭の中を襲った。精液も人生でこれほど出したことはないだろうというばかりに出ていると思う。
そんな量の精液を彼女は喉を鳴らして、出た先から勢いよく飲み込んでいく。やがて僕の射精が止まり、一滴残らずこぼすことはなく飲み込んだ後、名残惜しそうに先に吸いつき残滓までも搾り取ってしまった。僕は情けなく声を上げたけれど、それさえも彼女の情欲をかき立てる要因となったようだった。
「どう、気持ちよかった?」
「は、はい」
「そう、よかった。この子にはもっともっと頑張ってもらわなくちゃいけないからね」
亀頭を撫でつつ、舌で一舐めされる。射精直後ということもあって、元気をなくしていた陰茎だったが、彼女の行動一つで条件反射のように立ち上がってしまう。
「うーん、これで大丈夫かな? それじゃあ、フェイ君。おかしくしてあげるからね、私以外見向きもしないくらい徹底的に・・・・」
人の姿と蜘蛛の姿の境目、下腹部の辺りが、ゆっくりと開いていく。出てきたピンク色をした淫靡な穴が誘うように、くちゅくちゅという音が聞こえるほどに、艶めかしく蠢いていた。
僕が生唾を飲み込んだのは、恐怖によるものだったか、快楽への期待だったか、あるいは両方か。
「それじゃ、入れるよ」
僕のモノが彼女の中にゆっくりと差し込まれていく。入れ始めた段階で亀頭を包む甘い快感に、僕は短く声を上げていた。
「あ、うぅぅ・・・・」
「大丈夫? ふふ、まだ半分も入ってないよ」
まだ半分!? こっちはもうおかしくなりそうなのに!
彼女の中は、まるで先ほどの口淫が児戯であったかのように気持ちよかった。入ったそばから余すことなく僕のモノが愛撫され、極上の快楽を味合わせてくる。その甘美な快楽に、僕は身を震わせることしかできなかった。
「はい、これで全部――あっ!」
どく、どぴゅ、どぴゅー
全部入ると同時に、ねっとりと絡む肉壷の感触に射精感を誤魔化しきれず、僕は精液を勢いよく出してしまった。
「・・・・ねえ、みんなこんなに早いものなの? それともフェイ君が早いだけかな?」
そう言われて情けなさに涙が溢れそうになる。そんな僕に目の前の彼女はくすくす、と笑いながら囁いて、
「大丈夫だよ。他の子なら早いのは嫌がるかもしれないけど、私は全然気にしないから。だけど、ね――」
まだ先ほどの射精が続いているというのに、彼女は腰を再度動かし始めてきた。
「まだまだ、終わらせてあげない」
「だ、だめぇ・・・・、うあ、ああああー」
精液を全て搾り取ろうとするかのような、肉壷の激しい脈動に、僕はまた呆気なく連続で絶頂を迎えさせられようとしていた。
「あはは! こんなにびくびく喜んでいるんだから、もっと続けて欲しいんだよね?」
「ま、また、で、出ちゃうから。・・・・お願い、や、やめて」
「いいんだよ、何回でも出して良いから。私の中に、いくらでもね」
そう甘く囁いたあと、さらに激しさを増した彼女の動きに、僕は我慢することが出来ずに射精してしまう。
彼女は僕の射精を膣の奥で受け止めながら、
「これからはずっと一緒だから。死ぬまで、・・・・ううん、死んでからもずっとね」
いつもと変わらぬ優しそうな顔で、僕に微笑んだ。
そこで僕はやっと、目の前の彼女が本当にミーネさんだったということを理解したのだった。
了
19/03/24 06:35更新 / 涼織
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