少年と優しい雪女
俺の名前はスズエ。
ジパング生まれの十代後半。
勉強は中の上、運動はまったく。
彼女歴=年齢が成立している、普通の男子だ。
「ウホッ、いい男」という体験もなく、
「べ、べつにあんたなんかのためじゃないからね!」
という幼馴染もいない。
ましてや幽霊なんかも見えず、普通の生活を続けていた。
その生活が終わったのは、昨日のことだ。
自慢じゃ無いが、自分の父はジパングでも剣の腕前は十の中に入る剣豪である。
そんな父に、「お前は弱い。」
と突然言われた。
子供のころから父は俺に運動をしろと言われ、運動をしてきた。
しかし、どの運動も自分はまったくできず、そのたびに父には怒られた。
「俺は勉強ができればいいんだよ!」と言えば、
「お前は俺のような強い剣豪になればいい!」と返されるのがオチだった。
ちなみに母は俺が生まれてから数日で亡くなったらしい。
なので、そのような言い争いを止めるものもいなく、それはいつものことのように起きていた。
だが、いきなり「お前は弱い。」なんて言われたのは初めてだ。
いつもなら運動しろ!とか、動け!なんて言われるはずだが、今回は違った。
「お前は弱い。」
「?いったいそれがどうしたんだよ。稽古か?俺は嫌だからな。」
「いいや、それ以上のことをしてもらう。山に登れ。」
…は?今なんて言った?
俺がなんて言っているんだ、という顔している間にも父は話を続ける。
「今は冬だ。だから雪山だな。雪山には魔物もいるが…」
そんなことはどうでもいいだろう、と言う顔で続ける父。
「まあお前には強くなってもらわんと困る。俺のような剣豪になるのだから。」
「いやいや、待て待て。まだ死にたくねえよ。」
え、いや何これ、死ぬの?俺。
「なに、死にはしない。まあ今から行け。何も持たず。」
そう父は言い、俺の体を摘み挙げた。
おお、さすが剣豪。片手で持ち上げんのか。
「…て、そうじゃねえ!いや、まって、お父さん?俺まだ死にたくないですよ?いや、mgd。こんな寒かったら軽く死ねるから?」
「大丈夫だ。とりあえず山頂に分かりやすく何か印をつけて来い。明日見に行ってやるから。」
あーすげえな^^一日でこの山登るのか^^さすが十に入る剣豪^^
だがこの人のことだ。mgd登るだろう。で、印がなかったら…
軽くそこら辺の低い山を十は積み上げてもまだ届かないぐらいの山を一日だ。
無理^^
「行って来い^^」
そういって投げ出される俺だった…
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
で、今に至る。
雪山で軽く十分ほど。さっきまでの暖かい部屋ではなく、たぶん体感温度マイナス10℃以下なんじゃね?と思えてくるほどだ。
何だろう、ヤヴァィ…
「はは^^眠いくなってたたし体だるいゐ^^」
吹雪の中歩く俺はもう…無理です^^
ドサッ、と俺の体が倒れる。
ああ、こんなにも寒く、眠いのなんてたぶん一生のうちに一回しかないだろうな…なんて思っているが、それももう終わりか…
なんで目の前が真っ白なのか。
(雪の中で倒れているから…)
なんで体がこんなに冷たいのか。
(もう俺の体に限界が来てるから…)
なんでこんな雪山で倒れているんだ…?
(あの親父に投げ飛ばされたから…)
もう怒る気力もない。
ああ、俺の人生って…こんな終わり方か…
「あら…人…ですね。生きているのでしょうか…?」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
体が温かい…
何かに寝かされている…?
ここは…どこだ?
目を開ける…そこは…家?
「おや、起きましたか。」
どこからか女の人の声。
「だ、誰ですか?」
顔を横に向けると、そこにはえらく美しい女性がいた。
まるで人じゃないような、そんな美しさ。
年はおそらく俺よりも上、といっても二十歳にいっているかどうかぐらいだ。
彼女はいったい誰なんだろう…?
「おや、申し遅れました。私は雪女のカエデ、というものです。」
…え?
頭の中ポンポンポン…ピーン!という音とともにその意味を知った。
「雪女…ですか…」
「はい。」にっこり
その笑顔はとても美しく…同時に…
(あ、やべぇ…)
魔物特有の妖しさがあった。
「…おや、驚かないのですか?」と雪女さん。
「いえ、めっちゃ驚いてます。」と俺。
「そうですか。」と雪女さん。
「そうですよ。」と俺。
「「…」」
「^^」「^^」
ど、どうしよう…
「まあ、何ですか。まずは食事をとってください。」
立ってください、という動作をしながらそう言った。
「え、あ、はい…」
今気づいたが、俺はベットの上にいた。
聞きたいことは多いが、確かに今は腹が減っている。
…そういえば夕飯食ってなかったなぁ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
とりあえず、聞くところによればまずここは雪山の中腹あたりで、カエデさんはここに住んでいるらしい。
「一人で大丈夫なんですか?」と聞けば、
「人も来ませんし、私は雪女ですよ?大丈夫に決まってます。」と返された。
カエデさんはずっとここに住んでいて、たまに山の様子を見に出かけるらしい。
で、そこに倒れていたのが偶然にも俺らしい。
「こんなこと初めてなのでびっくりしましたよ。」
と少し笑いながら言う。
「なんで見ず知らずの俺なんか助けてくれたんですか?」
これはとても気になっていたことだった。
「いえ、最初は人が倒れているなぁ、程度だったんですけどやっぱり気になって…それに人を始めて見ましたし、まだ息があったので。」
なんと優しい人(?)なんだろう。どっかの誰かさんも見習ってほしい。
「では、こちらからも質問をよろしいですか?」
「ええ、もちろん。」といってもまあ大体質問の内容は予想できるが。
「なんでこんな雪山に倒れていたんですか?」
ですよねー^^
「いえ、実は…」
簡単に事情を説明し、親父のこととかも話した。
…そういえば魔物がいるっていってたけどなんで知ってたんだ?
一度も人とは会ったことがないってカエデさんも言っていたのに…
そこのところを聞いてみると、何でもカエデさん以外にも多くの魔物がいるらしい。
…俺ぜんぜん知らなかったー^^
「…なるほど。大体わかりました。要するにスズエさんのお父様に山頂に印をつけて来いと言われ、雪山に登ったはいいけど、倒れてしまった、と。」
「はい…まったくもってそのとおりです。」よく考えたらこうなったのも全部親父のせいじゃねえか…
「…では、明日の朝になるまでここにいたらどうですか?」
…なん…だと…?
「え、いや悪いですよ…」
(いくらなんでも悪いだろう…だがしかし、魅力的なことだ。あーけどやっぱ悪い…)
「いえいえ、別にかまわないですよ。それに、先ほどもう既に食事を食べたではないですか。」
まるで勝ったかというような微笑を浮かべるカエデさん。
「あー…」
もう既に迷惑かけてしまってたのか…
「どう、でした?」
こちらの様子を伺うようにそう問いかけてくる。
「え、あ、おいしかったです。とても。」
これは本心だ。とてもおいしかった。
「ふふ、それはよかったです。」
といい、にっこりと笑うカエデさん。
「それに、私もタダ、というつもりはありませんもの。」
「…?何ですか?僕ができることなら何でもやりますよ。」
何でもかかって来い、というような姿勢で答える。
ここからだろうか、カエデさんの様子が変わったのは。
「その…実は…」
何かもじもじと、顔を赤く、恥ずかしい、といったような様子でそういった。
…なんだろう?何か言いにくい事なのかな…それにしてもこの姿はとても断れそうにない。
「何でも俺は手伝いますよ。いくらなんでも難しいことはできないと思いますが…」
まあ、命の恩人だから元から断る気はない。たとえ魔物だとしても。
あ、そういやカエデさんて雪女だっけ。
「…」
…ん?何か小声で言っている…?よく耳を傾けていると微かに聞こえた。
「…と…その…まじ…て…く…い。」
「今なんて?」
まったく聞こえない…
「私と…その…」
そういったあと、カエデさんは顔を下に向けてしまった。
ここから先は言えない、または言ってはいけない、というような様子で何か戸惑っている。
…なんだろうか。この気持ち。もともと女性経験が少ないということもあり、よくわからない気持ちだった。
だが、カエデさんの役に立ちたい、ということははっきりしていた。
「…よくわかりませんが、言いにくいということはよく分かりました。ですが、俺はカエデさんの役に立ちたい、カエデさんの役に立たなくてはいけないんだと今思っています。どうぞ、何でも言ってください。」
と言い切った後、俺は笑っていた。
どこか気恥ずかしさもあったが、そんなものはどうでもいい。
「それに、先ほど自分でタダではない、て言ったではないですか。もう既に俺はカエデさんに迷惑をかけてしまってますから、それでおあいこって言うのもなんですが、それでいいじゃないですか。」
そう言いながら、俺はカエデさんの手をとる。
そのとき、少しカエデさんの肩が震えたような気がした。
…ああ、やっぱカエデさんは雪女なんだな。手、冷たいや。
でも、そんなことはどうでもいい。いま、自分はカエデさんの役に立ちたいと思っているのだから。
…て、俺はどさくさに紛れてなに手繋いでんだよ!
すぐに離そうとするが、いつの間にかカエデさんの手に力が入っているような気がする。
「その、ではいくつか質問をよろしいですか?」
うつむいたまま、なぜか手に力を入れたまま、カエデさんがそう言う。
何だろう…ドキドキする…女性経験無いからかな?
「はい、もちろん。」
断るわけがない。
「…私は雪女です。」
なぜか少し悲しそうに、そうカエデさんが言った。
「ええ。」
それがよく分からず、俺はとりあえずそう言ってしまった。
「…あなたは、たとえ私が人外のものだとしても、私のお願いを聞いてくれるのですか?」
当たり前だ。
「当たり前じゃないですか、俺の命の恩人ですよ?たとえカエデさんがどんなお願いを言ったとしても俺は『はい、いいですよ。』といいますよ。」
これは俺の心からの言葉だ。そう、断言できる。
「私のお願い…それは…」
「私と…交わってください…///」
…おk…落ち着け…
「ソレッテ ヨウスルニ ダンジョノ ナカ トイウコト デスカ?」
カタコトォォォォォ!
「はい…!///」
顔を赤らめてそう恥らって言っているカエデさんはとても可愛らしい姿だった。
「え、いや、え?それm g d s k ?」
俺もずいぶんとあせってるなぁおい!
「本当です!」
とても大きな声でそう言った。先ほどまでの姿がまったくもって見えねえ…
「なんで俺なんですか!?いや、俺以上の男なんてそこらにいますよ!」
あ、そういやカエデさんも男との経験少ないんだっけ?いや、人と会ったこと自体ないんだったっけ?
「やっぱり、私じゃだめですよね?」
今にも泣きそうな顔でそう言ってくる。
イタイイタイ、なんか腕に相当な痛みが画が画がgg
…あれ、痛くもなくなってきたー^^
「あ、す、すみません!」
腕ってこんなに冷たくなるんだな…といえるくらいつめてぇ…
「あ、いえ大丈夫です…多分。」
まあ多分大丈夫だろう。それよりもだ。
「いえ、カエデさんは悪い人ではありません。(ん?人?まあいいや。)逆にカエデさんと会ったときから…その…何というかドキドキして…」
事実、今もドキドキしている。いろんな意味で。
「ですが、僕もカエデさんもまだ異性との関係というのはまったくないといってもいいんですから、それはいくらなんでも…」
「さっきの言葉は嘘だったんですか?」
「…」
…嘘ではない。しかし、やっぱり…
「私はあなたのことが好きです。最初、あなたのことを助けるとき、実はもっと悩んでいたんです。人間の男の人は怖い人だと思っていましたから。ですが、あなたは私にとても優しく接してくれた。始め、私が雪女だといってもあなたは私のことを恐れず、しかも普通に接してくれました。私にひとりで生活してて大丈夫なのか?といってくれましたし、先ほど私が迷っているときにとても優しくしてもらいましたし、そして、何よりあなたの笑顔が…とても…」
一生懸命に、それでいて恥ずかしいそうに、頑張って俺のことについて話してくれている。その姿は…とても可愛らしく…
ああ、さっきからのこの感情は…
「俺もです。」
「…?」
「カエデさんの涙ぐんでいる顔、さっき俺なんかに笑ってくれたとても優しい顔、最初に悪戯っぽく笑ってもらった顔。それらすべてが、俺にとって…」
なるほど、これが…
「すべて、愛しいです。」
恋、か。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
そこからのことはあまり深く言うこともあまり必要ないだろう。
まあ、その…なんだ。
『男女の仲』
というやつだ。
いや、まあ…ねえ?気恥ずかしいというかなんか。
まあ勢いというやつだ。
気がついたらベットの上で一日が過ぎていた。
確か俺がカエデさんと話していたのが六時半ごろだったから、それから…
六時間ほど?か…
いや、まあ何と言うか…
愛の確かめ合いというか何と言うか…。
それからいつの間にか気を失い、気づいたら朝でした^^
いやだって…俺そういう体験初めてなのに…何十回も…ヤられたし…
吹雪もなくなり、その後はカエデさんと一緒に朝食を食べ、山頂に向かった。
もちろん朝食もとてもおいしかった。
やっとこさ当初の目的を果たした。
…つうか一日も経たないで登れたのはなんでー^^
後から聞くと、何でもカエデさんしか知らない近道を通っていたそうだ。
通りで雪に埋もれた道とおるはずだよ…^^
ちなみに、その道を通らないで一日で山頂に行くにはまず不可能らしい。
…^^
分かりやすく、『スズエ』と書いといた。これでいいだろ。
「早いとこ戻らないともしかしたら親父と会っちまうかもしれない。早く降りよう!」
時既に時間切れ。
カエデさんの後ろに見慣れたおっさんがいました^^
「よう。」
カエデさんがとても驚いている…当たり前か。
「なんであんたがとてもタイミングよく現れんだっちゅうんだ…」
ありえない。『普通は』。
「まだ一日も経っていないだろ。」
「ああ、そうだな。で、この子は誰なんだ?」
…なんでこんなにことになっちまったんだ…
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
いまは『普通の』生活を送っている。
今までとは違う普通だが。
「旦那様ー、夕ご飯ができましたよー。」
あれから数ヶ月が過ぎた。
なぜか知らんが親父は一言、
「もう家に戻らんでよい。幸せにな…」
と言って去ってしまった。あのときの顔はとてもうれしそうだった…
後から聞いたが、なんでも俺が雪山でやったことはすべて筒抜けらしい。
なぜならこれはもともと計画されたことだから…だ。
なんでも、俺の家系は十代後半になったら魔物と結婚しなくてはいけないらしい。
だから親父は俺に雪山に突然行かせたらしい。
それ以外のことは聞いていないが、もはやどうでもよかった。
めんどくさいということもあり、今はそれ以上に大切なことがある。
「どうしたんですか、旦那様?」
…目の前の大切な人を…いや、大切な雪女を。
「いや、なんでもない、早く食べよう。」
守ること。
ジパング生まれの十代後半。
勉強は中の上、運動はまったく。
彼女歴=年齢が成立している、普通の男子だ。
「ウホッ、いい男」という体験もなく、
「べ、べつにあんたなんかのためじゃないからね!」
という幼馴染もいない。
ましてや幽霊なんかも見えず、普通の生活を続けていた。
その生活が終わったのは、昨日のことだ。
自慢じゃ無いが、自分の父はジパングでも剣の腕前は十の中に入る剣豪である。
そんな父に、「お前は弱い。」
と突然言われた。
子供のころから父は俺に運動をしろと言われ、運動をしてきた。
しかし、どの運動も自分はまったくできず、そのたびに父には怒られた。
「俺は勉強ができればいいんだよ!」と言えば、
「お前は俺のような強い剣豪になればいい!」と返されるのがオチだった。
ちなみに母は俺が生まれてから数日で亡くなったらしい。
なので、そのような言い争いを止めるものもいなく、それはいつものことのように起きていた。
だが、いきなり「お前は弱い。」なんて言われたのは初めてだ。
いつもなら運動しろ!とか、動け!なんて言われるはずだが、今回は違った。
「お前は弱い。」
「?いったいそれがどうしたんだよ。稽古か?俺は嫌だからな。」
「いいや、それ以上のことをしてもらう。山に登れ。」
…は?今なんて言った?
俺がなんて言っているんだ、という顔している間にも父は話を続ける。
「今は冬だ。だから雪山だな。雪山には魔物もいるが…」
そんなことはどうでもいいだろう、と言う顔で続ける父。
「まあお前には強くなってもらわんと困る。俺のような剣豪になるのだから。」
「いやいや、待て待て。まだ死にたくねえよ。」
え、いや何これ、死ぬの?俺。
「なに、死にはしない。まあ今から行け。何も持たず。」
そう父は言い、俺の体を摘み挙げた。
おお、さすが剣豪。片手で持ち上げんのか。
「…て、そうじゃねえ!いや、まって、お父さん?俺まだ死にたくないですよ?いや、mgd。こんな寒かったら軽く死ねるから?」
「大丈夫だ。とりあえず山頂に分かりやすく何か印をつけて来い。明日見に行ってやるから。」
あーすげえな^^一日でこの山登るのか^^さすが十に入る剣豪^^
だがこの人のことだ。mgd登るだろう。で、印がなかったら…
軽くそこら辺の低い山を十は積み上げてもまだ届かないぐらいの山を一日だ。
無理^^
「行って来い^^」
そういって投げ出される俺だった…
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
で、今に至る。
雪山で軽く十分ほど。さっきまでの暖かい部屋ではなく、たぶん体感温度マイナス10℃以下なんじゃね?と思えてくるほどだ。
何だろう、ヤヴァィ…
「はは^^眠いくなってたたし体だるいゐ^^」
吹雪の中歩く俺はもう…無理です^^
ドサッ、と俺の体が倒れる。
ああ、こんなにも寒く、眠いのなんてたぶん一生のうちに一回しかないだろうな…なんて思っているが、それももう終わりか…
なんで目の前が真っ白なのか。
(雪の中で倒れているから…)
なんで体がこんなに冷たいのか。
(もう俺の体に限界が来てるから…)
なんでこんな雪山で倒れているんだ…?
(あの親父に投げ飛ばされたから…)
もう怒る気力もない。
ああ、俺の人生って…こんな終わり方か…
「あら…人…ですね。生きているのでしょうか…?」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
体が温かい…
何かに寝かされている…?
ここは…どこだ?
目を開ける…そこは…家?
「おや、起きましたか。」
どこからか女の人の声。
「だ、誰ですか?」
顔を横に向けると、そこにはえらく美しい女性がいた。
まるで人じゃないような、そんな美しさ。
年はおそらく俺よりも上、といっても二十歳にいっているかどうかぐらいだ。
彼女はいったい誰なんだろう…?
「おや、申し遅れました。私は雪女のカエデ、というものです。」
…え?
頭の中ポンポンポン…ピーン!という音とともにその意味を知った。
「雪女…ですか…」
「はい。」にっこり
その笑顔はとても美しく…同時に…
(あ、やべぇ…)
魔物特有の妖しさがあった。
「…おや、驚かないのですか?」と雪女さん。
「いえ、めっちゃ驚いてます。」と俺。
「そうですか。」と雪女さん。
「そうですよ。」と俺。
「「…」」
「^^」「^^」
ど、どうしよう…
「まあ、何ですか。まずは食事をとってください。」
立ってください、という動作をしながらそう言った。
「え、あ、はい…」
今気づいたが、俺はベットの上にいた。
聞きたいことは多いが、確かに今は腹が減っている。
…そういえば夕飯食ってなかったなぁ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
とりあえず、聞くところによればまずここは雪山の中腹あたりで、カエデさんはここに住んでいるらしい。
「一人で大丈夫なんですか?」と聞けば、
「人も来ませんし、私は雪女ですよ?大丈夫に決まってます。」と返された。
カエデさんはずっとここに住んでいて、たまに山の様子を見に出かけるらしい。
で、そこに倒れていたのが偶然にも俺らしい。
「こんなこと初めてなのでびっくりしましたよ。」
と少し笑いながら言う。
「なんで見ず知らずの俺なんか助けてくれたんですか?」
これはとても気になっていたことだった。
「いえ、最初は人が倒れているなぁ、程度だったんですけどやっぱり気になって…それに人を始めて見ましたし、まだ息があったので。」
なんと優しい人(?)なんだろう。どっかの誰かさんも見習ってほしい。
「では、こちらからも質問をよろしいですか?」
「ええ、もちろん。」といってもまあ大体質問の内容は予想できるが。
「なんでこんな雪山に倒れていたんですか?」
ですよねー^^
「いえ、実は…」
簡単に事情を説明し、親父のこととかも話した。
…そういえば魔物がいるっていってたけどなんで知ってたんだ?
一度も人とは会ったことがないってカエデさんも言っていたのに…
そこのところを聞いてみると、何でもカエデさん以外にも多くの魔物がいるらしい。
…俺ぜんぜん知らなかったー^^
「…なるほど。大体わかりました。要するにスズエさんのお父様に山頂に印をつけて来いと言われ、雪山に登ったはいいけど、倒れてしまった、と。」
「はい…まったくもってそのとおりです。」よく考えたらこうなったのも全部親父のせいじゃねえか…
「…では、明日の朝になるまでここにいたらどうですか?」
…なん…だと…?
「え、いや悪いですよ…」
(いくらなんでも悪いだろう…だがしかし、魅力的なことだ。あーけどやっぱ悪い…)
「いえいえ、別にかまわないですよ。それに、先ほどもう既に食事を食べたではないですか。」
まるで勝ったかというような微笑を浮かべるカエデさん。
「あー…」
もう既に迷惑かけてしまってたのか…
「どう、でした?」
こちらの様子を伺うようにそう問いかけてくる。
「え、あ、おいしかったです。とても。」
これは本心だ。とてもおいしかった。
「ふふ、それはよかったです。」
といい、にっこりと笑うカエデさん。
「それに、私もタダ、というつもりはありませんもの。」
「…?何ですか?僕ができることなら何でもやりますよ。」
何でもかかって来い、というような姿勢で答える。
ここからだろうか、カエデさんの様子が変わったのは。
「その…実は…」
何かもじもじと、顔を赤く、恥ずかしい、といったような様子でそういった。
…なんだろう?何か言いにくい事なのかな…それにしてもこの姿はとても断れそうにない。
「何でも俺は手伝いますよ。いくらなんでも難しいことはできないと思いますが…」
まあ、命の恩人だから元から断る気はない。たとえ魔物だとしても。
あ、そういやカエデさんて雪女だっけ。
「…」
…ん?何か小声で言っている…?よく耳を傾けていると微かに聞こえた。
「…と…その…まじ…て…く…い。」
「今なんて?」
まったく聞こえない…
「私と…その…」
そういったあと、カエデさんは顔を下に向けてしまった。
ここから先は言えない、または言ってはいけない、というような様子で何か戸惑っている。
…なんだろうか。この気持ち。もともと女性経験が少ないということもあり、よくわからない気持ちだった。
だが、カエデさんの役に立ちたい、ということははっきりしていた。
「…よくわかりませんが、言いにくいということはよく分かりました。ですが、俺はカエデさんの役に立ちたい、カエデさんの役に立たなくてはいけないんだと今思っています。どうぞ、何でも言ってください。」
と言い切った後、俺は笑っていた。
どこか気恥ずかしさもあったが、そんなものはどうでもいい。
「それに、先ほど自分でタダではない、て言ったではないですか。もう既に俺はカエデさんに迷惑をかけてしまってますから、それでおあいこって言うのもなんですが、それでいいじゃないですか。」
そう言いながら、俺はカエデさんの手をとる。
そのとき、少しカエデさんの肩が震えたような気がした。
…ああ、やっぱカエデさんは雪女なんだな。手、冷たいや。
でも、そんなことはどうでもいい。いま、自分はカエデさんの役に立ちたいと思っているのだから。
…て、俺はどさくさに紛れてなに手繋いでんだよ!
すぐに離そうとするが、いつの間にかカエデさんの手に力が入っているような気がする。
「その、ではいくつか質問をよろしいですか?」
うつむいたまま、なぜか手に力を入れたまま、カエデさんがそう言う。
何だろう…ドキドキする…女性経験無いからかな?
「はい、もちろん。」
断るわけがない。
「…私は雪女です。」
なぜか少し悲しそうに、そうカエデさんが言った。
「ええ。」
それがよく分からず、俺はとりあえずそう言ってしまった。
「…あなたは、たとえ私が人外のものだとしても、私のお願いを聞いてくれるのですか?」
当たり前だ。
「当たり前じゃないですか、俺の命の恩人ですよ?たとえカエデさんがどんなお願いを言ったとしても俺は『はい、いいですよ。』といいますよ。」
これは俺の心からの言葉だ。そう、断言できる。
「私のお願い…それは…」
「私と…交わってください…///」
…おk…落ち着け…
「ソレッテ ヨウスルニ ダンジョノ ナカ トイウコト デスカ?」
カタコトォォォォォ!
「はい…!///」
顔を赤らめてそう恥らって言っているカエデさんはとても可愛らしい姿だった。
「え、いや、え?それm g d s k ?」
俺もずいぶんとあせってるなぁおい!
「本当です!」
とても大きな声でそう言った。先ほどまでの姿がまったくもって見えねえ…
「なんで俺なんですか!?いや、俺以上の男なんてそこらにいますよ!」
あ、そういやカエデさんも男との経験少ないんだっけ?いや、人と会ったこと自体ないんだったっけ?
「やっぱり、私じゃだめですよね?」
今にも泣きそうな顔でそう言ってくる。
イタイイタイ、なんか腕に相当な痛みが画が画がgg
…あれ、痛くもなくなってきたー^^
「あ、す、すみません!」
腕ってこんなに冷たくなるんだな…といえるくらいつめてぇ…
「あ、いえ大丈夫です…多分。」
まあ多分大丈夫だろう。それよりもだ。
「いえ、カエデさんは悪い人ではありません。(ん?人?まあいいや。)逆にカエデさんと会ったときから…その…何というかドキドキして…」
事実、今もドキドキしている。いろんな意味で。
「ですが、僕もカエデさんもまだ異性との関係というのはまったくないといってもいいんですから、それはいくらなんでも…」
「さっきの言葉は嘘だったんですか?」
「…」
…嘘ではない。しかし、やっぱり…
「私はあなたのことが好きです。最初、あなたのことを助けるとき、実はもっと悩んでいたんです。人間の男の人は怖い人だと思っていましたから。ですが、あなたは私にとても優しく接してくれた。始め、私が雪女だといってもあなたは私のことを恐れず、しかも普通に接してくれました。私にひとりで生活してて大丈夫なのか?といってくれましたし、先ほど私が迷っているときにとても優しくしてもらいましたし、そして、何よりあなたの笑顔が…とても…」
一生懸命に、それでいて恥ずかしいそうに、頑張って俺のことについて話してくれている。その姿は…とても可愛らしく…
ああ、さっきからのこの感情は…
「俺もです。」
「…?」
「カエデさんの涙ぐんでいる顔、さっき俺なんかに笑ってくれたとても優しい顔、最初に悪戯っぽく笑ってもらった顔。それらすべてが、俺にとって…」
なるほど、これが…
「すべて、愛しいです。」
恋、か。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
そこからのことはあまり深く言うこともあまり必要ないだろう。
まあ、その…なんだ。
『男女の仲』
というやつだ。
いや、まあ…ねえ?気恥ずかしいというかなんか。
まあ勢いというやつだ。
気がついたらベットの上で一日が過ぎていた。
確か俺がカエデさんと話していたのが六時半ごろだったから、それから…
六時間ほど?か…
いや、まあ何と言うか…
愛の確かめ合いというか何と言うか…。
それからいつの間にか気を失い、気づいたら朝でした^^
いやだって…俺そういう体験初めてなのに…何十回も…ヤられたし…
吹雪もなくなり、その後はカエデさんと一緒に朝食を食べ、山頂に向かった。
もちろん朝食もとてもおいしかった。
やっとこさ当初の目的を果たした。
…つうか一日も経たないで登れたのはなんでー^^
後から聞くと、何でもカエデさんしか知らない近道を通っていたそうだ。
通りで雪に埋もれた道とおるはずだよ…^^
ちなみに、その道を通らないで一日で山頂に行くにはまず不可能らしい。
…^^
分かりやすく、『スズエ』と書いといた。これでいいだろ。
「早いとこ戻らないともしかしたら親父と会っちまうかもしれない。早く降りよう!」
時既に時間切れ。
カエデさんの後ろに見慣れたおっさんがいました^^
「よう。」
カエデさんがとても驚いている…当たり前か。
「なんであんたがとてもタイミングよく現れんだっちゅうんだ…」
ありえない。『普通は』。
「まだ一日も経っていないだろ。」
「ああ、そうだな。で、この子は誰なんだ?」
…なんでこんなにことになっちまったんだ…
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
いまは『普通の』生活を送っている。
今までとは違う普通だが。
「旦那様ー、夕ご飯ができましたよー。」
あれから数ヶ月が過ぎた。
なぜか知らんが親父は一言、
「もう家に戻らんでよい。幸せにな…」
と言って去ってしまった。あのときの顔はとてもうれしそうだった…
後から聞いたが、なんでも俺が雪山でやったことはすべて筒抜けらしい。
なぜならこれはもともと計画されたことだから…だ。
なんでも、俺の家系は十代後半になったら魔物と結婚しなくてはいけないらしい。
だから親父は俺に雪山に突然行かせたらしい。
それ以外のことは聞いていないが、もはやどうでもよかった。
めんどくさいということもあり、今はそれ以上に大切なことがある。
「どうしたんですか、旦那様?」
…目の前の大切な人を…いや、大切な雪女を。
「いや、なんでもない、早く食べよう。」
守ること。
10/08/29 01:22更新 / るみゃ