騎士団入団試験
私は青年を連れ、近くの反魔物領の王国へと足を踏み入れた。
そこは勇者を目指す者たちが集う通称《騎士王国》。遥か昔、数々の戦場を生き抜いた騎士王が起源とされる国だ。
そしてここ、首都《カルベルナ》にて、我々は騎士団に入団後、勇者として洗礼の儀を受け修業しなければならない。そして、最終的には魔物から人類を守り、世界を救うのだ。
だが、問題点が一つある。私は後ろを振り返り赤毛の青年を一瞥した。
「何?」
問題はこの青年だ。
彼は他人とはかけ離れた考え方をしている。挙げれば語りつくせないのだが、一番は彼の思想、《平等主義》の事だ。
人類にも平等主義と言う概念は存在するが、青年のはそれ以上で、彼は魔物を人間と同じ眼で見るのだ。
先日の道中、ふと見かけた魔物を私が退治しようとした時、「彼女は何もしていない」などと言い、私を止めたのだ。さらに「これから脅威になるかも知れない」と抗議すれば「それは『これから悪人になるから』と罪もない子供を殺す様な物だ」と返してきた始末だ。結局魔物には逃げられ、退治を中断するを得なかった。本当に彼は勇者となり得る力を持っているのだろうかと疑いたくなる。
全く、なぜ主神様は私を彼に遣わせたのか。
「ねぇ、クレア。これからどうするの?」
青年は屈託のない微笑みでそう問う。
「まずは宿探しだ。明日の入団試験に備え、今までの旅の疲れを癒そう」
「わかった。でも、不思議だね」
「何がだ?」
「何で僕らは入団試験を受けなければいけないのかな?ヴァルキリーの存在は世界でも良く知られてるんでしょ?」
そうか。彼は知らないのか。
「この国は、騎士を目指す者が集う、世界でも一、二を争う騎士大国。つまりそれだけ入団希望者が多いのだ。なのでいくらヴァルキリー連れの勇者候補と言えど、人数が多ければ当然入団枠まで数を減らさなければならないのだ。遣わされた戦乙女は私一人だけではないからな。探せばもう何人か他の戦乙女が居る筈だ」
「へぇ、そうなんだ。やけに詳しいね?」
「天界である程度の下調べは終わらせたからな。世の中無知で得する事は何も無いだろう?」
「なるほどね」
彼は納得したように頷いた。
「取りあえずあそこの宿に入ろう」
次の日の朝、私たちは入団試験が行われると言う、街の中心に位置する闘技場で手続きを行う為に受付へ向かっていた。ちなみに、私は余計な騒動を起こさないために人間に変装している。
「凄い賑わいだね。試験と言うよりはお祭りだ」
見渡せばそこには人、人、人。とにかく人で賑わっていた。
「確かここの入団試験は一般公開されているからな。観光客や住民にとっては君の言う通り祭り事なんだろう」
人込みを掻き分け、入り口近くの受付にたどり着く。
受け付けにはもう遅い時間なのであまり列は出来ていなかった。
「入団試験への参加希望者ですか?」
「ああ、そうだ。私はヴァルキリーで、参加者は後ろの彼だ」
「そちらの方のお名前は?」
彼の名前はもう決めてある。先日考えた物を私は口にする。
「カイルだ。カイル・ウォーランス」
名前は歴代の英雄から、名字は名の通り武器から取った物だ。最初この名前を提示した時、彼は二つ返事でそれを受け入れた。もう少し好き嫌いがあっても良いと思うのだが。
「カイル様ですね。では入り口から入り、突き当りを右に向かうと控室があります。係りの者がおりますので、場所が分からない場合はその者を目印としてください」
「わかった」
受付嬢は参加証を渡すと同時に説明を続ける。
「なお、ヴァルキリー様はカイル様の番になるまでは同行できます。試験が開始次第しかるべき通路で観客席へ移動してください。なお、時間が押しておりますのでここでのルール説明は省略します。ルール説明は試験直前に改めて行われますので聞き逃しの無い様お願いいたします。では、ご検討を」
「うん。ありがとう」
「あ……」
カイルが笑みを浮かべながら礼を言う。その美貌に受付嬢は思わず顔を赤らめた。……何故だろう。一瞬胸から何かが湧き上がってきた気がする。
「…………急ごう」
私はカイルの手を引き、控室へと向かった。
試験と言う名の試合が開始してから一時間ほど経った。
試験は二段階形式で行われる。最初の第一段階は百人程度の参加者が一斉に戦い、十人まで減らす生き残り戦。ただし、ヴァルキリーを連れた勇者候補は第一段階は免除され、第二段階からの参加になるらしい。
控室の魔力モニターで第一段階の様子を見ていた私達はあまりの光景に圧倒された。まるで戦争の様な光景だった。
そして第一段階終了後、第二段階。
ここからは一対一の模擬試合を行い、最終的な入団者を決める試合形式だ。ただし、勝敗は関係なく戦術や太刀筋などを審査員が見極めて決めるため、たとえ試合で負けたとしても採用される可能性がある。
第二段階に進んだ入団希望者は第一段階で勝ち抜いた十人にヴァルキリー連れの勇者候補を加えた十八人。つまり全九試合行う事になる。
カイルの出番は一番最後の第九試合。大トリである。
控室では私の他にも戦乙女が自分のパートナーに助言などをしていた。
「…………」
今、知り合いが見えた気がする。それもあまり会いたくない人物が。
「ん?どうしたの、クレア?」
「シッ……!ここで私の名前を口にするな」
私は周りを見渡す。幸い《彼女》の姿が見えな……。
「ク〜レ〜ア〜!」
「――――!」
まずい。すでに後ろを取られていたか。
そう気づいた時、すでに体は反応し動いていた。
弧を描く様に高速で前方に移動し、《彼女》の姿を視認する。
「もう、速ーい!今度こそクレアに抱きつけると思ったのに!」
と悔しそうにじたばたしている戦乙女に、私は冷ややかな視線を送った。
「お前も懲りないなオルガ。……まさか下界に降りていたとは思ってもいなかったが」
「これって運命よね!主神様も気が利いてるわ!こうしてクレアと再会できるなんて!」
「おめでとう」
そこ、祝福しない。
「ありがとう!あら、貴方からクレアの香りが……、もしかして貴方がクレアのパートナー?」
「うん。カイル・ウォーランス。よろしく」
自己紹介もしなくていい。
「私はオルガよ。よろしく」
自己紹介を終えたオルガはにこやかに私に振り向いた。悪寒がしたのでこちらに突っ込まれない内に話題を切り替える。
「所で君のパートナーはどうした?」
「え、ワタヌキ?あの子はあそこで瞑想中」
「瞑想?」
とオルガの指差す先に視線を向ける。
そこには着物と言うこの国では場違いな恰好をしたワタヌキと呼ばれたジパング人が座禅を組んでいた。カイルとは対照的な手入れの行き届いた長い黒髪を後ろで束ね、眼を閉じ、髪を一本も揺らす事無くただじっと構え、気を集中させる。そこには一切の雑念が無い。
「凄いな。あれが瞑想と呼ばれるものか」
「本当にクレアが居てくれて良かったわ!あの子全然相手してくれないんだもの!」
「私も出来れば相手をしたくないな」
「もう、照れちゃって!」
「照れていない」
そんなやり取りをしていると、ドン!と重く響く太鼓の音がその場の全員の注目を集めた。どうやらそろそろ時間らしい。
「ねぇ、クレア、カイル君は何試合目に出るのかしら?」
「九試合目だ。一番最後だな」
「あら、奇遇ね!うちのワタヌキも九試合目なの!」
「ほう?」
私はカイルとワタヌキを交互に見やる。
「そちらはなかなか腕が立ちそうだな」
「えぇ、強いわよ。この前も一本取られたくらいだし」
「は?」
驚いた。オルガは普段からこんな調子だが彼女は仮にも戦乙女だ。その戦闘能力は人間を凌駕している。
そのオルガから一本取るとは、油断ならない。
「クレア、カイルはどうなの?」
「ん?カイルか?……あ」
とここで気づく。私は彼の戦闘をこの眼で見た事が無い。
今まで彼は魔物との戦闘を避けていたし、手合せもしていない。私はカイルの実力を知らない。
私は言葉に詰まった。
「ごめんね。僕はあまり戦った事が無いから彼に勝てるか分からないし、クレアにも答えられないよ」
すると、私の代わりにカイルが返答した。
「あら、そうなの?」
「すまない。実力を確かめるのは戦乙女として当然の事なのだが」
「いいじゃない。どうせすぐに分かるんだから」
「……そうだな」
時刻も過ぎ、試験もそろそろ終盤に差し掛かった。
モニターに映る試合はとても迫力のあるものばかりだった。
剣術、槍術、弓術など、様々な武術を使う者が次々モニターに映し出され、我々に雄姿を見せつけた。中には盾だけで戦うなど変わった武術を扱う者も居て、会場を大いに盛り上げた。
そして、第九試合目。カイル達は会場に赴き、戦乙女である私たちは指定されたルートで観客席に移動した。
「…………」
「あら、カイル君が心配?」
「……まぁな」
ワタヌキと呼ばれた少年は、見ただけでも分かるほどの使い手だと判断できる。それにオルガから一本取った事からしてなおさら油断できない。対してカイルの実力は不明だ。もしかすると戦闘能力は皆無かもしれない。不安が拭いきれない。
『これより、ワタヌキ・コトミネ選手とカイル・ウォーランス選手による第九試合を行います。選手入場』
スピーカーの案内と共にカイルとワタヌキが入場する。
途端、会場中がざわついた。
「なっ――!?」
「嘘でしょ!?」
何故なら、選手の片方、カイルは丸腰だったからだ。
「貴様、格闘術の使い手か?」
十二時の方向に立つ刀を持った少年はカイルにそう尋ねた。その問いに、カイルは変わることの無い笑みで答える。
「さあ?少なくとも格闘術なんて習った事はないよ」
「そうか」
ワタヌキは刀を構える。
「自分は言峰流、免許皆伝。言峰四月一日だ」
「カイル。カイル・ウォーランス」
二人の間に沈黙が生まれる。
「両者準備はよろしいですか?」
審判が確認を取ると、二人は共に頷いた。
「ではこれより、騎士団入団試験、第二段階。第九試合を開始する」
会場に暫しの沈黙が走る。
その沈黙の中で、再び少年は口を開いた。
「カイル殿」
その呼びかけにカイルは沈黙で答える。
「殺す気でかかってこい」
「始め!」
少年の冷ややかな声に審判の声が被さり、試合が開始した。
そこは勇者を目指す者たちが集う通称《騎士王国》。遥か昔、数々の戦場を生き抜いた騎士王が起源とされる国だ。
そしてここ、首都《カルベルナ》にて、我々は騎士団に入団後、勇者として洗礼の儀を受け修業しなければならない。そして、最終的には魔物から人類を守り、世界を救うのだ。
だが、問題点が一つある。私は後ろを振り返り赤毛の青年を一瞥した。
「何?」
問題はこの青年だ。
彼は他人とはかけ離れた考え方をしている。挙げれば語りつくせないのだが、一番は彼の思想、《平等主義》の事だ。
人類にも平等主義と言う概念は存在するが、青年のはそれ以上で、彼は魔物を人間と同じ眼で見るのだ。
先日の道中、ふと見かけた魔物を私が退治しようとした時、「彼女は何もしていない」などと言い、私を止めたのだ。さらに「これから脅威になるかも知れない」と抗議すれば「それは『これから悪人になるから』と罪もない子供を殺す様な物だ」と返してきた始末だ。結局魔物には逃げられ、退治を中断するを得なかった。本当に彼は勇者となり得る力を持っているのだろうかと疑いたくなる。
全く、なぜ主神様は私を彼に遣わせたのか。
「ねぇ、クレア。これからどうするの?」
青年は屈託のない微笑みでそう問う。
「まずは宿探しだ。明日の入団試験に備え、今までの旅の疲れを癒そう」
「わかった。でも、不思議だね」
「何がだ?」
「何で僕らは入団試験を受けなければいけないのかな?ヴァルキリーの存在は世界でも良く知られてるんでしょ?」
そうか。彼は知らないのか。
「この国は、騎士を目指す者が集う、世界でも一、二を争う騎士大国。つまりそれだけ入団希望者が多いのだ。なのでいくらヴァルキリー連れの勇者候補と言えど、人数が多ければ当然入団枠まで数を減らさなければならないのだ。遣わされた戦乙女は私一人だけではないからな。探せばもう何人か他の戦乙女が居る筈だ」
「へぇ、そうなんだ。やけに詳しいね?」
「天界である程度の下調べは終わらせたからな。世の中無知で得する事は何も無いだろう?」
「なるほどね」
彼は納得したように頷いた。
「取りあえずあそこの宿に入ろう」
次の日の朝、私たちは入団試験が行われると言う、街の中心に位置する闘技場で手続きを行う為に受付へ向かっていた。ちなみに、私は余計な騒動を起こさないために人間に変装している。
「凄い賑わいだね。試験と言うよりはお祭りだ」
見渡せばそこには人、人、人。とにかく人で賑わっていた。
「確かここの入団試験は一般公開されているからな。観光客や住民にとっては君の言う通り祭り事なんだろう」
人込みを掻き分け、入り口近くの受付にたどり着く。
受け付けにはもう遅い時間なのであまり列は出来ていなかった。
「入団試験への参加希望者ですか?」
「ああ、そうだ。私はヴァルキリーで、参加者は後ろの彼だ」
「そちらの方のお名前は?」
彼の名前はもう決めてある。先日考えた物を私は口にする。
「カイルだ。カイル・ウォーランス」
名前は歴代の英雄から、名字は名の通り武器から取った物だ。最初この名前を提示した時、彼は二つ返事でそれを受け入れた。もう少し好き嫌いがあっても良いと思うのだが。
「カイル様ですね。では入り口から入り、突き当りを右に向かうと控室があります。係りの者がおりますので、場所が分からない場合はその者を目印としてください」
「わかった」
受付嬢は参加証を渡すと同時に説明を続ける。
「なお、ヴァルキリー様はカイル様の番になるまでは同行できます。試験が開始次第しかるべき通路で観客席へ移動してください。なお、時間が押しておりますのでここでのルール説明は省略します。ルール説明は試験直前に改めて行われますので聞き逃しの無い様お願いいたします。では、ご検討を」
「うん。ありがとう」
「あ……」
カイルが笑みを浮かべながら礼を言う。その美貌に受付嬢は思わず顔を赤らめた。……何故だろう。一瞬胸から何かが湧き上がってきた気がする。
「…………急ごう」
私はカイルの手を引き、控室へと向かった。
試験と言う名の試合が開始してから一時間ほど経った。
試験は二段階形式で行われる。最初の第一段階は百人程度の参加者が一斉に戦い、十人まで減らす生き残り戦。ただし、ヴァルキリーを連れた勇者候補は第一段階は免除され、第二段階からの参加になるらしい。
控室の魔力モニターで第一段階の様子を見ていた私達はあまりの光景に圧倒された。まるで戦争の様な光景だった。
そして第一段階終了後、第二段階。
ここからは一対一の模擬試合を行い、最終的な入団者を決める試合形式だ。ただし、勝敗は関係なく戦術や太刀筋などを審査員が見極めて決めるため、たとえ試合で負けたとしても採用される可能性がある。
第二段階に進んだ入団希望者は第一段階で勝ち抜いた十人にヴァルキリー連れの勇者候補を加えた十八人。つまり全九試合行う事になる。
カイルの出番は一番最後の第九試合。大トリである。
控室では私の他にも戦乙女が自分のパートナーに助言などをしていた。
「…………」
今、知り合いが見えた気がする。それもあまり会いたくない人物が。
「ん?どうしたの、クレア?」
「シッ……!ここで私の名前を口にするな」
私は周りを見渡す。幸い《彼女》の姿が見えな……。
「ク〜レ〜ア〜!」
「――――!」
まずい。すでに後ろを取られていたか。
そう気づいた時、すでに体は反応し動いていた。
弧を描く様に高速で前方に移動し、《彼女》の姿を視認する。
「もう、速ーい!今度こそクレアに抱きつけると思ったのに!」
と悔しそうにじたばたしている戦乙女に、私は冷ややかな視線を送った。
「お前も懲りないなオルガ。……まさか下界に降りていたとは思ってもいなかったが」
「これって運命よね!主神様も気が利いてるわ!こうしてクレアと再会できるなんて!」
「おめでとう」
そこ、祝福しない。
「ありがとう!あら、貴方からクレアの香りが……、もしかして貴方がクレアのパートナー?」
「うん。カイル・ウォーランス。よろしく」
自己紹介もしなくていい。
「私はオルガよ。よろしく」
自己紹介を終えたオルガはにこやかに私に振り向いた。悪寒がしたのでこちらに突っ込まれない内に話題を切り替える。
「所で君のパートナーはどうした?」
「え、ワタヌキ?あの子はあそこで瞑想中」
「瞑想?」
とオルガの指差す先に視線を向ける。
そこには着物と言うこの国では場違いな恰好をしたワタヌキと呼ばれたジパング人が座禅を組んでいた。カイルとは対照的な手入れの行き届いた長い黒髪を後ろで束ね、眼を閉じ、髪を一本も揺らす事無くただじっと構え、気を集中させる。そこには一切の雑念が無い。
「凄いな。あれが瞑想と呼ばれるものか」
「本当にクレアが居てくれて良かったわ!あの子全然相手してくれないんだもの!」
「私も出来れば相手をしたくないな」
「もう、照れちゃって!」
「照れていない」
そんなやり取りをしていると、ドン!と重く響く太鼓の音がその場の全員の注目を集めた。どうやらそろそろ時間らしい。
「ねぇ、クレア、カイル君は何試合目に出るのかしら?」
「九試合目だ。一番最後だな」
「あら、奇遇ね!うちのワタヌキも九試合目なの!」
「ほう?」
私はカイルとワタヌキを交互に見やる。
「そちらはなかなか腕が立ちそうだな」
「えぇ、強いわよ。この前も一本取られたくらいだし」
「は?」
驚いた。オルガは普段からこんな調子だが彼女は仮にも戦乙女だ。その戦闘能力は人間を凌駕している。
そのオルガから一本取るとは、油断ならない。
「クレア、カイルはどうなの?」
「ん?カイルか?……あ」
とここで気づく。私は彼の戦闘をこの眼で見た事が無い。
今まで彼は魔物との戦闘を避けていたし、手合せもしていない。私はカイルの実力を知らない。
私は言葉に詰まった。
「ごめんね。僕はあまり戦った事が無いから彼に勝てるか分からないし、クレアにも答えられないよ」
すると、私の代わりにカイルが返答した。
「あら、そうなの?」
「すまない。実力を確かめるのは戦乙女として当然の事なのだが」
「いいじゃない。どうせすぐに分かるんだから」
「……そうだな」
時刻も過ぎ、試験もそろそろ終盤に差し掛かった。
モニターに映る試合はとても迫力のあるものばかりだった。
剣術、槍術、弓術など、様々な武術を使う者が次々モニターに映し出され、我々に雄姿を見せつけた。中には盾だけで戦うなど変わった武術を扱う者も居て、会場を大いに盛り上げた。
そして、第九試合目。カイル達は会場に赴き、戦乙女である私たちは指定されたルートで観客席に移動した。
「…………」
「あら、カイル君が心配?」
「……まぁな」
ワタヌキと呼ばれた少年は、見ただけでも分かるほどの使い手だと判断できる。それにオルガから一本取った事からしてなおさら油断できない。対してカイルの実力は不明だ。もしかすると戦闘能力は皆無かもしれない。不安が拭いきれない。
『これより、ワタヌキ・コトミネ選手とカイル・ウォーランス選手による第九試合を行います。選手入場』
スピーカーの案内と共にカイルとワタヌキが入場する。
途端、会場中がざわついた。
「なっ――!?」
「嘘でしょ!?」
何故なら、選手の片方、カイルは丸腰だったからだ。
「貴様、格闘術の使い手か?」
十二時の方向に立つ刀を持った少年はカイルにそう尋ねた。その問いに、カイルは変わることの無い笑みで答える。
「さあ?少なくとも格闘術なんて習った事はないよ」
「そうか」
ワタヌキは刀を構える。
「自分は言峰流、免許皆伝。言峰四月一日だ」
「カイル。カイル・ウォーランス」
二人の間に沈黙が生まれる。
「両者準備はよろしいですか?」
審判が確認を取ると、二人は共に頷いた。
「ではこれより、騎士団入団試験、第二段階。第九試合を開始する」
会場に暫しの沈黙が走る。
その沈黙の中で、再び少年は口を開いた。
「カイル殿」
その呼びかけにカイルは沈黙で答える。
「殺す気でかかってこい」
「始め!」
少年の冷ややかな声に審判の声が被さり、試合が開始した。
15/02/15 16:28更新 / アスク
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