読切小説
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片隅のふたり
南の先にはさる芸術が有名な国があった。その筋では有名な反魔物国家であった。美しい宮殿や寺院が立ち並び、多くの人でにぎわっていた。
だが、光あれば闇もある。華やかな表とは対照的に裏路地にはスラム街がいくつも出来ていた。教団や貴族の繁栄とは裏腹に、民衆の暮らしは貧しく苦しいものであった。

それは雨の日だった。
人があまり寄り付かない下水道に、少年がいた。だがその幼い顔にはなんの表情も浮かんでいなかった。ただ、ひざを抱えた状態で、息を殺して眼光が油断なくきょろきょろと動いていた。
少年は雨が好きではなかった。雨がふると寒いし、気分が落ち込みやすい。

少年は孤児だった。親もいなければ、
(引き取ってくれる親戚もいない)
のである。孤児院に入れられ、そこでの暮らしに堪えられず抜け出した。思い起こせば、まともな職にはつけず日雇い、物乞い… 挙句にスリ。生きる為には何でもやった。そんな日々だった。
今日は久々に大物を手に入れることができたのだ。だが、その後が良くなかったのだ。

「ドジを踏んだな…」

官憲から逃げ、なんとか播くことに成功して下水道のところへと落ち着いた。あまり良い匂いのしない場所だが、さして気にならなかった。ここまでは追ってこないし、なにより贅沢を言っている余裕はなかった。

(足をやられた…)

逃げる時に足に傷を負ってしまった。歩くのが難しいほどではないが、今見つかれば逃げられる保証は無い。その点下水道は居住性が低くても隠れ家としては優秀だった。だから、危なくなったら一人此処へ駆け込んだ。

いつもとちがったのは、先客がいたことだった。
ガタッ
少年は心臓が止まる思いをしたが、どうやら相手は一人だ。

「おい、あんたも雨宿りか?」

警戒を解かないながらも、声をかけた。傷を負い心細くなったのかもしれない。

「…?」

少年の声に、影は身じろぎした。
薄暗くて良く見えなかったが、腰の長さほどある長い髪を持つ事が分かった。

「女か…」

別に女を見慣れてないわけではない。しかし孤児の仲間にも女はいたが、ガリガリで汚れた格好をしていたし、日々の生活に手一杯で特別な感情を持ったことは無かった。
 興味を持ち、女を除こうとする。薄暗いながらも、光沢のある緑色に光っている服を着ている様に見える。肉付きはよさそうだ。強烈な匂いがするのが妙に気にかかった。鼻を覆いながら、相手の正体を思案する。

(没落貴族か?)

それにしたって、浮浪者や下層民、自分の様な後ろ暗い素性の者でならともかく、貴族がこんな匂いのきつい下水道に逃げ込むだろうか?
 少年の疑問は、彼女が現れたことで氷解した。どうやら女のほうからやってきたようで、影が少年を覆った。顔を挙げ、息を呑んだ。

眠たげな眼差しをした端正な顔立ちに、陰気な雰囲気を纏わせ、すらりとして均等の取れた体に豊満な胸を揺らしている。彼女を見れば、少年でなくても魅力的な女と感じたことだろう。だが、少年が息を呑んだのは美しさではない。
 薄いエメラルドグリーンの…服ではなく、肌をしている。常に泡を放つ液状の体といい、明らかに人間ではなかった。

「魔物…!」

少年は学問には疎かった。しかし反魔物国家に住む者として教団の熱心な布教は耳にたこが出来るほど聴いている。
だから彼女がバブルスライムという魔物だということが分からなくても、相手が「危険な魔物」と言うことは理解できた。
少年は腰を上げてバブルスライムから離れようとした時、以外にも彼女は引き止めてきた。

「待って」

次の瞬間には、もう鼻を覆うことを忘れていた。少年は手をつかまれ、少年は転びそうになり相手を睨む。
相手の瞳に自分が映るのが見えた。

「私を抱いて」

女の全裸?を見て相手が魔物だというのに、女性に性的なものを感じてしまった少年の顔が真っ赤になる。

「放せ!」

粘着性が少ない体のため、弾く事が出来た為逃げ出そうとする。
ズルっ

「!?」

逃げたと思ったのもつかの間、彼女の粘液を踏んでしまい、足が滑りころんでしまった。その機会を逃さず、バブルスライムは少年を拘束してしまうと、むりやり接吻をする。

「んん、んちゅ」

ネバネバに絡め取られて身動きが取れなくなった少年に卑猥な音とともに、口の中にドロッとしたゼリー状の物体を強制的に流し込まれていた。
少年の唾液を啜り、やっと開放された頃には淫らな架け橋ができていた。
逃げようとする腰を掴み、抱え込むように抱きしめる。はたから視れば小柄な体はスライムに包み込まれて締まったかのようだ。

「服、邪魔」

粗末な衣服を脱がせてしまうと、
少年はバブルスライムの手管に手玉を取られっぱなしだった。世間の荒波に揉まれて性交の一つも知らない子供と、男を手に入れるための本能と体をもつ魔物とでは違いがありすぎた。

(体が…あ、熱い…)

「あう!」

 ビュッ、ビュル、ビュルルルッ!
 そして、大きな叫び声をあげたかと思うと、ビクビクとはち切られんばかりに脈動していた股間のペニスから、白濁した液体が勢いよく放出された。 精液が彼女の中に放たれて、広がったかと思うと吸収されていく。

「おいしい…」

初めての射精に息を荒くする少年を横目に、バブルスライムはうっとりとした顔でため息を付く。

「もっと…欲しい」
少年に再びのしかかり、包み込むように口を股間にやる。その上、

「ひゃっ!そこは、だめ!」

ジェル状の物質は縦横無尽に動き、少年のアナルに入り込んだ。

「ああっ、出たり入ったりして、ダメっ!」

排泄物を出した時とは逆の感覚に思わず悲鳴を上げる。

「大丈夫、痛くない」
彼女の攻めは強くなるばかり、全身を覆い込まれているので身動きが取れず少年は悶絶した。

「あっ、あっ、あああああぁぁぁぁあっ!」

少年は喘ぎ声をあげながら、悦に浸った。
穴という穴を犯され、敏感な部分をスライムで刺激され、まるで女の子のように喘ぐ。
彼女はひたすら少年を犯し、愛し続けた。

眼が覚めた時、バブルスライムが潤んだ瞳で覗き込んでいた。寝ぼけなまこだったが、昨日のことを思い出し顔が厚くなる。

「わぁ!」

急に恥ずかしくなって後さる。違和感。足を見ると、傷が治っていた。

「お前が直してくれたのか?」

この問いに、彼女は首を傾げるだけだった。
 少年はいつしかこの下水道によく訪れるようになった。いつしか、彼女の匂いも気にならなくなっていた。ただ生きるだけだった生活が、一緒にいるだけでとても尊いものに思えた。

だが、その生活にも影が差していた。

「今こそあの汚らわしい魔物どもに、天罰を与えるときである!」

司祭の高らかな演説に、観衆から拍手がこぼれた。詳しい話は分からなかったが、これから生活が一層苦しくなりそうだった。だが、それよりも少年の心を暗くしたのは魔物が入り込まないか警備を厳しくすると言うことだった。

彼女が危ない。いずれあの下水道も…そして、決心した。

下水道で少年はかいつまんで聞いたことを話した。

「この国は、魔物を受け入れない」

そう言うと、彼女の眼が悲しげにゆれた。少年はそのまま続ける。

「この町のずっと先には、魔物を受け入れてくれる町があるらしい。あてのない旅だけど、」

ついてきてくれる?と尋ねた。彼女はじっと見つめてくる。そして、おずおずと頷いたのであった。

そして彼女を連れ、旅に出た。道は長く、険しい。でも、彼女とならきっと何処までも行ける。
辛くなるたびに、自分にそう言い聞かせて。

(どうせ生きるのが精一杯の生活だったんだ…彼女と暮らせなくなるくらいなら)

為れない日差しに既にへとへとなっている彼女に、服を脱いで、被せる。多少は日も防げるはずだ。

やがて、運に恵まれ、魔物と人間が共に暮らす国へ訪れる事が出来た。そこは、なにもかも見た事が無い世界だった。

「魔物が…本当に」

彼女もキョロキョロと眼を動かす。お互いに狭い世界で暮らしていたものだ。町を二人して眺めていると下半身が蛇の女性が話し

かけてきた。
「あら?あなたたち。この町は始めて?」
経験の無い暖かい対応に驚きながらも頷く。その魔物の女性はニコニコと頷くと、手を町のほうへ翳した。

「ようこそ、魔物と人がともに暮らす町へ。歓迎するわ」

バブルスライムと顔をあわせる。お互いになぜ「歓迎」されているのか理解できない。

「ああ、そこのバブルスライムのお嬢さん」

バブルスライムは呼ばれると、慌てて少年の後ろへ隠れた。

「なんだよ、匂いがきついのはお断りなのかよ」

少年がむっとして蛇の女性に詰め寄ると、女性は笑顔で言った。

「いえ、スライム用の泉が有るわ。そこで旅の疲れを癒しなさい。もちろん、お代は取らないわ…それに、変な匂いなんてしないわよ?」

「へ?」

そういえば、あの独特の刺激臭はいつからかしなくなっていた。それが何故なのかは分からない。少年はこの(レイという名前のラミアらしい)女性に、町の案内をしてもらうことになった。

「ありがとう、レイさん」

どういたしまして、と彼女は、笑顔で手を振った。

「あいつの名前、全然知らないんだよな…」

あの町では名前を呼ばれることも無かった。生きる為には名前など必要ない、そう思っていた。だが、この町で暮らせるなら…。

暫く働き始めて、なんとか二人一緒に暮らせる安宿代くらいはたまってきた。彼女とはまだこの町にきて以来。仕事が忙しかったのもあるが、レイが合うのは待つように言っていたからだ。
 だが、やっと会うことが出来る。スライム達が暮らす泉へ向かう。少年が向かうと、駆け寄ってきた。

「……っ!」

久しぶりに会った彼女は、何故か一層美しい姿に見えた。ほのかな良い匂いがする。これが、本来の彼女の匂いなのだろうか?

彼女が抱きつき、キスしてくる。服越しからも伝わる弾力と泡が、彼女と再会したことをはっきりと伝えていた。

彼女と再びあったら、何を言うか。決まっていた。

「俺の…」

一呼吸置いてから、少年は喋った。

「俺の名前は、マルコ。君の名前は?」

彼女は、潤んだ瞳でマルコを見た後、口を開いた。

「私の名前は、ウルスラ…よろしく、マルコ」

劣悪な環境が、彼女を蝕んだように、少年も蝕まれていたのだ。彼らは、やっと一人の人間と、魔物になれたのだ。

「ウルスラ…一緒に生きてくれ…」

少年の言葉に何度も頷くウルスラ。

彼らの物語は、まだ始まったばかり。


13/05/22 03:26更新 / 武蔵

■作者メッセージ
このような至らない小説を読んでいただき、ありがとうございます。
クロビネガではいつも見る側だった私が始めて書いたのが本小説です。バブルスライムとスリの少年の恋愛が思い浮かび、今作となりました。
できるかぎりバブルスライムのイラストにあったキャラ付けをしようと心がけましたが、なかなかに難しい物がありました。
下水道から始まる恋もある。
 こんな出来の短編ですが、時間がかかってしまいました。
改めまして、読者の皆様や素晴らしい作品を出し創作の場を与えてくれた健康クロス様に
感謝の念を述べたいと思います。

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