読切小説
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芽吹恋傘
狼の月 1日 晴れ

女もすなる日記といふものを、俺もしてみむとてするなり。

冗談はさておき、俺は今日から日記を書き始めることにした。
日記を書くなんて初めての経験だ。何を書けばいいのかサッパリ分からない。
と思いながらも、こうして帳面が文字で埋まっていくところを見ると、
なかなかどうして、俺には日記を書く才能というものがあるのかもしれない。

しかし、油断するなかれ。何事も出だしが肝心だ。
三日坊主にならないよう、気を引き締めて書いていこう。

今月は日記に力を注ぐため、講義に出るのは来月からにしようと思う。


狼の月 2日 晴れ

今日も漫画とエロ本を読むだけで一日が過ぎてしまった。

掃除もしなければと思うのだが、なかなか手が伸びない。
ゴミを捨てるとなると、部屋の外に出る必要があるからだ。
それがたまらなく俺のヤル気パワーを削いでしまう。外は地獄だ。

いや、単位のためにも、いずれは外に出なければならない。
しかし、まだ余裕はあるのだ。留年も含め、あと1年半は大丈夫。
ならば焦る必要などない。決意が固まってからのほうが、勉強も身に入る。
だから俺はその時まで、こうして好きなことをしてヤル気を溜めているワケだ。

ああ、素晴らしきかな、日曜日の日々。


狼の月 3日 晴れ

腹立たしいことが起きた。

あの出前パン屋め、コロッケパンにソースをかけ忘れるとは何事か。
おかげで俺は、味もへったくれもない油イモのパンを頬張ることになった。
ちくしょう、数少ない日々の楽しみだというのに、なんて無情な出来事だ。
いくら顔の可愛い女とはいえ、この仕打ちを許せるほど俺は寛大ではない。

今日はもう寝る。
あんなパン、絶対に食ってやらん。


狼の月 4日 曇り

今日はパン屋が定休日だったらしく、出前に来なかった。
そのせいで、俺は昼過ぎから腹減りに悩まされるハメになった。

あるものといえば、出来損ないのコロッケパンのみ。
仕方がないので、俺は手元に転がっていたケチャップをかけて食べた。
少しでも味が付けば、そこそこ食べられるものにはなるだろうと思ったからだ。

意外と美味かった。怪我の功名である。
まさかコロッケとケチャップの相性が良いとは思わなかった。
偶然とはいえ、このきっかけを作ってくれたパン屋には感謝しよう。

コロッケパンは教えてくれた。
人生はどうなるか分からない、と。


狼の月 5日 晴れ

ドアの隙間に、なにやらピンク色のチラシが挟まっていた。
抜いて見てみると、たんたんたぬき商会とかいう業者の広告だった。
どうやら、寮の近くに店を開いたらしい。地図を見るに、目と鼻の先だ。
今流行のエレキテル家具や、類も豊富なエログッズを販売しているらしい。

しかし、外出しない俺にとっては縁のない話。
またひとつ、ゴミ山にゴミが増えるだけのこと。

そう思い、チラシを捨てようと思った瞬間。
俺の曇りなき瞳は、ある一文を見逃さなかった。

【今ならスケベな映像満載の『えろでーぶいでー』が90%OFF!】

俺はすぐさま、久方ぶりにタンスから服を取り出して、埃を払った。
もちろん、外出するためだ。決行日は明日。地獄を渡り、天国へと赴く。

この世において、勇者と呼ばれる存在は数少ないが。
明日という日、俺はその一人に数えられるのだ。


狼の月 6日 晴れ

外怖い。もう出ない。


狼の月 7日 曇り

さて、今こうして優雅に日記を綴っている俺の心情だが。
例えるならば、ヴァルハラへと送られるエインヘリャルといったところか。

傍らに並ぶのは、昨日の戦利品だ。

『セックス24時 〜夜の街を駆ける露出狂淫乱族〜』
『ガキの腰使いやあらへんで!! 総集編』
『アヘッていいとも! -テレフォンペッティングシリーズ-』

とりあえず、売れ行きベスト3の品々を買ってきた。
気付けば魔物モノばかりだが、それも致し方ないことだろう。
いくら人間の敵とはいえ、魔物がエロイことに間違いはないのだ。
『人間を喰う』なんて教えを信じている奴は、総じてクルクルパー。
もし巡り合わせがあるのならば、俺もお相手願いたいものだ。

そんな夢を抱きつつ、俺は今から崇高なる儀式を行う。
ティッシュの用意は万全だ。在庫にも充分余裕がある。
おまけに、手には『おなほーる』という秘密兵器を携えている。
何でもこれは、女のアソコを模った道具で、感触もソックリなのだそうだ。
俺の筆卸しがコレとは少々悲しいが、それも魔物娘ちゃんの裸を見るまでだ。

さあ、お楽しみの時間だ。
今夜は寝かさないぜ、おなほーるちゃん。


狼の月 14日 雨

ふと気が付けば、一週間経っていた。
今回は中々に長期戦だったようだ。

正直、『おなほーる』が壊れなかったら、未だに続けていたと思う。
それくらい『えろでーぶいでー』の内容はそそるものであったし、
『おなほーる』の感触も、長年付き添っている右手とは雲泥の差だった。

しかし、ひどい臭いだ。鼻がひん曲がる臭さ。
己の分身を包んだティッシュ屑とはいえ、この臭いはキツイ。
それが山盛りになって、おまけに湿気で臭い立つというのだから、
さすがの俺も鼻を摘ままずにはいられないというものだ。

後で香水でも降り掛けておこう。
アレもアレで臭うが、この臭いよりはマシだ。


狼の月 15日 雨

俺は今、生命の神秘を目の当たりにしている。
古いティッシュ屑から、なんとキノコが生えてきたのだ。

このキノコ、俺の分身を栄養にしているのだろうか。
だとするならば、こいつは俺のモノのように立派に育つことだろう。
こんな辺鄙な地に芽吹いた命。折角だ、どう育つか見守ってやろう。

今後、キノコの成長過程を日記に綴ろうと思う。
観察日記の始まりだ。なんだかワクワクするな。


狼の月 16日 雨

キノコというやつは、思ったよりも育つのが早いのだと知った。
昨日の今日だというのに、もう俺の平常時サイズと一緒になっている。
小指ほどもない大きさだったはずだが…。それほど土壌が優秀ということか。

しかし、赤を基調に白斑点の傘とは、なんとも可愛らしいキノコだ。
御伽話に出てくるキノコのよう。女の子が喜びそうな色合いをしている。

もし女の子の前にコレを差し出したら、触ってくれるだろうか?
俺のエキスがたっぷり含まれたコイツを、触ってくれるのだろうか?
分身ともいえるいやらしいキノコを、細く柔らかい指先で…。

いかん、興奮してきた。
もう一度『ガキ使』のアリスちゃんを拝んでから寝よう。


狼の月 17日 晴れ

デカい。勃起サイズになっている。

どうやら、他のティッシュにまで根を張ったのが原因のようだ。
栄養を存分に吸収することで、ここまでの急成長を遂げたのだろう。

既にキノコとしては規格外のサイズだが、どこまで大きくなるのだろう?
興味は尽きないが、このまま大きくなられても、後々処理に困りそうだ。
いくらキノコとはいえ、自分の分身を栄養源にしているモノを食いたくはない。

処理の方法はさておき、このキノコ、明日にはどうなっていることやら。
まさか、天井に届かんばかりに育つ…なんてことはないと思いたいが。

子種が優秀すぎるのも考え物だな。


狼の月 18日 晴れ

なんだこれ。



ありえないほどのデカさもそうだが、何より、この奇妙な形だ。
柄の部分が異様に凸凹していて、まるで人間のように見える。
それも女だ。ボン、キュッ、ボンだ。非常にスタイルがよろしい。

まさかとは思うが、このキノコ、魔物の一種なのか?
アルラウネやマンドラゴラのような、花に擬態した魔物の例もある。
もしかすれば、これはキノコの魔物ではないかと、聡明な俺は考えるワケだ。

しかし、魔物であるとするならば、おかしい点がある。
魔物というのは人間を襲うものであり、コイツが襲っているのは俺の子孫だ。
俺自身に何の危害を加えるでもなし、かといって誘惑するわけでもなし。
さすがの俺も、ボインちゃんとはいえキノコ相手に欲情したりはしない。

まったく、本当に不思議なキノコだ。
毎日が退屈だった俺に、何度も新鮮な驚きを与えてくれる。

これが魔物であれば、どんなに幸せか…。


狼の月 19日 曇り

いよいよもって、キノコの成長が止まったらしい。

だが、今なお変化は続いている。より人間らしい形になっているのだ。
具体的に言うのならば、腕が生え、髪の毛のようなものが伸び始めている。
この変化を見るに、コイツの正体が魔物である疑いが強くなってきた。

とはいえ、それだけで決め付けるのは早計というものだ。
冷静さに自信がある俺は、キノコが魔物であるかを実験することにした。

試しにオッパイらしき部分を揉んでみたが、キノコ自体に反応はない。
代わりに、俺のキノコが反応してしまうほど、柔らかく心地良いオッパイだった。
パイズリしようかとも悩んだが、さすがに植物相手で抜いたとあれば、
行為後の鬱加減が半端ではないものになってしまう。今回は自重する。

このオッパイへの実験だが、半日を要してしまった。
恐らく、初めての試みに俺も緊張してしまったのだろう。
明日以降は、もう少しペースを速めて実験を行っていきたい。

さて、寝る前にもう一度オッパイを揉んでおこう。
俺はとても研究熱心な学生なのだ。皆も見習うといい。


狼の月 20日 曇り

ヤバイ。キノコしゃべった。目開いた。
やっぱり魔物だった。さっきから話し掛けてくる。
超怖い。喰われる。俺魔物に喰われる。死にたくない。

助けて母ちゃん…。


狼の月 21日 雨

意外と話の分かる魔物だった。ビビッて損した。

例のキノコは、『マタンゴ』という植物性の魔物らしい。
どうして俺の部屋に生えたのか、理由は本人も分からないらしいが、
原因はやはり俺の子孫達だったようだ。アレが彼女にとっての栄養源だそうで。

さておき、ひょんなことからルームメイトが増えてしまった。
しかも女性だ。裸の女性だ。両足が固定されて動けない女性だ。
童貞はおなほーるちゃんに捧げた俺だが、これはかなりそそる。浮気の危機だ。
『でーぶいでー』購入前の俺なら、すぐさま『おなほーる』代わりにしていたかもしれない。

だが、純愛を好む俺は、そんな野蛮なことはしないのだ。
彼女は魔物だからがっついてくるかもしれないが、丁重に断ろう。
少しずつ互いを分かち合って、愛を感じて、初めて身体を重ねる…。
それが恋愛というものだ。それを彼女にも分かってもらわなければいけない。

恋とは儚いものであり、愛とは尊いものである。
俺はこの二つを、彼女と大事に育んでいきたい。


狼の月 22日 晴れ

気が付いたら、彼女の膣内に出していた。
何が起こったのか分からなかった。催眠術か何かか。

自身の胸中を落ち着けるためにも、状況を整理しようと思う。

俺は今朝、目が覚めたら…いや、もう覚めていたのかもしれないが。
彼女の身体に抱きついて、朝一番の射精を、柔襞に包まれながら行っていた。
そこで我を取り戻した俺は、続けて5回ほど膣内出しした後、彼女から離れた。

聞くに、俺は昨夜から一晩中腰を振っていたらしい。
先ほどの射精で43回目だったそうで、キノコはとても満足そうだった。
それだけ出たのも驚きだが、俺が昨夜に彼女を抱いたという話の方が驚きだ。
何せ、記憶がまったくない。普通に眠ったものだと思ったが、彼女は違うと言う。
俺の方から彼女に襲い掛かって、ファーストキスからバージンまで奪ったと…。

どういうことだ? 俺の身に何が起きたのか。さっぱり分からない。
繰り返し誓うが、俺は純愛が好みの、非常に紳士的な男性なのだ。
女性を襲うような真似などしない。むしろ襲ってほしい部類に位置する。

その話を聞いた後だって、俺は彼女を襲うどころか、交わってもいない。
フェラチオとパイズリと腋コキはお願いしたが、セックスはしていない。
彼女の膣内の感触を思い出しながら、ただ奉仕をお願いしただけである。
俺は至って正常だ。とても彼女の言うことが真実だとは思えない。

しかし、見てくれの通り、彼女は自ら動けないことも確か。
本当に俺なのか? 俺の意思で、彼女をいきなり抱いたというのか?

真実を確かめるためにも、俺は今日、徹夜することにする。
彼女との関係を深めるまで、金輪際セックスしたりはしないぞ。


狼の月 23日 晴れ

してしまった。くやしい。

俺は悪くない。それもこれも、みんな彼女が悪いのだ。
あんな悩ましげなボディを、これ見よがしに晒しおってからに。
おまけに、いつも股から汁を垂らしている淫乱ぶり。娼婦も真っ青だ。

盛るメスを目の前にして、抱かないオスがいるだろうか?
度重なる誘惑に精神をやられ、俺はとうとう彼女を抱いてしまったのだ。
おのれ、魔物め。俺のピュアなハートを傷付けて、恍惚に浸るとは何事か。
憎らしい。この滾るキノコを奥まで突っ込んで、アンアン鳴かせてやりたい。

そうだな、罰だ、罰が必要だ。
どんな罰が良いだろう。徹底的に辱めてやろう。
まずは自分でオマンコを広げて、エロい言葉を言わせるか。
そのままオナニーさせるのもいいな。俺はそれを見物するワケだ。

思い付いたら即実行が、俺のポリシー。
今から早速、彼女に罰を与えてやろうと思う。

これで少しは懲りてくれることを願う。


狼の月 24日 晴れ

字が書き辛い。やはりセックスしながらは無理があるか。

俺は今、彼女に対して特上の罰を与えている最中だ。
というのも、このキノコ、まったく懲りる気配がないのだ。
温和で評判な俺も、さすがに怒り心頭。もう許してなどやらんと決めた。

そこで与えた罰というのが、一日中セックスの刑だ。
それは褒美ではないかと、勘違いするなかれ。これは罰だ。
好きな食べ物を、腹いっぱいになっても尚食わせるという罰だ。
こうすれば、彼女もさすがにセックスに対する興味が失せるだろう。

さすがは俺だ。いつでもクールな考えが浮かぶ。
ちゃんと講義に出れば、すぐにでも主席へと上り詰めてぅゎ出るッ。


狼の月 25日 晴れ

罰を延長することにした。腰が痛い。


狼の月 26日 曇り

大変なことが起きてしまった。

毎月26日といえば、出前パン屋が集金へと来る日。
ノックの音に、渋々セックスを中断し、扉を開けたのだが…。

俺の目に飛び込んできたのは、淫らに乱れたパン屋の女の姿だった。
瞳を潤ませ、顔を真っ赤に火照らせて、股に埋めた手をグチュグチュと動かす女。
おちんぽ、おちんぽぉ…などと、緩んだ口で、はしたない言葉を声に出す始末。

何事かと思ったが、よくよく見てみると。
彼女の長い髪に隠れたうなじから、小さなキノコが生えていたのだ。
それも見覚えのある、赤を基調とした白斑点の傘。あの魔物と一緒の柄。
予想するに、あのパン屋の女は、魔物の魔力にやられてしまったのではなかろうか。

更に、とてもタイミングの悪いことに。
お隣さんがちょうど帰ってきて、その場に鉢合わせしてしまったのだ。
パン屋の女は、標的を俺からお隣さんに変え、その場で押し倒した。
驚き、助けを請うお隣さんを、俺は見続けることができず、扉を閉めてしまった。
後はもう、扉越しに二人の嬌声を聞くばかり。興奮して、俺達も負けじと交わった。

まさか、部屋の外まで飛び火してしまうとは…。
考えたくはないが、恐らく、明日には…。


狼の月 27日 曇り

予想通りといえば、予想通りだが。
薄壁を通して、四方八方から男女の喘ぎ声が聞こえてくる。
火は燃え広がって、寮全体を焼き尽くす炎へと変わったようだ。

これだけでも悩ましい状況ではあるが、心配事がもうひとつ。
昨日の件が気になって、今朝、ちらりと外の様子を覗いてみたのだが、
パン屋の女とお隣さんは、変わらず扉の前でアンアンお楽しみ中だった。

しかし、驚いたのはパン屋の女の姿だ。
昨日までは人間であった彼女が、いつの間にか『マタンゴ』になっていた。
その乱れっぷりは、ウチのキノコにも引けをとらない。お隣さんも大変そう。
どうやら『マタンゴ』の魔力に中てられると、女は同種の生物になってしまうらしい。

恐らくはもう、寮に住む全ての女性が…。
いや、もしかすれば、既に学園の方にまで…。

俺の単位はどうなってしまうんだ?


狼の月 28日 雨

彼女がどうやって仲間を増やしているのかが解明できた。
胞子だ。彼女は普通のキノコと同じように、胞子を飛ばすのだ。

その謎に気付いたのは、つい先刻の事。
彼女の頭を撫でたところ、肉視できるほどの胞子が撒かれたのだ。
何事かと慌てた俺は、彼女に尋ねたところ、それは子供だと言う。
彼女が喜びを感じた時に、それらは周囲へと撒かれ、空気中を漂う。
普段も微量ながら出しているらしく、パン屋の女はそれを吸ったらしい。
たちまち彼女の体内でキノコが成長し、宿主を乗っ取った…という流れだ。

なんと恐ろしいことか。俺なんて大量に吸ってしまっている。
男が吸うと、『マタンゴ』に依存するようになると彼女は言うが…。
日頃の行いか、今はまだ大丈夫のようだが、いつ精神を乗っ取られるか分からない。
今度外に出る機会があれば、下剤やうがい薬を買っておいたほうが良いだろう。

何度でも言うが、俺は彼女と純愛がしたいのだ。
そのためにも、今のクールな俺を保ち続けたい。


狼の月 29日 曇り

相も変わらず、彼女と肌を重ねる一日だった。
もう俺もキノコの一部なんじゃないかと思うくらい、ずっと抱き合っている。
こうしてセックスをしながら日記を綴ることにも慣れてきた。さすがは俺だ。

そういえば、今日は嬉しいことがあった。
俺の思いが伝わったのか、彼女は少しだけ淑やかになったのだ。
性に対して貪欲なのは相変わらずだが、その端々に変化がある。
照れくさそうに愛の言葉を囁いたり、触れ合うだけのキスを求めてきたり…。
なんというか…女の子らしい、可愛い仕草を見せてくれるようになった。
快感以上のモノを求め合うのは、まさしく俺が望んだ恋愛だった。

俺も鬼ではない。彼女の想いには、全力で報いようと思う。
ひとまず、彼女が望んでいることを叶えてやろうと考えている。
綺麗な服でも、美味い料理でも、欲しいものをひとつプレゼントするのだ。

ただ、目下の悩みとして。買い物をするには外に出なければいけない。
俺が気を許して話せるのは、彼女とパン屋の女くらいだ。他は目を合わせるのも無理。
出来ることならば、彼女には敷居の低い店で買えるものを望んでほしいが…。

さて、どうなることやら。
その答えを、今から聞いてみるか。


狼の月 30日 晴れ

外怖い。もう出ない。
ずっと彼女と一緒がいい。


狼の月 31日 晴れ

昨日は、語るにも恐ろしい地獄の試練があったが。
それを乗り越えて、俺はなんとか財宝を掴むことができた。

俺はお宝を手に、それを恭しく彼女の薬指にはめてやった。
三ヶ月分の給料どころか、俺の今までの貯金がパーになった一品だ。
しかし、どんな宝石にも勝る、彼女の幸せそうな顔を見れたので満足としよう。
俺は優しいのだ。彼女が望むなら、怖い外の世界へと踏み出すこともやぶさかではない。

しかし、なんとも。本当に幸せそうだ。何を泣いているのだか。
たかだか金属の輪っかだろう。それも安物だ。俺の貯金ではそんなもの。
それに、出会って2週間ばかりの相手に望むような代物じゃあないだろうに。

彼女にとって、今日までの日々はそこまで濃いものだったということか。
なるほど、思い返してみると、俺の波乱万丈の日々の中でも、今月は特に色濃い。
それも彼女という存在が、俺の部屋のティッシュ屑にて芽吹いたのが始まりだ。
右手が一番だと思っていたのが、おなほーるちゃんと出会って変わり。
それも束の間、今では彼女が一番になって、こうして腰を振っている。

つくづく思う。人生はどうなるか分からない。
前も書いた気がするな、この一文。いつだったか…。

なあ、いつだった? いつまで泣いているんだ、お前。
変なことを言うな。俺まで泣かす気か。日記書いているんだぞ、今。


亀の月 1日 晴れ

女もすなる日記といふものを、俺もしてみたなりが。

文法、これで合っているのか? 俺は博識だから大丈夫だとは思うが。
日記を書くというのは、意外と楽しいものだ。書くのも、見返すのも。
やはり俺には、日記を書く才能があったということだな。さすがと言える。

しかし、悲しいかな、俺にはもう日記を綴る暇が無いのだ。
それほど彼女との生活は忙しい。朝から晩まで、寝る暇無しのセックス漬けだ。
交わりながら日記を綴るというスキルも身に付けたのだが、ひとつ弱点がある。
その間、彼女と口付けが交わせないのだ。今も我慢に我慢を重ねている最中だ。
このキノコの望みを叶えてやるためにも、俺は仕方なく筆を置くことにする。

そういえば、退学コースまで残り1年と5ヶ月か。留年含めて。
月日の流れとは早いもの。あれからもう1ヶ月も経ってしまった。

が、しかし。

今後は彼女との子作りに力を注ぐため、講義に出る気は毛頭ない。

グッバイ、単位。ハロー、マイワイフ。
俺達の未来に、幸多からんことを願って。
12/10/04 00:58更新 / コジコジ

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