恋するための三箇条。
ゆかしく、慎ましく、淑やかに。

「いらっしゃいませーっ♪」

そんな、ジパングの理想的な女性像。
なんて耳心地の良い言葉だろう。おっしゃる通り。
私もそんな女性になれたらば、どんなに素敵なことかと思う。

でも、その言葉は、ここにいる全員に似合わない。
誰もが皆々、貪欲だから。もちろん、私も含めて。

「こちらが当店の女の子の一覧となります。どうぞお選びください♥」

手渡された一覧表を見つめ、選別を始める若い男性。お客様。
瞬間、彼に注がれる、いくつもの熱い視線。未婚の女性達。
そのひとつひとつが、期待を纏って、恋慕に濡れている。

…恋慕、と言ったけれど、それは少し間違いかもしれない。
正確に述べるのなら、恋に落ちる直前の目をしている。
彼が、この中の誰かを選んだ瞬間、その人の視線だけが恋慕に変わるのだ。
残りはみんな、揃って落胆。あからさまに落ち込む人もいれば、
自分の気持ちを隠して、選ばれた女性を祝福する人まで、様々。

それが、このお店での日常風景。連日連夜、この繰り返し。

「お決まりですか？ …はい、稲荷の伊奈ちゃんですね。伊奈ちゃーんっ」

そんな私達のお勤め場所が、ここジパングの街、キョウトにある遊郭。

遊郭というのは…どう説明すればいいだろう。
まず、仕組みとしては、お見合いのそれに近い。
お店にはたくさんの女性…魔物も、人も、様々な女性がいて、
来店した男性が、その中から気に入った女性を一人だけ選択する。
後は二人で個室に入り、おしゃべりやお遊戯等、好きなことを楽しむ。
それでお互いの気が合えば、そのまま結婚…という流れが、一般的。

ただ、お見合いと大きく違う点がひとつだけ。
遊郭には、個室…つまり、二人だけの秘密の場が設けられている。
感極まった二人が、そこで初夜を過ごすのも、本人達の自由なのだ。
あるいは、今一歩踏ん切りがつかない相手を、性的に誘惑して、
力尽くで自分に惚れさせてしまう…なんていうことも、自由。

つまり、性愛も視野に入れた人のための、お見合い場なのだ。

「それでは、ごゆっくりお愉しみくださいませ♥」

そんなお店だからこそ、ただ単に、濡れ事目的のためだけに来るお客様もいる。
でも、それをただでは帰さないのが、遊郭に勤める女性達の底力。
軽い気持ちで来た男性を、あっという間に骨抜きにして、自分の伴侶にしてしまう。

過程や方法はともかく、こうして夫を持った女性は、遊郭から卒業する。
お勤め中に、食事や洗濯、接客等を経験しているので、花嫁修業もバッチリ。
結婚率は余裕の十割。恋に迷う男性も女性も、ここに来れば必ず結婚できる。
必要なのは、食事代等のお金だけ。指名した女性に払って、後はお好きに。

それが、遊郭というお店。大人達のお見合い場。

「…ふぅ」

とはいえ…将来の旦那様がいつ訪れるかは、誰にも分からない。
私なんてまだ良い方で、先輩の中には、かれこれ８年勤めの人もいる。
必ず結婚できるといっても、すぐに…というワケにはいかないのだ。

…ちら、と横目で、柱に掛かった古時計を見る。
針が射す時間は申の刻。そろそろお天道様が沈む頃。
客足が伸びる時刻には、まだまだ早い。次のお客様はいつだろう。

「………」

ぼんやりした頭で、先程のお客様のことを考える。

彼は一覧表を受け取るなり、真っ先に稲荷の項を開いていた。
彼ばかりじゃない。大抵のお客様が、受け取ってすぐにお目当ての項を見る。
誰かはさておくにしても、どんな種族が好み…というのがあるんだろう。

こうして受付の仕事をしていると、嫌でも気付いてしまうことがある。
それは、私…ジョロウグモの項を見てくれるお客様が、とても少ないということ。

どうしてなのか、自分では理由が分からない。
下半身のせいかもしれないし、ただ単純に、他の種族を好きな方が多いだけかもしれない。
とはいえ、やっぱり…残念というか、悲しいというか…そんな気持ちが湧いてくる。
８年勤めの先輩も、ジョロウグモだし…とても他人事だと思ってはいられない。
のんびりやのはずの私の心に、焦りや不安が、積もり積もっていくのを感じる。

「……はぁ〜っ…」

…もしかしたら、私、このまま結婚できないのかも…。

「………ん？」

ふと、気付いたら…出入り口の引き戸が、僅かに開いている。
猫でも入り込んだかのような、細い隙間。手が通るくらいの…。

その隙間に、ひょこっと現れる顔。
子供の顔だ。男の子の顔。

「………」

……しばし見つめ合った後…おずおずと入ってくる少年。
胸の前で、がっしりとお財布を握り締めて。

「…えーと…」

…若い。若過ぎる。ここに入ってきていい年齢じゃない。
本人もそれは自覚があるのか、恥ずかしそうに俯いている。

薄汚れた服。貧困な家の子のように感じられるけれど…。
もしかしたら、迷子か何かで、ここに入ってきたんだろうか。

「どうしたの、坊や？ 迷子？」

問い掛けると、顔を上げ…私を見つめながら、固まる彼。
どことなく、震えているようにも見える。どうしたんだろう。

「…坊や？」

再び問い掛けると…彼は突然、深々と頭を下げた。
驚く私に差し出されたのは、彼が大切そうに持っていたお財布。

………まさか、この子…。

「…坊や、もしかして……お客様？」

問い掛けに、男の子が小さく頷く。

…まさか、本当にそうだとは思わなかった。
ませた子供なんていくらでもいるけれど、どんな無鉄砲な子でも、
こういったお店に入るのは、腰が引けて無理だというのに。
ましてや、どう見ても大人しそうな子。余計に驚きが大きい。

それに、この差し出したお財布…。
私にお金を払う…、ということは……。

「……私を…買いたいの…？」

もう一度…小さく頷く、彼。

「っ…♥♥♥」

瞬間、私のくすんだ心に、虹色の光が差し込む。
ドキドキと高鳴る胸。かぁっと熱くなる顔。
忘れ掛けていた魔物の本能が、身体の奥で疼き始める。

まるで百年来の恋が叶ったかのような、奔流する気持ち。
それでいて、初恋の少女のように。頭の先まで熱が昇って。
目の前の、私を好きと言ってくれた男性に、心の全てが奪われる。

一目惚れというのは、きっとこういうことを言うのかもしれない。

「ぁ…♥」

もう、いてもたってもいられなかった。
私は番台から跳び出て、その子を抱え、一番近くの空き部屋へと走った。
代わりの店番を頼むのも忘れて。お財布の中身の確認も忘れて。
これくらいの小さな子は、店に上げてはいけないことも忘れて。

そして、部屋の前へ。ここまで、抵抗せずに抱きかかえられたままの彼。
障子戸を片側全開に、部屋に入り、彼を布団に寝かせて、ぴしゃりと閉める。
出来上がる、二人だけの空間。何をしても許される、秘密の空間。

「さっ♥ しましょっ♥ おねえさん、もう待ち切れないの♥」

選んでくれたことに対するお礼も無しに、はしたない要求。いや、半ば命令。

普通なら、まずは食事でもして、お互いの趣味や人柄を訪ね合うところ。
でも、そんなもの、どうでもいい。そんな些細なことは気にならない。
私のことを選んでくれた。私にはもう、それが何よりもの恋愛条件。

それに、この子だって。
いやらしいことをしてくれる女性を選びに来ただけ。
だって、ほら、アソコをこんなに勃起させている。痛々しいほど。
ここがそういうお店だって知っていたから。自分もしてほしかったから。
そうなんでしょう？ 別に、私でなくても良かったんでしょう？

でも、いいの。それでもいいの。
それなら、私を好きになってもらえばいいだけ。
私が貴方を愛していることを、教えてあげるだけ。
どれほど嬉しい気持ちなのかを、刻んであげるだけ。

それだって、ひとつの愛の始まり方だから。

「なぁに？ 今更、照れちゃって♥ こーゆーコトがしたくて、来たんでしょう？♥」

身体を屈めて、股間を手で押さえる彼。
服越しに匂う雄の香り。そこに、雌の残り香は微塵も無い。

まだ経験の無い雄と知り、ますます身体が火照る。
つまり彼は、筆下ろしも兼ねてここへ来たということ。

なら、優しく下ろしてあげよう。一生涯、忘れられぬほどに。

「ほぉらっ、そんな子は…えいっ♥」

上半身を伏せ、お尻をもたげて、彼の手足へ向け糸を噴き掛ける。
驚く彼をよそ目に、糸はグルグルときつく絡まり、手首、足首を縛り上げていく…。

「うふふ…♥ それっ♥」

そして、糸噴く先を天井へ。
粘ついた蜘蛛糸は天井に巣を張り、いくつもの糸を垂らす。
その内の数本を、彼を縛る糸と結び…小さな身体を、宙にぶら下げた。

「あらあら、カエルみたいになっちゃったわね♥」

足首を縛る糸の境を、前足で切り、大股開きにさせる。
晒される、褌に滲んだ、小さな染み。思わず目が奪われる。

いきなりこんな辱めを受けるとは思っていなかったのか、
彼は耳まで真っ赤になって、今にも泣き出しそうな表情。
顔を手で隠そうと、腕を引き、ギシギシと天井を軋ませて。
恥ずかしくて、恥ずかしくて、たまらない。それが彼の胸の内。

そのあまりのいじらしさに…思わず、涎がこぼれ落ちる。

「大丈夫♥ キモチよくしてあげるから…♥」

彼を抱き寄せ、張った天幕に指を這わせる。

既に精一杯勃起した、熱く硬い彼の陰茎。
すっぽり手の中に収まる大きさ。私の中指ほども無い。
それでも、私にとっては、逞しく、彼の雄を象徴するもの。
愛おしく撫で上げながら、掌で彼の欲望を味わう…。

「ここにいっぱい溜まってるの…全部出しましょうね…♥」

ビクンッと震える、彼の身体と、小さな一物。
初々しい反応に、刺激される母性と加虐心。

…と、

「えっ…？」

…ぼたぼたと垂れ落ちる…白濁した液体。
褌越しに、掌へと滲み出てくる、どろどろとした…。

精液。射精してしまったようだ。
余程溜め込んでいたのか、それともひどく敏感なのか。
どちらにせよ、三擦り半も保たず、彼は限界を迎えてしまった。

「…我慢、できなかった？♥」

顔を伏せ、荒く息を吐く彼に問い掛ける。

答えることもなければ、首さえ振らない彼。
小刻みに身体を震わせて、快感の余韻に酔っている様子。
初めて自分以外の手で達した快感。どれほどの味わいだろう。

女性の私には、男性である彼の悦びを知る由は無いけれど…
でも、その快感を何度でも味あわせてあげることはできる。

「いいの…♥ 我慢しないで、好きなだけ…♥」

褌を解き、直接彼のモノに触れる。
今だ痙攣を続け、わずかに精液を吐き出す一物。

まだ敏感であろうそれを…容赦無く、激しく擦り上げる。

「オシッコみたいに、びゅーって出して…♥」

強烈な刺激に、泣き喚き、暴れる彼。
それでも手の動きは止めない。小さなそれを虐め抜く。

精液と愛液がグチャグチャに混ざり、皮に擦れていくつも泡立つ。
リズム良い水音を響かせながら。聴き、恍惚としてしまう私。

「…ん？♥　もう出ちゃう？♥ また？♥」

先の射精から一分も経たない内に、彼が二度目の射精を告げる。
その言い方は、懇願のようでもあり、許しを乞うようでもあり…。
私の欲望を満たす、ひどく興奮する喘ぎ方。ゾクゾクが治まらない。

人差し指と中指で挟んだ竿を撫でれば、トロトロと愛液を吐き出し。
親指を添えた亀頭を押し潰すように擦れば、ヒクヒクと鈴口を開いて。
幼い彼の陰茎は、少しずつ、少しずつ膨らみを増していき……。

「きゃっ♥♥♥ ぁ…♥」

…先程よりも、勢いよく放たれる精液。
宙に飛び散りながら…私の身体や、布団、畳に降り注がれていく…。

「もったいない…♥ …んっ♥ ぢゅっ、ぢゅるっ…♥ ちゅぅぅぅ…っ♥」

そこへ不意打ちと言わんばかりに、跳ねる一物を、ぱっくりと咥え込む。
口の中に注がれる、濃厚な彼の子種。こちらの口から妊娠してしまいそう。

咽を鳴らして飲み込んでいると…暴れていたのが一転、急に大人しくなる彼。
私の頭を、力ない両手で押さえて、切なく、か細い声で私を呼んでいる。
どうやらもう、抵抗する力も残っていないらしい。されるがまま。
今の彼では、赤ん坊にすら押し負けてしまうかもしれない。

「ごくっ…♥ ちゅっ…♥ ん……ぅ…？ んぅっ♥ んぐぅっ♥♥♥」

そして、三度目。
彼の睾丸と尿道を塞ぐ弁が、壊れてしまったかのよう。
本当に、オシッコみたいに溢れ出てくる。止め処なく…。

「んくっ…♥ ぢゅるっ♥ ちゅぅぅっ…♥ ちゅ♥ ごくっ♥ ちゅ…♥」

むせ返りそうな量。それでも、一滴残さず飲み干す。
彼はもう、半ば放心状態ではあるけれど。悦んでくれている。
私が精液を飲む度に、小さく、呻き声を上げて、悦んでくれている。

私も。私も、嬉しい。
彼は気付いていないかもしれないけれど、私の現状…
はしたなくもアソコから蜜を垂れ流して、床まで糸を引いている。
彼と同じ。触れられただけで、達してしまいそうなほどの疼き。
彼の悦びを感じる度に、疼きはなお強まり、私を狂わせる。

「ぷはっ…♥ はっ♥ ほらっ、おっぱい♥ おっぱいでしてあげるっ♥」

帯を解く手間も惜しんで、着物を肩口からずり下ろし、胸をはだける。
そのまま彼の股ぐらに押し付けて、滾る一物を、すっぽりと覆い隠した。

両側から腕で挟み込むと、胸の中に感じる、彼のモノ。
まだ精液を放っている。止まらない。勢いが強いか、弱いか、それだけ。
すぐに胸から溢れて、上に出たものは水溜まりに、下に出たものは滝に…。

「キモチいいっ？♥ んっ♥ キモチいいわよねっ♥ ぴゅっぴゅしてるものっ♥」

前後に動かしたり、擦り合わせたり、乳首で触れてみたり…。
ひとつひとつの刺激に、応える様にして彼は精液を吐き出す。
蜘蛛糸に絡まれた彼の身体よりも、彼の出す粘液によって、
白く、いくつもの糸を引いて、どろどろに染め上げられていく私。
鼻を突く匂い、肌に感じる熱に、脳から蕩けていく魔物の身体…。

「出してっ♥ もっとっ♥ もっとぉっ♥ あぁっ…♥」

顔に、胸に、手に、お腹に、アソコに…。
全身に彼の愛を受けながら、なお隙間を埋めるように求める。
もう、成人の男性でもあり得ないほどの量を出している彼。
それでもまだ、足りない。まだ、まだ、まだ、もっと…っ！

「ここっ…♥ ここもぉっ♥」

ドロドロの身体で彼に抱き付き、ねだる。
まだ彼の愛に染め上げられていない、その場所。
彼の意思を問うような口振りで、まるで自分勝手な身体。

疲労困憊で、とうとう鳴く気力も無くなった彼の、
唯一、力を残したそれを…私は、貪るように迎え入れた。

「ふあああぁぁぁっ♥♥♥♥♥」

同時に、ぶつんと切れ落ちる、彼の手足を吊るしていた糸。

落ちそうになったからか、それとも挿入の刺激に反応してか、
彼は私の身体に手足を絡め、ぎゅうっと強く抱き締めてきた。
根元まで挿し込まれた陰茎から放たれる、何度目かも分からない射精。
彼にとって、初めての交尾。そして、初めての膣内射精。

「す…っ、すごっ…ぃ…♥♥♥ でてる……ぅ…っ♥♥♥」

それは、私が達するのに充分過ぎるほどの快感。
彼の身体を抱く両手、彼のお尻を掴む前足、彼の体重を支える後足。
全てがガクガクと震えて、今にも彼を落としそうになってしまう。

刺激と幸福、悦楽を噛み締めながらも、必死に耐える。
まだ、まだ終われない。まだ膣内は、子宮は彼の子種で満たされていない。

「くぅっ…♥ ふっ…♥ うっ…♥ んぅっ…♥」

痺れる前足を動かして、なんとか彼の腰を動かす。
いわゆる対面座位の形。男女の立場を逆にして。

「んんっ…♥ あっ…♥ はっ…♥ ん…っ♥」

…私の想いは、彼に伝わっているだろうか。
これほどまでに貴方が欲しいという気持ちが。
貴方をどうか、私のものにさせてほしいという気持ちが。

そして、私をどうか、貴方のものにしてほしいという気持ちが。
もっと貴方のもので染めてほしい。糸を幾重にも絡めてほしい。
私が貴方のことを、自分のものだと象徴するように。
貴方も私のことを、貴方のものだと象徴してほしい。

「もっとっ…♥ もっと…だしてぇ…っ♥ あっ…♥」

満たして、満ちて。心も、身体も。

私を選んでくれた貴方。例え気紛れでも。
嬉しかった。どうしようもなく嬉しかった。
貴方に伝えたい。まだ伝え足りない。もっと…。

「ふぁっ…♥ わ…、私もっ…♥ すごいの……きちゃ…ぅ…♥」

茜差す夕焼けの障子戸。
軒下で獲物を捕らえ、糸を絡める蜘蛛。

ゆっくりと、ゆっくりと。愛おしいものを包むように。

「あぁっ…♥ 好きっ…♥ 好き…ぃっ♥ ふぁっ…♥」

もっと糸を紡ぎたい。互いの愛を紡ぎたい。

「あっ…♥ んっ♥ あっ♥ あぁっ♥ あっ♥ ふぁっ♥」

もっと…。

「やぁっ♥ だめっ♥ いっちゃうっ♥ いっちゃうぅっ♥ ふぁぁっ♥」

糸を………っ。

「ぁっ………ひあああぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜っっっ♥♥♥♥♥♥♥」

……………

………

…

「ふふっ…♥ まだまだ出るわね…♥」

床一面、雪積もったかのような白染めの中で痙攣する彼を、うっとりと見つめる。
もう何十…いや、百何回出しただろう。彼の射精は、今だ留まるところを知らない。
私の魔力の影響か、彼の持ち前の絶倫さか…。どちらにせよ、それはとても嬉しいこと。

「次は…おクチと胸でしてあげる…♥」

気付けば、蜘蛛糸で固く閉ざした戸から、薄い光が差し込んでいる。
もうそろそろ夜が明けるらしい。結局、夜通しでしてしまったようだ。

日が昇ったら、一度外に出ようと思う。
皆に心配を掛けてしまっているだろうし、彼の件もある。
店長には正直に話して、その上で御叱りと了解を貰おう。
…彼の両親からは、御叱りだけでは済まないかもしれないけれど。

「んっ…♥ ちゅっ…、ぢゅるっ…♥ れろ…♥」

でも、それまでは、まだ。まだ時間がある。
今はゆっくりと楽しもう。この二人だけの世界を。彼を愛する時間を。

ここは私の巣。私と彼の、愛の巣。
切れることのない糸。ふたりを繋いで。

「ちゅ…♥ キモチいい…？♥」

恋するための三箇条。
ゆかしく、慎ましく、淑やかに。

それは目標ではあるけれど。
されど愛には貪欲に。正直に生きたい。
こんな私を愛してくれる彼のために。
こんな女を愛してくれる男のために。

「…うふふ♥」

だから、もう少しだけ。
もう少しだけ、この巣を壊さないで。

「好き…♥ 愛してる♥」

彼と、初めて作った巣を。