育愛許嫁
命は、愛を育み、子を生していく。
それはきっと、未来永劫変わらない。
「失礼します」
引き戸を開き、一礼。
行燈が灯り照らす部屋の中。暗がりは広く。
しかし、その中ではっきりと映る影がひとつ。
白い寝間着を羽織った、少年の姿。
まだ青さの残る顔立ち。やっと太刀を携えられる背丈。
布団の脇に座し、緊張した面持ちでこちらを見つめている。
あの子こそが、私の愛する許嫁。
「………」
部屋に入り、戸を閉める。
同時に、顔を伏せてしまう彼。ほのかに頬が紅い。
恥ずかしがりやの彼は、剣の名門の跡取り息子。
当主が５５の時に儲けた、第一子にして長男坊。
心優しく、思慮深く。口数少ないところも親譲り。
剣の腕も冴え渡り、将来を有望されている子だ。
対して、私も名のある一族の娘。金毛白面様の血を継ぐ一族。
伏見稲荷大社にて、神格として扱われている稲荷の一人が、
私の１３代前のお婆様と言えば、どれほどのものか伝わるだろうか。
ただ、私自身はいたって普通の稲荷であり、強い魔力もない。
言わば、ご先祖様やお婆様のおこぼれを頂いてしまっている身。
「…今宵は、冷えますね」
振り返れば、障子に斑点の影。
月明かりが照らす、雪の版画は幻想的に。
しんしんと、しんしんと。朝には如何ほど積もるだろう。
「………」
恭しく…彼の隣へ、身を寄せる。
彼は、ちらりとこちらを見て、また目を背けてしまう。
いつもの彼のようでもあり、違う一面の彼のようでもあり。
…私が彼の許嫁となったのは、彼が生まれた日。
以前から当主と親交を結んでいた私の母は、そのめでたい席で、
出産を祝う言葉と共に、ありがちな…軽い冗談を言った。
しかし、それを当主は真に受け、母に深く頭を下げたそうだ。
まさに瓢箪から駒。母も深々と頭を下げ、これを喜んだ。
その日から私は、彼の恋人となった。
と言っても、相手は赤子。当然私は驚いて、初めは断った。
母もその点は悩んでいたらしい。しばし腕を組んで考える。
…が、次の瞬間、とんでもない一言が飛び出した。
貴女好みに育てちゃいなさい、と。光源氏計画である。
「…緊張しているのですか？」
その一言に…頷く、彼。正直者。
正直な答えは、彼の男らしさを下げてしまうけれど。
それ以上に、隠さず打ち明けてくれる姿勢に、嬉しさを感じる。
彼がここまで私に心許してくれているのにも、理由がある。
それは、先に話した光源氏計画の一端で、許嫁を誓った日から、
四六時中…それこそ、彼の母親と同じくらいの時間を、彼と共に過ごしてきたから。
寝食だけでなく、学び、遊び、お風呂も一緒。互いの全てを見せ合って。
一緒にいなかったのは、彼か私が厠に行く時くらい。おしめだって取り替えた。
つまるところ、彼にとっての私は、もう一人の母親であり、
今の年齢から見れば、姉のようでもあり、そして恋人なのだ。
だから、私の前ではこれほどまでに素直で、甘えん坊になる。
それは誰かが意図したものではない。彼自身が育んだもの。
私が注意したのは、彼に絶え間ない愛情を注ぐこと。
それだけだ。それこそが、私の光源氏計画。
「…♥」
彼の頭に手を乗せると、びくっ…と震える身体。
その様子に愛おしさを感じながら、瑞々しい髪をそっと撫でる。
今宵は、光源氏計画の集大成。
成人を迎えた今日、当主も公認の、彼の筆下ろし。
彼もそのことは前々から聞いていて、ずっと落ち着きがなかった。
急に私のことを意識し始め、一緒にお風呂に入るのを避けようとしたりした。
若干遅れて訪れた、彼の思春期。
初々しく、あからさまで、今更な。
「…では…」
彼の耳元で、囁く。
「致しましょう…♥」
三度、顔を上げる彼。
浮かぶのは、期待以上に…不安に満ちた表情。
どうすればいいのか分からない。そう言いたげな…。
私は、彼の温かな手を包み、言葉を紡ぐ。
「大丈夫です…。私に、全てお任せください」
「貴方は、身を委ねてくださるだけで良いのです…」
左手で彼を抱き寄せ、右手で掛け布団を捲る。
小さく呟かれる、彼の言葉。私の名前。少し震えて。
彼の頭と腰に手を回し、ゆっくりと布団へ寝かせる。
私のお願い通り、促されるままの彼。可愛らしい。
「ふふっ…♥」
短な前髪を掻き上げ…顔を近付ける。
不安のせいか、瞑られる目。ほんの小さな、欲への抵抗。
…唇が、重なり合う。
「ちゅ…♥」
……………。
…そっと、離れて。
あたたかい…。これが、彼の唇。
自らの唇に指を当て、感触を思い起こす。
赤ん坊の頃から付き添ってきた彼の唇。それを奪った私。
湧き上がる、この感情は何だろう。感動、背徳、あるいは…。
「ん…♥ ちゅっ…♥」
確かめるように、もう一度、口付けを交わす。
先程よりも深く…、長く、長く息を塞いで。
唇を通して伝わってくる、彼の鼓動。想い。
響き合うように、私の胸も高鳴り、拍が速まる。
この瞬間を待ち侘びていた心は、熱く燃え上がり。
雪の音が静寂に響く中、私達は互いの心音に耳を傾ける。
「ちゅっ…♥ はっ…♥ んっ…、ちゅぅ…♥ ちゅっ…♥」
触れ合いが回を重ねる度に、愛情が欲望に染まっていく。
快感は心の欲を膨れ上がらせ、身体の欲まで求め始める。
もう少し、愛を語り合うような接吻をしたいと思うも、
蝕んでいく劣情に逆らえず、喰らうように求め始める私。
彼の小さな唇を唾液で濡らし…飽き足らず、口内へと舌を捻じ込んだ。
「ぺろ…♥ れろっ♥ ちゅ♥ ちゅぅぅ…っ♥ ぺろっ♥」
それはまさに、無我夢中。
今日まで抑えていたものを破裂させ、貪り狂う一匹の獣。
尻尾や耳を、千切れんばかりに振るって。心のままに、求むままに。
いくら快楽を得ようとも、逸る気持ちが納まらない。もっと、もっと…。
「ちゅっ♥ ぢゅるっ♥ はっ…♥ ぺろ、ぺろ…♥ ちゅぅ…っ♥ ぢゅっ♥」
あぁっ…。
「…ふぁ？♥」
気が付けば…彼は泣いていた。
一瞬、何か酷いことをしてしまったかと背筋が冷えたが、どうも違うらしい。
彼はあまりの快感に耐え切れず、泣いてしまったのだ。
なにせ、彼は今宵が初めて。その初手が、深く激しい口付け。
少し考えれば、そんな強い刺激に耐えられる筈がないと、すぐに分かる。
「あ…♥ も、申し訳ございません…♥」
謝り、目尻を袖で拭いながら、ちらと下へ目をやると…。
…逞しい雄が、私を誘うように反り立っていた。
乱れた際に下着がずれたのか、その身を露わにして。
「まあ…♥」
感嘆を漏らし、それに手を伸ばす。
ピクピクと震えて、待ち兼ねているそれへ…。
そして、先端を優しく包む。
瞬間、大きな震えと共に、大量の愛液が吐き出された。
「…ご立派ですね…♥」
もう僅かもすれば、射精するであろう腫れ物を、やわやわと撫でる。
どうして分かるかといえば、この動き。
大きく膨らんでは、元の形に戻る彼の一物。
まるで陰茎自体が呼吸をしているかのように。
他でもない、精液を押し上げる運動。射精の前兆だ。
普通は、こうなればすぐに出てしまうものなのだが、
そうならないのは、彼が我慢しているからであろう。
一歩踏み出すことに怯えているのか、はたまた、恥ずかしさ故か。
どちらにせよ、私のすることは、その不安を拭い去ること。
それが将来、彼の妻となる者の務めというものだろう。
「力を抜いて…♥ 息を止めずに……、そう…♥」
小さな体を包む、３本の尻尾。
首や、腰、膝元。彼が落ち着けるように。
思い出深い、金色のゆりかご。彼は何を思うだろう。
「…♥ はい…♥ そのまま…♥」
射精の予感を告げる彼に、頬笑みを返して……。
「……あっ♥」
嬌声と共に、私の掌で子種が弾けた。
「…出ていますよ…♥ 熱いのが、たくさん…♥」
びゅっ、びゅっと掌を打ち、垂れ落ちる精液。
間近で見る彼の絶頂に、悶える胸の内を必死で抑え、亀頭を揉む。
勢いを増す射精。鳴く恋人。尻尾の一本を抱いて、必死に耐えている。
「うふふ…♥」
今まで見たこともない、彼の乱れ様。
私も、こんな風に乱れたい。乱れさせてほしい。
思い立ったが何とやら。
自らの寝間着を剥ぎ、放心する彼の前に裸体を晒す。
「…まだ、終いではありません…♥」
ぼんやりとした灯火に、私はどう映っているのだろうか。
障子に描かれた白黒の世界より、美しいだろうか。
彼はじっと…私のことを見つめている。
惚けた瞳で。陰茎はなお、大きさを保ったまま。
少しずつ、荒くなっていく呼吸。私か、彼か。
堪え切れずに、襲う獣は、どちらが先か。
「さあ…♥ 次は、口でご奉仕致します…♥」
跪き、硬い彼のものに、頬を擦り寄せる。
むわりと匂う、雄の香り。
興奮し、私の雌が、はしたなくも蜜を溢れさせる。
私だけを犯すための性器。私だけと子を育んでくれるための生殖器。
昂りが止まない。早くこれで、私を貫き、孕ませてほしい…。
「…はむっ♥ ちゅ…、ぢゅっ…♥ ぢゅるっ…♥ ぺろ…♥」
匂いを胸いっぱいに吸い込みながら、ほおばる。
口の中に広がるのは、独特な味わい。彼の味。
大好きな油揚げよりも、涎を垂らして、しゃぶりつく。
「ちゅぅ…っ♥ ちゅ…♥ ぢゅっ…♥ ぢゅるるっ♥」
尿道の中に残った僅かな精液が、愛液に混じって吸い出てくる。
飲み込むと、それは私の咽を焦がし、胸を焦がし、脳を焦がして。
雌の心を呼び覚ます。この雄に服従したいと。愛されたいと。
「はぁっ…♥ んっ、ぢゅるっ…♥ ちゅ♥ ちゅ♥ ちゅ♥ ちゅぅぅぅ…っ♥」
そして、まだ残っていないかと、必死に吸い付く口。
舌を鈴口や裏筋に這わせ、滴も残さず乞い求める。
「んぐっ♥ ぢゅっ♥ ぢゅるっ♥ んっ♥ ぢゅっ♥ んぅっ♥」
終いには、顔を前後に動かして。
彼の可愛い一物を、根元から先端まで、唇で撫で上げる。
休む間もなく送られる刺激に、私の肩に手を置いて、
声にならない声を漏らす彼。いじらしい。犯し甲斐がある。
「んむぅぅっ…♥ んっ♥ んぐっ♥ んぅぅっ♥」
…そんな激しい愛撫をしながらも、私は密かに、
自らの指を股の間に這わせ、自身の疼きを慰めていた。
指に絡む愛液の量は、尋常ではないの一言に尽きる。
彼との子供が作りたくてたまらないと、むず痒く。
それが一番の、愛の証だから。それが何より欲しいから。
「ぢゅるるっ♥ ぢゅ…っ♥ はっ…♥ も、もうっ…♥」
とうとうその想いは、私の身体を突き動かす。
彼の身体を抱き締めて、ごろんと横へ転がり。
彼を上に、私を下に。身体を重ねて、想いを伝える。
「犯してっ♥ 犯してくださいっ♥ 早く…、早くぅっ♥」
懇願。言葉遣いも忘れて乞う。
彼の一物を掴み、自らの秘部に先端を擦り付けながら。
本当ならば、彼をそのまま押し倒し、入れてしまいたかった。
だが、それでは駄目だ。駄目なのだ。彼の気持ちを知ることができない。
彼は本当に、私を妻として見てくれるのか。母でも、姉でもなく。
私との子を儲けたいと思ってくれているのか。それが知りたくて。
だから、どうしても彼の方から挿れてほしかった。彼自身の意思で…。
「ねえ…っ、早くっ…♥」
後は、彼が腰を少し前に出すだけ。それだけなのに。
待ち遠しくて、待ち遠しくて、急かす声が漏れ出てしまう。
彼自身に決めさせたいのに、それを惑わす言葉が出てしまう。
魔物としてのサガが憎い。雌としてのサガが憎い。でも、でもっ…！
「っ…♥」
ぁ…。
「ふあっ…ぁっ、ああぁぁぁ〜〜っっっ♥♥♥♥♥」
その時…私の全身を、包み覆ったのは。
幸福、情愛、悦楽、感慨、恋慕、屈服、いっぱい…。
「あぁっ…♥ 好きっ♥ 好きですっ♥ 愛していますっ♥ あぁ…っ♥」
彼の想いと、私の想いが、出会い、かっちり噛み合う。
嬉しさのあまりに、達してしまう身体と心。
ずっと想って。ずっと傍に居て。ずっと愛を注いで。
それを今、彼は全て返してくれた。応えてくれた。
同じだけの幸せを……違う、それ以上の幸せを。喜びを。
「動いてっ♥ 子作り…子作り、しよっ♥ ねっ♥」
腰を振り、促すと…動き始める彼。
勝手が分からないらしく、前後に動くだけの、単調なもの。
でも、それでも私には、狂いそうなほど気持ちいい。逝ってしまいそう。
「ふぁぁっ♥ んっ♥ そうっ♥ 上手っ♥ 上手だよっ♥」
彼の腰に脚を、首に腕を掛け、更に強く抱き締める。
私が感じている気持ちを、少しでも多く伝えようと。
滾る陰茎は、私の膣内をぐちゅぐちゅと掻き混ぜる。
深い位置で小刻みな動作を繰り返しながら、刺激を迸らせて。
稀に、ちょん…と子宮口を突く先端は、言葉にならないほどの快感。
毛の一本一本が逆立ちそうな、凄まじい電流が駆け巡る。
「もっとっ♥ ひぁっ♥ もっと…おく…ぅ♥ つきあげ…っ…ひゃうぅっ♥」
不意に、制御の利かない尻尾達が、彼の身体を這い回る。
絡み付いたり、撫で回したり、先端でくすぐったり…。
それに感じてしまう、彼と、私。自分に自分が追い込まれていく。
「らめっ…♥ きゃうっ♥ りゃ…、りゃめぇぇ…っ♥ しっぽっ…、しっぽよわいのぉっ♥」
チカチカする視界に映る、苦しそうな…蕩けきった彼の顔。
膣内で感じる、膨らんでいく彼の陰茎。これは、そうだ、きっと…。
「で…でるのっ？♥ でちゃうのっ？♥ しゃせいしちゃうのっ？♥」
何度も頷く彼。心が、一色に塗り潰される。
「だしてっ♥ しゃせいしてっ♥ こづくりっ♥ こづくりぃっ♥」
「いっぱい…んんっ♥ いっぱいそだてよっ♥ こども…♥」
「わたし、わかるからっ♥ こどものそだてかた、わかるからっ♥」
「だからっ……ふぁっ、あっ♥ だっ…だからぁっ♥ ひあぁっ♥」
「あっ♥ はっ♥ やっ♥ やぁっ♥ あっ♥ あっ♥ あっ♥ あっ♥ あっ♥ あぁっ…♥」
「あああぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜っっっ♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥」
……………
………
…
「母上ーっ」
ふと、私を呼ぶ声。
振り返ると…家の門のところで、手を振る娘。
塾の鞄を肩から下げ、こちらに走り寄ってくる。
「父上はどちらですか？ 会いとうございますっ」
もうすっかり聞き慣れた、おじいちゃん譲りの喋り方。
お義父様はこの子にべったりなので、自然と覚えてしまったのだ。
悪いというワケではないが、友達にからかわれないか、少し心配だ。
「まだ道場の方、ですか…」
少し残念そうな様子。
どうしたのだろうと思い、膝を下ろして問う。
「実は…」
…もじもじしている…。２本の尻尾を絡ませて。
これは、思ったより重大なことの様だ。
「………」
……………。
「……気になる殿方が…いるのであります…」
………え？
「それで父上に、殿方には何をすれば喜ぶのか、尋ねたく…」
…なるほど。なるほど、なるほど。
決まった。今夜はお稲荷寿司。山盛りに。
「母上は、どうすればよいかご存知ですか…？」
不安げな娘の頭を撫で…立ち上がり、手を繋ぐ。
羊羹でも摘まみながら話そうか、と言葉を掛けながら。
命は、愛を育み、子を生していく。
それはきっと、未来永劫変わらない。
だからこそ、愛し合った祖先を誇りに思う。
だからこそ、愛し合っていく子孫を励ましたい。
「母上。私も、その殿方と…」
その営みこそが、命が一番輝く時なのだから。
「父上と、母上のように、仲良くなりとうございますっ」
そう、この子も、今……。
それはきっと、未来永劫変わらない。
「失礼します」
引き戸を開き、一礼。
行燈が灯り照らす部屋の中。暗がりは広く。
しかし、その中ではっきりと映る影がひとつ。
白い寝間着を羽織った、少年の姿。
まだ青さの残る顔立ち。やっと太刀を携えられる背丈。
布団の脇に座し、緊張した面持ちでこちらを見つめている。
あの子こそが、私の愛する許嫁。
「………」
部屋に入り、戸を閉める。
同時に、顔を伏せてしまう彼。ほのかに頬が紅い。
恥ずかしがりやの彼は、剣の名門の跡取り息子。
当主が５５の時に儲けた、第一子にして長男坊。
心優しく、思慮深く。口数少ないところも親譲り。
剣の腕も冴え渡り、将来を有望されている子だ。
対して、私も名のある一族の娘。金毛白面様の血を継ぐ一族。
伏見稲荷大社にて、神格として扱われている稲荷の一人が、
私の１３代前のお婆様と言えば、どれほどのものか伝わるだろうか。
ただ、私自身はいたって普通の稲荷であり、強い魔力もない。
言わば、ご先祖様やお婆様のおこぼれを頂いてしまっている身。
「…今宵は、冷えますね」
振り返れば、障子に斑点の影。
月明かりが照らす、雪の版画は幻想的に。
しんしんと、しんしんと。朝には如何ほど積もるだろう。
「………」
恭しく…彼の隣へ、身を寄せる。
彼は、ちらりとこちらを見て、また目を背けてしまう。
いつもの彼のようでもあり、違う一面の彼のようでもあり。
…私が彼の許嫁となったのは、彼が生まれた日。
以前から当主と親交を結んでいた私の母は、そのめでたい席で、
出産を祝う言葉と共に、ありがちな…軽い冗談を言った。
しかし、それを当主は真に受け、母に深く頭を下げたそうだ。
まさに瓢箪から駒。母も深々と頭を下げ、これを喜んだ。
その日から私は、彼の恋人となった。
と言っても、相手は赤子。当然私は驚いて、初めは断った。
母もその点は悩んでいたらしい。しばし腕を組んで考える。
…が、次の瞬間、とんでもない一言が飛び出した。
貴女好みに育てちゃいなさい、と。光源氏計画である。
「…緊張しているのですか？」
その一言に…頷く、彼。正直者。
正直な答えは、彼の男らしさを下げてしまうけれど。
それ以上に、隠さず打ち明けてくれる姿勢に、嬉しさを感じる。
彼がここまで私に心許してくれているのにも、理由がある。
それは、先に話した光源氏計画の一端で、許嫁を誓った日から、
四六時中…それこそ、彼の母親と同じくらいの時間を、彼と共に過ごしてきたから。
寝食だけでなく、学び、遊び、お風呂も一緒。互いの全てを見せ合って。
一緒にいなかったのは、彼か私が厠に行く時くらい。おしめだって取り替えた。
つまるところ、彼にとっての私は、もう一人の母親であり、
今の年齢から見れば、姉のようでもあり、そして恋人なのだ。
だから、私の前ではこれほどまでに素直で、甘えん坊になる。
それは誰かが意図したものではない。彼自身が育んだもの。
私が注意したのは、彼に絶え間ない愛情を注ぐこと。
それだけだ。それこそが、私の光源氏計画。
「…♥」
彼の頭に手を乗せると、びくっ…と震える身体。
その様子に愛おしさを感じながら、瑞々しい髪をそっと撫でる。
今宵は、光源氏計画の集大成。
成人を迎えた今日、当主も公認の、彼の筆下ろし。
彼もそのことは前々から聞いていて、ずっと落ち着きがなかった。
急に私のことを意識し始め、一緒にお風呂に入るのを避けようとしたりした。
若干遅れて訪れた、彼の思春期。
初々しく、あからさまで、今更な。
「…では…」
彼の耳元で、囁く。
「致しましょう…♥」
三度、顔を上げる彼。
浮かぶのは、期待以上に…不安に満ちた表情。
どうすればいいのか分からない。そう言いたげな…。
私は、彼の温かな手を包み、言葉を紡ぐ。
「大丈夫です…。私に、全てお任せください」
「貴方は、身を委ねてくださるだけで良いのです…」
左手で彼を抱き寄せ、右手で掛け布団を捲る。
小さく呟かれる、彼の言葉。私の名前。少し震えて。
彼の頭と腰に手を回し、ゆっくりと布団へ寝かせる。
私のお願い通り、促されるままの彼。可愛らしい。
「ふふっ…♥」
短な前髪を掻き上げ…顔を近付ける。
不安のせいか、瞑られる目。ほんの小さな、欲への抵抗。
…唇が、重なり合う。
「ちゅ…♥」
……………。
…そっと、離れて。
あたたかい…。これが、彼の唇。
自らの唇に指を当て、感触を思い起こす。
赤ん坊の頃から付き添ってきた彼の唇。それを奪った私。
湧き上がる、この感情は何だろう。感動、背徳、あるいは…。
「ん…♥ ちゅっ…♥」
確かめるように、もう一度、口付けを交わす。
先程よりも深く…、長く、長く息を塞いで。
唇を通して伝わってくる、彼の鼓動。想い。
響き合うように、私の胸も高鳴り、拍が速まる。
この瞬間を待ち侘びていた心は、熱く燃え上がり。
雪の音が静寂に響く中、私達は互いの心音に耳を傾ける。
「ちゅっ…♥ はっ…♥ んっ…、ちゅぅ…♥ ちゅっ…♥」
触れ合いが回を重ねる度に、愛情が欲望に染まっていく。
快感は心の欲を膨れ上がらせ、身体の欲まで求め始める。
もう少し、愛を語り合うような接吻をしたいと思うも、
蝕んでいく劣情に逆らえず、喰らうように求め始める私。
彼の小さな唇を唾液で濡らし…飽き足らず、口内へと舌を捻じ込んだ。
「ぺろ…♥ れろっ♥ ちゅ♥ ちゅぅぅ…っ♥ ぺろっ♥」
それはまさに、無我夢中。
今日まで抑えていたものを破裂させ、貪り狂う一匹の獣。
尻尾や耳を、千切れんばかりに振るって。心のままに、求むままに。
いくら快楽を得ようとも、逸る気持ちが納まらない。もっと、もっと…。
「ちゅっ♥ ぢゅるっ♥ はっ…♥ ぺろ、ぺろ…♥ ちゅぅ…っ♥ ぢゅっ♥」
あぁっ…。
「…ふぁ？♥」
気が付けば…彼は泣いていた。
一瞬、何か酷いことをしてしまったかと背筋が冷えたが、どうも違うらしい。
彼はあまりの快感に耐え切れず、泣いてしまったのだ。
なにせ、彼は今宵が初めて。その初手が、深く激しい口付け。
少し考えれば、そんな強い刺激に耐えられる筈がないと、すぐに分かる。
「あ…♥ も、申し訳ございません…♥」
謝り、目尻を袖で拭いながら、ちらと下へ目をやると…。
…逞しい雄が、私を誘うように反り立っていた。
乱れた際に下着がずれたのか、その身を露わにして。
「まあ…♥」
感嘆を漏らし、それに手を伸ばす。
ピクピクと震えて、待ち兼ねているそれへ…。
そして、先端を優しく包む。
瞬間、大きな震えと共に、大量の愛液が吐き出された。
「…ご立派ですね…♥」
もう僅かもすれば、射精するであろう腫れ物を、やわやわと撫でる。
どうして分かるかといえば、この動き。
大きく膨らんでは、元の形に戻る彼の一物。
まるで陰茎自体が呼吸をしているかのように。
他でもない、精液を押し上げる運動。射精の前兆だ。
普通は、こうなればすぐに出てしまうものなのだが、
そうならないのは、彼が我慢しているからであろう。
一歩踏み出すことに怯えているのか、はたまた、恥ずかしさ故か。
どちらにせよ、私のすることは、その不安を拭い去ること。
それが将来、彼の妻となる者の務めというものだろう。
「力を抜いて…♥ 息を止めずに……、そう…♥」
小さな体を包む、３本の尻尾。
首や、腰、膝元。彼が落ち着けるように。
思い出深い、金色のゆりかご。彼は何を思うだろう。
「…♥ はい…♥ そのまま…♥」
射精の予感を告げる彼に、頬笑みを返して……。
「……あっ♥」
嬌声と共に、私の掌で子種が弾けた。
「…出ていますよ…♥ 熱いのが、たくさん…♥」
びゅっ、びゅっと掌を打ち、垂れ落ちる精液。
間近で見る彼の絶頂に、悶える胸の内を必死で抑え、亀頭を揉む。
勢いを増す射精。鳴く恋人。尻尾の一本を抱いて、必死に耐えている。
「うふふ…♥」
今まで見たこともない、彼の乱れ様。
私も、こんな風に乱れたい。乱れさせてほしい。
思い立ったが何とやら。
自らの寝間着を剥ぎ、放心する彼の前に裸体を晒す。
「…まだ、終いではありません…♥」
ぼんやりとした灯火に、私はどう映っているのだろうか。
障子に描かれた白黒の世界より、美しいだろうか。
彼はじっと…私のことを見つめている。
惚けた瞳で。陰茎はなお、大きさを保ったまま。
少しずつ、荒くなっていく呼吸。私か、彼か。
堪え切れずに、襲う獣は、どちらが先か。
「さあ…♥ 次は、口でご奉仕致します…♥」
跪き、硬い彼のものに、頬を擦り寄せる。
むわりと匂う、雄の香り。
興奮し、私の雌が、はしたなくも蜜を溢れさせる。
私だけを犯すための性器。私だけと子を育んでくれるための生殖器。
昂りが止まない。早くこれで、私を貫き、孕ませてほしい…。
「…はむっ♥ ちゅ…、ぢゅっ…♥ ぢゅるっ…♥ ぺろ…♥」
匂いを胸いっぱいに吸い込みながら、ほおばる。
口の中に広がるのは、独特な味わい。彼の味。
大好きな油揚げよりも、涎を垂らして、しゃぶりつく。
「ちゅぅ…っ♥ ちゅ…♥ ぢゅっ…♥ ぢゅるるっ♥」
尿道の中に残った僅かな精液が、愛液に混じって吸い出てくる。
飲み込むと、それは私の咽を焦がし、胸を焦がし、脳を焦がして。
雌の心を呼び覚ます。この雄に服従したいと。愛されたいと。
「はぁっ…♥ んっ、ぢゅるっ…♥ ちゅ♥ ちゅ♥ ちゅ♥ ちゅぅぅぅ…っ♥」
そして、まだ残っていないかと、必死に吸い付く口。
舌を鈴口や裏筋に這わせ、滴も残さず乞い求める。
「んぐっ♥ ぢゅっ♥ ぢゅるっ♥ んっ♥ ぢゅっ♥ んぅっ♥」
終いには、顔を前後に動かして。
彼の可愛い一物を、根元から先端まで、唇で撫で上げる。
休む間もなく送られる刺激に、私の肩に手を置いて、
声にならない声を漏らす彼。いじらしい。犯し甲斐がある。
「んむぅぅっ…♥ んっ♥ んぐっ♥ んぅぅっ♥」
…そんな激しい愛撫をしながらも、私は密かに、
自らの指を股の間に這わせ、自身の疼きを慰めていた。
指に絡む愛液の量は、尋常ではないの一言に尽きる。
彼との子供が作りたくてたまらないと、むず痒く。
それが一番の、愛の証だから。それが何より欲しいから。
「ぢゅるるっ♥ ぢゅ…っ♥ はっ…♥ も、もうっ…♥」
とうとうその想いは、私の身体を突き動かす。
彼の身体を抱き締めて、ごろんと横へ転がり。
彼を上に、私を下に。身体を重ねて、想いを伝える。
「犯してっ♥ 犯してくださいっ♥ 早く…、早くぅっ♥」
懇願。言葉遣いも忘れて乞う。
彼の一物を掴み、自らの秘部に先端を擦り付けながら。
本当ならば、彼をそのまま押し倒し、入れてしまいたかった。
だが、それでは駄目だ。駄目なのだ。彼の気持ちを知ることができない。
彼は本当に、私を妻として見てくれるのか。母でも、姉でもなく。
私との子を儲けたいと思ってくれているのか。それが知りたくて。
だから、どうしても彼の方から挿れてほしかった。彼自身の意思で…。
「ねえ…っ、早くっ…♥」
後は、彼が腰を少し前に出すだけ。それだけなのに。
待ち遠しくて、待ち遠しくて、急かす声が漏れ出てしまう。
彼自身に決めさせたいのに、それを惑わす言葉が出てしまう。
魔物としてのサガが憎い。雌としてのサガが憎い。でも、でもっ…！
「っ…♥」
ぁ…。
「ふあっ…ぁっ、ああぁぁぁ〜〜っっっ♥♥♥♥♥」
その時…私の全身を、包み覆ったのは。
幸福、情愛、悦楽、感慨、恋慕、屈服、いっぱい…。
「あぁっ…♥ 好きっ♥ 好きですっ♥ 愛していますっ♥ あぁ…っ♥」
彼の想いと、私の想いが、出会い、かっちり噛み合う。
嬉しさのあまりに、達してしまう身体と心。
ずっと想って。ずっと傍に居て。ずっと愛を注いで。
それを今、彼は全て返してくれた。応えてくれた。
同じだけの幸せを……違う、それ以上の幸せを。喜びを。
「動いてっ♥ 子作り…子作り、しよっ♥ ねっ♥」
腰を振り、促すと…動き始める彼。
勝手が分からないらしく、前後に動くだけの、単調なもの。
でも、それでも私には、狂いそうなほど気持ちいい。逝ってしまいそう。
「ふぁぁっ♥ んっ♥ そうっ♥ 上手っ♥ 上手だよっ♥」
彼の腰に脚を、首に腕を掛け、更に強く抱き締める。
私が感じている気持ちを、少しでも多く伝えようと。
滾る陰茎は、私の膣内をぐちゅぐちゅと掻き混ぜる。
深い位置で小刻みな動作を繰り返しながら、刺激を迸らせて。
稀に、ちょん…と子宮口を突く先端は、言葉にならないほどの快感。
毛の一本一本が逆立ちそうな、凄まじい電流が駆け巡る。
「もっとっ♥ ひぁっ♥ もっと…おく…ぅ♥ つきあげ…っ…ひゃうぅっ♥」
不意に、制御の利かない尻尾達が、彼の身体を這い回る。
絡み付いたり、撫で回したり、先端でくすぐったり…。
それに感じてしまう、彼と、私。自分に自分が追い込まれていく。
「らめっ…♥ きゃうっ♥ りゃ…、りゃめぇぇ…っ♥ しっぽっ…、しっぽよわいのぉっ♥」
チカチカする視界に映る、苦しそうな…蕩けきった彼の顔。
膣内で感じる、膨らんでいく彼の陰茎。これは、そうだ、きっと…。
「で…でるのっ？♥ でちゃうのっ？♥ しゃせいしちゃうのっ？♥」
何度も頷く彼。心が、一色に塗り潰される。
「だしてっ♥ しゃせいしてっ♥ こづくりっ♥ こづくりぃっ♥」
「いっぱい…んんっ♥ いっぱいそだてよっ♥ こども…♥」
「わたし、わかるからっ♥ こどものそだてかた、わかるからっ♥」
「だからっ……ふぁっ、あっ♥ だっ…だからぁっ♥ ひあぁっ♥」
「あっ♥ はっ♥ やっ♥ やぁっ♥ あっ♥ あっ♥ あっ♥ あっ♥ あっ♥ あぁっ…♥」
「あああぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜っっっ♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥」
……………
………
…
「母上ーっ」
ふと、私を呼ぶ声。
振り返ると…家の門のところで、手を振る娘。
塾の鞄を肩から下げ、こちらに走り寄ってくる。
「父上はどちらですか？ 会いとうございますっ」
もうすっかり聞き慣れた、おじいちゃん譲りの喋り方。
お義父様はこの子にべったりなので、自然と覚えてしまったのだ。
悪いというワケではないが、友達にからかわれないか、少し心配だ。
「まだ道場の方、ですか…」
少し残念そうな様子。
どうしたのだろうと思い、膝を下ろして問う。
「実は…」
…もじもじしている…。２本の尻尾を絡ませて。
これは、思ったより重大なことの様だ。
「………」
……………。
「……気になる殿方が…いるのであります…」
………え？
「それで父上に、殿方には何をすれば喜ぶのか、尋ねたく…」
…なるほど。なるほど、なるほど。
決まった。今夜はお稲荷寿司。山盛りに。
「母上は、どうすればよいかご存知ですか…？」
不安げな娘の頭を撫で…立ち上がり、手を繋ぐ。
羊羹でも摘まみながら話そうか、と言葉を掛けながら。
命は、愛を育み、子を生していく。
それはきっと、未来永劫変わらない。
だからこそ、愛し合った祖先を誇りに思う。
だからこそ、愛し合っていく子孫を励ましたい。
「母上。私も、その殿方と…」
その営みこそが、命が一番輝く時なのだから。
「父上と、母上のように、仲良くなりとうございますっ」
そう、この子も、今……。
12/06/21 22:14更新 / コジコジ