幻冬灯火
さむいよう。
くらいよう。
木の葉も去り、冬が迫る季節。
ここはジパング。人間と魔物が共存する国。
ヤマガタという名の都市、それに属する辺境の村の、更に外れに建った小屋。
一見、人など住めそうにもない…ひどく汚れ、崩れた小屋。
その中に、ひとりの少年がいた。
月が覗く…小屋の中心で、身体を丸めて、ひとり。
時期外れな服、いや、ボロ布を纏って、寒さに耐えていた。
さむいよう。
くらいよう。
うわごとのように、繰り返されるふたつの言葉。
誰の耳にも届かない。両親が彼を見捨てて、５日経つ。
彼はいらない子だった。
父親が使用人との間に儲けた子供。
母親にとっては、この世で一番許せぬ存在。
父親は、母親から許しを得る代わりに、使用人を辞めさせた。
そして彼を、この物置であった小屋に閉じ込めた。７歳の頃の話である。
隠されて育てられてきたその子の存在を、村人は知らない。
母親は、あの小屋に猛犬を閉じ込めたから近付くな、と言い回った。
もちろん、自分自身も近付かない。あの女に似た顔を見るのが嫌だった。
父親も、最初こそ水や食料をまめに運んでは、彼に詫びていた。
だが、父親が好きであったのは使用人の女であり、この子ではない。
彼女がいなくなった今、元の鞘に収まるには、少年が邪魔であった。
そして…その緒が切られたのが、５日前。
何も教えられずに育った我が子に、可愛げがない、と吐き捨てて。
さむいよう。
くらいよう。
少年はひとりぼっちになった。
風も雨も素通りする部屋には、ただひとつの提灯を残して、彼ひとり。
痩せ衰え、もう、いつ、ふっ…と逝ってしまうかも分からない。
もしかしたら、繰り返す言葉は、それに対する僅かな抗いなのかもしれない。
いつ、ふっ…と、というのは、提灯も同じ。
もう蝋が尽き掛けて、灯火も徐々に小さくなっている。
まるで彼の命を表しているかのよう。徐々に、徐々に、小さく…。
闇が蝕んでいく中で、彼は呟く。
さむいよう。
くらいよう。
火が、小指の爪ほども無くなっていく。
重くなっていく、少年の瞼。もう、寒さも、暗さも、分かるまい。
それでも、壊れた蓄音器のように、死の間際まで言い続けるだろう。
さむいよう。
くらいよう。
少し離れた、彼の両親が住む屋敷から、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
父親と、母親と、兄の、楽しそうな笑い声。そこに彼はいない。
さむいよう。
くらいよう。
火が。
さむいよう…。
あぁ、火が。
くらいよう…。
……………。
…いつしか、静かな夜が訪れていた…。
……………
………
…
………ん。
…ょーん。
ちょーん。
はっ…と、少年が目を覚ます。
目の前に広がるのは、瞼を閉じていた時と変わらない…暗い世界。
それでも、彼はその耳で聞いた、不思議な音が気になった。
だれ？
少年は、おぼろげな瞳を擦りながら、暗闇に問い掛ける。
…返事はない。夢か、幻だろうか。
そう思いながらも、少年はもう一度、深い闇に言葉を放る。
誰か居てほしい。誰でもいい。例えそれが夢でも、幻でも。
だれか、いるの？
その時。
ぽっ…と、光が満ちた。
彼の目の前。提灯が置かれていた場所から。
寒さも、暗さも、忘れさせてくれるような…温かな光。
少年は驚いた。
明かりもそうであるが…それ以上に、光を放つ、その何かに。
ちょーん。
先程聞いた、不思議な音を立てながら、それはもぞもぞと動いた。
そして…立ち上がったのだ。２本の足で。確かに、２本の足で。
そう。人間だ。人間の、少女だ。
犬でも、猫でもない。人間だ。
なんと不思議なことだろうか。
今にも死にそうであった少年は、危うく肝が潰れるところだったが、
それ以上に、自分以外の人間が傍にいることに、嬉しくて、涙が溢れた。
少年は気付いていなかった。彼女が、妖怪であることに。
提灯おばけ。それが彼女の正体。
付喪神と呼ばれる魔物の一種で、傘や提灯…人に使われる道具に、
魔力が宿り、魔物へと変わった…ゴーレムに近い存在である。
魔物である以上、その性質は他と変わらない。男の精を喰らう存在だ。
だが、彼はあまりにも無知で、孤独であった。
吹き返した生への執着を、彼女の元へ腕を伸ばすことに使った。
いや…例え、自分を喰らう存在だと知っていても、手を伸ばしただろう。
それほど彼は寂しかった。恐かった。彼にとって、ひとりぼっちこそ死の象徴だった。
ソラ。
ソラ、空。彼の名前。
再び驚く彼の手を取り、少女は言葉を続ける。
さむくない？
痩せた少年の手を包む、少女の小さな手は、部屋を包む光のように温かかった。
少年が頷くと、少女は、もうひとつ彼に問うた。
くらくない？
少年がもう一度頷くと、にっこりと、彼女は微笑んだ。
この子は誰だろう？ いつの間に入ってきたんだろう？
そんな疑問が少年の中に渦巻いたが、握られた手の温もり…
胸の中に広がる心地良さに押され、いつしかそれを忘れてしまっていた。
お腹から光を照らす少女の手を、少年も、同じ様に握り返す。
あたたかい。
沁みいるものを感じながら、それを言葉にして。
あかるい。
虫も歌を奏でぬ夜に。
その小屋の光は、周りの家々と比べ、どれほどの温かさ…明るさであっただろう。
猫も、ここで身体を丸めて寝はしまい。蛾も、見向きもせぬほどの灯り。
だが、少年にとっては違う。
この場所は、母の腕の中のように温かく、太陽の下のように明るかった。
久しい温かさ。久しい明るさ。彼は、自身が少しだけ元気になっているのが分かった。
ねえ、きみ。
松の枝のような足に力を込め、少年は立ち上がる。
にげよう。
ここから、にげよう。
彼は決心した。
自分をここまで育ててくれた父親に、少なからず申し訳無さはあったが、
このままここにいても、待っているのは死だけだと、充分に理解していた。
それに、もし…もしこの少女がここにいるのを、誰かに見つかってしまったら…。
彼女を守りたいという一心。それが、死に掛けの少年の身体を動かした。
どこへ？
少女は、手を引く彼に問い掛ける。
少年は答えない。答えられるわけがない。
この村の何処にも…この世界の何処にも、彼に行く宛など無い。
彼が考えているのは、彼女を逃がすこと。この檻の様な場所から。
そして、少しでも彼女と一緒にいたいという、我が侭な想い。
自分を癒してくれた彼女と。一分でも、一秒でも、長く。
そうでなければ、ただ、逃げろと告げるだけで終わっている。
一目惚れとも言ってもいいかもしれない。
初めて、両親以外から受けた愛。いかに衝撃的だろう。
ボロボロの身体…その唇を開いて、少年は、少女へ言葉を返した。
どこか、とおくへ。
精一杯に搾りだした言葉が、それだった。
なんて情けない。でも、その言葉こそが、彼の勇気の証。
その一歩を踏み出そうとしたところで…ささくれのできた手が、ぎゅっと握られた。
ここに、いよう。
少女の言葉に、少年は目を丸くした。
彼女は、ここがどういう場所か知らないのだろうか。
母親に見つかれば、自分だけじゃない、彼女も何をされるか。
困った少年は、表情にその色を浮かばせながら、もう一度、彼女に言った。
しかし、彼女は微笑みながら、首を横に振って…同じ言葉を繰り返す。
ここに、いよう。
さぁ、いよいよ彼は頭を抱えた。
頑なとして意思を曲げようとしない少女。
どうして彼女は、こんな場所に居ようと言い出すのか。
彼にとっては、三途の川辺とも同じ、この様な場所に。
諦めることも、無理に引っ張っていこうとも出来ぬ少年を見て、
少女はくりくりとした赤茶色の瞳を覗かせながら、こう言った。
こんどは、わたしが、まもるよ。
彼女は、立ち上がって…少年に抱き付いた。
その言葉と、肌の感触に、三度驚く少年。
ソラは、わたしが、まもる。
ここで少年は、あることに気が付いた。
彼女が羽織る服…その振り袖の、三つ巴の紋。
自分と共に、幾年もこの小屋の中で過ごしてきた、あの提灯。
そこに刻まれていた紋と同じ、三つ巴。これは何かの偶然だろうか。
いや、いや、偶然ではない。
よくよく見れば、この帽子の飾り、中程で折れているさまなど、
あの提灯の弓張にそっくりではないか。色合い、曲がり具合まで。
髪結ぶ紐も、片方だけ、色褪せた布切れのようなもので…
これは、折れた巻骨を直す時に使った、自分の服の切れ端ではないか。
あめのひ、わたしを、たかいところにおいてくれた。
いつの日だったろう。
足首の高さまで雨水が浸かった時、小屋の中にあった空き箱を積んで、
提灯をその上で灯し、雨が上がるのをずっと待っていたのは。
こわいものから、わたしを、たすけてくれた。
いつの日だったろう。
猫が忍び込んできて、玩具と思ったのか、提灯を引っ掻きだして。
それをやめさせようと奪い取ったら、代わりに引っ掻き傷を受けたのは。
ソラは、わたしが、まもる。
まもるよ、ずっと、ずっと…。
少年は、理解した。
彼女の正体が、自分と共に過ごしてきた、提灯であることに。
提灯おばけは、ぺろりと舌を出して、少年に言った。
もっと、あたたかくなれるよ。
もっと、あかるくなれるよ。
彼女は優しく、床へと少年を押し倒した。
そして、握っていた手を解いて…彼の股ぐらに、そっと添えた。
抵抗はない。彼は…見惚れてしまっていた。
一緒の時を過ごしてきた恋人のすることを、なぜ止められようか。
是非など無い。彼女は、傷付いた自分を癒してくれる存在。
未知の領域に足を踏み入れる予感に、恐怖はあるものの、
それが彼女の望みならばと、少年は目を瞑り、全てを受け入れた。
わあ。
股覆う布が外される感触と共に、歓喜の声が聞こえる。
少女は、目をきらきらと輝かせた。
なんて元気に、大きくなっているんだろう。
彼がそこまで活力を取り戻したことと、自分に興奮してくれていること、
そのどちらもが、提灯おばけにとっては至福のことだった。
毛もまだ生え揃わぬ、皮を被った恥部。
少しだけ顔を覗かせた先端を、彼女は指で、いたずらに弄った。
玉となって鈴口に留まっていた愛液が、ぷつりと弾けて、
少女の指を、少年の恥部を濡らし、くちくちといやらしい音を響かせる。
あっ…。
熱い吐息を漏らして、身を捩る少年。
淡い光が織り成す影が、流れる汗に一層の立体感を与えた。
糸を引く指に、少しの力を込めて…未成熟な果実を剥く彼女。
わずかな痛覚と共に、少年の鼻にまで届く、ツンとした臭い。
当然といえば、当然。彼は雨降る日にしか、身体を洗うことができない。
剥かれた恥部には、粕が多く溜まっていた。ひどい臭いを伴って。
いたくない？
しかし、彼女はそれに全く意を介さない。
彼に、皮を剥いた時の痛みが辛くなかったか、それだけを尋ねて。
少年自身は、勿論そんなことよりも、粕の方が気に掛かった。
だが、そのことを論じる前に、恥部を柔らかな指が撫でた。
親指の腹で、雁首に溜まった粕を拭う彼女。丁寧に、丁寧に。
その行為に、恥辱と、快楽を感じた彼は…何も言うことができなかった。
彼女は、心から幸せそうであった。
彼に奉仕できることが、心から。
あったかいね。
亀頭を掌で撫でながら、彼女が囁く。
滲む愛液は腰まで流れ落ち、少年は妙なくすぐったさを感じた。
それにしても、身体が、熱い。
あったかいと彼女は言うが、彼にとっては、感じたこともないほどの熱さ。
特に、触れられている恥部は、心の臓がそこに移ってしまったのかと思うほど。
どくんどくんと脈打って、熱く滾った血を送り、どんどん昂りを増していく。
彼女の指が撫でる度に、鎮まるどころか、硬さと大きさをも増して…。
ソラ。
刺激に耐える少年の前に、艶帯びた少女の顔が現れる。
ちゅう、したいな。
その言葉に、答える間もなく…唇を奪われる少年。
接吻という行為さえ知らなかった彼だが、それはすぐに幼い胸を焦がした。
ちろちろと触れ合う舌に、粘つく唾液に、たまらない興奮を覚えた。
彼女が息継ぎの為に口を離すと、彼は舌を伸ばして、もう一度とせがむほど。
その行為に、少女が喜んだのは言うまでもない。何度も互いの唇を重ねた。
ぴちゃぴちゃと響く音は、獣が水を飲む音に似ている。
盛った二匹は、月が見下ろすボロ小屋の中で、貪るように口付けを交わす。
唾液は頬を伝い、床にこぼれ落ちて。そうはさせまいと、咽を鳴らして。
身丈に合わぬ、雄と雌の匂いを充満させながら、二人は行為に溺れていく。
ああっ…！
そして、それは不意に弾けた。
小さな手の中で、びゅるびゅると濁った液を吐き出す陰茎。
ぶるぶると震える少年の身体。初めて夢精以外で達した身体。
大きく息を吐くと共に、寒天のような塊を含んだ精液が飛び出す。
少女は身体を火照らせながら、彼の欲望を受け止めた。
ああっ…。
次第に、弱くなっていく勢い。
張ったつま先が攣りそうになる手前で、射精は止まった。
少女の手と、少年の股間は、黄み帯びた白で染められた。
精を放つことの快感に、涙まで溢しながら、小刻みに身を震わす少年。
男児ならば誰しもが経験する、その想い。彼の場合は、恋する人の手で。
その悦楽がいかほどであったのかを、へそまで溜まり、溢れた量が示している。
いっぱい、でた。
そう言って、手を柄杓のように…牛の乳よりも濃いそれを、飲み込んでいく彼女。
咽を通る度に、その部分の肉が浮き上がり、呆然と見つめる少年の心を掻き乱す。
不意に、彼は、彼女の身体が、先程よりも明るくなったように見えた。
目の錯覚だろうか。しかし、やはり、少しだけ明るくなったような…。
こっちも、のむね。
そんな考えを遮るかのように、彼女は少年の下腹部に舌を這わせた。
産毛の部分に散るもの、へそに溜まったもの、恥部に垂れているもの…。
ひとつひとつを、可愛らしい舌が掬っていく。むず痒さに、喘ぐ少年。
締めに、裏筋を舐め上げる舌が、まだ管に残っていた精液を押し出して、
鈴口から出てきたそれを水飴の如く舐める少女は、なんとも可愛らしかった。
まだ、こんなにおっきい。
少女は呟く。
それを摘みながら、うっとりとした瞳を浮かべて。
舌での後始末が、欲情を刺激したのか、確かに彼の陰茎は大きいままだった。
恥ずかしそうに自分のものを見やる少年に、くすりと笑う少女。
彼女は、羽織を結ぶ胸糸を摘むと…はらりと、それを解いた。
わ…。
ぽかん、と口を開く少年。
なだらかで幼い女性の胸が、彼の眼前に晒される。
息継ぐ間も僅か、躊躇いなく、自らの秘部を覆う衣服をも脱ぎ払う少女。
気付けば、薄暗闇の中に浮かぶ…裸の女性。
ソラ…。
しなだれるように、愛する人に覆い被さる魔物。
彼はおそらく、これから何をするのか、よく分かっていない。
だから、私が教えてあげよう。彼の知らない、男女の営みを。
そう考えていた提灯おばけだが…それは思わぬ形で、先送りとなった。
ちょん？
ふと違和感を覚え、素っ頓狂な声を上げる少女。
彼が、何故かとても苦しそう。
それもそのはず。少年は、ことこの場面に及んで、自慰に耽り始めた。
覚えたばかりの自慰。先程、彼女が彼のものを弄った指先を真似て。
我慢の限界だった。
少女の裸を見た彼は、滾るそれを弄らずにはいられなかった。
瞳を潤わせ、左手は自らの肩を抱き、右手は先端をこねて。
彼女の顔、胸、秘部をまばらに見やりながら、必死に擦った。
洩れるのは、苦しそうな喘ぎ声。まるで今にも達しそう。
…えへへっ。
提灯おばけは、そんな彼を咎めもせず、かといって呆れもせず、
自らも身体を屈めて…魅了された少年へ向けて、自慰を始めた。
自分の恥部に指を這わせて、少女は、少し驚いた。
少年のものに負けないくらい、湿り気を帯びていた自らのものに。
触れた中指を、ゆっくりと離すと…つぅっ、と糸が弧を描いた。
どれほど自分が、この少年を愛しているのか。あぁ、これほどまでに。
みててね…。
恥部を広げ、てらてらとぬめり照かる襞を見せる。
顕著に反応する彼。もっと喜ばせてあげようと、指を這わす。
くちゅり、と外壁を滑る刺激と共に、ぴりぴりと駆ける痺れ。
腹の奥へ疼きを感じながら、穴の周りをなぞるように弄る。
少年が少女を見て自慰をするように、彼女も彼を見ながら。
自分の指を、彼の指だと思い込み、愛撫に熱を宿す。
今、彼女の脳裏をよぎるもの。
彼が、この身を大事に大事に扱ってくれた思い出。
言葉は交わせなくとも、満ち足りるほどの優しさを与えてくれた。
明かりを灯すしかできない自分を、何よりも大切にしてくれた彼。
これが恋でなければ、愛でなければ、何だというのだ。
蝋が尽き、灯火が消え入る瞬間、彼女の想いは燃え上がった。
宙を漂う魔力を呑み込み、魔物としてその身を甦らせた。
他でもない、死にゆく彼を救うために。
愛する彼と、もっと深く愛し合うがために。
あっ…。
指を中へ挿し入れると、幾重もの襞が絡み付いた。
まるで、彼のものと勘違いしているかのような、強い締めつけ。
押し広げ、少し乱暴に弄ってやると、甘い刺激が脳を刺した。
提灯おばけは彼の名前を呟きながら、何度も指を出し入れた。
愛してる。愛してる。愛してる。
彼女の頭の中が、一色の言葉で染まっていく。
それ以上の、彼に対する想いの言葉が、彼女は分からない。
一心不乱に、ただ一心不乱に。胸の灯火が炎となって。
ソラッ！
俄かに、破裂する想い。
彼がしたいことをさせてあげたいと望んでいた彼女。
この崩れた小屋の中、ふたりの愛の巣に居る限り、ずっと、ずっと。
だが、彼女ももう限界だった。
一時でも早く、彼に犯してほしかった。
一度、命絶えかけた彼の姿を見た彼女にとっては、
ほんの少しでも先延ばしになることが、不安でたまらなかった。
少年に跨り、彼の恥部を掴んで…そっと、秘部に宛てがう。
不安げな表情を浮かべる彼。それを拭うように、少女は唇を重ねる。
んぅっ…！
はち切れそうな想いを流し込みながら、腰を沈める少女。
どくどくと跳ねる彼のそれが、中へ、中へと入ってくる…。
それが、ぴたりと最奥に触れて、動きを止めた。
お腹の奥が熱い。煌めきが更に増していくのを、彼女は感じた。
それに合わせて、彼のものも。少年のものとは思えないほどの大きさに。
彼もそれに気付いたようで、腫れ上がる様に膨れていく自らのものに、呻いた。
その感触はどのようなものだろう。ますます、彼女の膣内は狭く、きつく…。
うごく、ね。
息苦しそうに、言葉を詰まらせながら…少女は腰を振り始めた。
真っ赤に充血した陰茎が、小指ほどしかなかった彼女の穴を押し広げる。
ひぁぁ…っ！？
犬の遠吠えのように、夜空に響く喘ぎ声が漏れたのは、同時だった。
一度腰を振っただけで…少年も、少女も、身をがくがくと震わせた。
それほどまでに、彼のものは、彼女のものは、恋人へと愛を注ぎ込んで…。
少年は、木の板が張られた床に爪を立て、かりかりと引っ掻いて。
少女は、愛する人の肩に掴み掛り、腰を抜かして。
お互い…そのまま、動くに動けない状態となってしまった。
ソラ…。
舌をだらんと垂らして、少女が彼を呼ぶ。
少年が、僅かに彼女の方へ顔を向けると…再び、交わり合う唇。
ちゅ…。
口をもぐもぐと動かして、少年の口内を犯し始める提灯おばけ。
もう、ほんの僅かな刺激でいい。それだけで充分なはず。
彼が達してくれれば、私も達せられる。ふたりで達したい。
想いは、麻痺する脳を通り越し、口を、舌を動かす。
私は道具。彼を癒す道具。
役に立ちたい。もっと。もっと。
髪を結ぶ、汚れた布切れがはらりと落ちる。
今にも達しそうな、少年の身体の震えを感じ、接吻に更なる熱が宿る。
んっ…。
彼女は願う。
一生、彼と共に居たいと。
一生、彼に使われる道具でいたいと。
一生、彼の傍にいる恋人になりたいと。
この小屋を、あたたかく、あかるく照らせる提灯でありたいと。
ふぁっ…！
彼女の腹の内の火が、大きく燃え上がる。
それと共に、高く声を上げ、膨らむ少年のもの。
ソラ…ッ！！
ボロ小屋に、まばゆいまでの光が満ちた。
……………
………
…
あれから、何度目の冬が訪れただろう。
雪積もる廃村。
何もかもが静寂に包まれた、白の世界。
その一角に…明るく灯る、小さな小屋。
不思議なことに、そこにだけ雪が積もらない。
光がまるで、寒さを寄せつけないかのよう。
中に誰かいるのだろうか。それは誰にも分からない。
訪れる者などいないのだから。誰も彼も、この場所に。
ただ、不思議な音だけが、山彦としてこだまして、
近くの山道を通る人の耳に届くことがあると云う。
ちょーん。ちょーん、と。
雪が解ければ、また春が訪れるだろう。
少年の行方は誰も知らない。
ただ、灯る光は、もう二度と消えることはなかった。
ちょーん。
くらいよう。
木の葉も去り、冬が迫る季節。
ここはジパング。人間と魔物が共存する国。
ヤマガタという名の都市、それに属する辺境の村の、更に外れに建った小屋。
一見、人など住めそうにもない…ひどく汚れ、崩れた小屋。
その中に、ひとりの少年がいた。
月が覗く…小屋の中心で、身体を丸めて、ひとり。
時期外れな服、いや、ボロ布を纏って、寒さに耐えていた。
さむいよう。
くらいよう。
うわごとのように、繰り返されるふたつの言葉。
誰の耳にも届かない。両親が彼を見捨てて、５日経つ。
彼はいらない子だった。
父親が使用人との間に儲けた子供。
母親にとっては、この世で一番許せぬ存在。
父親は、母親から許しを得る代わりに、使用人を辞めさせた。
そして彼を、この物置であった小屋に閉じ込めた。７歳の頃の話である。
隠されて育てられてきたその子の存在を、村人は知らない。
母親は、あの小屋に猛犬を閉じ込めたから近付くな、と言い回った。
もちろん、自分自身も近付かない。あの女に似た顔を見るのが嫌だった。
父親も、最初こそ水や食料をまめに運んでは、彼に詫びていた。
だが、父親が好きであったのは使用人の女であり、この子ではない。
彼女がいなくなった今、元の鞘に収まるには、少年が邪魔であった。
そして…その緒が切られたのが、５日前。
何も教えられずに育った我が子に、可愛げがない、と吐き捨てて。
さむいよう。
くらいよう。
少年はひとりぼっちになった。
風も雨も素通りする部屋には、ただひとつの提灯を残して、彼ひとり。
痩せ衰え、もう、いつ、ふっ…と逝ってしまうかも分からない。
もしかしたら、繰り返す言葉は、それに対する僅かな抗いなのかもしれない。
いつ、ふっ…と、というのは、提灯も同じ。
もう蝋が尽き掛けて、灯火も徐々に小さくなっている。
まるで彼の命を表しているかのよう。徐々に、徐々に、小さく…。
闇が蝕んでいく中で、彼は呟く。
さむいよう。
くらいよう。
火が、小指の爪ほども無くなっていく。
重くなっていく、少年の瞼。もう、寒さも、暗さも、分かるまい。
それでも、壊れた蓄音器のように、死の間際まで言い続けるだろう。
さむいよう。
くらいよう。
少し離れた、彼の両親が住む屋敷から、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
父親と、母親と、兄の、楽しそうな笑い声。そこに彼はいない。
さむいよう。
くらいよう。
火が。
さむいよう…。
あぁ、火が。
くらいよう…。
……………。
…いつしか、静かな夜が訪れていた…。
……………
………
…
………ん。
…ょーん。
ちょーん。
はっ…と、少年が目を覚ます。
目の前に広がるのは、瞼を閉じていた時と変わらない…暗い世界。
それでも、彼はその耳で聞いた、不思議な音が気になった。
だれ？
少年は、おぼろげな瞳を擦りながら、暗闇に問い掛ける。
…返事はない。夢か、幻だろうか。
そう思いながらも、少年はもう一度、深い闇に言葉を放る。
誰か居てほしい。誰でもいい。例えそれが夢でも、幻でも。
だれか、いるの？
その時。
ぽっ…と、光が満ちた。
彼の目の前。提灯が置かれていた場所から。
寒さも、暗さも、忘れさせてくれるような…温かな光。
少年は驚いた。
明かりもそうであるが…それ以上に、光を放つ、その何かに。
ちょーん。
先程聞いた、不思議な音を立てながら、それはもぞもぞと動いた。
そして…立ち上がったのだ。２本の足で。確かに、２本の足で。
そう。人間だ。人間の、少女だ。
犬でも、猫でもない。人間だ。
なんと不思議なことだろうか。
今にも死にそうであった少年は、危うく肝が潰れるところだったが、
それ以上に、自分以外の人間が傍にいることに、嬉しくて、涙が溢れた。
少年は気付いていなかった。彼女が、妖怪であることに。
提灯おばけ。それが彼女の正体。
付喪神と呼ばれる魔物の一種で、傘や提灯…人に使われる道具に、
魔力が宿り、魔物へと変わった…ゴーレムに近い存在である。
魔物である以上、その性質は他と変わらない。男の精を喰らう存在だ。
だが、彼はあまりにも無知で、孤独であった。
吹き返した生への執着を、彼女の元へ腕を伸ばすことに使った。
いや…例え、自分を喰らう存在だと知っていても、手を伸ばしただろう。
それほど彼は寂しかった。恐かった。彼にとって、ひとりぼっちこそ死の象徴だった。
ソラ。
ソラ、空。彼の名前。
再び驚く彼の手を取り、少女は言葉を続ける。
さむくない？
痩せた少年の手を包む、少女の小さな手は、部屋を包む光のように温かかった。
少年が頷くと、少女は、もうひとつ彼に問うた。
くらくない？
少年がもう一度頷くと、にっこりと、彼女は微笑んだ。
この子は誰だろう？ いつの間に入ってきたんだろう？
そんな疑問が少年の中に渦巻いたが、握られた手の温もり…
胸の中に広がる心地良さに押され、いつしかそれを忘れてしまっていた。
お腹から光を照らす少女の手を、少年も、同じ様に握り返す。
あたたかい。
沁みいるものを感じながら、それを言葉にして。
あかるい。
虫も歌を奏でぬ夜に。
その小屋の光は、周りの家々と比べ、どれほどの温かさ…明るさであっただろう。
猫も、ここで身体を丸めて寝はしまい。蛾も、見向きもせぬほどの灯り。
だが、少年にとっては違う。
この場所は、母の腕の中のように温かく、太陽の下のように明るかった。
久しい温かさ。久しい明るさ。彼は、自身が少しだけ元気になっているのが分かった。
ねえ、きみ。
松の枝のような足に力を込め、少年は立ち上がる。
にげよう。
ここから、にげよう。
彼は決心した。
自分をここまで育ててくれた父親に、少なからず申し訳無さはあったが、
このままここにいても、待っているのは死だけだと、充分に理解していた。
それに、もし…もしこの少女がここにいるのを、誰かに見つかってしまったら…。
彼女を守りたいという一心。それが、死に掛けの少年の身体を動かした。
どこへ？
少女は、手を引く彼に問い掛ける。
少年は答えない。答えられるわけがない。
この村の何処にも…この世界の何処にも、彼に行く宛など無い。
彼が考えているのは、彼女を逃がすこと。この檻の様な場所から。
そして、少しでも彼女と一緒にいたいという、我が侭な想い。
自分を癒してくれた彼女と。一分でも、一秒でも、長く。
そうでなければ、ただ、逃げろと告げるだけで終わっている。
一目惚れとも言ってもいいかもしれない。
初めて、両親以外から受けた愛。いかに衝撃的だろう。
ボロボロの身体…その唇を開いて、少年は、少女へ言葉を返した。
どこか、とおくへ。
精一杯に搾りだした言葉が、それだった。
なんて情けない。でも、その言葉こそが、彼の勇気の証。
その一歩を踏み出そうとしたところで…ささくれのできた手が、ぎゅっと握られた。
ここに、いよう。
少女の言葉に、少年は目を丸くした。
彼女は、ここがどういう場所か知らないのだろうか。
母親に見つかれば、自分だけじゃない、彼女も何をされるか。
困った少年は、表情にその色を浮かばせながら、もう一度、彼女に言った。
しかし、彼女は微笑みながら、首を横に振って…同じ言葉を繰り返す。
ここに、いよう。
さぁ、いよいよ彼は頭を抱えた。
頑なとして意思を曲げようとしない少女。
どうして彼女は、こんな場所に居ようと言い出すのか。
彼にとっては、三途の川辺とも同じ、この様な場所に。
諦めることも、無理に引っ張っていこうとも出来ぬ少年を見て、
少女はくりくりとした赤茶色の瞳を覗かせながら、こう言った。
こんどは、わたしが、まもるよ。
彼女は、立ち上がって…少年に抱き付いた。
その言葉と、肌の感触に、三度驚く少年。
ソラは、わたしが、まもる。
ここで少年は、あることに気が付いた。
彼女が羽織る服…その振り袖の、三つ巴の紋。
自分と共に、幾年もこの小屋の中で過ごしてきた、あの提灯。
そこに刻まれていた紋と同じ、三つ巴。これは何かの偶然だろうか。
いや、いや、偶然ではない。
よくよく見れば、この帽子の飾り、中程で折れているさまなど、
あの提灯の弓張にそっくりではないか。色合い、曲がり具合まで。
髪結ぶ紐も、片方だけ、色褪せた布切れのようなもので…
これは、折れた巻骨を直す時に使った、自分の服の切れ端ではないか。
あめのひ、わたしを、たかいところにおいてくれた。
いつの日だったろう。
足首の高さまで雨水が浸かった時、小屋の中にあった空き箱を積んで、
提灯をその上で灯し、雨が上がるのをずっと待っていたのは。
こわいものから、わたしを、たすけてくれた。
いつの日だったろう。
猫が忍び込んできて、玩具と思ったのか、提灯を引っ掻きだして。
それをやめさせようと奪い取ったら、代わりに引っ掻き傷を受けたのは。
ソラは、わたしが、まもる。
まもるよ、ずっと、ずっと…。
少年は、理解した。
彼女の正体が、自分と共に過ごしてきた、提灯であることに。
提灯おばけは、ぺろりと舌を出して、少年に言った。
もっと、あたたかくなれるよ。
もっと、あかるくなれるよ。
彼女は優しく、床へと少年を押し倒した。
そして、握っていた手を解いて…彼の股ぐらに、そっと添えた。
抵抗はない。彼は…見惚れてしまっていた。
一緒の時を過ごしてきた恋人のすることを、なぜ止められようか。
是非など無い。彼女は、傷付いた自分を癒してくれる存在。
未知の領域に足を踏み入れる予感に、恐怖はあるものの、
それが彼女の望みならばと、少年は目を瞑り、全てを受け入れた。
わあ。
股覆う布が外される感触と共に、歓喜の声が聞こえる。
少女は、目をきらきらと輝かせた。
なんて元気に、大きくなっているんだろう。
彼がそこまで活力を取り戻したことと、自分に興奮してくれていること、
そのどちらもが、提灯おばけにとっては至福のことだった。
毛もまだ生え揃わぬ、皮を被った恥部。
少しだけ顔を覗かせた先端を、彼女は指で、いたずらに弄った。
玉となって鈴口に留まっていた愛液が、ぷつりと弾けて、
少女の指を、少年の恥部を濡らし、くちくちといやらしい音を響かせる。
あっ…。
熱い吐息を漏らして、身を捩る少年。
淡い光が織り成す影が、流れる汗に一層の立体感を与えた。
糸を引く指に、少しの力を込めて…未成熟な果実を剥く彼女。
わずかな痛覚と共に、少年の鼻にまで届く、ツンとした臭い。
当然といえば、当然。彼は雨降る日にしか、身体を洗うことができない。
剥かれた恥部には、粕が多く溜まっていた。ひどい臭いを伴って。
いたくない？
しかし、彼女はそれに全く意を介さない。
彼に、皮を剥いた時の痛みが辛くなかったか、それだけを尋ねて。
少年自身は、勿論そんなことよりも、粕の方が気に掛かった。
だが、そのことを論じる前に、恥部を柔らかな指が撫でた。
親指の腹で、雁首に溜まった粕を拭う彼女。丁寧に、丁寧に。
その行為に、恥辱と、快楽を感じた彼は…何も言うことができなかった。
彼女は、心から幸せそうであった。
彼に奉仕できることが、心から。
あったかいね。
亀頭を掌で撫でながら、彼女が囁く。
滲む愛液は腰まで流れ落ち、少年は妙なくすぐったさを感じた。
それにしても、身体が、熱い。
あったかいと彼女は言うが、彼にとっては、感じたこともないほどの熱さ。
特に、触れられている恥部は、心の臓がそこに移ってしまったのかと思うほど。
どくんどくんと脈打って、熱く滾った血を送り、どんどん昂りを増していく。
彼女の指が撫でる度に、鎮まるどころか、硬さと大きさをも増して…。
ソラ。
刺激に耐える少年の前に、艶帯びた少女の顔が現れる。
ちゅう、したいな。
その言葉に、答える間もなく…唇を奪われる少年。
接吻という行為さえ知らなかった彼だが、それはすぐに幼い胸を焦がした。
ちろちろと触れ合う舌に、粘つく唾液に、たまらない興奮を覚えた。
彼女が息継ぎの為に口を離すと、彼は舌を伸ばして、もう一度とせがむほど。
その行為に、少女が喜んだのは言うまでもない。何度も互いの唇を重ねた。
ぴちゃぴちゃと響く音は、獣が水を飲む音に似ている。
盛った二匹は、月が見下ろすボロ小屋の中で、貪るように口付けを交わす。
唾液は頬を伝い、床にこぼれ落ちて。そうはさせまいと、咽を鳴らして。
身丈に合わぬ、雄と雌の匂いを充満させながら、二人は行為に溺れていく。
ああっ…！
そして、それは不意に弾けた。
小さな手の中で、びゅるびゅると濁った液を吐き出す陰茎。
ぶるぶると震える少年の身体。初めて夢精以外で達した身体。
大きく息を吐くと共に、寒天のような塊を含んだ精液が飛び出す。
少女は身体を火照らせながら、彼の欲望を受け止めた。
ああっ…。
次第に、弱くなっていく勢い。
張ったつま先が攣りそうになる手前で、射精は止まった。
少女の手と、少年の股間は、黄み帯びた白で染められた。
精を放つことの快感に、涙まで溢しながら、小刻みに身を震わす少年。
男児ならば誰しもが経験する、その想い。彼の場合は、恋する人の手で。
その悦楽がいかほどであったのかを、へそまで溜まり、溢れた量が示している。
いっぱい、でた。
そう言って、手を柄杓のように…牛の乳よりも濃いそれを、飲み込んでいく彼女。
咽を通る度に、その部分の肉が浮き上がり、呆然と見つめる少年の心を掻き乱す。
不意に、彼は、彼女の身体が、先程よりも明るくなったように見えた。
目の錯覚だろうか。しかし、やはり、少しだけ明るくなったような…。
こっちも、のむね。
そんな考えを遮るかのように、彼女は少年の下腹部に舌を這わせた。
産毛の部分に散るもの、へそに溜まったもの、恥部に垂れているもの…。
ひとつひとつを、可愛らしい舌が掬っていく。むず痒さに、喘ぐ少年。
締めに、裏筋を舐め上げる舌が、まだ管に残っていた精液を押し出して、
鈴口から出てきたそれを水飴の如く舐める少女は、なんとも可愛らしかった。
まだ、こんなにおっきい。
少女は呟く。
それを摘みながら、うっとりとした瞳を浮かべて。
舌での後始末が、欲情を刺激したのか、確かに彼の陰茎は大きいままだった。
恥ずかしそうに自分のものを見やる少年に、くすりと笑う少女。
彼女は、羽織を結ぶ胸糸を摘むと…はらりと、それを解いた。
わ…。
ぽかん、と口を開く少年。
なだらかで幼い女性の胸が、彼の眼前に晒される。
息継ぐ間も僅か、躊躇いなく、自らの秘部を覆う衣服をも脱ぎ払う少女。
気付けば、薄暗闇の中に浮かぶ…裸の女性。
ソラ…。
しなだれるように、愛する人に覆い被さる魔物。
彼はおそらく、これから何をするのか、よく分かっていない。
だから、私が教えてあげよう。彼の知らない、男女の営みを。
そう考えていた提灯おばけだが…それは思わぬ形で、先送りとなった。
ちょん？
ふと違和感を覚え、素っ頓狂な声を上げる少女。
彼が、何故かとても苦しそう。
それもそのはず。少年は、ことこの場面に及んで、自慰に耽り始めた。
覚えたばかりの自慰。先程、彼女が彼のものを弄った指先を真似て。
我慢の限界だった。
少女の裸を見た彼は、滾るそれを弄らずにはいられなかった。
瞳を潤わせ、左手は自らの肩を抱き、右手は先端をこねて。
彼女の顔、胸、秘部をまばらに見やりながら、必死に擦った。
洩れるのは、苦しそうな喘ぎ声。まるで今にも達しそう。
…えへへっ。
提灯おばけは、そんな彼を咎めもせず、かといって呆れもせず、
自らも身体を屈めて…魅了された少年へ向けて、自慰を始めた。
自分の恥部に指を這わせて、少女は、少し驚いた。
少年のものに負けないくらい、湿り気を帯びていた自らのものに。
触れた中指を、ゆっくりと離すと…つぅっ、と糸が弧を描いた。
どれほど自分が、この少年を愛しているのか。あぁ、これほどまでに。
みててね…。
恥部を広げ、てらてらとぬめり照かる襞を見せる。
顕著に反応する彼。もっと喜ばせてあげようと、指を這わす。
くちゅり、と外壁を滑る刺激と共に、ぴりぴりと駆ける痺れ。
腹の奥へ疼きを感じながら、穴の周りをなぞるように弄る。
少年が少女を見て自慰をするように、彼女も彼を見ながら。
自分の指を、彼の指だと思い込み、愛撫に熱を宿す。
今、彼女の脳裏をよぎるもの。
彼が、この身を大事に大事に扱ってくれた思い出。
言葉は交わせなくとも、満ち足りるほどの優しさを与えてくれた。
明かりを灯すしかできない自分を、何よりも大切にしてくれた彼。
これが恋でなければ、愛でなければ、何だというのだ。
蝋が尽き、灯火が消え入る瞬間、彼女の想いは燃え上がった。
宙を漂う魔力を呑み込み、魔物としてその身を甦らせた。
他でもない、死にゆく彼を救うために。
愛する彼と、もっと深く愛し合うがために。
あっ…。
指を中へ挿し入れると、幾重もの襞が絡み付いた。
まるで、彼のものと勘違いしているかのような、強い締めつけ。
押し広げ、少し乱暴に弄ってやると、甘い刺激が脳を刺した。
提灯おばけは彼の名前を呟きながら、何度も指を出し入れた。
愛してる。愛してる。愛してる。
彼女の頭の中が、一色の言葉で染まっていく。
それ以上の、彼に対する想いの言葉が、彼女は分からない。
一心不乱に、ただ一心不乱に。胸の灯火が炎となって。
ソラッ！
俄かに、破裂する想い。
彼がしたいことをさせてあげたいと望んでいた彼女。
この崩れた小屋の中、ふたりの愛の巣に居る限り、ずっと、ずっと。
だが、彼女ももう限界だった。
一時でも早く、彼に犯してほしかった。
一度、命絶えかけた彼の姿を見た彼女にとっては、
ほんの少しでも先延ばしになることが、不安でたまらなかった。
少年に跨り、彼の恥部を掴んで…そっと、秘部に宛てがう。
不安げな表情を浮かべる彼。それを拭うように、少女は唇を重ねる。
んぅっ…！
はち切れそうな想いを流し込みながら、腰を沈める少女。
どくどくと跳ねる彼のそれが、中へ、中へと入ってくる…。
それが、ぴたりと最奥に触れて、動きを止めた。
お腹の奥が熱い。煌めきが更に増していくのを、彼女は感じた。
それに合わせて、彼のものも。少年のものとは思えないほどの大きさに。
彼もそれに気付いたようで、腫れ上がる様に膨れていく自らのものに、呻いた。
その感触はどのようなものだろう。ますます、彼女の膣内は狭く、きつく…。
うごく、ね。
息苦しそうに、言葉を詰まらせながら…少女は腰を振り始めた。
真っ赤に充血した陰茎が、小指ほどしかなかった彼女の穴を押し広げる。
ひぁぁ…っ！？
犬の遠吠えのように、夜空に響く喘ぎ声が漏れたのは、同時だった。
一度腰を振っただけで…少年も、少女も、身をがくがくと震わせた。
それほどまでに、彼のものは、彼女のものは、恋人へと愛を注ぎ込んで…。
少年は、木の板が張られた床に爪を立て、かりかりと引っ掻いて。
少女は、愛する人の肩に掴み掛り、腰を抜かして。
お互い…そのまま、動くに動けない状態となってしまった。
ソラ…。
舌をだらんと垂らして、少女が彼を呼ぶ。
少年が、僅かに彼女の方へ顔を向けると…再び、交わり合う唇。
ちゅ…。
口をもぐもぐと動かして、少年の口内を犯し始める提灯おばけ。
もう、ほんの僅かな刺激でいい。それだけで充分なはず。
彼が達してくれれば、私も達せられる。ふたりで達したい。
想いは、麻痺する脳を通り越し、口を、舌を動かす。
私は道具。彼を癒す道具。
役に立ちたい。もっと。もっと。
髪を結ぶ、汚れた布切れがはらりと落ちる。
今にも達しそうな、少年の身体の震えを感じ、接吻に更なる熱が宿る。
んっ…。
彼女は願う。
一生、彼と共に居たいと。
一生、彼に使われる道具でいたいと。
一生、彼の傍にいる恋人になりたいと。
この小屋を、あたたかく、あかるく照らせる提灯でありたいと。
ふぁっ…！
彼女の腹の内の火が、大きく燃え上がる。
それと共に、高く声を上げ、膨らむ少年のもの。
ソラ…ッ！！
ボロ小屋に、まばゆいまでの光が満ちた。
……………
………
…
あれから、何度目の冬が訪れただろう。
雪積もる廃村。
何もかもが静寂に包まれた、白の世界。
その一角に…明るく灯る、小さな小屋。
不思議なことに、そこにだけ雪が積もらない。
光がまるで、寒さを寄せつけないかのよう。
中に誰かいるのだろうか。それは誰にも分からない。
訪れる者などいないのだから。誰も彼も、この場所に。
ただ、不思議な音だけが、山彦としてこだまして、
近くの山道を通る人の耳に届くことがあると云う。
ちょーん。ちょーん、と。
雪が解ければ、また春が訪れるだろう。
少年の行方は誰も知らない。
ただ、灯る光は、もう二度と消えることはなかった。
ちょーん。
12/05/31 18:46更新 / コジコジ