盲目夢精
…僕の世界は、暗闇だった。
生まれつき、目が見えない身体。
パパの姿も、ママの姿も、お姉ちゃんの姿も知らない。
分かるのは…その形だけ。
手で触れ、なぞれば分かる、形だけ。
色も分からない。綺麗なのか、格好良いのかも分からない。
そもそも、どうなっていれば綺麗で、格好良いのかも。
形だけ。丸や、三角や、四角を、少し変えたような、形だけ。
触れた場所だけが、僕の中で形作られている、世界。
「…おやすみなさい、ソラ」
お姉ちゃんが、僕に優しく毛布を掛けてくれる。
誰かが教えてくれた。夜は眠る時間だから、ベッドに入るのだと。
だからきっと、今は夜。どんな形かも分からない、夜。
これも、誰かが教えてくれた。夜は暗いのだと。
それでも、夜の世界は、僕が見ているものとは違うはず。
明かりがあるから、夜の世界が暗いって分かる。
僕は、誰かに教えられるまで、この世界が暗闇ということも分からなかった。
僕の世界に、明かりは無い。
……………。
…他の人は、僕が分からないことを、どれくらい知っているんだろう。
僕が分かることは。
例えば、男というのは、僕みたいな身体の人のことで、パパもそう。
おへその下、２本ある足の内側のところ。オチンチンが生えている。
柔らかい、指に似ているけれど、自由には動かせないところ。それが男。
逆に、女というのは、お姉ちゃんみたいな身体の人のことで、ママもそう。
胸が男より膨らんでいて、柔らかい。男は平べったいのに、女は丸い。
柔らかいと言えば、パパの身体は固いけれど、お姉ちゃんやママの身体は柔らかい。
僕のも柔らかいけれど、男は大人になると身体が固くなるって、パパが教えてくれた。
それも不思議だけれど、もう一つ不思議なのが、女にはオチンチンがないこと。
初めは嘘だと思ったけれど、お姉ちゃんが教えてくれた。本当だった。
お姉ちゃんは、他の誰にも聞いちゃだめだよ、って言っていた。
それは恥ずかしいことなんだよ、とも。声を潜めながら。
……………。
…僕は、恥ずかしいということはどういうことか、少し分かる。
お姉ちゃんが僕に、恥ずかしさといものを教えてくれたから。
その一番最初は、用を足すとき。
これはなんとなくだけれど、既に恥ずかしいものだと分かっていた。
ママが、トイレのドアは閉めるように、付き添ってくれていた時、いつも言っていたから。
用を足すときっていうのは、見られちゃいけないものなんだって思った。
ある日、僕は…お姉ちゃんがトイレの中にいるのに、入ってしまった。
ノックはしたけれど、気が付かなかったみたいで、誰もいないと思って…。
一歩、中へ足を踏み入れた時、お姉ちゃんの小さな悲鳴で気付いた。
謝って、慌てて出ようとしたけれど、僕の腕を誰かが掴んだ。
―…先に、していいよ。ソラ…。
…僕の背中に回り、少し前に押して……ズボンとパンツを下ろす、お姉ちゃん。
そして…オチンチンを掴んで…たぶん、トイレがある方に向けてくれた。
僕がまだ、一人で何もできない頃…ママがしてくれたやり方と同じ。
でも、何故か、すごく…変な気分だった。初めての、恥ずかしいという気分。
一人のはずの空間で、誰にも見られず用を足すというルールが、破られている。
……最初は、恥ずかしかったせいか、全然出なかったけれど……
しばらくしたら…いつものように、おしっこがオチンチンを通る感触とともに、
ちょろちょろと……水が跳ねる音が、僕の耳に届いた。用を足す音。
……………。
…でも、それもすごく恥ずかしかったけれど…、
一番恥ずかしいと感じたのは、３ヶ月前の夜の事。
あの日、もう僕は眠っていたのだけれど、誰かに身体を揺すられて、目が覚めた。
―…ソラ。
声で、お姉ちゃんだとすぐに分かった。
でも同時に、どうしたんだろう、という疑問も浮かんだ。
夜は眠る時間。僕も、パパも、ママも、お姉ちゃんも。
…お姉ちゃんは、何も言わず、僕のベッドに入ってきた。
僕はお姉ちゃんが好きだし、前は一緒に寝ていたこともあった。
だから、今日は一緒に寝てくれるのかな…と思って、嬉しくなった。
―…いいこと、教えてあげる…。
でも、そうじゃなかった。
お姉ちゃんは、トイレでもないのに、僕の下を全部脱がした。
お風呂やトイレ以外で裸になるのは…恥ずかしいこと…。
その時の僕は、既にそれが分かっていたから、すごくびっくりした。
―気持ち良いこと、してあげる…。他の人には、ナイショだよ？
…今でも守っている、そのナイショのこと。
お姉ちゃんは僕のオチンチンを…指で、くにくにと弄りだした。
おしっこをするときの、掴むそれとは違う、奇妙な触れ方…。
それだけでなく、お姉ちゃんは僕の上も脱がして、裸にした。
そして、僕のおっぱいを…指や、たぶん、舌で、弄ったり、舐めたりした。
よく分からない感触に、くすぐったさを覚えて、僕は身体をむずむず動かした。
でも、抵抗はしなかった。いつもの、優しいお姉ちゃんには違いなかったから。
―…かわいい…♥ 感じてるんだ…♥
感じてる…。よく、わからない。
でも、かわいいっていう言葉は、すごく嬉しかった。褒められたから。
その時…急に、オチンチンに痛みが走った。
転んだ時の痛みとか、そういうのとは違う……あれはなんだろう…。
一番近いのは…爪切りで、ママが、僕の右手の中指を深爪しちゃったとき。
あの時、いつもより柔らかい部分が広くなった指先は、敏感になっていて、
触れると、じんわりとした……痛い、とまでは言えない感触があった。
あれを強くしたのが、その時の痛み…なんだと思う。
―……剥いちゃった…♥ 弟の……♥
…そして、皮を何度も、オチンチンの先っぽに被せたり、また脱がせたり。
じんじんとした、痛みが主な、その変な感触に…僕は耐えられなかった。
何度も、お姉ちゃんの名前を……でも、パパとママには聞こえないよう、小さな声で…。
見えないそれに、何が起こっているのか、何度も尋ねた。
―…勃起、してるんだよ…♥ 射精するの…♥
射精…。
初めて聞く言葉だった。今でも、意味はよく分からない。
ただ、それがどういうものかは……その数分後、僕は体験した。
―あっ…♥ わぁっ……♥
お姉ちゃんが弄るたびに、オチンチンに刺激が走って…
痛いのかどうかも分からなくなってきた時……それは、訪れた。
オチンチンの中を通る…おしっことは違う、勢いのある何か。
それと同時に…足が痺れた時の、あれが全身で起きたような…。
頭の中も真っ白になって、僕はそれを受け入れることしかできなかった。
―…ふふ…♥
…お腹の上に落ちた、その液体の様に感じる何かを…
お姉ちゃんの指が摘まみ上げ……まだ痺れの残る僕の手に、触れさせた。
―こういうの、出たの……はじめて？
……ねばねばとして……でも、ゼリーみたいな、ぷるぷるとした小さいものが、
その液体の中にあるのを指先で感じる。とても…僕の身体から出たモノとは思えない感触。
不安と、興味から、僕はお姉ちゃんに、それが何なのかを尋ねた。
―…精液、って言うんだよ♥ 精通したの、ソラ…♥
……………。
…僕は……その時のことを思い出しながら……お姉ちゃんが来てくれない夜は、
こうしてお姉ちゃんの指の真似事をして…射精をするのが、習慣になった。
とても恥ずかしいことだと思うから…誰にも聞かれないように、誰にも見られないように、
声を抑えて、聞き耳を立てて……一人、毛布を被りながら……静かに………。
そして………あの日から、お姉ちゃんが毎朝交換しに来てくれる…
手のひらサイズの瓶の中に……いっぱい出して………。
……蓋をして、枕の下に隠して…眠るようになったのが、今の僕。
恥ずかしいということと、射精することを知った、目の見えない僕。
もし目が見えていたら、もっと恥ずかしいのかなと思い……うとうととする…。
そんな、僕。
……………
………
…
「……え…？ あ、あれっ…？」
…誰かの声。女の人。ママじゃない。お姉ちゃんとも違う。
「変身できない…。ど…どうして…？」
………？
何？ これは、何？ 何？
暗闇の中に、暗闇じゃない何かがある。
触れようとしても、これが近いのか、遠いのかも分からない。
ただ、いくら僕の目の前を掴んでも、手をめいっぱい伸ばして掴んでも、
これに触れることは出来ない。もし触れていたとしても、僕の指に感触はない。
「それに……何でこんなに、真っ暗な…」
でも、言葉を発している。
人だ。それは間違いないはず。
そう思って…僕は暗闇じゃないこれに、声を掛けた。
「ひゃっ！？」
驚いたような声。
…暗闇じゃないそれが、何かをしている。
もしかして、これが『動く』っていうことなのかな？
これが『身体』で、これがこんな風になるのを、『動く』っていうのかな？
「ど、どこですか…？ 誰かいるんですか…？」
ここだよ、と答えると…また、驚いた声。
……そして…少しずつ………いつしか、暗闇のほとんどが、『身体』。
「…ここ……ですか…？」
『身体』の『動き』に……僕は、手を伸ばす。
「あっ…」
…何かに、触れた。
……手、だ。指がある。５本、ちゃんと。
柔らかくて、温かい…お姉ちゃんの手と似ている…。
「……もしかして…、貴方、目が……」
頷いて……でも、その人が見えているのかもしれないことを伝える。
こんなこと、生まれて初めて…とも。
「………」
「…少しだけ、待っていてください」
ふと…世界が、元に戻る。
暗闇の世界。声を掛けても、何も返ってこない世界。
手を伸ばしても…何も無い。何にも触れない。
いつもの光景のはずなのに……何故か、急に不安になって、
何度も声を掛けて、必死で手を伸ばして…いなくなったその人を探した。
どこにいるの？ どこに行ってしまったの？
いなくならないで……と、何度も……。
「ご、ごめんなさいっ！ 大丈夫ですか！？」
声。世界が、また、その人。
僕の手を握る、その人の手。両手で、僕はその手を握り締める。
…心が、安らいでいくのが分かる……。
「うなされていました…。ごめんなさい…、恐かったんですね…」
恐かった…。どうしてかは分からないけれど、異様に……恐かった…。
僕の見ていた世界が…あんなに恐いと感じるものだなんて、知らなかった。
何かが見える世界が、こんなに安心できるものだなんて…知らなかった。
「でも……これできっと、大丈夫です…」
『動く』。
僕の手…腕……胸………全身を、その人の手が、撫でるのを感じる…。
それと同時に…暗闇じゃないものが、また……。
「…分かりますか？ これが貴方の…手です」
………？ 手…？
「貴方の手が、今貴方の目の前にあるのは分かりますか？」
頷く。手のある方向に、顔を向けている。
「右手を握ってみてください」
…『動く』。
「…今動いたのが、貴方の手です」
…これが……僕の、手……？
「分かりますか…？」
……………。
「…これが…」
…『動く』…。
「私の…手です」
「…分かりますか…？」
……………。
「…ひとつずつ、覚えていきましょう」
「貴方の夢が覚めるまで、まだ時間があります」
…夢……？ 夢…って、何…？
「…分かりますか？」
「ここは貴方の…夢の世界なんです…」
……………
………
…
それから。
僕は、その人…メアさんという女性に、『見る』ということを教わった。
例えば、手。柔らかい部分は肌色で、固い部分…爪は、白と紅色。
指を曲げると、こんな形になる。握れば、こんな形。開けば、こんな…。
身体のことだけじゃない。
次の日の夜にもメアさんは来てくれて、僕の部屋を見せてくれた。
本。机。花瓶。ベッド。コップ。ドア。ロウソク。色々…。
その中でびっくりしたのは、コップの模様。
メアさんは、それを猫と教えてくれたけれど、触ってもコップの感触だった。
僕が知っている、猫のふわふわとした感触とは違い、混乱してしまった。
でも、その猫は絵だから、コップと同じ感触なんだって教えてくれて、
本物の猫といって連れてきてくれたそれは、確かに猫の感触だった。
でも、大きさは違うし、コップの猫は動かないけれど、本当によく似ている。
絵ってすごい、見えるってすごい、って…心から思った。
それ以来、メアさんが来てくれる夜の時間が、とても楽しみになった。
メアさんは何故か、僕が眠っている間にしか来られないらしく、
目が覚めると、いつも通りの暗闇の世界が僕の周りにはあった。
でも、声を掛けると、お姉ちゃんが返事をしてくれる。おはよう、って。
あの恐さは湧かず、僕は眠る時以外、いつも通りの日々を過ごした。
メアさんが見せてくれたものは、とても多い。
まだ触れたことがないものや、名前さえも知らないものも。
僕がそれを見て、触れて、驚く姿に、メアさんは笑っていた。
驚いているのは僕ばかりじゃない。お姉ちゃんもだ。
目が覚めて、挨拶の後に、夢で習ったことをお姉ちゃんに確認する。
すると、最初…お姉ちゃんはとてもびっくりしたみたいで、僕に問い詰めた。
僕が夢であったことを話すと、お姉ちゃんは、僕を抱きしめて、こう言った。
女神さまが来てくれた。ソラが良い子だから、女神さまが助けに来てくれた。
お姉ちゃんは泣いているようで…声が震えていた。
僕も、お姉ちゃんのことを抱き返して…その言葉に、共感した。
メアさんは、女神さま。僕に世界を見せてくれる、女神さま。
…ふと思い付いて、僕はお姉ちゃんに言った。
今度、お姉ちゃんの姿を見せてくださいって頼んでみる、って。
……………
………
…
「こんばんわ…、ソラ」
月夜が照らす、色鮮やかな僕の部屋……夢の世界に、メアさんが訪れる。
前に、お姉ちゃんが言っていた、メアさんが女神さま…という話を思い出す。
確かにメアさんは、僕や他の人とは、ちょっとだけ違う部分がある。
それは、足。
正確に言えば、腰から下で…メアさんのそれは、いつか見せてもらった、
馬の身体に似ている。足が四本生えていて、お尻に尻尾があって。
女神さまっていうのは、もしかしたらこういう姿なのかもしれない。
「ふふっ。元気な返事…。羨ましいです」
微笑むメアさんに、僕は前々から考えていた、あることをお願いした。
「えっ？ …ソラのお姉さん、ですか？」
頷く。
「…家の中にいるんですよね？ 少しだけ、待っていてください」
そう言って……ふっ、と消える、メアさん。
…と思ったら、すぐにまた、目の前にメアさんが現れた。
「…ぁ……ぁゎゎ……」
………？
どうしたんだろう。顔が真っ赤で…何か、慌てているように見える。
「………」
「……そ、ソラ…」
僕を呼ぶ、メアさん。
「か…身体…。何か、変ではありませんか…？」
…身体…？
……………ぁ…。
「………ぁ…」
僕は咄嗟に、そこを押さえて、メアさんから離れ……ベッドに座り込んだ。
…勃起、してる…。それも、痛いくらいに…固く…。
どうして…？ オチンチン、弄っているわけじゃないのに…。
恥ずかしいことだって、考えていないのに…。
どうして……。
「………」
…近付いてくる、メアさん。
恥ずかしさのあまり、身体を丸めて、足でもそこを隠す。
これは、見られちゃいけいないもの。恥ずかしいもの。
隠さなきゃ…。隠さなきゃっ…！
「…ソラ…」
膝を曲げ…僕のお腹の高さに、メアさんの顔。
「……私が…鎮めます…」
絡む、視線。
「ソラ…」
「私に……見せてください…」
……………。
…僕、は………ゆっくりと…足を下ろして…。
………ズボンを…下げて………。
勃起したオチンチンを……晒した。
「きゃっ…♥」
驚く、メアさん。
メアさんだけじゃなく、僕も。
オチンチンって…こんなの、だったんだ…。
指と同じ見た目なのを想像していたけれど、全然違う。
でも、触れている感触は、まさしくいつもの…それ。
「…もう……こんなに…♥」
……期待、したんだと思う…。
お姉ちゃんの様に…触れてくれることを…。
メアさんが、僕のオチンチンを弄ってくれることを…。
射精…させてくれることを……。
「……触り…、ますね…？」
どきっ、として………こくん、と頷いた…。
「………ん…っ♥」
メアさんの柔らかな指が、僕のオチンチンに触れる。
ぴくりと、反応するのが…見え、感じる。
……恥ずかしい……。
「…可愛い…♥」
上下に擦って刺激してくる、メアさん。
走る快感と…増す恥ずかしさ。
それに耐えようと、目を瞑るけれど…目が覚めている時と同じように、
瞑ろうと、そうでなかろうと、世界はまるで変わらない。
僕の目に…身体に伝わる、恥ずかしいという…その感覚。
きっと、暗闇でも…それは変わらない。
「…♥」
……少し経って、気付く。
きもちいい。ううん………きもちよすぎる。
僕の弄り方とも…お姉ちゃんの弄り方とも、比じゃない。
徐々にだけれど……ほら、今、もう…腰が抜けそうなほど……。
耐え切れなくて…身体を倒して、逆手にシーツを掴んで……。
それでも我慢できなくて………声が勝手に出ちゃうくらいの……っ。
「…いっぱい、愛液出てます…♥」
見ると…オチンチンの先端から、透明な…とろとろと流れているもの…。
あれが……愛液…？
もしかして、オチンチンを弄ってると、射精する前に出てくる…
精液ほどじゃないけれど、ねとねととした…液体のこと…？
あれがそうなの…？ あの、オチンチンから出てるのが……。
「……あっ…♥」
不意に…覚えのある感覚に、背筋を張って、一際大きい声を上げる。
出るっ…。一番恥ずかしいのが…出ちゃう…っ………っっっ！
「きゃっ！？♥ ……ぁ…♥ いっぱい…♥」
………お腹や…頬に掛かる……べっとりとしたもの……。
…射精、しちゃった…。メアさんの前で…。
……精液………出しちゃった………。
「…ソラ…♥」
…お腹の上に落ちた、その液体を…メアさんの指が摘まみ上げ……
まだ視界が定まらない僕の目の前に、それをかざした。
「これが……精液です…♥」
ねばねばとして……でも、ゼリーみたいな、ぷるぷるとした小さいものが、
その白い液体の中に…黄ばんだ色で、揺れているのが分かる。
……これが……精液………。
「…ちゅっ……こくんっ…♥ ……んっ……」
その精液を…指ごと口に含んで、飲み込んだメアさんは…
僕に跨って……目の前で………服を脱ぎ始めた……。
僕の視界に広がる…肌色と、桃色と、紅色の身体…。
「…分かりますか？♥」
「これが……女性の身体です…♥」
…分かる…。見たのは初めてだけれど。触れたことは、ある。
でも……なのに、どうして…？
どうして、僕…こんなに……こんなに、変な気分に……。
初めて見たはずなのに、どうしてこんなにドキドキするの…？
触れたことはあるはずなのに、どうしてこんなに触れたくなるの…？
どうして…？ メアさんっ…。
「…♥ やっぱり…ソラも男の子です…♥」
「分かるんですね…♥ 女性の身体が…男性の身体と…」
「エッチするためのもの…、って…♥」
メアさんっ…。ぼくっ、ぼくっ…、もうっ…！
「……ソラ…♥」
メアさんの身体……お腹が、僕のお腹に近付いて……
縦筋が入ったところに………オチンチンが、押し当たる。
「あっ♥♥♥」
にゅるっ…とした感触と……筋の中に入っていくオチンチンが、見え……。
それと同時に、入った部分を襲う、手の何倍……何十倍もの刺激…。
声を上げ…シーツを破りかねない勢いで、握り締める。
「…あぁ…っ……♥♥♥ ソラ…♥」
全部入り……そのまま、お腹……胸……指を絡めて……肩……額…。
メアさんの全てが、僕に触れているのを感じる…。触れているのが見える…。
これ以上に無いくらいに伝わる、メアさんという形…、存在。
「…んむ…♥ ちゅ…♥ ……ぺろぺろぺろ…♥」
もふ…と口に口が覆い被さり……アイスクリームを舐めるように、メアさんの舌が…。
これも、口の中が溶けちゃいそうなほどきもちよくて……。
押し当てられている、胸やお腹だって…。握られた手だって…。
そのどれかひとつだけでも……射精しちゃうくらいの…。
………あぁっ……！
「っ…♥♥♥ ……そうです…♥ 我慢しないで…、いっぱい…♥」
……精液が、メアさんの中に飲み込まれていく…。
「…んっ…♥ はっ…♥」
メアさんの腰が浮いて……また、沈んで……。
射精を続けるオチンチンを、離したり、飲み込んだり…。
その度に響く、快感と、水音と、僕の声。
「ちゅぅ…っ♥ んくっ…♥ あんっ…♥ ソラッ…♥ 可愛いっ…♥」
聞き覚えのある声。メアさんの声？ 分からない。
僕の目はもう、見えているようで、何も見えていない。
ただ、身体に感じる刺激に喘いでいるだけの、恥ずかしい人。
恥ずかしいことを、きもちいいって…もっとしてほしいって、思っている人。
僕は……っ。
「ソラッ♥ ソラァ…♥ 私の…♥ 私の可愛い…っ♥」
今はただ……ずっとっ……いっぱい………っっっ！
「あっ♥ あっ♥ あっ♥ 私もっ…♥ あっ…♥ あぁっ♥♥♥」
「ふあぁぁぁぁ〜〜〜〜〜っっっ♥♥♥♥♥♥♥」
……………
………
…
…目が覚めると、暗闇の世界が広がっていた。
身体には、けだるい感覚…。起き上がるのが、少し億劫と感じるくらいの。
もそもそと動いて、なんとか起きようとすると…ふと、手に触れるもの。
…なぞると……女性の、胸。知っている形。お姉ちゃんの胸。地肌の。
よく聞くと…寝息が聞こえる。お姉ちゃんが、僕の隣で眠っている。
………不意に、それが止まる。
そして、急に毛布が浮き上がるような感触。
僕は反射的に、お姉ちゃんの腕を掴んで……挨拶をした。
また、次の夜を迎えるために。
―おはよう、お姉ちゃん。
生まれつき、目が見えない身体。
パパの姿も、ママの姿も、お姉ちゃんの姿も知らない。
分かるのは…その形だけ。
手で触れ、なぞれば分かる、形だけ。
色も分からない。綺麗なのか、格好良いのかも分からない。
そもそも、どうなっていれば綺麗で、格好良いのかも。
形だけ。丸や、三角や、四角を、少し変えたような、形だけ。
触れた場所だけが、僕の中で形作られている、世界。
「…おやすみなさい、ソラ」
お姉ちゃんが、僕に優しく毛布を掛けてくれる。
誰かが教えてくれた。夜は眠る時間だから、ベッドに入るのだと。
だからきっと、今は夜。どんな形かも分からない、夜。
これも、誰かが教えてくれた。夜は暗いのだと。
それでも、夜の世界は、僕が見ているものとは違うはず。
明かりがあるから、夜の世界が暗いって分かる。
僕は、誰かに教えられるまで、この世界が暗闇ということも分からなかった。
僕の世界に、明かりは無い。
……………。
…他の人は、僕が分からないことを、どれくらい知っているんだろう。
僕が分かることは。
例えば、男というのは、僕みたいな身体の人のことで、パパもそう。
おへその下、２本ある足の内側のところ。オチンチンが生えている。
柔らかい、指に似ているけれど、自由には動かせないところ。それが男。
逆に、女というのは、お姉ちゃんみたいな身体の人のことで、ママもそう。
胸が男より膨らんでいて、柔らかい。男は平べったいのに、女は丸い。
柔らかいと言えば、パパの身体は固いけれど、お姉ちゃんやママの身体は柔らかい。
僕のも柔らかいけれど、男は大人になると身体が固くなるって、パパが教えてくれた。
それも不思議だけれど、もう一つ不思議なのが、女にはオチンチンがないこと。
初めは嘘だと思ったけれど、お姉ちゃんが教えてくれた。本当だった。
お姉ちゃんは、他の誰にも聞いちゃだめだよ、って言っていた。
それは恥ずかしいことなんだよ、とも。声を潜めながら。
……………。
…僕は、恥ずかしいということはどういうことか、少し分かる。
お姉ちゃんが僕に、恥ずかしさといものを教えてくれたから。
その一番最初は、用を足すとき。
これはなんとなくだけれど、既に恥ずかしいものだと分かっていた。
ママが、トイレのドアは閉めるように、付き添ってくれていた時、いつも言っていたから。
用を足すときっていうのは、見られちゃいけないものなんだって思った。
ある日、僕は…お姉ちゃんがトイレの中にいるのに、入ってしまった。
ノックはしたけれど、気が付かなかったみたいで、誰もいないと思って…。
一歩、中へ足を踏み入れた時、お姉ちゃんの小さな悲鳴で気付いた。
謝って、慌てて出ようとしたけれど、僕の腕を誰かが掴んだ。
―…先に、していいよ。ソラ…。
…僕の背中に回り、少し前に押して……ズボンとパンツを下ろす、お姉ちゃん。
そして…オチンチンを掴んで…たぶん、トイレがある方に向けてくれた。
僕がまだ、一人で何もできない頃…ママがしてくれたやり方と同じ。
でも、何故か、すごく…変な気分だった。初めての、恥ずかしいという気分。
一人のはずの空間で、誰にも見られず用を足すというルールが、破られている。
……最初は、恥ずかしかったせいか、全然出なかったけれど……
しばらくしたら…いつものように、おしっこがオチンチンを通る感触とともに、
ちょろちょろと……水が跳ねる音が、僕の耳に届いた。用を足す音。
……………。
…でも、それもすごく恥ずかしかったけれど…、
一番恥ずかしいと感じたのは、３ヶ月前の夜の事。
あの日、もう僕は眠っていたのだけれど、誰かに身体を揺すられて、目が覚めた。
―…ソラ。
声で、お姉ちゃんだとすぐに分かった。
でも同時に、どうしたんだろう、という疑問も浮かんだ。
夜は眠る時間。僕も、パパも、ママも、お姉ちゃんも。
…お姉ちゃんは、何も言わず、僕のベッドに入ってきた。
僕はお姉ちゃんが好きだし、前は一緒に寝ていたこともあった。
だから、今日は一緒に寝てくれるのかな…と思って、嬉しくなった。
―…いいこと、教えてあげる…。
でも、そうじゃなかった。
お姉ちゃんは、トイレでもないのに、僕の下を全部脱がした。
お風呂やトイレ以外で裸になるのは…恥ずかしいこと…。
その時の僕は、既にそれが分かっていたから、すごくびっくりした。
―気持ち良いこと、してあげる…。他の人には、ナイショだよ？
…今でも守っている、そのナイショのこと。
お姉ちゃんは僕のオチンチンを…指で、くにくにと弄りだした。
おしっこをするときの、掴むそれとは違う、奇妙な触れ方…。
それだけでなく、お姉ちゃんは僕の上も脱がして、裸にした。
そして、僕のおっぱいを…指や、たぶん、舌で、弄ったり、舐めたりした。
よく分からない感触に、くすぐったさを覚えて、僕は身体をむずむず動かした。
でも、抵抗はしなかった。いつもの、優しいお姉ちゃんには違いなかったから。
―…かわいい…♥ 感じてるんだ…♥
感じてる…。よく、わからない。
でも、かわいいっていう言葉は、すごく嬉しかった。褒められたから。
その時…急に、オチンチンに痛みが走った。
転んだ時の痛みとか、そういうのとは違う……あれはなんだろう…。
一番近いのは…爪切りで、ママが、僕の右手の中指を深爪しちゃったとき。
あの時、いつもより柔らかい部分が広くなった指先は、敏感になっていて、
触れると、じんわりとした……痛い、とまでは言えない感触があった。
あれを強くしたのが、その時の痛み…なんだと思う。
―……剥いちゃった…♥ 弟の……♥
…そして、皮を何度も、オチンチンの先っぽに被せたり、また脱がせたり。
じんじんとした、痛みが主な、その変な感触に…僕は耐えられなかった。
何度も、お姉ちゃんの名前を……でも、パパとママには聞こえないよう、小さな声で…。
見えないそれに、何が起こっているのか、何度も尋ねた。
―…勃起、してるんだよ…♥ 射精するの…♥
射精…。
初めて聞く言葉だった。今でも、意味はよく分からない。
ただ、それがどういうものかは……その数分後、僕は体験した。
―あっ…♥ わぁっ……♥
お姉ちゃんが弄るたびに、オチンチンに刺激が走って…
痛いのかどうかも分からなくなってきた時……それは、訪れた。
オチンチンの中を通る…おしっことは違う、勢いのある何か。
それと同時に…足が痺れた時の、あれが全身で起きたような…。
頭の中も真っ白になって、僕はそれを受け入れることしかできなかった。
―…ふふ…♥
…お腹の上に落ちた、その液体の様に感じる何かを…
お姉ちゃんの指が摘まみ上げ……まだ痺れの残る僕の手に、触れさせた。
―こういうの、出たの……はじめて？
……ねばねばとして……でも、ゼリーみたいな、ぷるぷるとした小さいものが、
その液体の中にあるのを指先で感じる。とても…僕の身体から出たモノとは思えない感触。
不安と、興味から、僕はお姉ちゃんに、それが何なのかを尋ねた。
―…精液、って言うんだよ♥ 精通したの、ソラ…♥
……………。
…僕は……その時のことを思い出しながら……お姉ちゃんが来てくれない夜は、
こうしてお姉ちゃんの指の真似事をして…射精をするのが、習慣になった。
とても恥ずかしいことだと思うから…誰にも聞かれないように、誰にも見られないように、
声を抑えて、聞き耳を立てて……一人、毛布を被りながら……静かに………。
そして………あの日から、お姉ちゃんが毎朝交換しに来てくれる…
手のひらサイズの瓶の中に……いっぱい出して………。
……蓋をして、枕の下に隠して…眠るようになったのが、今の僕。
恥ずかしいということと、射精することを知った、目の見えない僕。
もし目が見えていたら、もっと恥ずかしいのかなと思い……うとうととする…。
そんな、僕。
……………
………
…
「……え…？ あ、あれっ…？」
…誰かの声。女の人。ママじゃない。お姉ちゃんとも違う。
「変身できない…。ど…どうして…？」
………？
何？ これは、何？ 何？
暗闇の中に、暗闇じゃない何かがある。
触れようとしても、これが近いのか、遠いのかも分からない。
ただ、いくら僕の目の前を掴んでも、手をめいっぱい伸ばして掴んでも、
これに触れることは出来ない。もし触れていたとしても、僕の指に感触はない。
「それに……何でこんなに、真っ暗な…」
でも、言葉を発している。
人だ。それは間違いないはず。
そう思って…僕は暗闇じゃないこれに、声を掛けた。
「ひゃっ！？」
驚いたような声。
…暗闇じゃないそれが、何かをしている。
もしかして、これが『動く』っていうことなのかな？
これが『身体』で、これがこんな風になるのを、『動く』っていうのかな？
「ど、どこですか…？ 誰かいるんですか…？」
ここだよ、と答えると…また、驚いた声。
……そして…少しずつ………いつしか、暗闇のほとんどが、『身体』。
「…ここ……ですか…？」
『身体』の『動き』に……僕は、手を伸ばす。
「あっ…」
…何かに、触れた。
……手、だ。指がある。５本、ちゃんと。
柔らかくて、温かい…お姉ちゃんの手と似ている…。
「……もしかして…、貴方、目が……」
頷いて……でも、その人が見えているのかもしれないことを伝える。
こんなこと、生まれて初めて…とも。
「………」
「…少しだけ、待っていてください」
ふと…世界が、元に戻る。
暗闇の世界。声を掛けても、何も返ってこない世界。
手を伸ばしても…何も無い。何にも触れない。
いつもの光景のはずなのに……何故か、急に不安になって、
何度も声を掛けて、必死で手を伸ばして…いなくなったその人を探した。
どこにいるの？ どこに行ってしまったの？
いなくならないで……と、何度も……。
「ご、ごめんなさいっ！ 大丈夫ですか！？」
声。世界が、また、その人。
僕の手を握る、その人の手。両手で、僕はその手を握り締める。
…心が、安らいでいくのが分かる……。
「うなされていました…。ごめんなさい…、恐かったんですね…」
恐かった…。どうしてかは分からないけれど、異様に……恐かった…。
僕の見ていた世界が…あんなに恐いと感じるものだなんて、知らなかった。
何かが見える世界が、こんなに安心できるものだなんて…知らなかった。
「でも……これできっと、大丈夫です…」
『動く』。
僕の手…腕……胸………全身を、その人の手が、撫でるのを感じる…。
それと同時に…暗闇じゃないものが、また……。
「…分かりますか？ これが貴方の…手です」
………？ 手…？
「貴方の手が、今貴方の目の前にあるのは分かりますか？」
頷く。手のある方向に、顔を向けている。
「右手を握ってみてください」
…『動く』。
「…今動いたのが、貴方の手です」
…これが……僕の、手……？
「分かりますか…？」
……………。
「…これが…」
…『動く』…。
「私の…手です」
「…分かりますか…？」
……………。
「…ひとつずつ、覚えていきましょう」
「貴方の夢が覚めるまで、まだ時間があります」
…夢……？ 夢…って、何…？
「…分かりますか？」
「ここは貴方の…夢の世界なんです…」
……………
………
…
それから。
僕は、その人…メアさんという女性に、『見る』ということを教わった。
例えば、手。柔らかい部分は肌色で、固い部分…爪は、白と紅色。
指を曲げると、こんな形になる。握れば、こんな形。開けば、こんな…。
身体のことだけじゃない。
次の日の夜にもメアさんは来てくれて、僕の部屋を見せてくれた。
本。机。花瓶。ベッド。コップ。ドア。ロウソク。色々…。
その中でびっくりしたのは、コップの模様。
メアさんは、それを猫と教えてくれたけれど、触ってもコップの感触だった。
僕が知っている、猫のふわふわとした感触とは違い、混乱してしまった。
でも、その猫は絵だから、コップと同じ感触なんだって教えてくれて、
本物の猫といって連れてきてくれたそれは、確かに猫の感触だった。
でも、大きさは違うし、コップの猫は動かないけれど、本当によく似ている。
絵ってすごい、見えるってすごい、って…心から思った。
それ以来、メアさんが来てくれる夜の時間が、とても楽しみになった。
メアさんは何故か、僕が眠っている間にしか来られないらしく、
目が覚めると、いつも通りの暗闇の世界が僕の周りにはあった。
でも、声を掛けると、お姉ちゃんが返事をしてくれる。おはよう、って。
あの恐さは湧かず、僕は眠る時以外、いつも通りの日々を過ごした。
メアさんが見せてくれたものは、とても多い。
まだ触れたことがないものや、名前さえも知らないものも。
僕がそれを見て、触れて、驚く姿に、メアさんは笑っていた。
驚いているのは僕ばかりじゃない。お姉ちゃんもだ。
目が覚めて、挨拶の後に、夢で習ったことをお姉ちゃんに確認する。
すると、最初…お姉ちゃんはとてもびっくりしたみたいで、僕に問い詰めた。
僕が夢であったことを話すと、お姉ちゃんは、僕を抱きしめて、こう言った。
女神さまが来てくれた。ソラが良い子だから、女神さまが助けに来てくれた。
お姉ちゃんは泣いているようで…声が震えていた。
僕も、お姉ちゃんのことを抱き返して…その言葉に、共感した。
メアさんは、女神さま。僕に世界を見せてくれる、女神さま。
…ふと思い付いて、僕はお姉ちゃんに言った。
今度、お姉ちゃんの姿を見せてくださいって頼んでみる、って。
……………
………
…
「こんばんわ…、ソラ」
月夜が照らす、色鮮やかな僕の部屋……夢の世界に、メアさんが訪れる。
前に、お姉ちゃんが言っていた、メアさんが女神さま…という話を思い出す。
確かにメアさんは、僕や他の人とは、ちょっとだけ違う部分がある。
それは、足。
正確に言えば、腰から下で…メアさんのそれは、いつか見せてもらった、
馬の身体に似ている。足が四本生えていて、お尻に尻尾があって。
女神さまっていうのは、もしかしたらこういう姿なのかもしれない。
「ふふっ。元気な返事…。羨ましいです」
微笑むメアさんに、僕は前々から考えていた、あることをお願いした。
「えっ？ …ソラのお姉さん、ですか？」
頷く。
「…家の中にいるんですよね？ 少しだけ、待っていてください」
そう言って……ふっ、と消える、メアさん。
…と思ったら、すぐにまた、目の前にメアさんが現れた。
「…ぁ……ぁゎゎ……」
………？
どうしたんだろう。顔が真っ赤で…何か、慌てているように見える。
「………」
「……そ、ソラ…」
僕を呼ぶ、メアさん。
「か…身体…。何か、変ではありませんか…？」
…身体…？
……………ぁ…。
「………ぁ…」
僕は咄嗟に、そこを押さえて、メアさんから離れ……ベッドに座り込んだ。
…勃起、してる…。それも、痛いくらいに…固く…。
どうして…？ オチンチン、弄っているわけじゃないのに…。
恥ずかしいことだって、考えていないのに…。
どうして……。
「………」
…近付いてくる、メアさん。
恥ずかしさのあまり、身体を丸めて、足でもそこを隠す。
これは、見られちゃいけいないもの。恥ずかしいもの。
隠さなきゃ…。隠さなきゃっ…！
「…ソラ…」
膝を曲げ…僕のお腹の高さに、メアさんの顔。
「……私が…鎮めます…」
絡む、視線。
「ソラ…」
「私に……見せてください…」
……………。
…僕、は………ゆっくりと…足を下ろして…。
………ズボンを…下げて………。
勃起したオチンチンを……晒した。
「きゃっ…♥」
驚く、メアさん。
メアさんだけじゃなく、僕も。
オチンチンって…こんなの、だったんだ…。
指と同じ見た目なのを想像していたけれど、全然違う。
でも、触れている感触は、まさしくいつもの…それ。
「…もう……こんなに…♥」
……期待、したんだと思う…。
お姉ちゃんの様に…触れてくれることを…。
メアさんが、僕のオチンチンを弄ってくれることを…。
射精…させてくれることを……。
「……触り…、ますね…？」
どきっ、として………こくん、と頷いた…。
「………ん…っ♥」
メアさんの柔らかな指が、僕のオチンチンに触れる。
ぴくりと、反応するのが…見え、感じる。
……恥ずかしい……。
「…可愛い…♥」
上下に擦って刺激してくる、メアさん。
走る快感と…増す恥ずかしさ。
それに耐えようと、目を瞑るけれど…目が覚めている時と同じように、
瞑ろうと、そうでなかろうと、世界はまるで変わらない。
僕の目に…身体に伝わる、恥ずかしいという…その感覚。
きっと、暗闇でも…それは変わらない。
「…♥」
……少し経って、気付く。
きもちいい。ううん………きもちよすぎる。
僕の弄り方とも…お姉ちゃんの弄り方とも、比じゃない。
徐々にだけれど……ほら、今、もう…腰が抜けそうなほど……。
耐え切れなくて…身体を倒して、逆手にシーツを掴んで……。
それでも我慢できなくて………声が勝手に出ちゃうくらいの……っ。
「…いっぱい、愛液出てます…♥」
見ると…オチンチンの先端から、透明な…とろとろと流れているもの…。
あれが……愛液…？
もしかして、オチンチンを弄ってると、射精する前に出てくる…
精液ほどじゃないけれど、ねとねととした…液体のこと…？
あれがそうなの…？ あの、オチンチンから出てるのが……。
「……あっ…♥」
不意に…覚えのある感覚に、背筋を張って、一際大きい声を上げる。
出るっ…。一番恥ずかしいのが…出ちゃう…っ………っっっ！
「きゃっ！？♥ ……ぁ…♥ いっぱい…♥」
………お腹や…頬に掛かる……べっとりとしたもの……。
…射精、しちゃった…。メアさんの前で…。
……精液………出しちゃった………。
「…ソラ…♥」
…お腹の上に落ちた、その液体を…メアさんの指が摘まみ上げ……
まだ視界が定まらない僕の目の前に、それをかざした。
「これが……精液です…♥」
ねばねばとして……でも、ゼリーみたいな、ぷるぷるとした小さいものが、
その白い液体の中に…黄ばんだ色で、揺れているのが分かる。
……これが……精液………。
「…ちゅっ……こくんっ…♥ ……んっ……」
その精液を…指ごと口に含んで、飲み込んだメアさんは…
僕に跨って……目の前で………服を脱ぎ始めた……。
僕の視界に広がる…肌色と、桃色と、紅色の身体…。
「…分かりますか？♥」
「これが……女性の身体です…♥」
…分かる…。見たのは初めてだけれど。触れたことは、ある。
でも……なのに、どうして…？
どうして、僕…こんなに……こんなに、変な気分に……。
初めて見たはずなのに、どうしてこんなにドキドキするの…？
触れたことはあるはずなのに、どうしてこんなに触れたくなるの…？
どうして…？ メアさんっ…。
「…♥ やっぱり…ソラも男の子です…♥」
「分かるんですね…♥ 女性の身体が…男性の身体と…」
「エッチするためのもの…、って…♥」
メアさんっ…。ぼくっ、ぼくっ…、もうっ…！
「……ソラ…♥」
メアさんの身体……お腹が、僕のお腹に近付いて……
縦筋が入ったところに………オチンチンが、押し当たる。
「あっ♥♥♥」
にゅるっ…とした感触と……筋の中に入っていくオチンチンが、見え……。
それと同時に、入った部分を襲う、手の何倍……何十倍もの刺激…。
声を上げ…シーツを破りかねない勢いで、握り締める。
「…あぁ…っ……♥♥♥ ソラ…♥」
全部入り……そのまま、お腹……胸……指を絡めて……肩……額…。
メアさんの全てが、僕に触れているのを感じる…。触れているのが見える…。
これ以上に無いくらいに伝わる、メアさんという形…、存在。
「…んむ…♥ ちゅ…♥ ……ぺろぺろぺろ…♥」
もふ…と口に口が覆い被さり……アイスクリームを舐めるように、メアさんの舌が…。
これも、口の中が溶けちゃいそうなほどきもちよくて……。
押し当てられている、胸やお腹だって…。握られた手だって…。
そのどれかひとつだけでも……射精しちゃうくらいの…。
………あぁっ……！
「っ…♥♥♥ ……そうです…♥ 我慢しないで…、いっぱい…♥」
……精液が、メアさんの中に飲み込まれていく…。
「…んっ…♥ はっ…♥」
メアさんの腰が浮いて……また、沈んで……。
射精を続けるオチンチンを、離したり、飲み込んだり…。
その度に響く、快感と、水音と、僕の声。
「ちゅぅ…っ♥ んくっ…♥ あんっ…♥ ソラッ…♥ 可愛いっ…♥」
聞き覚えのある声。メアさんの声？ 分からない。
僕の目はもう、見えているようで、何も見えていない。
ただ、身体に感じる刺激に喘いでいるだけの、恥ずかしい人。
恥ずかしいことを、きもちいいって…もっとしてほしいって、思っている人。
僕は……っ。
「ソラッ♥ ソラァ…♥ 私の…♥ 私の可愛い…っ♥」
今はただ……ずっとっ……いっぱい………っっっ！
「あっ♥ あっ♥ あっ♥ 私もっ…♥ あっ…♥ あぁっ♥♥♥」
「ふあぁぁぁぁ〜〜〜〜〜っっっ♥♥♥♥♥♥♥」
……………
………
…
…目が覚めると、暗闇の世界が広がっていた。
身体には、けだるい感覚…。起き上がるのが、少し億劫と感じるくらいの。
もそもそと動いて、なんとか起きようとすると…ふと、手に触れるもの。
…なぞると……女性の、胸。知っている形。お姉ちゃんの胸。地肌の。
よく聞くと…寝息が聞こえる。お姉ちゃんが、僕の隣で眠っている。
………不意に、それが止まる。
そして、急に毛布が浮き上がるような感触。
僕は反射的に、お姉ちゃんの腕を掴んで……挨拶をした。
また、次の夜を迎えるために。
―おはよう、お姉ちゃん。
12/04/20 23:51更新 / コジコジ