読切小説
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信優勇愛
ほんの少しの親切心と、抑えきれないほどの好奇心。
それらの感情に突き動かされ、僕は、彼女へと手を差し伸べた。

風の囁きが耳をくすぐる、静かな夜。
それを裂くように、一つの鳴き声が、小さな馬小屋にこだました。

慌てて人差し指を立て、静かにするよう示す僕。
彼女はそれを見て、続けて声を上げることはなかったものの、
注意されている自覚がないらしく、小首を傾げ、僕に笑顔を向けていた。

彼女は無邪気だ。まるで犬のように。
しかし、もし本当に犬だったのであれば、
僕はこうして、彼女を匿っていなかったかもしれない。
この空き小屋の片隅で、飢えと寒さに震え、身を丸めていた彼女。
それが、人ならざるもの…魔物であることに気が付いたからこそ、
僕は、彼女に食べ物と毛布を与え、世話をしてあげることに決めたのだ。

尻尾を振り、僕が抱えた手籠の中身を見つめる彼女。
僕はその中から、一片のパンを取り出し、彼女の眼前へと差し出した。
御馳走を前に、彼女は瞳を輝かせ、目の前に出されたそれを凝視する。
パンを持った手を右に振れば、それを追って、彼女の顔も右へと動き。
更に近くへと差し出せば、彼女は首を伸ばし、フンフンと鼻先をヒクつかせる。

与し易い。この姿を見れば、誰もがそう思うだろう。
僕がそれに気付くのも、さほど時間は掛からなかった。

魔物といえば、言わずもがな、人間にとっての天敵だ。
頭から齧り付き、肉を裂き、骨までバリバリ食べるという、恐ろしい存在。
毎年、戦地から帰らぬ兵士が大勢出ることを考えれば、
いかに魔物という存在が畏怖すべき相手か、僕のような子供にだって分かる。

しかし、逆に言えば。
そんな魔物を従えることができれば、それは無敵の力を得たに等しい。
僕の狙いは、まさにそれだった。僕は、彼女を従え、力を手に入れたかった。
誰にも負けない力が…誰からも馬鹿にされない力が欲しかったのだ。

その目的を果たすのに、彼女の存在はうってつけだった。
たかがパンの一切れ、彼女がその気になれば、僕から奪うことは容易いだろう。
しかし、ご覧の通り、魔物は律儀にも、僕からの許しを素直に待っている。
圧倒的な力を持っているにも拘らず、従順に徹す彼女の姿に、僕は少なからず優越感を覚えた。
このまま、彼女を意のままに操ることができれば、誰も僕に逆らうことはなくなるだろう。

ほくそ笑みつつ、僕は彼女に、よし、と命じた。
許可を出すや否や、一心不乱にパンを食べ始める魔物。
最初こそ、彼女の世話はおっかなびっくりだったが、今ではすっかり慣れたもの。
こうして彼女の頭を撫でる余裕すらある。彼女も彼女で、尻尾をちぎれんばかりに振っている。

僕と彼女は、人間と魔物…異なる種族であるものの、強い信頼関係を築くことが出来ていた。
人間同士でも、いじめや差別があり、信じられる人なんて、ほんの一握りだというのに。
対し、僕達は、出会ってまだ一ヶ月ほどしか経っていないのに、こんなにも分かり合えている。
僕が餌をくれる存在だと分かっているからこそ、彼女は僕を信じており、
彼女の魔物としての力が利用できるからこそ、僕は彼女を信じている。
持ちつ持たれつ、というやつだ。互いに利なくして、信頼など築けるはずがない。

しばらくして、食事を終えた彼女は、控えめに一鳴き。
静かにするように…という意図は、ちゃんと伝わっていたらしい。

満腹となった魔物は、二、三度、口の周りを舐めた後、僕の傍らへと身を寄せた。
甘えん坊なのか、決まって食事の後には、いつもこうして身を擦り寄せてくる。
悪い気はしない。これも僕を信頼しているから、だろう。その無防備な様から察するに。
頬擦りし、匂いを嗅ぎ、舌で軽く舐めた後、最後にはゴロンと仰向けになる。
それに対し、僕はその開け広げられたお腹を撫で、彼女の御機嫌を取ってやる。
こうしてやると、彼女は目を細め、か細い鳴き声を上げて、その喜びを示すのだ。

ただ、この行為、正直言って、ちょっぴり気恥ずかしさもある。
彼女は魔物であるものの、なんというか…女の子のような部分もあるのだ。
見た目も、振る舞いも。顔は人間のそれと変わらないし、肢体の構造も似通っている。
鼻を近付ければ、女の子独特の良い匂いがするし、
毛に覆われていない部分は、すべすべしていて柔らかい。
そして、彼女は僕がそうしていることに気付くと、かあっと頬を赤らめたりもする。
その反応が、人間と同じ『照れ』なのか、魔物特有の何かなのかは分からない。
でも、それらは、僕をドキドキさせるには充分すぎるほど愛らしいものだった。

だから、その…彼女のせいとは言わないが。
最近、疚しい感情が、僕の中で渦巻いてきている。
キスをしてみたい、とか、おっぱいを触ってみたい、とか。
男ならば、誰もが異性に対して抱く、当たり前の感情。
そんな想いを、僕は不覚にも、魔物に対して抱いてしまっていた。

僕の足を枕にしつつ、彼女がこちらを見上げる。
果たして彼女は、どれほどまでに僕のことを理解しているのだろうか。
何も分かっていないのか、気付いていないフリをしているだけなのか。
分からないが、しかし、彼女が僕を裏切るということはないだろう。
そうすれば、彼女に餌をやる者はいなくなる。飢えた生活に逆戻りだ。
もちろんこれは、損得勘定が彼女に備わっていればの話だが。

そう、彼女は僕に逆らえない。
飼い犬の手綱を、主が握っているように。
彼女の生殺与奪は、僕の手中にある。僕が主で、彼女は従者。
僕と彼女の信頼関係は、主従関係によって成り立っているもの。
彼女の力を振るうも、彼女を甘やかすも、彼女を生かすも、僕次第。

それが、僕達の関係なのだ。


……………

………




魔物を匿い始めて、早二ヶ月。
その間、僕は彼女に、『ルコ』という名前を与えた。
ルコは以前にも増して、僕へと懐くようになっていた。

しかし、最近ある問題に直面していた。
その問題とは、彼女の攻撃性。なんと彼女、狩りすら碌にできないことが分かったのだ。
いや、力はあるし、足も速い。その点は問題ない。問題なのは、その姿勢にある。
彼女は生き物への攻撃を、極端に嫌がるのだ。獣だろうと、鳥だろうと、虫にさえ。
こればかりは僕が命令しても、涙目になって、地べたへどっかりと座って動かなくなる。
動かざること山の如し。押しても、引っ張っても、ビクともしない。まさに不動。

どうやら、彼女は生き物への攻撃に対し、酷く臆病になるらしい。
道理で、飢えて転がっていたわけだ。狩りができないなら、そうもなって当然だ。
恐らく、これまでは畑の野菜やお墓の御供え物を盗み食いして、
その命を繋いできたのだろうが、それもとうとう限界になって…か。

困った。こうなると、僕の計画が水の泡になってしまう。
もちろん、力を示すだけならば、別の方法はいくらでもある。
でも、僕が望んでいるのは、そんな生易しいものではなかった。
あいつらを、殴って欲しい。噛んで、引っ掻いて、泣かせてやりたい。
ルコには、僕に代わって、あいつらへと復讐を果たして欲しかったのだ。

あいつらは、本当に酷い奴なのだ。
友達面をしながら、僕の大切な玩具を壊したり、靴を隠したり…。
でも、大人の前では良い子ぶって、悪いのは僕だと言われてしまう。
許せなかった。許せなかったが、僕には仕返しできるほどの力がなかった。
だから、彼女を欲した。彼女の力を。魔物の力を。あいつらを見返す力を。

なのに、彼女はそれが出来ないという。
僕はイライラした。そして、その不満を、無性に何かへぶつけたくなった。
でも、丁度良いものがない。見知らぬ他人を殴る度胸もなく。物を壊せば、大人に怒られる。

そんな時、僕の目に映ったのは…ルコだった。
彼女の、女の子としての身体。幼い顔立ち、艶のある肌、膨らみかけのおっぱい。
ごくりと、喉が鳴った。どうしてそのことに、今まで気が付けなかったのか。

思い付くが早いか、僕は彼女を連れ、小屋の隅へと移動した。
背には藁が高く積まれ、万が一、誰かが入ってきても、僕達に気付きはしないだろう。
そんな秘密の場所で、僕は、お尻を地に着けこちらを見つめる彼女へ…。

卑しくも、その無垢な眼前に。
僕の怒張したモノを、彼女の鼻先へと突きつけたのだった。

突然のことに、驚き目を丸くするルコ。
当然だ。僕自身、正気の沙汰とは思えない。
でも、ひどく興奮した。ルコが、僕のオチンチンを見ている。
可愛い女の子が、雄のシンボルを見ているという事実。それだけで。

しかし、瞬間、一抹の不安が過ぎった。
噛み千切られるかもしれない、と。
彼女は魔物だ。身の危険を感じれば、当然抵抗するだろう。
あるいは、コレを食べ物と勘違いすることだってありうる。
それはあまりにもリスキーだ。僕はすぐさま我を取り戻し、ズボンを上げようとした。

が、それよりも早く。思いも掛けぬ事態が起きた。
ルコが…彼女が、なんと、僕のモノのニオイを嗅ぎ始めたのだ。
鼻をスンスンと鳴らして、濃ゆい雄の香りを、胸いっぱいに吸い込んでいる。

なぜ? 彼女の反応に、僕はただただ面食らった。
同時に、言い表せないほどの恥ずかしさが、熱となって僕の顔を茹だらせた。
僕は何をしているのだろう。ルコに…女の子に、オチンチンを見せるなんて。
自責と、後悔と、恥辱と。しかし、僕の身体は、彼女から離れようとはしなかった。
それは、彼女を助けた時に湧いた感情…その一方と同じもの。好奇心。
このままにしていたら、次に彼女はどうするのか。ただ、それが知りたくて。

すると、その期待に応えるかのように。
彼女は何度も、上目で僕の様子を窺ったかと思うと、
不意に、口を開け…短な舌を伸ばし、僕のモノを、ちろりと軽く撫で上げた。

瞬間、ぞわりと、僕の背中に痺れが走った。
僕のオチンチンを、ルコが、舐めている。視覚、触覚が、その事実を伝えてくる。
それは、僕が生まれて初めて感じた刺激。大人への階段。性の快感だった。

ちろり、ちろり。
恐る恐る、僕のモノを舐めるルコ。耳を伏せ、尻尾をお腹の下に隠して。
きっと、彼女もまた、僕と同じように、未知への好奇と恐怖を感じているのだろう。
だが、彼女の舌遣いは、無知のものとは思えないほどに巧みで、しかし、いじらしかった。
彼女が舌を這わせる度に、甘く蕩ける痺れが、僕の下半身に響き渡る。力むお尻。震える膝。

気持ち良い。
僕は、胸の内に抑え切れぬ熱を、声に纏わせ漏らし、快感に酔った。
彼女の頭を撫で、その行為を褒めながら、目を瞑り、更に深く味わう。
それに気を良くしたのか、彼女の表情からも不安が消え去り、舌の動きが活発になる。
先端だけでなく、裏筋から根元まで、時折、玉袋も。丹念に舌を這わせ、唾液を塗り付ける。
暗がりの小屋に、ぴちゃぴちゃと響く淫らな水音。夜虫の歌に混じり、闇夜へ溶けていく。

そして、行為を始めて数十秒後。
僕は彼女の名前を呼びながら、その口へ…白濁の欲望を吐き出した。
どくん、どくん。脈動するモノに合わせ、ドロドロとした想いがルコの口へと注がれる。
オチンチンから出たモノだ。教えずとも、ばっちいものであることくらい、誰でも分かる。

なのに、彼女は眉を顰めることすらせず、黄白色のミルクを飲み込んだ。
ゴクンと喉が動き、彼女の身体の中へと流れていく僕の精液。
何度も、何度も。射精する度に、彼女は子種を飲み込んでは、次なる滴を求めた。
鈴口に舌先を押し当て、グリグリと抉じ開けて、尿道に残ったものすら吸い出そうと。
それは…その姿は、普段の彼女からは想像も出来ないほど、淫靡なものだった。

そんなルコの乱れ様を見て、僕は、とうとう理性が吹き飛んだ。
その場に彼女を押し倒し、喰らいつくようにしてキスをした。
柔らかな唇。弾力のある舌。精液の苦味の中に感じる、彼女の味。甘い味。
舌を差し入れ、その口内を舐る。歯茎を舐め、唾液を啜り、息をも呑み込んで。
彼女の身体を強く抱き締め、全身を擦り合わせながら、繰り返し口付けを交わす。

ルコ、ルコ、ルコ…!
感情の奔流が止まらない。荒れ狂う。その中心に、彼女がいる。
控えめな胸に顔を埋め、小振りなお尻を鷲掴みにして、下っ腹にオチンチンを押し当てる。
鼻腔が、むせ返るほどに彼女の匂いで満ち溢れ、その刺激に脳が沸く。蕩け落ちる脳細胞。
彼女の毛皮が、僕の身体をくすぐり、こそばゆい快感を与えてくる。心地良い。気持ち良い。

内も外も、彼女に包まれて。そのまま、呆気なく第二射。
紅潮した彼女の肌に、ビチャビチャと降り掛かる粘ついた情欲。
汗と混じり、更に匂い濃く、僕と彼女のフェロモンを香り立たせる。
それを吸い込むと、萎えるよりも早く、再び僕のモノが元気を取り戻す。

治まらない。オチンチンも、欲望も。
対し、クンクン鳴きながら、僕の想いを迎え入れ、受け止めるルコ。
嬉しかった。僕という存在を、こんなにも受け入れてもらえるのが。
嬉しくて、嬉しくて、余計に治まりがつかなくなった。もっと、もっとと気持ちが急いた。

…その後、僕は彼女の身体の、ありとあらゆる場所を味わい、汚していった。
もう一度、口で奉仕もしてもらったし、彼女の胸に、オチンチンを擦り付けたりもした。
おへそにも、背中にも、尻尾にも、両手両足の肉球にも、精液を撒き散らした。
おっぱいを吸ったり、お尻のニオイを嗅ぎながら、自慰を行い、達した。
ふと気が付けば、僕はルコの全てに触れ、また、触れられていた。ただ一箇所を除いて。

白の海に浸りながら、舌をべろりと出して、荒く息衝く彼女。
目は据わり、いつもの彼女のそれとは違う、深く濁った光を放っている。
全てを出し切った僕は、ひとつ、深い溜め息を吐いた後…今更、事の重大さに気が付いた。
彼女を犯してしまったこと。人間と魔物が、肌を重ねてしまったこと。それは大罪だ。
首を落とされても文句は言えない。これが誰かに見つかれば、僕の命は確実に失われるだろう。

だというのに。ふと、傍らへと近寄るルコの、その表情。
あどけなくも、妖艶で。雄を誘う、その桃紫色のオーラに。

気付けば、僕は…今一度、彼女にキスをしていた。
あと一回だけ。そう、自分に言い聞かせながら。

そうだ、あと一回だけ。

あと一回だけなら、と…。


……………

………




あれから更に、二ヶ月もの月日が過ぎて。
僕とルコは、すっかりエッチな遊びの虜になっていた。
彼女が食事を終えた後に、どちらからともなくキスをねだり、そのまま行為へ。
歯止めの利かない…いや、歯止めなど存在しない、秘密の遊戯。二人の秘密。
僕達は、何度もお互いを愛し合い、その身体を味わった。当初の目的すらも忘れて。

もちろん、ルコとの逢引には、先にも述べたように多大なリスクがある。
しかし、彼女と身体を重ねる毎に、僕はそれが少しずつ薄れていくのを感じた。
それは、これだけしていても見つからないのなら…という気持ちから生じたものか。
あるいは、脳を溶かすほどの快感が、僕の感覚を次第に麻痺させているのか。
どちらかは分からない。だが、ハッキリしているのは、今がとても幸せだということ。
ルコと、こうして愛し合っている時が、日々における僕の幸せだった。
彼女が居てくれれば、何もいらないとさえ思い始めるようになっていた。
彼女との毎日が、このまま、ずっと…ずっと続けば……。

が。その平穏は、突然の轟音と共に破られた。
小屋の扉を壊し、押し入ってくる複数の影。見知った顔。
怯えるルコを抱き締めた僕が見たのは、いじめっ子達の姿だった。
こちらが行動を起こす間もなく、彼らは叫んだ。
魔物がいるぞ、と。こいつが魔物を匿っていたんだ、と。

どうやら彼らは、僕が夜な夜なこの小屋に出入りしていることを突き止めたらしい。
それで今日、僕の後を尾けて、小屋の中で何をしているか探ろうとしたのだ。

最悪だ。どうして、こんなことに。
僕が、復讐なんて考えたからなのか。バチがあたったのか。
しかし、ならばなぜ彼らだけは、こんな横暴が許されるのか。
僕はただ、彼女とこのまま、ずっと一緒に過ごしたかっただけなのに。

いじめっ子の一人に腕を掴まれ、小屋の中央へ引き摺り出される僕。
そして、誰かの蹴りが、僕の背中に叩き込まれる。痛い。苦しい。
身体を丸め、次々と飛んでくる蹴りに耐えながら、僕は神様を呪った。
そして、叫んだ。ルコ、逃げろ。誰も助けてはくれない。だから、逃げろ。

だが、それがまずかった。
その言葉を聞いて、いじめっ子の何人かが、標的を僕からルコへと変えたのだ。
顔を上げ、見ると、ルコは明らかに怯えていた。今にも泣き出しそうだった。
当然だ。彼女は優しい。優し過ぎるほどに。こんな状況に、耐えらえるはずがない。
再び、叫んだ。逃げろ。逃げて、ルコ。願った。僕の命令。彼女は従う。従うはず。

従うはず…なのに。
彼女は、逃げなかった。それどころか、牙を剥き出しにして、唸っていた。
震えながらも、懸命に。それも、自身に向かってくる相手にではなく、こちらへ向けて。
そう、彼女は、僕をいじめている連中に向けて、怒りを露わにしていたのだ。

ルコ。どうして。どうして、僕なんかのために。
君を利用しようとしたのに。君を犯したのに。
なのに、どうして。こんな弱虫な、僕のために。

吠える魔物。しかし、いじめっ子達に恐怖の色はない。
それもそのはず。ルコは腰が抜けていたのだ。震えも未だ止まらない。
例え魔物相手でも、弱気となっている者に、何を恐れる必要があろうか。
いじめっ子の一人は、そんな彼女に向けて、手に持った棒を振りかぶり…。

瞬間。僕の中で、何かが弾けた。
叫びと共に恐怖を追い出し、僕は、今にもルコに殴り掛からんとするいじめっ子へと突撃した。
気付くが遅し。脇腹に体当たりを受け、藁の山へと吹っ飛ぶいじめっ子。
ざわつく一同。僕はルコの前に立ち塞がり、そんな彼らを睨みつけた。
身体が熱い。勇気を出せと、心が奮える。力は、ある。あったのだ。僕の中に。

一歩、前へと踏み出し、彼らを威嚇する。
それに合わせ、一歩、後ろへと下がるいじめっ子達。
一歩、また一歩。それが五歩続いたところで、いじめっ子の一人が逃げ出した。
あとは、それに連なるように。ひとり、またひとりと、小屋の外へと駆け出していった。
最後に、吹き飛ばした一人が四つん這いで逃げていったところで、また静かな夜が戻った。
リンリン、リンリン。夜虫の歌声を勝利の挽歌に、僕は、へたりと尻餅をついた。

項垂れ、体内の熱を吐息と共に吐き出す。
やった。やったのだ。彼女を守ることができた。僕の大切なものを。
充ち満ちる心。結局、彼らを殴ることも、泣かすこともできなかったけれど。
でも…それでよかった。そんなこと、僕はもう、望んでいなかったのだ。
より大きな望みがあったから。震える彼女を抱き寄せ、それが叶ったことを実感する僕。

そして、気付いた。
僕に必要だったのは、復讐じゃない。
勇気だ。それを彼女が教えてくれた。

ルコ。僕は彼女の名を呼び、その瞳を見つめた。
怖かっただろう。僕のせいだ。安心させてあげたい。
でも、食事以外で彼女が喜ぶ行為を、僕はひとつしか知らない。
それに気付いた僕は、もっと、今以上に彼女のことを知りたいと思った。
彼女の好きな食べ物。彼女の好きな遊び。彼女の好きな歌。彼女の好きな場所。
だけど、今はまだ、分からないから。今だけは、僕が知っている精一杯を、彼女に。

小さく息を吸い…そして、互いの唇を縫い合わせる。
その瞬間、耳をピンと立て、毛という毛を逆立てる彼女。
そんなにビックリしたのか。愛らしい反応に、思わず笑みがこぼれる。

しかし、二度、三度繰り返すうちに、彼女の表情もとろんと溶け落ちてきた。
舌を出し、ハッ、ハッ…と小刻みに息衝き、緩やかに尻尾を振って、悦びのアピール。
可愛い。何度となく見てきた姿だが、見る度にそう思う。ルコは、とっても可愛い。
僕だけのルコ。僕だけの恋人。唇にその想いを乗せて、何度も彼女へと送り込む。

すると、彼女は不意に、口を離したかと思うと。
ころんと。そのまま背中から地面に寝転がり、僕に服従のポーズをとってみせた。
それはいつもならば、お腹を撫でてほしいという合図。だが、今この時だけは違う。
お腹より、視線を下に落とすと…そこには、彼女の濡れそぼった雌が、僕を誘っていた。

栗茶色の隙間より覗く、桃色の秘所。
そこから垂れ落ちる愛液が、周囲を覆う毛に絡み、しっとりと濡らしてゆく。

ふわん、と。その場所から漂ってくる、一際濃ゆい彼女のニオイ。
嗅げば嗅ぐほど、視界が霞み、理性が薄れ、胸の内が苦しくなる。
だけど、なぜか。身体は、もっとそのニオイを嗅ぎたいと、僕を突き動かす。
朦朧とする意識の中、ふと気が付けば、僕は犬のように、彼女の股間へと鼻先を押し付けていた。

零距離で見る、彼女の一番エッチなところ。
ヒクヒクと動く小さな穴が、飢えた僕を誘惑している。パンはここだよ、と。
それに釣られ、僕は舌を伸ばし、その場所へ…蜜の滝に、べったりと這わせ、啜った。

秘部より流れる刺激に、ルコが、ビクンと身体を跳ねさせる。
子犬のような鳴き声が、その小さな口から飛び出し、僕の耳を突く。
感じている。今まで彼女に行った、どんな行為にも勝る快感を、彼女は感じている。
その事実が嬉しくて、僕は、欲望の赴くまま、夢中になって彼女のジュースを舐め取った。
ぴちゃぴちゃと響き渡る音。まるでミルクを飲むかのように、溢れる蜜を掬っていく。

ひどく粘ついた汁が、喉に絡み、僕の中へと落ちていくにつれ。
僕のモノはムクムクと膨れ上がり、先端より液が零れ、次々に地面へと点を刻んでいった。
その傾きが、最大限にまで達したとき。僕は彼女の股座より離れ、小さな身体へと覆い被さった。

吹き抜けの窓より差し込む月光の下。見つめ合う、一匹の雄と雌。
まるで手招きするように折り曲げられた彼女の両の手に、指を絡め、握り締める。
そして、今日一番…深く、深く、恋人を慈しみ、愛を伝える口付けと共に。

僕は、唯一触れえぬ場所へと。
一息の下、その最奥までを貫いた。

交差の一瞬。呻き、ぐっと歯を食い縛るルコ。
繋がったその場所から、一滴の、赤い契りが流れ落ちる。

僕も同じ。歯と歯を噛み締めて、急激に襲い来る波に、懸命に耐えていた。
狭く、しかし、柔らかな彼女の膣内。キュッ、キュッと、呼吸のリズムに合わせて、締まり、緩み。
その感触は優しいものながらも、生まれる刺激は、ひどく暴力的。息を吐くことすら許されない。
僕は膝をガクガクと震わせて、彼女の身体へと上体を預け、必死にそれを受け流そうとした。
だが、津波のように襲い来る快感は、避けても、避けても、また次の波が、僕を呑み込もうとする。

永遠にも感じられる、数秒間の格闘の中。
不意に、僕の口から、アッ…という声が漏れるのを合図に。
僕はそのまま、彼女のナカへと、子種を放ってしまった。いともあっけなく。

どくり。夥しいまでの量が、彼女の幼い子宮へと注がれていく。
断続的に漏れ出る声と共に、またひとつ。幾億もの僕が、彼女の中へ。
恥ずかしかった。情けなかった。でも、とても気持ちよかった。
ヘコヘコと腰を動かして、全てを彼女のナカへと注ぎ込もうとする僕。
そこに主としての威厳はなく、盛りに溺れた、ただ一匹の雄犬がいるばかり。
僕をそうさせてしまう魅力が、彼女にはあった。彼女という雌が、僕を雄へと堕としたのだ。

十数秒に及ぶ射精の後。睾丸の中身を出しきり、深く息を吐く僕。
目を開くと、そこに飛び込んできたのは、だらしなく舌を垂らし、快感に打ち震える彼女の姿。
まるで、生涯における幸せの全てを、先の一瞬で受けきったと言わんばかりの、その表情。
ひどくエッチな、雌の顔。雄の嗜虐心…征服欲…繁殖欲…その全てを煽る、ルコの姿。

それを見た瞬間、僕は、一気に腰を引き抜き。
そして強く、今一度、彼女の子宮口を突き上げた。

きゃうん、と、雌犬が鳴く。艶やかな色を纏って。
両手両足で、僕の身体を捕らえながら、快感に咽び泣くルコ。
胸に齧り付き、更に嬌声を彩る。赤子のように吸い、獣のように噛んで。

彼女の腰をがっちりと押さえ、僕は、ただひたすらに腰を振るった。
あまりにも単調で、荒々しい動き。野良犬のようなセックス。
だけど、すごく気持ちよかった。強く、深く彼女を感じた。その芯までをも。
彼女もまた、想い人を全身で感じ、唾液と涙を散らしてよがり狂った。
愛液を絡め、蜜壺を締めて、僕のモノを舐り、しゃぶり、喰らおうとした。

絶え間ない快感の渦。ぐるぐる、ぐるぐる、逃げ場はなく。
お腹の奥で膨らんでいく、濁り固まった欲望は、再び解放を求めていた。
それに逆らわず、僕はまたも彼女の最奥をノックして…そして、注ぎ込んだ。
ビチビチと跳ね回る精液を、ルコの中へと、その最後の一滴までをも。

二度目の子作りに、尻尾をパタパタ振って喜ぶ彼女。
クゥン、クゥンと切なげに鳴く声とは裏腹に、貪欲に搾り尽くしてくる膣。
一際反りの深い襞が、雁首へと引っかかり、オチンチンに更なる射精を促す。
その快感に浸りつつ、僕も、彼女も、しばし互いが溶け、混じり合うひとときを愉しんだ。

一呼吸置いて。ようやく落ち着きを取り戻したペニスを、彼女のナカから引き抜く。
流石に疲れた。リズムもへったくれもない、体力勝負のストローク。へばって当然。
動いていた僕もそうだが、それを受け止めた彼女も、かなり消耗したに違いない。
しばし休みが必要だと思った。また互いの息が整ったら、営みを再開して…。

だが、しかし。その考えは甘いものだと、すぐに思い知らされた。
深呼吸のあと、ふと、傍らの恋人へと目をやると。
彼女は…ルコは、四つん這いになり、お尻を振って、僕を誘っていたのだ。
犯して、と。もっと子作りしよう、と。ここだよ、と。その場所を開け広げて。

飛んだ。理性も、疲れも、何もかもが、全て吹っ飛んだ。
気付くが早いか、僕は彼女へと飛び掛かり、身体を重ね…雄を深々と突き入れていた。

アゥン、と鳴いたのは、雄か、雌か。
地面に突っ伏した彼女を苛め抜くかのように、強く腰を打ち付ける。
パンッ、パンッと弾ける、肉と肉とがぶつかる音。肉欲の破裂音。
その音が脳へと届く度に、僕の中で膨らんでいく感情。
雌を、彼女を、ルコを、めちゃくちゃにしたいという感情。
肉棒を突き入れて喘がせ、快感によって愛液を滴らせ、愛と欲を以って従えたいという感情。
僕だけのものにしたいという感情。僕だけを感じてほしいという感情。愛したいという感情。

混ざり、溶け、注ぎ入れる。
タガが外れ、絶頂よりも早く漏れ出る精液。愛液と混じり合いながら。
しかし、関係ないとばかりに、更なる先を目指して、僕は腰を振り続ける。
彼女を愛し続ける。首筋にキスをし、耳を撫で、尻尾を扱いて、彼女を愛す。

ルコは、そんな僕の我が侭な愛情表現を、ただただ受け止めてくれた。
受け止め、抱き締めてくれた。優しく、僕に応えてくれた。この瞬間も。

ルコ。僕の大切な人。強い関係で結ばれたパートナー。
それは主従であり、親友であり、恋仲であり。いくつもの関係が、僕達を結び付ける。
決して切れることない、僕達を繋ぐもの。リードを通して、互いの心を感じ合う。
好き。愛してる。そんな単純な想いでいい。その想いに、僕達は幸せを感じるのだ。

不意に、一際高い嬌声を上げ、身体を戦慄かせるルコ。
強く締まる膣内に、僕は胸の奥から、想いと共に彼女の名を呼んで。

僕達は、二人の宝物を、その身へと埋めるのだった。


……………

………




月日は流れ、三年後。
僕はルコと、変わらずこの町で暮らしている。
ルコの存在は、既に周知の事実となった。しかし、僕を捕らえに来る兵士はいない。
説得したのだ。何日も、何日も掛けて。一人一人、町の人に理解を求めた。
そして、それはとうとう実を結んだ。町の皆は、彼女を快く迎えてくれたのだ。

今では、一つ屋根の下、僕はルコと一緒に暮らしている。
相変わらず、彼女は狩りが下手なので、僕の手料理を毎日食べている。
その中でも、特にお気に入りはパンのようだ。肉ではなく。なぜか、パン。
だが、彼女がそれを好きだというのならば、それでいいだろう。僕も嬉しい。
僕がパンを与えると、彼女は笑顔を見せてくれる。変わらない、その笑顔を。

もちろん、魔物とこうして一緒に暮らすのは、教団の教えに反している。
そのリスクを考えれば、彼女と一緒に、町を出るという選択肢もあっただろう。
しかし、それは逃げだ。安住の地に辿り着くまで、逃げ続ける生涯となってしまう。
だから、僕は今一度、勇気を出した。彼女と共に、二人で安らげる場所を築くために。

余談だが。いじめっ子達とも和解した僕は、今一緒に、ある計画を進めている。
彼女のような魔物は、きっと、他にもたくさんいることだろう。
人間を愛し、人間との共存を望む者。僕達は、彼女達と分かり合いたい。
僕達も、いずれ大人となり、この町を支えていく存在となる。
そうなった時、僕達は、人も魔物も共に暮らしていける町作りに励むつもりだ。
それが茨の道であることは、想像に難くない。教団からの邪魔も入るだろう。

だけど、僕達は諦めない。ルコが教えてくれたように。
信じること、優しくあること、勇気を持つこと。それらを胸に抱いて。
僕達は夢に向かって、歩き続けることを誓おう。誰でもない、自分自身に。

想いを胸に、僕はひとつの命を抱き、彼女の名を呼んだ。
小さな耳を立たせ、尻尾を振って、笑顔を浮かべる赤ん坊。
傍らで笑うルコに、僕も微笑みを返し、そして…。










ほんの少しの勇気と、抑えきれないほどの愛情。
それらの感情に突き動かされ、僕は、彼女へと手を差し伸べた。

15/08/06 21:01更新 / コジコジ

■作者メッセージ
申し訳ございません、置いたはずの筆を、またも執ってしまいました…。
モフモフに…コボルドちゃんのモフモフな魅力に、逆らえなかったのです…。

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