硝子之砂
世界は広い。限りなく、どこまでも。
目で見、頭で思い描くよりも、ずっと、ずっと…。
それは誰もが知っている、当たり前のこと。
鳥達が飛び交う空も、草木生い茂る大地も、白波立てる海も。
どれも広大でありながら、世界の、ほんの一部でしかありません。
そして、そこに生きる私達は、もっと小さな存在。
空の、大地の、海の片隅で、ひっそりと今日を生きています。
まるで砂漠の中に落ちた、一欠片の硝子のように。
誰にも見つからず…見つけてもらえぬままにいる、儚い命。
ですが、そんな境遇を嘲笑うかのように。
命は他者を求めます。自分と同じ、硝子の欠片を求めます。
欠片と欠片、繋ぎ合わせれば、またひとつの欠片が出来上がり。
その繋ぎ目が、よりぴったりと合う欠片を求めて。相手を求めて。
私達は、雲を掻き分け、大地を這い、海を泳いで、探しに行きます。
『恋人』という名の欠片を探す旅。
このお話は、その果てを見た、ある魔物のエピローグ。
どうか皆様、腰を下ろして、聞いてください…。
……………
………
…
彼を見つけた時、彼女は唾液で己が身を濡らしました。
ぼとり、ぼとりと垂れ落ちるそれは、まるでスライムのよう。
砂漠…乾いた大地さえ、吸い切れぬほどに滴る、粘り気ある液。
それほどまでに、彼女は飢え、焦がれ、彼を求めていたのです。
彼女の名は『ムゥ』。サンドウォームと呼ばれる、巨大な砂虫の魔物です。
剛剣も通さぬ堅い外殻、狼さえ怯える真紅の珠瞳、岩をも噛み砕く鋭い歯。
そして、全てを飲み込む無限の胃袋は、一晩で村ひとつを喰らうほどでした。
その獰猛さから付いた二つ名が、『砂漠の掃除屋』。
サンドウォームは、砂漠の民が最も恐れている魔物でした。
しかし、魔王の代替が起こって、300と7年後の今。
それも遠い昔話となり、今のサンドウォームは、私達と変わらない、
夢見がちで、呆れるほどに素直な、恋に恋する純情な乙女となりました。
その中でも、とりわけムゥは、恋愛に対して積極的でした。
彼女はまだ、外殻がミミズのように柔らかな歳の頃から、
自分の想い人を見つけるために、砂の海を掘り進んでいました。
ですが、彼女は妥協を許さない性格で、かつ直感を信じるタイプだったために、
なかなか理想の相手と出会うことが出来ませんでした。時間にして、約80年程です。
つまり、今、彼女はようやく、80年来の夢が叶ったのです。
正確に言えば、叶おうとしていた…でしょうか。正念場はここからです。
心が逸るも、ムゥは一呼吸を置いて、改めて彼を見つめました。
距離にして、10kmほど先でしょうか。人間では点にも見えないオアシス。
その水辺の傍で腰を下ろしている少年の姿が、彼女の目にはハッキリと映っていました。
その愛らしい外見に、思わず見惚れそうになるムゥ。
しかし、彼女はハッと我を取り戻し、慌てて少年の周囲を見渡しました。
狩りにおいて、一番警戒しなければいけないのは、獲物の横取りです。
彼女は、外殻の複眼をぎょろりと動かして、彼を狙う不届き者がいないか警戒しました。
この時、天も彼女に味方をしていたのでしょう。
幸いなことに、この無防備な少年を狙う者は、一人としていませんでした。
邪魔者がいないことを知り、ますますムゥの心が躍り出します。ウキウキ、ワクワク。
彼女はしばらく、彼のことを見つめた後に、そっと瞳を閉じて、砂の中へと潜りました。
彼の下に辿り着くまでに、網膜に、愛しい人の姿を焼き付けておくためです。
恋人の傍まで寄りゆく道のり、彼女は色々なことを考えました。
なんて言葉を掛けよう。どうやって想いを伝えよう。何をしてあげよう。
彼は何が好きだろう。名前はなんていうんだろう。どこの生まれだろう。
これからのこと。彼のこと。彼女は既に、未来を思い描いていました。
輝かしい未来。それを求め、欠片は、もうひとつの欠片へと近付いていきました。
さて、この砂漠の熱さえ霞む彼女の想いに、まったく気付かぬ少年が一人。
彼の名前は『ソラ』。オアシスから少し離れたところの集落に住む、ラクダ飼いの男の子です。
この日、たまたまソラは、祖父に頼まれ、このオアシスへと水を汲みに来ていました。
そこに偶然、ムゥが通り掛かり、彼を見つけたというワケです。運が良いのか、悪いのか。
彼女の接近にまず気付いたのは、彼が乗ってきたラクダでした。
蹄より伝わる振動に、只事ではない何かを感じ取ったラクダは、
のんきに水を汲んでいる主人を置いて、さっさと逃げ出してしまいました。
走り出すラクダに、ソラはすぐに気が付きました。
慌てて水瓶を置いて、ラクダを追い掛けますが、距離は離れるばかり。
どんなに名前を呼んでも、我が身可愛い動物は、逃げる足を止めません。
体力の差は歴然で、ソラはたちまちへばってしまい、その場に膝を付きました。
息を整えながら、彼は考えました。
どうしてラクダは、急に走り出したのだろう。
どうやって村まで帰ろうか。爺ちゃんになんて謝ろう。
考えれば、考えるほど、混乱が生まれ。
ソラはひとまず、水瓶を取りに戻ろうと、オアシスの方へ振り返りました。
その時です。
耳をつんざく爆音と共に、水が上空へと噴き上がったではありませんか。
太陽まで届く水の柱を、少年は見上げに見上げ、後ろに転げました。
腰が抜けた彼の前に、柱を割って現れたのは、空を分かつ一匹の砂虫。
そう、ムゥです。彼に恋したサンドウォームです。
彼女は以前、旅の途中で出会った魔物より、『水も滴る良い女』という言葉を教わっていました。
それを実践しようと、このような派手な登場の仕方を決行したのです。
水飛沫が太陽の光で輝き、いくつもの虹を描いて。
その中で、両手を広げて空を仰ぐムゥの姿は、確かに美しい乙女のそれでした。
しかし、彼女の眩しい笑顔も、遥か地面より仰ぎ見るソラの目には映っていません。
震える彼が見ていたのは、言うまでもなく、そのおぞましき砂虫の身体です。
そのことに気付かぬムゥは、哀れな少年を見て、自分に見惚れていると思いました。
そもそも、『水も滴る良い女』の意味自体を取り違えているのですが、
愛しき人の心を鷲掴みにしたと思っている彼女が、それに気付くのは無理というものです。
誤解に気付かぬムゥは、伸ばした身体を引っ込め、意気揚々に少年へと近付きました。
色眼鏡とは恐ろしいもので、怯える少年を、これほど目の前で見ても、
彼女は依然として、彼も自分に一目惚れしたものと信じて疑いませんでした。
故に、ムゥは大胆にも、彼の身体に腕を巻き、その身を引き寄せようとしました。
誰にも邪魔されない場所…サンドウォームの体内へ、想い人を招待するためです。
愛の手招き。ですが、少年にとっては獣の捕食。
引き擦り込まれる先は、暗く、底無しにも思える魔物の胃袋です。
死にたくないという一心から、ソラは必死になってもがきました。
もがいて、もがいて、もがいて…。のれんに腕押しと分かっていても。
彼は、彼の身体が外気から閉ざされる最後の一瞬まで、抵抗を続けました。
抵抗空しく、魔物に呑み込まれてしまった人間の男の子。
同時に、それは二人の未来を決定付ける、運命の瞬間でもありました。
…皆さん。私のお話に耳を傾けている皆さん。
どうかひととき、目を閉じてください。ゆっくりと、目を。
そして、巨大な生物に呑み込まれていく御自身を、想い描いてください。
彼と、彼女の馴れ初めを、皆さんに感じて頂くために。
より深く、ふたりの愛を感じて頂くために。皆さん、どうぞ目を…。
太陽の眩しい光も届かぬ、魔物の身体の中。
身動き取れぬソラの身体に、グニグニと押し付けられる何か。
彼はそれが、見えずとも、サンドウォームの肉壁であると分かりました。
その感触が、妙に生温かく、柔らかく、粘っこかったからです。
少年は思いました。
あぁ、自分は食べられているんだな、と。
死を悟り、彼は一転して、冷静になりました。
達観とも言えるでしょうか。何にせよ、少年はもう、暴れるのを止めにしました。
後は、できれば痛みなく逝きたいと願い、瞼を閉じて、ただ身を任せるばかり。
そんなソラの胸中を、一切知らずにいるのが、張本人のムゥ。
文字通り、全身で彼を感じている彼女は、至福に包まれていました。
頬擦りしたり、耳たぶを揉んだり、髪の匂いを嗅いだりと。
少年が抵抗しなくなったのをいいことに、まさにやりたい放題です。
触れるたびに膨らんでいく、愛しさと、嬉しさと。
内壁が、ムゥの恋心に呼応するかのように、淡い光を放ち始めます。
優しくも、淫らな雰囲気を醸し出す、桃色の光。情愛の輝き。
それは、ふと目を開けたソラの心を、一気に攫いゆくに充分なものでした。
再び自分に見惚れる恋人を、愛おしげに撫でる魔物。
赤子をあやすかのように、猫を寝かしつけるかのように。
頭を一撫でするたびに、彼女の胸は、ますますときめきに満ち。
頭を一撫でされるたびに、彼の胸は、不思議にドキドキとしてきました。
それはさながら、恋の魔法とでも言いましょうか。
この、ほんのわずかなやり取りが、今まですれ違っていた互いの心を、
引き寄せ、繋ぎ、通じ合う、一本の赤い糸へと変えてしまいました。
先程まであった死の予感は、いつの間にか消え失せ。
ソラは、自身を抱く魔物…いえ、異性を、じっと見つめました。
驚きや恐怖は、まだ胸の片隅で燻っているものの、それもほんの僅か。
ムゥの胸の中、肌から伝わるぬくもりや、甘い香りに、理性は麻痺し。
雄の本能を包み込む、溢れるほどの母性に、彼は徐々に心奪われていきました。
つまり、彼は彼女に対し、欲情し始めたのです。
少年の雄としての本能が、目の前の存在を、雌と認識したのです。
しかし、それに気付くには、ソラはあまりにも若過ぎました。
身体が熱い。胸が苦しい。でも、それまで。その正体が分かりません。
少年は、頬を染め、熱っぽい吐息をつきながら、ムゥへと視線を向けました。
潤んだ瞳に、言葉にできない自分の想いを乗せながら。強く、熱く。
そんな初々しくも熱いアピールに、果たして彼女が気付かずにいるでしょうか。
ありません、ありえません。彼女は瞬きよりも早く、彼の火照る心を読み取りました。
こうなってしまえば、もう、男女の間で行われることはひとつです。
雌の匂いが微塵にも香らない彼に対し、逸る心を抑えながら、
ムゥはもう一度だけ、ゆっくりと彼の頭を撫で、その額にキスをしました。
肌に触れる唇の感触に、短な吐息を漏らすソラ。
言質なくとも分かる、初物の反応。あどけない仕草。
繰り返しますが、ムゥは恋愛において、直感を重視します。
そのために、もしソラが経験達者であっても、特に気には留めません。
ですが、いくら無頓着とはいえ、恋人の初めてになれるという事実に、
果たして心湧き立たない者がいるでしょうか。特に、私達、魔物娘という存在において。
喜びと悦びに身を震わせながら、ムゥはより一層、少年を強く抱き締めました。
この幸せを伝えたいと。高らかに鳴り響く、この鼓動を感じてほしいと。
そして、同じように、小さな胸を強く打つ、ソラの心音を感じ取りたいと。
共鳴する、ふたつの心音。奏であう、両者の想い。
そこから発する熱に中てられ、気付けば、ムゥはまた、彼にキスをしていました。
しかし、今度は額ではありません。唇と、唇の、互いの内側に触れ合うキスです。
彼も彼女も、生まれて初めての口付けでしたが、それはとても濃厚なものとなりました。
主に、ムゥの積極的な行為が起因です。舌を挿れ、口内を弄る、フレンチキス。
触れ合うと言うより味わう、味わうと言うより貪ると言うに相応しいそれは、
たちまちソラの無垢な精神を蝕んで、虜にし、互いの立場を確固たるものにしてしまいました。
されるがままの少年。その身に、既に自由はなく。
硬直する身体に、ムゥの手が、いやらしく這い巡ります。
背筋に沿って撫で、乳首を擦り、おへそに潜り込んで。
悪戯な指先は、彼の肌を、余すところなく刺激していきました。
…余談ですが、とある学説によると、サンドウォームの女体は、
元々舌に当たる部分が、魔王様の魔力によって変異したと云われています。
もしその説が正しければ、少年は今、口内だけでなく、頭、胸、背中、お尻と、
彼女が触れている場所全てを、舐られ、味見されているということになります。
それはさながら、捕食者による、食前の余興のようには思えませんでしょうか。
さて、この説を裏付けるかのように、巧みな舌使いを見せるサンドウォーム。
狭い肉壁の中で反響する、幾層もの水音が、その激しさを物語っています。
ムゥはまず、彼の舌を執拗に愛撫しました。
少年の性格を映したかのように、小さく、臆病にも奥へと引っ込む舌。
これを彼女は、持ち前の長い舌で包み込み、ねっとりと唾液を絡ませました。
これだけでも、幼いソラにとっては、大人の階段を駆け上がるほどの新境地なのですが、
興奮した魔物は、それだけでは飽き足らず、なんと、彼の唾液を啜り上げようとしました。
肺の空気まで飲み込まれそうなキスに、思わず鳴きそうになるソラ。
ですが、空しくも塞がれた口から漏れるのは、小さな喘ぎ声だけ。
彼はただ、自身の体液が、彼女に飲み込まれているのを見ているのが精一杯でした。
ごくり、ごくりと、脈動する咽の動き。その光景に、言い様のない興奮を覚えながら…。
襲い来る未知。恐怖と快感。ふたつの波に溺れ。
しかし、ソラは彼女の行為に、嫌悪を抱いてはいませんでした。
もしこの場で、彼女が唇を離し、もう一度するかと尋ねれば、
彼は顔を真っ赤にし、俯きながらも、YESと答えることでしょう。
つまるところ、今の彼は、『いやよいやよも好きのうち』の状態なのです。
流されるがままに、性の味をその身に刻まれていく幼い少年。
そんな状況で、いつまでも理性と本能が共存していることはありえません。
少しずつではありますが、少年は、自分がどうして欲しいかを理解し始めていました。
理性ではなく、本能で、です。情事においては、本能が、何よりも強く宿主を動かします。
本能の目覚めは、幼い少年から恐怖を払い、雄と雌の在り方を気付かせていきました。
雄としての本能。湧き上がる好奇心が、恐怖を上回ったとき。
ソラは意識せぬまま、自然と両の腕を動かして、ムゥの背中で絡めました。
驚く彼女を瞳に映し、おずおずと、そのまま自らの方へと引き寄せる少年。
より密着する身体、近付く距離に、二人は言葉にならないほどの幸せを覚えました。
また、互いの身体が密着したことで、ムゥはあることに気が付きました。
彼女の下腹部を押す、硬く、熱い何か。時折、ぴくりと動いては、その存在を主張しています。
言うまでもなく、ソラのペニスです。
彼自身、そうしようと思って押し付けているワケではないのですが、
サンドウォームの体内という狭い空間に加え、抱き締めあった身体。
それがムゥの身体に触れてしまうのは、致し方ないことでした。
しかし、ムゥからしてみれば、それはソラからの求愛以外の、何物でもありません。
蒸れた吐息を漏らし、唾液のアーチを描きながら、魔物は少年より唇を離すと、
二、三度、名残惜しそうに軽いキスを交わした後に、ゆっくりと己が身を下へと移しました。
視界が、彼の顔を映し、胸を映し、お腹を映し、そして…。
彼女の目の前で、下着を押し上げ、疼きを主張する、小さな膨らみ。
思わず舌なめずりをしたムゥの瞳は、太陽と同じ、爛々と輝いていました。
震える彼の腰を抱き、鼻先を、布地越しに押し当てるムゥ。
瞬間、むわりと、肺へと流れ込む雄の匂い。むせ返るほどに濃厚な刺激臭。
ですが、彼女にとっては、どんな花や果物にも勝る芳香です。
嗅げば嗅ぐほど、身体は熱持ち、脳は蕩け、秘部は濡れそぼり。
意識は桃源郷へと飛び立つほどに、ムゥは彼の匂いに溺れました。
陶酔する気持ちに合わせ、自然と伸びる舌。
秘部に触れる、ねっとりとした感触に、たまらずソラが声を上げます。
その様子を、ムゥは目を細め、上目で伺いながら、艶かしく舌を這わせました。
ぴちゃり、ぴちゃり。
卑猥な音が耳に響き、垂涎す感触が神経に響き。
ひとつの音から生まれたハーモニーが、ソラの心身を狂おしく犯します。
彼ほどの歳の子ならば、その音だけで、夜のお供となりえるでしょうが、
そこに彼女の舌技が合わされば、大の大人さえ腰砕けるほどの快感に昇華します。
もちろん、初めての彼が、それほどの快楽に耐えられるはずがありません。
眩い刺激に、目を見開いたソラは、内壁に爪を立て、生娘のように鳴きました。
下着越しに、染み入る唾液、染み出る愛液。
どろどろに汚れていくその場所に、なお涎を垂らし、しゃぶりつく魔物。
口いっぱいに恋人のペニスを頬張りながら、不意に、彼女は自慰を始めました。
今すぐにでも挿れて欲しいと言わんばかりの、愛液散らす、激しい自慰。
中指を根元まで埋めては、荒く息吐き、ふたりがひとつになる瞬間を思い描いて。
想像し、キュンと締まる胸に、彼女は媚薬よりも強い欲情を覚えました。
あぁ、早く繋がりたい。彼ともっと愛し合いたい。
そう思いながらも、ムゥはペニスから口を離せません。
彼女は今、自分自身と、彼の取り合いをしていました。
口が、手が、アソコが、お尻の穴まで、彼と愛し合いたいと訴え掛けてきます。
でも、悲しいことに、彼のモノはひとつだけ。権利を有するのは一箇所だけ。
だから、一度掴んだら、もう離さない。己が意思にすら逆らって、独り占め。
せめて、せめて精を受けるまでは。愛して、愛して、愛し尽くして…。
…どぷり、と。突然、彼女の口の中で、彼のモノが弾けました。
瞬間、口内に流れ込む、焼け付くほどに熱い何か。どろどろとしたもの。
分かります。彼女は知っています。
それを見るのも、触るのも、味わうのも初めてですが、
彼女の魔物としての…雌としての本能が、それが何かを知っています。
精液。ソラの精液。子種。一番欲しかったもの。
そう理解した瞬間、彼女は大きく背を反らし、達しました。
しかし、ペニスは咥えたままに。絶頂のままに、精を受け止めます。
舌の上で転がし、味を見、匂いを鼻腔に溜め、飲み込み、喉奥へ滑らせて。
彼女は飛びそうな意識の中で、恋人の精液を心ゆくまで堪能しました。
どくり、どくり。次々に溢れ出す白濁液。
ソラは夢精の経験こそあれど、自慰をしたことがありません。
そのため、この最初の射精は、量も濃度も、桁違いなものでした。
当然、快感も。射精するソラも、精飲するムゥも、恍惚となるほどに。
そんな濃い精液を、むせ返るほど大量に飲んだものですから、
ムゥはもう、たまらなくて、たまらなくて、あぁ、もう、たまらなくて…!
未だ余韻に浸るソラにしがみ付き、その目を見て。
とてもシンプルで、想いに満ちた、愛の告白を囁くと。
その答えも聞かぬまま、彼と、雌雄の契りを交わしました。
飲み込むと共に、じゅわりと、ムゥの秘部から愛液が溢れ出します。
おもらしと見間違えるほどの想いを漏らし、艶やかに鳴くムゥ。
すると、彼女の膣内を映すかのように、ふたりを包む肉壁からも、
粘っこい液が染み出てきて、愛し合う者達を濡らしていきました。
脈動する襞。ペニスを包む膣内も、ふたりを包む内壁も。
搾り取られるような感触に、ソラは再び絶頂の時が舞い戻ってくるのを感じました。
ですが、今度はペニスだけでなく、自分自身まで弾けそうな、快感の大渦。
頭から爪先まで、隙間なく愛撫されるという、逃げ場のない愛の檻。
刺激が、快感が、身体の中でぐるぐると巡り、蓄積されて、膨らんでいく。
針を刺されぬ風船。ソラは、先程までとは違う何かが、近付いているように思えました。
対して、ムゥは、繋がった瞬間から、ずっと絶頂の津波の中にいます。
全身が攣ってしまい、内壁による動きの助けを得て、なんとか腰を振っている状態です。
情けなくはありますが、それほどに、彼女はこの瞬間を夢見、待ち焦がれていたのです。
彼女は今、どうしようもないほどに幸せでした。ひとりの恋する乙女として。
だから、情けなくとも、少しでも長く、この瞬間を感じていたいと…。
ふと、魔物が、小さな声で尋ねました。
名前を教えてほしい、と。大好きな人間に。
少年は答えました。呟きほどの声で。
そして、問い返しました。同じ質問を。
これに対し、魔物は笑顔で、己が名前を答えました。
水音に掻き消され、聞こえないはずの互いの声。
ですが、ふたりは確かに、恋人の名前を聞きました。
そして、呼び合いました。ムゥ。ソラ。何度も、何度も。
その声が、一際大きく、重なった時。
ふたつの欠片は、ひとつの欠片となりました…。
……………
………
…
…いかがでしたでしょうか。
魔物と人間が、運命の人に出会ったお話。
陳腐ではありますが、少しでも皆さんの心に響いたのであれば幸いです。
え? その後のふたりはどうなったか、ですか?
いえいえ、先にも述べましたが、これは、ある魔物のエピローグ。
エピローグの後に続くお話はありません。続けられないのです。
それはひとえに、ふたりが変わりない日々を過ごされているからです。
お話とは起承転結。山谷なければ、お話にはできません。
皆さんも御存知のように、幸せとは、不変な日々なのです。
だからこそ、めでたし、めでたしで締められるのです。
それでは、語り部リャナンシー、これにて閉幕させて頂きます。
御清聴頂き、ありがとうございました。よろしければ、またぜひとも。
皆さんに、芸術と情愛の神ラヴィスの加護がありますように…。
目で見、頭で思い描くよりも、ずっと、ずっと…。
それは誰もが知っている、当たり前のこと。
鳥達が飛び交う空も、草木生い茂る大地も、白波立てる海も。
どれも広大でありながら、世界の、ほんの一部でしかありません。
そして、そこに生きる私達は、もっと小さな存在。
空の、大地の、海の片隅で、ひっそりと今日を生きています。
まるで砂漠の中に落ちた、一欠片の硝子のように。
誰にも見つからず…見つけてもらえぬままにいる、儚い命。
ですが、そんな境遇を嘲笑うかのように。
命は他者を求めます。自分と同じ、硝子の欠片を求めます。
欠片と欠片、繋ぎ合わせれば、またひとつの欠片が出来上がり。
その繋ぎ目が、よりぴったりと合う欠片を求めて。相手を求めて。
私達は、雲を掻き分け、大地を這い、海を泳いで、探しに行きます。
『恋人』という名の欠片を探す旅。
このお話は、その果てを見た、ある魔物のエピローグ。
どうか皆様、腰を下ろして、聞いてください…。
……………
………
…
彼を見つけた時、彼女は唾液で己が身を濡らしました。
ぼとり、ぼとりと垂れ落ちるそれは、まるでスライムのよう。
砂漠…乾いた大地さえ、吸い切れぬほどに滴る、粘り気ある液。
それほどまでに、彼女は飢え、焦がれ、彼を求めていたのです。
彼女の名は『ムゥ』。サンドウォームと呼ばれる、巨大な砂虫の魔物です。
剛剣も通さぬ堅い外殻、狼さえ怯える真紅の珠瞳、岩をも噛み砕く鋭い歯。
そして、全てを飲み込む無限の胃袋は、一晩で村ひとつを喰らうほどでした。
その獰猛さから付いた二つ名が、『砂漠の掃除屋』。
サンドウォームは、砂漠の民が最も恐れている魔物でした。
しかし、魔王の代替が起こって、300と7年後の今。
それも遠い昔話となり、今のサンドウォームは、私達と変わらない、
夢見がちで、呆れるほどに素直な、恋に恋する純情な乙女となりました。
その中でも、とりわけムゥは、恋愛に対して積極的でした。
彼女はまだ、外殻がミミズのように柔らかな歳の頃から、
自分の想い人を見つけるために、砂の海を掘り進んでいました。
ですが、彼女は妥協を許さない性格で、かつ直感を信じるタイプだったために、
なかなか理想の相手と出会うことが出来ませんでした。時間にして、約80年程です。
つまり、今、彼女はようやく、80年来の夢が叶ったのです。
正確に言えば、叶おうとしていた…でしょうか。正念場はここからです。
心が逸るも、ムゥは一呼吸を置いて、改めて彼を見つめました。
距離にして、10kmほど先でしょうか。人間では点にも見えないオアシス。
その水辺の傍で腰を下ろしている少年の姿が、彼女の目にはハッキリと映っていました。
その愛らしい外見に、思わず見惚れそうになるムゥ。
しかし、彼女はハッと我を取り戻し、慌てて少年の周囲を見渡しました。
狩りにおいて、一番警戒しなければいけないのは、獲物の横取りです。
彼女は、外殻の複眼をぎょろりと動かして、彼を狙う不届き者がいないか警戒しました。
この時、天も彼女に味方をしていたのでしょう。
幸いなことに、この無防備な少年を狙う者は、一人としていませんでした。
邪魔者がいないことを知り、ますますムゥの心が躍り出します。ウキウキ、ワクワク。
彼女はしばらく、彼のことを見つめた後に、そっと瞳を閉じて、砂の中へと潜りました。
彼の下に辿り着くまでに、網膜に、愛しい人の姿を焼き付けておくためです。
恋人の傍まで寄りゆく道のり、彼女は色々なことを考えました。
なんて言葉を掛けよう。どうやって想いを伝えよう。何をしてあげよう。
彼は何が好きだろう。名前はなんていうんだろう。どこの生まれだろう。
これからのこと。彼のこと。彼女は既に、未来を思い描いていました。
輝かしい未来。それを求め、欠片は、もうひとつの欠片へと近付いていきました。
さて、この砂漠の熱さえ霞む彼女の想いに、まったく気付かぬ少年が一人。
彼の名前は『ソラ』。オアシスから少し離れたところの集落に住む、ラクダ飼いの男の子です。
この日、たまたまソラは、祖父に頼まれ、このオアシスへと水を汲みに来ていました。
そこに偶然、ムゥが通り掛かり、彼を見つけたというワケです。運が良いのか、悪いのか。
彼女の接近にまず気付いたのは、彼が乗ってきたラクダでした。
蹄より伝わる振動に、只事ではない何かを感じ取ったラクダは、
のんきに水を汲んでいる主人を置いて、さっさと逃げ出してしまいました。
走り出すラクダに、ソラはすぐに気が付きました。
慌てて水瓶を置いて、ラクダを追い掛けますが、距離は離れるばかり。
どんなに名前を呼んでも、我が身可愛い動物は、逃げる足を止めません。
体力の差は歴然で、ソラはたちまちへばってしまい、その場に膝を付きました。
息を整えながら、彼は考えました。
どうしてラクダは、急に走り出したのだろう。
どうやって村まで帰ろうか。爺ちゃんになんて謝ろう。
考えれば、考えるほど、混乱が生まれ。
ソラはひとまず、水瓶を取りに戻ろうと、オアシスの方へ振り返りました。
その時です。
耳をつんざく爆音と共に、水が上空へと噴き上がったではありませんか。
太陽まで届く水の柱を、少年は見上げに見上げ、後ろに転げました。
腰が抜けた彼の前に、柱を割って現れたのは、空を分かつ一匹の砂虫。
そう、ムゥです。彼に恋したサンドウォームです。
彼女は以前、旅の途中で出会った魔物より、『水も滴る良い女』という言葉を教わっていました。
それを実践しようと、このような派手な登場の仕方を決行したのです。
水飛沫が太陽の光で輝き、いくつもの虹を描いて。
その中で、両手を広げて空を仰ぐムゥの姿は、確かに美しい乙女のそれでした。
しかし、彼女の眩しい笑顔も、遥か地面より仰ぎ見るソラの目には映っていません。
震える彼が見ていたのは、言うまでもなく、そのおぞましき砂虫の身体です。
そのことに気付かぬムゥは、哀れな少年を見て、自分に見惚れていると思いました。
そもそも、『水も滴る良い女』の意味自体を取り違えているのですが、
愛しき人の心を鷲掴みにしたと思っている彼女が、それに気付くのは無理というものです。
誤解に気付かぬムゥは、伸ばした身体を引っ込め、意気揚々に少年へと近付きました。
色眼鏡とは恐ろしいもので、怯える少年を、これほど目の前で見ても、
彼女は依然として、彼も自分に一目惚れしたものと信じて疑いませんでした。
故に、ムゥは大胆にも、彼の身体に腕を巻き、その身を引き寄せようとしました。
誰にも邪魔されない場所…サンドウォームの体内へ、想い人を招待するためです。
愛の手招き。ですが、少年にとっては獣の捕食。
引き擦り込まれる先は、暗く、底無しにも思える魔物の胃袋です。
死にたくないという一心から、ソラは必死になってもがきました。
もがいて、もがいて、もがいて…。のれんに腕押しと分かっていても。
彼は、彼の身体が外気から閉ざされる最後の一瞬まで、抵抗を続けました。
抵抗空しく、魔物に呑み込まれてしまった人間の男の子。
同時に、それは二人の未来を決定付ける、運命の瞬間でもありました。
…皆さん。私のお話に耳を傾けている皆さん。
どうかひととき、目を閉じてください。ゆっくりと、目を。
そして、巨大な生物に呑み込まれていく御自身を、想い描いてください。
彼と、彼女の馴れ初めを、皆さんに感じて頂くために。
より深く、ふたりの愛を感じて頂くために。皆さん、どうぞ目を…。
太陽の眩しい光も届かぬ、魔物の身体の中。
身動き取れぬソラの身体に、グニグニと押し付けられる何か。
彼はそれが、見えずとも、サンドウォームの肉壁であると分かりました。
その感触が、妙に生温かく、柔らかく、粘っこかったからです。
少年は思いました。
あぁ、自分は食べられているんだな、と。
死を悟り、彼は一転して、冷静になりました。
達観とも言えるでしょうか。何にせよ、少年はもう、暴れるのを止めにしました。
後は、できれば痛みなく逝きたいと願い、瞼を閉じて、ただ身を任せるばかり。
そんなソラの胸中を、一切知らずにいるのが、張本人のムゥ。
文字通り、全身で彼を感じている彼女は、至福に包まれていました。
頬擦りしたり、耳たぶを揉んだり、髪の匂いを嗅いだりと。
少年が抵抗しなくなったのをいいことに、まさにやりたい放題です。
触れるたびに膨らんでいく、愛しさと、嬉しさと。
内壁が、ムゥの恋心に呼応するかのように、淡い光を放ち始めます。
優しくも、淫らな雰囲気を醸し出す、桃色の光。情愛の輝き。
それは、ふと目を開けたソラの心を、一気に攫いゆくに充分なものでした。
再び自分に見惚れる恋人を、愛おしげに撫でる魔物。
赤子をあやすかのように、猫を寝かしつけるかのように。
頭を一撫でするたびに、彼女の胸は、ますますときめきに満ち。
頭を一撫でされるたびに、彼の胸は、不思議にドキドキとしてきました。
それはさながら、恋の魔法とでも言いましょうか。
この、ほんのわずかなやり取りが、今まですれ違っていた互いの心を、
引き寄せ、繋ぎ、通じ合う、一本の赤い糸へと変えてしまいました。
先程まであった死の予感は、いつの間にか消え失せ。
ソラは、自身を抱く魔物…いえ、異性を、じっと見つめました。
驚きや恐怖は、まだ胸の片隅で燻っているものの、それもほんの僅か。
ムゥの胸の中、肌から伝わるぬくもりや、甘い香りに、理性は麻痺し。
雄の本能を包み込む、溢れるほどの母性に、彼は徐々に心奪われていきました。
つまり、彼は彼女に対し、欲情し始めたのです。
少年の雄としての本能が、目の前の存在を、雌と認識したのです。
しかし、それに気付くには、ソラはあまりにも若過ぎました。
身体が熱い。胸が苦しい。でも、それまで。その正体が分かりません。
少年は、頬を染め、熱っぽい吐息をつきながら、ムゥへと視線を向けました。
潤んだ瞳に、言葉にできない自分の想いを乗せながら。強く、熱く。
そんな初々しくも熱いアピールに、果たして彼女が気付かずにいるでしょうか。
ありません、ありえません。彼女は瞬きよりも早く、彼の火照る心を読み取りました。
こうなってしまえば、もう、男女の間で行われることはひとつです。
雌の匂いが微塵にも香らない彼に対し、逸る心を抑えながら、
ムゥはもう一度だけ、ゆっくりと彼の頭を撫で、その額にキスをしました。
肌に触れる唇の感触に、短な吐息を漏らすソラ。
言質なくとも分かる、初物の反応。あどけない仕草。
繰り返しますが、ムゥは恋愛において、直感を重視します。
そのために、もしソラが経験達者であっても、特に気には留めません。
ですが、いくら無頓着とはいえ、恋人の初めてになれるという事実に、
果たして心湧き立たない者がいるでしょうか。特に、私達、魔物娘という存在において。
喜びと悦びに身を震わせながら、ムゥはより一層、少年を強く抱き締めました。
この幸せを伝えたいと。高らかに鳴り響く、この鼓動を感じてほしいと。
そして、同じように、小さな胸を強く打つ、ソラの心音を感じ取りたいと。
共鳴する、ふたつの心音。奏であう、両者の想い。
そこから発する熱に中てられ、気付けば、ムゥはまた、彼にキスをしていました。
しかし、今度は額ではありません。唇と、唇の、互いの内側に触れ合うキスです。
彼も彼女も、生まれて初めての口付けでしたが、それはとても濃厚なものとなりました。
主に、ムゥの積極的な行為が起因です。舌を挿れ、口内を弄る、フレンチキス。
触れ合うと言うより味わう、味わうと言うより貪ると言うに相応しいそれは、
たちまちソラの無垢な精神を蝕んで、虜にし、互いの立場を確固たるものにしてしまいました。
されるがままの少年。その身に、既に自由はなく。
硬直する身体に、ムゥの手が、いやらしく這い巡ります。
背筋に沿って撫で、乳首を擦り、おへそに潜り込んで。
悪戯な指先は、彼の肌を、余すところなく刺激していきました。
…余談ですが、とある学説によると、サンドウォームの女体は、
元々舌に当たる部分が、魔王様の魔力によって変異したと云われています。
もしその説が正しければ、少年は今、口内だけでなく、頭、胸、背中、お尻と、
彼女が触れている場所全てを、舐られ、味見されているということになります。
それはさながら、捕食者による、食前の余興のようには思えませんでしょうか。
さて、この説を裏付けるかのように、巧みな舌使いを見せるサンドウォーム。
狭い肉壁の中で反響する、幾層もの水音が、その激しさを物語っています。
ムゥはまず、彼の舌を執拗に愛撫しました。
少年の性格を映したかのように、小さく、臆病にも奥へと引っ込む舌。
これを彼女は、持ち前の長い舌で包み込み、ねっとりと唾液を絡ませました。
これだけでも、幼いソラにとっては、大人の階段を駆け上がるほどの新境地なのですが、
興奮した魔物は、それだけでは飽き足らず、なんと、彼の唾液を啜り上げようとしました。
肺の空気まで飲み込まれそうなキスに、思わず鳴きそうになるソラ。
ですが、空しくも塞がれた口から漏れるのは、小さな喘ぎ声だけ。
彼はただ、自身の体液が、彼女に飲み込まれているのを見ているのが精一杯でした。
ごくり、ごくりと、脈動する咽の動き。その光景に、言い様のない興奮を覚えながら…。
襲い来る未知。恐怖と快感。ふたつの波に溺れ。
しかし、ソラは彼女の行為に、嫌悪を抱いてはいませんでした。
もしこの場で、彼女が唇を離し、もう一度するかと尋ねれば、
彼は顔を真っ赤にし、俯きながらも、YESと答えることでしょう。
つまるところ、今の彼は、『いやよいやよも好きのうち』の状態なのです。
流されるがままに、性の味をその身に刻まれていく幼い少年。
そんな状況で、いつまでも理性と本能が共存していることはありえません。
少しずつではありますが、少年は、自分がどうして欲しいかを理解し始めていました。
理性ではなく、本能で、です。情事においては、本能が、何よりも強く宿主を動かします。
本能の目覚めは、幼い少年から恐怖を払い、雄と雌の在り方を気付かせていきました。
雄としての本能。湧き上がる好奇心が、恐怖を上回ったとき。
ソラは意識せぬまま、自然と両の腕を動かして、ムゥの背中で絡めました。
驚く彼女を瞳に映し、おずおずと、そのまま自らの方へと引き寄せる少年。
より密着する身体、近付く距離に、二人は言葉にならないほどの幸せを覚えました。
また、互いの身体が密着したことで、ムゥはあることに気が付きました。
彼女の下腹部を押す、硬く、熱い何か。時折、ぴくりと動いては、その存在を主張しています。
言うまでもなく、ソラのペニスです。
彼自身、そうしようと思って押し付けているワケではないのですが、
サンドウォームの体内という狭い空間に加え、抱き締めあった身体。
それがムゥの身体に触れてしまうのは、致し方ないことでした。
しかし、ムゥからしてみれば、それはソラからの求愛以外の、何物でもありません。
蒸れた吐息を漏らし、唾液のアーチを描きながら、魔物は少年より唇を離すと、
二、三度、名残惜しそうに軽いキスを交わした後に、ゆっくりと己が身を下へと移しました。
視界が、彼の顔を映し、胸を映し、お腹を映し、そして…。
彼女の目の前で、下着を押し上げ、疼きを主張する、小さな膨らみ。
思わず舌なめずりをしたムゥの瞳は、太陽と同じ、爛々と輝いていました。
震える彼の腰を抱き、鼻先を、布地越しに押し当てるムゥ。
瞬間、むわりと、肺へと流れ込む雄の匂い。むせ返るほどに濃厚な刺激臭。
ですが、彼女にとっては、どんな花や果物にも勝る芳香です。
嗅げば嗅ぐほど、身体は熱持ち、脳は蕩け、秘部は濡れそぼり。
意識は桃源郷へと飛び立つほどに、ムゥは彼の匂いに溺れました。
陶酔する気持ちに合わせ、自然と伸びる舌。
秘部に触れる、ねっとりとした感触に、たまらずソラが声を上げます。
その様子を、ムゥは目を細め、上目で伺いながら、艶かしく舌を這わせました。
ぴちゃり、ぴちゃり。
卑猥な音が耳に響き、垂涎す感触が神経に響き。
ひとつの音から生まれたハーモニーが、ソラの心身を狂おしく犯します。
彼ほどの歳の子ならば、その音だけで、夜のお供となりえるでしょうが、
そこに彼女の舌技が合わされば、大の大人さえ腰砕けるほどの快感に昇華します。
もちろん、初めての彼が、それほどの快楽に耐えられるはずがありません。
眩い刺激に、目を見開いたソラは、内壁に爪を立て、生娘のように鳴きました。
下着越しに、染み入る唾液、染み出る愛液。
どろどろに汚れていくその場所に、なお涎を垂らし、しゃぶりつく魔物。
口いっぱいに恋人のペニスを頬張りながら、不意に、彼女は自慰を始めました。
今すぐにでも挿れて欲しいと言わんばかりの、愛液散らす、激しい自慰。
中指を根元まで埋めては、荒く息吐き、ふたりがひとつになる瞬間を思い描いて。
想像し、キュンと締まる胸に、彼女は媚薬よりも強い欲情を覚えました。
あぁ、早く繋がりたい。彼ともっと愛し合いたい。
そう思いながらも、ムゥはペニスから口を離せません。
彼女は今、自分自身と、彼の取り合いをしていました。
口が、手が、アソコが、お尻の穴まで、彼と愛し合いたいと訴え掛けてきます。
でも、悲しいことに、彼のモノはひとつだけ。権利を有するのは一箇所だけ。
だから、一度掴んだら、もう離さない。己が意思にすら逆らって、独り占め。
せめて、せめて精を受けるまでは。愛して、愛して、愛し尽くして…。
…どぷり、と。突然、彼女の口の中で、彼のモノが弾けました。
瞬間、口内に流れ込む、焼け付くほどに熱い何か。どろどろとしたもの。
分かります。彼女は知っています。
それを見るのも、触るのも、味わうのも初めてですが、
彼女の魔物としての…雌としての本能が、それが何かを知っています。
精液。ソラの精液。子種。一番欲しかったもの。
そう理解した瞬間、彼女は大きく背を反らし、達しました。
しかし、ペニスは咥えたままに。絶頂のままに、精を受け止めます。
舌の上で転がし、味を見、匂いを鼻腔に溜め、飲み込み、喉奥へ滑らせて。
彼女は飛びそうな意識の中で、恋人の精液を心ゆくまで堪能しました。
どくり、どくり。次々に溢れ出す白濁液。
ソラは夢精の経験こそあれど、自慰をしたことがありません。
そのため、この最初の射精は、量も濃度も、桁違いなものでした。
当然、快感も。射精するソラも、精飲するムゥも、恍惚となるほどに。
そんな濃い精液を、むせ返るほど大量に飲んだものですから、
ムゥはもう、たまらなくて、たまらなくて、あぁ、もう、たまらなくて…!
未だ余韻に浸るソラにしがみ付き、その目を見て。
とてもシンプルで、想いに満ちた、愛の告白を囁くと。
その答えも聞かぬまま、彼と、雌雄の契りを交わしました。
飲み込むと共に、じゅわりと、ムゥの秘部から愛液が溢れ出します。
おもらしと見間違えるほどの想いを漏らし、艶やかに鳴くムゥ。
すると、彼女の膣内を映すかのように、ふたりを包む肉壁からも、
粘っこい液が染み出てきて、愛し合う者達を濡らしていきました。
脈動する襞。ペニスを包む膣内も、ふたりを包む内壁も。
搾り取られるような感触に、ソラは再び絶頂の時が舞い戻ってくるのを感じました。
ですが、今度はペニスだけでなく、自分自身まで弾けそうな、快感の大渦。
頭から爪先まで、隙間なく愛撫されるという、逃げ場のない愛の檻。
刺激が、快感が、身体の中でぐるぐると巡り、蓄積されて、膨らんでいく。
針を刺されぬ風船。ソラは、先程までとは違う何かが、近付いているように思えました。
対して、ムゥは、繋がった瞬間から、ずっと絶頂の津波の中にいます。
全身が攣ってしまい、内壁による動きの助けを得て、なんとか腰を振っている状態です。
情けなくはありますが、それほどに、彼女はこの瞬間を夢見、待ち焦がれていたのです。
彼女は今、どうしようもないほどに幸せでした。ひとりの恋する乙女として。
だから、情けなくとも、少しでも長く、この瞬間を感じていたいと…。
ふと、魔物が、小さな声で尋ねました。
名前を教えてほしい、と。大好きな人間に。
少年は答えました。呟きほどの声で。
そして、問い返しました。同じ質問を。
これに対し、魔物は笑顔で、己が名前を答えました。
水音に掻き消され、聞こえないはずの互いの声。
ですが、ふたりは確かに、恋人の名前を聞きました。
そして、呼び合いました。ムゥ。ソラ。何度も、何度も。
その声が、一際大きく、重なった時。
ふたつの欠片は、ひとつの欠片となりました…。
……………
………
…
…いかがでしたでしょうか。
魔物と人間が、運命の人に出会ったお話。
陳腐ではありますが、少しでも皆さんの心に響いたのであれば幸いです。
え? その後のふたりはどうなったか、ですか?
いえいえ、先にも述べましたが、これは、ある魔物のエピローグ。
エピローグの後に続くお話はありません。続けられないのです。
それはひとえに、ふたりが変わりない日々を過ごされているからです。
お話とは起承転結。山谷なければ、お話にはできません。
皆さんも御存知のように、幸せとは、不変な日々なのです。
だからこそ、めでたし、めでたしで締められるのです。
それでは、語り部リャナンシー、これにて閉幕させて頂きます。
御清聴頂き、ありがとうございました。よろしければ、またぜひとも。
皆さんに、芸術と情愛の神ラヴィスの加護がありますように…。
13/05/04 17:32更新 / コジコジ