読切小説
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冬中雪解
どこまでも果てのない、一面の銀世界。
降り積もる雪の中、僕は一人、身を震わせて歩いていた。

目指している場所などない。ただ黙々と、道も分からず歩き続ける。
さくりと音を立て踏み締める足に、冷たいという感覚は既に無く。
息は凍り、意識までもが白く染められてゆく。寄り添う死の気配。

雪は止まない。大地に降り注いでは、世界の全てを凍らせてゆく。
溶けることはない。溶けるはずがない。春はまだ、ずっと先…。

でも、僕は歩を後ろに向けようとは思わない。
足跡の続く向こうには、僕の大嫌いな人達がいるから。

霞む視界に浮かぶ、あの日の光景。忘れられない事故。
どうして。どうして父さんと母さんは、僕を残して逝ってしまったんだ。
落石があったとき、どうして僕だけを馬車の中から放り出したりしたんだ。
一緒に居たかった。そうすれば、こうして叔父さん達に虐げられずに済んだのに。

聞いてよ、父さん。叔父さん達は、僕を『悪魔』って呼ぶんだ。
母さんが綺麗だって褒めてくれた、白い髪と肌、赤い瞳を見て言うんだよ。
酷いよね。僕は納屋に閉じ込められて、外には出してもらえなかったんだ。
それに、食事だって日に一度。大半は余りもので、酷い時はカビたパンさ。

僕はひとりぼっち。求む人も、求める人も、もういない。
この雪の粒みたいだ。僕の手のひらに落ちる、儚い氷の結晶。
皆が居る地面に落ちることができず、春を待たずして、溶けて消えてしまう。

ごめんよ。でも、僕ももうすぐ、君のようになるから。
白い雪のようなこの身体、凍えて動かなくなるまで、あと僅か。
ほら、足が動かない。瞼が重い。胸が熱い。溶ける時が来たんだ。

ああ、神様。逝く前に、どうかひとつだけお願いします。
『悪魔』と呼ばれた僕の願いを、どうか聞き届けてくれるのなら。

もう一度だけ、僕をあの日に戻してください。
母さんの腕の中で眠る、生まれたばかりの頃の僕へ。

あの温かい腕の中へ…。

どうか………。

……………

………



…夢を見たような気がする。
それは、僕が5歳の誕生日の時の光景。

温かな暖炉のある部屋で、僕は笑顔でケーキの前に座っていた。
父さんは僕へのプレゼントを手に、ご自慢のチョビヒゲを弄りながら笑っている。
母さんは誕生日を祝う歌を唄いながら、手拍子までつけてニコニコ喜んでいる。

幸せな光景。二度と戻れることのない思い出。
美味しそうにチキンを頬張る幼い僕。なんて無邪気なんだろう。

もし口出しできるものなら、言ってやりたい。
チキンなんて後でいいんだって。もっと両親に甘えるんだって。
3年だ。後3年で、君は両親とお別れしなきゃいけないんだぞ。
だから、お願いだ。もっと父さんの、母さんの温かさを感じておいてくれ。

そうすればきっと、父さんと母さんは一層笑うだろう。
5歳になったのに甘えん坊だなと、君のことを笑うだろう。

でも、いいんだ。笑い合えるって素晴らしいことなんだ。
5歳の僕。君はまだ、それが分からないだろうけれど。
でも、嬉しいだろう? 父さんと母さんが笑ったら、嬉しいだろう?
そういうことさ。気付いてほしい。君が、僕にならないためにも。

ほら、母さんが君を抱き締めている。
温かいだろう。君は幸せ者だ。世界一の幸せ者だ。
君も抱き締め返してあげるといい。どうだい?

ね、温かいだろう…。

温かい………。

……………

………



…ふと、視界が真っ暗になった。
とうとう死んでしまったのかと思ったけれど、どうも違う。

柔らかい。何か柔らかいものが、僕の目の前にある。
どうやらこれが視界を邪魔しているようだ。何だろう。
雪にしては温かいし、それに何か、良い匂いがするような…。

「…んむ?」

声。人間の声だ。どこから聞こえてくるのだろう。

と、柔らかいものがもぞもぞと動き出し、僕から少し距離を離す。
開けた視界に、僕は無意識に、声の聞こえた方を見るために顔を上げた。

「オパオパ♪」

…そこには、見知らぬ女性がいた。
僕の目と鼻の先で、満面の笑みを浮かべる女性。
僕とは対照的な茶褐色の肌、僕と同じ白い髪。背は大きい。
長いマフラーを掛けていて、その端を僕の首にも巻いている。

でも、何より気になったのはその言葉だ。
『オパオパ』ってなんだろう。初めて聞く言葉。

「オパオパ、イエティのあいさつ。キミもマネしてごらんヨ」

キョトンとする僕を前に、彼女は言葉を続ける。
『イエティ』? 彼女…あるいは民族の名前だろうか。

さておき、『オパオパ』とはどうやら挨拶の言葉らしい。
挨拶されたら、元気に返しなさいというのが父さんの教え。
僕はオウム返しに、彼女へ『オパオパ』と挨拶をした。 

「うんうん、オパオパ♪ オジョウズ」

ご機嫌そうに頷き、もう一度挨拶をする彼女。
悪い人ではなさそうだ。どことなく母さんに似ている気もする。

「キミ、ヤマでたおれてタ。サムイサムイだったデショ?」

…その一言で、改めて実感する。僕は生きているのだと。

死ねなかった。そんな思いが、まず最初に浮かんだ。
恐らく、彼女は親切心から僕を助けてくれたんだろう。
でも、それは結果的に、死にたかった僕を生かしてしまった。
叔父さんのところに居た時は、生きたいと願っても地獄だったのに…。

なんて皮肉だろう。願いとは逆のことが起きる僕。
これが神様の所業というのなら、タチが悪いにも程がある。

自身の境遇に、深い溜め息をひとつ吐くと。
ズキリと、四肢から慣れない刺激が走った。痛覚。鋭い痛み。

余りの辛さに、苦悶の声が抑え切れず、眉間に皺を寄せてしまう。

「あっ、うごくダメヨ。キミのテとアシ、イタイイタイ」

彼女の言葉に、痛みに堪えながら右手を上げて見ると。
それは見るも無残に、凍傷によってボロボロになっていた。
まるで火傷のよう。剥き出しになった肉から、じわりと血が滲み出ている。

「ダメヨ、ダメ。ジッとしてテ」

傷付いた僕の手を、彼女が掴み、そっと下ろす。 
不思議に、彼女に掴まれても痛みを感じない傷口。何故だろう。

「ネンネがイチバン。イッショにネンネ。わかッタ?」

…ここに至り、ふと、気付いたことが二つ。

ひとつは、彼女の姿だ。奇妙なところがいくつもある。
僕の手を掴む彼女の手は、まるで熊か何かのように大きいのだ。
指は4本しかなく、そのひとつひとつが太い。肉球まである。
よくよく見れば足もだ。まさか、手袋や足袋とでもいうのだろうか。

それに、服らしい服を着ていない。ほぼ裸ん坊という奇天烈ぶり。
見るに、ここはどうやら山小屋の中のようだけれど、暖炉はない。
窓から見える外の景色は、先程まで僕が歩いていた世界そのもの。
部屋の中とはいえ、凍える寒さであるはずなのに、彼女の身衣は極めて薄い。
胸と局部を覆うだけという、最低限のものだ。マフラーなんて焼け石に水だろう。

でも、それさえも些細に思える気付きが、もうひとつ。
それは僕と彼女の状態だ。彼女が、僕のことを抱き締めているのだ。

抱き締めるというか、これはもう、捕らえられているというか…。
両腕はぎゅっと上半身を抱き留め、両脚はがっちりと下半身をロック。
苦しいものではないけれど、僅かにも動ける隙間がないほどの密着ぶり。
おまけに身長差のせいで、顔がちょうど彼女の胸に埋まってしまう。

一言で、今の心境を言い表すなら。
死ねなかったけれど、死ぬほど恥ずかしい…。

「エヘヘ…♪ あったかいネ♥」

当の本人は、さほど気にしていないらしく、あっけらかんとしている。
もしかしたら、彼女の属する民族にとっては、これが普通のことなのかもしれない。

そういえば、父さんからこんな話を聞いたことがある。
雪山で遭難した時は、裸で抱き締めあうと暖が取れる…って。

確かに、こうしている分にはとても温かい。
毛布を被っているわけでもないのに、身体はポカポカだ。
彼女が薄着なのも、そういった理由からなのだろうか。僕のために。
冷え切った僕の身体を温めるために、こうしてくれているのかもしれない。

「ネンネ、ネンネ…」

頭を撫で、眠るように促してくる彼女の言葉を受けて。
僕は胎児のように身体を丸め、大きな胸の中で、ゆっくりと瞳を閉じた。

「〜♪」

…温かい。人間って、こんなに温かかったんだ。
母さんも、こんなふうに温かかったのかな。思い出せない。

会いたい。母さんに、会いたいな。抱き締めてほしい。
ごめんね。死ぬことができなかった。でも、きっと、もうすぐ。
そうしたら、僕を抱き締めてくれるかな。父さんも一緒になって。

ああ、でも、死んだら冷たくってしまうんだよね。
僕なんて雪の中で死ぬだろうから、氷のように冷たくなるかな。
嫌だな。だって、抱き締めるってこんなに温かいことなのに。
冷たい身体で抱き締められたら、二人とも困るよね。
でも、そうしないと会えないんだ。もう二度と。

死なないと、二人には…。

「…?」

…ねえ、父さん、母さん。二人が生き返るのは無理かな?
そうすれば、お互いに温かい身体のまま、抱き合えるよ。

そして、僕を褒めてほしいんだ。いっぱい褒めてほしい。
生まれたばかりの僕を、『天使』って称えてくれたように。
お医者さんが、近所の人達が、叔父さん達が、僕を『悪魔』と呼ぼうとも。
二人が居てくれれば、僕は大丈夫だから。勉強も、習い事も頑張れる。

だから、お願い。神様にじゃなくて、父さんと母さんに。
どんな我侭も聞いてくれた、僕の大好きな二人に、お願い。

生き返って…。どうか、生き返ってください。
何でもするから。叶うなら、どんなことでもするから。
父さん、母さん、お願い。僕の声が届くのなら…。

二人に会うにはどうするか、僕は決めていたけれど。
でも…ごめんなさい。できそうにない。できないんだ。

だって、だって僕は今、こんなにも温かくて…。

「キミ…?」

………死にたく、ないんだ…。

「………」

彼女の腕の中、僕は声を押し殺して泣いた。

温もりと共に薄れゆく、僕の中にあった死への渇望。
血の脈動が、心臓の鼓動が、凍った心を溶かしていく。
彼女より伝わり感じる、生きるということの温かさ、その意味。
ひどくシンプルなことで。でも、忘れてしまっていたことで…。

ああ、こんなにも。
こんなにも命は、温かい…。

「…ダイジョブ? イタイイタイ?」

心配し、顔を覗き込んでくる彼女に対し、首を振る。

止まらない涙。雪解けの水のように。

「そダ、マホウをかけてあげるネ。イタイノイタイノ、トンデケーッ」

おちゃらけた声と共に、彼女はくるくると指を回す。
その無邪気で、優しさに溢れた行為に、僕は嗚咽を飲み込んで…笑った。

「エガオ、エガオ〜。ミャハハ♪」

すると、彼女も笑い返してくれた。
いつも僕に微笑んでくれた、母さんみたいに。

…しばらく笑い合った後、僕は彼女にお礼を述べた。
そして、どうして雪山に来たかも、正直に告白した。
命の恩人に対し、隠し事は無礼だろうと思ったから。

彼女は僕の話を、相槌を交えながら聞いてくれた。
時折、震える背中を撫で、なだめてくれながら。真剣に。

「…ダイジョブ。ココにコワイヒト、イナイヨ」

そして、話が終わると、強く抱き締めてくれた。
優しい彼女。温かな彼女。まるで血肉を分けた家族のように。
父さんや母さん以外に、こんな人がいるなんて夢にも思わなかった。

「ひとりぼっち、ダメ。ひとりはコワイ。ワタシがイッショだヨ」

僕は早まっていたんだと実感する。早計だったと。
世界は、両親と僕、それ以外で構成されているものだと思っていた。

それは違う。こんなにも僕を思ってくれる人がいた。
死んでしまう前に、彼女に出会えた。なんて幸せことなんだろう。
僕という存在を抱き締めてくれる彼女の腕は、こんなにも力強い…。

「シヌもダメ。シヌは、おいしいものタベられなくなる。コマるデショ?」

…が、しかし。
水を差してしまうけれど。

ちょっと強過ぎる。胸に顔が挟まれて、息ができない。
それほど彼女が共感してくれているということだろうが、
このままでは望まない死がやってきてしまう。窒息死の危機。

僕は慌てて、彼女に腕の力を緩めるように頼もうとした。
しかし、僕の頭を抱き留める彼女の腕は、ものすごい怪力だ。
ちっとも持ち上がらないどころか、ますます僕を胸の中に押し込んでくる。

マズイ。本気でマズイ。
これで死んでは、父さんと母さんに合わせる顔がない。

「…ン?」

と、何故か急に腕の力が緩くなる。
僕はすぐさま顔を上げて、大きく息を吐いた。

「………」

息切らす僕を尻目に、じっと何かを見ている彼女。
その視線は下を向いており、僕の何かを見ているようだった。
不思議に思い、呼吸を整えながら、彼女の視線を追ってみると…。

「…そッカ。キミ、ワタシのコト…♥」

…はち切れんばかりにズボンを押し上げる、僕のモノがあった…。

「エヘヘ…♪ ガマンさせちゃって、ゴメンネ?」

彼女の言葉に、僕は慌てて首を振って否定した。

違うのだ。これは生理現象というか、僕の意思とは関係ない。
いや、彼女が魅力的でないワケじゃない。それはひとまず別として。
何らかの…そう、きっと命の危機に瀕して、子孫を残そうとする本能が、
僕のモノをこんなふうにしてしまったに違いない。きっとそうだ。
見ていない。決して彼女のことを、卑しい目で見たりはしていない。
彼女は僕の命の恩人であり、生きる意味を教えてくれ、そして…。

「コウビのジュンビ、しよッカ…♥」

混乱する僕を意に介さず、僅かな身衣を脱ぎ始める彼女。
見てはいけないと思い、離れようとするも、首に巻きついたマフラーが僕達を繋ぎ止める。

「ンショッ…」

するりと下着が払われ、目の前に現れる彼女の裸体。
褐色の身体、豊かに実った胸の先端を彩る、桜色の乳首。
視線を下にやると、つるりとした恥丘に、一本の細い筋が見える。

女性の身体。初めて見る、異性の裸…。

「…ドキドキするネ…♥」

再び、彼女の手が僕の頭を抱く。

そのまま引き寄せられる僕の顔は、どんどん彼女の顔へと近付いていく。
視線が交差し、吐息が届き、前髪が触れ、そして、そして…。

「ン…♥」

…あっさりと、僕達は唇を重ねてしまった…。

「…ン、ふ…♥」

特別な意味を持つ場所を触れ合わせる僕と彼女。
そのままお互い、石のように固まって動かなくなる。
僕に限っては、動けないが正しい。驚愕、緊張、恍惚により。

ただ、真っ白に染まる意識の中で。
ひとつだけ…触感だけが、彼女を懸命に感じている。
温かさ。彼女の温かさを。熱いくらいの温かさを。

「ふぅ…、ぅ……♥」

彼女も、それを感じようとしているのだろうか。
瞳を閉じて、口付けに集中しているようだった。
口端の僅かな隙間から漏れる吐息の音が、いやに色っぽい。

「………はっ…♥」

…数秒後か、はたまた数分後か。
どちらからともなく離れてしまう唇。消える温もり。
ちろりと飛び出た彼女の舌先から、ぽとりと唾液が垂れ落ちる。

「…キス…、イマのが、キスだヨ…♥」

とろんと蕩けた瞳を携え、彼女は僕に告げる。
今のがキスだと。言葉にして、その事実を伝えられる。

キス。それは愛し合う人同士がする、恋のスキンシップ。
僕の知らないこと。初めてのこと。それを今、こうして体験し…。

「ンゥッ!?」

僕は一瞬で、キスの虜になった。

「ンッ、ンムッ、チュッ…♥ はっ、ンンッ…♥」

首を伸ばし、必死に彼女の唇を奪う。
温もりを求めるように、柔らかなそれを幾度も貪る。

それはもう、キスというよりは…むしゃぶり。
唇に吸い付き、歯茎をねぶり、舌を絡ませて。飢えた獣のよう。
僕は浅ましくも唾液を垂らしながら、彼女との口愛に没頭した。

「チュッ、ヂュルッ♥ ふぁ…♥ チュ…♥ ンチュッ♥」

先程まで胸の中にあった、性愛への抵抗は既に消え去り。
ムクムクと膨らむ肉欲へ、僕は更に蜜を注ぎ込んでいく。

彼女の全てを味わおうと、淫らに這い回る舌。
舌先を突き合わせ、表面の弾力ある触感を楽しみ、
裏側の柔らかな肉を舐め、互いの唾液を混じり合わせる。
いつかエッチな本で見た、『大人のキス』を実践する僕。

「ンゥ…♥ ま、マッテッ…♥ ンッ♥ ダメッ…♥」

ドキドキする。胸が張り裂けそう。身体が燃えるように熱い。
僕は今、今日初めて出会った彼女と、エッチなことをしているんだ。

人を、愛しているんだ…。

「オネガイ…ンンッ♥ マッテ…、オネガイッ…」

不意に、彼女の懇願する声が耳に届き、ハッとする。
僕は急いで唇を離し、瞳を潤ませる彼女の顔を見つめた。

しまった…、自分勝手にやってしまった。
彼女の気持ちも考えず、ただ自分のやりたいように…。

「はぁっ…、はぁ…♥ …あのネ…」

息を切らしながら話す彼女に、相槌を打つ僕。
どうしよう、怒らせてしまっただろうか…。

「キスっていうのは…、『アイのコトバ』をいいながらするんだヨ…♥」

……………。

「『ダイスキ』、『アイしてるヨ』っていいながら…。ネ?」

………あぁ…。

「…ミャ?」

僕、彼女が『ダイスキ』だ…。

「ンッ…♥ あっ…♥ そ、そう…チュッ♥ オジョウズ…♥」

彼女の教え通り、今度は『アイのコトバ』を囁きながらキスをする。
先程よりも優しく、丁寧に。彼女への想いを込めた、本当のキス。

それに応えるかのように、彼女の身体に変化が現れてくる。
熱を帯び、噴き出てくる汗。それにより、オイルを塗ったように艶かしく照る肌。
乳首は乳輪までぷっくりと膨れあがり、まるでミルクが出るかのように張っている。
アソコなんて大洪水だ。太股を伝って流れ落ちる愛液が、シーツに染みを作っている。

「やっ…♥ あ…、エッチ…♥ ン…♥」

しかし、悲しいかな。今の僕は、怪我で両手が使えない。
その豊満な胸を、煽情的なお尻を、ちょっぴり余り気味なお腹のお肉を揉むことができない。

だから、せめてもの悪あがきとして。
僕は腰を突き出し、自分のモノを彼女のお腹へと擦り付けた。
ムニムニとした柔らかな腹肉が、ズボン越しにペニスを刺激する…。

「…♥ オパオパ、オチンチン…♥」

と、突然。彼女は僕のズボンに指を掛け、するりとずり下ろした。
圧迫から解放され、自身のお腹を打つほどに勢いよく飛び出てくるペニス。
限界にまで滾ったそれは、今にも達しそうに鈴口をヒクつかせている。

そんな僕のモノを、恥ずかしそうに見つめる彼女。

「スゴイニオイ…♥ オスの…ニオイ…♥」

呟き、うっとりとする彼女の表情は、盛る雌のそれ。
先程までの無垢な彼女は、もうそこにはいない。

「はぁっ…、はぁっ…♥」

雄の象徴を目の当たりにし、見るも明らかに興奮を増す彼女。
僕を抱いたまま、コロンと転がり。自身を上に、僕を下に。

「…アシ、ヒライテ…♥」

囁かれる言葉。おねだり。
僕は恥ずかしさを抑え、カエルのように足を開いた。

彼女の股の下で、凛と立つペニス。

「コワクないヨ…♥」

うん…。

「ヤサシク、するからネ…♥」

うん…。

「………ンッ…♥」

あっ…。

「ンンッ…ン…、ンゥゥ〜ッ…♥♥♥」

…沈みゆく彼女の腰に合わせ、音を立て飲み込まれていく僕のモノ。

瞬間、全身に襲い来る、熱と、快感と、幸福。
それらの身が弾けんばかりの大きさに、たまらず嬌声が漏れる。
同時に、彼女も。僕の耳元で、融けた心を搾ったような艶声を上げる。

止まない。響き渡る二人の声。
互いの性器が、互いの最奥に行き着くまでは…。

「はっ…♥ はっ♥ はぁ…っ♥」

僕の頭を、ぎゅうっ…と抱える彼女。
押し付けられる胸から伝わる、強い鼓動。
僕も傷だらけの両腕を伸ばし、彼女の腰を抱き締める。

離れることのないように、力いっぱい…。

「…これで、イッショ…♥」

目尻に浮かぶ涙。秘部より流れる破瓜の血。

僕は彼女を見つめ、『アイのコトバ』を贈る。

「ッ…♥ ワタシもッ…♥ ワタシも、スキ…ッ♥」

身体を震わせ、腰を動かし始める彼女。

ぐちゃり、ぐちゃりと、愛液の掻き混ざる音がこだまする。
ペニスを包む襞は、彼女と同じく、優しくて、気持ちよくて、温かくて。
僕のモノに絶え間ない刺激を送り込んでは、射精感を呼び起こしてくる。

「あっ♥ ミャッ♥ キモチッ…♥ ふぁ♥ ふぁぁっ♥」

余すところなく、彼女という存在に包まれた僕の身体。
その温もりを全身で感じ取る。彼女の愛を受け止める。

そして、僕も。僕も彼女を包み込む。
腕と足を絡め、愛を囁き、身体と心で抱き締める。

「ンゥッ♥ ンッ♥ アツイッ…♥ ミャッ、ミャァァ…ッ♥」

二人の温もりは混じり合い、茹だるような熱へと変わり。
互いの身体を火照らしては、なおも相手に恋焦がれる。

「あンッ…♥ あっ♥ やっ♥ ミャァッ♥ スキッ♥ ダイスキッ…♥ あっ♥」

彼女との愛に溺れ、溶けゆく僕。

限界が近い。神経が焼け切れそう。

「キテ…♥ ンッ♥ アツいの、イッパイ…ッ♥ ミャ♥ ふぁっ♥」

求める彼女。僕を求めてくれる彼女。
僕も彼女を求める。どこまでも強く求め合う。

あぁ…。

「はっ♥ チョウダイッ♥ キミのアツいのっ♥ ンンッ♥ イッパイ…ッ♥」

僕はもう…。

そうさ、僕はもう…。

「ミャッ♥ ワタシもっ…♥ ミャゥッ♥ やっ♥ クるっ…♥ あっ♥ ミャァッ♥」

ひとりぼっちじゃない…。

「ミャアアアァァァァァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ♥♥♥♥♥♥♥♥」

……………

………



それからしばらくして。

僕は怪我が治るまで、彼女の家に居候させてもらうことになった。
手足の凍傷が完治するには、早くとも1ヶ月は掛かるだろうとのこと。
でも、僕は生憎怪我が治りにくい体質だ。倍以上は見積もるべきだろう。

しかし、それまでの間、僕は文字通り手も足も出ない状態だ。
それはもう居候としては最低のレベルで、トイレも一人では行けない。
常に彼女に抱っこされての生活だ。食事だって、恥辱の「あーん」だ。

…でも、そんな手間の掛かる僕なのに。
彼女は嫌な顔一つせず、終始嬉しそうにしている。
まるで赤ん坊を可愛がる母親だ。面倒も幸せの内と言わんばかり。

「ねェねェ、ソラ」

今日も笑顔を浮かべながら、彼女が僕を呼ぶ。
僕を片手に抱き、空いた手でお風呂の薪をくべながら。

「ソラはワタシのコト、スキ?」

何度目…いや、何十度目かの同じ質問。

一日三回以上、彼女はこの手の質問をしてくる。
忘れっぽいのか、はたまた確認するのが好きなのか。

僕はいつも通り、彼女の腕の中で同じ答えを返す。

「ミャハハ♪ ワタシもネ、ダーイスキッ♥」

すると決まって、彼女は僕に頬擦りをする。
そして、両手でぎゅっと抱き締めてくれるのだ。
例えそれが、薪をくべていようと、料理中であろうと。

彼女はその大きな両手で、小さな僕を包み込んでくれる。

「ン〜♪」

密着する二人の身体に、しんしんと降る雪の粒。
いくつも、いくつも。僕達の身体に落ち、溶けて消えていく。

…あの日、僕が掴んだ雪の粒は、手のひらで溶けて消えてしまった。
春を待たずして、雪解けの時を待たずして、儚くも消えてしまった。
あれはきっと、彼女に出会えずに終わってしまった僕なのだろう。

でも、未来は変わった。僕は生きることを選んだ。
父さんや母さんに会うのが、少し先になってしまったけれど。
でも、それでいい。それがいい。これが僕の選んだ道なんだ。
一面の銀世界で僕が見つけた、確かな未来への道なんだ。

「…エヘヘ♪」

父さん、母さん、お願いします。
もし僕の願いが、二人に届くのならば。

「ねェねェ、ソラ」

僕を包む温もりが、消えてしまうことのありませんように。

「あったかいネ…♥」

彼女が掴んだ雪の粒は、溶けてしまうことのありませんように…。
12/11/26 20:39更新 / コジコジ

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