事の始まりは、私が５０歳ほどの頃。
まだエルフとしては幼い、子供の時の話。

突然のことだった。母が『彼』を連れてきたのは。

厚手の布に包まれた『彼』は、小さな赤ん坊だった。
母の腕の中で、安らかな寝息を立てて…。無垢な赤子。

でも、その赤ん坊は母の子じゃない。父とも似つかない。
一目見れば分かる。耳が丸い。どう見ても人間の子だ。
私は混乱し、すぐさま母へと問い詰めた。その子は何なのか。
すると母は、少し困ったような表情を浮かべ、小さく呟いた。

捨てられていたの、と…。

当時は、まだ前魔王が魔物達を統治していたこともあって、
昼夜を問わず、人間との間に戦争が絶え間なく起きていた。
その影響で、親を亡くした子や、戦火から遠ざけるために捨てられた子…
いわゆる戦争孤児が溢れていた。人間に限った話じゃない。全ての種族がそうだ。

『彼』も、その一人だった。戦争によって、家なき子となった身。
捨てた親は、恐らく、この森に私達エルフが住んでいることを知っていたのだろう。
そうでなければ、野獣も潜んでいるような森に子供を捨てていくワケがない。
戦争とは関係なく、ただ憎さ、鬱陶しさ等の理由から捨てた子でなければ…。

ともかく、母はそんな『彼』を見つけてしまい、あろうことか拾ってきてしまった。
言うまでもなく、エルフは人間を嫌っている。野蛮で、卑しく、思慮浅い人間を。
しかし、根っからのお人好しで有名な母。捨て子を見過ごすことはできなかったらしい。
頭を抱える事態に、仕事帰りの父も加わり、その日は草木眠る頃まで家族会議を行った。

…結局、母の熱意に押され、私と父は『彼』を認める結果となった。
私達だけではない。母の強い想いは、最終的に里の長までをも頷かせた。
形式的とはいえ、『彼』は認められたのだ。エルフの里の住人として。
喜ぶ母。父曰く、私が産まれた時と同じくらいの喜びようだ、と…。

ただ、もちろん長も無条件で認めたワケではない。
『彼』を他のエルフと遜色無いよう育てること…と、母と約束を交わした。
それは簡単のように思えて、とても難しい。まず身体の作りが違うのだから。
人間には、森を駆けるしなやかな肢体もなければ、強大な魔術を扱うための魔力もない。
鷹がトンビを育て上げ、自分と同じ動物に変えろと言うようなものだ。

恐らく、長は遠回しながら、母に諦めさせたかったのだと思う。
『彼』がここの住人となれば、里の誰かと恋に落ちる可能性も生まれる。
そうなれば、ゆくゆくは忌み子が…ハーフエルフが生まれてしまう。
長は、何よりもそれを避けたかったのだろう。エルフの血が汚れるのを…。

そんな長の…いや、里中の想いを、知ってか知らずか。
長との約束を果たすために、母は尽力した。『彼』に並々ならぬ愛情を注いだ。
優しく抱き、母乳を与えながら、古くから伝わる子守唄を歌って聞かせた。
合間に、言葉を教え、歩く練習をさせて…。『彼』を立派なエルフの青年とするために。

エルフに育てられた捨て子は、『ソラ』と名付けられた。
私たちの言葉で、『愛』を表す。普通は女の子に付ける名前だ。
でも、母はまるで気にしていないようだった。ソラ、ソラと、いつも呼んでいた。
誰をも愛し、誰からも愛される子に育ってほしいと、微笑みながら告げる母。
その想いを受けて、私も父も、いつしかソラを家族の一員として認めるようになっていた。

……………

………

…

…それから数年後。
魔王代替の噂が、風に乗って届いてきた頃。

人間の成長は早く、『彼』は私の胸ほどの高さまで大きくなった。
でも、まだまだ子供であることに変わりはない。甘えん坊なソラ。
お姉ちゃん、おいてかないで…と、いつも私の後をくっついて歩いていた。

その頃の私といえば、反抗期の只中だった。
母の優しさ、父の厳しさが、鬱陶しくて仕方がなかった。
特に、母の愛情を独り占めしているソラは、とても憎かった。
だから私は、意味もなく常にひっついてくるソラを、邪険に扱った。
打ったりはしないまでも、ひどい言葉を浴びせ、泣かせてしまったこともあった。

…だというのに。ソラはそれでも、私と一緒にいた。
あれほど愛情を与えてくれる母親ではなく、何故か、私に。

ただ、『彼』がそこまで甘えん坊になる理由は、私も知っていた。
ソラには友達がいない…いや、できなかったのだ。いじめられていたから。
今でこそ、その相手は無二の親友だと話しているけれど、当時はひどいものだった。

『彼』は『マルミミ』と呼ばれ、人間の子であることを、他の子供達からからかわれていた。
弱者を虐げることは、エルフの誇りに反すること。でも、子供というのは欲に忠実な生き物。
彼らの親がいくら嗜めようとも、いじめっこ達は『彼』を『マルミミ』と呼び続けた。
一端として、当時はまだ、ソラが里の皆に心から認められていなかった…という点もある。
子を叱る親達も、どこかよそよそしい目つきで、遠くからソラを見ていたように思う。

いじめられ、いつも泣いて家に帰ってくるソラ。
お姉ちゃんと一緒じゃなかったのか、と問う母。弟は首を横に振る。
父は溜め息と共に、私の部屋まで来て、もっと優しくしてあげなさいと叱る。
私が悪いワケではないのに、どうして叱られなければいけないのか。
そんな不満が胸に渦巻き、毛布を頭まで被っては、よく不貞寝をしていた。

ソラのせいで、いつも望まぬ損役を被り、不機嫌な私。
そんな私のベッドに、『彼』は鼻をすすりながらやってくる。
部屋は一緒でも、ベッドは別。それでもソラは、私の毛布をゆすってくる。

お姉ちゃん…、お姉ちゃん…。

寂しそうな声。夜の闇へ、今にも飲まれて消え入りそうな声。
しかし、優しさを乞う彼を、私は無視する。諸悪の根源なのだから当然だ。
聞こえないフリをし、狸寝入りを続ける。ソラが諦めるまで、そうしようと粘る。

でも、ソラは諦めない。何度も毛布をゆする。
どうしても母親の方へとは行かない。私に優しさを求める。

お姉ちゃん…、お姉ちゃん…。

何度も、何度も…。
私でなければ駄目だと言うかのように。

お姉ちゃん…、お姉ちゃん…。

…いつしか、私は根負けして、『彼』をベッドに招き入れた。
毎回このパターンだ。ソラの粘り強さに負けて、毛布の中へと入れてしまう。
母から受け継いだ血のせいか、どうも私も、ソラを甘やかす面があるように思う。

毛布の中に入ってきた弟は、先ほどまでの泣き顔もどこへやら。
嬉しそうに…気恥ずかしそうに微笑んで、私へと擦り寄ってくる。
私はそんな『彼』の頭を抱いて、早く眠りなさいと告げ、目を閉じた。
応え、しばらくの後…寝息を立てるソラ。それを確認して、私も眠りにつく。
このやりとりは、私が反抗期を終える２年後まで、毎晩のように続いた…。

……………

………

…

…それから更に、数年が過ぎて。
人間でいえば、成年の儀式を控えるまでに成長した『彼』。
身長も一段と伸びて、私の肩よりも少し高いところにまで届いた。

この頃になると、ソラをいじめる子はもういなかった。
むしろ、誰もが『彼』を、立派なエルフであると認めていた。

というのも、母が長との約束を果たし、ソラを一人前のエルフへと育て上げたからだ。
人間の成長段階で見れば、もう成人の儀を受けることができる年齢となったソラ。
長もこれを認め、その年の狐の月、ソラにも成人の儀を受けるように告げてくれた。
そこでの試練において、『彼』は他のエルフにも引けを取らない成績を残したのだ。
これには里の皆も驚きを隠せず、拍手と賞賛の声と共に、『彼』をエルフとして讃えてくれた。

そこからはもう、ソラはいじめられっ子どころか、まるで英雄のような扱いを受けた。
男友達からは、よく狩りや遊びに誘われては、夜遅くまでお酒を飲まされて二日酔いになっていた。
女友達からは、恋文や告白を受けては、どう返事をしようかと私に相談することが多々あった。

驚いた例では、生まれたばかりの赤ん坊を抱え、この子の許婚になってくれ…という人もいた。
この年の２、３年ほど前から、どういうワケか、里で産まれる子供が女の子続きになっていたので、
数少ない未婚の男性を狙ってのことだったのだろう。さすがにこの申し出は、ソラに代わり両親が断っていた。

そこまでソラが好かれるのも、ひとえに、母の想いが通じたから。
名は体を表す…と言うように、弟は『ソラ』の名に恥じぬ、優しい性格だった。
『彼』は誰に対しても慈愛深く、老若男女問わず、思いやりを持って接していた。
そんなソラを見て、母が一粒の涙をこぼしたのを、私は今でも鮮明に覚えている。

…私も例に漏れず、『彼』が気になり始めていた。
弟としてではなく、一人の男性として。異性として気になっていた。

ただ、『彼』の甘えん坊な性格は相変わらずで、ソラはいつも私にべったりだった。
身長が低く、童顔であることも相まって、私にはソラがいつまでも子供に見えた。
気になる男性で、可愛い弟。相容れぬ二つの想いが、私の心をいたずらに揺さぶった…。

……………

………

…

複雑な想いを抱いたまま、季節は過ぎ…。
ある冬の日の夜、屋根から雪が落ちる音で、私は目を覚ました。

沁みる寒さを耳先に感じながら、窓の方を見る。
月明かりに照らされて、おぼろげな光を放つ雪の粒。
いくつも、いくつも。しんしんと降り積もる、白い落葉。

私は寝惚け眼のまま、しばらくその光景を見つめていた。
そのまま、また眠りにつこうと思いながら、窓の世界を覗いていた。

…しかし、ふと、あるものに気付く。
窓から差す淡い光の下、もぞもぞと動く奇妙な影を。

何だろう。かなり大きな影だ。でも、動物ではなさそう。
目を擦り、私はそれを凝視する。蠢く影の正体を見極めるために。
眠気も覚め、次第にはっきりと見えてくる影の形。その見慣れた姿にハッとする。

ソラの毛布だ。影の正体は、ソラの毛布だった。
種が分かれば、なんてことはない。毛布の中でソラが動いているだけ。

…でも、どうしてあんなに動いているんだろう？
寝返りにしてはおかしい。ゆさゆさと、かなり激しく動いている。
もしかして、急にお腹が痛くなって、声も出さず苦しんでいるのだろうか。
ソラは、誰にも迷惑を掛けまいと、変なところで我慢しようとするから…。

心配になった私は、ベッドから降り、『彼』へとゆっくり近付いた。
そして、問い掛けた。様子がおかしいけれど、具合でも悪いのか…と。

すると、あれほど揺れていた毛布の動きは、ぴたりと止まった。
ただ、ソラは出てこない。返事ひとつ返してこない。そこにいないかのよう。
私は不思議に思って、もう一度問い掛けた。しかし、やはり返事はない。
明らかに様子がおかしい。まさか、ソラ以外の何かが毛布の中に入っているワケでも…。

息を呑み、私は毛布に手を掛け…そっと捲った。
同時に、篭っていた熱気と、ある匂いが、辺りに放たれて…。

…『彼』は、やはり毛布の中にいた。
ただし、ズボンを下ろし、右手でアソコを掴んだ姿で…。

思いもよらぬ光景に、一瞬固まってしまう私。
目が合う愛弟の表情は、半べそで今にも崩れそう。
恥辱のせいか、後悔のせいか、それとも両方か。

ソラは、私に隠れて自慰に耽っていたのだ。
瞼裏の相手はさておき、その最中を私に見られてしまった。
それはどれほど恥ずかしいことだろう。家族に痴態を見られるなんて。
私だったら、すぐに窓から飛び出して、冷たい雪の中に埋もれたくなる。

でも、大人しいソラにはそれが出来ない。私を見つめ、ただ震えるばかり。
お姉ちゃん、ごめんなさい…と、『彼』はそう告げると共に、泣き出してしまった。

その声で我に返った私は、すぐにソラの口を手で塞いだ。
泣き声が両親の耳に届けば、部屋へと様子を見に来てしまうから。
そうなれば、ソラはもっと恥ずかしい目にあってしまう。避けたい事態。
私は必死になって、落ち着くようにソラへと言い聞かせた。大丈夫だから、と。
頭や背中を撫でて、少しでも安心してくれるように。落ち着くようにさせて…。

…しばらくして、ソラの嗚咽が治まってくる。
私は口を塞いでいた手を外して、もう大丈夫かと尋ねた。
頷く愛弟。まだ瞳は潤んでいるものの、泣きそうな様子ではない。
撫でる手を休めぬまま、私は『彼』に、いくつかの質問を投げかけた。

エッチな気分になってしまったのか。返る頷き。
こういうことは初めてなのか。横に振られる首。
誰のことを思ったらこうなったのか。答えない。
まだもやもやしているのか。しばらくの間の後、返る頷き。

受け答えの中、私はこの状況をどうするかを考えた。
エルフには禁欲の教えがあり、皆それに従って生きている。
その視点から見れば、ソラのしたことは、とても浅ましい行為だ。

ただ、ごまかしはいくらでも聞く。黙っていればいいだけなのだから。
そうすれば、今夜起こったことは誰にも知られず、ソラも罰を受けることはない。

でも…問題なのは、『彼』の欲求だ。性へ対する欲求。
性欲が強いと云われる人間が、どこまでそれに耐えられるか。
もしかすれば、『彼』は里の女性達を用いて、欲を発散させようとするかもしれない。
いくらソラが優しいといっても。彼女達に乱暴は働かないだろうと信じていても。
例え、正式な交際の下、恋人と身体を重ねることで、欲求を満たす結果になろうとも…。

ざわ、と…。私の心に、何かが芽生えるのを感じた。
ソラが、私以外の女性に優しさを求めるようになってしまうのではないか。
私だけの愛弟。私だけのソラ。母ではなく、私を一番好んでくれたソラ…。

…ふと、気付けば。
私は『彼』と、口付けを交わしていた。

いつの間にだろう。恥ずかしさから、頬がかぁっと熱くなる。
それ以上に熱い、触れ合う唇。ソラの体温を…柔らかさを感じる。
『彼』の僅かな吐息が口内に流れるたびに、びくんと肩が震えてしまう。

初めてのキスだった。私も、『彼』も。
姉弟の交わり。禁断の愛。自慰よりも浅ましい大罰。

それなのに…どうしてだろう。私は自分を止めることができなかった。
貪るようにして、『彼』の中に舌を伸ばした。より深く交わり合うために。
絡む唾液。ニチャニチャと音を立て、今の行為が如何に卑しいかを私に囁く。
でも、それでも止まらない。ソラの小さな舌に吸い付き、なお大きく響かせる。

蕩けてゆく思考。目の前の情事を、傍観者の心で臨み恥じる私。
普段は弓を持つ手が、愛弟の股間へと忍び寄り、猛る肉芽を掴む。
『彼』に似て、小さく、可愛らしいそれ。しかし、匂いは雄そのもの。
その先端から滲む粘液を、指先で撫で、くちくちと擦り付けていく…。

それらは私の知らない技術。覚えのない動き。男性の悦ばせ方。
まるで私の中に何者かが潜り込んで、身体を動かしているかのよう。
しかし、そんな些細な不可思議は、『彼』の甘い表情を見て吹っ飛んでしまう。
代わりに湧く、もっと見たい、もっと気持ちよくさせてあげたいという想い。
高潔を貫くエルフにはありえない、淫らで、欲に塗れた、ひどく浅ましい…。

そう、まるで淫魔のような想いが…。

…『彼』は、ただ私の愛撫を受けるがままだった。
抵抗などない。むしろ、より求めるかのように身をくねらせる。
その動きに合わせ、私は彼の脇腹や肩を撫でては、全身を余さず愛した。
今まで優しくできなかった分、素直になれなかった分も含め、より愛しく…。

その最中、不意に彼は嬌声を上げ、腰を突き出した。
瞬間、薄暗い部屋の中を舞う、雪のように白い液体。

精液…。彼は射精したのだ。私の愛撫によって。
飛び散る子種。私の顔や服、『彼』のお腹や胸にかかる熱い汁。
むわりと、より濃厚に香る雄の匂い。『彼』の匂い。胸いっぱいに。
それに反応し、疼く雌。私のお腹の奥底で、ソラを求める炎が燃え上がる。

ぴゅっ、ぴゅと…止まる気配のない射精を横目に。
私は愛弟の小さな胸板に舌を這わせて、流れ落ちそうな精液を舐め取った。
尖らせた舌に押され、クニクニ沈む柔らかな胸。まるで猫の肉球のよう。
舐め、啜り、飲み込み…。そのまま舌を滑らせ、乳首を口に含んで吸い上げる。
女の子のように鳴くソラ。先端を転がしながら、声を抑えるよう嗜める私。

暖炉もない、寒い部屋の中。熱気を放ち、ますます情を増す私と『彼』。
小さな身体を抱え、胸を押し付けながら、執拗に敏感な部分を探る。
耳を甘く噛み、首筋に息を吹き掛けて、指をしゃぶらせ、尻穴を弄り…。
そのどれにも、ソラは過敏なまでに反応してくれた。私を悦ばせるかのように。
気が付けば、私も自らの秘部へと手を伸ばし、『彼』を餌に自慰へと耽っていた…。

でも、ここで思い掛けないことが起きた。
『彼』がいきなり、すごい力で私の身体を抱き寄せてきたのだ。
そのまま、くるりと横に転がり、互いの上下が入れ替わる。
四つんばいで私に覆い被さり、真っ赤な顔で荒い息を吐く『彼』。

私は驚きを隠せず、飢えた獣のように変わった愛弟を見つめた。
初めて『彼』に、人間の本性を垣間見た瞬間。野蛮で、卑しく、思慮浅い…。

…だけど、それでも『彼』は、『ソラ』だった。

ソラは私に顔を近付けて、震える声で、何度も言葉を繰り返した。
お姉ちゃん、大好き、ごめんね、乱暴してごめん、愛してる、本当、本当だから…。

涙をポロポロとこぼしながら、告白し、謝罪する『彼』。
ちょん…と布越しの秘部に触れる、滾りに滾った肉の芽。
でも、それ以上は踏み入ってこようとしない。留まる欲望。
『彼』も分かっているのだろう。ここを進めば、もう後には戻れないことを…。

ここでふと、私はあることに気付く。
この状況に至るまで、まだ一度として『彼』に想いを告げていないことを。
つまり、ソラは今、私の返事…本当の想いを待っているのではないだろうか。

でも、私は『彼』と真逆。その頃は特に、甘えるということが下手だった。
そこまでしておいて…と思うかもしれない。でも、変なプライドがあった。
だから、悩んだ挙句に…私は、ぶっきらぼうな返事を返すことしかできなかった。

いいから…早く挿れなさいよ………と。

すると、その一言を皮切りに。
『彼』は私に深いキスを交わすと同時に、思い切り腰を突き入れた。

ズン、とお腹の奥に響く何か。プチプチと切れる何か。
何か、何かたくさんのものが…。身体も、心も、変わっていく。
私の背筋を、矢が風を切るよりも速く、快感の波が駆け上がった。
そして『彼』も。ソラも挿入と同時に、私の中で果ててしまった。

どくん、どくん…。私の中に、人間の子種が注がれる。
愛する人の精子。浸り、染まりゆく子宮。生じる悦楽感。

…一瞬か、永遠か。時も忘れるほどの絶頂に溺れてしまう私。
でも、『彼』はそれを許してくれない。溺れる手を掴み、無理矢理引き上げる。
最後の一滴を出し終えたところで、乱暴に腰を振るい始める『彼』は、まさに獣。
グチュグチュと私の膣内をかき混ぜては、肉と肉を打ち合わせ、卑猥な音を響かせる。

脳を犯す快感に、私は声を抑えきれず、泣くようにして喘いだ。
そして、何度も、何度も『彼』の名前を呼んだ。愛を叫んだ。
一突きごとに、壊れ、漏れ出る素直な言葉。ソラを愛している想い。
いくつも、絶えることなく…。本当の気持ちを、恋人へと告白した。

ソラには、果たしてその言葉が聞こえていたのか。
『彼』は腰を打ち付けては、私の中に何度も子種を撒いた。
子宮が彼の精液で満ち、溢れようとも、構わず射精を繰り返した。
ソラもまた、私に対し秘めていた本当の気持ちを、行為で表すように…。

冷めない熱。覚めない夢。ずっとこのままであってほしい。
私達は、朝日が差し、雪が溶け始めるまで、互いの愛を求め合った…。

……………

………

…

…月日は流れ、芽吹く春。

今、私は婚礼の儀の中にいる。
傍らには『彼』。私の愛する人。

私達の後ろで、涙を拭う母。その肩を抱く父。
嵐のような拍手と、花吹雪を送ってくれる男友達。
おめでとう、お幸せにと声を掛けてくれる女友達。
神父役を引き受け、祝福の言葉を掛けてくれた里の長。

里中の人々に祝われる中、私達は結婚した。
二人の関係を咎める者はいなかった。皆、薄々感付いていたらしい。
本人らがそう望むのであればと、母も父も、潔く承諾してくれた。

エルフと人間が愛を誓うという、異例の結婚式。
その儀式の締めに、長は大きな咳払いの後、こう語った。

「我らは『彼』と出会うまで、人間というもの誤解していた。
　野蛮で、卑しく、思慮浅いのが人間だと、そう思っていた。
　確かに、人間は魔物とだけでなく、同種とも戦争を起こすことがある。
　その中には、ただ富や名声を求めるために、血を流す者もいるだろう。

　だが、『彼』はどうだ。我らエルフの中でも、誇りと呼べる『彼』は。
　『彼』は努力を重ねることで、我らにも匹敵する力を身に付けた。
　それでいて、とても優しかった。老人にも、子供にも、誰に対しても。
　
　『彼』の功績を、人間の功績を、エルフのものとしてよいのか。
　そんな筈はない。『彼』は立派な人間だ。『彼』は人間の誇りなのだ。
　そして、『彼』を育て上げた母こそ、共に支えた父と娘こそ、エルフの誇りだ。
　
　エルフと人間の血が混じることは、汚れではない。
　誇ろうぞ。彼女と彼は、エルフと人間の誇りなのだ。
　二人が結ばれることを、大いに祝おう。長く歴史に刻もうぞ。
　二人の子は、我らに大いなる実りをもたらしてくれることであろう。

　母に感謝を、父に感謝を、偉大なる祖先に感謝を。

　おめでとう、二人共。アンダバニーヤ・ソラ(末永き愛を)。
　子宝を授かった暁には、ぜひとも爺にも知らせておくれ」

里は変わった。『彼』が母に拾われた日から。
そして、私も…。『彼』と出会った、あの日から。

人間とエルフが交わると、ハーフエルフが生まれる。
忌み子と呼ばれる存在。でも、私達の里では違う。もう違う。
ハーフエルフは、人間とエルフの誇りであり、平和の象徴だ。
そして、私達の愛の結晶だ。この世で一番、愛おしい存在…。

私達の子も、いずれ誰かを愛する。恋が芽生える時が来る。
でも、その相手が人間でも、エルフでも、ドワーフでも、魔物でも…。
誰でも構わない。お互いが愛し合えるのなら、誰でも。それが愛だから。

愛し合うということに、種族なんて関係ないから。

そうでしょう？

『ソラ』♥