胎海婬奔
日々は、幸せで、平凡で、波立たないもの。
それを少し崩してくれるのが、サプライズ。
「おはよう、寝坊助さん」
優雅に宙を舞いながら、朝の挨拶をする彼女。
長い髪、透き通るヒレをなびかせて。御機嫌そうに。
「私の夢を見たのかしら」
それならしょうがないわ、と彼女は言葉を続ける。
掴みどころのない台詞。いつものことであり、魅力のひとつ。
ゆらゆらと漂う彼女を、僕は海底から見上げ、しばし惚ける。
蒼い星空に舞う妖精。なんて美しいんだろう。
「…あまり驚かないのね」
見惚れる僕に対し、彼女は少し意外そうな顔。
髪をゆらゆら、ヒレをゆらゆら。静かな波が彼女を愛でる。
驚かないのね…というのは、この状況についてだろう。
目が覚めたとき、僕がいつも見ているのは木目の天井だ。
でも、今日は違う。目の前に広がるのは、果てのない水の世界。
その中で踊るネレイス。僕を愛しく思ってくれる彼女が、そこにいる。
驚くワケがない。僕はまだ、これが夢か現か分かっていないのだから。
寝惚け眼に映る幻。その程度だ。顔を洗えば覚めるだろう、という…。
「まだ眠いのかしら?」
不意に、彼女は泳ぎ寄り、僕の顔へと手を伸ばした。
僕とベッドを包む膜のようなものを、彼女の指先が貫き、波紋を立てる。
すらりと伸びる、艶かしい海の肌を纏った腕。肘から先を覆う細かな鱗。
二の腕に幾重も絡む紫の髪が、その美しさ、妖しさを更に際立たせる。
「………」
僕の頬を、細い指が撫で…少し冷たい手のひらが包む。
それはまるで、母親のように優しくもあり、殺人鬼のように恐ろしくもあり。
慈しみ、喰らおうとする感情が、頬を通して僕の心を握り締める。とても強欲に。
それでも、僕はただ、彼女の金色の瞳を見つめるばかり。
瞳に映る自分の表情は、想い人を前に、熱く頬を火照らして。
未だに現状が分からず…しかし、彼女が僕の傍にいる事実に喜びを感じ。
胸の高鳴りは次第に強まり、これは現実であるということを脳が認識し始める。
そんな僕が今、胸中に強く抱く想いといえば。
彼女へ、おはようと挨拶を返したい…ということだった。
「…ふふっ♪」
僕の第一声に、彼女は可笑しそうに笑う。
ゆらりと横へ流れる髪。その背後を通る、小さな魚の群れ。
「相変わらずね。今の状況、分かっているの?」
その一言に、僕は首を傾げた。
何か不満なのだろうか。こんなにも幸せな状況なのに。
「縛られているのよ? 両手と両足…、逃げられないように」
言われて、僕は自分の腕へと目をやった。
…なるほど、確かに彼女の言う通り、手首ががっちりと縄で締められている。
足首も同じ。それらはベッドの支柱に括り付けられ、僕は僅かにも動けない。
よほどの力自慢でも、これを引きちぎるのは難しいだろう。それくらい念入りだ。
「そう、今の貴方は磔の身…。何一つ抵抗できない…」
くすりと微笑み、僕の耳をくすぐる彼女。
その手つきは猫や犬への愛撫と似ていて、独特のこそばゆさが身を襲う。
磔について、疑問なのは、どうしてこんな風にされたのか…だ。
僕は別段、彼女に対して悪いことをした覚えはない。嘘も吐いていない。
今まで通り、いつも通り。今日という日まで、とても平穏な日々だったはず…。
「………」
膜を抜け、彼女が更に僕へと身を寄せる。鼻頭が触れ、互いの吐息が届く距離まで。
艶髪に滴る雫が、僕の身体を濡らしゆく。まるで彼女色に染められゆくように。
「…ねえ」
ふと、彼女の表情から微笑みが消える。
「どうしてまだ、あの子達と一緒にいるの…?」
替わりに浮かんだのは、怒り、悲しみ、あるいは別の…。
額をコツンと合わせ、僕へと問う彼女。
脅すようにも聞こえれば、一方で弱々しくも聞こえる言葉。
鋭い牙で、甘く噛まれているような心地。憎さと愛しさの交差。
そんな彼女の台詞に、僕はひとつ、心当たりがあった。
あの子達…というのは、恐らく僕の女友達のことを指しているんだろう。
普段はとても穏やかな彼女だけれど、根っこはひどくヤキモチ焼き。
あからさまにではないにしても、彼女は僕が他の女性と遊ぶのを強く嫌った。
いや、遊びだけでなく、他愛ないおしゃべりさえも嫌っているように思う。
それほど彼女は独占欲が強く、良く言えば、僕のことを愛してくれているのだ。
「これはね、おしおき…」
でも、今回のような事態は初めて。
普段ならば、遠回しに不満を漏らす程度で終わるのに。
まさかここまで彼女の鬱憤が溜まっているとは思わなかった。
僕も極力、女友達と会うことは避けていたのだけれど…。
「私の言うことを聞いてくれない、ソラへのおしおき…」
ネレイスの変化に合わせて、世界も徐々に乱れ始める。
波はうねり、翻弄されるクラゲ達。魚達は我先にと逃げ惑う。
まるで、海と彼女がひとつになったかのよう。
「貴方が誰のものなのか…」
海から出でる彼女。首に手を回し、なお密着する。
迫るその瞬間を察して、僕は思わず目を瞑ってしまう。
「もう一度、教えてあげる…♥」
…その一言と共に。
僕の唇に、柔らかなものが重なった。
恐る恐る目を開くと…こちらを見つめる、うっとりとした瞳。
絹糸よりも細い髪の間から覗く、恍惚とした表情。満たされる欲。
口付けにより、ひとつとなる身体と身体。干渉し合う想いと想い。
魔物が人間を喰らう瞬間。
そこにあるのは、充実感と更なる渇望。
「ん…♥ ちゅ…、んぅ…♥」
触れ合うだけのキス。甘ったるく、可愛らしい。
でも、なぜか僕の身体は、いつも以上に興奮してしまっている。
それに彼女も気付いたのか、乳飲み子が母乳を吸うようなキスを繰り返した。
鱗滑らかな両手で、僕の服を脱がし、身体全体をくまなく愛撫しながら。
脇腹をさすり、おへそを弄くり、乳首を摘み、お尻を揉んで…。
緊張し、硬くなった身体をほぐし、彼女は僕を望む姿へと変えていく…。
「ちゅっ…♥ ちゅぅ…♥ …はっ♥ ん…っ♥」
長い時の後、瞬きほどの息継ぎを挟んで、再び接吻。
変わらず、触れ合いはソフト。それでいて、蕩けるほどに甘い。
唇に塗られた唾液が、いやらしい水音を響かせて、僕の聴覚を犯しゆく。
「…ふふっ♥ 焦らされて、たまらないでしょう?」
耳をくすぐる吐息、囁く声。淫靡な魔物の誘い。
僕の乳首を指先でクリクリと弄りながら、更なる追い討ちをかけてくる。
「ねえ、どうしてほしい? ソラは、私に何をしてほしい…?」
僕はたまらず、縛る縄に抗い、身をよじって彼女に訴えた。
早くアソコを触ってほしいと。
いつもみたいに、気持ちよくしてほしいと。
「うふふっ…♥ 正直なソラ…、でも、いけないコ…♥」
悪戯っぽく笑いながら、少しだけ離れるネレイスの身体。
合わせて、彼女のしだれた髪が、僕の身体中に降り注ぎ、優しく包み込む。
その一本々々が、まるで彼女の腕であるかのように。絡み付いて離れない。
そして、それらは僕の熱り立ったペニスにまで纏わり付いた。
潤いを含んだ艶やかな髪。それは独特の刺激を…快感を僕に与えてくれる。
トロリとあふれ出る、彼女を愛しく思う液。とろとろ、とろとろ、止まらない…。
「…ソラ、忘れてはいけないわ」
快楽の波に溺れる僕を、彼女が戒める。
ネレイスは身を乗り出し、僕の頭上を跨いで、僅かに腰を落とした。
眼前に迫るもの。それは彼女の秘部。淡いピンク色で、愛液を滴らせた…。
「これはおしおきなの…♥」
瞬間、ぽすんっ…とお尻が落ちてくる。
再び交わされるキス。今度は彼女の下の口と。
「私を満足させてくれるのが、償いというものでしょう?」
髪をかき上げ、僕を見下ろす想い人。とても満足気に。
おまけに腰を動かして、僕へと愛撫を要求してくる。
秘部から香る、強烈な女性の匂い。口内に流れ込んでくる、濃ゆい愛の蜜。
それらに頭がクラクラしながらも、僕は何とか彼女の要求に応えようとした。
「…あっ♥」
短い舌を必死に伸ばし、秘部ごと甘い蜜を舐め取る。
どろりとした粘液が味覚を刺激し、ぴりぴり舌を刺す。
僕は首を動かしながら、彼女の最も弱い部分を幾度と攻めた。
しかし、どれほど舐めようとも、蜜が枯れるということはない。
彼女が身をくねらせるたびに、それ以上の蜜が溢れてくるからだ。
舐め取っても、啜っても、また湧いてくる…。海の水を飲み干すより難しい。
「んんっ…♥ あっ…ん…♥ 上手…♥」
僕の拙い愛撫を受け、彼女は小さく身を震わせる。
粘りと量を増す愛液。どろどろになる秘部と口元。
それでも舌の動きは止めない。彼女が満足するまでは…。
「ふぁ…ぁっ♥ ソラ…、中も……んっ♥」
リクエストに答え、秘部を口に含み、その中へと舌を這わせる。
にゅるりと滑り、たやすく僕の舌を受け入れる膣内。熟れた蜜壷。
彼女のナカの味を確認するように、僕は内襞を激しく舐め上げた。
細かな隆起が舌上を駆けていくと共に、大きく身体を反らせる想い人。
その口からこぼれ出るのは、快感の漏れ声と、僕への強い愛。
僕は顔を精一杯持ち上げて、更に彼女の奥へと舌を伸ばし、刺激した。
「やぁっ♥ あっ♥ そ、そこっ…♥ きもちいい…っ♥」
僕の頭を両手で押さえ、がくがくと震えるネレイス。
耳まで紅く染まり、その口端からは、だらしなく唾液を垂らしている。
なんてあられもない姿だろう。普段の彼女からは、とても想像できない。
でも…、そんな彼女の姿を、僕はもっと見たかった。
もっとエッチな彼女が見たくて、必死になって愛撫を繰り返した。
もっと、もっと…。僕の手で、もっと気持ちよくなってほしい…。
「…頑張るコには、ご褒美が必要ね…♥」
その刹那。
「さあ、もっと私を感じて…♥」
妖しげな笑みと共に、彼女が呟いたかと思うと。
僕の身体を、雷が落ちたかのような衝撃が駆け巡った。
「…♥ 素敵な顔よ、ソラ…♥」
身体を弓なりに反らして、僕の中で暴れる快感を逃がそうとする。
でも、止まらない。津波のように、絶え間ない刺激が襲い掛かってくる。
彼女だ。彼女の足が…足ビレが、僕のペニスを撫でているのだ。
僕の顔に馬乗りになっていようとも、体格差から爪先がペニスまで届いてしまう。
彼女はそれを利用して、僕にクンニを強要したまま、足でペニスを扱いているのだ。
「そんな子犬みたいに吠えて…♥ アソコに響いて、気持ちいい…♥」
柔らかく、しなやかで、ぬめりを帯びたヒレ。
いつしか尻尾も加わり、8枚のヒレがペニスをめちゃくちゃに撫で回す。
今まで放っておかれた部分なだけに、敏感に反応してしまう僕の身体。
その眩いほどに強く、甘い刺激は、たちまち射精感を湧き上がらせた。
「…もう出そうなの? ふふっ…、嬉しい…♥」
僕の限界を察し、一段といやらしくなるヒレの動き。
亀頭、裏筋、雁首と…弱い部分を集中的に撫でてくる。
暴れる僕に合わせ、ギシギシと呻りを上げるベッド。
誰の耳に届くこともない異音。この広い世界には、僕達ふたりだけ。
外界から…今までの僕の生活から遮断され、ここにあるのは、彼女だけ…。
「いいわよ、出して…♥ 私を濡らして…♥」
でも…。
「…え? あっ…きゃうんっ♥♥♥」
それでも、僕は…。
「やぁっ…♥ クリ、噛んじゃ…♥ 私まで…っ♥ あっ…♥ あぁっ♥」
彼女だけが、傍にいてくれれば…。
「ふああぁ…っ♥♥♥ あっ…♥ ひぅっ…ぅ…♥」
……………。
「はぁーっ…♥ はっ…♥ ん…っ♥ はぁっ…♥」
…長い射精を終え、深い溜め息をつく。
顔にチョロチョロと注がれる、彼女の絶頂の証。潮吹き。
穴はヒクつき、お腹は凹んでは膨らんで。青い肌に光る珠の汗。
その表情は、いつもと変わらない、エッチに濡れた顔…。
「…♥ すごい量…♥ 頭を飛び越えて、胸にまでかかってる…♥」
感嘆を漏らしながら、胸元の精液を指ですくう彼女。
髪と肌、そして精液の織り成す3色のコントラストが、僕の心を惑わせる。
「…んっ♥ ちゅっ…♥ ちゅるっ♥ こくん…♥ んくっ…♥ こくん…♥」
そのまま、まるで当然のことのように、彼女は精液を口へと運んだ。
音立てるほど自らの指をしゃぶり、咽を鳴らして、一滴々々を味わい飲み込む。
目の前で見せ付けられる、あまりにも色欲に溺れた光景。痴態。
その中心が彼女。僕の愛する人。全てを投げ出してでも愛したい人。
そして、僕を独り占めしたいまでに愛してくれる人…。
「…おいで、ソラ。おしおきはお終い…」
白く染まった髪を身に纏いながら、彼女が僕の戒めを解いていく…。
「ここからは、いつも通り楽しみましょう…♥」
両手を広げ、恋人を迎え入れるネレイス。
吸い込まれるようにして、僕は彼女の胸の中へと収まりゆく。
少し冷たい肌…、でも、温かい彼女。
「…♥」
ベッドから離れ、膜を抜けて。
僕達の身体は、母なる海に包まれる。
ヒレを巧みに動かして、僕を抱えたまま泳ぐ彼女。
その周囲を舞う、様々な色、大きさ、形をした、海の生き物達。
その全てがひとつであるように、そのひとつが全てであるように。
「ソラ…♥」
見つめ合う僕と彼女。初めて彼女が、僕を抱いた時のように。
その手に誘われるまま、腰を沈め、彼女の膣内へと入っていく…。
「あぁっ…♥」
根元まで深く繋がり、彼女の膣内を味わう。
同じように、彼女もペニスを強く咥え込んで…。
「ソラの…、あったかい…♥」
彼女は下腹部を撫でながら、その中にあるものを愛おしんだ。
その顔は、まるで身篭った母親のように、優しく温かい。
後はもう、動くことはない。このまま宙を漂うだけ。
海が、僕達の愛をどこまでも膨らまし、弾けさせてくれる。
「…ふふっ♥ もう出てる…♥」
魔物達が暮らす海。それは深ければ深いほど、漂う魔力も濃いものになる。
まるで、媚薬の中に身体を漬け込まれたような感覚。それでいて、とても穏やか。
静かな絶頂。それは海に暮らす魔物へと、神様が与えてくれた贈り物。
僕達は海という母親の胎内に抱かれて、互いの愛を分かち合う。
「ソラ…、もっと私を…♥」
乱れるほど激しいのも、もちろん気持ちのよいものだけれど。
神様がそうじゃなくしたのは、きっと、こうして話せないから。
相手の顔を、ちゃんと見ることができなくなってしまうから。
特に、僕みたいな我慢ができない人だと、そうなりやすいから。
だから、こうして抱き合っているだけでいいと、神様は定めてくれたんだと思う。
お互いを、もっと深く感じられるように。肌だけでなく、目で、口で、心で…。
「私だけを見つめていて…♥」
2度目の射精。睾丸がキュッと締まるのを感じる。
それに合わせて、彼女の膣内も。子宮口が鈴口へと吸い付いてくる。
ゴクゴクと飲み干されていく、大量の精子。
その中のひとつが、どうか彼女の卵子へと届きますように。
「私だけを愛していて…♥」
3度目。魚達の中に、他の魔物の姿が見える。
僕達を見ているようだ。自らを慰める者、恋人と抱き合う者…。
海は平等に、皆を愛してくれる。誰もが幸せそう。僕達と同じように。
「そうじゃないと…」
4。始まりは違えど、終わりはいつも通り。
彼女と抱き合ったまま、互いが満足するまで波間を漂う。
僕の精液が尽きようと、彼女の子宮が満たされようと。
どちらもが、幸せに漬かりきるまで…。
「きっと…」
…ただ、今日はちょっとだけ。
ちょっとだけ、いつもより繋がっていられる気がする。
「きっと、また…」
日々は、幸せで、平凡で、波立たないもの。
「貴方を犯してしまうから…♥」
それを少し崩してくれるのが、サプライズ。
それを少し崩してくれるのが、サプライズ。
「おはよう、寝坊助さん」
優雅に宙を舞いながら、朝の挨拶をする彼女。
長い髪、透き通るヒレをなびかせて。御機嫌そうに。
「私の夢を見たのかしら」
それならしょうがないわ、と彼女は言葉を続ける。
掴みどころのない台詞。いつものことであり、魅力のひとつ。
ゆらゆらと漂う彼女を、僕は海底から見上げ、しばし惚ける。
蒼い星空に舞う妖精。なんて美しいんだろう。
「…あまり驚かないのね」
見惚れる僕に対し、彼女は少し意外そうな顔。
髪をゆらゆら、ヒレをゆらゆら。静かな波が彼女を愛でる。
驚かないのね…というのは、この状況についてだろう。
目が覚めたとき、僕がいつも見ているのは木目の天井だ。
でも、今日は違う。目の前に広がるのは、果てのない水の世界。
その中で踊るネレイス。僕を愛しく思ってくれる彼女が、そこにいる。
驚くワケがない。僕はまだ、これが夢か現か分かっていないのだから。
寝惚け眼に映る幻。その程度だ。顔を洗えば覚めるだろう、という…。
「まだ眠いのかしら?」
不意に、彼女は泳ぎ寄り、僕の顔へと手を伸ばした。
僕とベッドを包む膜のようなものを、彼女の指先が貫き、波紋を立てる。
すらりと伸びる、艶かしい海の肌を纏った腕。肘から先を覆う細かな鱗。
二の腕に幾重も絡む紫の髪が、その美しさ、妖しさを更に際立たせる。
「………」
僕の頬を、細い指が撫で…少し冷たい手のひらが包む。
それはまるで、母親のように優しくもあり、殺人鬼のように恐ろしくもあり。
慈しみ、喰らおうとする感情が、頬を通して僕の心を握り締める。とても強欲に。
それでも、僕はただ、彼女の金色の瞳を見つめるばかり。
瞳に映る自分の表情は、想い人を前に、熱く頬を火照らして。
未だに現状が分からず…しかし、彼女が僕の傍にいる事実に喜びを感じ。
胸の高鳴りは次第に強まり、これは現実であるということを脳が認識し始める。
そんな僕が今、胸中に強く抱く想いといえば。
彼女へ、おはようと挨拶を返したい…ということだった。
「…ふふっ♪」
僕の第一声に、彼女は可笑しそうに笑う。
ゆらりと横へ流れる髪。その背後を通る、小さな魚の群れ。
「相変わらずね。今の状況、分かっているの?」
その一言に、僕は首を傾げた。
何か不満なのだろうか。こんなにも幸せな状況なのに。
「縛られているのよ? 両手と両足…、逃げられないように」
言われて、僕は自分の腕へと目をやった。
…なるほど、確かに彼女の言う通り、手首ががっちりと縄で締められている。
足首も同じ。それらはベッドの支柱に括り付けられ、僕は僅かにも動けない。
よほどの力自慢でも、これを引きちぎるのは難しいだろう。それくらい念入りだ。
「そう、今の貴方は磔の身…。何一つ抵抗できない…」
くすりと微笑み、僕の耳をくすぐる彼女。
その手つきは猫や犬への愛撫と似ていて、独特のこそばゆさが身を襲う。
磔について、疑問なのは、どうしてこんな風にされたのか…だ。
僕は別段、彼女に対して悪いことをした覚えはない。嘘も吐いていない。
今まで通り、いつも通り。今日という日まで、とても平穏な日々だったはず…。
「………」
膜を抜け、彼女が更に僕へと身を寄せる。鼻頭が触れ、互いの吐息が届く距離まで。
艶髪に滴る雫が、僕の身体を濡らしゆく。まるで彼女色に染められゆくように。
「…ねえ」
ふと、彼女の表情から微笑みが消える。
「どうしてまだ、あの子達と一緒にいるの…?」
替わりに浮かんだのは、怒り、悲しみ、あるいは別の…。
額をコツンと合わせ、僕へと問う彼女。
脅すようにも聞こえれば、一方で弱々しくも聞こえる言葉。
鋭い牙で、甘く噛まれているような心地。憎さと愛しさの交差。
そんな彼女の台詞に、僕はひとつ、心当たりがあった。
あの子達…というのは、恐らく僕の女友達のことを指しているんだろう。
普段はとても穏やかな彼女だけれど、根っこはひどくヤキモチ焼き。
あからさまにではないにしても、彼女は僕が他の女性と遊ぶのを強く嫌った。
いや、遊びだけでなく、他愛ないおしゃべりさえも嫌っているように思う。
それほど彼女は独占欲が強く、良く言えば、僕のことを愛してくれているのだ。
「これはね、おしおき…」
でも、今回のような事態は初めて。
普段ならば、遠回しに不満を漏らす程度で終わるのに。
まさかここまで彼女の鬱憤が溜まっているとは思わなかった。
僕も極力、女友達と会うことは避けていたのだけれど…。
「私の言うことを聞いてくれない、ソラへのおしおき…」
ネレイスの変化に合わせて、世界も徐々に乱れ始める。
波はうねり、翻弄されるクラゲ達。魚達は我先にと逃げ惑う。
まるで、海と彼女がひとつになったかのよう。
「貴方が誰のものなのか…」
海から出でる彼女。首に手を回し、なお密着する。
迫るその瞬間を察して、僕は思わず目を瞑ってしまう。
「もう一度、教えてあげる…♥」
…その一言と共に。
僕の唇に、柔らかなものが重なった。
恐る恐る目を開くと…こちらを見つめる、うっとりとした瞳。
絹糸よりも細い髪の間から覗く、恍惚とした表情。満たされる欲。
口付けにより、ひとつとなる身体と身体。干渉し合う想いと想い。
魔物が人間を喰らう瞬間。
そこにあるのは、充実感と更なる渇望。
「ん…♥ ちゅ…、んぅ…♥」
触れ合うだけのキス。甘ったるく、可愛らしい。
でも、なぜか僕の身体は、いつも以上に興奮してしまっている。
それに彼女も気付いたのか、乳飲み子が母乳を吸うようなキスを繰り返した。
鱗滑らかな両手で、僕の服を脱がし、身体全体をくまなく愛撫しながら。
脇腹をさすり、おへそを弄くり、乳首を摘み、お尻を揉んで…。
緊張し、硬くなった身体をほぐし、彼女は僕を望む姿へと変えていく…。
「ちゅっ…♥ ちゅぅ…♥ …はっ♥ ん…っ♥」
長い時の後、瞬きほどの息継ぎを挟んで、再び接吻。
変わらず、触れ合いはソフト。それでいて、蕩けるほどに甘い。
唇に塗られた唾液が、いやらしい水音を響かせて、僕の聴覚を犯しゆく。
「…ふふっ♥ 焦らされて、たまらないでしょう?」
耳をくすぐる吐息、囁く声。淫靡な魔物の誘い。
僕の乳首を指先でクリクリと弄りながら、更なる追い討ちをかけてくる。
「ねえ、どうしてほしい? ソラは、私に何をしてほしい…?」
僕はたまらず、縛る縄に抗い、身をよじって彼女に訴えた。
早くアソコを触ってほしいと。
いつもみたいに、気持ちよくしてほしいと。
「うふふっ…♥ 正直なソラ…、でも、いけないコ…♥」
悪戯っぽく笑いながら、少しだけ離れるネレイスの身体。
合わせて、彼女のしだれた髪が、僕の身体中に降り注ぎ、優しく包み込む。
その一本々々が、まるで彼女の腕であるかのように。絡み付いて離れない。
そして、それらは僕の熱り立ったペニスにまで纏わり付いた。
潤いを含んだ艶やかな髪。それは独特の刺激を…快感を僕に与えてくれる。
トロリとあふれ出る、彼女を愛しく思う液。とろとろ、とろとろ、止まらない…。
「…ソラ、忘れてはいけないわ」
快楽の波に溺れる僕を、彼女が戒める。
ネレイスは身を乗り出し、僕の頭上を跨いで、僅かに腰を落とした。
眼前に迫るもの。それは彼女の秘部。淡いピンク色で、愛液を滴らせた…。
「これはおしおきなの…♥」
瞬間、ぽすんっ…とお尻が落ちてくる。
再び交わされるキス。今度は彼女の下の口と。
「私を満足させてくれるのが、償いというものでしょう?」
髪をかき上げ、僕を見下ろす想い人。とても満足気に。
おまけに腰を動かして、僕へと愛撫を要求してくる。
秘部から香る、強烈な女性の匂い。口内に流れ込んでくる、濃ゆい愛の蜜。
それらに頭がクラクラしながらも、僕は何とか彼女の要求に応えようとした。
「…あっ♥」
短い舌を必死に伸ばし、秘部ごと甘い蜜を舐め取る。
どろりとした粘液が味覚を刺激し、ぴりぴり舌を刺す。
僕は首を動かしながら、彼女の最も弱い部分を幾度と攻めた。
しかし、どれほど舐めようとも、蜜が枯れるということはない。
彼女が身をくねらせるたびに、それ以上の蜜が溢れてくるからだ。
舐め取っても、啜っても、また湧いてくる…。海の水を飲み干すより難しい。
「んんっ…♥ あっ…ん…♥ 上手…♥」
僕の拙い愛撫を受け、彼女は小さく身を震わせる。
粘りと量を増す愛液。どろどろになる秘部と口元。
それでも舌の動きは止めない。彼女が満足するまでは…。
「ふぁ…ぁっ♥ ソラ…、中も……んっ♥」
リクエストに答え、秘部を口に含み、その中へと舌を這わせる。
にゅるりと滑り、たやすく僕の舌を受け入れる膣内。熟れた蜜壷。
彼女のナカの味を確認するように、僕は内襞を激しく舐め上げた。
細かな隆起が舌上を駆けていくと共に、大きく身体を反らせる想い人。
その口からこぼれ出るのは、快感の漏れ声と、僕への強い愛。
僕は顔を精一杯持ち上げて、更に彼女の奥へと舌を伸ばし、刺激した。
「やぁっ♥ あっ♥ そ、そこっ…♥ きもちいい…っ♥」
僕の頭を両手で押さえ、がくがくと震えるネレイス。
耳まで紅く染まり、その口端からは、だらしなく唾液を垂らしている。
なんてあられもない姿だろう。普段の彼女からは、とても想像できない。
でも…、そんな彼女の姿を、僕はもっと見たかった。
もっとエッチな彼女が見たくて、必死になって愛撫を繰り返した。
もっと、もっと…。僕の手で、もっと気持ちよくなってほしい…。
「…頑張るコには、ご褒美が必要ね…♥」
その刹那。
「さあ、もっと私を感じて…♥」
妖しげな笑みと共に、彼女が呟いたかと思うと。
僕の身体を、雷が落ちたかのような衝撃が駆け巡った。
「…♥ 素敵な顔よ、ソラ…♥」
身体を弓なりに反らして、僕の中で暴れる快感を逃がそうとする。
でも、止まらない。津波のように、絶え間ない刺激が襲い掛かってくる。
彼女だ。彼女の足が…足ビレが、僕のペニスを撫でているのだ。
僕の顔に馬乗りになっていようとも、体格差から爪先がペニスまで届いてしまう。
彼女はそれを利用して、僕にクンニを強要したまま、足でペニスを扱いているのだ。
「そんな子犬みたいに吠えて…♥ アソコに響いて、気持ちいい…♥」
柔らかく、しなやかで、ぬめりを帯びたヒレ。
いつしか尻尾も加わり、8枚のヒレがペニスをめちゃくちゃに撫で回す。
今まで放っておかれた部分なだけに、敏感に反応してしまう僕の身体。
その眩いほどに強く、甘い刺激は、たちまち射精感を湧き上がらせた。
「…もう出そうなの? ふふっ…、嬉しい…♥」
僕の限界を察し、一段といやらしくなるヒレの動き。
亀頭、裏筋、雁首と…弱い部分を集中的に撫でてくる。
暴れる僕に合わせ、ギシギシと呻りを上げるベッド。
誰の耳に届くこともない異音。この広い世界には、僕達ふたりだけ。
外界から…今までの僕の生活から遮断され、ここにあるのは、彼女だけ…。
「いいわよ、出して…♥ 私を濡らして…♥」
でも…。
「…え? あっ…きゃうんっ♥♥♥」
それでも、僕は…。
「やぁっ…♥ クリ、噛んじゃ…♥ 私まで…っ♥ あっ…♥ あぁっ♥」
彼女だけが、傍にいてくれれば…。
「ふああぁ…っ♥♥♥ あっ…♥ ひぅっ…ぅ…♥」
……………。
「はぁーっ…♥ はっ…♥ ん…っ♥ はぁっ…♥」
…長い射精を終え、深い溜め息をつく。
顔にチョロチョロと注がれる、彼女の絶頂の証。潮吹き。
穴はヒクつき、お腹は凹んでは膨らんで。青い肌に光る珠の汗。
その表情は、いつもと変わらない、エッチに濡れた顔…。
「…♥ すごい量…♥ 頭を飛び越えて、胸にまでかかってる…♥」
感嘆を漏らしながら、胸元の精液を指ですくう彼女。
髪と肌、そして精液の織り成す3色のコントラストが、僕の心を惑わせる。
「…んっ♥ ちゅっ…♥ ちゅるっ♥ こくん…♥ んくっ…♥ こくん…♥」
そのまま、まるで当然のことのように、彼女は精液を口へと運んだ。
音立てるほど自らの指をしゃぶり、咽を鳴らして、一滴々々を味わい飲み込む。
目の前で見せ付けられる、あまりにも色欲に溺れた光景。痴態。
その中心が彼女。僕の愛する人。全てを投げ出してでも愛したい人。
そして、僕を独り占めしたいまでに愛してくれる人…。
「…おいで、ソラ。おしおきはお終い…」
白く染まった髪を身に纏いながら、彼女が僕の戒めを解いていく…。
「ここからは、いつも通り楽しみましょう…♥」
両手を広げ、恋人を迎え入れるネレイス。
吸い込まれるようにして、僕は彼女の胸の中へと収まりゆく。
少し冷たい肌…、でも、温かい彼女。
「…♥」
ベッドから離れ、膜を抜けて。
僕達の身体は、母なる海に包まれる。
ヒレを巧みに動かして、僕を抱えたまま泳ぐ彼女。
その周囲を舞う、様々な色、大きさ、形をした、海の生き物達。
その全てがひとつであるように、そのひとつが全てであるように。
「ソラ…♥」
見つめ合う僕と彼女。初めて彼女が、僕を抱いた時のように。
その手に誘われるまま、腰を沈め、彼女の膣内へと入っていく…。
「あぁっ…♥」
根元まで深く繋がり、彼女の膣内を味わう。
同じように、彼女もペニスを強く咥え込んで…。
「ソラの…、あったかい…♥」
彼女は下腹部を撫でながら、その中にあるものを愛おしんだ。
その顔は、まるで身篭った母親のように、優しく温かい。
後はもう、動くことはない。このまま宙を漂うだけ。
海が、僕達の愛をどこまでも膨らまし、弾けさせてくれる。
「…ふふっ♥ もう出てる…♥」
魔物達が暮らす海。それは深ければ深いほど、漂う魔力も濃いものになる。
まるで、媚薬の中に身体を漬け込まれたような感覚。それでいて、とても穏やか。
静かな絶頂。それは海に暮らす魔物へと、神様が与えてくれた贈り物。
僕達は海という母親の胎内に抱かれて、互いの愛を分かち合う。
「ソラ…、もっと私を…♥」
乱れるほど激しいのも、もちろん気持ちのよいものだけれど。
神様がそうじゃなくしたのは、きっと、こうして話せないから。
相手の顔を、ちゃんと見ることができなくなってしまうから。
特に、僕みたいな我慢ができない人だと、そうなりやすいから。
だから、こうして抱き合っているだけでいいと、神様は定めてくれたんだと思う。
お互いを、もっと深く感じられるように。肌だけでなく、目で、口で、心で…。
「私だけを見つめていて…♥」
2度目の射精。睾丸がキュッと締まるのを感じる。
それに合わせて、彼女の膣内も。子宮口が鈴口へと吸い付いてくる。
ゴクゴクと飲み干されていく、大量の精子。
その中のひとつが、どうか彼女の卵子へと届きますように。
「私だけを愛していて…♥」
3度目。魚達の中に、他の魔物の姿が見える。
僕達を見ているようだ。自らを慰める者、恋人と抱き合う者…。
海は平等に、皆を愛してくれる。誰もが幸せそう。僕達と同じように。
「そうじゃないと…」
4。始まりは違えど、終わりはいつも通り。
彼女と抱き合ったまま、互いが満足するまで波間を漂う。
僕の精液が尽きようと、彼女の子宮が満たされようと。
どちらもが、幸せに漬かりきるまで…。
「きっと…」
…ただ、今日はちょっとだけ。
ちょっとだけ、いつもより繋がっていられる気がする。
「きっと、また…」
日々は、幸せで、平凡で、波立たないもの。
「貴方を犯してしまうから…♥」
それを少し崩してくれるのが、サプライズ。
12/10/16 21:13更新 / コジコジ