麻人に馬乗りになった灯子はゆっくりと麻人の輪郭を確かめるように肩に指を這わせていく、何か芸術品を愛でるような手つきと目付きだ。
（ああ……この手だ……この手があの絵を生み出してるんだ……その手に触れられているんだ……）
そう考えて麻人は不思議な感慨と興奮を覚える。その偉大な手が愛おしげに、大事そうに自分の体に触れて行くのだ。
体に触れる手は灯子の色白で華奢なイメージと違って少し指先が堅い、長年筆を握ってタコが出来ているのだ。
女性らしい感触ではないが、それが「西明寺灯子」の恋人としてよりも画家「ウツロビトウコ」ファンとしてのミーハー心に響く。
「……何か、性感以外の理由で恍惚としていないか」
「いやあ、この指があの絵描いてるんだなーって思うとですね」
灯子は麻人の首筋をすりすりと撫でながらにまぁ、と笑みを浮かべる。くすぐったい。
「余裕を持ってられるのも今のうちだけだ」
「せ、先輩は経験あるんすか？」
聞いた後で無神経だったかと少し後悔する、しかし灯子は笑みを崩さない。
「無い」
「あ……よかった、嬉しい」
思わず口に出してしまう。
「っていうか、初めてなのにどこからその自信が……」
「サキュバスというのはな、男を骨抜きにするために生まれてきたような生き物なんだ」
ひた、と顔の両側に手を付く。
「経験が無くとも本能が知っている、野生動物が生き方を本能的に知っているようにな、君を虜にする事くらい造作の無い事だ」
三日月型に開いた口元からぬらりと長く、真っ赤な舌が覗く。全身が色白なのでその赤さが余計鮮やかに目に焼き付く。
ぬるり
「うひゃ」
そのまま顔を下ろすと、麻人の頬に舌を這わせた。獣が獲物の味見をするような仕草だ。
「君も初めてだろう？」
「ななな何の確証があって……」
「誤魔化そうとしても無駄だ、匂いで解る、他の女の匂いがしない」
「匂いで解るんすか」
「わかるとも、最も男からする女の匂いに敏感なのは人間の女も変わりないがな」
「わー、怖ええ」
「ああ怖いとも、なおかつ魔物は人間の女と違って一度捕えた獲物は決して逃さない」
「そりゃあ嬉しいっすね」
へら、とだらしのない笑顔を浮かべる麻人の唇にちょん、と口付けをする。
口付けられたその個所からぴりぴりと電気のような快楽が全身に走って麻人は驚く。
自分から散々キスした時とは全然違う、さっきは絡み付く蛇のようなねっとりした快楽だったが、今のは蜂に刺されて媚薬を注入されたような甘くて強い快感だった。
やはりする側とされる側では感じ方が違うものなのだろうか。これは覚悟を決めておいた方がよさそうだ。
「……ふやぁ」
と、思ったら自分と同じくらいに感じた様子の灯子。
（あ、弱い）
麻人の考えが顔に出たのか、灯子は慌てて表情を引き締める。
「……ふふん、されると一味違うだろう？」
「先輩の感じ方も違うみたいっすね」
「うるさい」
口調だけは強気だがいつもの切れがない。
「先輩……責めには向いてないんじゃ」
「えーい、黙れ」
「うひゃ」
誤魔化すように灯子は麻人のシャツを強引に脱がす、笑いながら脱がされる麻人。
上半身が裸になった事で素肌同士が触れ合う事になる、無論、胸の膨らみも。
（うおおぉぉ……気持ちいい、すべすべぷにぷにだ……）
麻人が感動しているのをよそに脱がせた灯子は麻人の首筋に顔を埋めてじっと動かなくなる。
「……せんぱーい？」
「……」
「もしもーし？」
「君はいい匂いがするな」
「汗臭いっしょ」
「それがいいんだ」
そう言って灯子は鼻先を麻人の首筋に埋めてすりすりと擦り付ける。
（先輩って、所々猫っぽいなぁ……）
そんな事を思いながらそっと灯子の背に手を回す麻人。
「あの」
「ん？」
「触っていいっすか、角」
「私の体で君が触れていけない場所は無い」
灯子の言葉でまた陰茎への血の流入量を増加させながらそっと角に触れてみる。
「すげえ、本当に生えてるや」
「当たり前だ」
「不思議だなあ……」
黒髪に埋もれた付け根付近までなぞってみる、ごつごつとした禍々しい外見とは裏腹に不思議と滑らかな手触りだ。
続いて腰の漆黒の羽に手を伸ばしてみる、手にさらさらと纏わりつく感触はいつまでも撫でていたくなる。
「……空飛ぶにしてはちょっと小さな羽っすね」
「基本、魔力によって飛んでいるからな、羽根は浮力を得るためというより媒体だ」
「へーえ……難しい事はわかんないっすけど、とりあえず触ると気持ちいいっすね」
「ふふん、魔物の体はあらゆる場所が男を惑わせるように出来ているからな」
得意気に羽根を揺らす、付け根を触っていた麻人は「おお、動いてる動いてる」と感動する。
そうやって角と羽根をゆっくりと撫でてやると灯子は目を細めて麻人の肩にすりすりと頬ずりする。
「先輩」
「んん……？」
「好きにするんじゃないんすか？」
「……」
うっとりとしていた顔がはっとなる、完全に流れを忘れていたようだ。
「……す、好きにさせてもらうとも、覚悟するといい」
「なでなで……」
「あうう……」
しかし羽根と角を優しく撫でてやるとふにゃふにゃと崩れ落ちる。そして張りのある乳房が麻人の胸の上に乗ってむにゅりと形を変える。
「先輩、責めに向いてないっすよ」
「そんにゃ事は……」
「童貞の俺に押せ押せされてるじゃないっすか」
「むうう……ちゅぷ」
麻人に言われて悔しそうな顔をするが、麻人がそっと角から顎に指を滑らせて唇に触れるとその指にちゅうっと吸い付く。
「それじゃ、先輩のターンは終了って事で」
「んちゅ、まだだ、まだ、ちゅぷ」
ぶつぶつと文句を言うが、口に指を押しこまれると素直にしゃぶる。
恨みがましい視線を寄こして来るが、舌を指で捏ね回してやるとその目もとろん、と潤んでしまう。
（先輩可愛いなぁ……）
麻人はもう今日だけで何度思ったか分からない思考をまた繰り返した。
しかし、そうして主導権を取り返して優越感に浸っている所でふと現実的な問題が頭を掠めた。
「……先輩、盛り上がって来た所申し訳ないんですが……」
「んちゅ？」
指を加えながら灯子は首を傾げる。麻人は気まずげに視線を泳がせながら言う。
「その、まさか今日こんな流れになるとは露ほども考えて無かったんで、その、準備らしい準備もしてこなかった訳で……」
「ちゅぱ、準備、とは？」
ようやく指から口を外して灯子が問う。
「いや、その、エチケット的な物というか、ゴム的な物というかその……」
「……」
「ややややっ、できちゃうのが嫌って訳じゃないんです、むしろ結婚したいから望む所っていうか、そうじゃなくて、その、今できちゃったらまずいでしょ？そりゃあ先輩は高収入ですけど身重になったら創作活動も今まで通りって訳にはいかないし。そうなったら俺の収入が頼りですけど俺まだ学生ですし……。」
「ぷっ」
焦ったように早口で捲し立てる麻人、どさくさに紛れてプロポーズ紛いの言葉まで吐いてしまっている事には気付いていない。そんな麻人の様子を見て灯子は思わず吹き出してしまう。
「わ、笑いごとじゃないっすよ、俺は先輩とずっと幸せに暮らしていく為に……何言ってんだ俺……」
「くっくっくっく」
途中で自分が恥ずかしい事を口走って居る事に気付いた麻人が赤面するのを見て灯子は本格的に笑い出してしまう。そんな灯子を見て麻人はますます顔を紅潮させる。
「ふふふ……いや、いやいや、君は立派な男だよ。普通欲望に流される所をちゃんと相手の事を考えられるのは素晴らしい事だ」
そう言ってぽむぽむと麻人の頭を撫で返す。麻人はせっかく主導権を取り返したのにぶち壊しになってしまって憮然とした表情だ。
「だが、その心配は杞憂だ」
「えっ」
今までのお返しとばかりに麻人の頭をぐりぐりと撫でながら灯子は言う。
「魔物と言うのはな、ヒラエルキーで言うと人間の上位にあたる生き物だ。そして上位の生き物は総じて出産率が低い」
「……子供、出来づらいんですか？」
「出来ない訳ではないが、かなり頑張ってもらわんとな」
「が、頑張るって……」
麻人が口ごもっていると、灯子は不意に麻人の手を引いて自分の下腹部……子宮の上にぺたりと触れさせた。
「頑張って、たっぷり注いでくれないと、な」
にまあ、と爛れた笑みを浮かべて耳元に囁いた。
「――――――っっ」
囁かれた瞬間、麻人は不意に顔色を変えた。
「あっ……ああっちょっ……待っやばっ……」
「うん？」
不思議そうな顔で見る灯子から慌てて距離を取ろうとする麻人。
「出っ……出ちまっ……」
麻人は未経験である、それを今までは灯子が責めに弱い所を利用してどうにか誤魔化して優位に立っていた。
しかし今の灯子の言葉で抑え込んでいた興奮が臨界点を超え、直接的な刺激も無いまま暴発に至ろうとしていたのだ。
その切羽詰まった様子から灯子は瞬時に事態を察知した。
「馬鹿者っ一番搾りを……！」
次の瞬間灯子は訳のわからない事を言いながら驚く程素早い動作で麻人に飛び掛るとジーンズのチャックを強引に下ろし、下着ごとずり降ろして陰茎を露出させる。
過去最大級のサイズに変貌した陰茎が跳ね上がる様に飛び出し、ぺちん、と灯子の頬に当たる。
「うひぃぁっ！？」
叫ぶ麻人を無視して根元を掴み。
「あむんっ」
咥えた。
「あっがっぐっ！？」
一溜まりもなかった、生まれて初めての他人による陰茎への刺激、しかも大好きな灯子の口粘膜。
何もする暇も考える暇もなかった。睾丸が一気にせり上がり、爆発的な快楽が陰茎を貫いた。
どぶんっ
「んごくっっ」
散々に我慢した末の一発目、特別に濃い精液は外気に触れる事無く灯子の口腔内に送り込まれ、灯子は躊躇なくそれを胃に送り込んだ。
びゅぐん　びゅぐん　びゅぐん　びゅぐん
「ごく……ごく……ごく……ごく……」
続けて放たれる大量の精も、灯子はえづく事も無くごくりごくりと喉を鳴らして飲み干していく。
普通ならば考えられない事だ。男の精液を飲む、というのはオーラルセックスの中でもかなり難度の高い行為であり、未経験の女性が出来るものではない。
しかし灯子はむしろその暗い瞳にうっとりと陶酔した色まで浮かべながら心底美味しそうに麻人の精液を飲み込んで行く。
麻人はしかしそんな灯子に違和感を感じている余裕は無かった。射精している最中にも脈動に合わせて促すように裏筋を刺激する柔らかな舌、引き込むように吸い付く口腔の蠢き。
何よりあの灯子の口に射精しているという感覚で麻人の脳内は快楽で真っ白に染め上げられ、余計な考えなど浮かべていられない状態だった。
びゅくり……びゅくり……びゅくり……
「こくん……こくん……こくん……」
長々と続いた射精がようやく収まり始め、勢いが弱まる。弱まったといってもそれで通常時の射精くらいの勢いだ、それだけ初動の勢いが尋常では無かった。
麻人は真っ白になっていた意識をようやく取り戻すと同時に下半身に目を向けて驚く。圧倒的な射精感からてっきり飛び散って大惨事になっていると思ったら、そこには蕩けた顔で亀頭に吸い付く灯子の顔があるだけだった。
恐ろしく大量の精子が出たはずだが、一滴たりともこぼさずに口で受け止めたらしい、しかも今も断続的にに続く射精に合わせてちゅうちゅうと吸い上げている。
「せえっぇっ……せんぱひぃっ」
「ちゅぅぅっ……ちゅぅぅっ……」
声を出すと今まで出した事がないような情けない声が出てしまった、吸い付かれる快楽が凄まじすぎて声が上ずってしまう。
「ぢゅっぷっ」
「ぃぎっ……！」
ようやく射精が鎮まると、しつこく吸い付いていた灯子が淫らな音と共にようやく離れた。
「んんんン……ごっきゅん……♪」
そうしてこれ見よがしに動く喉を見せつけながら飲み込んだ。
「はっ……はっ……先輩……！無理して飲まなくても」
息も絶え絶えになりながら言うと、灯子はいつにも増してどろりと暗く蕩けた瞳で麻人を見返して行った。
「心配……する、な、サービスで飲んでる、訳、じゃない、サキュバスにとって、精は、至上の、ご馳走、だ」
「そ、そんな都合のいい……って言うかなんか苦しそうにしてません！？」
「ふぅぅぅ……」
心配する麻人の前で灯子は俯いて全身を小刻みに震わせている、合わせて背中の羽根はざわざわと蠢き、尻尾は震えてぴたぴたと床を叩いている。
「だ、大丈夫っすか？」
「君にとって……少し残念かもしれないお知らせがある」
「な、何すか？」
「今まで私にとって……この世で一番美味い物は、君の作った弁当だったんだが……ああ、それよりもずっとずっと美味だ、ああ、弁当よりもそれを作る「君自身」が、私にとって最高のご馳走だったんだ……」
どこか陶酔したような物言いでうわ言のように呟くと俯いていた顔を上げて麻人を見る。
暗闇のような瞳が大きく見開かれて自分の方を見ている、笑顔だ。
その瞬間麻人はいわゆる「蛇に睨まれた蛙」状態になった、そうして先程聞いた「魔物は人間よりも上位の生き物である」という話を身を持って理解させられた。
「先輩、ちょっと落ち着きませんか」
「無理だ、もう食べる」
「た、食べられる―！？」
灯子は笑いながら麻人の腕を掴んでぐい、と引き寄せた。物凄い力だ。麻人は軽々と灯子の胸の中に引っ張り込まれ、灯子の柔らかさと匂いに包まれた。
「よしよし……おとなしく食べられるといい、悪いようにはしない」
「お、お手柔らかに……」
「加減してやりたいのはやまやまだが、恐らく無理だ、もう体が欲しがってしまっているからな」
怖い位の笑顔で言う灯子の視線に間近で見つめられ、麻人はその目から視線を外せなくなる。同時に自分の陰茎にぬるりと何か熱いものが触れるのが分かった。
（これっ……て……）
「そう、ソレだ」
考えを読んだように言う。
灯子は麻人にのしかかり、対面座位の形になっている、この状態で陰茎に触れる熱い物といったらそれこそソレしかない。
（う、わ、わわわわ動いてるよコレ！？）
ソレは熱い粘液を擦り付けながら明らかに麻人のそれを咥えようと蠢いているのが感触で分かった。
「早く食べたいそうだ」
至近距離で熱い吐息を吐きかけながら灯子は言う。麻人は全身に鳥肌が立った、期待と同時に蛇に飲まれる寸前の蛙のような心境を味わう。もはや灯子の放つ捕食者の雰囲気に当てられた麻人は従属のルーンの存在も頭から抜けてしまっている。
「ところで」
灯子はその目に僅かに悪戯気な色を覗かせる。
「誰が責めに向いてないって？」
「ね、根に持って」
みちっずぢゅぅっ
言い終える前に陰茎が何かを突き破り、熱くぬめる感触に包まれた。
「くぅぅぅっっつぁっ」
「――――――――！！！！？？？」
僅かに苦痛に顔を歪める灯子。一瞬にして極楽に送り込まれ、目を白黒させる麻人。
何だかんだ言って灯子も初めてなのだからその時は自分が気遣ってあげなくては、と思っていたのだが。いざ「その時」になって麻人に出来た事は口を金魚のようにぱくぱくさせるだけだった。
想像していたどんな感触とも違う、こんな感触は想像できっこない。
舐められるのとも扱かれるのとも違う、吸われるのとも搾られるのとも違う。
それら全部の感触を合わせたような形容しがたい複雑な感触だった。
（これっ……違う！普通じゃない！絶対！）
歯をがちがちと鳴らしながら麻人は思った。自分に経験は無いがそれでもわかる、この快楽は異常だ。
もし世の女性が皆このような名器持ちであったらば男など一人残らず骨抜きにされている筈だ。
しかしそれでも感じたのだ、極楽に導かれる寸前に感じた薄い膜を破るような感覚。あれは灯子の処女を奪った感触に違いない。
その記憶だけがどうにか麻人の正気を引き止めていた。
「ぅうぅっぐっ……せ、せんぱ……大丈夫っ……すか？」
身を襲う嵐の様な快楽の中でも灯子を気遣う言葉を紡いだ麻人の根性は見上げたものだと言わざるを得ないだろう。しかし灯子から返事は返って来なかった。
「せんぱむぐぅ！？」
「ん―――――っ♪んんぅん―――――――♪」
返事の代わりに熱烈なキスが返って来た。一瞬だけ自分の精液の味が感じられたが、不快感を感じる間もなく激しい舌使いで快楽に塗り変えられていく。
「ぷはぁっんはぁっ、どうだ？私の中は？気持ちいいか？」
口を離してから切羽詰まった声で灯子は聞いて来る。
「きっ……気持ちい、で、す」
こちらも切羽詰まった様子の麻人はどうにかこうにか返事をする。
「んはぁ、そうだろうそうだろう、んくっ、サキュバスにっ、んぁっ、抱かれて正気を保てる男など存在しないからな……！」
「さ、サキュバス、だから、じゃなく、て」
快楽で理性を飛ばされている麻人は思ったままの事を口にする。
「せんぱい、だから、気持ちいい、で、す」
「…………」
「ぅあぎぃ！？」
その言葉を聞いた瞬間、灯子の体がぶるぶると震え、ただでさえ形容し難い感触を与えていた灯子の性器がうねるように蠕動し、麻人の陰茎を絞り上げた。
どくんっ、びゅくんっ
「ふっくっ……イっ……イっくっ……」
「あ……あぅぁぁ……」
悔し泣きの様な表情で灯子は痙攣し続けた、麻人はただ白濁を灯子の中に漏らすしかできなかった。
「ま、た、イカされた……っそれにこの……くふぅぅっ……美味……なんという……っっ！」
灯子は乳房を麻人の胸板で潰しながら密着し、悔しげな表情で麻人を睨んだ。
「もう、許さん」
何を？と、思う間もなく灯子が麻人にしがみついて腰をくねらせ始める。
麻人は桃源郷を彷徨うような心地だった。
嵐の様な快楽の中、見えるのは自分を見下ろす暗闇のような瞳、揺れる生白い身体と乳房。聞こえるのは二人の肌がぶつかり合う音、灯子の押し殺したような声。
「んぅ……くぅ……あふっ……くひぁっ……」
麻人は違和感を感じた。
（暗い……こんなに暗かったっけ……？）
アトリエは確かに薄暗かったが、部屋の中の様子が伺える程には明るかったはずだ、しかし今は灯子の白い身体が浮かび上がる以外何も見えない程に暗い。
「ふぅぅ……んぁぁ……あはぁ……」
「ひぁぁ……んひぅ……」
「ああぁ……ふあぁぁ……」
次に感じた違和感は声だった、灯子の声に混じって明らかに別の声が聞こえる、艶めかしい女の声が複数。
やがて気付く、灯子の背後の暗闇に浮かぶ大きな絵画、灯子の描いた未完成の絵画。
（……声は、あれから……？動いて……？）
気のせいでは無い、絵画に描かれている魔物達が艶めかしく蠢いている、声も聞こえる。
数多の魔物達が男と愛し合い、貪り、貪られている。
灯子の白い裸体が揺れる、麻人は感じる、自分もそうなのだ、あの絵画の中の一部なのだ、快楽に全てが溶けて、蕩けて……。
「っっだぁっ！！ストップ！スト――ップ！」
麻人は唐突に大声を上げた、何か、このままでは取り返しの付かない事になりそうな危機感を覚えたのだ
「んうぁ！？」
その瞬間、灯子の手首のルーンが薄桃色に輝き、ぐい、と麻人から引き剥がされた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
二人の荒い息遣いが部屋に響く、気がつけば部屋は元の明るさに戻っており、置いてある絵画にも異変は無い。
「い、今、のは……」
「はぁ……はぁ……すまん、止めてくれて礼を言う」
「え？」
「夢中になりすぎて危うくそのままパンデモニウムに連れ去ってしまう所だった……」
「ぱ、パン……？」
「まあ、気にするな……とりあえず下ろしてくれないか」
「あ、はあ……」
今の灯子の状態は両手が見えないロープで天井から吊り下げられているような格好だ、ルーンによってそういう姿勢を強要されているらしい。
しかし下半身は麻人に跨った状態のままであり、繋がりっぱなしだ。上体を起こされているのでぐっぷりと繋がっている部分が丸見えになっている。
「……いい眺め」
「馬鹿者、降ろせ、こ、こら、腰を使うんじゃ……！」
「も、もっかいいいっすか」
「い、いい、いいから手を……！」
「このまま……」
「待て！またこの部屋がパンデモニウムと繋がってしまっ……あぁぁぁ……♪」

■作者メッセージ
もうちょっとだけ、つづくんじゃよ