読切小説
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竜話
 都から離れた辺境の村。人口も少なく、これと言って特徴も無いこの村だが、今村内にはある噂によって混乱が生じていた。まだ朝だと言うのに村のあちこちではその噂について話している村人の集まりが出来ている。
 とある民家の一室でも村の女性たちがテーブルを囲み、深刻そうな表情を浮かべていた。

「村外れの洞窟にドラゴンが住み着いたって本当でしょうか……?」

 その家の主らしき中年の女性が不安そうに他の女性へ尋ねる。同じように不安そうな表情をしていた女性が答えた。

「……ええ。洞窟の近くを通った行商人がドラゴンの咆哮を耳にしたそうですよ。それにウチの旦那も洞窟に入っていくドラゴンの姿を見たって言ってたわ」

「それでは噂は本当なんですね。ドラゴンは無闇に人間を襲ったりしないと言いますから、此方から刺激しなければ大丈夫でしょうけど……ドラゴンの宝を狙った盗賊や山賊が増えるのが心配ですね……」

 再び不安そうに顔を見合わせている女性たち。しかし彼女らはその部屋の外で聞き耳を立てている少年の存在を知らなかった。その少年は音を立てぬように扉から離れると颯爽とその民家から飛び出した。

「宝……! ドラゴンの宝!」

 少年は興奮した様子でそう呟いた。この少年の名前はクラウ。先ほどドラゴンについて話し合っていた女性たちの一人。あの家の主の息子である。今、クラウの脳内はドラゴンの宝の事で一杯だった。自分の母親から何度も聞かされてきた物語の中で登場したドラゴンの宝。それは勇者が身に付ける伝説の剣や防具だった。自分もそれを手に入れる事が出来れば勇者になる事が出来る。そうクラウは短絡的に思ったのだ。既に自分の身の安全や宝を守るドラゴンはどうするのかという問題は何処か遠くに吹っ飛んでしまっている。クラウはそのドラゴンの住み着いている洞窟に向かって駆け出していた。





「……こ、ここか」

 クラウは洞窟の前に辿り着いた。クラウは一先ず、近くの茂みに身体を隠してその巨大な洞窟に視線を向け、様子を窺った。洞窟の入り口周辺には人間と思わしき足跡が幾つかあり、村人も様子を窺いに来ていた事が分かる。しかしどの足跡も洞窟の入り口にしか無かった。クラウは直ぐにその理由を理解する。人間の足跡に混じって、明らかにドラゴンと思わしき巨大な足跡があった。その足跡の大きさから見てもドラゴンは相当な巨体なようだった。

「ほ、本当にドラゴンがこの中に……」

 改めてクラウは恐怖でその身体を震わせた。しかしその時は何故か恐怖よりもドラゴンの宝が欲しいという蛮勇が勝ってしまう。ある意味、ドラゴンという存在の途轍もなさに恐怖が麻痺してしまっているのかもしれない。クラウは音を立てぬように茂みから身体を出すと、洞窟の中へと足を踏み入れてしまった。
 洞窟の中は当然の事ながら薄暗く、暗闇の奥から生温かい空気が漂ってくる。まだ十歳にも満たない少年には居心地が良いとは言えない雰囲気だった。しかしクラウは何処か熱に浮かされたように足を洞窟の奥へと進めていく。今、クラウは自分自身を勇者だと信じて疑わなかった。しかしこの夢想は数秒後に砕け散る事になる。

「ひっ!?」

 洞窟の奥から獣のような咆哮が轟き、クラウの全身を襲った。その塊のような音が洞窟内の空気を激しく振動させ、洞窟自体もビリビリと震動させる。それは間違いなく疑いようも無くドラゴンの咆哮。この大地を王として飛び回る地上の王者≠フ咆哮だった。その咆哮はクラウの夢想を一撃で打ち砕き、その脳内を現実に引き戻す。自分は勇者などでは無い。ただの子供だという事を急激に思い出した。
更にクラウを恐怖に引き摺り落としたのは、洞窟の奥の暗がりから響いてくる巨大な物体が移動してくる音だった。クラウは回れ右して洞窟の出口に向かって全力で駆け出した。

「あッ!? 痛ぇ!!」

 走っている途中でクラウは地面の出っ張りに躓き、顔面から地面に突っ込んだ。慌てて立ち上がろうとするが足が縺れて上手く立つ事が出来ない。クラウはその場から逃げることも出来ず、ただ自分へと迫りつつある巨大な存在に対して恐怖した。洞窟の奥は暗闇ではっきり見えないが確かに巨大な生物の影が見える。ドラゴン以外の何物でも無い。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 クラウは恐怖のあまり絶叫した。クラウの叫び声は洞窟の壁を伝っていき、洞窟の奥に反響する。すると先ほどまで聞こえていた巨大な物体の移動音が急に消失した。洞窟内を静寂が支配する。更に洞窟の奥から感じていたドラゴンの巨大な存在感が消えた。クラウは状況を把握出来ずに困惑していると、先ほどまでドラゴンの巨影があった空間の闇に掌サイズの火の玉が現れた。そしてその火の玉に照らされて人影が洞窟の闇に浮かび上がる。その人影は未だに動けないクラウに向かってゆっくりと接近してきた。

「……何だ、貴様は?」

 女性らしき声がクラウの耳に届いた。クラウはその声の主が人間だと思い安堵する。しかし直ぐにその考えは甘かった事を思い知らされた。その火の玉に照らされた女性の姿を見て再び、恐怖する。その女性は人間では無かった。顔付きは綺麗で大人っぽい印象がある。しかし頭部には深紫色の長髪を分けるように二本の立派な角が生えている。身体付きは人間の女性に近いが、身体の所々には深緑色をした鎧のような鱗が覆っており、両手、両足には指の代わりに凶悪な爪が生えている。そして足元にはトカゲを思わせる尻尾が見えた。背中からはドラゴン特有の巨大な翼が自己主張している。魔物娘、それもドラゴン娘だったのだ。そのドラゴンは自分の身体の周囲に浮かべていた火の玉を移動させ、クラウに近づけてくる。炎の煌めきでクラウの顔がオレンジ色に照らされた。

「ひぃっ!?」

 クラウは一瞬その炎で自分が燃やされるかと思って、悲鳴を上げた。しかし火の玉は暫くクラウの鼻先で揺らめいた後、元の位置に戻った。ドラゴンは炎に照らされたクラウの顔を見て不遜そうに喋り始めた。

「近場の村人が我のねぐらに入り込んだと思っていたが……とんだ勘違いだったようだな。声色からして人間の小童か? 何故、我のねぐらに忍び込もうとしたのだ? 答えて貰うぞ」

「え……? うわぁっ!?」

「嘘を吐くとロクなことにならんぞ」

 ドラゴンは突然屈みこむとクラウに顔を近付け、その鱗に覆われた右手で顎を無理矢理上げさせた。硬質的で冷たい爪の感触がクラウを怯えさせる。そして問い詰めるようにその金色の瞳でクラウを見詰めてくる。クラウはその金色の瞳に見据えられて黙っている事が出来ず、自分の目的を喋ってしまった。

「ド、ドラゴンの宝が……ほ、欲しくて……」

「ほう。我の宝が欲しいと……?」

 クラウのその言葉を聞いたドラゴンは不敵な笑みを浮かべる。そしてその爪からクラウを解放すると立ち上がった。

「貴様の欲しい宝とは……これの事か?」

 ドラゴンは自分の周囲に漂わせていた火の玉を洞窟の何処かへと移動させた。クラウはその火の玉を目で追っていく。すると洞窟の奥の方、先ほどまでドラゴンが居座っていたと思わしき鵜広い空間が照らしだされた。その空間の中央の地面に何か棒のような物が突き刺さっている。それは棒では無かった。剣、刀身がここに居るドラゴンの鱗と同じ、深緑色をした剣だった。炎に照らされて淡く輝いている。

「綺麗……」

 まだ子供のクラウの目から見ても美しい剣だった。まさに伝説の勇者が持つに相応しく、クラウが夢見ていた剣だった。

「……欲しいのか?」

 後からドラゴンの誘惑するような声が聞こえた。いつの間にかクラウの背後にドラゴンが移動している。クラウはそのドラゴンの声と剣の輝きに魅せられたように呟いた。

「欲しい……」

「そうか……では――我を倒して手に入れるんだなッ!!」

「えっ!?」

 クラウの言葉を聞いた途端、ドラゴンは背後からその両腕でクラウの身体を掴んだ。一瞬、見た目に反して柔らかいドラゴンの身体をクラウは感じてしまい、顔を赤らめる。しかしそれとは別にクラウの身体はその両腕に拘束され、身動きが取れなくなってしまった。

「な、何を!?」

「……命を取るつもりは無い。だが……その危険な好奇心に対して、少々仕置きをさせて貰うぞ。二度とこの洞窟に立ち入る気にならないよう、恐怖を刻み込んでやる……覚悟しろ」

 そのドラゴンは洞窟の天井を仰ぎ見る。そして一度背中を猫のように反らせた。その動作の後、ドラゴンは一瞬でその身体を変化させる。ドラゴンの両腕も太さを増していき、それらに掴まれ身動きの出来ないクラウの足が地面からゆっくりと離れた。先ほどまで人間に近い姿をしていたドラゴンは既に無く、クラウの背後には巨大な竜がいた。

「ひぃぃぃぃぃ!!」

 クラウは悲鳴を上げて無駄な抵抗と分かっていても身を捩る。しかしその悲鳴は洞窟内に突如出現した大質量の物体によって発生した地響きで掻き消された。

「……まあ、一人で我のねぐらに侵入した貴様の矮小な勇気に免じて手加減はしてやる。感謝するんだな……それでは、そろそろ――行くぞっ!!」

 ドラゴンはクラウをその巨腕に抱えたまま、一度大きくその巨翼を羽ばたかせた。信じられない事にその巨体がふわりと洞窟の地面から浮き上がる。巨翼から生じる膨大な揚力によって洞窟が震動した。

「う、浮いてる!? 飛んでる!?」

「……空を楽しむんだな、小童。最も……そんな余裕は無いかもしれないが……」

 ドラゴンは先ほどクラウが入って来た洞窟の入り口に向かって、長い首を動かし、頭を向ける。更にドラゴンは巨翼を何度も羽ばたかせるとその入り口に向かって滑空し始めた。凄まじい振動と空気の流れがクラウを襲う。そして一度、身体が引っ張られるような感覚があり、その衝撃によってクラウは意識を失った。





「おい、貴様! 我の腕に抱かれて眠り扱けるとは、中々良い度胸をしているな。齧るぞ?」

 かなり耳に響くその声でクラウはゆっくりと瞼を開いた。目の前には晴れ渡った碧い空が広がっている。クラウはまだ覚醒しきっていない頭で状況を理解しようと周囲を見渡した。

「……え? ここは……うわぁぁぁぁぁ!!」

「騒ぐな、小童め。あまり暴れると落とすぞ?」

 自分の顔を覗き込んでいるドラゴンの金色の瞳と目が合う。その顔はまさにドラゴンで凶悪な牙が何本も生えていた。ドラゴンはクラウの視線に気が付くと、牙の隙間から軽く炎を噴き出し、クラウを威嚇する。クラウは今日何度目か分からない悲鳴を上げた。

「うぇえ!? どこだ、ここ!? 空!?」

「そうだ、此処は空だぞ。因みに丁度真下が貴様の村だろう? 見てみろ」

「え――うわぁぁぁぁぁぁぁ!? た、高いぃぃぃ!!」

 ドラゴンの言葉に釣られて、クラウは自分を抱えているドラゴンの腕の隙間から下を見てしまった。眼下に豆粒ほどの大きさ村が見える。しかしそんな事よりも自分のいる高度を自覚してしまい、恐怖のあまりまた悲鳴を上げた。

「ククク……結構良い声で鳴くんだな……貴様は。我としてもそれ位泣き叫んでくれた方が仕置きの遣り甲斐があるというものだ」

 恐れ慄くクラウを見てドラゴンは炎を牙の隙間から漏らしながら心底楽しそうに笑う。クラウは気を動転させながらも何とか顔を上げた。その時、クラウの視界一杯に何処までも続く大陸の色鮮やかな大地が広がる。緑色の森林を越え、赤茶色の砂漠を越え、碧い海を越え、クラウの視線は何処までも飛んで行った。まだ狭い世界しか知らない少年にはその光景はあまりに、途轍もなく、魅力的だった。クラウはその何処までも広がる世界の光景に目を奪われ、言葉を失う。耳元で囁く風の音も、ドラゴンの翼が空気を切る音も耳に入らなかった。クラウの認識していた世界が音を立てて変わった瞬間だった。

「さて、これから貴様には空中三回転からの急降下、急上昇五連発! そして十連空中捻りの地獄を見せてや――」

「なあ! ドラゴンさん! あの森の向こうの、丸くなっているとこのもっと向こうにも地面があるのか!?」

「は……? 貴様、何を言って――」

「ホラッ! あそこだよ!!」

「あ、危ないっ!! あまり身を乗り出すな! 落ちるぞ!?」

 クラウはドラゴンの腕から身を乗り出し、地平線を指差した。ドラゴンはそのクラウの突然の行動に動揺し、先ほどまで空に対して恐怖していたクラウの変化に驚いた。慌てたドラゴンは少し減速して体勢を立て直す。そして改めてクラウに向かってその顔を向けた。

「我をここまで動揺させるとは……貴様は中々度胸があるらしいな。全く……人間という生物は何を考えているか分からん……! 自分の命が大事じゃないのかっ!!」

 ドラゴンからお怒りの言葉を受けても、クラウの視線は地平線を越えた遥か彼方先へと向けられていた。もはや自分が相当な高度に居ることも魔物に生殺与奪を握られていることもまるで忘れていた。

「ドラゴンさんはあの森の向こうに行った事はあるの?」

「ド、ドラゴンさんだとぉ? 我はそんな気の抜けた名前じゃ――」

「あるの? 行った事? 何があの向こう側にあるの?」

 クラウの物怖じしない物言いにドラゴンは狼狽してしまった。ドラゴンは苦々しげに仕方なく答える。

「……無い。何があるのかなんぞ、知らん。村か町でもあるのだろう」

「そうなんだ……あの向こう側には何があるんだろう?」

「知るかっ!! そんな物、自分で確かめれば良かろうが! 全く……調子が狂う」

 ドラゴンは頭を捻っているクラウに向かって怒鳴るようにそう言う。ドラゴンは苛立っており、クラウのペースに呑まれている自分に怒りを覚えていた。ドラゴンの言葉を聞いてクラウは更にドラゴンへ尋ねてくる。

「俺でも行けるかな! あの向こう側に! ねぇドラゴンさん!」

「ふんっ。貧弱な貴様何ぞ、村から出て直ぐに魔物の餌食だ。間違いない!」

 嬉々として尋ねてくるクラウに向かってドラゴンは不愉快そうに断言した。

「じゃあ、どれ位強くなればいいの?」

「うっ……」

 クラウの質問にドラゴンは言葉を詰まらせる。そして期待を込めて自分を見詰めてくるクラウの視線から逃れるため、首を真っ直ぐに伸ばして前方を向き、何とかはぐらかそうとした。しかし最終的にはクラウの視線に耐えきれず、苦し紛れに呟いた。

「……我を倒せる位だろう」

「え!? ドラゴンさんを……? どうしよう……」

 クラウは腕を組んで思案顔をし始める。その様子を見てドラゴンは苦し紛れの言葉がクラウを黙らせる事に成功したと思って内心喜んだ。しかし次のクラウの口から聞かされた言葉でドラゴンは再び動揺した。

「……俺、ドラゴンさんを倒す為に……ドラゴンさんに弟子入りする!」

「どうして!! そうなる!?」

 ドラゴンは動揺のあまり、空中でバランスを崩して激しく失速する。ドラゴンの巨体は突然の失速によって揚力を失い、遥か下に広がる大地に向かってゆっくりと自由落下し始めた。直ぐにドラゴンは翼を羽ばたかせて再び飛行し始めた。速度も段々と上がっていく。そして改めてクラウに向かって怒鳴り始めた。

「何で貴様に倒される為に、貴様を鍛えなければならんのだっ!! 訳が分からんぞ!?」

「でも……母さんがよく聞かせてくれる物語の中の勇者さんたちは……ドラゴンに鍛えられてる人もいるんだよ? それに強くなれば――」

 そこでクラウは言葉を濁す。クラウの纏う雰囲気が少し重くなったのを感じたドラゴンは次の言葉を催促した。

「貴様、歯切れが悪いな。強くなれば……何だ?」

「母さんを守れる……父さんの代わりに」

「……貴様、父親が居ないのか……?」

 クラウはドラゴンの言葉に黙って頷く。その反応を見てドラゴンは特に反応せず再び、顔を正面に向けた。

「……降りるぞ。掴まれ」

「え……? ふわぁ!?」

 ドラゴンは一言、クラウに告げると急降下を始めた。クラウは初めて体験する浮遊感に悲鳴を上げる。ドラゴンの腕を必死に掴み、振り落とされないように踏ん張った。

「村の広場に着地する。舌を噛むなよ?」

 ドラゴンは村の上空で一度、制動を掛ける為に翼を羽ばたかせた。凄まじい暴風が真下で吹き荒れる。その暴風に民家から村人が飛び出して来たが、ドラゴンの姿を目にすると素早く民家に戻っていった。ドラゴンは村の中央の広場に狙いを付け、そこに降り立った。ドラゴンの腕の中で縮こまっていたクラウは顔を上げ、周囲を見渡した。

「俺の村……?」

「さっさと降りろ……小童め」

 ドラゴンは腕を降ろして、地面に近づけると掴んでいたクラウの身体を離した。クラウは急に安定した地面に両足を付けた所為か少しふらついた。

「クラウ……!!」

 突然、民家に隠れていた村人の一人がドラゴンの足元にいるクラウに向かって走り寄った。

「か、母さん!?」

 その村人はクラウの母親だった。母親はそのままクラウに力強く抱き付き、咽び泣いた。それを見ていたドラゴンはゆっくりとその巨体を縮小させ、人間態へと変化した。そのドラゴンの元へ何処から現れたのかこの村の村長がおずおずと近付いてきた。その手には何やら果物や作物などが抱えられている。おそらく捧げ物のつもりなのだろう。ドラゴンは其方へ視線を向けると穏やかな口調で言った。

「……心配するな。我のねぐらに迷い込んだ小童を届けに来ただけだ」

 村長はその言葉を聞いて安堵の表情を浮かべた。しかし何故か抱えている捧げ物はドラゴンに押しつけてくる。

「貰えるならば嬉しいが……」

 ドラゴンは怪訝そうな表情を浮かべてそれらを受け取ると、再び親子へと視線を向ける。そして咽び泣いている母親に困っているクラウに向けて声を掛けた。

「おい、貴様! 名を何と言う?」

「え? 俺は……クラウ、クラウだよ!」

「……クラウか……明日は朝から洞窟に来い!」

 ドラゴンのその言葉を聞いてクラウは顔を輝かせた。その嬉しそうな表情を見てドラゴンは少しだけ口元を上げ、笑みを浮かべた。

「……我は厳しいからな。覚悟しろよ」

「分かったよ、ドラゴンさん!」

「それとだ……我の名はドラゴンさん、などという気の抜けた名では無い! ファムという気高い名がある。覚えておくんだな」

 そう言ってファムと名乗ったドラゴンは未だに呆気に取られている村人を尻目に、自分のねぐらへと戻っていった。


続く?
12/12/20 00:37更新 / 雲母星人

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